(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(メタ)アクリルエラストマー(成分A)と、成分A 100体積部に対して40〜300体積部の熱伝導性フィラー(成分B)を含有しなる熱可塑性エラストマー組成物であって、成分Bのレーザー回折式粒度分布計による体積平均粒子径が0.1〜500μmであり、さらに、1分子中に平均2個以上のエポキシ基を有するビニル共重合体(成分C)を、成分A 100質量部に対して0.1〜30質量部含有してなる、熱可塑性エラストマー組成物。
(メタ)アクリルエラストマー(成分A)が、動的粘弾性測定によって決定されるガラス転移温度が20〜200℃であるハードセグメントと、ガラス転移温度が−100〜19℃であるソフトセグメントとから構成されるブロック共重合体である、請求項1〜4いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(メタ)アクリルエラストマー(成分A)が、ハードセグメントを構成するブロックを2個以上、及びソフトセグメントを構成するブロックを1個以上、備えるブロック共重合体である、請求項1〜5いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
さらに、融点が100〜350℃であり、エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂(成分D)を、成分A 100質量部に対して10〜400質量部含有してなる、請求項1〜7いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
ビニル共重合体(成分C)が、SP値が17.5〜25.0である単量体単位(単量体単位c1)を50質量%以上含む単量体単位、又は(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の単量体単位(単量体単位c2)を50質量%以上含む単量体単位から構成される、請求項1〜8いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
ビニル共重合体(成分C)を構成する単量体単位が、(メタ)アクリルモノマーを10〜90質量%含み、スチレン又はスチレン誘導体を10〜90質量%含むものである、請求項1〜9いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(メタ)アクリルエラストマー(成分A)と、特定の粒径を有する熱伝導性フィラー(成分B)を含有するものである。
【0014】
(メタ)アクリルエラストマー(成分A)は、2種以上の(メタ)アクリル単量体、及び必要に応じてその他共重合可能なビニル単量体を構成成分とすることが好ましく、重合反応で高分子量化することにより得られる。
【0015】
(メタ)アクリル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。なお、本明細書において、添え字のないアルキル基名は、特に記載のない限り、n-、iso-、sec-、tert-等の異性体を含み、(メタ)アクリルと示される場合、メタクリル及びアクリルの両者を意味する。
【0016】
(メタ)アクリル単量体の量は、構成成分中、20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0017】
その他共重合可能なビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、無水マレイン酸等が挙げられ、これらの中では、スチレン、α−メチルスチレン及びエチレンが好ましく、これらのビニル単量体は、本発明の目的を損なわない範囲(好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下)で併用されていてもよい。
【0018】
(メタ)アクリルエラストマーを得るための単量体の重合方法として、例えば、ラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングラジカル重合法等が挙げられる。また、重合の形態として、例えば、溶液重合法、エマルジョン重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられる。
【0019】
成分Aは、ハードセグメントとソフトセグメントとから構成されるブロック共重合体であることが好ましく、ハードセグメントを構成するブロックを2個以上、及びソフトセグメントを構成するブロックを1個以上、備えるブロック共重合体であることがより好ましく、ソフトセグメントを構成するブロック1個の両側に、ハードセグメントを構成するブロック2個を備えるトリブロック共重合体であることがさらに好ましい。トリブロック共重合体の割合は、成分A中、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また、成分Aはトリブロック共重合体以外にジブロック共重合体及びマルチブロック共重合体を含んでいてもよい。
【0020】
成分Aが熱可塑性エラストマーとしての特性を発現するためには、室温以上のガラス転移温度を有するハードセグメントを有していることが好ましい。
【0021】
ハードセグメントを構成するブロックのガラス転移温度は、組成物の常用温度領域での強靭性を保つ観点から、20〜200℃が好ましく、30〜180℃がより好ましく、50〜150℃がさらに好ましい。ハードセグメントを構成するブロックのガラス転移温度が低すぎると得られる組成物が耐熱性の不足するものとなる場合があり、ガラス転移温度が200℃を超えるブロックは原料の入手が難しい。
【0022】
ハードセグメントを構成するビニル単量体は、(メタ)アクリル単量体の1種又は2種以上であることが好ましい。かかる(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。これらの中では、経済性の観点から、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル及びメタアクリル酸ブチルが好ましく、メタアクリル酸メチルがより好ましい。
【0023】
ハードセグメントを構成するビニル単量体には、上記(メタ)アクリル単量体が含まれていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲(好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下)で、他の単量体が含まれていてもよい。また、重合反応で高分子量化することによりハードセグメントとすることもできる。
【0024】
共重合可能なビニル単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、α−オレフィン、スチレン、α‐メチルスチレン、アクリロニトリル、パラヒドロキシスチレン、ビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタアクリルアミド、メチルビニルエーテル、ビニルベンゾエート、マレイン酸、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、これらの中では、スチレン、α−メチルスチレン及びエチレンが好ましい。
【0025】
ソフトセグメントを構成するブロックのガラス転移温度は、-100〜19℃が好ましく、-80〜10℃がより好ましく、-70〜0℃がさらに好ましい。ソフトセグメントを構成するブロックのガラス転移温度が高すぎると得られる組成物が柔軟性の不足するものとなる場合があり、ガラス転移温度が-100℃より低いブロックは原料の入手が難しい。
【0026】
ソフトセグメントを構成するビニル単量体は、アクリル単量体の1種又は2種以上であることが好ましい。かかるアクリル単量体としては、エステル交換触媒との反応性が高い点で、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニルエチル等が好ましい。
【0027】
また、ソフトセグメントのガラス転移温度が19℃以下となるためのソフトセグメントを構成するアクリル単量体としては、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸n−へプチル、アクリル酸n−オクチル及びアクリル酸フェニルエチルからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、上記のハードセグメントと相溶し難く、相分離構造となりやすい観点から、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-へプチル及びアクリル酸n-オクチルからなる群より選ばれた少なくとも1種がより好ましく、アクリル酸n-ブチルがさらに好ましい。
【0028】
ソフトセグメントを構成するビニル単量体には、上記アクリル単量体が含まれていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲(好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下)で、他の単量体が含まれていてもよい。
【0029】
高分子のガラス転移温度を測定する方法としては、示差走査熱量測定(DSC)、動的粘弾性測定、熱膨張測定(TMA)などが知られているが、本発明では、ハードセグメントとソフトセグメントの両方を含むブロック共重合体において、ハードセグメントとソフトセグメントの両方の値を正確に測定することができる方法として一般的なのが動的粘弾性測定であり、温度を変えて粘弾性測定を行い、誘電正接Tanδのピークからガラス転移温度を決定する方法が知られている。従って、本発明におけるハードセグメントとソフトセグメントのガラス転移温度には、動的粘弾性測定により測定されたガラス転移温度を用いる。
【0030】
成分Aにおけるハードセグメントとソフトセグメントの質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、成分Aに適度な柔軟性を付与する観点から、10/90〜70/30が好ましく、15/85〜60/40がより好ましい。
【0031】
成分Aとして利用可能な市販品としては、(株)クラレ製のクラリティ、アルケマ製のナノストレングス、(株)カネカ製のナブスター等が挙げられる。
【0032】
成分Aの重量平均分子量は、引張強度等の機械的物性の観点から、2万以上が好ましく、3万以上がより好ましく、4万以上がさらに好ましい。また、取り扱いが容易であり、射出成形等の成形体の製造にも適した溶融粘度を維持する観点から、100万以下が好ましく、80万以下がより好ましく、70万以下がさらに好ましい。これらの観点から、成分Aの重量平均分子量は、2万〜100万が好ましく、3万〜80万がより好ましく4万〜70万がさらに好ましい。
【0033】
また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係では、Mw/Mnで、1〜5が好ましく、1.1〜3がより好ましい。
【0034】
本発明において、成分Aは、エステル交換触媒やラジカル重合開始剤等により、原料段階の成分Aの重合平均分子量よりも高分子量化されたものであってもよい。その場合の重量平均分子量の分布は幅広いものや多峰性(2個以上のピークを有する)の分布となるが、上記重量平均分子量は、全体を平均した分子量とする。
【0035】
成分AのA硬さは、組成物の柔軟性の観点から、5〜90が好ましく、10〜80がより好ましい。なお、A硬さとは、JIS K 6253に規定されたデュロメータタイプA硬さを意味する。デュロメータタイプA硬さが90を超える場合は、測定精度が下がるため、デュロメータタイプD硬さを併用して比較することも行われるが、A硬さの値が大きいものの方がより硬いという相対比較の目的であればA硬さで評価しても差し支えない。
【0036】
成分Aの流動開始温度は、組成物の耐熱性の観点から、80℃以上が好ましく、組成物の熱可塑性(流動性)の観点から、220℃以下が好ましい。これらの観点から、成分Aの流動開始温度は、80〜220℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。
【0037】
成分Aは透湿性が低いので、成分Bの吸湿を抑える作用があり、多いほど熱可塑性エラストマー組成物の耐湿性を向上させることができることから、成分Aの含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。
【0038】
成分Bは熱伝導性フィラーであり、これにより熱伝導性を高めるだけでなく、離型性が向上する。
【0039】
熱伝導性フィラーとしては、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を絶縁層を構成する部材として用いる場合は、熱可塑性エラストマー組成物の体積抵抗率の低下を防止する観点から、絶縁性の熱伝導性フィラーが好ましい。絶縁性系熱伝導性フィラーとしては、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン等の無機酸化物類、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の窒化物類、炭化ケイ素等の炭化物類、ダイヤモンド等の絶縁性炭素系材料、石英、石英ガラス等のシリカ粉類等が挙げられる。
【0040】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を導電部材として用いる場合は、熱伝導性及び導電性を有する観点から、導電性の熱伝導性フィラーが好ましい。導電性熱伝導性フィラーとしては、銅、銀、鉄、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属類や、これらの2種以上からなる金属合金類、グラファイト、カーボン等の炭素系材料等が挙げられる。
【0041】
一方、熱伝導性フィラーは、靱性・硬度(熱膨張係数)の観点から、無機酸化物及び/又は金属水酸化物が好ましく、無機酸化物がより好ましい。無機酸化物としては、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン等が挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0042】
無機酸化物及び金属水酸化物は、熱可塑性エラストマー組成物の耐湿性及び熱伝導性フィラーの分散性の観点から、有機物及び/又は無機物により被覆されたものが好ましい。本発明の熱可塑性エラストマー組成物に配合する熱伝導性フィラーとしては、有機系カップリング剤で表面被覆された水酸化アルミニウム及び/又は1600℃以上で焼成することによって不活性化させたマグネシアクリンカーを無機物及び/又は有機物で表面被覆した酸化マグネシウムが好ましい。前記有機系カップリング剤からなる被覆層は水酸化アルミニウム粉体表面から剥落しにくく、また前記無機物及び/又は有機物からなる被覆層もまた酸化マグネシウム粉末表面から剥落しにくく、耐久性のある耐水被覆層となる。
【0043】
本発明の組成物において、無機物及び/又は有機物からなる被覆層を有する熱伝導性フィラーは分散性が向上するので、成形体の機械物性が向上するが、被覆の効果が大きく顕れるのは、厳しい条件で成形品の耐湿試験を行った場合であり、被覆層を有する熱伝導性フィラーでは耐湿試験後の機械的強度にほとんど差がないのに対して、被覆層のない熱伝導性フィラーの系では成形品が形状をとどめないほどの差が顕れることがある。アクリルエラストマー自体は透湿性が低いので、通常の耐湿試験では成形品内部まで水分が浸透せず、フィラーによる差が出ないが、成形品の奥深くまで水分が浸透するほどの厳しい条件では、被覆のないフィラーではフィラーとアクリル樹脂との界面に水が入って成形品を崩壊させるのではないかと考えられる。
【0044】
前記水酸化アルミニウムとしては、ソーダ成分(Na
2O)含有量がなるべく少ないもの(例えば含有量が0.4質量%未満のもの)が好ましい。ソーダ成分の含有量が少ない水酸化アルミニウムは分解温度が高く、吸湿性が小さく、かつ絶縁性が高くなる。前記水酸化アルミニウムを被覆するために使用される有機カップリング剤としては、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラブチル、チタン酸テトラ(2-エチルヘキシル)、チタン酸テトラステアリル等のチタン酸エステルや、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のSi(OR)
3部分とビニル基、アミノ基、エポキシ基等の有機官能基との2つの基を有するケイ素化合物(シランカップリング剤)等が例示される。前記カップリング剤は前記有機官能基を1分子中に2個以上含んだものであってもよく、また前記カップリング剤は2種以上混合使用されていてもよい。
【0045】
前記不活性マグネシアクリンカーは、例えば、下記の方法で製造することができる。
【0046】
海水、苦汁等マグネシウム含有原料にカセイソーダ等のアルカリ物質を投入して水酸化マグネシウムスラリーを調製する。
前記マグネシウムスラリーをろ過し、例えば120℃×10時間の条件で乾燥する。
乾燥物(水酸化マグネシウム)を600〜1000℃で仮焼して軽焼マグネシアを得る。仮焼における焼成温度は、得られる酸化マグネシウムの活性の大幅な低下防止の観点から、1200℃以下が好ましい。
前記軽焼マグネシアをロータリーキルン等によって好ましくは1600℃以上、より好ましくは1800〜2100℃で焼成してマグネシアクリンカーを得る。焼成温度は、酸化マグネシウムが不活性化し、即ち酸や水蒸気との反応性がなくなり、かつ大結晶化する観点から、1600℃以上が好ましい。前記酸化マグネシウムを1600℃以上で焼成して表面不活性のマグネシアクリンカーを得ることを死焼という。ここにマグネシアクリンカーとは前記死焼によってマグネシア成分が溶融して塊状になったものをいう。前記のように、死焼によって不活性化、大結晶化したマグネシアクリンカーは、優れた耐湿性と熱伝導性を有する。
【0047】
前記マグネシアクリンカーの表面被覆に使用される無機物としては、例えばアルミニウム化合物、ケイ素化合物、チタン化合物等が例示され、前記無機物は2種以上が混合使用されていてもよい。前記無機物には例えば、酸化物、窒化物、ホウ化物等のセラミック系化合物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の塩、水酸化物等が挙げられる。
【0048】
前記マグネシアクリンカーの表面被覆に使用される有機物としては、前記水酸化アルミニウム被覆に使用した有機カップリング剤、シランカップリング剤、有機合成樹脂等が例示される。前記有機物は2種以上が混合使用されていてもよい。
【0049】
前記マグネシアクリンカーは前記無機物及び/又は有機物の表面被覆によって耐湿性、分散性が向上する。
【0050】
熱伝導性フィラーの粒径は、小さい方が、より薄いシート形状に対応できるので好ましいが、一方で粒径が大きい方が体積あたりの表面積が小さくなるので溶融流動する際の流動性が良くなり好ましい。これらの観点から、レーザー回折式粒度分布計による熱導電性フィラーの体積平均粒子径は、0.1〜500μmであり、好ましくは0.5〜100μmであり、より好ましくは1.0〜60μmである。なお、粒径の測定方法としては、電子顕微鏡観察に基づく画像解析等、コールターカウンターや、遠心沈降式、レーザー回折式等の様々な測定原理によって測定することができることが知られているが、測定原理によって得られる数値に差があることも知られている。本発明ではレーザー回折式粒度分布計によって測定され、体積基準で解析した平均粒径を、当該フィラーの代表値として定義するが、他の測定原理によって測定された粒径値を技術常識に基づいて換算して用いることも差し支えない。
【0051】
熱伝導性フィラーの比重は、真比重を意味し熱伝導性の観点から、1以上が好ましく、2以上が好ましい。また、分散性の観点から、10以下が好ましく、4以下が好ましい。これらの観点から、熱伝導性フィラーの比重は、分散性と熱伝導性の観点から、1〜10が好ましく、2〜4が好ましい。
【0052】
本発明において使用される熱伝導性フィラーの吸湿試験による吸水率は、熱可塑性エラストマーの劣化を防止する観点から、1.5質量%未満であることが望ましい。
【0053】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物における成分Bの含有量は、小さい方が組成物の溶融流動性が高くなるので好ましく、一方大きい方が組成物の熱伝導性が高くなるので好ましい。これらの観点から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物における成分Bの含有量は、成分A 100体積部に対して40〜300体積部であり、好ましくは50〜200体積部、より好ましくは60〜150体積部である。
【0054】
なお、成分Bはフィラーであり、その効果は主に成分Bの質量よりもむしろ表面積の大きさに基づいて表れやすい傾向があり、その意味で成分Aと成分Bの比率は質量部よりも体積部で定義した方が効果の傾向をよく反映することができる。成分Aと成分Bの各々の比重が既知である場合、比重によって質量部を体積部に換算することができる。熱伝導性フィラーの体積部は、真比重から算出することができる。
【0055】
エラストマーにフィラーを添加すると、硬度が上昇することは知られているが、本発明の成分Aと成分Bとの組み合わせにおいて、成分Bの粒径と体積部を上記の範囲に限定したとき、組成物の表面硬度がそれほど大きくなく、柔軟性を保つことができる。
【0056】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐熱老化性を向上させる観点から、ビニル共重合体(成分C)を含有していることが好ましい。ビニル共重合体はまた、成分Bの分散性を高める作用があるのではないかと考えられる。
【0057】
成分Cを構成する単量体単位には、2つの態様、即ち
第一の態様:SP値が17.5〜25.0である単量体単位(単量体単位c1)を50質量%以上含む単量体単位、及び
第二の態様:(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の単量体単位(単量体単位c2)を50質量%以上含む単量体単位(単量体単位c2が2種以上の単量体単位からなる場合は、その総量が50質量%以上であることを意味する)
があり、単量体単位c1とc2は成分Aとの親和性が良好である点で共通している。なお、第一の態様と第二の態様は、便宜上区分したものであり、両者に共通した単量体もある。即ち、SP値が17.5〜25.0である、(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体はいずれの態様にも該当する。
【0058】
第一の態様において、単量体単位c1を特定するためのSP値は、Solubility Parameterとして広く知られている。本発明におけるSP値(δ)は以下の推算式により求める。
【0059】
VanKrevelenの推算式
[VanKrevelen]Solubilityparameter:δ
δ=(Ecoh/V)0.5
Ecoh=ΣEcoh,i
単位 : (J/cm
3)0.5
推算に必要な物性値
V:構成繰り返し単位(CRU)のモル体積[cm
3/mol]
原子団寄与法で計算される物理量
Ecoh:Hoftyzer&VanKrevelenのモル凝集エネルギー[J/mol]
原子団パラメータ
Ecoh,i:i番目のモル凝集エネルギーに対する原子団パラメータ[J/mol]
【0060】
SP値が17.5〜25.0である単量体単位(カッコ内数値はSP値)としては、スチレン(18.82)、α−メチルスチレン(19.55)、メタクリル酸メチル(18.54)、アクリル酸n−ブチル(18.12)、アクリル酸エチル(18.83)、アクリル酸メチル(19.13)、アクリル酸メトキシエチル(19.43)、酢酸ビニル(19.13)等が挙げられる。
【0061】
なお、例えば、エチレンやプロピレン等のSP値が17.5未満のオレフィンは、本発明における成分Cの主要な単量体単位としてはふさわしくないものである。SP値が17.5未満のオレフィン(カッコ内数値はSP値)としては、エチレン(16.00)、プロピレン(17.04)等が挙げられる。
【0062】
単量体単位c1のSP値は、成分Aとの親和性の観点から、17.5以上であり、好ましくは17.8以上、より好ましくは18.0以上である。また、25.0以下であり、好ましくは23.0以下、より好ましくは22.0以下であり、さらに好ましくは21.0以下であり、さらに好ましくは20.0以下である。これらの観点から、単量体単位c1のSP値は、17.5〜25.0であり、好ましくは17.8〜23.0であり、より好ましくは18.0〜22.0であり、さらに好ましくは18.0〜21.0であり、さらに好ましくは18.0〜20.0である。
【0063】
単量体単位c1の割合が、成分Cの単量体単位中、50質量%以上のとき、成分Aとの親和性が良好になり、成分A中での成分Bの分散性がより良好になる。単量体単位c2の割合は60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0064】
本発明においては、SP値の特定が難しい単量体単位でも、(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体であれば、成分Cの主要な単量体単位として使用可能である。
【0065】
そこで、成分Cの単量体単位の第二の態様は、(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の単量体単位(単量体単位c2)を含むものである。
【0066】
単量体単位c2として好適な(メタ)アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が例示され、これらのなかでは、成分Aとの親和性の観点から、(メタ)アクリル酸のアルキル(炭素数1〜6)エステル及び(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましい。(メタ)アクリル酸グリシジル等は水素結合が強いためSP値の特定が難しいが、成分Aとの親和性が大きく、単量体単位c2として好ましいものである。
【0067】
スチレン誘導体とは、スチレンのアルファ位、オルト位、メタ位又はパラ位が炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、カルボキシル基、ハロゲン原子等の置換基で置換された化合物を意味する。該置換基の分子量(原子量)は60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましい。スチレン誘導体の具体例としては、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン等が挙げられる。
【0068】
ただし、SP値が特定される単量体単位c2、即ち(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体のなかで、SP値が、第一の態様の単量体単位c1に求められるSP値を外れるもの、即ちSP値が17.5未満のもの及び25.0を超えるものは、成分Aとの親和性が小さく、第二の態様においても、単量体単位c2から除かれる。例えば、単量体単位のSP値が17.5未満であるものとしては、炭素数が8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーのアルキルエステル等が挙げられる。
【0069】
単量体単位c2の割合が、成分Cの単量体単位中、50質量%以上のとき、成分Aとの親和性が良好になり、成分A中での成分Bの分散性がより良好になる。単量体単位c2の割合は60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0070】
以降、本明細書において、成分Cとは、特に記載のない限り、単量体単位c1を含む第一の態様の成分C及び単量体単位c2を含む第二の態様の成分Cの両者に該当する。
【0071】
成分Cを構成する単量体単位は、(メタ)アクリルモノマーを10〜90質量%含み、スチレン又はスチレン誘導体を10〜90質量%含むものであることが好ましい。(メタ)アクリルモノマーを15〜80質量%(さらに好ましくは20〜70質量%)含み、スチレン又はスチレン誘導体を20〜85質量%(さらに好ましくは30〜80質量%)含むものであることがより好ましい。このような成分Cは、成分Aとの親和性が大きい(メタ)アクリルモノマーと、成分Bとの親和性が大きいスチレン又はスチレン誘導体とを構成単位として有するので、AB両成分の相溶化剤として効果的に作用できるため好ましい。
【0072】
成分Cは、成分Aとの親和性の観点から、テトラヒドロフラン(THF)への溶解性を有することが好ましく、ビニル共重合体であることが好ましい。THFへの溶解性を有するとは、具体的には25℃におけるTHFへの溶解度が5質量%以上であることを意味する。該溶解度が10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。
【0073】
成分Cの有するエポキシ基は、多い方が成分Bとの親和性が良くなり、少ない方が成分Aとの相溶性が良くなり、成分Bの分散性を向上させるので、好ましくは1分子中に平均2個以上、より好ましくは2.5〜20個、さらに好ましくは3〜10個のエポキシ基を有する。
【0074】
成分Cのエポキシ価は、成分Bの分散性向上の観点から、0.5〜5meq/gが好ましく、0.7〜3meq/gがより好ましい。
【0075】
成分Cとして利用可能な市販品としては、東亞合成(株)製のアルフォンUGシリーズ、日油(株)製のマープルーフGシリーズ、BASF製のジョンクリルADRシリーズ等が挙げられる。
【0076】
成分Cは、成分Aとの相溶性を保つ必要があるが、成分Cの重量平均分子量が10万を超えると、成分Aへの相溶性が低下する。また、1000未満であると、成分Aへの相溶性が高くなりすぎる。これらの観点から、成分Cの重量平均分子量は、1000以上が好ましく、3000以上がより好ましく、5000以上がさらに好ましい。また、10万以下が好ましく、8万以下がより好ましく、6万以下がさらに好ましい。成分Cの重量平均分子量は、1000〜10万が好ましく、3000〜8万がより好ましく、5000〜6万がさらに好ましい。
【0077】
成分Cの数平均分子量は、上記と同様に成分Aとの相溶性の観点から、500〜5万が好ましく、1000〜4万がより好ましく、2000〜3万がさらに好ましい。
【0078】
成分Cの含有量は、成分A 100質量部に対して、組成物成形体の強度や耐熱老化性が向上する観点から、0.1質量部以上が好ましく、組成物の硬度や未反応の成分Cの残留による耐熱老化性の低下を防止する観点から、30質量部以下が好ましい。これらの観点から、成分Cの含有量は、成分A 100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.2〜20質量部がより好ましく、0.2〜15質量部がさらに好ましく、0.3〜10質量部がさらに好ましい。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐熱性向上の観点から、さらに、エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂(成分D)を含有することが好ましい。成分Dは、成分Aと相分離を起こすためには結晶性であることが好ましく、耐熱性を付与する観点から、融点が高い結晶性の熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、本発明においては、成分A、成分B、成分Dを併用する系において前記成分Cを併用すると、化学的に成分Aと成分Dとの相溶性を上げる効果があるので組成物の耐熱性や強度が上がる傾向がある。
【0080】
熱可塑性樹脂の融点は、組成物の耐熱性向上の観点から、100℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。また、製造しやすさの観点から、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。これらの観点から、熱可塑性樹脂の融点は、100〜350℃が好ましく、180〜300℃がより好ましく、200〜280℃がさらに好ましい。結晶性の熱可塑性樹脂とは、示差走査熱量分析計(DSC)において融点が観測される熱可塑性樹脂のことをいうのが一般的であり、融点の値はDSCを用いるが、多くのものがガラス転移温度も有しており、ガラス転移温度についてはDSCでも測定可能であるものの、動的粘弾性測定の方がより精密な値を得ることができる。
【0081】
本発明において、エポキシ基と反応可能な官能基としては、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、アミド基、アミノ基等が挙げられ、成分Dとしての熱可塑性樹脂は、これらの官能基の1種又は2種以上を熱可塑性樹脂の主鎖又は側鎖に有する。
【0082】
エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂は、成分Cと反応して架橋させ、組成物の耐熱性を向上させることができ、また、成分Bの分散性向上にも効果がある。成分A,B,Cを併用すると、Bの分散性が優れるので溶融粘度が低く、組成物の耐熱性や強度が高くなる効果が顕れるので好ましい。
【0083】
成分Dの具体例としては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリメタクリルスチレン(MS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の重合体が挙げられるが、耐熱性(高い融点)及び成分Aとの非相溶性の観点から、芳香族ポリエステル及び/又はポリアミドが好ましい。芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が好ましく、ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン6,6等が好ましい。これらの中の複数を併用することも好ましいが、より好ましいのは、ポリエチレンテレフタレート及び/又はポリブチレンテレフタレートである。
【0084】
成分Dがポリエステルの場合、分子末端の官能基としては、水酸基とカルボキシル基が存在する。本発明において成分Dとして用いられるポリエステルの分子末端の水酸基、及びカルボキシル基のそれぞれの存在量は特に限定されるものではなく一般的なものを用いることができるが、例えば、成分Dがポリエステルである場合、カルボキシル基の量の指標である酸価は、0.1〜100ミリ当量/kgが好ましい。より具体的には、酸価は、0.1ミリ当量/kg以上が好ましく、1ミリ当量/kg以上がより好ましく、3ミリ当量/kg以上がさらに好ましく、5ミリ当量/kg以上がさらに好ましい。また、100ミリ当量/kg以下が好ましく、80ミリ当量/kg以下がより好ましく、70ミリ当量/kg以下がさらに好ましく、60ミリ当量/kg以下がさらに好ましい。なお、ポリエステル樹脂の酸価は、十分に乾燥させた試料200mgを熱ベンジルアルコール10mlに溶解させ、溶液を冷却後、クロロホルム10ml及びフェノールレッドを加えて、1/25規定の酒精カリ溶液(KOHのメタノール溶液)で滴定して測定する。また、ポリエステルの水酸基価は、ポリエステルのヒドロキシル末端基とカルボキシル末端基の和である末端基濃度を測定し、そこから酸価(カルボキシル末端基濃度)を差し引くことによって算出する。末端基濃度は、ポリエステルのヒドロキシル末端にコハク酸を結合させ、コハク酸由来のカルボキシル末端基とポリエステル自体が持つカルボキシル基の総和(=全酸価)として測定する。水酸基価=全酸価−酸価により算出する。
【0085】
また、成分Dがポリアミドの場合、分子末端官能基は、一般的にカルボキシル基とアミノ基である。本発明において成分Dとして用いられるポリアミドの分子末端のカルボキシル基とアミノ基のそれぞれの存在量は特に限定されるものではなく一般的なものを用いることができるが、成分Dがポリアミドである場合、末端アミノ基濃度は、10〜200μmol/gが好ましい。より具体的には、末端アミノ基濃度は、10μmol/g以上が好ましく、15μmol/g以上がより好ましく、20μmol/g以上がさらに好ましく、30μmol/g以上がさらに好ましい。また、200μmol/g以下が好ましく、190μmol/g以下がより好ましく、180μmol/g以下がさらに好ましく、170μmol/g以下がさらに好ましい。なお、末端アミノ基濃度及び末端カルボキシル基濃度は、
1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求める。
【0086】
成分Dの含有量は、成分A 100質量部に対して、耐熱性の観点から、10質量部以上が好ましく、柔軟性の観点から、400質量部以下が好ましい。これらの観点から、成分Cの含有量は、成分A100質量部に対して、10〜400質量部が好ましく、20〜300質量部がより好ましく、30〜250質量部がさらに好ましい。
【0087】
本発明の組成物は、成分Bの分散性を向上させるための分散剤として、脂肪族カルボン酸金属塩(成分E)を含有していることが好ましい。
【0088】
脂肪族カルボン酸金属塩としては、炭素数12〜25の飽和又は不飽和脂肪酸の金属塩が好ましい。脂肪酸は飽和脂肪酸であることが好ましい。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩等が挙げられるが、2価又は3価の金属塩が好ましい。これらの観点から、脂肪族カルボン酸金属塩としては、ステアリン酸アルミニウム及びステアリン酸カルシウムがより好ましい。
【0089】
成分Eの含有量は、成分Bの分散性の観点から、成分B 100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.005質量部以上がより好ましい。また、変色を抑制する観点から、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。これらの観点から、成分Eの含有量は、成分B 100質量部に対して、0.001〜10質量部が好ましく、0.01〜5質量部がより好ましい。
【0090】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに、エステル交換触媒を含有することが好ましい。エステル交換触媒を配合することにより、得られる組成物の引張破断強度等が向上する。具体的には、引張試験において抗張積(強度と伸び率の積)が大きく、強度と伸びのバランスがより良好となる。このような効果を奏する理由は、エステル交換触媒により、成分Aの分子量を大きくさせることができ、場合によっては、部分架橋が形成される。エステル交換触媒が架橋剤として作用し、組成物の主成分である成分Aの高分子量化により、組成物がより強靭なものになるものと推測される。
【0091】
成分Aの高分子量化及び部分架橋のための反応触媒としてエステル化触媒としては、一般的なポリエステル重合触媒を使用することができる。かかる触媒としては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系触媒、ブチル錫、オクチル錫、スタノキサン等の錫系触媒、チタン系アミネート、チタンアルコキシド等のチタン系触媒、ジルコニウム系アセチルアセトネート、ジルコニウムアルコキシド等のジルコニウム系触媒が挙げられ。これらの中では、チタン系触媒及びジルコニウム系触媒が好ましく、チタン系触媒がより好ましい。
【0092】
チタン系触媒の具体例としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、リン酸チタン化合物、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート等の有機溶剤可溶のキレート化合物、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタントリブタノールアミネート、チタンジエタノールアミネート、チタンアミノエチルアミノエタノレート等の水溶性のキレート化合物等を挙げることができ、この中で好ましいのは水溶性のキレート化合物であり、より好ましくはチタンアルカノールアミネートである
【0093】
成分Fの含有量は、成分A 100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましい。また、エステル交換触媒の含有量は、成分Aの架橋により得られる組成物の熱可塑性が低下するのを抑制する観点から、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。成分Fの含有量は、成分A 100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0094】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、加熱条件下での本発明の組成物の特性の変化が抑制される観点から、熱安定剤を含有していてもよい。
【0095】
熱安定剤としては、リン含有化合物、ヒドラジド化合物、有機イオウ系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられるが、その他エステル交換触媒(成分F)とキレート形成する等して該触媒の活性を低減させる化合物も利用可能である。本発明では、熱可塑性エラストマーの熱老化に対する耐性が格段に向上するため、使用条件の自由度がより大きくなる観点から、リン含有化合物及びヒドラジド化合物が好ましい。これらは、併用されていてもよい。熱安定剤の含有量は、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、0.01〜15質量部が好ましく、0.05〜10質量部がより好ましい。なお、熱老化は主に2つの現象を含み、1つ目は熱分解で生成する低分子量成分の割合増大に起因する強度の低下であり、2つ目は熱分解で生成するフリーラジカル等の活性点の架橋形成に起因する伸び率の低下である。
【0096】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、アクリルゴム、シリコーン変性のアクリルゴム、ブチルゴム、シリコーン変性のブチルゴム等の架橋ゴム、アクリルゴム−g−メチルメタクリレート、MAS(アクリルゴム−g−メチルメタクリレート/スチレン)、MBS(ブタジエンゴム−g−メチルメタクリレート/スチレン)等のグラフト共重合体、アクリル系以外のブロック共重合体、例えばポリエステル系ブロック共重合体等を含有していてもよい。
【0097】
その他添加剤としては、重金属不活性化剤、脂肪酸エステル等の滑剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート化合物やヒンダードフェノール系化合物等の光安定剤;カルボジイミド化合物やオキサゾリン化合物等の加水分解防止剤;フタル酸エステル系化合物、ポリエステル化合物、(メタ)アクリルオリゴマー、プロセスオイル等の可塑剤;重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤;ニトロ化合物、アゾ化合物、スルホニルヒドラジド等の有機系発泡剤;カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、ガラス繊維等の充填剤;テトラブロモフェノール、ポリリン酸アンモニウム、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の難燃剤;シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤や酸変性ポリオレフィン樹脂等の相溶化剤;そのほか顔料や染料等が挙げられる。
【0098】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも、(メタ)アクリルエラストマー(成分A)及び熱伝導性フィラー(成分B)、ビニル共重合体(成分C)、さらに必要に応じて熱可塑性樹脂(成分D)、脂肪族カルボン酸金属塩(成分E)、エステル交換触媒(成分F)、熱安定剤、その他添加剤等を含有する原料成分を、押出機又はニーダーにより加熱混練する方法により得ることが好ましい。
【0099】
エステル交換触媒を使用して(メタ)アクリルエラストマー(成分A)の高分子量化を図る場合、熱安定剤を併用して組成物の特性がより安定化されたものとすることが好ましいが、熱安定剤の添加時期は、成分Aの高分子量化がなされた後(例えば180〜350℃の混練温度において、熱安定剤以外の原料が0.5〜15分程度混練された後)とすることが好ましい。熱安定剤の添加時期が早すぎると成分Aの高分子量化が不十分となる場合がある。
【0100】
押出機としては、例えば、単軸押出機、平行スクリュー二軸押出機、コニカルスクリュー二軸押出機等が挙げられる。本発明では、混合能力が優れる(得られる混合物が分散性の良好なものとなる)観点から、二軸押出機が好ましく、同方向回転二軸押出機がより好ましい。
【0101】
押出機の吐出部分に装着されるダイは、任意のものを選択できるが、例えば、ペレットの生産に適するストランドダイ、シートやフィルムの生産に適するTダイ等のほか、パイプダイ、異形押出ダイ等が挙げられる。
【0102】
また、押出機は、空気開放部分や減圧装置につながるガス抜き用のベントを備えていてもよいし、複数の原料投入口を供えていてもよい。
【0103】
ニーダーとは、温度制御が可能なバッチ式ミキサーを意味し、バンバリーミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ラボプラストミル等が挙げられる。
【0104】
各成分は、押出機又はニーダーに、一括で投入しても、別々に投入しても、また、分割して投入してもよい。ただし、熱安定剤の投入については前記の通りである。
【0105】
加熱混練の温度は、成形性の観点から、170℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、190℃以上がさらに好ましい。また、加熱混練中の熱劣化を防ぐ観点から、350℃以下が好ましく、310℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。
【0106】
加熱混練時間は、加熱温度や各成分の種類、濃度等に依存するため、一概には決定できないが、得られる熱可塑性エラストマー組成物の品質のバラツキの制御と生産性を考慮して適宜決定することが好ましい。押出機を用いる場合の代表的な加熱混合時間は、例えば、0.5〜20分間、好ましくは0.7〜15分間、より好ましくは1〜10分間である。
【0107】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができる。
【0108】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体は、耐熱性が優れるため、例えば100℃以上(設計によっては120℃以上、130℃以上等)の耐熱性を必要とする用途にも好適に使用することができる。
【0109】
加熱成形時の温度は、組成物の流動性及びそれに起因する成形加工性の観点から、180℃以上が好ましく、組成物中の成分Aの(メタ)アクリル成分の熱分解を防止する観点から、350℃以下が好ましい。これらの観点から、加熱成形時の温度は、180〜350℃が好ましく、200〜320℃がより好ましい。
【0110】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置には、組成物を溶融成形することができる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0111】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体は、柔軟性の指標となるA硬さが、20〜100であることが好ましく、20〜90がより好ましい。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0113】
〔ビニル共重合体C3の製造〕
オイルジャケットを備えた容量1リットルの加圧式攪拌槽型反応器のオイルジャケット温度を200℃に保った。一方、スチレン74質量部、グリシジルメタクリレート20質量部、アクリル酸n−ブチル6質量部、キシレン15質量部及び重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド(DTBP)0.5質量部からなる単量体混合液を原料タンクに仕込んだ。一定の供給速度(48g/分、滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給し、反応器の内容液質量が約580gで一定になるように反応液を反応器の出口から連続的に抜き出した。その時の反応器内温は、約210℃に保たれた。
反応器内部の温度が安定してから36分経過した後から、抜き出した反応液を減圧度30kPa、温度250℃に保った薄膜蒸発機により連続的に揮発成分除去処理して、揮発成分をほとんど含まない共重合体C3を回収した。180分かけて約7kgのビニル共重合体C3を回収した。
【0114】
〔ビニル共重合体C1、C2の製造〕
表3−1に示す組成の単量体、キシレン15質量部、及びDTBP 0.3質量部からなる単量体混合液を用いた以外は、ビニル共重合体C3と同じ方法にて、ビニル共重合体C1、C2を製造した。
【0115】
実施例1〜34及び比較例1〜3
(実施例1〜13は参考例である)
200℃に加熱されたバッチ式ニーダー(ブラベンダー社製プラストグラフ)に表5〜8に示す組成比で原料成分を投入し、ローター回転数100r/minの回転数で原料を溶融混練した。混練時間は13〜18分の間で、混練トルクが最大値に達したところで溶融状態の混練物を全量取り出し、室温で冷却して、組成物を得た。
【0116】
使用した樹脂原料の詳細を表1〜4に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
なお、表1〜3に記載の各原料成分の物性は以下の方法により測定した。原料のシート作製は、後述の組成物のプレスシート作製と同様の方法で行った。ただしプレス温度は原料に応じて加減した(予め少量の原料を昇温して目視で流動を認めた温度を把握した)。
【0122】
〔A硬さ〕
JIS K 6253-3「デュロメータ硬さ」に準拠して測定する。
【0123】
〔重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCともいう)より、溶剤としてTHFを使用し、ポリスチレン換算から求める。
【0124】
〔ガラス転移温度(Tg)〕
動的粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント(株)製のRSAIII)を使用し、−100〜280℃の温度範囲、5℃/分の昇温速度、周波数10Hzの条件で試験片を加熱した際に測定される、損失正接(Tanδ)のピーク温度が観測され、その温度をガラス転移温度(Tg)とする。試験片としては、厚さ2mm、幅12mm、長さ30mmのものを使用する。
複数のブロック(ソフトセグメントとハードセグメント)を有するエラストマーでは、普通、複数の損失正接のピークが観測されるが、この場合低温側のピークがソフトセグメントに由来するものであり、高温側のピークがハードセグメントに由来するものである。
【0125】
〔流動開始温度〕
プレスシートより幅12mm×長さ30mmの短冊状のテストピースを裁断し、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社 RSA-II型)のトーションモード(10gf負荷)、周波数 10Hz、昇温速度 5℃/min、温度 0〜280℃の設定で各サンプルの粘弾性特性を測定する。
得られた貯蔵弾性率の変曲点、もしくは測定不能になる温度を流動開始温度とする。なお、ガラス転移温度付近においても貯蔵弾性率の変曲点は現れるが、流動はしないため、流動開始温度には相当しない。
【0126】
〔融点〕
試料約10mgをアルミパンに入れてアルミ蓋を圧着する。アルミパンを示差走査熱量分析計(パーキンエルマー社 DSC8000)の装置測定部に設置し、空気中・昇温速度20℃/分の条件で測定する。
【0127】
〔体積平均粒子径〕
脱イオン水に超音波分散した熱伝導性フィラーを、堀場製作所製のLA-500レーザー回折式粒度分布計で測定し、体積基準で解析して平均粒径を算出する。
【0128】
〔吸水率〕
熱伝導性フィラー10gをシャーレに入れ、90℃×90%RHの条件下の恒温槽内に静置、48時間後の質量変化を電子天秤によって測定し、下記の式で質量変化率(吸水率)を算出する。
【0129】
【数1】
【0130】
〔1分子当たりの平均エポキシ基数(Fn)〕
下記の式から算出する。
平均エポキシ基の個数(Fn)=a×b/100c
上記の式においてa、b及びcはそれぞれ以下のとおりである。
a:共重合体に含まれるエポキシ基を有するビニル単量体単位の割合(質量%)
b:共重合体の数平均分子量
c:エポキシ基を有するビニル単量体の分子量
【0131】
〔エポキシ価〕
試料1g中に含まれるエポキシ基のミリ当量数(試料1kg中に含まれるエポキシ基の当量数)であり、JISK7236のエポキシ指数に相当するものである。
【0132】
実施例及び比較例で得られた組成物を、プレス成型して、厚さ2mm×幅200mm×長さ200mmのプレートAを作製した。
【0133】
〔プレス成形条件〕
プレス成形機:40ton電動油圧成形機
加熱温度:上型200〜240℃、下型200〜240℃
加熱時間:5分
プレス圧:5MPa
冷却時間:2分
【0134】
プレートAを用い、以下の特性を評価した。結果を表5〜8に示す。
【0135】
(1) 柔軟性
<A硬さ>
以下の条件を変更した以外は、JIS K 6253-3デュロメータ硬さに準拠して測定する。
測定時間:針が試料に接触してから1秒後
荷重:5kg
【0136】
(2) 耐熱老化性
<引張強度保持率>
試験片は、プレートAをJIS K 6251記載の3号ダンベル型に打ち抜いて使用する。引張試験部位に恒温槽を有する引張試験機を用いて、試験片を130℃で48時間静置した後の試験片と、130℃で静置する前の試験片とを、引張速度500mm/minで引張試験を行う。下記式より引張強度保持率を算出する。70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。
【0137】
【数2】
【0138】
(3) 高温時の弾性率保持性
<貯蔵弾性率>
試料を、23℃で、48時間静置した後、以下の条件で貯蔵弾性率を測定する。200℃における貯蔵弾性率の値が1.0×10
4Paを超えている(>10
4)ことが好ましい。
測定モード:ずり
使用治具:トーションプレート
周波数:10Hz
昇温速度:5℃/min
測定温度:−100〜280℃
試料形状:12mm×30mm×2mm
測定機:ARES-RDS(ティーエーインスツルメント社製)
【0139】
(4) 耐湿性
<引張強度保持率>
恒温恒湿槽に80℃、95%RH環境下にて168時間試験片を静置した後、耐熱老化性の評価と同様にして、引張強度保持率を測定する。70%以上が好ましい。
【0140】
(5) 熱伝導性
<熱伝導率>
レーザーフラッシュ法により熱拡散率を測定する(温度19〜30℃)。
DSCにより比熱を測定する(JIS K 7123に準拠)。
水中置換法により比重を測定(JIS K 7112に準拠)。
上記の測定結果をもとに、下記式より熱伝導率を算出する。
熱伝導率=熱拡散率×比熱×比重
試料:φ=15mm、厚さ=1.0mmの円盤
【0141】
【表5】
【0142】
【表6】
【0143】
【表7】
【0144】
【表8】
【0145】
以上の結果より、実施例1〜33では、いずれも、成形体として良好な柔軟性を持ちつつ、耐熱老化性、高温時の弾性保持性、耐湿性及び熱伝導率に優れていることが分かる。
【0146】
これに対し、比較例1、2では成分Bが配合されていないか、配合されていても少量であるため、熱伝導性に欠けている。成分Bは過剰に配合した比較例3は溶融混練できていない。