(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
底板に渦巻状のラップが立設されて前記底板の中心と前記ラップの渦巻中心とが互いに偏心している固定スクロール及び可動スクロールを、互いのラップを対向して噛み合わせて密閉空間を形成するスクロールユニットと、前記可動スクロールの底板の背面と前記背面と対向するハウジング壁のどちらか一方に形成した円形穴と他方に前記円形穴と係合させて突設したピンとで構成される自転阻止部を、前記可動スクロールの周方向に少なくとも3以上配置して前記可動スクロールの自転を阻止する自転阻止機構と、を備え、前記自転阻止機構により前記可動スクロールの自転を阻止しつつ、前記可動スクロールを前記固定スクロールの軸心周りに公転旋回運動させて前記密閉空間の容積を変化させるスクロール型流体機械であって、
前記自転阻止機構を、前記可動スクロールの底板中心と前記ラップの渦巻中心とを結ぶ直線と直交し且つ前記底板中心を通る直線上に、前記円形穴の中心が位置するように前記自転阻止部の少なくとも1つを配置するように構成したことを特徴とするスクロール型流体機械。
前記自転阻止機構は、前記可動スクロールの底板中心と前記ラップの渦巻中心とを結ぶ直線を、前記底板中心を中心として前記可動スクロールのラップの巻き方向と反対方向に90°回転させ、回転後の前記直線が、前記底板中心を中心とし当該底板中心から前記円形穴の中心までの長さを半径とするピッチ円と交わる点を、1つの前記自転阻止部の中心位置とし、この自転阻止部を基準として前記ピッチ円上に他の自転阻止部を等間隔で配置した請求項1に記載のスクロール型流体機械。
前記可動スクロールの底板中心と前記ラップの渦巻中心との偏心量を、前記固定スクロールの軸心を中心として旋回する前記可動スクロールの旋回半径の1/3以下とした請求項1〜3のいずれか1つに記載のスクロール型流体機械。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。尚、本発明に係るスクロール型流体機械は、圧縮機或いは膨張機として使用することができるが、ここでは圧縮機の例で説明する。
【0011】
図1〜
図4は本実施形態のスクロール型圧縮機の構成を示しており、
図1は全体構成を示す断面図、
図2はスクロールユニットの説明図、
図3は自転阻止機構を構成する自転阻止部の拡大断面図、
図4は可動スクロール底板における自転阻止機構の自転阻止部の配置図である。
【0012】
スクロール型圧縮機1は、中心軸方向に対向配置される固定スクロール2と可動スクロール3とを有するスクロールユニット4を備えている。
図2に示すように、固定スクロール2は、底板2a上に渦巻状のラップ2bが一体に立設されている。可動スクロール3も、同様に、底板3a上に渦巻状のラップ3bが一体に立設されている。両ラップ2b,3bは、インボリュート若しくはインボリュートに近い曲線形状をしており、固定スクロール2のラップ2bは、固定スクロール2の底板中心2cに対してその渦巻中心2d(インボリュートの基礎円中心、以下、固定渦巻中心とする)を偏心させて形成されている。また、可動スクロール3のラップ2bは、可動スクロール3の底板中心3cに対してその渦巻中心3d(インボリュートの基礎円中心、以下、可動渦巻中心とする)を偏心させて形成されている。これにより、スクロールユニット4の外径を小さくでき、スクロール型圧縮機1の胴径を縮小でき、スクロール型圧縮機1の小型化を図ることができる。
【0013】
両スクロール2、3は、両ラップ2b、3bを噛み合わせ、固定スクロール2のラップ2bの突出側の端縁が可動スクロール3の底板3aに接触し、可動スクロール3のラップ3bの突出側の端縁が固定スクロール2の底板2bに接触するように配設される。尚、両ラップ2b、3bの突出側の端縁にはチップシールが設けられている。
【0014】
また、両スクロール2、3は、両ラップ2b、3bの周方向の角度が互いにずれた状態で、両ラップ2b、3bの側壁が互いに部分的に接触するように配設される。これにより、両ラップ2b、3b間に三日月状の密閉空間である流体ポケット5が形成される。
【0015】
可動スクロール3は、その底板中心3c(軸心)が固定スクロール2の底板中心2c(軸心)に対して偏心して組み付けられ、後述する自転阻止機構30によって自転が阻止されつつ、駆動機構により固定スクロール2の底板中心2c回りに両ラップ2b、3b間の接触により規定される旋回半径AORで公転旋回運動される。これにより、両ラップ2b、3b間が接触しつつ両ラップ2b、3b間に形成される流体ポケット5がラップ2b、3bの外端部から中心部へ向かって移動されることにより、流体ポケット5の容積が縮小方向に変化する。従って、ラップ2b、3bの外端部側から流体ポケット5内に取込まれた流体(例えば冷媒ガス)が圧縮される。
【0016】
尚、膨張機の場合には、流体ポケット5が逆にラップ2b、3bの中心部から外端部へ向かって移動されることにより、流体ポケット5の容積が増大方向に変化し、ラップ2b、3bの中心部側から流体ポケット5内に取込まれた流体が膨張される。
【0017】
スクロール型圧縮機1のハウジングは、スクロールユニット4を内包するセンターハウジング6と、その前側に配置されるフロントハウジング7と、後側に配置されるリアハウジング8とから構成されている。
【0018】
センターハウジング6は、本実施形態では、固定スクロール2と一体にスクロールユニット4の筐体部(外殻シェル)として形成されている。但し、固定スクロール2とセンターハウジング6とを別部材として、センターハウジング6内に固定スクロール2を収納固定する構造としてもよい。センターハウジング6は、リア側が底板2aにより閉止され、フロント側が開口している。
【0019】
フロントハウジング7は、センターハウジング6の開口部側にボルト(図示せず)により締結されている。フロントハウジング7は、可動スクロール3をスラスト方向に支持すると共に、可動スクロール3の駆動機構を収納している。
【0020】
フロントハウジング7はまた、その内部に、フロントハウジング7の外壁に形成される吸入ポート(図示せず)に接続する上記流体の吸入室9が形成されている。
【0021】
フロントハウジング7及びセンターハウジング6には、周方向の一部に、膨出部10が形成されている。膨出部10の内部には、圧縮機中心軸と平行な方向に延在して、フロントハウジング7側の吸入室9からセンターハウジング6側のスクロールユニット4の両ラップ2b、3bの外端部付近へ、上記流体を案内する流体通路空間11が形成されている。
【0022】
リアハウジング8は、センターハウジング6の底板2a側にボルト12により締結され、底板2a背面との間に上記流体の吐出室13を形成している。固定スクロール2の底板2aの中心部には、圧縮流体の吐出孔14が形成され、吐出孔14には一方向弁15が付設されている。吐出孔14は、一方向弁15を介して吐出室13に接続される。吐出室13は、リアハウジング8の外壁に形成される吐出ポート(図示せず)に接続している。
【0023】
上記流体は、吸入ポートからフロントハウジング7内の吸入室9に導入され、フロントハウジング7及びセンターハウジング6の膨出部10内側の流体通路空間11を経由して、スクロールユニット4の外端部側からラップ2b,3bの接触により形成される流体ポケット5内に取込まれ、圧縮に供される。圧縮された流体は、固定スクロール2の底板2aの中央部に穿設された吐出孔14から、リアハウジング8内の吐出室13に吐出され、そこから吐出ポートを介して外部に導出される。
【0024】
フロントハウジング7は、センターハウジング6の開口部側にボルト(図示せず)により締結される外周部の内側に、可動スクロール3の底板3a背面と対向し可動スクロール3からのスラスト力を、スラストプレート16を介して受けるスラスト受け部17を有する。
【0025】
フロントハウジング7は、また、中心部に可動スクロール3の駆動機構の中核をなす駆動軸20を回転自在に支承している。駆動軸20の一端部側はフロントハウジング7外に突出しており、ここに電磁クラッチ21を介してプーリ22が取付けられている。従って、プーリ22から電磁クラッチ21を介して入力される回転駆動力により、駆動軸20が回転駆動される。駆動軸20の他端部側は、クランク機構を介して可動スクロール3に連結されている。
【0026】
前記クランク機構は、本実施形態では、可動スクロール3の底板3a背面に突出形成された円筒状のボス部23と、駆動軸20の端部に設けたクランク24に偏心状態で取付けた偏心ブッシュ25と、を含んで構成され、前記偏心ブッシュ25は前記ボス部23の内部に軸受26を介して嵌合している。尚、偏心ブッシュ25には、可動スクロール3の動作時の遠心力に対向するバランサウエイト27が取付けられる。
【0027】
自転阻止機構30は、
図3の拡大断面図で示すように、可動スクロール3の底板3a背面(フロントハウジング7のスラスト受け部17に対向する)に形成された円形穴31と、フロントハウジング7のスラスト受け部17側に突設されてスラストプレート16を貫通して前記円形穴31に係合するピン32とで構成される自転阻止部33を、
図4に示すように、可動スクロール3の底板3a背面の外周縁近傍の周方向に沿って等間隔に複数(本実施形態では5個)配置して構成されている。尚、自転阻止部33は、少なくとも3個以上あれば、可動スクロール3は自転をすることなく固定スクロール2の軸心周りに公転旋回運動することができる。
【0028】
かかる構成のスクロール型圧縮機1の動作について簡単に説明する。
外部からの回転駆動力によりプーリ22が回転すると、電磁クラッチ21を介して駆動軸20が回転し、クランク機構を介して可動スクロール3が、自転阻止機構30により自転が阻止されつつ固定スクロール2の軸心周りに公転旋回運動する。可動スクロール3の公転旋回運動により、流体(冷媒ガス)が吸入ポートから吸入室9及び流体通路空間11を経由してスクロールユニット4のラップ2b、3b間の流体ポケット5内に取込まれ、流体ポケット5の容積の縮小変化によって圧縮された流体は、固定スクロール2中央部の吐出孔14から吐出室13に吐出される。吐出室13に吐出された流体は、吐出ポートを介して外部に導出される。
【0029】
次に、本実施形態の自転阻止機構30について詳述する。
本実施形態のスクロール型流体機械1では、前述したように、可動スクロール3の底板中心3cとラップ3bの可動渦巻中心3dを互いに偏心させている。この場合、
図5に示すように、可動スクロール3の1旋回中で、可動スクロール3に作用する圧縮反力の中心と可動スクロール3の底板中心3cとの距離が変動する。このため、可動スクロール3の1旋回中で、圧縮反力が一定だとしても可動スクロール3に発生する自転モーメントは変動する。
図5は、可動スクロール旋回時の圧縮反力中心と可動スクロール3の底板中心3c間の距離変動の説明図で、(a)は、圧縮反力中心と可動底板中心3c間の距離が最小となる可動スクロール位置を示す。(b)は、(a)の可動スクロール位置からラップ3bの巻き方向に90°旋回した状態を示す。(c)は、(a)の可動スクロール位置からラップ3bの巻き方向に180°旋回した状態を示し、圧縮反力中心と可動底板中心3c間の距離が最大となる可動スクロール位置を示す。(d)は、(a)の可動スクロール位置からラップ3bの巻き方向に270°旋回した状態を示す。尚、圧縮反力中心は、スクロールユニット4の流体ポケット5における圧縮流体によりラップ2b,3b間に発生する力関係により、固定渦巻中心2dと可動渦巻中心3dの中点となる。
【0030】
また、可動スクロール3に発生する自転モーメントによる荷重を受ける自転阻止部と可動スクロール3の底板中心3cとの距離も、可動スクロール3の1旋回中で変動する。本実施形態の自転阻止機構30では、固定スクロール2と可動スクロール3の製造、組み立てにより両スクロール2,3の底板中心2c,3cの位置にずれが生じたとしても、固定スクロール2のラップ2bと可動スクロール3のラップ3bとを確実に接触させるために、固定スクロール2のラップ2bと可動スクロール3のラップ3bとの接触により規定される旋回半径AORに対して自転阻止機構30の各自転阻止部33の円形穴31とピン32との隙間により規定される可動スクロール3の許容旋回半径PORを大きくしている(AOR<POR)。
【0031】
このように、ラップ2bとラップ3bとの接触により規定される旋回半径AORと、自転阻止部33の円形穴31とピン32との隙間により規定される可動スクロール3の許容旋回半径PORとが、AOR<PORの関係にある場合、
図6(a)に示すように、自転阻止部33を複数個(図では5個)に配置したとしても、1箇所の自転阻止部33が可動スクロール3の自転を阻止するための自転阻止力(自転モーメントによりピン32に作用する荷重と等価)を受け持つことになる。ただし、
図6(b)に示すように、自転阻止力を受け持つ自転阻止部33の移行時では、瞬間的には2箇所の自転阻止部33で自転阻止力を受け持つことになる。このため、一定の自転モーメント下においては、(a)のように1箇所の自転阻止部33で自転モーメントによる荷重を受ける場合には、可動スクロール3の底板中心3c(自転中心)から自転阻止力を受け持つ自転阻止部33までの距離が最も長く、自転阻止部33による自転阻止力は最小となる。また、(b)のように2箇所の自転阻止部33で自転阻止力を受け持つ場合には、可動スクロール3の底板中心3c(自転中心)から自転モーメントの作用点までの距離が最も短く、自転阻止部33における自転阻止力は最大となる。このように、可動スクロール3の1旋回中において、可動スクロール3の底板中心3c(自転中心)から自転モーメント作用点までの距離も変動する。
図6中、pは、自転阻止機構30の各自転阻止部33の中心を示す自転阻止ピッチ円で、可動スクロール3の底板中心3cを中心とし当該底板中心3cから円形穴31の中心までの長さを半径とするピッチ円である。尚、
図6は、図の簡素化のため可動スクロール3におけるボス部23は図示省略してある。
【0032】
本実施形態のスクロール型流体機械1は、可動スクロール3の1旋回中における上述の自転モーメントの変動と可動スクロール3の底板中心3c(自転中心)から自転モーメントの作用点までの距離の変動を考慮し、可動スクロール3の1旋回中で圧縮反力中心と可動スクロール3の底板中心3cとの間の距離が最大になる可動スクロール位置で、可動スクロール3の底板中心3cから自転阻止部33までの距離が最も長くなるように、自転阻止部33の可動スクロール周方向における配置を決定した。具体的には、可動スクロール3の底板中心3cと可動渦巻中心3d(ラップ3bの渦巻中心)とを結ぶ直線と直交し且つ底板中心3cを通る直線上に、自転阻止部33の少なくとも1つを位置するようにした。
【0033】
具体的な本実施形態の自転阻止部33の配置手順について、
図7(a)〜(c)を用いて説明する。尚、
図7(a)〜(c)において、左側は可動スクロール3の底板3aのラップ立設側を示し、右側は可動スクロール3の底板3aの円形穴31形成側となる背面側を示している。
まず、(a)に示すように、可動スクロール3の底板中心3cから可動渦巻中心3d(ラップ3bの渦巻中心)に向かって自転阻止ピッチ円まで直線Aを引く。
【0034】
次に、可動スクロール3の底板中心3cを中心にして上記直線Aを、ラップ3bの巻き方向と反対方向に90°回転させ、回転後の直線Aが、底板中心3cを中心としこの底板中心3cから円形穴31の中心までの長さを半径とする自転阻止ピッチ円pと交わる点を、第1の自転阻止部33の中心位置とする。
【0035】
次に、他の自転阻止部33の中心位置を、上記(b)において決定した自転阻止部33の中心点Bを基準として自転阻止ピッチ円p上に等間隔(等分の角度)で配置する。
【0036】
かかる本実施形態のスクロール型流体機械1によれば、可動スクロール3の底板中心3cとラップ3bの渦巻中心3dとを偏心させた場合において、可動スクロール3の発生する自転モーメントにより自転阻止部33に作用する荷重を低減でき、スクロール型流体機械1の小型化を図りつつ自転阻止機構30の耐久性を向上できる。
【0037】
図8(a)〜(e)に、可動スクロール3の底板中心3cとラップ3bの渦巻中心3dの偏心量を変化させた場合の可動スクロール3の姿勢(渦巻き姿勢)について解析した結果を示す。尚、参考までに偏心量が0の場合についても示している。
【0038】
固定スクロール2の軸心を中心とした可動スクロール3の旋回半径をR0とすると、
図8から、可動スクロール3の底板中心3cとラップ3bの渦巻中心3dの偏心量を、旋回半径R0の1/3以下とすることで、可動スクロール3の姿勢が安定し、可動スクロール3が滑らかに旋回し始める。従って、可動スクロール3の底板中心3cとラップ3bの渦巻中心3dの偏心量を旋回半径R0の1/3以下に設定すれば、可動スクロール3の滑らかな旋回動作により騒音を低減できる。
【0039】
尚、本実施形態の自転阻止機構30では、円形穴31を可動スクロール3側に形成し、ピン32をフロントハウジング7側に突設したが、円形穴31をフロントハウジング73側に形成し、ピン32を可動スクロール3側に突設する構成としてもよい。ただし、この場合、ピン32の突入長さが可動スクロール3の底板3aの厚さによって規制されるので、ピン32が抜け落ちるリスクを回避するためには、可動スクロール3の底板3aを十分厚くする必要がありスクロールユニット4の重量増を招く。従って、本実施形態のように、円形穴31を可動スクロール3側に形成し、ピン32をフロントハウジング7側に突設する構成が好ましい。