(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
<嗜好性装置:機能構成例>
図1は、本実施形態における嗜好性評価装置の機能構成の一例を示している。
図1に示すように、嗜好性評価装置10は、入力手段11と、出力手段12と、記憶手段13と、測定手段14と、提示手段15と、解析手段16と、評価手段17と、制御手段18とを有するように構成される。
【0012】
入力手段11は、嗜好性評価処理に関する各種指示の開始/終了、設定等の入力を受け付ける。入力手段11は、例えばPC(Personal Computer)等の汎用のコンピュータであれば、キーボードやマウス等のポインティングデバイスである。入力手段11は、例えば音声等により上述した入力が可能なマイク等の音声入力デバイスであっても良い。
【0013】
出力手段12は、入力手段11により入力された内容や、入力内容に基づいて実行された内容等の出力を行う。例えば、出力手段12は、提示手段15により提示された評価対象のサンプル(商品等)を画面に表示する。出力手段12は、例えばディスプレイやスピーカ等である。出力手段12は、プリンタ等の印刷デバイスを有していても良い。
【0014】
なお、上述した入力手段11と出力手段12とは、例えば嗜好性評価装置10がスマートフォンやタブレット端末等のような場合には、例えばタッチパネルのように入出力一体型の構成であっても良い。
【0015】
記憶手段13は、本実施形態において必要な各種情報を記憶する。具体的には、本実施形態における嗜好性評価処理を実行するための各種プログラムや、各種設定情報等を記憶する。記憶手段13は、例えばユーザの皮膚抵抗反応値や、平均化された皮膚抵抗反応値の波形や、各サンプルに対する嗜好性の評価結果等を記憶する。
【0016】
ここで、記憶手段13は、上述したような多種の情報の集合物であり、例えばキーワード等を用いて検索し、抽出可能に体系的に構成されているデータベースとしての機能を有していても良い。更に、記憶手段13に記憶される情報は、例えば通信ネットワークを介して外部装置から取得しても良い。
【0017】
測定手段14は、例えばユーザの生体反応の一例である皮膚電気活動(Electro Dermal Activity:EDA)のうち、例えば皮膚抵抗反応(Skin Conductance Responce:SCR)の値を所定の時間間隔で継続的に測定する。測定手段14は、例えばEDA測定器としてヴェガシステム社製の高精度EDA計測装置DA−3により計測されたアナログ信号を、A/Dコンバータを介して、例えばサンプリング周波数100Hz等で記録する。
【0018】
提示手段15は、評価対象となるサンプルを画面上に提示する。提示手段15は、複数のサンプル(2つのサンプル等)を同時に提示し、非提示期間としてサンプルを提示しないブランク状態を示す画面を示した後、複数のサンプルのうち所定のサンプルを提示する。提示手段15は、その後、所定のサンプルを評価させる画面を提示する。なお、提示手段15による所定のサンプルを評価させるまでの各画面の提示期間については後述する。
【0019】
解析手段16は、測定手段14により得られるユーザの皮膚抵抗反応値のうち、提示手段15により所定のサンプルが提示された期間における皮膚抵抗反応値を解析する。例えば、解析手段16は、所定のサンプルが提示された期間における皮膚抵抗反応値を抽出すると、所定のサンプルが提示された複数の期間における皮膚抵抗反応値を平均化した波形(SCR平均波形)を求める。
【0020】
また、解析手段16は、SCR平均波形のうち所定期間の平均振幅値(μS)に基づき定量化されるEDA反応強度(評価対象のサンプルごとのSCR反応値)を解析する。なお、解析手段16は、所定のサンプルに対する複数のユーザから得られる上述した皮膚抵抗反応値を平均化した波形(SCR総平均波形)を求めることも可能である。
【0021】
評価手段17は、解析手段16により得られたユーザの皮膚抵抗反応値に基づき、所定のサンプルに対するユーザの嗜好性を評価する。また、評価手段17は、ユーザの皮膚抵抗反応値等で定量化されるEDA反応強度等に基づき、ユーザの嗜好性を評価しても良い。更に、評価手段17は、複数のユーザから得られるSCR総平均波形に基づき、評価対象となるサンプルに対するユーザの嗜好性を評価したり、ユーザの性質や特徴を評価したりすることも可能である。
【0022】
制御手段18は、嗜好性評価装置10の各構成部全体の制御を行う。制御手段18は、例えばユーザの皮膚抵抗反応値の測定や解析、嗜好性評価処理等のうち少なくとも1つを制御する。
【0023】
<嗜好性評価装置:ハードウェア構成>
ここで、上述した嗜好性評価装置10の各機能をコンピュータに実行させる実行プログラム(嗜好性評価プログラム)を生成し、例えば汎用のPC、サーバ等にインストールする。これにより、本実施形態における嗜好性評価処理等を実現することが可能となる。
【0024】
図2は、嗜好性評価処理が実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。
図2のコンピュータ本体には、入力装置21と、出力装置22と、ドライブ装置23と、補助記憶装置24と、メモリ装置25と、各種制御を行うCPU(Central Processing Unit)26と、ネットワーク接続装置27とを有するように構成され、これらはシステムバスBで相互に接続されている。
【0025】
入力装置21は、ユーザ等が操作するキーボード、マウス等のポインティングデバイスを有しており、マイク等の音声入力デバイス等を有し、ユーザ等からのプログラムの実行等、各種操作信号を入力する。なお、入力装置21は、例えばユーザの皮膚抵抗反応値を取得するための入力ユニットを有することが可能である。
【0026】
出力装置22は、本実施形態に係る処理を行うコンピュータ本体を操作するのに必要な各種ウィンドウやデータ等を表示するディスプレイを有し、CPU26が有する制御プログラムにより実行経過や結果等を表示する。
【0027】
ここで、本実施形態においてコンピュータ本体にインストールされる実行プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリやCD−ROM等の可搬型の記録媒体28等により提供される。記録媒体28は、ドライブ装置23にセット可能であり、記録媒体28に含まれる実行プログラムが、記録媒体28からドライブ装置23を介して補助記憶装置24にインストールされる。
【0028】
補助記憶装置24は、ハードディスク等のストレージ手段であり、本実施形態における実行プログラムや、コンピュータに設けられた制御プログラム等を記憶し、必要に応じて入出力を行うことが可能である。
【0029】
メモリ装置25は、CPU26により補助記憶装置24から読み出された実行プログラム等を格納する。なお、メモリ装置25は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等である。上述した補助記憶装置24やメモリ装置25は、1つの記憶装置として一体型に構成されていても良い。
【0030】
CPU26は、OS(Operating System)等の制御プログラム、及びメモリ装置25に格納されている実行プログラムに基づいて、各種演算や各ハードウェア構成部とのデータの入出力等、コンピュータ全体の処理を制御して、本実施形態における嗜好性評価処理を実現する。なお、プログラム実行中に必要な各種情報等は、補助記憶装置24から取得し、実行結果等を格納しても良い。
【0031】
ネットワーク接続装置27は、インターネットやLAN(Local Area Network)等に代表される通信ネットワーク等と接続することにより、実行プログラムを通信ネットワークに接続されている他の装置等から取得する。また、ネットワーク接続装置27は、プログラムを実行することで得られた実行結果又は本実施形態における実行プログラム自体を他の装置等に提供することが可能である。
【0032】
上述したハードウェア構成により、本実施形態における嗜好性評価処理を実行することが可能となる。また、実行プログラムをインストールすることにより、汎用のPC等で本実施形態における嗜好性評価処理を容易に実現することが可能である。
【0033】
<嗜好性評価処理の流れ>
図3は、嗜好性評価処理の流れを示すフローチャートである。
図3に示すように、嗜好性評価装置10は、測定手段14により、例えばユーザの左手の人差し指と中指に装着した電極から得られる皮膚抵抗反応(SCR)の値(単位:μS)を、測定手段14により所定の時間間隔で継続的に測定する(S10)。
【0034】
ここで、嗜好性評価装置10は、提示手段15により、例えば予め設定された2つのサンプルを同時に提示し、ブランク状態を示す画面を示した後、2つのサンプルのうち評価対象のサンプルを提示する(S11)。なお、S11の処理では、評価対象のサンプルを提示した後、評価対象のサンプルを評価させる画面を提示すると良い。
【0035】
次に、嗜好性評価装置10は、解析手段16により、S11の処理で2つのサンプルのうち評価対象のサンプルを提示した期間におけるS10の処理で得られた皮膚抵抗反応値を解析する(S12)。なお、S10〜S12の処理を繰り返し実施し、得られた皮膚抵抗反応値を平均化してSCR平均波形を求め、SCR平均波形のうち、評価対象のサンプルを提示した時点から、例えば4〜6秒前後の平均振幅値をEDA反応強度として求めても良い。
【0036】
次に、嗜好性評価装置10は、評価手段17により、S12の処理で得られた皮膚抵抗反応値等により定量化されるEDA反応強度等に基づき、評価対象のサンプルに対する嗜好性を評価し(S13)、処理を終了する。
【0037】
本実施形態では、上述した構成や処理手順等により、例えば特定の対象(サンプル等)に対するユーザの記憶に根付いた無意識の反応(興味、関心、嫌悪感等)に基づき、ユーザの潜在的な嗜好性を評価することが可能となる。
【0038】
<評価プロトコル>
ここで、本実施形態における嗜好性を評価するためのプロトコル(評価プロトコル)について説明する。
図4は、評価対象のサンプルをランダムに提示した例を示す図である。
図5は、
図4に対応して得られた皮膚抵抗反応(SCR)を説明するための図である。
【0039】
例えば、
図4の例では、サンプルを示す画面と、サンプルを提示しないブランク状態の画面とを所定の時間間隔で交互に提示している。具体的には、
図4に示すように、サンプルを示す画面を例えば8秒程度提示し、その後にサンプルを提示しないブランク状態の画面を例えば1〜3秒程度提示し、更にその後に他のサンプルを示す画面を例えば8秒程度提示している。
【0040】
図5(A)は、
図4に対応して得られた皮膚抵抗反応(SCR)の平均振幅と主観評価による嗜好性との関連を示す図である。
図5(A)において、横軸は、ユーザ18名によるサンプル選択回数(0〜8回)の平均(主観評価による嗜好性の高さ)を示し、縦軸は、皮膚抵抗反応(SCR)(0.05μS・1目盛)の平均振幅を示している。なお、
図5(A)におけるサンプルの選択については、例えばアンケート用紙によるアンケートをユーザに対して実施した結果から得たものである。
【0041】
図5(A)に示すように、サンプルごとの皮膚抵抗反応(SCR)の平均振幅の値とサンプル選択回数の平均の値とは、例えば積率相関係数r=.01;n.sとなり、皮膚抵抗反応(SCR)の平均振幅の値と、主観評価による嗜好性の高さとの間には相関が示されていない。
【0042】
図5(B)は、
図4に対応して得られた皮膚抵抗反応(SCR)を示す図である。
図5(B)において、横軸は、サンプルが提示された時点からの時間(sec)を示し、縦軸は、皮膚抵抗反応(SCR)を示している。ここで、
図5(B)に示すSCRの時系列変動パターンは、例えばサンプルが提示された時点から2秒前後に大きな振幅が得られたパターンを示している。
【0043】
<ユーザに選択行動を求める例>
次に、上述したランダムにサンプルを提示する例に対し、ユーザに選択行動を求めるサンプル提示例について説明する。
図6は、ユーザに選択行動を求めるサンプル提示例を示す図である。
図7は、
図6に対応して得られた皮膚抵抗反応(SCR)を説明するための図である。
【0044】
図6の例では、2つのサンプルを同時に示す画面を提示し、その後にサンプルを提示しないブランク状態の画面を提示し、更にその後に2つのサンプルのうち評価対象のサンプルを示す画面を提示している。また、その後、評価対象のサンプルが欲しいか否かをユーザに選択させる画面(すなわちサンプルを評価させる画面)を提示している。
【0045】
具体的には、
図6の例に示すように、2つのサンプルを示す画面は、「どちらがより欲しいですか?」等のユーザにサンプルを認識させるため、2つのサンプルを同時に提示し(例えば8秒程度)、その後に非提示期間となるブランク状態の画面を提示している(例えば4〜8秒程度)。
【0046】
次に、2つのサンプルのうち評価対象のサンプルを示す画面で「こちらの方が欲しいですか」等の質問を提示し(例えば8秒程度)、その後、ユーザにサンプルを選択させる画面で「提示されたものの方がより欲しければボタンを押してください」等の選択を促している(例えば3秒程度)。
【0047】
図7(A)は、
図6に対応して得られた皮膚抵抗反応(SCR)の平均振幅と主観評価による嗜好性との関連を示す図である。
図7(A)において、横軸は、ユーザ11名によるサンプルの選択回数(0〜6回)の平均(主観評価による嗜好性の高さ)を示し、縦軸は、皮膚抵抗反応(SCR)(0.05μS・1目盛)の平均振幅を示している。
【0048】
図7(A)に示すように、サンプルごとの皮膚抵抗反応(SCR)の平均振幅の値とサンプル選択回数の平均の値とは、例えば積率相関係数r=+.996;p<.05となり、皮膚抵抗反応(SCR)の平均振幅の値と、主観評価による嗜好性の高さとの間には高い相関が示されている。また、分散分析の結果でも有意な効果が得られた。
【0049】
図7(B)は、
図6に対応して得られた皮膚抵抗反応(SCR)を示す図である。
図7(B)において、横軸は、サンプルが提示された時点からの時間(sec)を示し、縦軸は、皮膚抵抗反応(SCR)を示している。
【0050】
ここで、
図7(B)に示すSCRの時系列変動パターンは、例えばサンプルが提示された時点から例えば4秒〜6秒前後に大きな振幅が得られている。このSCRの時系列変動パターンは、例えば科学警察研究所等で応用されている虚偽検出で得られるパターンと類似したものである。上述した
図7の結果から、
図4に示す評価プロトコルに対し、
図6に示す評価プロトコルにより得られるEDA反応強度は、ユーザの嗜好性に対する反応を反映しているといえる。
【0051】
すなわち、ユーザの嗜好性を反映するEDA反応は、例えばユーザの「知覚・認知」の情報処理過程よりも、それに伴う「行動準備」の情報処理過程を反映している。したがって、例えば
図4に示す評価プロトコルのように、ただサンプルを見せられているだけで、行動による利得が期待できないような状況下では、「行動準備」の情報処理過程が惹起されないため、嗜好性を反映する適切なEDA反応が抽出されない。
【0052】
これに対し、例えば
図6に示す評価プロトコルのように、例えば2つのサンプルを提示した後、評価対象のサンプルを提示し、選択行動を求めるサンプル提示手法を用いることで、ユーザの記憶に根付いた嗜好性を反映したEDA反応を得ることが可能となる。
【0053】
なお、ユーザに実際に「行動」させるのであれば、「行動の結果」を記録すれば良く、上述のように「生体反応」の測定は必要ないとする意見もある。しかしながら、例えばユーザの潜在的、無意識的、情動的な行動準備反応である情報処理過程が惹起された場合でも、その後のユーザの理性的な判断で、その行動が抑制される場合がある(例えば食べたいけど我慢等)。また、情動的には行動準備反応が起こらない場合でも、理性的に判断して行動する場合がある(例えば気は乗らないけど約束のため等)。
【0054】
したがって、ユーザの「行動」そのものを観察するだけでは、理性に干渉を受けていない、純粋な、直感的、無意識的、情動的な嗜好性を評価するのは難しい。例えば、実験的に、行動準備反応の情報処理過程を惹起させ、その際の直感的、無意識的な情報処理過程を反映する生体信号を測定するのは、実際に生じる行動そのものを観察するためではない。この生体信号の測定は、行動を起こそうとする最初の情動的な情報処理過程の反応の強さを、理性に干渉される前の純粋な嗜好性の評価指標として捉えるためである。
【0055】
<嗜好性評価処理の全体の流れ>
そこで、本実施形態では、上述した
図6に示す評価プロトコルを用いることにより、嗜好性評価処理を実行する。
図8は、本実施形態における嗜好性評価処理の全体の流れを説明するための図である。
【0056】
図8(A)に示すように、本実施形態における嗜好性評価処理は、評価・測定を行う前半部30と、休憩31と、評価・測定を行う後半部32とにより構成される。
【0057】
評価・測定を行う前半部30より前には、予めユーザに対して評価対象となる複数のサンプルを確認する時間(例えば1〜2分程度)を設ける。ここでは、例えばサンプルの内容を精査に記憶して比較するプロセスではなく、サンプルのイメージを確認するプロセスとして、例えば実際に店頭でサンプルを目にする程度の時間で情報量を得ることを目的とする。
【0058】
評価・測定を行う前半部30と後半部32とでは、例えば予め設定したサンプルに対して評価・測定を繰り返し実施する。評価・測定を行う前半部30と後半部32との間には、休憩31を設ける。この休憩31は、例えば時間が長くなると、全般的な覚醒水準の低下に伴い、反応が低下する可能性があるため、評価・測定を行う前半部30と後半部32とを可能な限り短くなるよう設定し、途中の休憩31は、例えば2分程度とするが、これに限定されるものではない。
【0059】
図8(B)の例では、評価・測定を行う前半部30で、例えば4つのサンプルに対する評価・測定を計13回実施し、初回を除いた12回を解析対象とする。初回を解析対象外とした理由は、ユーザが慣れない状況で心構えができていないことが多く、過度に大きい反応等の特異な反応が出る可能性が高いためである。また、後半部32においても前半部30と同様に評価・測定を実施する。
【0060】
具体的には、
図8(C)に示すように、例えばブランク状態を示す画面40を提示し(例えば5秒程度)、例えば4つのサンプルを評価対象とする場合、まず相対評価を行う2つのサンプルを示す画面41を提示する(例えば2〜8秒程度)。画面41を提示する時間は、2つのサンプルを認知し、両者を比較してユーザ自身にとって好ましい(手に入れたい)と判断できるまでの十分な時間とすると良い。
【0061】
次に、ブランク状態の画面42を提示し(例えば4〜8秒程度:平均6秒程度)、2つのサンプルのうち評価対象のサンプルを示す画面43を提示する(例えば8秒程度)。ここで、ブランク状態の画面42を提示する時間は、2つのサンプルを示す画面41の刺激による生体反応(SCRの値)への影響が十分に小さくなり、次の画面が提示されるタイミングが正確には分からない時間とすると良い。
【0062】
すなわち、次の画面43が提示されるタイミングがユーザに分かってしまうと、そのタイミングで身体に力が入ったり、呼吸が合ったり等のノイズの影響が大きくなるためである。また、画面43を提示する時間は、刺激提示開始後に、SCRの振幅値が増大するため、その反応強度が特定可能となる十分な時間とすると良い。
【0063】
なお、画面43を提示する時間は、例えば8秒程度としたが、その間、画面43を提示し続けなくても良く、例えば4秒程度提示した後、ブランク状態としても良い。このような場合には、画面43を提示する間(例えば4秒程度)と、ブランク状態(例えば4秒程度)との計8秒程度で得られるSCRの振幅値を解析する。すなわち、画面43の提示する区間と、SCRの振幅値を解析する区間とは必ずしも一致しなくても良い。なお、SCRの振幅値については後述する。
【0064】
次に、画面43で提示された評価対象のサンプルが欲しいか決定するための画面(サンプルを評価させる画面)44を提示し(例えば3秒程度)、ブランク状態の画面45を提示する(例えば3秒程度)。ここで、画面44を提示する時間は、画面41で提示された2つのサンプルのうち、画面43で提示された評価対象のサンプルが欲しい方のサンプルか判断し、反応するのに十分な時間とすると良い。
【0065】
なお、画面44では、ユーザにより評価申告用のボタンを押下するように求めるが、このボタン押しのタイミングは、評価対象のサンプルに対するSCRの値を記録し終えたタイミングとすると良い。また、SCRを測定する電極を装着する左手ではなく、右手で押下すると良い。この評価申告用のボタンを押下するようユーザに求める理由は、「行動を準備する情報処理過程に伴う生体反応を惹起させる」という意味の他、「覚醒水準を維持」して、安定した反応を測定・記録するために必要となる。
【0066】
また、画面45を提示する時間は、画面44で評価対象のサンプルが欲しいか決定するための評価申告用のボタン等を押すことによる運動が、新たな画面41が提示されるタイミングでノイズとして残留しないために十分な時間とすると良い。
【0067】
上述したように、前半部30では、相対評価を行う2つのサンプルを、例えば6回提示(別のサンプル2つを合わせると計12回)し、1つのサンプルに対して3回ずつ欲しいか決定させる。同様に、後半部32でも、2つのサンプルを6回提示し(別のサンプル2つを合わせると計12回)、1つのサンプルに対して3回ずつ欲しいか決定させる。これにより、前半部30と後半部32と併せて、1つのサンプルに対して6回の生体反応(SCR)を得ることが可能となる。
【0068】
<皮膚抵抗反応値の波形を取得する手順>
図9は、皮膚抵抗反応値の波形を取得する手順を説明するための図である。
図9(A)は、
図8(C)に示す1回分の評価・測定の流れを示している。
図9(B)は、
図9(A)に示す評価・測定中に、ユーザから得られるSCR(μS)の値を示している。
図9(C)は、評価対象のサンプルを示す画面の提示タイミングを示し、
図9(D)は、ユーザによる評価申告用のボタン押し反応を示している。
図9(E)は、評価対象のサンプルに対する6回分のSCR(μS)を示し、
図9(F)は、
図9(E)から得られるSCR平均波形を示している。
【0069】
解析手段16は、
図9(B)に示すSCRの値のうち、
図9(A)に示す評価対象のサンプルを示す画面43が提示された期間(例えば8秒程度)におけるSCRの値を抽出する。解析手段16は、
図9(E)に示すように、
図9(A)に示す画面43が提示された期間における前半部30及び後半部32の併せて6回分のSCRの値を抽出する。
【0070】
解析手段16は、この抽出した6回分のSCRの値から、
図9(F)に示すSCR平均波形を求め、求めたSCR平均波形から、
図9(A)に示す画面43の提示タイミングから約2秒〜6秒間における平均振幅値(μS)を求め、EDA反応強度として解析する。
【0071】
上述したように、
図9(F)の点線に示すEDA反応強度を、例えばユーザごとに求めることで、各サンプルに対するユーザの嗜好性を評価することが可能となる。
【0072】
また、
図9(B)に示すSCRの値を、評価・測定を行ったユーザ全体の測定値から抽出し、
図9(E)に示す平均化を行うことで、サンプルごとのSCR総平均波形を得ることが可能となる。ここから、
図9(F)に示すEDA反応強度を求めることで、ユーザ全体のサンプルごとの嗜好性の比較結果を得ることが可能となる。
【0073】
<嗜好性評価結果の一例>
図10は、嗜好性評価結果の一例を示す図である。
図10(A)は、例えば4つのサンプルに対するそれぞれの皮膚抵抗反応(SCR)の波形を示している。
図10(B)は、1つのサンプルに対する測定時期の異なる皮膚抵抗反応(SCR)の波形を示している。
【0074】
図10(A)の例では、例えば各サンプルのEDA反応強度を比較することで、サンプルごとの嗜好性を評価することが可能となる。すなわち、
図10(A)の例では、EDA反応強度50は、EDA反応強度51〜53と比較して、例えば4秒〜6秒前後における振幅が最も高くなっている。
【0075】
したがって、例えばEDA反応強度50が得られたサンプルに対して、最も興味がある等の嗜好性を評価することが可能となる。また、EDA反応強度50〜53における上述した振幅を比較することにより、各サンプルに対する興味や関心度の順位付けを行うことが可能となる。
【0076】
図10(B)の例では、例えばサンプルの使い始めの時点で得られたEDA反応強度60と、サンプルを使用して4週間後に得られたEDA反応強度61とを比較することで、そのサンプルに対する愛用意識としての嗜好性を評価することが可能となる。例えば、
図10(B)の例では、EDA反応強度61が、EDA反応強度60と比較して、例えば4秒〜6秒前後における振幅が高くなっている。したがって4週間後においてもサンプルに対して満足していると評価することが可能となる。
【0077】
<嗜好性評価結果の他の例>
図11は、嗜好性評価結果の他の例を示す図である。
図11(A)は、日本人35名を対象にした皮膚抵抗反応(SCR)の波形を示し、
図11(B)は、中国人35名を対象にした皮膚抵抗反応(SCR)の波形を示している。なお、
図11の例では、上述した
図10(A)で用いた4つのサンプルとは異なるサンプルを提示した例を示している。
【0078】
図11(A)の例では、EDA反応強度70が、EDA反応強度71〜73と比較して、例えば4秒〜6秒前後における振幅が最も高くなっている。したがって、例えばEDA反応強度70が得られたサンプルに対して、最も興味がある等の嗜好性を評価することが可能となる。
【0079】
これに対し、
図11(B)の例では、EDA反応強度71が、EDA反応強度70及びEDA反応強度72〜73と比較して、例えば4秒〜6秒前後における振幅が最も高くなっている。したがって、例えばEDA反応強度71が得られたサンプルに対して、最も興味がある等の嗜好性を評価することが可能となる。
【0080】
図11に示す結果は、同一の評価対象に対して、文化的な背景が異なるユーザ間で、嗜好傾向の差が反映されることを示している。したがって、例えば所定の評価対象に対する所定のユーザ層における嗜好性の差異を評価することで、例えばユーザの性質や特徴等を評価することも可能となる。
【0081】
このように、嗜好性評価結果では、特定のサンプルに対する評価(例えば商品開発過程で行われる商品評価)を得るとともに、どのユーザ層において嗜好を感じるか等を評価(例えば消費者調査で行われるターゲット層を評価)することも可能となる。
【0082】
上述したように、EDA反応を用いることで、ユーザにとって重要性の高い対象(興味、関心のある、利得が生じる、すなわちポジティブであれば嗜好性の高い対象)か否か評価することが可能となる。なお、上述の例では、生体反応の一例としてのEDA反応を用いたが、例えば心電図や呼吸等の測定を同時に行うことで、ユーザの体質等によってユーザから顕著な反応が取得できない場合のリスクを低減することも可能である。また、心拍数、呼吸、脳波、脳血流、皮膚温の測定を組合せることにより、より精度の高い評価を行うことも可能となる。
【0083】
また、上述した評価方法は、ユーザの対象に対する嗜好性判断における「直感的、無意識的な情報処理プロセス」を抽出する手法であるが、ユーザが商品等を選択する際には、「理性的・意識的な情報処理プロセス」を経て、商品の選択・購入を決定する。したがって、例えばマーケティング調査等において、アンケート調査結果等と組み合わせることで、上述した情報処理プロセスを総合的に分析することも可能となる。
【0084】
上述したように、本実施形態によれば、ユーザにとって利得が生じる等の価値観の記憶が反映されたEDA反応を用いて、ユーザの対象に対する記憶に根付いた直感的、無意識的な嗜好性を適切に評価するとともに、ユーザの性質や特徴を評価することが可能となる。
【0085】
以上、実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲において、種々の変形及び変更が可能である。また、上述した各実施例の一部又は全部を組み合わせることも可能である。