(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207970
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】スクロール型流体機械
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20170925BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20170925BHJP
F04C 29/06 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
F04C18/02 311E
F04C18/02 311S
F04C29/00 U
F04C29/00 B
F04C29/06 Z
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-225021(P2013-225021)
(22)【出願日】2013年10月30日
(65)【公開番号】特開2015-86765(P2015-86765A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078330
【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 二郎
【審査官】
冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−138243(JP,A)
【文献】
特開2010−285928(JP,A)
【文献】
特開2002−202075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/00
F04C 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロール部材と可動スクロール部材を有し、前記固定スクロール部材と前記可動スクロール部材の互いに対向して噛み合わせた渦巻き状のラップ間に密閉空間を形成するスクロールユニットと、前記可動スクロール部材の自転阻止機構と、を備え、前記自転阻止機構により前記可動スクロール部材の自転を阻止しつつ、前記可動スクロール部材を前記固定スクロール部材の軸心周りに公転旋回運動させて前記密閉空間の容積を変化させるスクロール型流体機械であって、
前記自転阻止機構を、前記可動スクロール部材の背面側端面と前記背面側端面と対向して可動スクロール部材からのスラスト力を受けるハウジング壁のどちらか一方に複数の円形穴を形成し、他方に前記円形穴と同数のピンを突設し、前記各円形穴に偏心穴を有する円板を隙間を設けて収容し、前記偏心穴に隙間を設けて前記ピンを嵌合させて前記可動スクロール部材の自転を阻止する構成とし、
前記固定スクロール部材の前記ラップと前記可動スクロール部材の前記ラップとの接触により規定される可動スクロール部材の旋回半径をAOR、前記自転阻止機構の円形穴と円板との前記隙間及び偏心穴とピンとの前記隙間により規定される可動スクロールの最大許容旋回半径と最小許容旋回半径をそれぞれLPOR、SPORとしたとき、SPOR<AOR<LPORの関係を満たしていることを特徴とするスクロール型流体機械。
【請求項2】
前記最大許容旋回半径LPORは、前記固定スクロール部材の軸心と可動スクロール部材の軸心の芯ずれ量の公差をβとしたとき、AOR+β≦LPORの関係が満たされている請求項1に記載のスクロール型流体機械。
【請求項3】
前記最小許容旋回半径SPORは、固定スクロール部材のラップと前記可動スクロール部材のラップとの接触により規定される前記旋回半径AORの遊び量を考慮し、この遊び量をγとしたとき、SPOR≦AOR−γの関係が満たされている請求項1又は2に記載のスクロール型流体機械。
【請求項4】
前記遊び量γを、0.15mm以下とした請求項3に記載のスクロール型流体機械。
【請求項5】
円形穴と円板との前記隙間を、偏心穴とピンとの前記隙間より大きくした請求項1〜4のいずれか1つに記載のスクロール型流体機械。
【請求項6】
前記円形穴を形成する部材を軽合金製とし、前記ピンを鉄製とすると共に、前記円板を鉄、樹脂及び軽合金から選択されたいずれか1つの材料で形成した請求項1〜5のいずれか1つに記載のスクロール型流体機械。
【請求項7】
前記円板が軽合金製であるとき、外周囲に凝着摩耗防止用表面処理を施す請求項6に記載のスクロール型流体機械。
【請求項8】
前記軽合金は、アルミニウム合金である請求項6又は7に記載のスクロール型流体機械。
【請求項9】
前記樹脂は、ポリフェニレンスルファイド樹脂(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)及びポリイミド樹脂(PI)から選択されたいずれか1つの樹脂である請求項6に記載のスクロール型流体機械。
【請求項10】
前記円形穴を前記可動スクロール部材の背面側端面に形成し、前記ピンを前記ハウジング壁に形成した請求項1〜9のいずれか1つに記載のスクロール型流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロール部材と可動スクロール部材とを備え、これらにより形成される密閉空間の容積を変化させることで流体を圧縮又は膨張させるスクロール型流体機械に関し、特に、可動スクロール部材の自転阻止機構に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型流体機械は、固定スクロール部材と可動スクロール部材を有し、両スクロール部材の互いに対向して噛み合わせた渦巻き状のラップ間に密閉空間を形成するスクロールユニットと、可動スクロールの自転を阻止する自転阻止機構と、を備え、自転阻止機構により可動スクロール部材の自転を阻止しつつ、可動スクロール部材を固定スクロール部材の軸心周りに公転旋回運動させて密閉空間の容積を変化させて流体を圧縮又は膨張させる。
【0003】
このようなスクロール型流体機械の自転阻止機構として、例えば特許文献1に記載されたようなピン&ホール方式の自転阻止機構がある。この自転阻止機構は、可動スクロール部材とこの可動スクロール部材のスラスト力を受けるハウジング壁側のどちらか一方に、ピンを突設し、他方にリング穴を形成し、ピンとリング穴との係合により、可動スクロール部材が固定スクロール部材の軸心周りに旋回する際に、可動スクロールの自転を阻止するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−208715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなピン&ホール方式の自転阻止機構の場合、ピンとリング穴周壁との摺接動作におけるPV値(Pは面圧、Vは周速度)が高く、材料選択の自由度が低く、使用できる材料の選択幅が狭いという問題がある。また、外部の駆動源からクラッチを介して動力が入力される開放型のスクロール型圧縮機では、クラッチをOFFしたときに残存する高圧ガスの膨張により可動スクロール部材が移動して異音が発生するという問題がある。
【0006】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、材料の選択幅が広く、異音の発生を抑制できる自転阻止機構を備えたスクロール型流体機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明のスクロール型流体機械は、固定スクロール部材と可動スクロール部材を有し、前記固定スクロール部材と前記可動スクロール部材の互いに対向して噛み合わせた渦巻き状のラップ間に密閉空間を形成するスクロールユニットと、前記可動スクロール部材の自転阻止機構と、を備え、前記自転阻止機構により前記可動スクロール部材の自転を阻止しつつ、前記可動スクロール部材を前記固定スクロール部材の軸心周りに公転旋回運動させて前記密閉空間の容積を変化させるスクロール型流体機械であって、前記自転阻止機構を、前記可動スクロール部材の背面側端面と前記背面側端面と対向して可動スクロール部材からのスラスト力を受けるハウジング壁のどちらか一方に複数の円形穴を形成し、他方に前記円形穴と同数のピンを突設し、前記各円形穴に偏心穴を有する円板を隙間を設けて収容し、前記偏心穴に隙間を設けて前記ピンを嵌合させて前記可動スクロール部材の自転を阻止する構成とし、前記固定スクロール部材の前記ラップと前記可動スクロール部材の前記ラップとの接触により規定される可動スクロール部材の旋回半径をAOR、前記自転阻止機構の円形穴と円板との前記隙間及び偏心穴とピンとの前記隙間により規定される可動スクロールの最大許容旋回半径と最小許容旋回半径をそれぞれLPOR、SPORとしたとき、SPOR<AOR<LPORの関係を満たしていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスクロール型流体機械によれば、自転阻止機構を、可動スクロール部材側とハウジング側の一方に形成した円形穴に偏心穴を設けた円板を隙間を設けて収容し、他方に偏心穴に隙間を設けて嵌合するピンを他方に突設して、偏心穴とピンとの係合により可動スクロール部材の自転を阻止する構成としたことにより、自転阻止機構におけるPV値を下げることができ、材料の選択幅が広がりコストの低減が可能となる。また、固定スクロール部材と可動スクロール部材の互いのラップ間の接触により規定される可動スクロールの旋回半径AORを、円形穴と円板との隙間及び偏心穴とピンとの隙間により規定される可動スクロールの最大許容旋回半径LPORと最小許容旋回半径SPORの範囲内に規制してあるので(SPOR<AOR<LPORの関係を満たしている)、最大許容旋回半径LPORと最小許容旋回半径SPORを適切に設定することにより、可動スクロール部材を円滑に旋回でき、ラップ間の異常摩耗及び異音発生を抑制できる。これにより、従来、可動スクロール部材の旋回半径AORの可変範囲を規定している従動クランク機構の部品の製造コストを低減でき、クランク機構の製造が容易となり製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態を示すスクロール型圧縮機の全体構成を示す断面図
【
図5】最大許容旋回半径における自転阻止機構の状態図
【
図6】最小許容旋回半径における自転阻止機構の状態図
【
図7】本実施形態の自転阻止機構とピン&ホール方式のPV値の比較を示す図
【
図8】本実施形態の自転阻止機構の騒音低減効果を示す実験結果の図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。尚、本発明に係るスクロール型流体機械は、圧縮機あるいは膨張機として使用することができるが、ここでは圧縮機の例で説明する。
【0011】
図1〜
図4は本実施形態のスクロール型圧縮機の構成を示しており、
図1は全体構成を示す断面図、
図2はスクロールユニットの説明図、
図3は自転阻止機構の拡大断面図、
図4は自転阻止機構の配置説明図である。
【0012】
スクロール型圧縮機1は、中心軸方向に対向配置される固定スクロール部材2と可動スクロール部材3とを有するスクロールユニット4を備えている。
図2に示すように、固定スクロール部材2は、端板2a上に渦巻き状のラップ2bが一体に形成されている。可動スクロール部材3は、同様に、端板3a上に渦巻き状のラップ3bが一体に形成されている。
【0013】
両スクロール部材2、3は、両ラップ2b、3bを噛み合わせ、固定スクロール部材2側のラップ2bの突出側の端縁が可動スクロール部材3側の端板3aに接触し、可動スクロール部材3側のラップ3bの突出側の端縁が固定スクロール部材2側の端板2bに接触するように配設される。尚、両ラップ2b、3bの突出側の端縁にはチップシールが設けられている。
【0014】
また、両スクロール部材2、3は、両ラップ2b、3bの周方向の角度が互いにずれた状態で、両ラップ2b、3bの側壁が互いに部分的に接触するように配設される。これにより、両ラップ2b、3b間に三日月状の密閉空間である流体ポケット5が形成される。
【0015】
可動スクロール部材3は、その中心(軸心)3cが固定スクロール部材2の中心(軸心)2cに対して偏心して組み付けられ、後述する自転阻止機構30によって自転が阻止されつつ、駆動機構により固定スクロール部材2の軸心(中心c)回りに両ラップ2b、3b間の接触により規定される旋回半径AORで公転旋回運動される。これにより、両ラップ2b、3b間が接触しつつ両ラップ2b、3b間に形成される流体ポケット5がラップ2b、3bの外端部から中心部へ向かって移動されることにより、流体ポケット5の容積が縮小方向に変化する。従って、ラップ2b、3bの外端部側から流体ポケット5内に取込まれた流体(例えば冷媒ガス)が圧縮される。
【0016】
尚、膨張機の場合には、流体ポケット5が逆にラップ2b、3bの中心部から外端部へ向かって移動されることにより、流体ポケット5の容積が増大方向に変化し、ラップ2b、3bの中心部側から流体ポケット5内に取込まれた流体が膨張される。
【0017】
スクロール型圧縮機1のハウジングは、スクロールユニット4を内包するセンターハウジング6と、その前側に配置されるフロントハウジング7と、後側に配置されるリアハウジング8とから構成されている。
【0018】
センターハウジング6は、本実施形態では、固定スクロール部材2と一体にスクロールユニット4の筐体部(外殻シェル)として形成されている。但し、固定スクロール部材2とセンターハウジング6とを別部材として、センターハウジング6内に固定スクロール部材2を収納固定する構造としてもよい。センターハウジング6は、リア側が端板2aにより閉止され、フロント側が開口している。
【0019】
フロントハウジング7は、センターハウジング6の開口部側にボルト(図示せず)により締結されている。フロントハウジング7は、可動スクロール部材3をスラスト方向に支持すると共に、可動スクロール部材3の駆動機構を収納している。
【0020】
フロントハウジング7はまた、その内部に、フロントハウジング7の外壁に形成される吸入ポート(図示せず)に接続する上記流体の吸入室9が形成されている。
【0021】
フロントハウジング7及びセンターハウジング6には、周方向の一部に、膨出部10が形成されている。膨出部10の内部には、圧縮機中心軸と平行な方向に延在して、フロントハウジング7側の吸入室9からセンターハウジング6側の両ラップ2b、3bの外端部付近へ、上記流体を案内する流体通路空間11が形成されている。
【0022】
リアハウジング8は、センターハウジング6の端板2a側にボルト12により締結され、端板2aとの間に上記流体の吐出室13を形成している。固定スクロール部材2の端板2aの中心部には、圧縮流体の吐出孔14が形成され、吐出孔14には一方向弁15が付設されている。吐出孔14は、一方向弁15を介して吐出室13に接続される。吐出室13は、リアハウジング8の外壁に形成される吐出ポート(図示せず)に接続している。
【0023】
上記流体は、吸入ポートからフロントハウジング7内の吸入室9に導入され、フロントハウジング7及びセンターハウジング6の膨出部10内側の流体通路空間11を経由して、スクロールユニット4の外端部側からラップ2b,3bの接触により形成される流体ポケット5内に取込まれ、圧縮に供される。圧縮された流体は、固定スクロール部材2の端板2aの中央部に穿設された吐出孔14から、リアハウジング8内の吐出室13に吐出され、そこから吐出ポートを介して外部に導出される。
【0024】
フロントハウジング7は、センターハウジング6の開口部側にボルト(図示せず)により締結される外周部の内側に、可動スクロール部材3の端板3aからのスラスト力を、スラストプレート16を介して受けるスラスト受け部17を有する。
【0025】
フロントハウジング7は、また、中心部に可動スクロール部材3の駆動機構の中核をなす駆動軸20を回転自在に支承している。駆動軸20の一端部側はフロントハウジング7外に突出しており、ここに電磁クラッチ21を介してプーリ22が取付けられている。従って、プーリ22から電磁クラッチ21を介して入力される回転駆動力により、駆動軸20が回転駆動される。駆動軸20の他端部側は、クランク機構を介して可動スクロール部材3に連結されている。
【0026】
前記クランク機構は、本実施形態では、可動スクロール部材3の端板3aの背面に突出形成された円筒状のボス部23と、駆動軸20の端部に設けたクランク24に偏心状態で取付けた偏心ブッシュ25と、を含んで構成され、前記偏心ブッシュ25は前記ボス部23の内部に軸受26を介して嵌合している。尚、偏心ブッシュ25には、可動スクロール部材3の動作時の遠心力に対向するバランサウエイト27が取付けられる。
【0027】
自転阻止機構30は、
図3の拡大断面図で示すように、可動スクロール部材3の端板3aの背面側端面(フロントハウジング7のスラスト受け部17に対向する)に形成された円形穴31と、フロントハウジング7のスラスト受け部17側に突設されてスラストプレート16を貫通するピン32と、偏心穴33aを有し円形穴31に隙間を設けて収容された円板33とを含み、ピン32を円板33の偏心穴33aに隙間を設けて嵌合させて構成され、ピン32と偏心穴33aの係合により可動スクロール部材2の自転を阻止する構成である。
【0028】
前記円形穴31は、
図4に示すように本実施形態では端板3aの外周部寄りに周方向に沿って略等間隔に4個配置されており、ピン32もスラスト受け部17の周方向に沿って円形穴31と同数突設されている。尚、円形穴31及びピン32の個数は、本実施形態では4個としたが、少なくとも3個以上を適所に配置することで、自転阻止機構として可動スクロール部材3の自転を阻止することができる。
【0029】
ここで、円形穴31が形成される可動スクロール部材3は、軽合金(例えばアルミニウム合金等)で形成されている。また、ピン32と円板33は、例えば鉄製である。尚、円板33については、鉄の他、ポリフェニレンスルファイド樹脂(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリイミド樹脂(PI)等の樹脂や軽合金(アルミニウム)で形成してもよい。軽合金を使用する場合、凝着摩耗を回避するために、外周面を凝着摩耗防止用の表面処理を施すことが望ましい。円板33に樹脂や軽合金を使用すれば軽量化が図れる。
【0030】
かかる構成のスクロール型圧縮機1の動作について簡単に説明する。外部からの回転駆動力によりプーリ22が回転すると、電磁クラッチ21を介して駆動軸20が回転し、クランク機構を介して可動スクロール部材3が、自転阻止機構30により自転が阻止されつつ固定スクロール部材2の軸心周りに公転旋回運動する。可動スクロール部材3の公転旋回運動により、流体(冷媒ガス)が吸入ポートから吸入室9及び流体通路空間11を経由してスクロールユニット4の外端部側からラップ2b、3b間の流体ポケット5内に取込まれ、流体ポケット5の容積の縮小変化によって圧縮された流体は、固定スクロール部材2中央部の吐出孔14から吐出室13に吐出される。吐出室13に吐出された流体は、吐出ポートを介して外部に導出される。
【0031】
ここで、自転阻止機構30について詳述する。
自転阻止機構30は、円形穴31と円板33との隙間及び偏心穴33aとピン32との隙間により、
図6及び
図7に示すように可動スクロール部材3の最大許容旋回半径LPORと最小許容旋回半径SPORを規定している。そして、固定スクロール部材2の中心2cに対する可動スクロール部材3の中心3cの偏心量により規定される可動スクロール部材3の旋回半径AOR、言い換えれば、固定スクロール部材2と可動スクロール部材3の両ラップ2b,3bの接触により規定される可動スクロール部材3の旋回半径AORが、SPOR<AOR<LPORの関係を満たすようになっている。
【0032】
そして、自転阻止機構30の最大許容旋回半径LPORは、固定スクロール部材2と可動スクロール部材3の製造、組み立てにより生ずる両スクロール部材2,3の中心2c,3cの正規の偏心量からのずれ量(芯ずれ量)を考慮し、この芯ずれ量の公差をβとしたとき、AOR+β≦LPORの関係が満たされている。また、最小許容旋回半径SPORは、可動スクロール部材3の公転旋回運動中にラップ2b,3b間に異物が噛み込まれたり液圧縮があった場合の逃げ量を確保するために設定される。このため、最小許容旋回半径SPORは、固定スクロール部材2のラップ2bと可動スクロール部材3のラップ3bとの接触により規定される可動スクロール部材3の旋回半径AORに対して若干の遊びを持たせて設定され、この遊び量をγとしたときに、SPOR≦AOR−γとしている。
【0033】
更に、本実施形態の自転阻止機構30では、円形穴31と円板33との間の隙間Aを、円板33の偏心穴33aとピン32との間の隙間Bより大きく(A>B)している。これにより、偏心穴33aとピン32の曲率半径差を、円形穴31と円板33の曲率半径差より小さくでき、面圧が高い偏心穴33aとピン32の接触部におけるPV値を下げることができる。
【0034】
かかる自転阻止機構30によれば、固定スクロール部材2と可動スクロール部材3の両ラップ2b,3bに隙間が生じたり強く当たったりしても、自転阻止機構30によって良好に吸収でき、圧縮効率の低下を防止できると共に両ラップ2b,3b間の摩耗を抑制できる。従って、従来では偏心ブッシュを備えた従動クランク機構によって、可動スクロール部材3の旋回半径AORを可変にして、両ラップ2b,3b間の過大又は過小な接触を回避するようにしていたが、本実施形態では自転阻止機構30に可動スクロール部材3の旋回半径規制の機能を持たせた。このため、クランク機構における部品の加工の精度を厳密に管理しなくて済み、クランク機構の製造が容易となって製造コストを低減できる。
【0035】
また、この自転阻止機構30では、
図7に示すように、ピンとリング穴との係合により可動スクロール部材の自転を阻止するピン&ホール方式のPV値に比べて、ピン32と円板33との嵌合面及び円板33外面におけるPV値が格段に小さい。このため、材料の選択幅が広がり、クランク機構の製造の容易化と併せてスクロール型流体機械1の製造コストを低減できる。尚、
図7は摺動材として軸受鋼を使用し、自動車の空調装置に使用した場合の実験結果である。
【0036】
また、円形穴31と円板33との間の隙間Aを、円板33の偏心穴33aとピン32との間の隙間Bより大きくすることにより、PV値を小さくできることに加えて、潤滑油の供給が良好となって耐久性を向上できる。
【0037】
また、本実施形態のような開放型のスクロール型圧縮機1の場合、電磁クラッチ21をOFFしたときに残存する高圧ガスの膨張により可動スクロール部材3が移動して異音が発生する。最小許容旋回半径SPORの設定において、遊び量γを小さくすることで前記異音を低減できることが実験で分かった。
図8は、従来の従動クランク機構を用い、従動クランク機構の最小旋回半径を規制する側の隙間に厚さの異なるスペーサを入れて音圧レベルを測定した結果を示している。
図8からスペーサを入れない場合(図中オリジナルとして示してある)と比較して、隙間を小さくした場合に音圧レベルが低下していることがわかる。この実験結果を踏まえて、本実施形態では、可動スクロール部材3の旋回半径AORの最小許容旋回半径SPOR側における遊び量γを0.15mm以下にしている。これにより、スクロールユニット4における異音を、従来のピン&ホール方式の自転阻止機構と比較して抑制でき、スクロール型圧縮機1からの騒音を低減できる。
【0038】
尚、自転阻止機構30における円形穴31をフロントハウジング7側に形成し、ピン32を可動スクロール部材3側に突設してもよい。但し、この場合、ピン32の突入長さを可動スクロール部材3の端板3aの厚さより短くする必要があり、ピン32が抜け落ちるリスクがある。従って、本実施形態のように、円形穴31を可動スクロール部材3側に形成し、ピン32をフロントハウジング7側に突設することが望ましい。
【符号の説明】
【0039】
1 スクロール型圧縮機
2 固定スクロール部材
2a 端板
2b ラップ(固定スクロール部材側)
2c 固定スクロール部材の中心
3 可動スクロール部材
3a 端板
3b ラップ(可動スクロール部材側)
3c 可動スクロール部材の中心
4 スクロールユニット
5 流体ポケット(密閉空間)
6 センターハウジング
7 フロントハウジング
8 リアハウジング
9 吸入室
13 吐出室
14 吐出孔
15 一方向弁
16 スラストプレート
17 スラスト受け部
20 駆動軸
24 クランク
25 偏心ブッシュ
27 ボス部
30 自転阻止機構
31 円形穴
32 ピン
33 円板
33a 偏心穴
AOR 可動スクロールの旋回半径
LPOR 最大許容旋回半径
SPOR 最小許容旋回半径