特許第6207977号(P6207977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6207977ナノ粒子蛍光体およびナノ粒子蛍光体を含む光学デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207977
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】ナノ粒子蛍光体およびナノ粒子蛍光体を含む光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20170925BHJP
   C09K 11/70 20060101ALI20170925BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20170925BHJP
   C09K 11/56 20060101ALI20170925BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20170925BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20170925BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C09K11/08 G
   C09K11/70CPC
   C09K11/62
   C09K11/56
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   H05B33/14 Z
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-232151(P2013-232151)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-93881(P2015-93881A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葛本 恭崇
(72)【発明者】
【氏名】両輪 達也
(72)【発明者】
【氏名】和泉 真
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−209141(JP,A)
【文献】 特開2010−106119(JP,A)
【文献】 特表2008−519108(JP,A)
【文献】 特開2006−036866(JP,A)
【文献】 特開2011−012184(JP,A)
【文献】 特開2012−087220(JP,A)
【文献】 特開2003−064278(JP,A)
【文献】 特開2008−094968(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0173845(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C09K 11/56
C09K 11/62
C09K 11/70
H05B 33/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体からなるナノ粒子コアと、
前記ナノ粒子コアを被覆するシェル層と、
前記シェル層の外表面に結合された修飾有機化合物とを備え、
前記修飾有機化合物は、300nm以上400nm以下の波長領域のうちの少なくとも一部の波長領域に吸収を持つナノ粒子蛍光体であって、
前記修飾有機化合物は、シロキサン結合により前記シェル層の前記外表面に結合されている、ナノ粒子蛍光体
【請求項2】
前記修飾有機化合物は、分子内にπ共役構造を有する請求項1に記載のナノ粒子蛍光体。
【請求項3】
前記π共役構造は、芳香環を含む請求項に記載のナノ粒子蛍光体。
【請求項4】
前記ナノ粒子コアの外表面から前記修飾有機化合物の前記π共役構造までの距離が5nm以上である請求項またはに記載のナノ粒子蛍光体。
【請求項5】
前記化合物半導体は、第1の13族−15族化合物半導体であり、
前記シェル層は、前記第1の13族−15族化合物半導体、または、前記第1の13族−15族化合物半導体とは異なる13族−15族化合物半導体を含む請求項1〜のいずれか1項に記載のナノ粒子蛍光体。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のナノ粒子蛍光体を含む光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子蛍光体およびナノ粒子蛍光体を含む光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ナノ粒子は、その表面活性が高いことから、凝集しやすい。半導体ナノ粒子の凝集を防ぐために、半導体ナノ粒子を保護剤で修飾することが提案されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、光触媒能の減殺と有機物マトリクスへの分散性とが兼備された半導体ナノ粒子が記載されている。特許文献1に記載の半導体ナノ粒子では、半導体ナノ結晶コアと導電体シェルとからなるコアシェル型粒子の表面に、樹脂モノマーとの共重合性または樹脂マトリクスへの相溶性を有する有機化合物が結合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−64278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術を用いてナノ粒子蛍光体を構成すると、ナノ粒子蛍光体の発光効率が低下することが分かった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、凝集が防止され、発光効率に優れたナノ粒子蛍光体の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特許文献1に記載の技術を用いてナノ粒子蛍光体を構成した場合に当該ナノ粒子蛍光体の発光効率が低下する原因について鋭意検討し、紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が原因であると考えた。そこで、本発明のナノ粒子蛍光体は、化合物半導体からなるナノ粒子コアと、ナノ粒子コアを被覆するシェル層と、シェル層の外表面に結合された修飾有機化合物とを備える。修飾有機化合物は、300nm以上400nm以下の波長領域のうちの少なくとも一部の波長領域に吸収を持ち、好ましくは300nm以上400nm以下の波長領域のうちの少なくとも一部の波長領域にのみ吸収を持つ。
【0008】
修飾有機化合物は、分子内にπ共役構造を有することが好ましい。π共役構造は、芳香環を含むことが好ましい。
【0009】
ナノ粒子コアの外表面から修飾有機化合物のπ共役構造までの距離が5nm以上であることが好ましい。
【0010】
修飾有機化合物は、シロキサン結合によりシェル層の外表面に結合されていることが好ましい。
【0011】
化合物半導体は、第1の13族−15族化合物半導体であることが好ましい。シェル層は、第1の13族−15族化合物半導体、または、第1の13族−15族化合物半導体とは異なる13族−15族化合物半導体を含むことが好ましい。化合物半導体は、第1の光を吸収して第1の光よりも波長が長い第2の光を発生させることが好ましい。
【0012】
本発明の光学デバイスは、本発明のナノ粒子蛍光体を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明のナノ粒子蛍光体では、凝集が防止され、発光効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態のナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態のナノ粒子蛍光体のエネルギーバンド構造を示す図である。
図3】本発明の一実施形態のナノ粒子蛍光体を含む蛍光体シートの断面図である。
図4】実施例1におけるナノ粒子蛍光体の構造とそのエネルギーバンド構造とを示す図である。
図5】実施例2のナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。
図6】実施例3のナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。
図7】実施例4のナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。
図8】実施例5のナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のナノ粒子蛍光体および光学デバイスについて図面を用いて説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。
【0016】
<ナノ粒子蛍光体の構造>
図1は、本発明の実施形態のナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。本実施形態のナノ粒子蛍光体10は、ナノ粒子コア11と、ナノ粒子コア11を被覆するシェル層13と、シェル層13の外表面に結合された修飾有機化合物16とを備える。修飾有機化合物16は、300nm以上400nm以下の波長領域の少なくとも一部の波長領域に吸収を持つ。これにより、凝集が防止され、発光効率に優れたナノ粒子蛍光体10を提供することができる。
【0017】
詳細には、本実施形態のナノ粒子蛍光体10では、修飾有機化合物16がシェル層13の外表面に結合されている。これにより、ナノ粒子蛍光体10同士が隔離され易くなり、よって、ナノ粒子蛍光体10の分散性が高くなる。したがって、ナノ粒子蛍光体10の凝集を防止することができる。
【0018】
図2は、ナノ粒子蛍光体10のエネルギーバンド構造を示す図である。修飾有機化合物16は、300nm以上400nm以下の波長領域の少なくとも一部の波長領域に吸収を持つ。そのため、波長が300nm以上400nm以下である光を含む励起光(第1光)がナノ粒子蛍光体10に照射されたときには、波長が300nm以上400nm以下である光の一部が修飾有機化合物16に吸収される。これにより、ナノ粒子コア11への紫外線の照射量が減少するので、紫外線の照射によるナノ粒子コア11の劣化を防止できる。よって、ナノ粒子蛍光体10の発光効率の低下を防止できる。「紫外線」は、波長が可視光よりも短い光を意味し、波長が400nm以下である光を意味する。
【0019】
励起光のうち修飾有機化合物16に吸収されなかった光は、ナノ粒子コア11およびシェル層13のうちの少なくとも1つに吸収される。これにより、ナノ粒子コア11内の電子は、価電子帯から伝導帯へ遷移する。遷移後、一定時間が経過してから上記電子が伝導帯から価電子帯へ戻るときに、伝導帯の準位と価電子帯の準位とのエネルギー差に相当する波長の光(第2光)が発生する(ナノ粒子蛍光体10の発光)。
【0020】
さらに、図2に示すようにシェル層13の方がナノ粒子コア11よりもバンドギャップエネルギー差が大きい場合には、シェル層13は、ナノ粒子コア11における励起キャリアの閉じ込め効果に寄与する。これにより、発光効率が高くなる。
【0021】
本明細書では、「ナノ粒子」は、直径が数百pm以上数十μm以下である粒子を指すものとする。粒子の直径は、たとえば走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡などを用いて高倍率の観察像で格子像を観察することによって見積もることができる。
【0022】
<ナノ粒子コア>
ナノ粒子コア11は、化合物半導体からなる。「化合物半導体」とは、2種以上の原子が共有結合またはイオン結合により結合されてなる半導体を意味する。
【0023】
ナノ粒子コア11は、13族−15族化合物半導体からなることが好ましい。「13族−15族化合物半導体」とは、13族元素(B、Al、Ga、In、Tl)と15族元素(N、P、As、Sb、Bi)とがイオン結合により結合されてなる半導体を意味する。ナノ粒子コア11に用いられる13族−15族化合物半導体は、たとえば、InN、InP、InGaN、InGaP、AlInN、AlInP、AlGaInNおよびAlGaInPの少なくとも1つであることが好ましく、InN、InP、InGaNおよびInGaPの少なくとも1つであることがより好ましい。
【0024】
ナノ粒子コア11に用いられる13族−15族化合物半導体は、意図しない不純物を含んでいてもよいし、1×1016cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度であれば意図的に添加された不純物を含んでいてもよい。13族−15族化合物半導体に意図的に不純物を添加する場合には、2族元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、ZnまたはSiのいずれかをドーパントとして用いることが好ましく、これらの中でもMg、ZnまたはSiのいずれかをドーパントとして用いることがより好ましい。
【0025】
このような13族−15族化合物半導体は、第1光を吸収して第2光(第1光よりも波長が長い)を発生させ、可視光を発するようなバンドギャップエネルギーを有する。ナノ粒子コア11の平均粒子径またはナノ粒子コア11における混晶比を制御することにより、ナノ粒子コア11の発光波長を任意の可視光領域の波長に調整することができる。
【0026】
ナノ粒子コア11に用いられる13族−15族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、ナノ粒子蛍光体10の発光波長によっても異なるが、1.8eV以上2.8eV以下であることが好ましい。より具体的に説明すると、ナノ粒子蛍光体10を赤色蛍光体として用いる場合、13族−15族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは1.85eV以上2.5eV以下であることが好ましい。ナノ粒子蛍光体10を緑色蛍光体として用いる場合、13族−15族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、2.3eV以上2.5eV以下であることが好ましい。ナノ粒子蛍光体10を青色蛍光体として用いる場合、13族−15族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、2.65eV以上2.8eV以下であることが好ましい。
【0027】
ナノ粒子コア11の平均粒子径は、ボーア半径の2倍以下であることが好ましい。「ボーア半径」は、励起子の存在確率の広がりを示し、下記の数式(1)で表される。
y=4πεh2・me2・・・式(1)
式(1)中において、yはボーア半径を表わし、εは誘電率を表わし、hはプランク定数を表わし、mは有効質量を表わし、eは電荷素量を表わす。
【0028】
ナノ粒子コア11の平均粒子径がボーア半径の2倍以下であれば、ナノ粒子蛍光体10の発光強度が非常に高くなる。なお、ナノ粒子コア11の平均粒子径がボーア半径の2倍以下であれば、量子サイズ効果により13族−15族化合物半導体のバンドギャップが広がる傾向がある。この場合でも、ナノ粒子コア11に用いられる13族−15族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、1.8eV以上2.8eV以下であることが好ましい。ナノ粒子コア11の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡を用いて高倍率の観察像で格子像を観察することによって見積もることができる。
【0029】
ナノ粒子コア11の平均粒子径とシェル層13の厚さとの合計(以下では「シェル層13で被覆されたナノ粒子コア11の平均粒子径」と記す。)は、0.1nm以上10μm以下であることが好ましく、0.5nm以上1μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは1nm以上20nm以下である。シェル層13で被覆されたナノ粒子コア11の平均粒子径が0.1nm以上であれば、ナノ粒子蛍光体10の製造時におけるナノ粒子コア11の凝集を防止できる。シェル層13で被覆されたナノ粒子コア11の平均粒子径が10μm以下であれば、ナノ粒子コア11の表層での励起光の散乱を防止できるので、ナノ粒子蛍光体10の発光効率の低下をさらに防止できる。
【0030】
<シェル層>
シェル層13は、ナノ粒子コア11の結晶構造を引き継いで形成される化合物半導体層であることが好ましく、ナノ粒子コア11を成長の核としてナノ粒子コア11の外表面に結晶成長されてなる化合物半導体層であることがより好ましい。たとえば、ナノ粒子コア11の外表面には、未結合手を有する13族元素または15族元素が配列されており、その未結合手には、シェル層13に含まれる元素が化学結合されている。
【0031】
シェル層13に用いられる化合物半導体は、13族−15族化合物半導体および12族−16族化合物半導体のうちの少なくとも1つであることが好ましく、13族−15族化合物半導体であることが好ましい。シェル層13に用いられる13族−15族化合物半導体は、ナノ粒子コア11に用いられる13族−15族化合物半導体とは同一であっても良いし異なっても良く、たとえば、GaAs、GaP、GaN、GaSb、InAs、InP、InN、InSb、AlAs、AlP、AlSbおよびAlNの少なくとも1つであることが好ましい。シェル層13に用いられる12族−16族化合物半導体は、たとえば、ZnO、ZnS、ZnSeおよびZnTeの少なくとも1つであることが好ましい。
【0032】
ナノ粒子コア11の平均粒子径に応じてシェル層13の厚さを決定することが好ましい。たとえばナノ粒子コア11の平均粒子径が2〜6nmと見積もられる場合、シェル層13の厚さは0.1nm〜10nmの範囲内であることが好ましい。シェル層13の厚さが0.1nm以上であれば、ナノ粒子コア11の外表面がシェル層13で十分に被覆されるので、ナノ粒子コア11をシェル層13で均一に保護できる。シェル層13の厚さが10nm以下であれば、シェル層13の厚さが均一となるので、シェル層13の外表面における欠陥の増加を防止できる。
【0033】
より好ましくは、シェル層13の厚さは5nm以上10nm以下である。シェル層13の厚さが5nm以上であれば、ナノ粒子コア11の外表面から修飾有機化合物16のπ共役構造までの距離が5nm以上となる。このことについては後述する。
【0034】
シェル層13の厚さは、透過型電子顕微鏡を用いて高倍率の観察像で格子像を観察することによって見積もることができる。シェル層13の厚さは、ナノ粒子コア11の粒子数とシェル層13の原料との混合比に比例する。
【0035】
シェル層13は、単層構造に限定されず、2以上の層を含む積層構造であっても良い。シェル層13を積層構造にすることにより、ナノ粒子コア11をシェル層13で確実に被覆できる。シェル層13が積層構造である場合、シェル層13の厚さは、ナノ粒子コア11の粒子数と積層構造を構成する原料との混合比に比例して厚くなる。
【0036】
<修飾有機化合物>
修飾有機化合物16は、300nm以上400nm以下の波長領域の少なくとも一部の波長領域にのみ吸収を持つことが好ましく、分子内に、π共役構造と、シェル層13の外表面に結合される官能基とを含むことが好ましい。
【0037】
修飾有機化合物16に含まれるπ共役構造は、波長が300nm以上400nm以下である光を吸収することができる。これにより、修飾有機化合物16は、300nm以上400nm以下の波長領域のうちの少なくとも一部の波長領域に吸収を持つこととなる。
【0038】
「π共役構造」とは、一重結合と二重結合または三重結合とが交互に並んでなる構造を意味し、たとえば芳香環を含むことが好ましい。「芳香環」とは、環上のπ電子系に含まれる電子の数が4n+2(n=0,1,2,3,・・・)個である共役不飽和環構造を意味し、たとえばベンゼン環、ナフタレン環またはアントラセン環などである。このようなπ共役構造を含む修飾有機化合物16としては、たとえば、アントラセンまたはターフェニル(terphenyl)などが挙げられる。なお、π共役構造は、目的に応じて、波長が400nmよりも長い光の一部を吸収可能な構造であっても良い。
【0039】
また、修飾有機化合物16はシェル層13の外表面に結合される官能基を分子内に含むので、シェル層13の外表面に位置するダングリングボンドが修飾有機化合物16によりキャッピングされる。これにより、シェル層13の外表面における欠陥が抑制されるので、ナノ粒子コア11の発光効率が高くなる。
【0040】
このような官能基は、たとえば、チオール基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アルコキシシリル基、または、クロロシリル基などであることが好ましい。これにより、修飾有機化合物16は、チオール結合、ホスホン酸結合、エステル結合またはシロキサン結合などにより、シェル層13の外表面に結合される。
【0041】
より好ましくは、第1官能基がアルコキシシリル基またはクロロシリル基である。これにより、修飾有機化合物16はシロキサン結合によりシェル層13の外表面に結合され、紫外線の照射によるナノ粒子コア11の劣化がさらに抑制される。
【0042】
上述のπ共役構造と上述の官能基とを分子内に含む修飾有機化合物は、たとえば、(9-phenanthrenyl)triethoxysilane、(1,1':4',1''-terphenyl)-4-thiol、anthracene-2-thiol、または、(9-phosphono)anthraceneなどである。
【0043】
ナノ粒子コア11の外表面から修飾有機化合物16のπ共役構造までの距離は5nm以上であることが好ましい。波長が300nm以上400nm以下である光が修飾有機化合物16で吸収されると、キャリアが生じる。上記距離が5nm以上であれば、生じたキャリアがトンネリングによってナノ粒子コア11へ移動することを防止できるので、当該キャリアによるナノ粒子コア11の劣化を防止することができる。また、上記距離が10nm以下であれば、ナノ粒子蛍光体10の大型化を防止することができる。
【0044】
上記「距離」は、ナノ粒子コア11の外表面と、修飾有機化合物16のπ共役構造のうちナノ粒子コア11側に位置する部位との距離を意味する。そのため、「上記距離が5nm以上であることが好ましい」を換言すると、「シェル層13の厚さとシェル層13の厚さ方向における第1官能基の長さとの合計が5nm以上であることが好ましい」となる。次に示す方法にしたがって上記距離を見積もることができる。透過型電子顕微鏡を用いて高倍率の観察像で格子像を観察することによりシェル層13の厚さを見積もり、量子化学計算などによるシミュレーションによりシェル層13の厚さ方向における修飾有機化合物16の第1官能基の長さを見積もり、これらの値を合計することにより上記距離を見積もることができる。
【0045】
<ナノ粒子蛍光体の製造>
本実施形態のナノ粒子蛍光体10の製造方法は、特に制限されず、いかなる製造方法であっても良い。手法が簡便であり、且つ、低コストであるという観点では、ナノ粒子蛍光体10の製造方法として化学合成法を用いることが好ましい。化学合成法では、生成物質の構成元素を含む複数の出発物質を媒体に分散させた上で、これらを反応させることにより目的の生成物質を得ることができる。このような化学合成法としては、たとえば、ゾルゲル法(コロイド法)、ホットソープ法、逆ミセル法、ソルボサーマル法、分子プレカーサ法、水熱合成法、または、フラックス法などが挙げられる。化合物半導体材料からなるナノ粒子コアを好適に製造できるという観点では、ホットソープ法を用いることが好ましい。以下では、ホットソープ法によるナノ粒子蛍光体10の製造方法の一例を示す。
【0046】
まず、ナノ粒子コア11を液相合成する。たとえばInNからなるナノ粒子コア11を製造する場合、フラスコなどに1−オクタデセン(合成用溶媒)を満たし、トリス(ジメチルアミノ)インジウムとヘキサデカンチオール(HDT)とを混合する。この混合液を十分に攪拌した後、180〜500℃で反応させる。これにより、InNからなるナノ粒子コア11が得られ、得られたナノ粒子コア11の外表面にはHDTが結合されている。なお、シェル層13の成長後にHDTを添加しても良い。
【0047】
ホットソープ法に用いられる合成用溶媒は、炭素原子および水素原子からなる化合物溶液(以下、「炭化水素系溶媒」という。)であることが好ましい。これにより、合成用溶媒への水または酸素の混入が防止されるので、ナノ粒子コア11の酸化が防止される。炭化水素系溶媒は、たとえば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、または、p−キシレンなどであることが好ましい。
【0048】
ホットソープ法では、原理的には、反応時間が長いほどナノ粒子コア11の粒子径が大きくなる。よって、フォトルミネッセンス、光吸収、または、動的光散乱などにより粒子径をモニタしながら液相合成することにより、ナノ粒子コア11のサイズを所望のサイズに制御することができる。
【0049】
次に、ナノ粒子コア11を含む溶液に、シェル層13の原材料である反応試薬を加え、加熱反応させる。これにより、ナノ粒子蛍光体の出発物質が得られる。得られたナノ粒子蛍光体の出発物質では、ナノ粒子コア11の外表面がシェル層13で被覆されており、HDTがシェル層13の外表面に結合されている。
【0050】
続いて、ナノ粒子蛍光体の出発物質を含む溶液に修飾有機化合物16を添加し、室温〜300℃で反応させる。これにより、ナノ粒子コア11の外表面とHDTとの結合が解除されて、修飾有機化合物16がナノ粒子コア11の外表面に結合される。このようにして本実施形態のナノ粒子蛍光体10が得られる。
【0051】
なお、ナノ粒子コア11を製造するときにHDTの代わりに修飾有機化合物16を添加しても良い。このようにしてナノ粒子蛍光体10を得る場合には、シェル層13の形成後に修飾有機化合物16を添加しなくても良い。
【0052】
<光学デバイス>
図3は、本実施形態のナノ粒子蛍光体10を含む蛍光体シート20の断面図である。本実施形態のナノ粒子蛍光体10は分散性に優れるので、ナノ粒子蛍光体10を樹脂21中で分散させることができる。また、本実施形態のナノ粒子蛍光体10では、紫外線の照射によるナノ粒子コア11の劣化を防止できる。よって、本実施形態のナノ粒子蛍光体10を様々な光学デバイスへ応用させることができる。また、樹脂21として光硬化性樹脂を使用することができる。
【0053】
より具体的には、紫外線を含む光(たとえば太陽光)が照射される場所にナノ粒子蛍光体10を配置することができるので、ナノ粒子蛍光体10をたとえば太陽電池の波長変換材料として用いることができる。また、ナノ粒子蛍光体10をディスプレイの蛍光体材料として用いれば、ディスプレイのうち外光が照射される位置に蛍光体部を配置することができる。よって、デバイス設計の自由度が高くなる。また、樹脂21として光硬化性樹脂を使用できるので、デバイスの製造プロセス面での自由度も高くなる。ナノ粒子蛍光体10を含む蛍光体シート20を波長変換材料または蛍光体材料として用いることができる。
【0054】
「光学デバイス」とは、本明細書では、第1光を吸収して第2光(第1光よりも長波長の光)を発生させるという光エネルギー変換部を備えたデバイスを意味し、たとえば液晶ディスプレイ、LED照明装置、または、波長変換層を備えた太陽電池などである。
【0055】
以上説明したように、本実施形態のナノ粒子蛍光体10は、化合物半導体からなるナノ粒子コア11と、ナノ粒子コア11を被覆するシェル層13と、シェル層13の外表面に結合された修飾有機化合物16とを備える。修飾有機化合物16は、300nm以上400nm以下の波長領域のうちの少なくとも一部の波長領域に吸収を持ち、好ましくは300nm以上400nm以下の波長領域のうちの少なくとも一部の波長領域にのみ吸収を持つ。これにより、凝集が防止され、発光効率に優れたナノ粒子蛍光体10が得られる。
【0056】
修飾有機化合物16は、分子内にπ共役構造を有することが好ましい。π共役構造は、芳香環を含むことが好ましい。これにより、修飾有機化合物16は、300nm以上400nm以下の波長領域のうちの少なくとも一部の波長領域に吸収を持つこととなる。
【0057】
ナノ粒子コア11の外表面から修飾有機化合物16のπ共役構造までの距離が5nm以上であることが好ましい。これにより、波長が300nm以上400nm以下である光が修飾有機化合物16で吸収されたことにより生じたキャリアが、トンネリングによってナノ粒子コア11へ移動することを防止できる。
【0058】
修飾有機化合物16は、シロキサン結合によりシェル層13の外表面に結合されていることが好ましい。これにより、発光効率にさらに優れたナノ粒子蛍光体が得られる。
【0059】
化合物半導体は、第1の13族−15族化合物半導体であることが好ましい。シェル層13は、第1の13族−15族化合物半導体、または、第1の13族−15族化合物半導体とは異なる13族−15族化合物半導体を含むことが好ましい。化合物半導体は、第1の光を吸収して第1の光よりも波長が長い第2の光を発生させることが好ましい。これにより、本発明の効果を有効に得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
実施例1では、InPからなるナノ粒子コアとZnSからなるシェル層と(9-phenanthrenyl)triethoxysilane(PTS)からなる修飾有機化合物とを含むナノ粒子蛍光体を製造し、その量子効率を測定した。図4は、実施例1におけるナノ粒子蛍光体の構造とそのエネルギーバンド構造とを示す図である。なお、図4では、HDTを簡略化している。また、図4の「Et」はエチル基(C25−)を表わす。図5図8においても同様である。以下では、BがAを被覆していることを「A/B」と記す。そのため、本実施例のナノ粒子蛍光体を「InP/ZnS/PTS」と記載することができる。
【0062】
まず、InPからなるナノ粒子コアとZnSからなるシェル層とHDTとからなるナノ粒子蛍光体の出発物質(図4左側)を含むトルエン溶液を準備した。HDTはシェル層の外表面に結合されていた。
【0063】
次に、ナノ粒子蛍光体の出発物質1molに対してPTSが5molとなるように、上記トルエン溶液にPTSを加えた。70℃で3時間、窒素雰囲気中で、PTSとナノ粒子蛍光体の出発物質とを反応させた。これにより、HDTがシェル層の外表面から除去され、PTS(350nm以下の波長領域の光を吸収)がシェル層の外表面に結合された。
【0064】
続いて、有機溶媒での洗浄処理を行うことにより、シェル層の外表面から除去されたHDTと未反応のPTSとを上記トルエン溶液から除去した。その後、乾燥処理を行って、本実施例のナノ粒子蛍光体(図4右側)を得た。
【0065】
ナノ粒子蛍光体の出発物質と本実施例のナノ粒子蛍光体とに対して、量子効率を測定した。その後、ナノ粒子蛍光体の出発物質および本実施例のナノ粒子蛍光体に対して紫外線を1時間、連続照射してから、量子効率を測定した。ナノ粒子蛍光体の出発物質では、紫外線を照射した後の量子効率は紫外線を照射する前の量子効率に対して70%であった。一方、本実施例のナノ粒子蛍光体では、紫外線を照射した後の量子効率は紫外線を照射する前の量子効率に対して91%であった。このような結果から、本実施例のナノ粒子蛍光体では紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が抑制されたと言える。
【0066】
かかる結果が得られた理由として、次に示すことが考えられる。ナノ粒子蛍光体の出発物質(図4左側)に含まれるHDTは紫外線を吸収しない。そのため、ナノ粒子蛍光体の出発物質に紫外線を照射すると、その紫外線は、HDTなどに吸収されることなくナノ粒子コアに照射される。一方、本実施例のナノ粒子蛍光体(図4右側)に紫外線を照射すると、その紫外線の一部がPTSに吸収されるので、ナノ粒子コアへの紫外線の照射量が減少する。よって、本実施例のナノ粒子蛍光体では紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が防止された。
【0067】
<実施例2>
実施例2では、ナノ粒子コアがInNからなりシェル層がGaNからなることを除いては実施例1に記載の方法にしたがってナノ粒子蛍光体を製造した。図5は、本実施例のナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。
【0068】
まず、HDT2molに対してトリス(ジメチルアミノ)インジウムが1molとなるように、HDTを含む1−オクタデセン溶液中でトリス(ジメチルアミノ)インジウムを熱分解させた。これにより、InNからなるナノ粒子コアを得た。
【0069】
次に、トリス(ジメチルアミノ)インジウム1molに対してトリス(ジメチルアミノ)ガリウムが7molとなるように、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムを含む1−オクタデセン溶液をナノ粒子コアを含む1−オクタデセン溶液に加えて反応させた。これにより、InN/GaN/HDTからなるナノ粒子蛍光体の出発物質を得た。
【0070】
続いて、トリス(ジメチルアミノ)インジウム1molに対してPTSが5molとなるように、PTSを上記混合溶液に加えた。70℃で3時間反応させることによりHDTとPTSとを置換し、よって、InN/GaN/PTSからなるナノ粒子蛍光体(本実施例のナノ粒子蛍光体)を得た。
【0071】
実施例1に記載の方法にしたがって量子効率を測定した。ナノ粒子蛍光体の出発物質では、紫外線を照射した後の量子効率は紫外線を照射する前の量子効率に対して60%であった。一方、本実施例のナノ粒子蛍光体では、紫外線を照射した後の量子効率は紫外線を照射する前の量子効率に対して89%であった。このような結果から、ナノ粒子コアの材料がInNでありシェル層の材料がGaNであっても紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が抑制されたと言える。かかる結果が得られた理由としては上記実施例1に記載のことが考えられる。
【0072】
<実施例3>
実施例3では、修飾有機化合物が(9-phosphono)anthracene(PA)でありシェル層とPAとの反応温度を120℃としたことを除いては実施例1に記載の方法にしたがってナノ粒子蛍光体を製造した。これにより、図6に示すナノ粒子蛍光体を得た。図6は、本実施例のナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。PAは、350nm以下の波長領域の光を吸収する。
【0073】
実施例1に記載の方法にしたがって量子効率を測定した。ナノ粒子蛍光体の出発物質では、紫外線を照射した後の量子効率は紫外線を照射する前の量子効率に対して70%であった。一方、本実施例のナノ粒子蛍光体では、紫外線を照射した後の量子効率は紫外線を照射する前の量子効率に対して85%であった。このような結果から、修飾有機化合物がPAであっても紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が抑制されたと言える。かかる結果が得られた理由としては上記実施例1に記載のことが考えられる。
【0074】
表1には、実施例1と本実施例との比較結果を示す。表1から分かるように、本実施例よりも、実施例1の方が、紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が抑制された。この理由としては、本実施例では、PAがホスホン酸結合によりシェル層の外表面に結合されていたのに対し、実施例1では、PTSがシロキサン結合によりシェル層の外表面に結合されていたことが考えられる。このような結果から、修飾有機化合物はシロキサン結合によりシェル層の外表面に結合されていることが好ましいと言える。
【0075】
【表1】
【0076】
<実施例4>
実施例4では、HDTの代わりに(1,1':4',1''-terphenyl)-4-thiol(TPT)を用いHDTとPTSとの置換反応を行なわなかったことを除いては実施例2に記載の方法にしたがってナノ粒子蛍光体を製造した。これにより、図7に示すように、修飾有機化合物がTPTであるナノ粒子蛍光体が得られた。図7は、本実施例のナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。TPTは、380nm以下の波長領域の光を吸収する。
【0077】
実施例1に記載の方法にしたがって量子効率を測定した。本実施例のナノ粒子蛍光体では、紫外線を照射した後の量子効率は紫外線を照射する前の量子効率に対して81%であった。このような結果から、修飾有機化合物がTPTであっても紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が抑制されたと言える。かかる結果が得られた理由としては上記実施例1に記載のことが考えられる。
【0078】
表2には、実施例2と本実施例との比較結果を示す。表2から分かるように、本実施例よりも、実施例2の方が、紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が抑制された。この理由としては、本実施例では、PAがチオール結合によりシェル層の外表面に結合されていたのに対し、実施例2では、PTSがシロキサン結合によりシェル層の外表面に結合されていたことが考えられる。このような結果からも、修飾有機化合物はシロキサン結合によりシェル層の外表面に結合されていることが好ましいと言える。
【0079】
【表2】
【0080】
<実施例5>
ナノ粒子コアとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムとの反応時間を半分としたことを除いては実施例2に記載の方法にしたがってナノ粒子蛍光体を製造した。これにより、図8に示すナノ粒子蛍光体が得られた。図8は、本実施例のナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。
【0081】
実施例1に記載の方法にしたがって量子効率を測定した。本実施例のナノ粒子蛍光体では、紫外線を照射した後の量子効率は紫外線を照射する前の量子効率に対して79%であった。このような結果から、ナノ粒子コアとシェル層材料との反応時間を変更しても紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が抑制されたと言える。かかる結果が得られた理由としては上記実施例1に記載のことが考えられる。
【0082】
表3には、実施例2と本実施例との比較結果を示す。表3から分かるように、本実施例よりも、実施例2の方が、紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が抑制された。この理由として次に示すことが考えられる。透過型電子顕微鏡を用いて高倍率の観察像で格子像を観察すると、シェル層の厚さは、本実施例では4nm程度であったのに対し、実施例2では9nm程度であった。実施例2および本実施例では、PTSがシロキサン結合によりシェル層の外表面に結合されており、シェル層の径方向におけるシロキサン結合部の長さは0.3nm程度であると考えられる。よって、ナノ粒子コアの外表面からπ共役構造までの距離は、本実施例では4.3nm程度であると考えられ、実施例2では9.3nm程度であると考えられる。これにより、本実施例よりも実施例2の方が紫外線の照射によるナノ粒子コアの劣化が抑制されたと考えられる。このような結果から、ナノ粒子コアの外表面からπ共役構造までの距離は5nm以上であることが好ましいと言える。
【0083】
【表3】
【0084】
<実施例6>
実施例6では、実施例1のナノ粒子蛍光体をアクリル樹脂に分散させて蛍光体シートを製造した。
【0085】
まず、実施例1で得られたInP/ZnS/PTSのナノ粒子蛍光体を光硬化性のメタアクリレート系樹脂材料に混合した。次に、紫外光を照射して上記樹脂を硬化させた。これにより、本実施例の蛍光体シートを得た。
【0086】
得られた蛍光体シートは、紫外光を照射する前に比べて、その発光効率に遜色なく、色みのムラが少なかった。
【0087】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
10 ナノ粒子蛍光体、11 ナノ粒子コア、13 シェル層、16 修飾有機化合物、20 蛍光体シート、21 樹脂。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8