(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100質量部中、遊離石灰10〜70質量部、水硬性化合物10〜50質量部、無水石膏10〜60質量部である熱処理物と窒素ガス発泡物質を含有してなるセメント混和材。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する部や%は特に規定のない限り質量基準である。
また、本発明のセメント硬化体とは、セメントペースト、セメントモルタル、およびセメントコンクリートの硬化体を総称するものである。
【0009】
ガス発泡物質の具体例としては、例えば、アルミ粉、過炭酸塩、窒素ガス発泡物質、過硫酸塩、過ホウ酸塩および過マンガン酸塩などの過酸化物質などが挙げられる。
本発明では、窒素ガス発砲物質を用いることが、初期強度発現性と凍結融解抵抗性の向上が大きいことから好ましい。ここで、窒素ガス発砲物質とは、アゾ化合物、ニトロソ化合物、およびヒドラジン誘導体からなる群から選ばれた一種または二種以上が使用可能であり、例えば、アゾ化合物としては、アゾジカルボンアミドやアゾビスイソブチルニトリルなどが挙げられ、ニトロソ化合物としては、N,N’−ジニトロペンタメチレンテトラミンなどが挙げられ、ヒドラジン誘導体としては、4,4’−オキシビスやヒドラジンカルボンアミドが挙げられ、本発明では、これらの一種または二種以上が使用可能であり、特にアゾ化合物であるアゾジカルボンアミドを使用することが好ましい。これらの窒素ガス発砲物質は、塩基性のセメントが水と練混ぜた際にそのアルカリ性雰囲気で窒素ガスを発生するもので、一酸化炭素、二酸化炭素、およびアンモニアなどのガスを副生してもよい。
【0010】
窒素ガス発泡物質の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、セメント混和材100部中、0.1〜10部が好ましく、0.5〜5部がより好ましい。それぞれ、好ましい範囲の下限値未満では、充分な凍結融解抵抗性を付与することができない場合があり、好ましい範囲の上限値を超えて使用すると、強度発現性が低下する傾向がある。
また、窒素ガス発泡物質をセメント混和材に配合する際、熱処理物とボールミルや振動ミルなどで混合粉砕することで凍結融解抵抗性が向上することから好ましい。
【0011】
本発明のセメント混和材に使用される熱処理物とは、CaO原料、CaSO
4原料、さらに、Al
2O
3原料、Fe
2O
3原料、SiO
2原料の中から選ばれる少なくとも1種の原料を混合したものを熱処理して得られる。
【0012】
本発明で云う遊離石灰とは、通常f−CaOと呼ばれるものである。
本発明で云う水硬性化合物とは、3CaO・3Al
2O
3・CaSO
4で表されるyeelimite(アウインとも称される)、3CaO・SiO
2(C
3Sと略記)や2CaO・SiO
2(C
2Sと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3(C
4AFと略記)や6CaO・2Al
2O
3・Fe
2O
3(C
6A
2Fと略記)、6CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3(C
6AFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe
2O
3(C
2Fと略記)などのカルシウムフェライトなどであり、これらのうちの1種または2種以上を含むことが好ましい。
本発明で云う無水石膏とは、CaSO
4として表されるものである。
【0013】
CaO原料としては石灰石や消石灰などが挙げられ、Al
2O
3原料としてはボーキサイトやアルミ残灰などが挙げられ、Fe
2O
3原料としては銅カラミや市販の酸化鉄などが挙げられ、SiO
2原料としては珪石などが挙げられ、CaSO
4原料としては二水石膏、半水石膏および無水石膏などが挙げられる。
これら原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物としては、MgO、TiO
2、ZrO
2、MnO、P
2O
5、Na
2O、K
2O、Li
2O、硫黄、フッ素、塩素などが挙げられる。
【0014】
本発明において、CaO原料と、CaSO
4原料と、さらに、Al
2O
3原料、Fe
2O
3原料、およびSiO
2原料の中から選ばれる少なくとも1種の原料とを混合したものを熱処理する方法は、特に限定されるものではないが、電気炉やキルンなどを用いて、1000〜1600℃の温度で焼成することが好ましく、1200〜1500℃がより好ましい。1000℃未満では、練り混ぜ直後のコンクリートの流動性の確保が難しい場合や初期強度の発現性が充分でない場合があり、1600℃を超えると無水石膏が分解する場合や初期強度の発現性が不十分になる場合がある。
【0015】
熱処理物の各鉱物の割合は、以下の範囲であることが好ましい。
遊離石灰の含有量は、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100部中、10〜70部が好ましく、20〜60部がより好ましい。水硬性化合物の含有量は、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100部中、10〜50部が好ましく、20〜30部がより好ましい。無水石膏の含有量は、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100部中、10〜60部が好ましく20〜50部がより好ましい。
【0016】
各鉱物の含有量は、従来一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉砕した試料を粉末X線回折装置にかけ、生成鉱物を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、鉱物を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物量を計算によって求めることもできる。
【0017】
本発明の熱処理物を含有してなるセメント混和材の粉末度は、ブレーン比表面積で2500〜9000cm
2/gが好ましく、3500〜9000cm
2/gがより好ましい。2500cm
2/g未満では、初期強度の増進が不十分の場合や長期に亘って後膨張して強度が低下する場合がある。また、9000cm
2/gを超えるとコンクリートの流動性が低下する場合がある。
【0018】
本発明で使用するグリセリンは、化学式でC
3H
8O
3、化学名1,2,3-プロパントリオールまたはグリセロールで表される化合物である。
【0019】
セメント混和材に添加するグリセリンの割合は、特に限定されるものではないが、熱処理物と窒素ガス発泡物質とグリセリンの合計100部中、好ましくは0.1〜10部であり、より好ましくは1〜5部である。0.1部未満では硬化体の初期強度の増進効果などが得られない場合があり、10部を超えると混練り物の流動性が悪くなる場合がある。
【0020】
本発明のセメント混和材の使用量は、配合によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、セメントと早期脱型材からなるセメント組成物100部中、2〜15部が好ましく、5〜12部がより好ましい。前記範囲外では、圧縮強度の増進効果が小さくなる場合がある。
【0021】
微粒子生石灰としては、石灰石や消石灰を焼成して生石灰としたものを粉砕して使用することが可能であり、平均粒子径は20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。
微粒子無水石膏としては、天然無水石膏、ニ水石膏、半水石膏などを粉砕して使用することが可能であり、平均粒子径は20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。
微粒子生石灰および/または微粒子無水石膏を置換配合する割合は、特に限定されるものではないが、通常、熱処理物と微粒子生石灰および/または微粒子無水石膏の合計100部中、60部以下が好ましい。60部を超えて置換すると混練り物の流動性が低下して型枠に充填することが困難になる場合や、硬化体の初期強度が逆に低下する場合がある。
なお、微粒子生石灰や微粒子無水石膏の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計を用い、超音波装置を用いて分散させた状態で測定を行う。
【0022】
本発明では減水剤を併用できる。減水剤はセメントに対する分散作用や空気連行作用を有し、流動性改善や強度増進するものの総称であり、具体的には、ナフタレンスルホン酸系減水剤、メラミンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、およびポリカルボン酸系減水剤などが挙げられるが、特には限定されるものではない。これらの中では、効果が大きい点で、リグニンスルホン酸系減水剤が好ましい。
【0023】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ、または石灰石微粉などを混合した各種混合セメント、ならびに、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメントなどが挙げられる。これらの中では、練り混ぜ性および強度発現性の点で、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントが好ましい。
【0024】
本発明では、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、パルプスラッジ焼却灰などの混和材料、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ポリマー、凝結調整剤、ベントナイトなどの粘土鉱物、ならびに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの1種または2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0025】
本発明で使用する練り混ぜ水量は、特に限定されるものではないが、通常、水/セメント組成物比で25〜70%が好ましく、30〜50%がより好ましい。これらの範囲外では施工性が大きく低下したり、強度が低下したりする場合がある。
【0026】
以下に実験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実験例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
「実験例1」
CaO原料、CaSO
4原料、Al
2O
3原料を調合して、使用材料に示すような所定の鉱物組成となるように原料を混合し、電気炉を用いて1350℃で熱処理し、熱処理物を調製した。この熱処理物と表1に示す量の窒素ガス発泡物質とグリセリンを合計100部となるように、ボールミルで混合粉砕または混合してセメント混和材を調製した。さらに、微粒子生石灰と微粒子無水石膏を配合したセメント混和材を調製した。
なお、混合粉砕はボールミルを用い、熱処理物の粉砕と同時に行った。
また、混合はレーディゲミキサーで行ない、粉砕された熱処理物と窒素ガス発泡物質とを混合した。
セメントに高炉セメントB種を用い、単位水量145kg/m
3、単位セメント量440kg/m
3、減水剤2.5kg/m
3、s/a39.4%、空気量4.5%をコンクリートの基本配合とした。空気量はAE剤の添加量で調整した。セメント混和材はセメントに内割で置換する形で20kg/m
3配合し、配合しないものも比較で試験した。混練水には水道水を使用した。なお減水剤はあらかじめ混練水に添加した。
このコンクリートを5℃環境で練り混ぜ、型枠に充填し、テーブルバイブレーターを用いて振動成形を行ない、20℃で1時間の前置時間を確保した後、20℃/hrで昇温し、60℃で2時間の蒸気養生を行った。その後、材齢6hrで脱型し、28日間水中養生を行った後、圧縮強度および凍結融解抵抗性試験を実施した。
【0028】
<使用材料>
水:水道水。
分散剤:ナフタレンスルホン酸系、商品名「マイティ150」、花王社製。
AE剤:商品名「マスターエア303A」、BASFジャパン社製。
窒素ガス発泡物質ア:アゾジカルボンアミド、市販品
窒素ガス発泡物質イ:ベンゼンスルホニルヒドラジド、市販品
CaO原料:炭酸カルシウム(石灰石微粉末)、100メッシュ、市販品
Al
2O
3原料:ボーキサイト、90μm篩通過率100%、市販品
CaSO
4原料:二水石膏、ブレーン比表面積5000cm
2/g、市販品
セメント:高炉セメントB種、市販品
微粒子生石灰:CaO含有量97%、平均粒子径10μm、市販品
微粒子無水石膏:天然無水石膏、平均粒子径8μm、市販品
熱処理物A:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部の割合の熱処理物、密度2.90g/cm
3、ブレーン比表面積3500cm
2/g。
熱処理物B:遊離石灰30部、Yeelimite20部、C
4AF5部、C
2S5部、無水石膏35部の割合の熱処理物、密度2.98g/cm
3、ブレーン比表面積3500cm
2/g。
熱処理物C:遊離石灰50部、Yeelimite10部、C
4AF5部、C
2S5部、無水石膏30部の割合の熱処理物、密度3.05g/cm
3、ブレーン比表面積3500cm
2/g。
熱処理物D:遊離石灰70部、Yeelimite20部、無水石膏10部の割合の熱処理物、密度3.20g/cm
3、ブレーン比表面積3500cm
2/g。
熱処理物E:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部を別々に合成して混合したもの。密度2.90g/cm
3、ブレーン比表面積3500cm
2/g。
熱処理物F:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部の割合の熱処理物を50部、微粒子生石灰を23.5部、微粒子無水石膏を23.5部、グリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積6000cm
2/gに調製したもの。
グリセリン:市販品、精製グリセリン。
細骨材:新潟県姫川産、5mm下、密度2.62g/cm
3
粗骨材:新潟県姫川産、25mm下、密度2.64g/cm
3
【0029】
<測定方法>
圧縮強度:JISA1108に準拠して測定した(材齢28日)。
凍結融解抵抗性:JISA1148(A法)に準拠して、水中凍結−水中融解にて試験を実施し、300サイクル時の相対動弾性係数と質量減少率を測定した。
【0030】
【表1】
【0031】
表1より、各種熱処理物に窒素ガス発泡物質を組み合わせることによってコンクリートの凍結融解抵抗性が大幅に向上することが分かる。特に窒素ガス発泡物質アを用いた場合に効果が大きい。また窒素ガス発泡物質を熱処理物とともに混合粉砕することによって、単に混合するだけよりも凍結融解抵抗性が向上することが分かる。さらに、熱処理物にグリセリンや微粒子生石灰および/または微粒子無水石膏を併用した場合も凍結融解抵抗性が良好となる。
【0032】
「実験例2」
セメント混和材として、熱処理物A、窒素ガス発泡物質アを用い、窒素ガス発泡物質アの使用量を表2に示すように変化させたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2より、窒素ガス発泡物質の配合割合を増加することで、圧縮強度への影響が少なく、コンクリートの凍結融解抵抗性が向上するが、10部を超えると圧縮強度、凍結融解抵抗性の向上は低下することが分かる。