特許第6208004号(P6208004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208004
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】測温装置及び測温方法
(51)【国際特許分類】
   F27D 21/00 20060101AFI20170925BHJP
   G01K 1/14 20060101ALI20170925BHJP
   G01K 1/02 20060101ALI20170925BHJP
   C21C 5/52 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   F27D21/00 G
   G01K1/14 L
   G01K1/02 E
   C21C5/52
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-267381(P2013-267381)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-124898(P2015-124898A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000121671
【氏名又は名称】奥村機械製作株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 巧
(72)【発明者】
【氏名】福住 純一
【審査官】 坂巻 佳世
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−073920(JP,A)
【文献】 米国特許第04431170(US,A)
【文献】 特開2000−028438(JP,A)
【文献】 特開平08−269529(JP,A)
【文献】 特開平08−073921(JP,A)
【文献】 特開昭61−159083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 21/00
C21C 5/52
G01K 1/02
G01K 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉の排滓口から測温プローブを挿入させて前記電気炉内の溶融金属の温度を測定する測温装置であって、
走行用の車輪、及び、前方に耐熱ガラス製の窓が配置され、作業者が搭乗する搭乗部を有する車両と、
左右方向に間隔を隔てて前記車両の前部に支持された2本のマスト、及び、前記2本のマストに沿って昇降可能であって、開口が形成された昇降テーブルを有する昇降機構と、
回動部を介して、前記昇降テーブルに対して前後方向に回動可能に支持されたフレームと、
前記フレームの前記昇降テーブルに対する傾斜角度を変更する傾斜機構と、
先端部に前記測温プローブが装着される測温用ランスと、
前記測温用ランスを前記フレームに沿って前記挿入の方向及びその反対方向に移動させる移動機構とを備え
前記測温プローブを前記排滓口から前記電気炉内に挿入した状態において、前記窓と前記開口と前記排滓口とが一直線上に位置し、且つ、前記回動部は前記窓よりも上方に位置することを特徴とする測温装置。
【請求項2】
前記測温プローブで検知した前記溶融金属の温度を示す信号を無線信号に変換し、該無線信号を当該測温装置の外部に設けた受信機に向けて発信する無線通信機を備えることを特徴とする請求項に記載の測温装置。
【請求項3】
前記測温プローブに電極が配置され、前記電極からの信号に基づき、前記測温プローブが前記溶融金属に接触しているか、又は前記溶融金属上のスラグに接触しているかを判別する判別手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の測温装置。
【請求項4】
前記溶融金属の試料を採取するための試料採取部が先端部に設けられた試料採取用ランスが、前記測温用ランスと共に前記移動機構によって移動可能であることを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の測温装置。
【請求項5】
フレームに沿って移動可能な測温用ランスの先端部に装着された測温プローブを電気炉の排滓口から挿入して前記電気炉内の溶融金属の温度を測定する測温方法であって、
前方に耐熱ガラス製の窓が配置され、作業者が搭乗する搭乗部を有する車両の車輪を駆動させて、当該車両を電気炉に接近させる工程と、
開口が形成された昇降テーブルを、車両の前部に左右方向に間隔を隔てて支持された2本のマストに沿って昇降させる工程と、
前記昇降テーブルに対して前後方向に回動可能に支持されたフレームの前記昇降テーブルに対する傾斜角度を変更する工程と、
前記測温用ランスを前記フレームに沿って前記電気炉内に向けて移動させる工程とを備え
前記測温プローブを前記排滓口から前記電気炉内に挿入した状態において、前記窓と前記開口と前記排滓口とが一直線上に位置し、且つ、前記回動部は前記窓よりも上方に位置することを特徴とする測温方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測温装置及び測温方法、特に電気炉内の溶融金属の温度を測定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉は、主に金属類屑(スクラップ)等の金属類を主原料として銑鉄を精錬する施設である。電気炉は、比較的底の浅い容器と、この容器の上面を覆う蓋部を有し、正面には小型の排滓口が設けられている。
【0003】
電気炉内の溶融金属の特性を安定させるために、出鋼まで溶融金属を適切な温度に保持する必要がある。そこで、熱電対等の温度測定機器を内蔵した測温プローブを、適宜、溶融金属内に挿入して測温作業を行う必要がある。
【0004】
測温作業は、測温プローブを先端に装着した測温用ランスを排滓口から電気炉内に挿入させて行われる。しかし、溶け残った材料の溶融金属への落ち込み、一酸化炭素ガスの発生などによって、溶融金属が飛散することがある。
【0005】
そのため、従来は、排滓口の前に遮蔽物を設置し、作業者が測温用ランスを溶融金属に挿入させていた。しかし、排滓口を介した熱気は強力であり、溶融金属の飛沫がかかるおそれもあり、測温作業が困難であった。そこで、測温用ランスを溶融金属に挿入させる挿入装置を用いて測温作業を行うことがあった。
【0006】
しかし、排滓口は、電気炉内の温度を保持する必要から小さく、炉壁が厚いため奥行きが長い。さらに、排滓口から測温作業の他、副材料の投入、酸素の注入、ガスの排出等も行われるので、排滓口の前には多数の装置が設置される。そのため、挿入装置を排滓口の前に設置することは避けることが望ましい。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1には、測温サンプリング装置を支持する旋回可能なアームを有するリンク機構を設けることが開示されている。測温サンプリング装置は、使用しないとき、電気炉の排滓口の前方から退避される。
【0008】
特許文献2には、紛体インジェクション精錬後における溶融金属の測温作業において、自走式の車両上に、ランスが昇降し、傾斜角度が可能なマストを配設した横行台車を塔載した測温装置を使用することが開示されている。無人の測温装置で、予め記憶させた挿入位置にランスを挿入させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3086604号公報
【特許文献2】特開平10−267762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、測温作業時以外でも測温サンプリング装置は電気炉の排滓口の付近に設置されており、作業の障害になる点では従来と同様である。
【0011】
特許文献2に開示された技術では、予め記憶させた挿入位置にしかランスを挿入させることができない。しかし、実際には、電気炉内に投入された材料の量、電気炉の傾き等は精錬作業毎に多少とも相違する。よって、ランスの挿入作業は、作業者が目視で微調整を行うことが好ましい。
【0012】
本発明は、以上の点に鑑み、測温作業時以外には電気炉の排滓口の付近に位置せず、且つ、作業者が目視で挿入作業を行うことが可能な測温装置、及び測温方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の測温装置は、電気炉の排滓口から測温プローブを挿入させて前記電気炉内の溶融金属の温度を測定する測温装置であって、走行用の車輪、及び、前方に耐熱ガラス製の窓が配置され、作業者が搭乗する搭乗部を有する車両と、左右方向に間隔を隔てて前記車両の前部に支持された2本のマスト、及び、前記2本のマストに沿って昇降可能であって、開口が形成された昇降テーブルを有する昇降機構と、回動部を介して、前記昇降テーブルに対して前後方向に回動可能に支持されたフレームと、前記フレームの前記昇降テーブルに対する傾斜角度を変更する傾斜機構と、先端部に前記測温プローブが装着される測温用ランスと、前記測温用ランスを前記フレームに沿って前記挿入の方向及びその反対方向に移動させる移動機構とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の測温装置によれば、走行用の車輪を有する車両を備えている。よって、測温作業時以外は、電気炉の排滓口から離れた任意の場所に測温装置を待機させておくことができ、排滓口を介した各種作業時に測温装置が邪魔にならない。
【0015】
また、本発明の測温装置によれば、走行用の車輪を有する車両、昇降テーブルを昇降させる昇降機構、昇降テーブルに対してフレームの傾斜角度を変更する傾斜機構、及び、測温用ランスをフレームに沿って挿入方向及びその反対方向に移動させる移動機構を備えている。よって、測温用ランスの挿入位置を4種類の方法で調整することができる。これにより、測温用ランスの挿入の調整が容易となる。
【0016】
また、耐熱ガラス製の窓によって、作業者が溶融金属の飛沫を浴びるおそれを確実に解消することができる。
【0017】
本発明の測温装置において、前記測温プローブを前記排滓口から前記電気炉内に挿入した状態において、前記窓と前記開口と前記排滓口とが一直線の直線上に位置する。
【0018】
これにより、車両の搭乗部に搭乗した作業者は、耐熱ガラス製の窓、2本のマスト間の空間、及び昇降テーブルに形成された開口を介して、測温プローブを排滓口から電気炉内に挿入する場合、及び、測温プローブを溶融金属に浸漬する場合に、直接目視で確認することができる。
【0019】
また、本発明の測温装置において、前記測温プローブを前記排滓口から前記電気炉内に挿入した状態において、前記回動部は前記窓よりも上方に位置する。
【0020】
これにより、窓、2本のマスト間の空間、及び昇降テーブルに形成された開口を介して、測温プローブを排滓口から電気炉内に挿入する際、及び、測温プローブを溶融金属に浸漬する際に、作業者の視界が回動部によって妨げられない。
【0021】
ところで、本発明の測温装置は車両によって移動自在であるので、溶融金属の温度を示す信号を有線で測温装置の外部に伝達すれば、円滑な測温作業の妨げになるおそれがある。
【0022】
そこで、本発明の測温装置において、前記測温プローブで検知した前記溶融金属の温度を示す信号を無線信号に変換し、該無線信号を当該測温装置の外部に設けた受信機に向けて発信する無線通信機を備えることが好ましい。
【0023】
また、測温プローブが、溶融金属上のスラグではなく、溶融金属を測温していることを確認する必要がある。
【0024】
そこで、本発明の測温装置において、前記測温プローブに電極が配置され、前記電極からの信号に基づき、前記測温プローブが前記溶融金属に接触しているか、又は前記溶融金属上のスラグに接触しているかを判別する判別手段を備えることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明の測温装置において、前記溶融金属の試料を採取するための試料採取部が先端部に設けられた試料採取用ランスが、前記測温用ランスと共に前記移動機構によって移動可能であることが好ましい。
【0026】
この場合、測温用ランスを電気炉内に挿入して測温作業すると同時に、溶融金属の試料を採取することが可能となる。ただし、測温作業と別時に、溶融金属の試料を採取してもよい。この場合も、試料採取用ランスの挿入位置を4種類の方法で調整することができると共に、車両の搭乗部に搭乗した作業者は、耐熱ガラス製の窓、2本のマスト間の空間、及び昇降テーブルに形成された開口を介して、試料採取用ランスを排滓口から電気炉内に挿入すること、及び、試料採取用ランスが溶融金属に浸漬したことを直接目視で確認することができる。
【0027】
本発明の測温方法は、フレームに沿って移動可能な測温用ランスの先端部に装着された測温プローブを電気炉の排滓口から挿入して前記電気炉内の溶融金属の温度を測定する測温方法であって、前方に耐熱ガラス製の窓が配置され、作業者が搭乗する搭乗部を有する車両の車輪を駆動させて、当該車両を電気炉に接近させる工程と、開口が形成された昇降テーブルを、車両の前部に左右方向に間隔を隔てて支持された2本のマストに沿って昇降させる工程と、前記昇降テーブルに対して前後方向に回動可能に支持されたフレームの前記昇降テーブルに対する傾斜角度を変更する工程と、前記測温用ランスを前記フレームに沿って前記電気炉内に向けて移動させる工程とを備え、前記測温プローブを前記排滓口から前記電気炉内に挿入した状態において、前記窓と前記開口と前記排滓口とが一直線上に位置し、且つ、前記回動部は前記窓よりも上方に位置する
【0028】
なお、車両を電気炉に接近させる工程、昇降テーブルを昇降させる工程、フレームの傾斜角度を変更する工程、及び、測温用ランスをフレームに沿って移動させる工程の順序は任意であり、各工程を複数回行ってもよい。
【0029】
本発明の測温方法によれば、作業者が搭乗する搭乗部を有する車両の車輪を駆動させて、当該車両を電気炉に接近させる。よって、測温作業時以外は、車両を電気炉の排滓口から離れた任意の場所に待機させておくことができ、排滓口を介した各種作業時に車両が邪魔になることがない。
【0030】
また、本発明の測温方法によれば、車両を電気炉に接近させる工程、昇降テーブルを昇降させる工程、フレームの傾斜角度を変更する工程、及び、測温用ランスをフレームに沿って移動させる工程を備えている。よって、測温用ランスの挿入位置を4種類の工程で調整可能となる。
【0031】
そして、車両の搭乗部に搭乗した作業者は、耐熱ガラス製の窓、2本のマスト間の空間、及び昇降テーブルに形成された開口を介して、測温用ランスの挿入を直接目視で確認することができる。また、耐熱ガラス製の窓によって、作業者が溶融金属の飛沫を浴びるおそれを確実に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施形態に係る測温装置及び電気炉を示す側面図。
図2】測温装置を示す側面図。
図3図2のIII方向から見た測温装置の一部を示す図。
図4図2のIV方向から見た測温装置の一部を示す図。
図5】待機状態の測温装置を示す側面図。
図6】本発明の実施形態に係る測温方法を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態に係る測温装置100について説明する。
【0034】
測温装置100は、図1に示すように、電気炉1内の溶融金属Aの温度を計測するために、溶融金属Aに測温プローブ10を挿入する作業を、作業者Bが直接目視で確認しながら安全に行うための装置である。
【0035】
電気炉1は、炉底2及び炉壁3からなる炉本体4と、炉本体4の上方開口を覆う炉蓋(不図示)とから構成されている。炉底2に溶解金属Aが貯留され、溶融金属Aの上方にスラグ(滓)が浮遊し、スラグ層(不図示)が形成されている。そして、炉壁3には排滓口5が形成されており、排滓口5を開閉可能なスラグドア6が設けられている。一例として、排滓口5は、一辺700mm、奥行きは1000mmの正方形状の開口である。
【0036】
測温装置100は、図1及び図2に示すように、作業床面Cを自在に走行可能な車両20と、車両20の前部に備わり、昇降テーブル31を昇降する昇降機構30と、昇降テーブル31に対して前後方向に回動可能に支持されたフレーム41と、フレーム41の昇降テーブル31に対する傾斜角度を変更する傾斜機構40と、先端部に測温プローブ10が装着される測温用ランス11と、測温用ランス11をフレーム41に沿って挿入方向及びその反対方向に移動させる移動機構50を備える。測温用ランス11の先端部には、測温プローブ10が装着される測温用ホルダ12が保持されている。
【0037】
車両20は、例えば、3輪又は4輪のタイヤを有する車輪21を、エンジン又はバッテリ等の駆動源(不図示)で回転駆動することによって作業床面Cを走行するものである。このように、車両20は、作業床面Cに固定されたレール等に沿って走行するものではなく、走行経路等を制限されない。なお、タイヤは耐熱性とすることが好ましい。
【0038】
車両20は、市販のフォークリフトトラックのトラック本体を改造したものであることが好ましい。車両20には、作業者(運転手)Bが着座する座席22等を有する運転室(搭乗部)23を備えている。運転室23には、作業者Bが車両20、昇降機構30、傾斜機構40及び移動機構50をそれぞれ操作可能な操作器具(不図示)が設置されている。
【0039】
運転室23の前方には耐熱ガラス製の透明又は略透明の防護窓24が設けられている。運転室23の前側以外の側方及び上方は、耐熱ガラス又は鋼板等からなるプロテクタ25で覆われている。
【0040】
また、作業床面Cに車止め26を設置することが好ましい。これにより、測温装置100が電気炉1に近付き過ぎて溶融金属Aの飛沫を浴びるおそれを解消することできる。
【0041】
昇降機構30は、左右方向に間隔を隔てて車両20の前部に支持された2本のマスト32、及び、2本のマスト32に沿って昇降可能であって、開口31a(図3参照)が形成された昇降テーブル31を有している。
【0042】
昇降機構30は、市販のフォークリフトトラックのマスト機構を改造したものであることが好ましい。この場合、昇降機構30は、縦方向に2本、平行に車両20の前部に支持されたアウタマスト32と、アウタマスト32に沿って昇降可能なインナマスト33(図5参照)と、インナマスト33の上下方向に移動可能なリフトブラケットを改造した昇降テーブル31とを備える。
【0043】
昇降テーブル31は、マスト32に配置された油圧シリンダ、チェーン等(不図示)によって、2本のマスト32に沿って昇降可能となっている。具体的には、アウタマスト32の下部に油圧シリンダの基端部が固定され、この油圧シリンダのピストンロッドの先端部がインナマスト33の上部に固定されている。そして、アウタマスト32の上部に設置されたプーリに巻架されたチェーンの一端がアウタマスト32に他端が昇降テーブル31に固定されている。
【0044】
フレーム41は、回動部42を介して、昇降テーブル31に対して前後方向に回動可能に支持されている。ここでは、回動部42は、基端部が昇降テーブル31に回動自在に支持され、先端部がフレーム41の後端部に回動自在に支持されたヒンジ部42からなっている。
【0045】
傾斜機構40は、フレーム41の昇降テーブル31に対する傾斜角度を変更する。ここでは、傾斜機構40は、フレーム41と昇降テーブル31との間に設置され、これらの設置点間の間隔を調整可能な間隔調整機構からなっている。具体的には、傾斜機構40は、昇降テーブル31の前側下端部に基端部が回動自在に支持されたシリンダと、フレーム41の後端部下側に先端部が回動自在に支持され、シリンダに対して摺動可能なピストンロッドとからなる油圧シリンダ43から構成されている。
【0046】
この油圧シリンダ43は、図示しないがフォークリフトトラックの油圧源から油圧が供給される。なお、傾斜機構40は、油圧シリンダに限定されず、モータ等の回転駆動源を電力等でフレーム41を昇降テーブル31に対して傾斜させるもの等であってもよい。
【0047】
移動機構50は、図4も参照して、測温用ランス11をフレーム41に沿って測温プローブ10の電気炉1内への挿入の方向及びその反対方向に移動させる。ここでは、移動機構50は、測温用ランス11が塔載された台車51と、フレーム41の上面に前後方向に沿って設置され、台車51が移動可能なレール52と、台車51をレール52に沿って移動させる駆動源53とを備えている。
【0048】
台車51は、ガイドローラ54を備え、ガイドローラ54がレール52に係合することによって、フレーム41の前後方向に移動可能となっている。そして、台車51には、ロープ55の一端が固定されており、このロープ55の他端側がフレーム41の後部に設置された巻取機56で巻き取り可能となっている。巻取機56がロープ55を巻き取れば台車51は後方(挿入方向と反対方向)に、巻取機56がロープ55を送り出せば台車51は前方(挿入方向)に移動する。巻取機56は、モータ等の回転駆動源53によって駆動される。
【0049】
また、台車51には、試料採取手段である試料採取用柄杓61が先端部に装着される試料採取用ランス62も塔載されている。測温用ランス11と試料採取用ランス62とは平行に配置され、測温用ホルダ12及び試料採取用柄杓61の両先端部は前後方向に略同一に位置している。
【0050】
なお、測温装置100は車両20によって移動自在であるので、溶融金属Aの温度を示す信号を有線で伝達すれば、円滑な測温作業の妨げになるおそれがある。そこで、図示しないが、測温装置100は、測温プローブ10で検知した溶融金属Aの温度を示す信号を無線信号に変換し、この無線信号を測温装置100の外部に設けた受信機に向けて発信する無線通信機を備えることが好ましい。無線通信機は、例えば、車両20に搭載すればよい。
【0051】
また、測温プローブ10が、溶融金属A上のスラグではなく、溶融金属Aを測温していることを確認する必要がある。そこで、図示しないが、測温プローブ10に電極を配置し、測温装置100は、この電極からの信号に基づき、測温プローブ10が溶融金属Aに接触しているか、又は溶融金属A上のスラグに接触しているかを判別する判別手段を備えることが好ましい。
【0052】
溶融金属Aとスラグとは導電性が異なり、接触した物体の導電性に応じて電極から送信させる電気信号の大きさが相違する。そこで、判別手段は、電極からの電気信号の大きさに基づいて測温プローブ10が何れと接触しているか確実に判別することができる。判別手段は、例えば、運転室23に設ければよい。
【0053】
ただし、電極からの電気信号の大きさを数値化等して、得られた数値等から作業者が判別してもよい。また、スラグは溶融金属に比較して温度が低いので、判別手段は、測温プローブ10で検出による温度の変化から判別するものであってもよい。
【0054】
以下、測温装置100を用いた本発明の実施形態に係る測温方法について図6を参照して説明する。
【0055】
測温装置100は、STEP1の待機状態では、例えば、図5に示すように、昇降テーブル31は上方に位置し、フレーム41は垂直に近い状態となっている。このようにすれば、測温装置100は、前後方向に短くなり、狭い待機場所に待機させることが可能となる。作業者は、運転席23に入り込み、車両20に搭乗する。
【0056】
次に、作業者は、傾斜機構40を動作させて、測温用ランス11の先端部に測温プローブ10が装着容易な角度まで、フレーム41を傾斜させる(STEP2)。そして、作業者又は作業補助者が、測温用ランス11の先端部に測温プローブ10を装着する(STEP3)。
【0057】
次に、作業者は、測温プローブ10を電気炉1内へ挿入するのに適するように、フレーム41の傾斜角度、高さ、及び前後位置を調整する(STEP4)。具体的には、傾斜機構40をさらに動作させて、測温プローブ10を電気炉1内へ挿入するに適した角度まで、フレーム41を傾斜させる。また、昇降機構30を動作させて、測温プローブ10を電気炉1内への挿入するに適した高さまで、昇降テーブル31を下降させる。また、測温プローブ10を電気炉1内へ挿入するに適した位置まで、車両20を前進させる。これら3つの動作は、順序は任意であり、作業者が試行錯誤しながらそれぞれ複数回行ってもよい。
【0058】
車両20は作業床面C上を自在に移動可能であるので、測温作業時の車両20の停止位置は一定しない。また、電気炉への材料の投入量及び電気炉の微妙な傾斜の相違によって、溶融金属の表面は変化する。そのため、作業者が目視で確認しながら、測温プローブ10の挿入位置及び挿入方向を各種の機構で微調整しながら、測温プローブ10の挿入作業を行えばよい。
【0059】
なお、電気炉1内への測温プローブ10の挿入は、排滓口5の前方正面からに限定されず、排滓口5の前方斜めから行ってもよい。
【0060】
次に、作業者は、移動機構50を動作させて、台車51を前方(挿入方向)に移動させて、測温用ランス11を排滓口5を介して電気炉1内に挿入して、測温用ランス11の先端部に装着された測温プローブ10を溶融金属A内に浸漬させる(STEP5)。そして、所定の測温時間だけ溶融金属A内に浸漬させた測温プローブ10で溶融金属Aの温度を測定する(STEP6)。
【0061】
その後、作業者は、移動機構50を動作させて、台車51を後方に移動させて、測温用ランス11を電気炉1外に引き抜く(STEP7)。
【0062】
次に、作業者は、車両20を適宜な位置まで後進させる。そして、作業者又は作業補助者は、測温用ランス11から測温プローブ10を引き抜く(STEP8)。
【0063】
その後、STEP2に戻り、STEP2からSTEP8を繰り返す。そして、測温作業終了後(STEP9:YES)、測温装置100を図5に示す待機状態に戻る。なお、試料採取用柄杓61を用いた溶融金属Aの試料採取は、STEP6で溶融金属Aの測温と同時に行っても、測温作業とは別時に行ってもよい。
【0064】
以上説明したように、測温装置100は、走行用の車輪21を有する車両20を備えている。よって、測温作業時以外は、測温装置100を電気炉1の排滓口5から離れた任意の場所に待機させておくことができ、排滓口5を介した各種作業時に測温装置100が邪魔にならない。
【0065】
また、測温装置100は、走行用の車輪21を有する車両20、昇降テーブル31を昇降させる昇降機構30、昇降テーブル31に対してフレーム41の傾斜角度を変更する傾斜機構40、及び、測温用ランス11をフレーム41に沿って挿入の方向及びその反対方向に移動させる移動機構50を備えている。よって、測温用ランス11の挿入位置を4種類の方法で調整することができる。これにより、測温用ランス11の挿入の調整が容易となる。
【0066】
そして、車両20の運転室23に搭乗した作業者Bは、防護窓24、2本のマスト32間の空間、及び昇降テーブル31に形成された開口31aを介して、測温用ランス11の挿入を直接目視で確認することができる。また、耐熱ガラス製の防護窓24及びプロテクタ25によって、作業者Bが溶融金属Aの飛沫を浴びるおそれを確実に解消することができる。
【0067】
そして、測温装置100は、測温プローブ10を排滓口5から電気炉1内に挿入した状態において、防護窓24と昇降テーブル31の開口31aと排滓口5とが一直線上に位置している。よって、車両20の運転室23に搭乗した作業者Bは、防護窓24、2本のマスト32間の空間、及び昇降テーブル31に形成された開口31aを介して、測温プローブ10を排滓口5から電気炉1内に挿入する際、及び、測温プローブ10を溶融金属Aに浸漬させる際に、直接目視で確認することができる。
【0068】
また、測温装置100は、測温プローブ10を排滓口5から電気炉1内に挿入した状態において、ヒンジ部42は防護窓24よりも上方に位置している。よって、防護窓24、2本のマスト32間の空間、及び昇降テーブル31に形成された開口31aを介して、測温プローブ10を排滓口5から電気炉1内に挿入する際、及び、測温プローブ10を溶融金属Aに浸漬させる際に、作業者Bの視界がヒンジ部42によって妨げられない。
【符号の説明】
【0069】
1電気炉、 2…炉底、 3…炉壁、 4…炉本体、 5…排滓口、 6…スラグドア、 10…測温プローブ、 11…測温用ランス、 12…測温用ホルダ、 20…車両、 21…車輪、 22…座席、 23…運転室(搭乗部)、 24…防護窓(窓)、 30…昇降機構、 31…昇降テーブル、 32…マスト、アウタマスト、 31a…開口、 33…インナマスト、 40…傾斜機構、 41…フレーム、 42…回動部、ヒンジ部、 43…油圧シリンダ、 50…移動機構、 51…台車、 52…レール、 53…駆動源、 61…試料採取用柄杓(試料採取手段)、 62…試料採取用ランス、 100…測温装置、 A…溶融金属、 B…作業者、 C…作業床面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6