特許第6208049号(P6208049)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6208049高耐食高強度オーステナイト系ステンレス鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208049
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】高耐食高強度オーステナイト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170925BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20170925BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
   G21D1/00 X
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-42265(P2014-42265)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-168830(P2015-168830A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】金田 潤也
(72)【発明者】
【氏名】岩波 勝
(72)【発明者】
【氏名】石岡 真一
(72)【発明者】
【氏名】茂中 尚登
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−204586(JP,A)
【文献】 特開平08−209307(JP,A)
【文献】 特開昭51−112745(JP,A)
【文献】 特開昭51−045612(JP,A)
【文献】 特開昭49−118616(JP,A)
【文献】 特開平01−275740(JP,A)
【文献】 特開平09−125205(JP,A)
【文献】 特開2014−080664(JP,A)
【文献】 特開2014−181383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 7/00 − 8/10
C21D 6/00 − 6/04
G21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cが0.04質量%を超え0.08質量%以下、Mnが1.0質量%以上〜2.0質量%以下、Niが9.0質量%以上〜13.0質量%以下、Crが17.0質量%以上〜20.0質量%以下、TaがCの13倍以上で0.55質量%以上〜1.50質量%以下であり、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
請求項1において、ステンレス鋼断面において析出したTaC粒子のうち、平均粒径が10nm以上の粒子の平均数密度が5.0×1012個/m2以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
請求項1において、100℃での引張強度が480MPa以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼で構成され、0.1MeV以上のエネルギーをもつ中性子が0.5×1021n/cm2以上照射されることを特徴とする原子炉内構造物。
【請求項5】
請求項4において、前記原子炉内構造物が制御棒であることを特徴とする原子炉内構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子照射環境にさらされる環境において、応力腐食割れ、照射誘起応力腐食割れ、すき間腐食などを抑制できるオーステナイト系ステンレス鋼および該オーステナイト系ステンレス鋼を使用した原子炉内構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水炉炉心では、溶接熱による鋭敏化を抑制するために、含有する炭素量を低減したSUS316LやSUS304Lの低炭素オーステナイト系ステンレス鋼が使用されている。しかし、近年、中性子照射量の高い環境で使用される制御棒のSUS316L製シースやタイロッドにおいて、照射誘起によると考えられる応力腐食割れが確認されている。これは、材料が中性子照射を受けることによる硬化や照射誘起粒界偏析が原因と考えており、中性子照射損傷の抑制が必要である。
【0003】
中性子照射損傷抑制のためにNb、Ta、Ti、Zr、Hfを添加した低炭素オーステナイト系ステンレス鋼が特許文献1で開示されている。しかし、これらは炭素濃度が低いために制御棒として要求される強度特性を達成することはできない。
【0004】
一方、特許文献2では、0.04%以下の炭素を含有し、かつNbおよびTaを添加したオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。これは、NbおよびTaの添加により溶体化熱処理後でもNbおよびTaが炭素を安定化して応力腐食割れや照射誘起応力腐食割れを抑制すること、およびNb添加量を少なくしてTa添加量を多くすることで、中性子吸収により生成する長半減期のNb94に代わり短半減期のTa182として取扱を容易にする効果がある。しかし、溶体化のままでは制御棒として要求される耐食性と強度特性を満足できない可能性がある。特許文献2と同様に炭素を安定化して耐食性を向上させる規格材料として、非特許文献1に記載されているように、SUS321、SUS321H、SUS347、SUS347Hがある。SUS321、SUS321HはTiを、SUS347、SUS347HはNb+Taを添加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−259055号公報
【特許文献2】特公平06−089437号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ステンレス協会編 ステンレス鋼便覧 第3版P593
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子力発電プラントの原子炉炉内では、主にオーステナイト系ステンレス鋼が構成材料として使用されている。一般に、オーステナイト系ステンレス鋼は耐食性に優れた材料であるが、高温高圧水および中性子照射環境におかれると、照射誘起応力腐食割れの発生感受性が高まることが指摘されている。また、原子炉炉内での材料劣化事象として、照射誘起応力腐食割れ事例が報告されている。
【0008】
本発明の目的は、照射誘起応力腐食割れの発生感受性を低減し、かつ高強度のオーステナイト系ステンレス鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
オーステナイト系ステンレス鋼は、Cが0.04質量%を超え〜0.08質量%以下、Mnが1.0質量%以上〜2.0質量%以下、Niが9.0質量%以上〜13.0質量%以下、Crが17.0質量%以上〜20.0質量%以下、TaがCの13倍以上で0.55質量%以上〜1.50質量%以下であり、残部がFe及び不可避の不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼を、0.1MeV以上のエネルギーを持つ中性子が0.5×1021n/cm2以上照射される環境で使用される原子炉炉内構成機器あるいは構造物に適用することにより、照射誘起応力腐食割れの発生感受性を低減でき、原子力プラントの信頼性を向上させ、長寿命化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の材料の再活性化率比較。
図2】本発明の材料の再活性化率とTa/C比の相関。
図3】本発明の材料の100℃での引張強度比較。
図4】本発明の材料の100℃での引張強度とC量の相関。
図5】各種熱処理を施した本発明の材料の再活性化率。
図6】各種熱処理を施した本発明の材料中のTaC析出物の数密度。
図7】本発明の材料を適用した制御棒。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、Cが0.04質量%を超え0.08質量%以下、Mnが1.0質量%以上〜2.0質量%以下、Niが9.0質量%以上〜13.0質量%以下、Crが17.0質量%以上〜20.0質量%以下、TaがCの13倍以上で0.55質量%以上〜1.50質量%以下で、残部がFe及び不可避の不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼である。
【0013】
材料構成元素の平均原子半径に比べ、Taの原子半径が大きいことから、Taが材料中に固溶している場合、照射によって生成された原子空孔を捕獲し、格子間原子との再結合確率を上昇させ、照射損傷を抑制することができる。また、原子空孔が拡散により結晶粒界へ流入する場合、粒界近傍のCr原子が粒界から離れる方向に拡散し、粒界近傍でのCr濃度がマトリックスのCr濃度より低下する、いわゆるCr欠乏を生じるが、Taが原子空孔を捕獲する場合は、原子空孔の粒界への拡散が抑制され、粒界Cr欠乏が抑制されることになる。一方、TaがTaCとして存在する場合も、TaCとマトリックスの界面が原子空孔の消滅サイトとなるため、Taが固溶した場合と同様に、粒界Cr欠乏を抑制することができる。
このようにTaの存在は、単独で固溶している場合も、TaCとして存在する場合でも、照射誘起による粒界Cr欠乏を抑制することができ、照射誘起応力腐食割れの抑制に効果があると考えられる。ただし、Cが必要以上にマトリックス中に存在する場合、溶接熱を受けた場所では、粒界上にCr炭化物を形成してCr欠乏を生じる、いわゆる熱鋭敏化を生じ、応力腐食割れ感受性が高まる。そのため、固溶しているC濃度を低減するために、TaCを形成させCを安定化する必要がある。
【0014】
そこで、材料中に存在するC濃度に対して所定量以上のTaを添加してTaCを析出させ、Cを安定化することにより、照射誘起による粒界Cr偏析と熱による粒界Cr偏析のいずれも抑制でき、応力腐食割れ感受性を低減することができる。炉内を構成する材料としては、設計裕度を持たせるためには高強度であることが好ましい。それを達成するためには、0.03質量%のCが必要であり、特に高強度化を達成するためにC量を0.04重量%を超える濃度とした。また、C量の上限値はTa濃度との兼ね合いで決まるが、Taが1.50重量%までは溶接性などの製造性に著しい劣化がないこと、およびTa/C比が13以上であればCの安定化が可能であることから、Cの上限を0.08質量%とした。
【0015】
一方、TaはC量の13倍以上かつ0.55質量%以上が必要で、溶接性などの特性劣化を鑑み、上限を1.50質量%とした。
【0016】
Si、P、S、Mo、Nbは不可避的不純物であり、極力低減することが好ましいが、使用する原材料によっては微量の混入は避けることができない。そこで、Siは0.1重量%以下、望ましくは0.06重量%以下、Pは0.01重量%以下、望ましくは0.005重量%以下、Sは0.01重量%以下、望ましくは0.005重量%以下、Moは0.1重量%以下、望ましくは0.05重量%以下、Nbは0.05重量%以下、望ましくは0.01重量%以下であることが好ましい。
【0017】
当該の材料で、さらに強度を安定的に確保するためには、結晶粒度番号が4.0以上が好ましい。また、析出したTaCの数密度が一定量以上であると強度向上の効果を得ることができるため、ステンレス鋼断面において平均粒径が10nm以上のTaC析出粒子の平均数密度は、5.0×1012個/m2以上であることが好ましい。TaC粒子の数密度は、C蒸着によるレプリカ法で採取した試験片をSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)で観察することにより評価できる。
【0018】
このような材料組織は、材料の板厚により条件の調整が必要ではあるが、1050〜1150℃で1〜60分の溶体化熱処理および850〜950℃で5分〜6時間の時効処理を施したことにより得ることができる。上述の化学成分の材料に、所定の熱処理を施し、所定の材料組織を得ることにより、材料の引張強度を向上でき、さらに、電気化学的再活性化率を30%以下として、熱鋭敏化を抑制することができる。
【0019】
上述の材料は、0.1MeV以上のエネルギーを持つ中性子が0.5×1021n/cm2以上照射される環境で使用される場合、照射損傷を抑制し、照射誘起応力腐食割れを抑制することができる。特に、沸騰水型原子炉炉心で使用される制御棒を構成するタイロッド、シース、ハンドルに適用することにより、照射誘起応力腐食割れを発生する可能性を低減し、制御棒の交換サイクルを長期化できるとともに、健全性、信頼性を向上することができる。
【0020】
また、上述の材料は、制御棒だけでなく、炉内を構成し、かつ0.1MeV以上のエネルギーを持つ中性子が0.5×1021n/cm2以上照射される機器あるいは構造物に適用することにより、原子炉ひいては原子力プラントの信頼性を向上させ、長寿命化することができる。
【0021】
以下に、本発明の材料が良好な特性を有す材料であることを確認した実施例を示す。まず、表1に示す化学組成をもつ材料を真空溶解で作製した。
【0022】
【表1】
【0023】
なお、No.10は比較材のSUS316Lである。いずれの材料とも、熱間圧延の後、1050℃、30分、水冷の溶体化熱処理を施した。また、材料No.1〜9の溶体化材は二つのインゴットに分け、一方に900℃、1時間、空冷の時効処理、すなわちTaCを析出させCを安定化するための安定化熱処理を施した。結果的に、材料No.1〜9の材料は、溶体化熱処理材と溶体化熱処理+安定化熱処理材を作製した。一方、比較材のNo.10は溶体化熱処理材のみ作製した。
【0024】
応力腐食割れ特性と相関がある熱鋭敏化特性を評価するために、材料No.1〜9の溶体化熱処理材および溶体化熱処理+安定化熱処理材にさらに700℃、30分、水冷の鋭敏化熱処理を施し、JIS G 0580「ステンレス鋼の電気化学的再活性率の測定方法」に従い再活性化率を測定した。測定は各材料とも繰り返し数3とした。また、再活性化率は式(1)により結晶粒度により補正した値を採用した。ここで、Rが粒度補正した再活性化率、Rmは再活性化率の測定値、Nは試験面の結晶粒度番号である。
【0025】
【数1】
各材料で測定した再活性化率の平均値を図1に示す。JIS G 0580では、再活性化率が31%未満を非鋭敏化、31%以上156%未満を軽微な鋭敏化、156%以上を鋭敏化の状態と定義している。材料No.9は溶体化熱処理+鋭敏化熱処理、溶体化熱処理+安定化熱処理+鋭敏化熱処理ともに鋭敏化状態、材料No.6は溶体化熱処理+鋭敏化熱処理で鋭敏化、溶体化熱処理+安定化熱処理+鋭敏化熱処理で軽微な鋭敏化の状態にあり、熱鋭敏化する材料と考えられ、高温高圧水中で応力腐食割れを発生する可能性が高い。材料No.1〜3およびNo.8は、溶体化熱処理+鋭敏化熱処理では軽微な鋭敏化の領域にあるが、安定化熱処理を施した場合は非鋭敏化状態にすることができた。また、材料No.4、5、7は、溶体化熱処理+鋭敏化熱処理、溶体化熱処理+安定化熱処理+鋭敏化熱処理ともに非鋭敏化状態であった。この結果から、材料No.1〜5および7、8は熱鋭敏化に対して良好な特性を有していた。
【0026】
次に、再活性化率とTa/C比の相関を確認するために、図1に示した再活性化率の平均値とTa/C比の関係を図2に示す。この図から、Ta/C比が高い方が再活性化率を低減できる傾向にあり、Ta/C比が13以上であれば、熱鋭敏化に対して良好な特性を持ち、特に安定化熱処理を施した場合はさらに優れた特性を示した。
本発明は、原子炉炉内で使用される構造物を対象としている。一部の材料では高い強度が必要なものもあることから、少なくとも100℃の引張強度として480MPaが必要である。そこで、それぞれの材料の溶体化熱処理材および溶体化熱処理+安定化熱処理材を、JIS G 0567に従い100℃で引張試験を実施したときの、引張強度データを図3に示す。
【0027】
なお、引張試験の繰り返し数は2とし、図3にはその平均値を示した。要求される100℃での引張強度は480MPa以上である。この結果、溶体化熱処理材では、材料No.4、6、7、8、9は要求強度を満たすことができた。一方、No.1、2、3、5は要求強度を満足することができなかった。また、安定化熱処理まで施した場合、溶体化熱処理材と同様に強度が向上する傾向を示した。このことから、安定加熱処理材でも高強度化が可能である。
【0028】
図3に示した100℃の引張強度とC含有量の相関を図4に示す。溶体化熱処理材、溶体化熱処理+安定化熱処理材ともにC量増加に伴い強度が向上している。ここで、溶体化熱処理材では、0.04質量%を越えるCを含有すると480MPaを満たすことができた。また、溶体化熱処理+安定化熱処理材でも、0.04質量%を越えるC量で480MPaを満たすことができた。
【0029】
次に、高温高圧水中での応力腐食割れ感受性を評価した。試験法として、Creviced Bent Beam(CBB)試験を採用した。材料No.1、2、4、7、8、9、10の材料からそれぞれ10×50×2tの試験片を7枚採取し、表面を耐水研磨紙で600番まで仕上げた。材料No.1、2、4、7、8、9の試験片はいずれも溶体化熱処理、安定化熱処理および鋭敏化熱処理を施しており、No.10は溶体化熱処理および鋭敏化熱処理を施している。これらを半径100mmの円弧状の局面をもつ治具にグラファイトウールとともにセットし、1%の定ひずみを付与したすき間付試験片とした。治具にセットした試験片を、288℃、溶存酸素濃度8ppm、導電率1.0μS/cm2、で500時間の浸漬試験を実施した。浸漬試験後、試験片を治具から取り外して、試験片長手方向に平行に試験片中央で切断し、その断面上で割れ発生状態を観察し、割れた試験片の数と最大割れ深さを評価した。その結果を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
No.10のSUS316Lは、7個の試験片のうち4個で割れが発生し、最大割れ深さは62μmであった。No.9は7個の試験片のうちすべてに割れが発生し、最大割れ深さは1350μmであった。No.1、2、4、7、8では、いずれも割れは認められなかった。このことから、本発明の材料は、C量が0.04重量%の材料と同様に良好な耐応力腐食割れ性を有すると考えられる。
【0032】
次に、材料No.8に40%の冷間圧延を施した後、1050℃、1100℃、1150℃でそれぞれ30分の熱処理と水冷により、溶体化熱処理を施した。溶体化後、鋭敏化熱処理あるいは安定化熱処理+鋭敏化熱処理のそれぞれを施した。ここで、安定化熱処理条件は、900℃、2時間、空冷とした。また、鋭敏化熱処理は、650℃、2時間、空冷とした。このような熱処理を施した材料の鋭敏化状態を評価するために、JIS G 0580に従い再活性化率を測定した。
【0033】
その結果を図5に示す。この結果から、溶体化後、鋭敏化熱処理を施すといずれの試験片とも軽微な鋭敏化状態あるいは鋭敏化状態となることがわかる。一方、溶体化後、安定化熱処理を施すと、溶体化温度の上昇に伴い再活性化率が増加するが、いずれの溶体化温度でも非鋭敏化状態であった。この再活性化率の試験結果は、析出したTaの割合と相関関係があると考えられ、安定化熱処理でTaCを析出させることにより、熱鋭敏化を抑制できることがわかる。
【0034】
次に、安定化熱処理を施した材料のTaCの析出物数密度を溶体化熱処理材と比較した。
析出物の観察は、以下の要領で行った。まず、材料No.8を鏡面研磨した試験片表面を軽くエッチングした後、カーボン蒸着して析出物をカーボン膜に固定化する。その後、母材を溶出させ、析出物が固定化されたカーボン膜を剥離させる。析出物が固定化されたカーボン膜を十分に洗浄、乾燥させ、析出物観察用の試験片とする。この試験片を電解放出型(FE)のSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)で観察する。このようにして、析出物の状態を、特に寸法と数密度に着目して調査を行った。ここで、カーボン膜上の析出物は、試験片のある面上に存在する析出物を観察していることになる。析出物数密度の計測は、偏りがないようにFE-STEMで倍率5万倍で50視野観察し、10nm以上の析出物について評価した。
【0035】
その結果を図6に示す。この結果、溶体化材については、1050℃溶体化ではある程度の数密度でTaC析出物が認められたが、1100℃、1150℃溶体化材ではほとんど認められず、数密度も極めて小さかった。一方、溶体化+安定化熱処理材は、溶体化温度が高い方が、析出物数密度が上昇する傾向が見られた。溶体化+安定化熱処理材は、熱鋭敏化しないことが図5でも示されていること、および安定化熱処理後も強度が維持できることから、TaC析出物の数密度は5×1012m-2以上が好ましいと考えられる。
【0036】
本発明の実施形態の例として、原子炉炉内構造物および機器の中で最も中性子照射損傷速度の速い制御棒への適用例を示す。
【0037】
図7は中性子吸収材にボロン・カーバイドを使用した制御棒を示す。この制御棒は、主にタイロッド10、ハンドル9、コネクター7、シース6、中性子吸収棒5を有し、これらにはいずれもオーステナイト系ステンレス鋼が用いられている。制御棒はすき間を有すため、すき間腐食の可能性があり、かつ照射誘起応力腐食割れを発生する可能性もある。
そこで、耐すき間腐食性、耐応力腐食割れ性に優れ、かつ照射損傷抑制にも効果があると考えられる本発明のオーステナイト系ステンレス鋼を使用することにより、制御棒のすき間腐食および照射誘起応力腐食割れを抑制し、長寿命かつ信頼性の高い制御棒とすることができる。また、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、棒、薄板、管など様々な形状の部材として製造可能であるので、ボロン・カーバイドを使用する制御棒だけでなく、ハフニウムを中性子吸収材に使用した制御棒にも適用できる。
【0038】
原子炉炉内で従来から使用されているオーステナイト系ステンレス鋼は、0.1MeV以上のエネルギーを持つ中性子が0.5×1021n/cm2以上照射されると照射誘起応力腐食割れを発生する可能性がある。そこで、制御棒に限らず、原子炉炉内構造物および機器、たとえば沸騰水型原子炉の炉心シュラウド、上部格子板、炉心支持板など、加圧水型原子炉のバッフル板、フォーマ板、バッフル・フォーマ・ボルトなどに、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼を使用することにより、長期信頼性に優れる原子炉および原子力発電プラントとすることができる。
【符号の説明】
【0039】
3:ローラー
4:冷却孔
5:中性子吸収棒
6:シース
7:コネクター
8:コネクター・ソケット
9:ハンドル
10:タイロッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7