【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究に係る特許出願(平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(2)において前記溶液(C)を浸透させる前に、前記溶液(C)を浸透させる側の、多孔質基材表面に付着した金属イオン(A)を除去する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
前記工程(1)において、金属イオン(A)を多孔体の細孔内に充填させる際に、センシタイジング−アクチベーティング法又はキャタライジング−アクセラレーティング法を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
前記金属イオン(B)の金属種が、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金、白金、イリジウム、オスミウム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウムまたはチタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
前記還元剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、クエン酸、クエン酸ナトリウム、タンニン酸、ジボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ギ酸、グルコースおよび塩化スズからなる群から選ばれる1以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
前記溶液(H)及び/又は前記溶液(C)の濃度を制御することにより、前記薄膜化した金属充填層の形成する位置を制御することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0017】
本発明のひとつの態様は、多孔質基材の内部に、薄膜化した金属充填層を有する複合体の製造方法に関する。
【0018】
前記「薄膜化した金属充填層」の金属種は、特に限定されないが、無電解めっきの可能な金属であることが好ましい。無電解めっきの可能な金属としては、例えば遷移金属等が挙げられ、遷移金属として、好ましくは周期表の4族、5族、8族、9族、10族または11族の金属等が挙げられる。中でも、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金、白金、イリジウム、オスミウム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウムまたはチタン等が挙げられる。これらの金属は単独で用いてもよく、2以上を混合して用いてもよい。
【0019】
前記多孔質基材としては、金属充填層を支持し、複合体全体として機械的強度を付与するものであれば特に制限はないが、耐熱性の観点から好ましくは多孔質セラミックス又は多孔質金属からなるものが挙げられ、市販品を用いてもよい。さらに、本発明の複合体を所望の目的(例えば、水素分離等)に使用した後の、使用済の前記複合体も、多孔質基材として用いることができる。本発明において、使用済の前記複合体を多孔質基材として用いることで、複合膜を何度も再生して利用できるため、廃棄物を削減することができる。
なお、本発明において「多孔質」とは、細孔を有し、かつ前記細孔が連通して通気性があるものを意味する。
【0020】
前記多孔質セラミックスとしては、酸化物、窒化物または炭化物等が挙げられ、具体的にはアルミナ、ジルコニア、チタニア、ニオビア、セリア、シリカ、コージェライト、ムライト、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化モリブデン等、又は、これらの酸化物、窒化物、または炭化物等の結晶構造が添加物等により安定化された多孔質セラミックス等が挙げられる。中でもアルミナ、シリカ、ジルコニア、コージェライト、ムライト、窒化ケイ素、炭化ケイ素等及びこれらの結晶構造が添加物等により安定化されたものが好ましく挙げられるが、これらに限らず、種々の多孔質体を用いることができる。これらの多孔質セラミックスは単独で用いてもよく、2以上を混合して用いてもよい。
【0021】
前記多孔質金属については、その構造上からは、金属不織布、金属粉焼結多孔体、金属穿孔体等が、その物性上からは耐熱性や耐食性を有する金属や合金、例えばニッケル、ステンレス鋼等がそれぞれ挙げられる。これらの多孔質金属は単独で用いてもよく、2以上を混合して用いてもよい。
【0022】
本発明に用いる多孔質基材の形態は、特に限定されず、所望により適宜選択してよく、例えば、管状(筒状又はチューブ状)、又は板状等であってもよい。
本発明において、多孔質基材の「片側」は、例えば、多孔質基材が管状である場合、管の内側でもよく、外側でもよい。
前記多孔質基材の細孔の孔径は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、通常、約0.001〜約20μmであり、好ましくは約0.004〜約1μmである。
【0023】
本発明のひとつの態様において、前記複合体の製造方法は、
(1)多孔質基材の細孔内に、金属イオン(A)を含有するpH約4以下の溶液を充填する工程
を含む。
【0024】
本発明において、「金属イオン」とは、電荷が0でない状態で存在する金属原子を包含する。
【0025】
前記金属イオン(A)の金属種は、特に限定されないが、例えば遷移金属等が挙げられ、遷移金属として、例えば、周期表の4族、5族、8族、9族、10族または11族の金属等が挙げられる。中でも、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金、白金、イリジウム、オスミウム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウムまたはチタン等が好ましく、パラジウム、白金、金がさらに好ましい。金属イオン(A)の金属種は、好ましくは、無電解めっきにおいて、触媒活性を有するものであり、より好ましくは、パラジウム、銅及び銀から選ばれ、特に好ましくはパラジウムである。
【0026】
前記工程(1)において、多孔質基材の細孔内に金属イオン(A)を充填させる方法は特に限定されず、例えば、金属イオン(A)を含有する溶液に多孔質基材を浸漬させることにより行ってもよい。なお、以降本明細書において、「金属イオン(A)を含有する溶液」を「溶液A」ともいう。
溶液AのpHは特に限定されず、酸性、中性又はアルカリ性等のいずれの状態であってもよく、最終的に金属イオン(A)がpH約4以下の状態で多孔質基材の細孔内に充填されていればよい。したがって、pH約4以下の溶液Aに多孔質基材を浸漬させることにより、細孔内に金属イオン(A)を充填してもよく、pH約4以上の溶液Aに多孔質基材を浸漬させ、細孔内に金属イオン(A)を充填したのちに該多孔質基材を酸性溶液に浸漬させる等して、細孔内のpHを約4以下に調整してもよい。
溶液Aの濃度は、所望により適宜選択してよく、特に限定されないが、通常約0.00001〜約10mol/L、製造効率及び得られる膜の性能を制御する等の観点から、好ましくは約0.00005〜約0.1mol/L程度である。
【0027】
また、本発明のひとつの態様において、溶液Aに多孔質基材を浸漬させて、細孔内に金属イオン(A)を充填させる際に、多孔質基材の片側のみを溶液Aに浸漬させてもよく、多孔質基材の両側を溶液Aに浸漬させてもよい。例えば、多孔質基材が管状である場合、(i)例えば、一方の口に栓をして管の内側に溶液A以外の液体を充填し、管の外側を溶液Aに浸漬させ、管の外側表面から溶液Aを多孔質基材の細孔内に浸透させることにより充填させてもよく、又は(ii)例えば、一方の口に栓をして管の外側を溶液A以外の液体に浸漬させ、管の内側に溶液Aを充填し、管の内側表面から溶液Aを多孔質基材の細孔内に浸透させることにより充填させてもよく、あるいは(iii)管に栓をせずに、管を溶液Aに浸漬させて、管の内側表面及び外側表面の両方から溶液Aを細孔内に浸透させることにより充填させてもよい。上記(i)又は(ii)のように、多孔質基材の片側表面のみから溶液Aを浸透させる場合、多孔質基材全体の細孔内に溶液Aが充填されている必要はなく、溶液Aに浸漬させた多孔質基材の片側表面から一定の深さまでの細孔内にのみ、溶液Aが充填されていてもよい。
なお、多孔質基材が板状である場合、多孔質基材の片側のみを溶液Aに浸漬させる方法としては、例えば、容器を完全に2つの空間に仕切る様に板状の多孔質基材を設置し、仕切った容器の一方に溶液A以外の液体を充填し、反対側に溶液Aを充填する方法等が挙げられる。
また、本態様における上記「溶液A以外の液体」は、特に限定されず、水、酸性溶液、中性溶液、又はアルカリ性溶液等であってもよい。また、「溶液A以外の液体」は後記する溶液(H)と同じであってもよい。
【0028】
本発明のひとつの態様において、溶液Aは、前記金属イオン(A)を含有する溶液であればよく、特に限定されないが、前記金属イオン(A)の金属種がパラジウムである場合、溶液Aは、パラジウム(II)イオンを含有するものであることが好ましく、この場合溶液Aとしては、例えば、塩化パラジウム(II)溶液、硝酸パラジウム(II)溶液、硫酸パラジウム(II)溶液、酢酸パラジウム(II)溶液、テトラアンミンパラジウム(II)水酸塩溶液、ジアンミンジニトロパラジウム(II)溶液、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)溶液、trans-ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)溶液等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いてもよい。中でも、パラジウム(II)イオンを含有する溶液は、扱い易さ及び価格等の観点から、塩化パラジウム(II)溶液、硝酸パラジウム(II)溶液、硫酸パラジウム(II)溶液、及び酢酸パラジウム(II)溶液から選ばれるものが好ましい。
【0029】
本発明のひとつの態様において、前記工程(1)において、必須ではないが、溶液Aを多孔質基材の細孔内に充填する際に、無電解めっきで一般的に行われるセンシタイジング(感応化)−アクチベーティング(活性化)法又はキャタライジング−アクセラレーティング法等の処理を行ってもよい。センシタイジング−アクチベーティング法又はキャタライジング−アクセラレーティング法は従来十分に確立されており、本発明においても、公知の方法、自体公知の方法又はそれらに準じる方法に従ってよい。
また、本発明の前記工程(1)において、センシタイジング−アクチベーティング法又はキャタライジング−アクセラレーティング法等の処理は繰返し行ってもよく、繰返して行う場合、その回数は特に限定されず、通常2〜10回、製造効率等の観点から、好ましくは2〜6回程度である。また、センシタイジング−アクチベーティング法又はキャタライジング−アクセラレーティング法等の処理は、多孔質基材の片側のみを処理することで行ってもよく、両側を処理してもよい。多孔質基材の片側のみを処理する場合、例えば、多孔質基材の片側を処理に用いる溶液とは異なる溶液(例えば、後記する溶液(H)等)に浸漬させておき、反対側のみを処理液に浸漬させる等して、処理を行ってもよい。
上記の処理を行うことで、好ましくは、得られる膜の均一性が向上する。
【0030】
本発明の好ましいひとつの態様において、センシタイジング−アクチベーティング法は、例えば、溶液Aがパラジウム(II)イオン、銀イオン又は銅イオンを含有する溶液である場合、例えば、スズ(II)イオン(Sn
2+)を多孔質基材の細孔内に吸着(センシタイジング、又は感応化)させ、次いで前記細孔内を溶液Aで処理して、一部の金属イオンを還元し、金属を析出(アクチベーティング、又は活性化)させることにより行ってもよい。本態様において、上記センシタイジングを行う際のセンシタイジング液は、特に限定されず、例えば、国際公開WO2010/023895パンフレットに記載されているような、SnCl
2、Sn(CH
3COCHCOCH
3)
2、SnBr
2、SnI
2、及びSnSO
4から選ばれる1種以上のSn化合物を含有する溶液等が挙げられる。
センシタイジング液の濃度は、所望により適宜選択してよく、特に限定されないが、通常約0.0001〜約1mol/L、製造効率及び得られる複合体の性能等の観点から、好ましくは、約0.001〜約0.5mol/Lである。
【0031】
本発明の別の好ましいひとつの態様において、キャタライジング−アクセラレーティング法は、例えば、スズ(IV)化合物で保護されたパラジウム(II)の保護コロイドが分散した溶液に多孔質基材を浸漬させて、多孔質基材の細孔内にパラジウム(II)の保護コロイドを吸着させ、次いで塩酸などの酸溶液で細孔内を処理し、コロイドのスズ化合物を溶解させて、パラジウム(II)を活性化(アクセラレーティング)させることにより行ってもよい。
【0032】
本発明の特に好ましいひとつの態様において、センシタイジング−アクチベーティング法による処理は、例えば、以下の手順により行ってもよい:
<1>多孔質基材の片側を溶液(H)に浸漬させ、反対側をスズ(II)イオンを含有するセンシタイジング液に浸漬させて、多孔質基材の細孔内にセンシタイジング液を浸透させ感応化処理を行う;
<2>その後、センシタイジング液に浸漬させた多孔質基材の片側を、センシタイジング液に替えて溶液Aに浸漬させ、感応化処理された多孔質基材の細孔内に溶液Aを浸透させ活性化処理を行う。
上記<1>及び<2>の処理は2〜10回程度繰り返し行うことが好ましく、2〜6回程度繰り返し行うことがより好ましい。多孔質基材をセンシタイジング液及び溶液Aに浸漬させる時間は、特に限定されず、多孔質基材の材質、大きさ、形状、多孔質基材の細孔の大きさ、処理液の種類、又は処理温度等により適宜選択することができるが、通常それぞれ約5秒〜約10時間であってよく、製造効率等の観点から、好ましくは約10秒〜約5時間、より好ましくは約10秒〜約1時間である。処理温度は、特に限定されないが、通常、約5℃〜約60℃であってよく、製造効率の観点から、好ましくは約10℃〜約40℃、より好ましくは約15℃〜約35℃である。
本態様において、前記溶液Aは、特に限定されないが、好ましくはパラジウム(II)イオンを含有するものであり、より好ましくは、塩化パラジウム(II)溶液、硝酸パラジウム(II)溶液、硫酸パラジウム(II)溶液、及び酢酸パラジウム(II)溶液から選ばれる1種以上である。前記溶液(H)は、特に限定されないが、pH約4以下の酸性溶液であることが好ましい。pH約4以下の酸性溶液としては、特に限定されないが、酸を含有する水溶液が挙げられ、酸は無機酸であっても有機酸であってもよい。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、有機スルホン酸等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて用いてもよい。
さらに、本態様において、必須ではないが、上記<1>の処理の後に、センシタイジング液に浸漬させた側の多孔質基材表面を溶液(H)に浸漬する工程、又は、前記表面に溶液(H)を掛け流す工程である、工程<1’>が含まれていてもよい。この工程を行うことにより、好ましくは多孔質基材表面に付着したスズ(II)イオンを除去することができる。また、同様に、必須ではないが、上記<2>の処理の後に、溶液Aに浸漬させた側の多孔質基材表面を溶液(H)に浸漬する、又は、前記表面に溶液(H)を掛け流す工程<2’>が含まれていてもよい。この工程を行うことにより、好ましくは多孔質基材表面に付着したパラジウム(II)イオンを除去することができる。上記工程<1’>及び<2’>を行うことで、好ましくは得られる膜の均一性が向上する。
上記のようにしてセンシタイジング−アクチベーティング処理を2〜10回程度、好ましくは2〜6回程度繰り返し行った多孔質基材を、下記に詳述する工程(2)に用いることができる。
【0033】
なお、本発明において、前記溶液(H)の濃度は、所望により適宜選択してよく、特に限定されないが、例えば、通常約0.01〜約10mol/L、製造効率及び得られる複合体の性能等の観点から、好ましくは約0.05〜約5mol/L、より好ましくは約0.1〜約1.5mol/Lである。
また、本発明者らは、本発明の検討において、予想外にも、溶液(H)の濃度を制御することで、本発明の多孔質基材の内部に薄膜化した金属充填層を有する複合体の、金属充填層が形成する位置を制御できるという、本発明に特有の顕著にして有用な知見を得た。すなわち、溶液(H)の濃度を上記範囲内で低くすると、多孔質基材表面から金属充填層までの距離が長くなり、溶液(H)の濃度を上記範囲内で高くすると、多孔質基材表面から金属充填層までの距離が短くなるという新知見を得た。溶液(H)の濃度を調整することにより、金属充填層の形成される位置を制御する方法も、本発明のひとつの態様に含まれる。
【0034】
本発明のひとつの態様において、前記複合体の製造方法は、
(2)前記工程(1)で得られた多孔質基材の一方の表面をpH約4以下の溶液(H)と接触させながら、該多孔質基材の反対側の表面から、還元剤を含む溶液(C)を浸透させ、該多孔質基材の細孔内に金属種核を担持させる工程
を含む。
【0035】
工程(2)で用いる前記「pH約4以下の溶液(H)」は、特に限定されないが、上記した溶液(H)と同じであってもよい。また、「多孔質基材の一方の表面を液体と接触させる」とは、「多孔質基材の片側を液体に浸漬させる」ことを包含する。
【0036】
前記還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、クエン酸、クエン酸ナトリウム、タンニン酸、ジボラン、ヒドラジン、アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド等)、ギ酸、グルコース、塩化スズ等が挙げられる。前記還元剤を適当な溶媒に溶解して、還元剤を含む溶液(C)が得られる。還元剤を溶解させる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、エタノール、クロロホルム等が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上を混合して用いてよい。
【0037】
本発明において、前記溶液(C)の濃度は、所望により適宜選択してよく、特に限定されないが、例えば、通常約0.001〜約1mol/L、製造効率及び得られる複合体の性能等の観点から、好ましくは約0.01〜約0.5mol/Lである。
また、本発明者らは、本発明の検討において、予想外にも、溶液(C)の濃度を制御することで、本発明の多孔質基材の内部に薄膜化した金属充填層を有する複合体の、金属充填層が形成する位置を制御できるという、本発明に特有の顕著にして有用な知見を得た。すなわち、溶液(C)の濃度を上記範囲内で低くすると、多孔質基材表面から金属充填層までの距離が長くなり、溶液(H)の濃度を上記範囲内で高くすると、多孔質基材表面から金属充填層までの距離が短くなるという新知見を得た。溶液(C)の濃度を調整することにより、金属充填層の形成される位置を制御する方法も、本発明のひとつの態様に含まれる。
【0038】
本発明のひとつの好ましい態様において、前記工程(2)は以下の手順により行ってもよい:前記工程(1)で得られた、細孔に溶液Aが充填された多孔質基材の片側を溶液(H)に浸漬させ、該多孔質基材の反対側を溶液(C)に浸漬させる。
本態様において、多孔質基材を溶液(C)に浸漬させる時間は、特に限定されず、多孔質基材の材質、大きさ、形状、多孔質基材の細孔の大きさ、溶液(C)の種類、又は処理温度等により適宜選択することができるが、通常約5秒〜約10時間であってよく、製造効率等の観点から、好ましくは約10秒〜約5時間、より好ましくは約10秒〜約1時間である。処理温度は、特に限定されないが、通常、約5℃〜約60℃であってよく、製造効率の観点から、好ましくは約10℃〜約40℃、より好ましくは約15℃〜約35℃である。
溶液(C)が細孔内に浸透し、細孔内のpHが約4以上となることで溶液Aの金属イオン(A)が還元されて金属種核が形成され、多孔質基材の細孔内に金属種核を担持させることができる。
【0039】
本発明の前記工程(2)によって得られる多孔質基材と金属種核の複合体は、金属種核が多孔質基材の表面にほとんど又は全く付着しておらず、金属種核は、多孔質基材表面から、好ましくは一定の深さにある細孔内に、好ましくは均一に存在する。
したがって、本発明の複合体の製造方法は、保護材を積層させる工程、又は特許第5155343号公報に記載されているような、表面及び表面付近の細孔に付着した金属種核を溶解させて除去する工程等の、多孔質基材の表面に保護層を形成させるための煩雑な工程を要しない。
【0040】
本発明の別のひとつの好ましい態様において、前記工程(1)が前記工程<1>、<1’>、<2>及び<2’>を含む場合、前記工程(2)は以下の手順により行ってもよい:
前記工程<2’>において溶液(H)でパラジウム(II)イオンを除去した側の多孔質基材表面を、溶液(C)に浸漬させ、細孔内に溶液(C)を浸透させる。この工程において、細孔内に存在するパラジウム(II)イオンは、還元剤と接触してpH約4以上となることで還元され、パラジウム金属となって析出し、多孔質基材の細孔内にパラジウム核を形成する。なお、本態様において溶液(C)、多孔質基材の表面を溶液(C)と浸漬させる時間又は温度は上記と同様であってよい。
【0041】
本発明のひとつの態様において、前記複合体の製造方法は、
(3)前記工程(2)で得られた金属種核を担持した多孔質基材を、金属イオン(B)を含有するめっき液により無電解めっき処理する工程
を含む。
工程(3)における無電解めっき処理により、金属種核を成長させ、多孔質基材の細孔を成長した金属により閉塞させて金属充填層(金属膜)を形成させることができる。
【0042】
本発明の前記工程(3)における無電解めっき処理の方法としては、通常用いられる方法であれば、特に限定されず、前記特許文献8(特開2006−95521号公報)、特開2005−248192号公報等に示される方法と同様にして行うことができる。
【0043】
本発明のひとつの態様において、前記めっき液として、金属イオン(B)、錯形成剤、還元剤、溶剤を含むものを用いるのが好ましい。金属イオン(B)は、適当な金属塩、例えば酢酸塩、塩化物、硝酸塩、又は硫酸塩等のめっき液成分として供される。
【0044】
前記金属イオン(B)の金属種は、特に限定されないが、例えば遷移金属等が挙げられ、遷移金属として、例えば、周期表の4族、5族、8族、9族、10族または11族の金属等が挙げられる。中でも、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金、白金、イリジウム、オスミウム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウムまたはチタン等が好ましく、パラジウム、銅、銀、白金、金がさらに好ましい。
また本発明において、金属イオン(B)の金属種は、前記金属イオン(A)と同一であってもよく、異なってもよく、得られる複合体の用途等に応じて、所望により適宜選択してよい。
【0045】
前記錯形成剤としては、金属イオン(B)を安定に溶存させるものであればよく、その例として好ましくはアンモニアとキレート剤との組合せ、中でもアンモニアとEDTAとの組合せが挙げられ、キレート剤としては、EDTAの他、NTA(ニトリロトリ酢酸)や、クエン酸、酒石酸等の脂肪族オキシ酸等が挙げられる。無電解めっき処理に用いる還元剤としては、上記した溶液(C)と同様のものが使用できる。無電解めっき処理に用いる溶剤としては、錯形成剤の種類等により適宜選択してよく、例えば、水、あるいはアセトニトリル、ベンゼン、又はクロロホルム等の有機溶媒等が挙げられる。
【0046】
めっき液組成について、例えば金属イオン(B)、キレート剤、アンモニアおよび還元剤を含有する場合、各濃度は、それぞれ、金属イオン(B)を約0.001〜約0.05mol/L、キレート剤を約0.01〜約0.5mol/L、アンモニアを約5〜約15mol/L、還元剤を約0.005〜約0.05mol/Lとするのがよい。めっき液を調製する場合、前記無電解めっき処理の直前に還元剤を加えることが好ましい。
【0047】
前記無電解めっき処理の温度は、所望により適宜設定してよく、特に限定されないが、例えば、通常約1〜約80℃であり、より好ましくは約2〜約75℃程度である。無電解めっき処理時間はめっき液温度や膜厚に応じて適宜選択してよく、特に限定されないが、例えば、通常約1分〜約100時間、好ましくは約1〜72時間程度である。前記無電解めっき処理後、常法により、得られた複合体を洗浄し、乾燥させて本発明の複合体が得られる。
【0048】
本発明の別のひとつの好ましい態様において、前記工程(1)が前記工程<1>、<1’>、<2>及び<2’>を含む場合、前記工程(3)は、例えば、以下の手順により行ってもよい:前記工程(2)において、細孔内に金属種核を担持した多孔質基材と、浸漬させていた溶液(H)及び溶液(C)とを分離し、所望により該多孔質基材の表面を水等で洗浄した後、該多孔質基材をめっき液に浸漬させる。無電解めっき処理後、得られた複合体とめっき液を分離し、所望により、温水等で該複合体の表面を洗浄してもよい。
本態様において、めっき液の組成、金属イオン(B)、無電解めっき処理の温度又は時間等は、上記と同様であってよい。
【0049】
本発明のひとつの態様において、所望により、前記工程(3)の無電解めっき処理の後に、(4)複合体を焼成する工程が含まれていてもよい。焼成温度は、特に限定されないが、例えば、通常約400℃〜約1500℃、好ましくは約500℃〜約1400℃、より好ましくは約500℃〜約1350℃である。焼成時間は、特に限定されないが、例えば、通常約1〜約72時間、好ましくは約1〜約48時間、より好ましくは約1〜約40時間である。また、焼成は空気雰囲気下で行ってもよく、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。さらに、焼成時の昇温速度は、特に限定されないが、約0.1〜約1℃/分が好ましい。また、前記工程(4)は、焼成処理の後に、複合体を還元処理する工程を含んでいてもよい。還元処理を行うことで、好ましくは、得られる膜の性能が向上する。複合膜の還元処理は、前記溶液(C)に複合体を浸漬することにより実施してもよく、又は複合体を水素ガス気流中で昇温させながら水素還元する方法等で実施してもよい。水素還元は、従来十分に確立されており、本発明によっても公知方法、自体公知の方法又はそれらに準じる方法に従ってよい。
【0050】
本発明のひとつの態様において、前記工程(4)の焼成処理の後に、得られた複合体中の金属層の緻密化向上を目的として、所望により、さらに前記工程(3)と同様の無電解めっき処理を行ってもよい。本態様において前記工程(3)を再度行う場合、前記工程(2)から繰り返してもよく、前記工程(1)から繰り返してもよい。本発明の好ましいひとつの態様において、一度目の工程(3)における無電解めっき処理を短時間(例えば、約5分〜約1時間)で行い、工程(4)の処理を行った後、続く2度目の工程(3)における無電解めっき処理を、1度目よりも長い時間(例えば、約1時間〜約5時間)で行ってもよい。
【0051】
本発明の好ましい態様において、多孔質基材の内部に薄膜化した金属充填層を有する複合体の製造方法は、
(1)多孔質基材の細孔内に、金属イオン(A)を含有するpH約4以下の溶液を充填する工程、
(2)前記工程(1)で得られた金属イオン(A)が充填された多孔質基材の一方の表面を、pH約4以下の液体と接触させながら、該多孔質基材の反対側の表面から還元剤を含む溶液(C)を浸透させ、該多孔質基材の細孔内に金属種核を担持させる工程、及び
(3)前記工程(2)で得られた金属種核を担持した多孔質基材を、金属イオン(B)を含有するめっき液により無電解めっき処理する工程、
を含む。
本態様において、前記金属イオン(A)及び前記金属イオン(B)は同一であっても異なっていてもよく、金属イオン(A)及び金属イオン(B)の金属種は、上記と同様であってよい。また、pH約4以下の液体、還元剤、溶液(C)、めっき液、無電解めっき処理条件等は、上記と同様であってよい。
【0052】
本発明の別の好ましい態様において、多孔質基材の内部に薄膜化した金属充填層を有する複合体の製造方法は、
(1)多孔質基材の細孔内に、金属イオン(A)を含有するpH約4以下の溶液を充填する工程、
(2)前記工程(1)で得られた金属イオン(A)が充填された多孔質基材の一方の表面を、pH約4以下の液体と接触させながら、該多孔質基材の反対側の表面から還元剤を含む溶液(C)を浸透させ、該多孔質基材の細孔内に金属種核を担持させる工程、
(3)前記工程(2)で得られた金属種核を担持した多孔質基材を、金属イオン(B)を含有するめっき液により無電解めっき処理する工程、及び、
(4)前記工程(3)で得られた複合体を、焼成する工程、
を含む。
本態様において、前記金属イオン(A)及び前記金属イオン(B)は同一であっても異なっていてもよく、金属イオン(A)及び金属イオン(B)の金属種は、上記と同様であってよい。また、pH約4以下の液体、還元剤、溶液(C)、めっき液、無電解めっき処理条件、焼成条件等は、上記と同様であってよい。
【0053】
本発明のさらに別の好ましい態様において、多孔質基材の内部に薄膜化した金属充填層を有する複合体の製造方法は、
(1)多孔質基材の細孔内に、金属イオン(A)を含有するpH約4以下の溶液を充填する工程、
(2)前記工程(1)で得られた金属イオン(A)が充填された多孔質基材の一方の表面を、pH約4以下の液体と接触させながら、該多孔質基材の反対側の表面から還元剤を含む溶液(C)を浸透させ、該多孔質基材の細孔内に金属種核を担持させる工程、
(3)前記工程(2)で得られた金属種核を担持した多孔質基材を、金属イオン(B)を含有するめっき液により無電解めっき処理する工程、
(4)前記工程(3)で得られた複合体を、焼成する工程、及び、
(5)前記工程(4)によって焼成した複合体を、さらに無電解めっき処理する工程、
を含む。
本態様において、前記金属イオン(A)及び前記金属イオン(B)は同一であっても異なっていてもよく、金属イオン(A)及び金属イオン(B)の金属種は、上記と同様であってよい。また、pH約4以下の液体、還元剤、溶液(C)、めっき液、無電解めっき処理条件、焼成条件等は、上記と同様であってよい。
また、前記工程(5)における無電解めっき処理は、前記工程(3)と同様の処理のみ、又は、前記工程(2)及び(3)と同様の処理、あるいは、前記工程(1)、(2)及び(3)と同様の処理によって行ってもよい。さらに、前記工程(5)における無電解めっき処理(2回目の無電解めっき処理)は、前記工程(3)における無電解めっき処理(1回目の無電解めっき処理)よりも長い時間で行うことが好ましい。
【0054】
上記した本発明の製造方法により、好ましくは、多孔質基材の内部に、薄膜化した均一な金属充填層を有する複合体が得られる。該複合体の表面は、金属が実質的に充填されていない多孔質基材の層となっており、この層が、金属充填層(金属膜)の保護層として機能するため、本発明の製造方法は、保護層を形成するための特別な工程(例えば、別途保護材を積層する等の工程)を要しない。
【0055】
本発明に係る複合体は上記の通り、多孔質基材の細孔に金属が充填されているとともに、該金属により細孔が閉塞されており、しかも該金属が多孔質基材の表面ではなく、基材の表面より内側に層を成して存在する。
【0056】
本発明の複合体における金属充填層の厚さは、特に限定されないが、通常約1〜約20μm、好ましくは約1〜約18μm、より好ましくは約1〜約15μmとすることが好ましい。本発明の製造方法によって得られた複合体は、多孔質基材の空隙率が30%程度であるため、充填金属(例えば、パラジウム)の使用量を低減させることが可能となる。
【0057】
次に、本発明の製造方法によって製造された複合体を水素分離膜として使用した場合の水素分離方法について説明する。本発明の水素分離方法は、水素を含有する混合ガス(以下、水素混合ガスという)を前記複合体に接触させて、水素を選択的に透過させることを特徴とする。
【0058】
本方法の具体的な態様としては、前記複合体の片側(例えば、管状複合体の場合、内側)に水素混合ガスを置き、その反対側(例えば、管状複合体の場合、外側)の水素分圧を水素混合ガスの水素分圧以下にすれば、複合体中を水素が選択的に透過し、水素混合ガス中にある水素を反対側に分離することができる。この水素分離方法は通常室温〜約700℃、好ましくは約300〜約600℃の温度で好適に実施することができる。
【0059】
前記水素混合ガスとしては、水素を含有しているガスであれば特に限定されず、例えば、水素と、酸素、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、フッ素、塩素、臭素、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、アンモニア、二酸化イオウ、硫化水素、塩化水素、水(水蒸気)、メタノール、エタノール、トルエン、パラフィン系炭化水素またはオレフィン系炭化水素等との混合ガスが挙げられる。なお、前記パラフィン系炭化水素は、飽和鎖式炭化水素、アルカンまたはメタン系炭化水素とも呼ばれ、このようなパラフィン系炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0060】
本発明の好ましいひとつの態様において、上記の製造方法によって得られる複合体は、約600℃における水素選択性が通常約30万以上(窒素が検出限度以下)である。したがって、約600℃における水素選択性が通常約30万以上である、多孔質基材の内部に薄膜化したパラジウム金属層を有する複合体も、本発明の態様に包含される。
なお、本発明において「水素選択性が30万以上」とは、
図13に示す装置を用いて行うガス透過試験において、水素の透過度を窒素の透過度で除した値で表す。
下記に、ガス透過試験におけるガスクロマトグラフィー測定の、測定条件を示す:
ガス:ガスクロマトグラフィー;GC(TCD)
カラム:Porapak−N 2m、molecular Sieve 13X 2m(GLサイエンス株式会社)
キャリアガス:Ar
テストガス:H2/N2=75:25
ガス流量:1000ml/分
入口ガス圧力:150kPa(透過側との差圧150kPa)。
ガス透過試験のより詳しい条件は、後記する試験例1を参考としてよい。
【0061】
さらに、本発明の多孔質基材の内部に薄膜化した金属充填層を有する複合体における、金属充填層が銀である場合、該複合体を電磁場シールド、滅菌コートとして用いることができる。
【実施例】
【0062】
次に、実験例、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0063】
なお、以下の実施例において、多孔質基材は、細孔径0.1μm、直径10mm、内径7mmのαアルミナ製のチューブ状(日本ガイシ株式会社製)の多孔質基材(以下、「アルミナ基板」と略称する)を使用した。
【0064】
[実施例1]
以下のようにして複合体を製造した。工程(1)〜(3)の合成スキームを
図1に示す。
【0065】
〔工程(1)〕
パラジウムの種結晶の原料となる塩化パラジウム溶液は、以下の手順で調製した。0.10gの塩化パラジウム(II)(和光純薬工業株式会社製、以降、単に「塩化パラジウム」と表記する。)を12.5μLの塩酸(和光純薬株式会社製)に溶解させ、脱イオン水を20mL加えて攪拌し、塩化パラジウムを溶解させた。溶解させた塩化パラジウムを5mlとり、脱イオン水を加えて全量を200mLとすることにより塩化パラジウム溶液を調製した。還元剤となる塩化スズ溶液は、0.20gの塩化スズ(II)(和光純薬工業株式会社、純度97%、以降、単に「塩化スズ」と表記する。)を0.20mLの塩酸に溶解させ、脱イオン水を加えて全量を200mLとすることにより調製した。塩酸溶液は20mlの塩酸に脱イオン水を加えて全量を200mLとすることにより調製した。これを塩酸溶液1(1.2mol/L)とする。塩酸溶液1とは別に、2mlの塩酸に脱イオン水を加えて全量を20mLとした塩酸溶液2(1.2mol/L)を調製した。調製した塩酸溶液2をアルミナ基板の内筒側に注入した。調製した塩化パラジウム溶液、塩化スズ溶液、塩酸溶液1を丸底φ40×350mmのガラス試験管中にそれぞれ入れ、塩酸溶液2を充填したアルミナ基板を塩化スズ溶液、塩酸溶液1、塩化パラジウム溶液、塩酸溶液1の順に、室温で各1分の浸漬を3回くり返し行った。
【0066】
〔工程(2)〕
多孔質アルミナ基板へのパラジウム複合化は以下の手順にて実施した。還元剤としてヒドラジン水溶液を用いた。ヒドラジン水溶液は2mLのヒドラジン一水和物(和光純薬工業社製)を脱イオン水で希釈し、全量を200mLとすることにより調製した。工程(1)で得られたアルミナ基板をヒドラジン水溶液に、室温で1分間浸漬させることでパラジウムの還元処理を行い、パラジウム種核を形成させた。還元処理後、アルミナ基板の内筒側に注入した塩酸溶液を除き、脱イオン水にて、十分に洗浄を行った。
【0067】
〔工程(3)〕
パラジウム種核形成後、パラジウム充填率の向上を目的として、以下のようにして、アルミナ多孔質基板へ無電解めっき処理を実施した。めっき液は市販のパラジウムめっき液であるパラトップ(商品名、還元剤:ギ酸ナトリウム、奥野製薬工業株式会社)を規定の濃度に希釈して使用した。すなわち、20mLのパラトップA液および20mLのパラトップB液に脱イオン水を加え、全量を200mLとして使用した。めっき温度は50℃、めっき時間は30分として反応を行った。
【0068】
〔工程(4)〕
無電解めっき後、複合体を50℃の脱イオン水に浸漬させ、めっき液の洗浄を行ったのち、1250℃の空気条件で24時間焼成し、パラジウムの焼結処理を行った。得られた複合体をヒドラジン水溶液に一晩浸漬して還元処理を行った。ヒドラジン水溶液は1mLのヒドラジン一水和物(和光純薬工業社製)を脱イオン水で希釈し、全量を200mLとすることにより調製した。還元処理を行った後に、50℃、1時間30分の条件で二次めっき処理を行った。なお、一次めっき及び二次めっきは奥野製薬工業株式会社製のパラトップを規定の条件で調製しためっき液を使用した。
【0069】
(結果)
実施例1で作製した複合体(複合膜)の構造をレーザー顕微鏡(VK−8500:商品名、株式会社キーエンス製)にて観察した。レーザー顕微鏡観察の観察結果を
図2(a)および(b)に示す。無電解めっきにより形成されたパラジウム複合層がアルミナ基板内に選択的に形成されていることが確認された。これは、無電解めっきの反応場となるパラジウム核が、あらかじめアルミナ基板内に選択的に配されていることによるものと考えられる。
【0070】
また、
図3(a)に実施例1で作製した複合体のSEM(S−5000:日立高分解能電界放出形走査顕微鏡、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)による観察画像、
図3(b)および
図3(c)にエネルギー分散型X線分析装置(EDX、製品名:Genesis−XM2、エダックス・ジャパン株式会社)により分析した画像を示す。
図3に示した結果から、本発明により、アルミナ基板内に金属を選択的に充填可能であることが確認された。無電解めっきにより形成されたパラジウム複合層の厚さは9μmであり、アルミナ基板表面から充填層までの距離は15.4μmであった。
【0071】
本発明は、実施例1の工程(1)における塩酸の濃度を変えることにより、アルミナ基板表面からのパラジウム複合層の位置を制御することが可能である。実施例2〜4に詳細を記載する。
【0072】
[実施例2]
工程(1)における塩酸溶液を0.3mol/Lとし、工程(2)におけるヒドラジン水溶液(200mL)中のヒドラジン一水和物の量を70μLとする以外は、実施例1の工程(1)〜(3)と同様にして、複合体(複合膜)を作製した。なお、本実施例においては、実施例1の工程(4)は実施しなかった。
[実施例3]
工程(1)における塩酸溶液を0.6mol/Lとする以外は、実施例2と同様にして、複合体(複合膜)を作製した。
[実施例4]
工程(1)における塩酸溶液を1.2mol/Lとする以外は、実施例2と同様にして、複合体(複合膜)を作製した。
【0073】
(結果)
実施例2〜4で作製した複合体(複合膜)の断面の構造を、レーザー顕微鏡にて観察した。レーザー顕微鏡の観察結果を
図4に示す。塩酸溶液が0.3mol/Lの複合体(実施例2、
図4(a))はアルミナ基板表面からパラジウム複合膜までの距離が73μmであった。塩酸溶液が0.6mol/Lの複合体(実施例3、
図4(b))は、アルミナ基板表面からパラジウム複合膜までの距離が63μmであった。塩酸溶液が1.2mol/Lの複合体(実施例4、
図4(c))は、アルミナ基板表面からパラジウム複合膜までの距離が50μmであった。
図4に示した結果から、塩酸の濃度を変えることにより、複合層を任意の位置に制御することが可能であることが確認された。
【0074】
本発明において、実施例1の工程(2)におけるドラジンの濃度を変えることにより、アルミナ基板表面からのパラジウム複合層の位置を制御することが可能である。実施例5及び6に詳細を記載する。
【0075】
[実施例5]
工程(2)におけるヒドラジン水溶液(200mL)中のヒドラジン一水和物を0.2mLとする以外は、実施例1の工程(1)〜(3)と同様にして、複合体を作製した。なお、本実施例において工程(4)は実施しなかった。
[実施例6]
工程(2)におけるヒドラジン水溶液中のヒドラジン一水和物を1mLとする以外は、実施例5と同様にして、複合体を作製した。
【0076】
(結果)
実施例1、5及び6で作製した複合体の断面のレーザー顕微鏡の観察結果を、
図5に示す。ヒドラジン水溶液200ml中のヒドラジン一水和物が0.2mlの複合体(実施例5、
図5(a))はアルミナ基板表面からパラジウム複合膜までの距離が60μmであった。含水ヒドラジンが1mlの複合体(実施例6、
図5(b))は、アルミナ基板表面からパラジウム複合膜までの距離が30μmであった。含水ヒドラジンが2mlの複合体(実施例1、
図5(c))は、アルミナ基板表面からパラジウム複合膜までの距離が15μmであった。
図5に示した結果から、ヒドラジンの濃度を変えることにより、複合層を任意の位置に制御することが可能であることが確認された。これは、理由は定かではないが、ヒドラジンの濃度を変えることにより中和点がアルミナ基板表面に近づき、中和点において良好なパラジウムコロイドが生成するためであると考えられる。
【0077】
本発明に用いることが可能な金属は、パラジウムに限定するものではなく、他金属に対しても有効である。実施例7〜9に各複合体の製造方法を説明する。
【0078】
[実施例7]
実施例1と同様にして工程(1)及び(2)を実施した。パラジウム種核形成後、以下のようにしてアルミナ基板へ銅の無電解めっき処理を実施した。めっき液は市販の銅めっき液であるOPC−750電解銅M−A、BおよびC(商品名、還元剤:ホルムアルデヒド、奥野製薬工業株式会社)を規定の濃度に希釈して使用した。すなわち、20mLのOPC−750無電解銅M−A液および20mLのOPC−750無電解銅M−B液および0.4mLのOPC−750無電解銅M−C液に脱イオン水を加え、全量を200mLとして使用した。めっき温度は室温、めっき時間は30分として反応を行った。
[実施例8]
実施例1と同様にして工程(1)及び(2)を実施した。パラジウム種核形成後、アルミナ基板へパラジウム無電解めっき処理を実施した。めっき液は市販のパラジウムめっき液であるパラトップを規定の濃度に希釈して使用した。めっき温度は50℃、めっき時間は10分として反応を行った。パラジウムめっき後のアルミナ基板をヒドラジン溶液に30秒間浸漬した。ヒドラジン水溶液は1mLのヒドラジン一水和物を、水で希釈し200mLに調製した。アルミナ基板をヒドラジン水溶液に浸漬後、脱イオン水でアルミナ基板を洗浄し、銀の無電解めっき処理を実施した。めっき液は硝酸銀0.972g、ジクロロテトラアンミンパラジウム0.108g、2Na・EDTA 6.72g、アンモニア水溶液(28%)130mL、ヒドラジン一水和物70μLを200mlのメスフラスコに入れ、水を加えて全量を200mLとした。めっき温度は50℃、めっき時間は10分として反応を行った。
[実施例9]
実施例1と同様にして工程(1)及び(2)を実施した。パラジウム種核形成後、アルミナ基板への白金無電解めっき処理を実施した。めっき液は、ジクロロテトラアンミン白金一水和物0.088g、アンモニア水溶液(28%)0.8mL、エチレンジアミン0.03mL、ヒドラジン0.2mLを200mlのメスフラスコに入れ、水を加えて全量を200mLとした。めっき温度は75℃、めっき時間は30分として反応を行った。
【0079】
(結果)
実施例7〜9で作製した複合体(複合膜)の断面の構造を、レーザー顕微鏡及びEDXにて観察、分析した。結果を
図6〜8に示した。
実施例7で作製した複合体のレーザー顕微鏡での観察結果を
図6(a)に、EDXの分析結果を
図6(b)及び
図6(c)に示す。
図6に示した結果から、本発明の製造方法により、アルミナ基板内に銅複合体を形成することが可能であることが確認された。
実施例8で作製した複合体(複合膜)のレーザー顕微鏡での観察結果を
図7(a)に、EDXの分析結果を
図7(b)及び
図7(c)に示す。
図7に示した結果から、本発明の製造方法により、アルミナ基板内に銀複合体を形成することが可能であることが確認された。
実施例9で作製した複合体(複合膜)のレーザー顕微鏡での観察結果を
図8(a)に、EDXの分析結果を
図8(b)及び
図8(c)に示す。
図8に示した結果から、本発明の製造方法により、アルミナ基板内に白金複合体を形成することが可能であることが確認された。
【0080】
本発明に用いることが可能な多孔質基材は、アルミナ基板に限定されるものではなく、他の多孔質基材に対しても有効である。以下のようにして、他多孔質基材に対してパラジウム複合体を製造した。実施例10に詳細を記載する。
【0081】
[実施例10]
実施例1で用いたアルミナ基板をムライト基板に変える以外は、実施例1と同様にして工程(1)〜(3)を実施して、複合体(複合膜)を作製した。「ムライト基板」とは直径12mm、内径9mm、細孔径1.2μmのムライト(酸化アルミニウムと二酸化ケイ素の混合物)製のチューブ状多孔質基材(株式会社ニッカトー製)である。
なお、本実施例において、工程(4)は実施しなかった
【0082】
(結果)
実施例10で作製した複合体(複合膜)の構造をレーザー顕微鏡で観察した。観察結果を
図9(a)に示す。また、EDXの分析結果を
図9(b)及び
図9(c)に示す。ムライト基板表面からパラジウム複合膜までの距離は、14μm程度であった。
図9に示した結果から、本発明の製造方法によれば、ムライト基板に対しても、基板内に複合膜を選択的に形成することが可能であることが確認された。
【0083】
本発明に用いることが可能な酸性溶液は塩酸に限定されず、他の酸性溶液でも有効である。実施例11及び12に詳細を記載する。
【0084】
[実施例11]
実施例1で用いた塩酸1及び2を、硝酸(和光純薬工業株式会社製)1.2mol/Lに変更する以外は、実施例1と同様にして工程(1)〜(3)を実施し、複合体(複合膜)を作製した。なお、本実施例において、工程(4)は実施しなかった。
[実施例12]
硝酸(和光純薬工業株式会社製)1.2mol/Lを、硫酸(和光純薬株式会社)0.6mol/Lに変更する以外は、実施例11と同様にして、複合体(複合膜)を作製した。
【0085】
(結果)
実施例11及び12で作製した複合体(複合膜)の断面のレーザー顕微鏡での観察の結果を
図10に示す。硝酸を用いた場合(実施例11、
図10(a))でもパラジウム複合体の形成が可能であることが確認された。アルミナ基板表面からパラジウム複合膜までの距離は38μmであった。また、硫酸を用いた場合(実施例12、
図10(b))でもパラジウム複合体の形成が可能であることが確認された。アルミナ基板表面からパラジウム複合体までの距離は11μmであった。実施例11及び12の結果から、本発明の製造方法に用いる酸性溶液は塩酸に限定されず、他の酸性溶液でも基板内に複合膜を形成することが可能であることが確認された。
【0086】
本発明に用いる還元剤はヒドラジンに限定されず、他の還元剤でも有効である。実施例13、14に詳細を記載する。
【0087】
[実施例13]
実施例1で用いた還元剤を、ヒドラジン水溶液に換えてホルムアルデヒド(0.2mol/L)とする以外は、実施例1と同様にして工程(1)〜(3)を実施し、複合体(複合膜)を作製した。なお、本実施例において、工程(4)は実施しなかった。
[実施例14]
ホルムアルデヒド(0.2mol/L)を、トリメチルアミンボラン(0.02mol/L)とする以外は、実施例13と同様にして複合体(複合膜)を作製した。
【0088】
(結果)
実施例13及び14で作製した複合体(複合膜)の断面のレーザー顕微鏡での観察の結果を
図11に示す。ホルムアルデヒドを用いた場合(実施例13、
図11(a))でもパラジウム複合体の形成が可能であることが確認された。アルミナ基板表面からの距離は43μmであった。また、トリメチルアミンボランを用いた場合(実施例14、
図11(b))でもパラジウム複合体の形成が可能であることが確認された。アルミナ基板表面からの距離は30μmであった。実施例13、14の結果から、本発明の製造方法に用いる還元剤はヒドラジンに限定されず、他の還元剤でも基板内に複合膜を形成することが可能であることが確認された。
【0089】
[実施例15]
0.10gの塩化パラジウム(和光純薬工業株式会社)を12.5μLの塩酸に溶解させ、脱イオン水を20mL加えて攪拌し、塩化パラジウムを溶解させた。続いて、1.2mol/Lの塩酸溶液を調製した。調製した塩化パラジウム溶液5mLと塩酸溶液15mLを混合し、全体を20mLとした。この混合溶液をアルミナ基板内部に注入した。混合溶液を充填したアルミナ基板を水で洗浄した。その後実施例1の工程(2)、(3)と同様の操作を実施し、複合体(複合膜)を作製した。なお、本実施例において工程(2)を実施する際には、実施例1と同様に塩酸溶液2をアルミナ基板内側に充填させた。また、本実施例において、工程(4)は実施しなかった。
(結果)
本実施例においても、アルミナ基板内に金属充填層を持つ複合体を作製することができた。
【0090】
[比較例1]
実施例1の工程(1)と同様の方法により塩化スズ溶液、及び塩化パラジウム溶液を調製した。本比較例1においては、実施例1とは異なり、アルミナ基板の内側に塩酸溶液を充填せず、以下の処理を実施した:アルミナ基板の両端に栓をし、アルミナ基板の筒外側を塩化スズ溶液、脱イオン水、塩化パラジウム、脱イオン水の順に各1分の浸漬を3回繰り返し、(1セット4分間×3回)計12分の処理を行った。次に、塩酸15mlと硝酸5mlを混合したものに水を加えて、全量を100mLとした混合溶液(王水)を調製した。上記した12分間の処理を実施したアルミナ基板をこの混合溶液に1分間浸漬した。その後、実施例1の工程(2)、(3)と同様の操作によって、還元処理(パラジウム種核の形成)及び無電解めっき処理を行った。ただし、実施例1とは異なり、本比較例1においては、工程(2)及び(3)においてもアルミナ基板の内側に塩酸溶液を充填することなく処理を実施した。
【0091】
(結果)
比較例1で作製した複合体の断面の構造をレーザー顕微鏡にて観察した結果を、
図12に示す。アルミナ基板の極表面側に膜の形成が確認できるが、その膜の形成位置、及び膜の厚みは不均一である。
【0092】
[試験例1]
実施例1で作製したパラジウム複合化アルミナ膜(複合膜)を用いて気体透過試験を行った。600℃から200℃の温度条件下で水素/窒素(H2/N2=75/25(vol/vol))混合ガス試験を下記条件にて実施した。気体透過試験装置の模式図を
図13に示す。
図13に示すように、H2/N2混合ガスを、管状炉中で複合体に接触させた。このとき、混合ガスを管状炉内に送気するときの入口ガス圧力は、100kPa、150kPa、または200kPaとした(非透過側(複合膜の筒の外部)と透過側(複合膜の筒の内部)の差圧(ΔP)が100kPa、150kPa、または200kPa)。そして、前記複合体を透過したガス(透過ガス)をサンプリングして、一部は流量計に送気して透過ガスの流量を測定し、一部はガスクロマトグラフィーに送気して下記条件にてガスクロマトグラフィー(GC)測定を行った。なお、H2/N2混合ガスを管状炉中に送気するときの流量は、1000mL/分とした。
600℃から400℃におけるガス透過試験結果を表1〜3に示す。
【0093】
(GC測定条件)
ガス分析:ガスクロマトグラフィー;GC(GLサイエンス株式会社)
カラム:Porapak−N 2m、molecular Sieve 13X 2m(GLサイエンス株式会社)
キャリアガス:Ar
テストガス:H2/N2=75:25
検出器:TCD(熱伝導度検出器)
測定温度:200〜600℃(管状炉の温度と同じ温度で測定した)
インジェクター温度:60℃
【0094】
【表1】
【表2】
【表3】
なお、表1〜3の表中、ΔPは、複合膜の筒外(非透過側)圧力と複合膜の筒内(透過側)圧力の差圧を示す。なお、非透過側圧力>透過側圧力である。
【0095】
(結果)
600℃における気体透過試験の結果、(ΔP=150kPaのとき)水素の透過度は3.3×10
−8m
3m
−2s
−1Pa
−1程度であり、水素選択性(α)は初期値300,000以上(窒素は検出限度以下)を示した。600℃から200℃に温度を下げたのち、再び600℃まで昇温させた際の水素の透過度は3.3×10
−8m
3m
−2s
−1Pa
−1であり、300,000以上の水素選択性を保持していた。これはパラジウム層の剥離などによる急激な膜の破壊が起こらなかったためであると考えられる。
【0096】
以上の試験例の結果より、本発明の製造方法によれば、得られる複合体を水素分離膜として使用する場合、水素耐久性を向上させ、膜の性能寿命を増加させることが可能である。すなわち、本発明の製造方法によれば、優れた透過速度を有する水素分離膜を作製することが可能である。さらに、本発明の製造方法により得られた水素分離膜は、アルミナ基板内にパラジウム粒子が充填された構造をとっており、耐熱性の向上、膜表面の保護等、実用化面においても有用である。また、作製した複合体の構造から推定される空隙率は20〜30%程度であるため、パラジウムの使用量を低減させることもできる。