特許第6208071号(P6208071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208071
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20170925BHJP
   B60C 13/02 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   B60C13/00 H
   B60C13/00 G
   B60C13/02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-91945(P2014-91945)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-209130(P2015-209130A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100178685
【弁理士】
【氏名又は名称】田浦 弘達
(72)【発明者】
【氏名】田窪 芳久
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−034617(JP,A)
【文献】 特開2013−071631(JP,A)
【文献】 特開昭61−016113(JP,A)
【文献】 特開2004−306873(JP,A)
【文献】 特開2011−111006(JP,A)
【文献】 特開2010−036598(JP,A)
【文献】 特開平11−348514(JP,A)
【文献】 特開2011−051573(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0278321(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 13/00−13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部、当該トレッド部の両側に連なる一対のサイドウォール部および各サイドウォール部に連なるビード部にわたってトロイド状に延在するカーカス本体部と、当該カーカス本体部から延び、前記ビード部内に埋設されたビードコアの周りを折り返されてなるカーカス折返し部とを有するカーカスを備え、
前記カーカス折返し部のタイヤ径方向外端のタイヤ径方向位置が、ビードベースラインからタイヤ径方向外側に測って、タイヤ断面高さの40〜60%の範囲内に位置する空気入りタイヤであって、
タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を適用した無負荷状態のタイヤ幅方向断面視において、
前記サイドウォール部の外輪郭形状が、タイヤ径方向内側から外側に向かって、互いに曲率の異なる第1部分から第n部分(3≦n)までで形成されるとともに、前記カーカス折返し部のタイヤ径方向外端のタイヤ径方向位置をタイヤ径方向に含む折返し端保護領域を有し、
前記第1部分がタイヤ幅方向内側に凸となる円弧または直線であり、前記第2部分から前記第n部分までの各部分がタイヤ幅方向内側に凸となる円弧であり、
各円弧の曲率半径がタイヤ径方向内側から外側に向かうに従い順次小さくなり、
前記第1部分のタイヤ径方向内端および前記第n部分のタイヤ径方向外端のタイヤ径方向位置は、ビードベースラインからタイヤ径方向外側に測って、それぞれ、タイヤ断面高さの41〜48%の範囲内およびタイヤ断面高さの55〜63%の範囲内に位置することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1部分が直線であり、
前記第2部分から前記第n部分までの各部分のタイヤ径方向に沿う長さは、当該第2部分から当該第n部分に向かうに従い順次小さくなる、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記外輪郭形状における前記折返し端保護領域は、第1部分から第3部分までで形成され(n=3)、
前記第1部分が直線であり、
前記第2部分の円弧がタイヤ断面高さの60〜80%の範囲内の曲率半径を有し、
前記第3部分の円弧がタイヤ断面高さの15〜30%の範囲内の曲率半径を有する、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記外輪郭形状における前記折返し端保護領域は、第1部分から第3部分までで形成され(n=3)、
前記第1部分と前記第2部分との境界のタイヤ径方向位置が、ビードベースラインからタイヤ径方向外側に測って、タイヤ断面高さの42〜47%の範囲に位置し、
前記第2部分と前記第3部分との境界のタイヤ径方向位置が、ビードベースラインからタイヤ径方向外側に測って、タイヤ断面高さの47〜52%の範囲に位置する、請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカス折返し部のタイヤ径方向外端のタイヤ径方向位置が、前記第1部分と前記第2部分との境界のタイヤ径方向位置よりもタイヤ径方向外側に位置する、請求項3または4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記折返し端保護領域は、タイヤ幅方向外側に向かって突出した突部の外輪郭形状に含まれる、請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤのサイドウォール部に生じ得るサイドカットに起因する故障を低減させた空気入りタイヤが、種々提案されている。具体的には、例えば鉱山において鉱石を運搬する車両に用いられる重荷重用の空気入りタイヤでは、その走行中または鉱石の積み下ろし時等に、石等によってサイドウォール部にサイドカットが生じ、それが進行しタイヤのカーカスに達してパンクなどの故障に至る場合がある。そして、このようなサイドカットによる故障を低減させるため、例えば、サイドウォール部にデコライン(カーカス折返し端を保護するために厚みが少し厚くなっている部分)を設けるタイヤが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−71631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の空気入りタイヤでは、タイヤのサイドウォール部に生じうるサイドカットに起因する故障を十分に低減できないことがあった。具体的には、図3(b)に示すように、カーカス折返し端152aをカーカス最大幅付近に位置させたタイヤ11では、当該タイヤ11を装着した車両の走行時や積み下ろし時に、カーカス最大幅付近のタイヤ外表面(図示中の部分Pe)が、その荷重によってタイヤ幅方向外側に膨らむように変形し、当該変形によって、地面に落ちている鉱石等が衝突し易くなりサイドカットが生じていた。そして、このように生じたサイドカットが、カーカス折返し端に進行し、さらに裂けが拡大するなどして故障に至ることがあった。
【0005】
そこで、本発明は、サイドカットを低減させることが可能な空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の空気入りタイヤは、トレッド部、当該トレッド部の両側に連なる一対のサイドウォール部および各サイドウォール部に連なるビード部にわたってトロイド状に延在するカーカス本体部と、当該カーカス本体部から延び、前記ビード部内に埋設されたビードコアの周りを折り返されてなるカーカス折返し部とを有するカーカスを備え、前記カーカス折返し部のタイヤ径方向外端のタイヤ径方向位置が、ビードベースラインからタイヤ径方向外側に測って、タイヤ断面高さの40〜60%の範囲内に位置する空気入りタイヤであって、タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を適用した無負荷状態のタイヤ幅方向断面視において、前記サイドウォール部の外輪郭形状が、タイヤ径方向内側から外側に向かって、互いに曲率の異なる第1部分から第n部分(3≦n)までで形成されるとともに、前記カーカス折返し部のタイヤ径方向外端のタイヤ径方向位置をタイヤ径方向に含む折返し端保護領域を有し、前記第1部分がタイヤ幅方向内側に凸となる円弧または直線であり、前記第2部分から前記第n部分までの各部分がタイヤ幅方向内側に凸となる円弧であり、各円弧の曲率半径がタイヤ径方向内側から外側に向かうに従い順次小さくなり、前記第1部分のタイヤ径方向内端および前記第n部分のタイヤ径方向外端のタイヤ径方向位置は、ビードベースラインからタイヤ径方向外側に測って、それぞれ、タイヤ断面高さの41〜48%の範囲内およびタイヤ断面高さの55〜63%の範囲内に位置することを特徴とする。
この構成によれば、タイヤの荷重負荷時において、カーカス折返し部のタイヤ径方向外端(以下、カーカス折返し端とも称す)を覆うカーカス最大幅付近のタイヤ外表面の断面形状をタイヤ径方向に平行な形状に近づけることができるので、石等による受傷を抑え、サイドカットを低減することができる。
【0007】
なお、本発明において、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organization)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA(THE TIRE AND RIM ASSOCIATION INC.)のYEAR BOOK等に記載されている、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指す。
ここで内圧を50kPaにするのは、ビード部を適用リムに組み付けてリム幅にするとともに、タイヤのケースラインの形状を保つためだけの低内圧とする趣旨である。また、ここでいう内圧の適用は、空気の他に窒素ガス等の不活性ガスその他で行うことも可能である。
なお、後述する「タイヤを適用リムに装着し、タイヤに規定の内圧を適用して最大負荷荷重を負荷させた状態」とは、タイヤを上記の適用リムに装着し、JATMA等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)を適用し、当該最大負荷能力に対応する負荷を加えた状態を指す。
【0008】
また、本発明において、「ビードベースライン」とは、タイヤのビードベースを通り、タイヤの回転軸(タイヤ幅方向)に平行な直線をいう。
【0009】
ここで、本発明の空気入りタイヤでは、前記第1部分が直線であり、前記第2部分から前記第n部分までの各部分のタイヤ径方向に沿う長さは、当該第2部分から当該第n部分に向かうに従い順次小さくなることが好ましい。
この構成によれば、タイヤの荷重負荷時の、カーカス最大幅付近のタイヤ外表面の断面形状をタイヤ径方向に平行な形状により近づけることができるので、石等による受傷をより抑えることができる。
【0010】
また、本発明の空気入りタイヤでは、前記外輪郭形状における前記折返し端保護領域は、第1部分から第3部分までで形成され(n=3)、前記第1部分が直線であり、前記第2部分の円弧がタイヤ断面高さの60〜80%の範囲内の曲率半径を有し、前記第3部分の円弧がタイヤ断面高さの15〜30%の範囲内の曲率半径を有することが好ましい。
この構成によれば、タイヤの荷重負荷時の、カーカス最大幅付近のタイヤ外表面の断面形状をタイヤ径方向に平行な形状にさらに近づけることができる。
【0011】
また、本発明の空気入りタイヤでは、前記外輪郭形状における前記折返し端保護領域は、第1部分から第3部分までで形成され(n=3)、前記第1部分と前記第2部分との境界のタイヤ径方向位置が、ビードベースラインからタイヤ径方向外側に測って、タイヤ断面高さの42〜47%の範囲に位置し、前記第2部分と前記第3部分との境界のタイヤ径方向位置が、ビードベースラインからタイヤ径方向外側に測って、タイヤ断面高さの47〜52%の範囲に位置することが好ましい。
この構成によれば、タイヤの荷重負荷時のカーカス最大幅付近のタイヤ外表面の断面形状をタイヤ径方向に平行な形状に効果的に近づけることができる。
【0012】
また、本発明の空気入りタイヤでは、前記カーカス折返し部のタイヤ径方向外端のタイヤ径方向位置が、前記第1部分と前記第2部分との境界のタイヤ径方向位置よりもタイヤ径方向外側に位置することが好ましい。
この構成によれば、カーカス折返し端でのセパレーションを抑制することができる。
【0013】
また、本発明の空気入りタイヤでは、前記折返し端保護領域は、タイヤ幅方向外側に向かって突出した突部の外輪郭形状に含まれることが好ましい。
この構成によれば、サイドウォール部のカーカス最大幅付近のゴム厚が厚くなりサイドカットのカーカスへの進行を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サイドカットを低減させることが可能な空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面の半部を、タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を適用した無負荷状態で示す図である。
図2図1に示すタイヤの一部を拡大して示す図である。
図3】(a)は、図1に示すタイヤのタイヤ幅方向断面の半部を、タイヤを適用リムに装着し、規定の内圧を適用して最大負荷荷重を負荷させた状態で模式的に示す図である。(b)は、従来の空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面の半部を、タイヤを適用リムに装着し、規定の内圧を適用して最大負荷荷重を負荷させた状態で模式的に示す図である。
図4】所定のタイヤの状態にしたときの、図1に示すタイヤおよび図3(b)の従来のタイヤの、カーカス最大幅付近のタイヤ外表面の外輪郭それぞれを、並べて示した図である。(a)は、各タイヤを、適用リムに装着し、50kPaの内圧を適用して無負荷状態としたときの図であり、(b)は、各タイヤを、規定の内圧として無負荷状態としたときの図であり、(c)は、各タイヤを、規定の内圧として最大負荷荷重を負荷したときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について例示説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ1(以下、タイヤ1とも称す)のタイヤ幅方向断面の半部を、タイヤ1を適用リムRに装着し、50kPaの内圧を適用した無負荷状態で示す図である。
図1に例示するタイヤ1は、重荷重用の空気入りタイヤ1であって、トレッド部2と、当該トレッド部2の両側に連なる一対のサイドウォール部3(片側のみ図示)と、各サイドウォール部3に連なるビード部4(片側のみ図示)とを備えている。また、タイヤ1は、トレッド部2、一対のサイドウォール部3および一対のビード部4にわたってトロイド状に延在するカーカス本体部51と、カーカス本体部51のタイヤ幅方向外側に位置し、カーカス本体部51から延び、ビード部4内に埋設されたビードコア41の周りを折り返されてなるカーカス折返し部52とを有するカーカス5をさらに備えている。
【0017】
トレッド部2のカーカス5のタイヤ径方向外側には、図示の例では6枚のベルト層からなる、ベルト21が配設されている。また、ベルト21のタイヤ径方向外側には、トレッドゴムが配設されており、トレッドゴムの表面には、トレッド接地端に開口するラグ溝等の、図示しないトレッド溝が形成されている。なお、図1では、ベルト21が、合計6層のベルト層からなる場合を示しているが、本発明の空気入りタイヤ1では、ベルト層の層数や配設位置は、必要に応じて任意の層数や配設位置とすることができる。
【0018】
タイヤ1の少なくともサイドウォール部3に対応する部分、具体的にはトレッド部2のタイヤ幅方端からビード部4にわたる領域のカーカス5のタイヤ幅方向外側にはサイドウォールゴムが配設されている。
【0019】
カーカス5は、スチールコードで形成される1層のカーカスプライで構成されるラジアルカーカスとされている。なお、図示では、1層のカーカスプライであるが、必要に応じて複数層にすることもできる。
また、図1の一部を拡大した図2に示すように、カーカス本体部51が最大幅となるタイヤ径方向位置(以下、カーカス最大幅WCのタイヤ径方向位置とも称す)が、タイヤ断面高さHの45〜55%の範囲(ビードベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ径方向に沿って測った範囲)内に、図示の例では、タイヤ断面高さHの47%に位置している。さらに、カーカス折返し部52のタイヤ径方向外端(以下、カーカス折返し端とも称す)52aのタイヤ径方向位置は、タイヤ断面高さHの40〜60%の範囲内、図示の例ではタイヤ断面高さHの51%に位置している。カーカス最大幅WCのタイヤ径方向位置とカーカス折返し端52aとを上記の関係にすることで、カーカス折返し端52aは、タイヤ転動時において歪みが大きく故障核になる可能性が高くなる傾向があるところ、カーカス最大幅WCのタイヤ径方向位置は比較的撓みが小さいので、カーカス折返し端52aへの歪みを小さくすることができる。
【0020】
ここで、図3(b)に示すように、カーカス最大幅WC付近にカーカスのカーカス折返し端152aを位置させた空気入りタイヤ11は、当該タイヤ11を装着した車両の走行時や鉱石などの石等の積み下ろし時(例えば、タイヤ11を適用リムRに装着し、規定の内圧を適用して最大負荷荷重を負荷させた時)に、タイヤ幅方向断面のカーカスラインで最大幅となるカーカス最大幅付近のタイヤ外表面(図示中の部分Pe)が、荷重によってカーカス15がタイヤ幅方向外側に湾曲して、図3(b)にその断面形状で示すように、タイヤ幅方向外側に膨らむように変形していた。
そして、タイヤ外表面が膨らみ変形しているため、その走行中または積み下ろし時等に、図3(b)に示すように、地面に落ちている石等と衝突し易く、サイドカットが生じることがあった。そして、この位置でサイドカットが生じると、サイドカットがカーカス折返し端152aにまで進行した後さらに走行不可能になるような故障が至る可能性が高かった。
なおここで、従来のタイヤ11が、図3(b)に示す断面形状に至るまでの変化を、カーカス最大幅付近のタイヤ表面の外輪郭を拡大して示す図4(a)〜(c)を用いて説明する。なお、図4(a)〜(c)では、従来のタイヤ11の外輪郭(破線)と、本発明の実施形態に係るタイヤ1の外輪郭(実線)とを、従来のタイヤ11の外輪郭が図中で左側に位置するように並べて示している。タイヤ11は、図4(a)のタイヤ11の外輪郭で示すように、タイヤ11を適用リムRに装着して50kPaの内圧を適用した無負荷状態では、タイヤ11のカーカス最大幅付近の部分Peは膨らんでいない。しかし、タイヤ11は、内圧を規定の内圧とし(その状態を図4(b)に示す)、さらに図4(c)に示すように最大負荷荷重の100%の荷重を負荷させると、部分Peがタイヤ幅方向外側に膨らみ変形する。したがって、図3(b)に示すように、サイドカットが生じる虞があった。
【0021】
そこで、本発明の空気入りタイヤ1では、図2に例示するように、サイドウォール部3の外輪郭が、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向かって、互いに曲率の異なる第1部分R1から第n部分Rn(3≦n)までで形成されるとともに、カーカス折返し端52aのタイヤ径方向位置をタイヤ径方向に含む折返し端保護領域Aを有している。なお、換言すれば、折返し端保護領域Aは、第1部分R1、第2部分R2、・・・、および第n部分Rnで、図示の例では第1部分R1、第2部分R2および第3部分R3で形成されている。
具体的には、第1部分R1がタイヤ幅方向内側に凸となる円弧または直線(図示の例では直線)であり、第2部分R2から第n部分Rn(図示の例では第3部分R3)までがタイヤ幅方向内側に凸となる円弧であり、各円弧の曲率半径がタイヤ径方向内側から外側に向かうに従い順次小さくなっている。また、折返し端保護領域Aを構成する、第1部分R1のタイヤ径方向内端Aiおよび、第n部分Rnのタイヤ径方向外端Aoのタイヤ径方向位置が、それぞれ、タイヤ断面高さHの41〜48%の範囲内、およびタイヤ断面高さHの55〜63%の範囲内に位置している。
【0022】
上記の構成によれば、本発明の空気入りタイヤ1では、サイドウォール部3の外表面に折返し端保護領域Aを、カーカス折返し端52aのタイヤ径方向位置が当該領域Aのタイヤ径方向位置の範囲内に含まれるように、上記の範囲に設けられるので、折返し端保護領域Aを、カーカス折返し端52aを覆うように、荷重負荷時にカーカス最大幅付近で膨らみ変形する部分Peに、位置させることができる。
また、折返し端保護領域Aを、上記の形状を有する第1部分R1から第n部分Rn(3≦n)までで形成させることにより、タイヤ1の無負荷時に折返し端保護領域Aのタイヤ径方向外端Ao側ほど、タイヤ幅方向断面でタイヤ幅方向外側に突出するように形成させることができる。従って、荷重負荷時にタイヤ1のサイドウォール部が膨らみ変形しても、折返し端保護領域Aの断面形状をタイヤ径方向に平行な形状に近づけることができるので、石等による受傷を抑え、サイドカットを低減することができる。それゆえに、サイドカットがカーカス折返し端52aに進行して生じる故障を低減させることができる。
なおここで、タイヤ1が、図3(a)に示す断面形状に至るまでの変化を、カーカス最大幅付近のタイヤ表面の外輪郭を拡大して示す図4を用いて説明する。タイヤ1は、図4(a)のタイヤ1の外輪郭(実線)で示すように、タイヤ1を適用リムRに装着して50kPaの内圧を適用した無負荷状態では、タイヤ1のカーカス最大幅付近の部分Peは膨らんでおらず、折返し端保護領域Aのタイヤ径方向外端Ao側(トレッド部側であり図4では下方)ほど、部分Peよりもタイヤ幅方向外側に突出している。しかし、タイヤ1は、内圧を規定の内圧とし(その状態を図4(b)に示す)、さらに図4(c)に示すように最大負荷荷重の100%の荷重を負荷させると、部分Peがタイヤ幅方向外側に膨らみ変形して、領域Aの突出していたタイヤ径方向外端Ao側とともに、折返し端保護領域Aの外輪郭(断面形状)をタイヤ径方向に平行な形状に近づけることができる。したがって、図3(a)に示すように、サイドカットを低減することができる。
【0023】
なお、図示のタイヤ1の例では、サイドウォール部3の外輪郭形状における折返し端保護領域Aは、当該領域Aのタイヤ径方向内端Aiからタイヤ径方向外端Aoまで、各部分R1〜Rnが連続的に滑らかに連なるとともに、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向外側に傾斜するように形成されている。
【0024】
ここで、このタイヤ1では、図2に示すように、第1部分R1が直線であり、第2部分R2から第n部分Rnまでの各部分(図示の例では、n=3)のタイヤ径方向に沿う長さが、第2部分R2から第n部分Rnに向かうに従い順次小さくなることが好ましい。
この構成によれば、折返し端保護領域Aを設けない図3(b)のタイヤ11において、荷重負荷時にサイドウォール部が膨らみ変形して最もタイヤ幅方向外側に位置する傾向がある部分Peが、図3(a)のタイヤ1の第1部分R1に含まれるところ、タイヤ1の無負荷時に、タイヤ幅方向断面で第1部分R1を直線にし、第2部分からタイヤ径方向外端Ao側ほど、タイヤ幅方向外側に突出するように適切に形成させることにより、タイヤ1の荷重負荷時に折返し端保護領域Aの断面形状をタイヤ径方向に平行な形状により近づけることができる。その結果、石等によるサイドカットをより低減することができる。
【0025】
なお、第2部分R2から第n部分Rnまでの各部分のタイヤ径方向長さが、それぞれ同じか、または第2部分R2から第n部分Rnになるに従い順次小さくならない場合には、荷重負荷時に部分Pnの断面形状が、十分にタイヤ径方向に平行な形状になりにくい。
またなお、第1部分R1が直線である場合、第1部分R1が、タイヤ径方向に対して、若干の角度で傾くことは許容されるが、図示の例のように、当該直線がタイヤ径方向に沿う方向に延びることが好ましい。タイヤ1の荷重負荷時に折返し端保護領域Aの断面形状をタイヤ径方向に平行な形状により近づけることができるからである。
【0026】
また、このタイヤ1では、サイドウォール部の外輪郭形状における折返し端保護領域Aは、第1部分R1から第3部分R3で形成され(n=3)、且つ、第1部分R1が直線であり、第2部分R2の円弧がタイヤ断面高さHの60〜80%の範囲内の曲率半径D2を有し、第3部分R3の円弧がタイヤ断面高さHの15〜30%の範囲内の曲率半径D3を有することが好ましい。
この構成によれば、荷重負荷時において、第2部分R2から第3部分R3までのカーカス5からタイヤ外表面までのゴム厚が大きくなりすぎるのを抑えつつ、折返し端保護領域Aの断面形状をタイヤ径方向に平行な形状にさらに近づけることができる。
【0027】
なお、第2部分R2および第3部分R3の円弧の曲率半径D2、D3が、それぞれタイヤ断面高さHの60%および15%より小さく(各範囲の下限値よりも小さく)なると、タイヤ1の荷重負荷時に、第2部分R2から第3部分R3までのカーカス5からタイヤ外表面までのゴム厚が大きくなりすぎる虞がある。また、第2部分R2および第3部分R3の円弧の曲率半径D2、D3が、それぞれタイヤ断面高さHの80%および30%より大きく(各範囲の上限値よりも大きく)なると、荷重負荷時に折返し端保護領域Aの断面形状が十分にタイヤ径方向に平行な形状にならない虞がある。
【0028】
また、同様な観点からは、第2部分R2の円弧がタイヤ断面高さHの65〜75%の範囲内の曲率半径D2を、第3部分R3の円弧がタイヤ断面高さHの17〜27%の範囲内の曲率半径D3を有することがより好ましい。
【0029】
ここで、このタイヤ1では、サイドウォール部の外輪郭形状における折返し端保護領域Aは、第1部分R1と第2部分R2との境界B1のタイヤ径方向位置が、タイヤ断面高さHの42〜47%の範囲に位置し、第2部分R2と第3部分R3との境界B2のタイヤ径方向位置が、タイヤ断面高さHの47〜52%の範囲に位置することが好ましい。折返し端保護領域Aのゴム厚が大きくなりすぎるのを十分に抑えつつ、折返し端保護領域Aの断面形状を、効果的にタイヤ径方向に平行な形状にすることができるからである。
【0030】
なお、境界B1およびB2のタイヤ径方向位置が、上記の各範囲の下限値よりも小さくなると、カーカス5からタイヤ外表面までのゴム厚が大きくなりすぎる虞がある。また、境界B1およびB2のタイヤ径方向位置が、上記の各範囲の上限値よりも大きくなると、タイヤ1が荷重負荷時において、折返し端保護領域Aの断面形状がタイヤ径方向に平行な方向にならない虞がある。
【0031】
さらに、カーカス折返し端52aのタイヤ径方向位置が、第1部分R1と第2部分R2との境界B1のタイヤ径方向位置よりもタイヤ径方向外側に位置することが好ましい。この構成によれば、境界B1のタイヤ径方向位置よりも折返し端保護領域Aのタイヤ径方向外側の方が、カーカス折返し端52aからタイヤ外表面までのゴム厚が厚くなるので、カーカス折返し端52aでのゴム歪が緩和されやすくなり効果的にセパレーションを防止することができる。
なお、同様な観点からは、カーカス折返し端52aのタイヤ径方向位置が、タイヤ断面高さHの45〜55%に位置することがより好ましい。
【0032】
ここで、折返し端保護領域Aの、カーカス本体部51からタイヤ表面までのゴム厚さは、タイヤ断面高さHの3.5〜5.5%の範囲内が好ましい。当該範囲よりも厚さが薄いと耐サイドカット性としての厚さが不十分になる虞があり、厚さが厚いと発熱量が悪化しカーカス折返し端52a付近の位置の温度が上昇し、該位置を起点とするセパレーションが生じる可能性が上がる虞があるからである。
【0033】
ところで、折返し端保護領域Aは、図2に示すように、タイヤ幅方向外側に向かって突出した突部31の外輪郭形状に含まれることが好ましい。折返し端保護領域Aにおける、サイドウォール部3のゴム厚が厚くなりサイドカットのカーカス5への進行を抑えることができるからである。なお、図示の例では、突部31は、その外輪郭形状で、折返し端保護領域Aと、折返し端保護領域Aのタイヤ径方向内側に隣接した内側円弧と、領域Aのタイヤ径方向外側に隣接した外側円弧とを有している。また、内側円弧は、第1部分R1の曲率半径よりも小さい曲率半径で、曲率中心が、タイヤ幅方向外側に位置するとともに、領域Aのタイヤ径方向内端Aiよりもタイヤ径方向内側に位置する円弧であり、外側円弧は、曲率中心が、タイヤ幅方向外側に位置するとともに、領域Aのタイヤ径方向外端Aoよりもタイヤ径方向外側に位置する円弧である。
【0034】
なおここで、この実施形態では、トレッド幅とカーカス最大幅WCとの関係は特に限定されないが、タイヤ1を適用リムに装着し、50kPaの内圧を適用した無負荷状態のタイヤ幅方向断面視において、カーカス最大幅WCに対するトレッド幅が93%以下のタイヤに本発明を適用することが好ましい。例えば、主に、鉱山を高速で走行するダンプトラック等に用いるタイヤは、カーカス最大幅に対するトレッド幅が93%以下であることが多いが、このようなタイヤは、高速走行するために、トレッド部のベルト端部の温度上昇をまねく可能性のある、トレッド幅を広げてバットレスゴムのゴムゲージを増加させてサイドカットを低減させる対策を、採用しにくい傾向がある。したがって、カーカス最大幅に対するトレッド幅が93%以下のタイヤは、バットレスゴムのゴムゲージを増加させることによるサイドカットの低減を行いにくいので、かかるタイヤに折返し端保護領域Aを設けることで、かかるタイヤのサイドカットを効果的に低減させることができる。
【0035】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明の空気入りタイヤは、上記一例に限定されることは無く、適宜変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、サイドカットを低減させることが可能な空気入りタイヤを提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
1、11:空気入りタイヤ
2:トレッド部
21:ベルト
3:サイドウォール部
31:突部
4:ビード部
41:ビードコア
5、15:カーカス
51:カーカス本体部
52:カーカス折返し部
52a、152a:カーカス折返し部のタイヤ径方向外端(カーカス折返し端)
A:折返し端保護領域
Ai、Ao:折返し端保護領域のタイヤ径方向内端およびタイヤ径方向外端
B1、B2:境界
BL:ビードベースライン
D2、D3:第2部分および第3部分の円弧の曲率半径
H:タイヤ断面高さ
Pe:部分
R:適用リム
R1、R2、R3:第1部分、第2部分、第3部分
WC:カーカス最大幅
図1
図2
図3
図4