(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208077
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】超伝導電磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20170925BHJP
H01L 39/04 20060101ALI20170925BHJP
H01L 39/02 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
H01F6/06 510
H01L39/04
H01L39/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-99536(P2014-99536)
(22)【出願日】2014年5月13日
(65)【公開番号】特開2015-216304(P2015-216304A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2016年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 篤
【審査官】
池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−357607(JP,A)
【文献】
特開平07−283023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
H01L 39/02
H01L 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、
前記コイルを包囲する熱シールドと、
前記コイルと前記熱シールドとを収容する真空容器を有し冷凍機によって前記コイルを冷却するクライオスタットと、
前記クライオスタットの前記真空容器の外部から供給される電流を前記熱シールドの開口を通過させて前記コイルへ送る導電部を有し前記コイルに電力を供給する電力供給部と、を備え、
前記導電部は、
外部から前記コイルまで繋がる電流経路上であって前記導電部と前記真空容器との接続部位である第1の部位と前記導電部と前記熱シールドとの接続部位である第2の部位とを、当該第1の部位と当該第2の部位との直線距離よりも長い経路で接続すると共に、前記第1の部位と前記第2の部位との相対変位が発生したときに、弾性的な変形によって当該相対変位を許容する迂遠導電部と、
前記第2の部位で接続された前記熱シールドを介した前記冷凍機からの熱伝導により冷却される被冷却部と、
前記被冷却部よりも前記コイル側に位置し、前記電流経路上の第3の部位と前記第3の部位よりも前記コイル側に位置する第4の部位とを接続し、前記コイルの熱収縮方向に前記第3の部位と前記第4の部位の相対変位が発生したときに、変形によって前記相対変位を許容する可撓性導電部と、
を有することを特徴とする超伝導電磁石。
【請求項2】
前記迂遠導電部は、
板厚方向に直交し且つ前記第1の部位と前記第2の部位とを結ぶ直線に直交する方向から見て、複数のU字状の屈曲部で往復するように曲がりくねった屈曲板形状をなすことを特徴とする請求項1に記載の超伝導電磁石。
【請求項3】
前記被冷却部は、前記熱シールドに対して電気絶縁材を介して接触することを特徴とする請求項2に記載の超伝導電磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導電磁石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載の超伝導電磁石が知られている。この超伝導電磁石では、クライオスタットにコイルが収納されており、コイルに電流を導入するブスバーがクライオスタット内部で引き回されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-110627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の超伝導電磁石においてクライオスタットの小型化を望む場合に、上記のブスバーの構造では小型化に対応しにくい。すなわち、ブスバーを短くするとブスバーを介した外部からの熱の流入が大きくなり、冷却効率が低下してしまう。また、コイルが熱収縮したとき、短いブスバーでは熱収縮分による歪みを十分に吸収することが難しい。このような問題に鑑み、本発明は、クライオスタットの小型化を容易にする構造の超伝導電磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の超伝導電磁石は、コイルと、コイルを収容し冷却するクライオスタットと、クライオスタットの外部から供給される電流をコイルへ送る導電部を有しコイルに電力を供給する電力供給部と、を備え、導電部は、外部からコイルまで繋がる電流経路上であってクライオスタット内に位置する第1の部位と第1の部位よりもコイル側に位置する第2の部位とを、当該第1の部位と当該第2の部位との直線距離よりも長い経路で接続すると共に、第1の部位と第2の部位との相対変位が発生したときに、弾性的な変形によって当該相対変位を許容する迂遠導電部を有することを特徴とする。
【0006】
この超伝導電磁石では、導電部の第1の部位と第2の部位とが、迂遠導電部を介して直線距離よりも長い経路で接続されている。よって、導電部を介して外部から侵入する熱の伝熱距離を長く確保しながら、導電部全体を小型化することができる。また、第1の部位と第2の部位との相対変位が、迂遠導電部の弾性的な変形によって許容されるので、コイルの熱収縮にも対応することができる。
【0007】
具体的には、迂遠導電部は、板厚方向に直交し且つ第1の部位と第2の部位とを結ぶ直線に直交する方向から見て、複数のU字状の屈曲部で往復するように曲がりくねった屈曲板形状をなすこととしてもよい。
【0008】
また、導電部は、迂遠導電部よりもコイル側に位置し、クライオスタットの低熱源からの熱伝導により冷却される被冷却部と、被冷却部よりもコイル側に位置し、電流経路上の第3の部位と第3の部位よりもコイル側に位置する第4の部位とを接続し、コイルの熱収縮方向に第3の部位と第4の部位の相対変位が発生したときに、変形によって相対変位を許容する可撓性導電部と、を更に有することとしてもよい。
【0009】
この構成によれば、被冷却部が冷却されることにより、外部から迂遠導電部を介してコイル側に侵入する熱を被冷却部で除去することができ、冷却効率を更に向上することができる。また、コイルの熱収縮に起因する第3の部位と第4の部位との相対変位が、可撓性導電部の変形によって許容されるので、コイルの熱収縮にも対応することができる。具体的には、低熱源は、コイルを包囲する熱シールドであり、被冷却部は、熱シールドに対して電気絶縁材を介して接触することとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クライオスタットの小型化を容易にする構造の超伝導電磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る超伝導電磁石を採用したマグネット装置を示す斜視図である。
【
図2】超伝導電磁石のクライオスタットを示す斜視図である。
【
図4】超伝導電磁石の電流導入部を示す斜視図である。
【
図5】超伝導電磁石の電流導入部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明による超伝導電磁石の一実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、以降の説明においては、各図に示す状態の超伝導電磁石1の姿勢を基準として「上」「下」の語を用いる。ただし、超伝導電磁石1の姿勢は図に示すものに限定されず、適宜変更してもよい。
図1は、本実施形態に係る超伝導電磁石1を採用したマグネット装置100を示す斜視図である。
図2は、超伝導電磁石1のクライオスタット3を示す斜視図である。
図3は、
図2におけるIII-III断面図である。
図4は、超伝導電磁石1のコイル10とその支持構造を示す斜視図であり、クライオスタット3から真空容器3aと熱シールド13とを取り除いた状態を示す。
【0013】
図1〜
図4に示されるように、マグネット装置100は、上下一対の超伝導電磁石1を対向配置すると共に、超伝導電磁石1を支持台101で支持することによって構成されている。超伝導電磁石1は、内部にコイル10を収容する真空容器3aを有するクライオスタット3と、クライオスタット3の外側に設けられるヨーク4と、を備えている。上側の超伝導電磁石1のクライオスタット3と下側の超伝導電磁石1のクライオスタット3とは、互いに上下を逆転した状態で対向し、支柱6を介して互いに離間するように連結されている。マグネット装置100は、一対のクライオスタット3の間を通過する荷電粒子線Bの軌道を切り替える偏向磁石として機能する。例えば、マグネット装置100は、加速器から出射された荷電粒子線Bの軌道を、軌道T1と軌道T2との間で切り替えることができる。荷電粒子線Bを出射する加速器として、リングサイクロトロン、AVFサイクロトロン、シンクロトロン、ベータトロン等の円形加速器や、ライナック等の線形加速器などが挙げられる。
【0014】
超伝導電磁石1は、鉛直中心軸A周りの環状をなし磁束を発生させるコイル10と、コイル10の荷重を支持する荷重支持部7と、コイル10を冷却する冷凍機8と、コイル10に電流を導入する電流導入部9と、を備えている。コイル10は、超伝導線材を巻回した構成のコイル本体を有しており、超伝導線材として高温超伝導線材を用いてよい。高温超伝導線材として、例えばBi2223、Bi2212、Y123、MgB2、酸化物超伝導体等を用いてよい。なお、超伝導線材として低温超伝導線材を用いてもよい。このような超伝導線材が用いられるコイル10を約20Kまで効率よく冷却するため、超伝導電磁石1は、クライオスタット3の真空容器3aの内部において、コイル10を包囲する熱シールド13を備えている。熱シールド13には、冷凍機(低熱源)8の低温ヘッドが接触しており、熱シールド13は約50Kに冷却されている。
【0015】
続いて、
図4及び
図5を参照しながら、電流導入部(電力供給部)9について更に詳細に説明する。ここでは、
図4及び
図5に示されるように、鉛直方向にZ軸を取ったXYZ直交座標系を設定し、各部位の位置関係の説明に用いる場合がある。電流導入部9は、真空容器3aの一部をなす容器円筒部3bと、熱シールド13の一部をなすシールド円筒部13bとを有している。容器円筒部3bはクライオスタット3の上面側に鉛直に立設されている。容器円筒部3bの上面には、電流を導入するための正極側と負極側との2つの入力端子31,31が、真空容器3aの外部に露出するように設けられている。容器円筒部3bの直ぐ内側には、電気的絶縁を図るため、例えば薄肉のGFRP製の円筒が設けられてもよい。シールド円筒部13bは熱シールド13の上面側に鉛直に立設され、容器円筒部3bの内側において容器円筒部3bの途中の高さの位置まで延びている。シールド円筒部13bの上面には、Y方向に延びる細長い開口14が形成されている。シールド円筒部13bの内側には、電気的絶縁を図るため、超耐寒性の絶縁テープ等が施されてもよい。
【0016】
電流導入部9は、機体の外部から供給される電流をコイル10に送るための一対の正極側導電部20A及び負極側導電部20Bを備えている。正極側導電部20Aと負極側導電部20Bとは、容器円筒部3b内で隣接して並設され、両者の間に絶縁部材(図示せず)を挟むことで互いに電気的に絶縁されている。図にも示される通り、正極側導電部20Aと負極側導電部20Bとの構成は鉛直面に対して互いに対称であるので、以下においては正極側導電部20Aの構成を説明し、その説明に重複する負極側導電部20Bについての説明を省略する。
【0017】
正極側導電部20Aは、入力端子31と、コイル10への電流の入口であるコイル電極32との間を繋ぐように容器円筒部3b内部に延在しており、その途中でシールド円筒部13bの開口14を通過している。なお、開口14の寸法が調整されることで、正極側導電部20Aが開口14の縁部に接触しないようになっている。正極側導電部20Aは、上記入力端子31からコイル電極32までの電流経路を構成する複数の導電部材が連なって構成されている。電流経路を構成する導電部材には、入力端子31側から順に連結されたブスバー21、屈曲部22、上部導電体ブロック23、線材電流リード24、下部導電体ブロック26及び銅編線27が含まれている。これらの導電部材は例えば銅からなり、高い導電性と高い伝熱性を有している。但し、後述するように、線材電流リード24は超伝導材料からなるものであってもよい。
【0018】
ブスバー21は屈曲された細長い板状をなし、ブスバー21の上端は入力端子31に接続されている。ブスバー21の下端は、電気絶縁材33及びL字状の銅製のブラケット34を介してシールド円筒部13bの上面に物理的に接続されている。ブスバー21と入力端子31の接続部を電流経路上の第1部位P1、ブスバー21とシールド円筒部13b上面との接続部を電流経路上の第2部位P2とすれば、ブスバー21は、第1部位P1と第2部位P2との直線距離よりも長い電流経路で当該第1部位P1と当該第2部位P2とを接続する迂遠導電部21aを有している。具体的には、迂遠導電部21aは、板厚方向に直交し、かつ第1部位P1と第2部位P2とを結ぶ直線に直交する方向から見て(Y方向から見て)、複数のU字状の屈曲部で左右交互に往復するように曲がりくねった屈曲板形状をなしている。
【0019】
この迂遠導電部21aの屈曲形状により、入力端子31及びブスバー21を通じて常温の外部から侵入する熱の伝熱距離が長くなり、入力端子31側からの熱の侵入を抑えることができる。また、上記の屈曲形状により、第1部位P1と第2部位P2との相対変位が発生したときに、ブスバー21が弾性的に変形することによって当該相対変位が許容され、正極側導電部20Aに発生する歪みが抑制される。また、上記の屈曲形状により、ブスバー21を小さい上下幅に収めることができ、このようなブスバー21は電流導入部9の上下寸法の小型化に寄与する。
【0020】
上述したように、第2部位P2において、ブスバー21の下端は電気絶縁材33及びブラケット34を介してシールド円筒部13bの上面に接続されている。前述の通り、熱シールド13は、冷凍機(低熱源)8により約50Kに冷却されているので、シールド円筒部13b及びブスバー21の下端(被冷却部)も、冷凍機8からの熱伝導によって同等の温度に冷却される。一方、電気絶縁材33の介在により、ブスバー21と熱シールド13との電気的絶縁は確保される。電気絶縁材33として、例えば、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)シート等を用いることができる。正極側導電部20Aにおいては、熱シールド13の外側の領域である第1部位P1から第2部位P2までが常温〜約50Kの温度であり、熱シールド13の内側の領域である第2部位P2からコイル10までが約50K〜約20Kの温度となる。
【0021】
第2部位P2から更に下に延びた屈曲部22はY方向から見てU字状に屈曲しており、屈曲部22の下端が上部導電体ブロック23に接続されている。上部導電体ブロック23と下部導電体ブロック26とは、ステンレス製の鉛直支柱29で連結されている。その鉛直支柱29に平行して線材電流リード24が延在しており、当該線材電流リード24によって上部導電体ブロック23と下部導電体ブロック26とが電気的に接続されている。線材電流リード24はY方向に厚みを持つ板状をなし、例えば、ビスマス系等の超伝導材料からなる。超伝導材料を採用することにより、通電による発熱が抑えられ、その結果、正極側導電部20A及び負極側導電部20Bを介した外部からの熱侵入が抑えられる。また、磁界発生時のローレンツ力が発生しているとき、コイル10の熱収縮によるクエンチが発生しているときにも、電流値を低下させない。また、板状の線材電流リード24を採用することにより、省エネルギー、性能アップ、低コスト化、及び製造工期の短縮が図られる。
【0022】
下部導電体ブロック(第3の部位)26とコイル電極(第4の部位)32とは、可撓性を有する銅編線(可撓性導電部)27によって物理的に接続され、電気的に接続されている。従って、コイル10の熱収縮によって下部導電体ブロック26とコイル電極32との間にコイル10の熱収縮方向の相対変位が発生したときにも、銅編線27の変形によって上記相対変位が許容され、正極側導電部20Aに発生する歪みが抑制される。コイル電極32は、コイル10の本体の外側面からX方向に張り出しており、コイル10の超伝導線材に電気的に接続されている。
【0023】
以上のような電流導入部9において、入力端子31,31に外部の電源が接続されることで、正極側導電部20A及び負極側導電部20Bを通じてコイル10に電流が供給され、コイル10が磁界を発生する。
【0024】
続いて、以上説明した超伝導電磁石1による作用効果について説明する。
【0025】
超伝導電磁石1では、正極側導電部20A及び負極側導電部20Bにおいて、第1部位P1と第2部位P2とが、ブスバー21を介して直線距離よりも長い経路で接続されている。よって、正極側導電部20A及び負極側導電部20Bを介して外部から(入力端子31側から)侵入する熱の伝熱距離を長く確保しながらも、ブスバー21の上下幅を抑えることができ、電流導入部9を小型化することができる。また、コイル10の熱収縮に起因して第1部位P1と第2部位P2との相対変位が生じた場合にも、ブスバー21の変形によって上記相対変位が許容されるので、コイル10の熱収縮にも対応することができる。よって、超伝導電磁石1によれば、電流導入部9の小型化(特にZ方向寸法の小型化)が容易になり、その結果、クライオスタット3の小型化が容易になる。
【0026】
また、正極側導電部20A及び負極側導電部20Bは、第2部位P2において、シールド円筒部13bに接続され冷却されている。この構成により、外部からブスバー21を介してコイル10側に侵入する熱を第2部位P2で除去することができ、冷却効率を更に向上することができる。一方、電気絶縁材33の介在により、ブスバー21と熱シールド13との電気的絶縁は確保される。
【0027】
また、正極側導電部20A及び負極側導電部20Bに銅編線27を採用することにより、コイル10の熱収縮に起因する下部導電体ブロック26とコイル電極32との相対変位が、銅編線27の変形によって許容されるので、正極側導電部20A及び負極側導電部20Bの下部に発生する歪みを低減することができ、コイル10の熱収縮に対応することができる。
【0028】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…超伝導電磁石、3…クライオスタット、9…電流導入部(電力供給部)、10…コイル、13…熱シールド、20A…正極側導電部、20B…負極側導電部、21a…迂遠導電部、26…下部導電体ブロック(第3の部位)、32…コイル電極(第4の部位)、33…電気絶縁材、P1…第1部位,P2…第2部位(被冷却部)。