特許第6208080号(P6208080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208080
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20170925BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20170925BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C30B29/06 502B
   C30B15/10
   C03B20/00 H
   C03B20/00 F
   C03B20/00 G
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-106178(P2014-106178)
(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公開番号】特開2015-221732(P2015-221732A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 大樹
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−519624(JP,A)
【文献】 特開平10−203821(JP,A)
【文献】 特開平08−002929(JP,A)
【文献】 特開平09−255477(JP,A)
【文献】 特開平11−049597(JP,A)
【文献】 特開2009−143769(JP,A)
【文献】 特開2004−002082(JP,A)
【文献】 特開2001−089168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C03B 20/00
C30B 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下凸湾曲状の底部と円筒状の側壁部との間にアール状のコーナー部を有し、内層及び外層を備えた2層構造のシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボであって、
前記内層は、Na,K及びLiの各含有量が0.01wtppm未満である高純度石英粉により形成され、かつ、気泡を含まない透明石英ガラスからなり、
前記外層は、前記コーナー部の少なくとも、アール状の上端からアール状の上端と下端の中間点までの範囲が、前記高純度石英粉により形成された気泡を含む不透明石英ガラスからなる高純度石英部であり、前記コーナー部の前記高純度石英部以外の部分、前記底部及び前記側壁部が、気泡を含む不透明石英ガラスからなることを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項2】
前記高純度石英部は、ルツボの中心を通る鉛直方向断面において、ルツボの厚さ方向に対して、平行又はルツボ外面に向かって広がるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の石英ガラスルツボ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法という)によりシリコン単結晶を引上げる際に用いられる、シリコン原料融液を収容するための石英ガラスルツボに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン等の半導体単結晶は、主に、チョクラルスキー(CZ)法により製造されている。このCZ法によるシリコン単結晶の製造は、シリコン単結晶の種結晶を、多結晶シリコンを溶融したシリコン原料融液に着液させて、回転させながら徐々に引き上げていき、シリコン単結晶インゴットを成長させることにより行われる。
上記方法において、シリコン原料融液を収容する容器としては、石英ガラスルツボが用いられ、該石英ガラスルツボは、シリコン単結晶引上げ時には、カーボンルツボに嵌め込むようにセットされて、ルツボ外周からヒータ加熱される。
【0003】
従来の石英ガラスルツボは、例えば、特許文献1に記載されているような、天然石英粉原料を用いた多気泡石英ガラス層からなる外層と、高純度合成シリカ粉を用いた透明シリカガラス層からなる内層とを備えた2層構造のものが一般的である。
内層の透明シリカガラス層は、高純度合成シリカ粉原料により形成されるため、引上げられるシリコン単結晶に対する不純物汚染を抑制することができる。一方、外層の多気泡石英ガラス層は、天然石英粉原料により形成され、前記透明石英ガラス層に比べて、シリカ純度は低いものの、耐熱性に優れているという特徴を有している。
【0004】
また、特許文献2には、ルツボの熱伝導率を向上させる観点から、底壁を実質的に気泡が内在しない透明ガラス層によって形成することが記載されているが、該底壁の強度や耐久性が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−169798号公報
【特許文献2】特開平6−329493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような従来の石英ガラスルツボは、通常、高温加熱下での使用後、ルツボ内表面に、石英ガラスの結晶化に起因する褐色のリング状のクリストバライト、いわゆるブラウンモールド(ブラウンリング又はブラウンマークとも言う。)の生成が見られる。このブラウンモールドは、生成したクリストバライトの結晶核が加熱により徐々に成長して拡大したものであり、ルツボ内表面の荒れや剥離を引き起こす。その結果、シリコン原料融液中に剥離した10〜100μm程度のサイズの微結晶片等が混入してシリコン単結晶に転位が発生し、シリコン単結晶の歩留の低下を招くこととなる。
【0007】
特に、ルツボ底部と円筒状の側壁部との間の曲率の大きいコーナー部において、ルツボ内表面の剥離が生じやすいことが判明した。さらに、これは、前記コーナー部の外層に用いられた天然石英粉原料に含まれる不純物が、内層、さらにルツボ内表面にまで拡散することに起因し、ヒータによる加熱、シリコン原料融液の対流等がある一定の条件となった際に生じることが判明した。
【0008】
したがって、ルツボ内表面から剥離した微結晶片等のシリコン単結晶への混入を防止するために、前記コーナー部において、ルツボの構成材料からルツボ内表面に拡散する不純物を低減させることが求められる。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、シリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボであって、十分な耐熱強度を有し、かつ、ルツボ内表面の剥離が防止され、シリコン単結晶引上げの歩留向上を図ることができる石英ガラスルツボを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る石英ガラスルツボは、下凸湾曲状の底部と円筒状の側壁部との間にアール状のコーナー部を有し、内層及び外層を備えた2層構造のシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボであって、前記内層は、Na,K及びLiの各含有量が0.01wtppm未満である高純度石英粉により形成され、かつ、気泡を含まない透明石英ガラスからなり、前記外層は、前記コーナー部の少なくとも、アール状の上端からアール状の上端と下端の中間点までの範囲が、前記高純度石英粉により形成された高純度石英部であり、前記コーナー部の前記高純度石英部以外の部分、前記底部及び前記側壁部が、気泡を含む不透明石英ガラスからなることを特徴とする。
このような構成によれば、十分な耐熱強度を維持しつつ、ルツボ内表面の剥離の防止が図られたシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボが得られる。
【0011】
前記高純度石英部は、ルツボの中心を通る鉛直方向断面において、ルツボの厚さ方向に対して、平行又はルツボ外面に向かって広がるように形成されていることが好ましい。
【0012】
前記高純度石英部は、ルツボ外周のヒータからの熱拡散の効率化の観点から、気泡を含む不透明石英ガラスからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る石英ガラスルツボによれば、十分な耐熱強度を維持しつつ、ルツボ内表面の剥離を防止し、シリコン単結晶への該ルツボの構成原料に起因する不純物の混入を抑制することができる。
したがって、本発明に係る石英ガラスルツボは、シリコン単結晶引上げの歩留向上に寄与し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る石英ガラスルツボの模式的な断面図である。
図2図1の石英ガラスルツボのコーナー部周辺の拡大断面図である。
図3】本発明に係る他の態様の石英ガラスルツボのコーナー部周辺の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、図面を参照して、詳細に説明する。
図1に、本発明に係る石英ガラスルツボの断面図を示す。図1に示す石英ガラスルツボは、下凸湾曲状の底部1と円筒状の側壁部2との間にアール状のコーナー部3を有する断面がU字状の形状からなる。この石英ガラスルツボは、内層4と外層5とを備えた2層構造である。
そして、内層4は、高純度石英粉により形成された透明石英ガラスからなり、外層5は、コーナー部3の少なくとも一部が、前記高純度石英粉により形成された高純度石英部6であり、コーナー部3の高純度石英部6以外の部分、底部1及び側壁部2が、不透明石英ガラスからなる。
【0016】
図2に、図1の石英ガラスルツボのコーナー部3周辺の拡大図を示す。図2に示すように、高純度石英部6の範囲は、コーナー部3のうち、少なくとも、アール状の上端Aからアール状の上端Aと下端Bの中間点Mまでの範囲とする。
この上端A〜中間点Mの範囲が、ブラウンモールドに起因するルツボの内表面の剥離が最も生じやすい箇所であるため、少なくともこの範囲を含むように高純度石英部6を形成する。
このように、コーナー部3の所定の範囲を内層及び外層とも高純度石英粉により形成することにより、ルツボ内表面の剥離が防止され、シリコン単結晶への該ルツボの構成原料に起因する不純物の混入を抑制することができる。
【0017】
コーナー部3の中間点M〜下端Bの範囲までをも高純度石英部6としてもよい。コーナー部3の範囲内であれば、ルツボの強度等に及ぼす影響はほとんどないため、差し支えない。
なお、高純度石英部6を形成する上で、コーナー部3と側壁部2との境界、また、コーナー部3と底部1との境界は必ずしも厳密ではなく、±2cm程度の幅を考慮してよい。
【0018】
図2は、図1に対応する高純度石英部6の形態を示すものである。図3に、高純度石英部6の他の形態を示す。
ルツボの中心を通る鉛直方向断面における高純度石英部6の形状は、図2に示すように、ルツボの厚さ方向に対して平行に形成することが好ましい。あるいはまた、図3に示すように、ルツボの厚さ方向に対して、ルツボ外面に向かって広がるように形成することが好ましい。
本発明に係る石英ガラスルツボは、通常、後述するようなアーク溶融法により製造するため、高純度石英部6は、ルツボの厚さ方向に対して上記のような形状となるように構成すれば、製造時において原料粉の供給や成形も容易となり、また、強度の点においても問題なく形成することができる。
【0019】
内層4は、高純度石英粉により形成され、かつ、気泡を含まない透明石英ガラスにより構成する。
ルツボの構成材料に起因する単結晶シリコンの不純物汚染やシリコン原料融液の湯面振動の抑制等の観点から、ルツボの内層4は、全体を高純度透明石英ガラスとすることが好ましい。
【0020】
本発明において用いる高純度石英粉は、Na,K及びLiの各含有量が0.01wtppmのものとする。
石英粉原料に含まれる不純物のうち、特に、Na,K又はLiが石英ガラス中で拡散しやすく、ブラウンモールドの生成、さらに、ルツボ内表面の荒れや剥離に大きな影響を及ぼす。このため、これらの不純物をほとんど含まないことが好ましい。
【0021】
前記高純度石英粉は、合成石英粉末でも、天然石英粉末を合成石英粉末と同等レベルまで高純度化したものであってもよい。合成石英粉末としては、例えば、シリコンアルコキシドの加水分解等により合成されたものを用いることができ、また、天然石英粉末としては、例えば、水晶等の天然石英原料を用いることができる。
【0022】
外層5のコーナー部3の高純度石英部6以外の部分、底部1及び側壁部2は、不透明石英ガラスにより構成し、また、通常の天然石英粉原料を用いて形成されることが好ましい。
底部1や側壁部2の外層に高純度石英粉を用いると、高純度石英粉は粘性が低いため、耐熱強度が低下し、高温での使用時に、座屈変形等が生じ、ルツボ内のシリコン原料融液の保持や安定したシリコン単結晶引上げが困難となるおそれがある。
【0023】
高純度石英部6は、気泡を含む不透明石英ガラスであっても、あるいはまた、内層と同様に、気泡を含まない透明石英ガラスであってもよい。
ルツボ外周のヒータからの熱拡散を考慮した場合は、気泡を含む不透明石英ガラスであることが好ましい。このような構成とすることにより、ルツボ内のシリコン原料融液への伝熱を均一にすることができる。
【0024】
内層4及び外層5を含むルツボ全体の厚さは、ルツボの強度や重量等を考慮して、5〜30mm程度であることが好ましい。通常は15mm程度とする。
また、外層5の厚さは、特に限定されるものではないが、同様の観点から、3〜28mm程度であることが好ましい。
【0025】
上記のような本発明に係る石英ガラスルツボは、従来の製造方法を用いて製造することができる。一般的には、回転モールド法及びアーク溶融法により製造される。以下に、具体的な製造方法の一例を説明するが、本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法は、これに限定されるものではない。
まず、ルツボの中心軸周りに回転するルツボ成形用型内に、底部と側壁部には天然石英原料粉を、また、コーナー部には高純度石英粉を供給し、遠心力及び機械的押圧によって、外層を成形する。なお、外層の厚さ及び形状は、合成シリカ原料粉の量及び機械的押圧の程度を適宜調節することにより制御することができる。
次いで、前記型内の外層の成形体の内表面全体に高純度石英原料粉を供給し、遠心力及び機械的押圧によって、前記外層の成形体の内側に内層を成形する。
そして、上記のようにして得られた2層構造のルツボ成形体を、アーク溶融法により全体をガラス化し、外層が気泡を含む不透明石英ガラスであり、内層が気泡を含まない透明石英ガラスにより構成された石英ガラスルツボが得られる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
回転モールド法及びアーク溶融法により、外径800mm、高さ500mmの図3に示すような構造の石英ガラスルツボを製造した。このルツボの内層の厚さは2mm、外層の厚さは25mmとした。
【0027】
[比較例1]
上記実施例1において、高純度石英部6を形成せずに、ルツボ全体が内層4と外層5の2層構造からなる石英ガラスルツボを製造した。
【0028】
上記実施例及び比較例において製造した各石英ガラスルツボを、カーボンルツボに嵌め込んでセットし、ルツボ外周からヒータ加熱して、ルツボ内で約350kgのシリコン原料を溶融させ、CZ法により、直径12インチのシリコン単結晶の引上げを行った。
シリコン単結晶引上げ後のルツボの変形、ルツボ内表面の状態の観察、また、引上げられたシリコン単結晶の単結晶化率の評価を行った。
【0029】
その結果、実施例1のルツボは、変形は生じず、ルツボ内表面の剥離も見られず、引上げられたシリコン単結晶の単結晶化率も95%超と良好であった。
一方、従来の2層構造のルツボ(比較例1)は、変形は生じなかったものの、ルツボコーナー部の内表面に剥離が見られ、引上げられたシリコン単結晶の単結晶化率も80%であった。
【符号の説明】
【0030】
1 底部
2 側壁部
3 コーナー部
4 内層
5 外層
6 高純度石英部
図1
図2
図3