特許第6208128号(P6208128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6208128-自動車用のトリムパッド 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208128
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】自動車用のトリムパッド
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20170925BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20170925BHJP
   C25D 5/56 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C23C28/00 B
   C23C14/06 N
   C25D5/56 Z
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-527526(P2014-527526)
(86)(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公表番号】特表2014-532113(P2014-532113A)
(43)【公表日】2014年12月4日
(86)【国際出願番号】EP2012003624
(87)【国際公開番号】WO2013034259
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2015年8月14日
(31)【優先権主張番号】102011112288.9
(32)【優先日】2011年9月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,トリュープバッハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リベイロ,カルロス
(72)【発明者】
【氏名】バウアー,サッシャ
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特公平01−041699(JP,B2)
【文献】 特開平11−140664(JP,A)
【文献】 特開平05−148686(JP,A)
【文献】 特開平10−330962(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102005053344(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00− 7/12
C23C 14/00−14/58
C23C 24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・基板と、
・前記基板上の電気めっき層系と、
・前記電気めっき層系の外側表面上に、物理的気相析出により塗布された色付けを行う被覆層とを有する自動車用のトリムパッドにおいて、
前記色付けを行う被覆層は、PVD層系の1部分であり、基板と被覆層との間に付着層を有し、付着層と被覆層との間に混合層を有し、前記付着層、前記混合層、および前記被覆層は、それぞれCr、Zr、Nおよび/またはCを含み、前記混合層は、(ZrCrに従って構築されていて、ここで、Xは、窒素と炭素と酸素とからなる群の1つまたは複数の元素であり、a+b≦1であり、uに対するvの割合は、Xが化学量論量以上にならないように選択され、前記混合層及び前記被覆層は、それぞれ複数の異なる層の層状部から構築され、前記混合層中のCrの割合は、その厚さの中央の点から前記被覆層にむかって間隔を増しながら100%にまで増加し、Xの割合は0%にまで減少して、前記混合層から前記被覆層への移行は、前記(ZrCrの化学量論的組成が不連続に変化して移行することを特徴とするトリムパッド。
【請求項2】
a+b=1であり、したがって、ZrおよびCrは、前記混合層中の唯一の金属元素であることを特徴とする請求項に記載のトリムパッド。
【請求項3】
前記混合層は、濃度が変動するナノ層状部から構築されることを特徴とする請求項1または2に記載のトリムパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のトリムパッドに関する。このトリムパッドは、基板と、基板上の電気めっき層系と、電気めっき層系上のPVD層系とを有する。PVDとは、気相から、物理的に析出させることである(英語ではPhysical Vapor Deposition:物理的気相成長法)。
【背景技術】
【0002】
自動車用の上述の様式のトリムパッドは、従来技術より公知である。しばしばクロム様の外観を有するトリムパッドが採用される。しかし、今では、これ以外の色の印象も望まれている。これを達成するために、例えば、HoffmanのDE 102005053344号中では、電気めっき層系(この文献中では、担体層系と称される)上に、色付けを行う被覆層を、外側表面上への気相析出により析出する。これにより、硬度と耐性とを備えた色的に特別に構成された表面が生じる。ここで記載されているのは、気相析出により、ほぼすべての公知の金属が非常に純粋な形態で析出可能であり、かつ、追加的な反応ガス(例えば、炭化水素、酸素または窒素)を用いて、炭化物、酸化物または窒化物を析出させることができるという点である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この場合に欠点になるのは、被覆層が、色付けの役割を担わなければならないと共に、硬質でとりわけ腐食に耐性を有する層にならねばならないという点である。耐性要件は、例えば、自動車の内部領域では、場合によっては自動車の外側領域とは全く異なるので、この点も、トリムパッドの色の形成における望まない制限となってしまう。
【0004】
本発明の枠内では、トリムパッドという概念は広く解釈されるべきである。したがって、単にインナトリムまたはフロントグリルの部品のみを意図しているのではない。機能表面を有する部品でもありえる。ほとんどの場合、電気めっき層系で被覆されたプラスチック製の基板(例えば、ABSおよびとりわけPCABS製の部品)である。
【0005】
したがって、従来技術の上述の欠点を克服、または少なくとも緩和させる必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電気めっき層系上にPVD層系を設け、この層系が、電気めっき層系の直接上にある付着層と、付着層上に塗布された耐性を有する硬質の混合層と、混合層上に塗布された色付けを行う被覆層とを有することを提案する。この場合、この色付けを行う被覆層は、混合層の硬度と耐性の要件を満たすには及ばない。
【0007】
PVDにより塗布された付着層は、電気めっき層の表面上に良好に付着する材料を含む。好ましくは、この材料は、電気めっき層系の表面材料に非常に類似していて、特に好ましくは、これと実質的に等しくさえある。例えば、電気めっき層系の終端の層がクロムからなる場合には、付着層として、PVDを用いて塗布されたクロム層を用いることができる。これとは異なり、電気めっき層系の終端の層が、クロム−ニッケル層またはニッケルの割合が高い層である場合には、ニッケルに対応するPVD層を析出することができない場合、付着層としてジルコニウムを採用するのが有利である。本発明によれば、付着層の厚さは0.1μm〜1μmである。
【0008】
ここで、本発明によれば、付着層上に、PVDを用いて(Me1Me2型の混合層を塗布するが、ここで、Me1は第1金属で、Me2は第1金属とは異なる第2金属であり、パラメータaおよびbは、a>0.05およびb>0.05であり、a+b≦1であり、ここで、a+b=1は、Me1およびMe2が混合層中の金属元素の100%を形成することを意味し、Xは、炭素、窒素および酸素からなる群の1つまたは複数の元素である。混合層は、さらなる元素、とりわけさらなる金属を含有しうる。しかし、群Xに属さない元素の非金属混合物の合計は20at%以下であるのが好ましい。
【0009】
成分Xは、混合層中で、最大で、化学量論濃度で存在していて、少なくとも付着層付近では化学量論以下の濃度で存在することが有利でありえるが、その理由は、これにより、層の金属特性が完全には失われないからである。この点は、この層が、硬度、およびとりわけ腐食に対して耐性を有するのみならず、いわゆる層圧を削減するためのいわゆる補償層としても機能すべきであるという点からも有利である。
【0010】
混合層は、濃度が変動するナノ層状部から構築されうる。これは、とりわけ、混合層を製造するために用いられる方法の枠内で、被覆されるべき部品が、例えば、回転台上で、2つ以上のターゲットの傍らを複数回通り過ぎるような場合である。このようなナノ層状部で被覆することにより、さらなる応力緩和につながり、したがって、PVD層系のさらなる耐性を生むので有利でありうる。したがって、ここで述べた濃度は、平均が、少なくとも20nmを上回ると理解される。混合層の厚さは、0.2μmと10μmとの間であり、好ましくは、1μm以下であり、特に好ましくは、250nmと350nmとの間である。
【0011】
Me1としてクロム、および、Me2としてジルコニウムを含有する混合層の使用が、とりわけ適していることが判明している。さらに、窒素も炭素も含有する混合層が、とりわけ適していると判明している。これにより、(CrZr(C(a+b=1で、k+l=1で、a,b>0で、k,l>0で、非金属成分を化学量論量以上は含まないのが、とりわけ適切で、好ましくは、本発明の混合層用として等級づけられるべきである。
【0012】
混合層は、その濃度が推移可能でもあり、とりわけ傾斜層でありえる。有利であるのは、とりわけ付着層付近では金属特性が強く、化学量論量以上のX割合を有する層へと徐々に推移する。
【0013】
混合層上には、その後、色付けを行う被覆層を堆積させる。この層の厚さは、0.1μmと2μmとの間である。厚さの下限は、所望の色の印象を確実に与えるために守らなければならない。厚さの上限は、とりわけ、色付けを行う被覆層自体がトリムパッドに必須の硬度と耐食性とを有さない場合に重要である。最も単純な場合には、すなわち、トリムパッドにクロムの外観が与えられるべき場合には、クロムが、色付けを行う被覆層として使用可能である。この場合、混合層から被覆層への移行は、不連続の移行として形成することもできる。しかし、混合層から被覆層への徐々の移行も実現可能である。例えば、混合層中の金属元素におけるクロムの割合は、その厚さの中央の点から被覆層にむかって間隔を増しながら100%にまで増加し、Xの割合は0%にまで減少しうる。
【0014】
逆に、トリムパッドに貴金属的な外観が与えられるべき場合には、一方では、被覆層として例えばV2A鋼鉄を噴霧(スパッタリング)を用いて塗布することができ、または、Zr−Cr−Xを設けることができるが、この場合、Xの割合は化学量論以上になるよう選択されうる。
【0015】
したがって、付着層および/または混合層および/または被覆層は、それぞれ複数の異なる層の層状部から構築されうる。とりわけ色付けを行う被覆層の場合には、これにより、例えば、干渉により様々な色効果を達成することができる。
【0016】
以下に、本発明を実施例に基づいて図面を用いてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】PVD被覆に用いられうる被覆設備の概略図である。
図2】本発明のある実施形態による本発明のトリムパッドのある部分の層構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明をより詳細に説明するために、例えば、いわゆるクロムの外見を有するべき本発明のインナトリムへの被覆について説明する。
【0019】
ここで、当業者には基板の製造は公知であるという点から出発する。当業者には、いかにして電気めっき層系を基板上で実現可能であるかが公知であるという点からも出発する。これに関して疑問がある場合は、すでに上で述べたDE 102005053344号を参照されたい。
【0020】
電気めっき層系で被覆されたこの種の基板は、その後、図1中で示されたような被覆設備1に入れられる。被覆設備1は、第1マグネトロン・スパッタリング・ターゲット3と、第2マグネトロン・スパッタリング・ターゲット5とを有する。第1マグネトロン・スパッタリング・ターゲット3は、スパッタ材料としてクロムを含有し、したがって、クロムターゲットである。第2マグネトロン・スパッタリング・ターゲット5はスパッタ材料としてジルコニウムを含有し、したがって、ジルコニウムターゲットである。被覆されるべき基板は、回転皿9上の基板保持部7中で置かれ、基板保持部7は、それ自身の軸の回りを回転可能である。回転皿9を用いて、基板は交互に第1および第2マグネトロン・スパッタリング・ターゲット3・5の傍らに導かれる。図1では6個の基板保持部が示されている。
【0021】
被覆設備1が基板を装備した後、被覆チャンバ11は閉じられ、真空ポンプ13・15を用いて設備中に真空が形成される。続いて、アルゴンが被覆チャンバ中に流入され、プラズマが点火される。基板には負のバイアスが掛けられる。イオン化されたアルゴンは、まず被覆されるべき基板上の電気めっき層系の表面を清浄化し、場合によっては活性化し、また加熱するためにも用いられる。しかしながら、基板温度は120℃以下、好ましくは100℃以下に保たれるべきである。これは、とりわけ本件の場合のようにプラスチック製の基板の場合に該当する。
【0022】
清浄化工程後には、まず、クロムターゲット3に電力がかけられる。本実施例では、この結果24Aが流れる。これに並行して、65Vの負の基板バイアスが設定される。約90秒の間、純粋なクロムが噴霧され、これが基板上に堆積する。基板バイアスは、イオン衝撃を用いて、クロム層が圧縮され、これにより、クロム層が基板上により良く付着するのに寄与する。このようにして、付着層が析出される。
【0023】
続いて、クロムターゲット3の電力が32Aまでの電流にまで上昇させられるのと実質的に同時に、ジルコニウムターゲット5に電力がかけられ、その結果24Aが流れ、窒素が100sccmで、かつ時間的に少し遅れてアセチレン(C)が35sccmで被覆チャンバ11中に流入する。ガスの供給流は、この際に、存在する層が、このガスの構成成分を化学量論量以上に含有することがない値に限定されている。負のバイアス電圧は45Vに下降し、この結果、ここで構築された層中に入れられる層圧がより小さくなる。このようにして、本発明の混合層が析出され、この混合層は、この場合Cr−Zr−C−N層である。
【0024】
続いて、ジルコニウムターゲット5における電力のスイッチが切られ、窒素およびアセチレンの流入は中断され、その結果、アルゴンのみがチャンバ中に流入し、38Aの電流が生じるようにクロムターゲットに電力がかけられる。このようにして、120秒間で、色付けを行う被覆層が生成され、これがトリムパッドに所望のクロムの外見を与える。ここで挙げられたパラメータは、対応する被覆設備用に合わせられている。これらのパラメータは、設備毎に異なる。しかし、当業者は、所望の結果を達成するために、自身が利用する被覆設備に、いかにパラメータを合わせるべきかを知っている。
【0025】
図2中に、本発明のこの実施形態に対応するトリムパッドを切り取ったある部分201の層構造を概略的に提示する。基板203上に、電気めっき層系205が塗布されている。この電気めっき層系上に、順に、付着層207、混合層209および色付けを行う被覆層211が塗布されている。
【0026】
クロムの外見の代わりに、真鍮または黄色の色調を達成するべき場合は、ZrNが被覆層として適している。緑色または褐色表面の達成を望む場合、これは、被覆層として、それぞれ適合された炭素成分と窒素成分とを有するZR−C−Nにより達成される。表面に特殊鋼の外観が与えられるべき場合には、V2Aが被覆層として噴霧されうる。灰色色調は、Cr−Zr−C−Nにより達成されうるが、この際、被覆層中に、Cおよび/またはNが化学量論量以上、存在している。
図1
図2