(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バランス取り部は、その途中に段部を有するとともに、該段部を境界として、前記連結部に近い範囲が深く、かつ、前記連結部より遠い範囲が浅い、段付き形状になっていること
を特徴とする請求項1に記載のロータ。
前記連結部と固定部が所定隙間を介して対向することにより、前記第1の筒体の内周面又は前記連結部の内周面側への前記ガスの逆流を防止する非接触型シールとして機能すること
を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のロータ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
図1(a)は、本発明の第1実施形態である真空ポンプ(ネジ溝ポンプ並行流タイプ)の断面図、同図(b)は、(a)のB部拡大図である。
【0035】
この
図1(a)の真空ポンプP1は、例えば、半導体製造装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置におけるプロセスチャンバやその他の密閉チャンバのガス排気手段等として利用される。この真空ポンプは、外装ケース1内に、回転翼13と固定翼14により気体を排気する翼排気部Ptと、ネジ溝19A、19Bを利用して気体を排気するネジ溝排気部Psと、これらの駆動系とを有している。
【0036】
外装ケース1は、筒状のポンプケース1Aと有底筒状のポンプベース1Bとをその筒軸方向にボルトで一体に連結した有底円筒形になっている。ポンプケース1Aの上端部側はガス吸気口2として開口しており、ポンプベース1Bの下端部側面にはガス排気口3を設けてある。
【0037】
ガス吸気口2は、ポンプケース1A上縁のフランジ1Cに設けた図示しないボルトにより、例えば半導体製造装置のプロセスチャンバ等、高真空となる図示しない密閉チャンバに接続される。ガス排気口3は、図示しない補助ポンプに連通接続される。
【0038】
ポンプケース1A内の中央部には各種電装品を内蔵する円筒状のステータコラム4が設けられており、ステータコラム4は、固定部として、その下端側がポンプベース1B上にネジ止め固定される形態で立設してある。
【0039】
ステータコラム4の内側にはロータ軸5が設けられており、ロータ軸5は、その上端部がガス吸気口2の方向を向き、その下端部がポンプベース1Bの方向を向くように配置してある。また、ロータ軸5の上端部はステータコラム4の円筒上端面から上方に突出するように設けてある。
【0040】
ロータ軸5は、ラジアル磁気軸受10とアキシャル磁気軸受11により径方向と軸方向が回転可能に支持され、この状態で駆動モータ12により回転駆動される。
【0041】
駆動モータ12は、固定子12Aと回転子12Bとからなり、ロータ軸5の略中央付近に設けられている。かかる駆動モータ12の固定子12Aはステータコラム4の内側に設置しており、同駆動モータ12の回転子12Bはロータ軸5の外周面側に一体に装着してある。
【0042】
ラジアル磁気軸受10は、駆動モータ12の上下に1組ずつ合計2組配置され、アキシャル磁気軸受11はロータ軸5の下端部側に1組配置されている。
【0043】
2組のラジアル磁気軸受10、10は、それぞれ、ロータ軸5の外周面に取り付けたラジアル電磁石ターゲット10A、これに対向するステータコラム4内側面に設置した複数のラジアル電磁石10B、およびラジアル方向変位センサ10Cを備えて構成される。ラジアル電磁石ターゲット10Aは高透磁率材料の鋼板を積層した積層鋼板からなり、ラジアル電磁石10Bはラジアル電磁石ターゲット10Aを通じてロータ軸5を径方向に磁力で吸引する。ラジアル方向変位センサ10Cはロータ軸5の径方向変位を検出する。ラジアル方向変位センサ10Cでの検出値(ロータ軸5の径方向変位)に基づきラジアル電磁石10Bの励磁電流を制御することによって、ロータ軸5は、その径方向所定位置に磁力で浮上支持される。
【0044】
アキシャル磁気軸受11は、ロータ軸5の下端部外周に取り付けた円盤形状のアーマチュアディスク11Aと、アーマチュアディスク11Aを挟んで上下に対向するアキシャル電磁石11Bと、ロータ軸5の下端面から少し離れた位置に設置したアキシャル方向変位センサ11Cとを備えて構成される。アーマチュアディスク11Aは透磁率の高い材料からなり、上下のアキシャル電磁石11Bはアーマチュアディスク11Aをその上下方向から磁力で吸引するようになっている。アキシャル方向変位センサ11Cはロータ軸5の軸方向変位を検出する。アキシャル方向変位センサ11Cでの検出値(ロータ軸5の軸方向変位)に基づき上下のアキシャル電磁石11Bの励磁電流を制御することによって、ロータ軸5は、その軸方向所定位置に磁力で浮上支持される。
【0045】
ステータコラム4の外側にはロータ6が設けられており、このロータ6は、ステータコラム4の外周を囲む円筒形状であって、その略中間に位置する連結部60(具体的には、環状の板体60A)によって、直径の異なる2つの筒体(第1の筒体61と第2の筒体62)をその筒軸方向に連結したような形状になっている。なお、
図1(a)の真空ポンプにおけるロータ6は一つのアルミ合金塊から切り出し加工したものであることより、このロータ6を構成する第1の筒体61、第2の筒体62、連結部60、及び、後述の端部材63は一部品として形成されている。
【0046】
第1の筒体61の上端には、その上端面を構成する部材として、端部材63が一体に設けられており、この端部材63を介して、前記ロータ6は、前記ロータ軸5に一体化されている。この一体化の構造例として、
図1(a)の真空ポンプP1では、端部材63の中心にボス孔7を設けるとともに、ロータ軸5の上端部外周に段状の肩部(以下「ロータ軸肩部9」という)を形成している。そして、ロータ軸肩部9より上のロータ軸5先端部を端部材63のボス孔7に嵌め込み、かつ、端部材63とロータ軸肩部9とをボルトで固定することで、ロータ6とロータ軸5は一体化している。
【0047】
さらに、ロータ6は、ロータ軸5を介してラジアル磁気軸受10、10及びアキシャル磁気軸受11で、その軸心(ロータ軸5)周りに回転可能に支持されるように構成してある。従って、
図1(a)の真空ポンプP1では、ロータ軸5、ラジアル磁気軸受10、10及びアキシャル磁気軸受11が、ロータ6をその軸心周りに回転可能に支持する支持手段として機能する。また、ロータ6はロータ軸5と一体に回転するので、ロータ軸5を回転駆動する駆動モータ12が、ロータ6を回転駆動する駆動手段として機能する。
【0048】
《翼排気部Ptの詳細構成》
図1(a)の真空ポンプP1では、ロータ6の略中間(具体的には、連結部60)より上流(ロータ6の略中間からロータ6のガス吸気口2側端部までの範囲)が翼排気部Ptとして機能する。以下、この翼排気部Ptを詳細に説明する。
【0049】
ロータ6の略中間より上流側のロータ6外周面、具体的には該ロータ6を構成する第1の筒体61の外周面には、複数の回転翼13が一体に設けられている。これら複数の回転翼13は、ロータ6の回転中心軸(ロータ軸5)若しくは外装ケース1の軸心(以下「真空ポンプ軸心」という)を中心として放射状に並んで配置されている。
【0050】
一方、ポンプケース1Aの内周側には複数の固定翼14が設けられており、これら複数の固定翼14もまた、真空ポンプ軸心を中心として放射状に並んで配置されている。
【0051】
そして、
図1(a)の真空ポンプP1では、前記のように放射状に配置された回転翼13と固定翼14とが真空ポンプ軸心に沿って交互に多段に配置されることによって、真空ポンプP1の翼排気部Ptが構成されている。
【0052】
要するに、
図1(a)の真空ポンプP1において、ロータ6を構成する第1の筒体61は、その外周面に複数の回転翼13を備え、これら複数の回転翼13が真空ポンプ軸心に沿って複数の固定翼14と交互に配置されることによって、真空ポンプP1の翼排気部Ptを構成するものである。
【0053】
なお、前記いずれの回転翼13も、ロータ6の外径加工部と一体的に切削加工で切り出し形成したブレード状の切削加工品であって、気体分子の排気に最適な角度で傾斜している。前記いずれの固定翼14もまた、気体分子の排気に最適な角度で傾斜している。
【0054】
《翼排気部Ptによる排気動作説明》
以上の構成からなる翼排気部Ptでは、駆動モータ12の起動により、ロータ軸5、ロータ6および複数の回転翼13が一体に高速回転し、最上段の回転翼13がガス吸気口2から入射した気体分子に下向き方向の運動量を付与する。この下向き方向の運動量を有する気体分子が固定翼14によって次段の回転翼13側へ送り込まれる。以上のような気体分子への運動量の付与と送り込み動作とが繰り返し多段に行われることにより、ガス吸気口2側の気体分子はロータ6の下流に向かって順次移行するように排気される。
【0055】
《ネジ溝排気部Psの詳細構成》
図1(a)の真空ポンプP1では、ロータ6の略中間(具体的には、連結部60)より下流(ロータ6の略中間からロータ6のガス排気口3側端部までの範囲)がネジ溝排気部Psとして機能する。以下、このネジ溝排気部Psを詳細に説明する。
【0056】
ロータ6の略中間より下流側のロータ6、具体的には該ロータ6を構成する第2の筒体62は、ネジ溝排気部Psの回転部材として回転する部分であって、ネジ溝排気部Psの内外2重円筒形のネジ溝排気部ステータ18A、18B間に所定のギャップを介して挿入・収容される構成になっている。
【0057】
内外2重円筒形のネジ溝排気部ステータ18A、18Bのうち、内側のネジ溝排気部ステータ18A(以下「内側ネジ溝排気部ステータ18A」という)は、その外周面が第2の筒体62の内周面と対向するように配置された円筒形の固定部であって、第2の筒体62の内周によって囲まれるように配置されている。
【0058】
この一方、外側のネジ溝排気部ステータ18B(以下「外側ネジ溝排気部ステータ18B」という)は、その内周面が第2の筒体62の外周面に対向するように配置された円筒形の固定部であって、第2の筒体62の外周を囲むように配置されている。
【0059】
内側ネジ溝排気部ステータ18Aの外周部には、深さが下方に向けて小径化したテーパコーン形状に変化するネジ溝19Aを形成してある。ネジ溝19Aは、内側ネジ溝排気部ステータ18Aの上端から下端にかけて螺旋状に刻設してあり、このようなネジ溝19Aにより、第2の筒体62の内周側にネジ溝排気流路(以下「内側ネジ溝排気流路R1」という)が設けられる。尚、この内側ネジ溝排気部ステータ18Aはその下端部がポンプベース1Bで支持されている。
【0060】
外側ネジ溝排気部ステータ18Bの内周部にも、前記ネジ溝19Aと同様のネジ溝19Bを形成してある。このようなネジ溝19Bにより、第2の筒体62の外周側にネジ溝排気流路(以下「外側ネジ溝排気流路R2」という)が設けられる。なお、この外側ネジ溝排気部ステータ18Bもその下端部がポンプベース1Bで支持されている。
【0061】
要するに、
図1(a)の真空ポンプP1において、ロータ6を構成する第2の筒体62は、少なくとも、その内周面とこれに対向する固定部(内側ネジ溝排気部ステータ18A)の外周面との間に、螺旋状のネジ溝排気流路(内側ネジ溝排気流路R1)を形成することによって、真空ポンプP1のネジ溝排気部Psを構成するものである。
【0062】
図示は省略するが、先に説明したネジ溝19A、19Bを第2の筒体62の内周面又は外周面若しくはその両面に形成することで、前記のような内側ネジ溝排気流路R1又は外側ネジ溝排気流路R2が設けられるように構成してもよい。
【0063】
ネジ溝排気部Psでは、ネジ溝19Aと第2の筒体62の内周面でのドラッグ効果やネジ溝19Bと第2の筒体62の外周面でのドラック効果により、気体を圧縮しながら移送するため、ネジ溝19Aの深さは、内側ネジ溝排気流路R1の上流入口側(ガス吸気口2に近い方の流路開口端)で最も深く、その下流出口側(ガス排気口3に近い方の流路開口端)で最も浅くなるように設定してある。このことはネジ溝19Bも同様である。
【0064】
外側ネジ溝排気流路R2の上流入口は、多段に配置されている回転翼13のうち最下段の回転翼13Eと後述する連通開口部Hの上流端との間の隙間(以下「最終隙間G」という)に連通しており、また、同流路R2の下流出口は、ガス排気口3側に連通するように構成してある。
【0065】
内側ネジ溝排気流路R1の上流入口は、ロータ6の略中間でロータ6の内周面(具体的には、連結部60の内面)に向って開口しており、また、同流路R1の下流出口は、外側ネジ溝排気流路R2の下流出口と合流してガス排気口3に連通するように構成してある。
【0066】
ロータ6の略中間には連通開口部Hが開設されており、連通開口部Hは、ロータ6の表裏面間を貫通するように形成されることで、ロータ6の外周側に存在する気体の一部を内側ネジ溝排気流路R1へ導くように機能する。かかる機能を備えた連通開口部Hは、例えば、
図1(a)のように連結部60の内外面を貫通するように形成してもよい。また、
図1(a)の真空ポンプP1では、前記連通開口部Hを複数設け、これら複数の連通開口部Hが真空ポンプ軸心に対して点対称となるように配置することにより、ロータ6の重心位置が半径方向に対してずれ難く、ロータ6のバランスの修正も容易になるように構成してある。
【0067】
《ネジ溝排気部Psにおける排気動作説明》
先に説明した翼排気部Ptの排気動作による移送で外側ネジ溝排気流路R2の上流入口や最終隙間Gに到達した気体分子は、外側ネジ溝排気流路R2や、連通開口部Hから内側ネジ溝排気流路R1に移行する。移行した気体分子は、ロータ6の回転によって生じる効果、すなわち、第2の筒体62の外周面とネジ溝19Bでのドラッグ効果や、第2の筒体62の内周面とネジ溝19Aでのドラッグ効果によって、遷移流から粘性流に圧縮されながらガス排気口3に向って移行し、最終的に図示しない補助ポンプを通じて外部へ排気される。
【0068】
《ロータ6のバランス取り部K1の説明》
図1(a)の真空ポンプP1では、第1の筒体61又は連結部60の内周面に、ロータ6のバランス取り部K1を設け、このバランス取り部K1に、ロータ6のバランスを取るための錘の一種として、同図(b)に示す質量付加手段Mを設けている。
【0069】
また、このバランス取り部K1は、同図(a)(b)のように連結部60側から第1の筒体61の内周面を所定の深さで切り欠くことにより、第1の筒体61の内径より大きい内径を有し、その内径が下部に行くに従い同等となるように形成してある。なお、このバランス取り部K1は、第1の筒体61の内径より大きい内径を有するものであるならば、その内径が下部に行くに従い同等以上となるように形成してもよい。
【0070】
バランス取り部K1は、
図1(a)のように第1の筒体61内周面の周方向全体に亘って環状に形成することが好ましい。そのように形成すれば、どの周方向位置でも質量付加手段Mによってロータ6のバランスを取ることができ、バランス取りの自由度が高くなるし、切り欠かれたバランス取り部K1による第1の筒体61の欠損でロータ6の重心位置が半径方向に対してずれ難く、ロータ6のバランスの修正が容易になるからである。
【0071】
図1(a)の真空ポンプP1において、前記バランス取り部K1の長さは、第1の筒体61の軸方向長さを基準として、その基準の半分以下としているが、これに限定されることはない。図示は省略するが、バランス取り部K1の長さは、前記基準の半分以上としてもよい。
【0072】
図2は、
図1に示したバランス取り部K1でロータ6のバランスを取る方法の説明図である。
図1に示したバランス取り部K1は、前述の通り、連結部60側から切り欠かれた形態で設けられるから、バランス取り部K1の下部側(連結部60側)は下方に向けて開放されている。従って、例えば、質量付加手段Mとして後述の合成樹脂接着剤を用いる場合は、
図2に示すバランス取り方法で、ロータ6のバランス取りを行うことができる。
【0073】
図2のバランス取り方法は、予め、棒状の工具Tの先端に合成樹脂接着剤(質量付加手段M)を付着させておき、その工具Tをロータ6の内周面と略平行な姿勢とし、この姿勢で当該工具Tの先端をロータ軸5とロータ6との間に挿入する(
図2の二点破線で示す工具Tを参照)。そして、前記のように挿入した工具Tを平行移動させながら、前記のように開放されているバランス取り部K1の下部側からそのバランス取り部K1に当該工具Tの先端を差し込むことにより(
図2の実線で示す工具Tを参照)、バランス取り部K1の所定位置に合成樹脂接着剤(質量付加手段M)を付加するものである。
【0074】
図3(a)及び(b)は、
図1(a)に示したバランス取り部K1の形状の変形例の説明図である。
図3(a)のバランス取り部K2は、それ全体のうち特に連結部60に近い方で深く、かつ、連結部60から遠い方で浅い、テーパ形状になっている。また、
図3(b)のバランス取り部K3は、その途中に段部Sを有するとともに、該段部Sを境界として、連結部60に近い範囲が深く、かつ、連結部60より遠い範囲が浅い、段付き形状になっている。このようなテーパ形状のバランス取り部K2や段部Sを有するバランス取り部K3を
図1(a)のバランス取り部K1として採用することができる。また、図示は省略するが、必要に応じて、前記のようなテーパ形状と段部を組み合わせた形状のバランス取り部を
図1(a)のバランス取り部K1として採用することも可能である。
【0075】
質量付加手段Mとしては、例えば、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、ポリアミド樹脂等の各種合成樹脂接着剤を1mm程度の厚みでバランス取り部K1、K2、K3に塗布し、かつ、常温または加熱によりその合成樹脂接着剤を硬化させる方式を採用することができる。この際、塗布する合成樹脂接着剤を少量にする方法としては、例えば、その合成樹脂接着剤よりも密度の高い金属粉末を合成樹脂接着剤の中に含有させる方法を採用してもよい。この種の金属粉末としては、例えば、SUS粉末、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化クロム(Cr
2O
3)等の金属酸化物からなるセラミック微粒子若しくはセラミック短繊維を採用することができる。
【0076】
以上説明した第1実施形態の真空ポンプP1によると、前記の通り、第1の筒体61又は連結部60の内周面にロータ6のバランス取り部K1、K2、K3を設け、このバランス取り部K1、K2、K3に質量付加手段Mを設けた。このため、第1の筒体61又は連結部60の内周側にはネジ溝排気流路が形成されないので、バランス取り部K1、K2、K3がネジ溝排気部Psに与える影響、具体的にはネジ溝排気部Psの有効なネジ長がバランス取り部K1、K2、K3の存在によって短くなることはなく、真空ポンプPの排気性能の向上を図ることができる。また、バランス取り部K1、K2、K3に設けた質量付加手段Mが腐食性ガスに直接曝されることはないから、質量付加手段Mが腐食により砕けて破片が発生する等の不具合を回避できる。
【0077】
また、第1実施形態の真空ポンプP1にあっては、バランス取り部K1、K2、K3の具体的な構成として、当該バランス取り部K1、K2、K3は、第1の筒体61の内径より大きい内径を有し、その内径が下部に行くに従い同等又は同等以上である、という構成を採用したため、バランス取り部K1、K2、K3の下部(連結部60側)が下方に向けて開放されたものとなる。このことより、例えば万が一何らかの原因で、バランス取り部K1、K2、K3に設けた質量付加手段Mの一部が破片として脱落する事態が発生した場合でも、その脱落した破片は前記のように開放されているバランス取り部K1、K2、K3の下部から直ちにかつスムーズに下方へ落下し、真空ポンプPから排気されるガスと一緒に真空ポンプP外へ排出される。よって、真空ポンプ耐腐食性試験の段階でそのような破片が発生した場合に、かかる破片の早期排出と早期発見が可能となり、納品した真空ポンプからその上流の装置へ前記破片が流出するという不具合を未然に防止することができる。
【0078】
さらに、前記のようにバランス取り部K1、K2、K3の下部が下方に向けて開放されている場合は、例えば質量付加手段Mとして合成樹脂接着剤を用いる際、ロータ6の内周面と略平行な姿勢の工具の先端に予め合成樹脂接着剤を付着させておき、その工具を平行移動させながら、開放されているバランス取り部K1、K2、K3の下部側からそのバランス取り部K1、K2、K3に当該工具の先端を差し込むことによって、バランス取り部K1、K2、K3の所定位置に合成樹脂接着剤(質量付加手段)を付加することができる。その付加時に当該工具を斜めに傾ける必要がないから、工具とロータ軸との接触・干渉を回避でき、バランス取りの作業性も向上する。
【0079】
図4(a)は、本発明の第2実施形態である真空ポンプ(ネジ溝ポンプ折り返し流タイプ)の断面図、同図(b)は、(a)のB部拡大図である。
【0080】
図1(a)の真空ポンプP1は、ロータ6の略下半分(第2の筒体62)の内周側と外周側を並行してガスが流れる構成(ネジ溝ポンプ並行流タイプ)であるが、
図4(a)の真空ポンプP2は、そのタイプが異なる。
【0081】
すなわち、この
図4(a)の真空ポンプP2は、同図(a)矢印R1−R2で示したように、ロータ6の下端部(具体的には、第2の筒体62の下端部)でガスの流れが上下方向に反転することにより、ロータ6の略下半分の内周側と外周側とでガスが逆向きに流れる構成(ネジ溝ポンプ折り返し流タイプ)である。なお、その構成以外の真空ポンプP2の基本的な構成については
図1(a)の真空ポンプP1と同様であるため、
図4(a)では、
図1(a)に示した部材と同一部材に同一の符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0082】
本発明の第1実施形態で先に説明した
図1(a)(b)や
図3(a)(b)に示すバランス取り部K1、K2、K3は、
図4(a)のようなネジ溝ポンプ折り返し流タイプの真空ポンプP2にも適用することができる。
【0083】
図5(a)は、本発明の第3実施形態である真空ポンプ(ネジ溝ポンプ並行流および一部樹脂ロータタイプ)の断面図、同図(b)は、(a)のB部拡大図である。
【0084】
図5(a)の真空ポンプP3は、
図1(a)の真空ポンプP1における第2の筒体62を繊維強化樹脂で形成したものであり、それ以外の基本的な真空ポンプP3の構成は、
図1(a)の真空ポンプP1と同様であるため、
図5(a)では、
図1(a)に示した部材と同一部材に同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0085】
この
図5(a)の真空ポンプP3のロータ6も、
図1(a)の真空ポンプP1のロータ6と同じく、連結部60を介して第1の筒体61と第2の筒体62の端部どうしを連結した構造になっているが、その連結部60の具体的な構成や第2の筒体62の材質等、ロータ6の具体的な構成は、
図1(a)の真空ポンプP1のロータ6とは異なっている。
【0086】
すなわち、
図5(a)の真空ポンプP3のロータ6における連結部60は、第1の筒体61の下端に一体に設けた環状の板体60Aと、環状の板体60Aの外周部に一体に設けた環状の凸部60Bとからなり、その環状の凸部60Bの外周部に第2の筒体62が嵌め込み装着されることによって、第1の筒体61と第2の筒体62とが一体に連結されている。
【0087】
また、この
図5(a)の真空ポンプP3のロータ6において、第1の筒体61や環状の板体60A、及び環状の凸部60Bは、いずれも、アルミニウム合金等の金属材料で構成されているが、第2の筒体62は、その金属材料よりも軽量な繊維強化樹脂で構成されている。
【0088】
本発明の第1実施形態で先に説明した
図1(a)(b)や
図3(a)(b)に示すバランス取り部K1、K2、K3は、この
図5(a)の真空ポンプP3のように、ロータ6全体のうち第2の筒体62を繊維強化樹脂で形成した形式にも適用することができる。
【0089】
図6(a)は、本発明の第4実施形態である真空ポンプ(ネジ溝ポンプ並行流タイプ)の断面図、同図(b)は(a)のB部拡大図である。
【0090】
この
図6(a)の真空ポンプP4の基本的な構成は、
図1(a)の真空ポンプと同様であるため、
図6(a)では、
図1(a)に示した部材と同一部材に同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0091】
図1(a)の真空ポンプP1におけるバランス取り部K1は、第1の筒体61の内径より大きい内径を有するものであったが、
図6(a)の真空ポンプP4におけるバランス取り部K4は、第1の筒体61と同じ内径となるように構成したものであり、
図6(a)の真空ポンプP4では、そのように構成したバランス取り部K4に質量付加手段Mを設けている。
【0092】
この
図6(a)のバランス取り部K4は、例えば、
図4(a)の真空ポンプP2や、
図5(a)の真空ポンプP3にも適用することができる。
【0093】
この第4実施形態の真空ポンプP4にあっても、第1実施形態の真空ポンプP1と同じく、第1の筒体61又は連結部60の内周面にロータ6のバランス取り部K4が設けられること、及び、第1の筒体61又は連結部60の内周側にはネジ溝排気流路R1、R2が形成されないことから、第1実施形態の真空ポンプP1と同様の作用効果、すなわち、真空ポンプP4の排気性能の向上、質量付加手段Mが腐食により砕けて破片が発生する等の不具合の回避が可能である。
【0094】
さらに、この第4実施形態の真空ポンプP4でも、第1実施形態の真空ポンプP1と同じく、バランス取り部K4の下部が下方に向けて開放されたものとなるから、第1実施形態の真空ポンプP1と同様の作用効果、すなわち、前記破片の早期排出と早期発見が可能であり、また、バランス取りの作業性も向上する。
【0095】
図7(a)は、本発明の第5実施形態である真空ポンプのロータの断面図、同図(b)は(a)のB部拡大図である。
【0096】
この
図7(a)の真空ポンプのロータ6の基本的な構成は、
図5(a)の真空ポンプP3のロータ6と同様であるため、
図7(a)では
図5(a)に示した部材と同一部材に同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0097】
図7(a)の真空ポンプのロータ6では、連結部60の凸部60Bの内周面をバランス取り部K5とし、このバランス取り部K5に耐腐食性の質量付加手段Mを設けている。図示は省略するが、このバランス取り部K5でも、例えば
図1(b)や
図3(a)(b)にそれぞれ示すテーパ形状や段部を有する形状を採用可能である。
【0098】
この第5実施形態の真空ポンプのロータ6にあっては、前記の通り、凸部60Bの内周面をロータ6のバランス取り部K5とし、このバランス取り部K5に耐腐食性の質量付加手段Mを設ける構成を採用した。この凸部60Bの内周面にはネジ溝排気流路R1、R2を構成するネジ溝19A、19Bが形成されないので、当該凸部60Bの内周面に設けた質量付加手段Mによるロータ6のバランス取り部がネジ溝排気部Psに与える影響、具体的にはネジ溝排気部Psの有効なネジ長がバランス取り部の存在によって短くなることはなく、真空ポンプの排気性能の向上を図ることができる。
【0099】
また、この第5実施形態の真空ポンプのロータ6においては、耐腐食性の質量付加手段Mを採用したため、質量付加手段Mを設けた凸部60Bの内周側はネジ溝排気流路R1に連通する流路になるものの、その流路内の腐食性ガスによって質量付加手段Mが腐食し砕けて破片となる事態を回避でき、バランス取り部K5からの破片の脱落防止を図ることができる。また、そのような破片が真空ポンプから排気されるガスと一緒に真空ポンプ下流の装置へ流出する可能性も大幅に低減できる。
【0100】
さらに、この第5実施形態の真空ポンプのロータ6では、凸部60Bの内周面の下部は下方に向けて開放されている。このため、万が一何らかの原因で、その凸部60Bの内周面に設けた質量付加手段Mの一部が破片として脱落する事態が発生した場合でも、脱落した破片は、どこにも留まらず、凸部60Bの内周面の開放部(凸部60Bの内周面の下部側)から直ちにかつスムーズに下方へ落下し、真空ポンプから排気されるガスと一緒に真空ポンプ外へ排出される。従って、真空ポンプの耐腐食性試験の段階でそのような破片が発生した場合に、かかる破片の早期排出と早期発見が可能となり、納品した真空ポンプからその上流の装置へ前記破片が流出するという不具合を未然に防止することができる。
【0101】
また、この第5実施形態の真空ポンプのロータ6では、前記の通り、凸部60Bの内周面の下部は下方に向けて開放されている。従って、質量付加手段Mとして例えば合成樹脂接着剤を用いる場合には、ロータ6の内周面と略平行な姿勢の工具の先端に予め合成樹脂接着剤を付着させておき、その工具を平行移動させながら、前記凸部60Bの内周面の開放部(凸部60Bの内周面の下部側)から当該凸部60Bの内周面に当該工具の先端を差し込むことによって、凸部60Bの内周面の所定位置に合成樹脂材接着剤(質量付加手段M)を付加することができる。その付加時に当該工具を斜めに傾ける必要がないから、工具とロータ軸5との接触・干渉を回避でき、バランス取りの作業性の向上も図ることができる。
【0102】
図8(a)は、本発明の第6実施形態である真空ポンプ(ネジ溝ポンプ並行流タイプ)の断面図、同図(b)は、(a)のB部拡大図である。
【0103】
この
図8(a)の真空ポンプP5の基本的な構成は、
図1(a)の真空ポンプP1と同様であるため、
図8(a)では、
図1(a)に示した部材と同一部材に同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0104】
図8(a)の真空ポンプP5が
図1(a)の真空ポンプP1と異なる構成は、連結部60の底面60
INとその底面60
IN側に位置する内側ネジ溝排気部ステータ18A(固定部)とが所定隙間Vを介して対向することにより、連結部60と内側ネジ溝排気部ステータ18Aの間に固定シール部20が形成され、その連結部60の底面60
INと内側ネジ溝排気部ステータ18Aとが対向する範囲において、第1の筒体61の内周面又は連結部60の内周面側へのガスの逆流を防止する非接触型シールとして機能するように構成されている点である。前記所定隙間Vは、真空ポンプP5稼働時のロータの振れ量や熱膨張における寸法変化、そして組立時の組立誤差などから考慮し設定する。なお、本発明では、前記所定隙間Vを、微小シール隙間として約0.5mmから3.0mm程度に設定しているが、この設定値は必要に応じて適宜変更することができる。
【0105】
また、この
図8(a)の真空ポンプP5においては、前記固定シール部20の具体的な構成例として、かかる固定シール部20は、内側ネジ溝排気部ステータ18Aの先端部に一体に形成しているが、これに限定されることはない。例えば、内側ネジ溝排気部ステータ18Aとは別体に固定シール部20を形成して内側ネジ溝排気部ステータ18Aに取り付け固定する構成も採用し得る。また、内側ネジ溝排気部ステータ18Aとは異なる真空ポンプ内の固定部、例えばステータコラム4(固定部)等に固定シール部20を一体に設けたり取り付け固定したりする構成も採用し得る。
【0106】
ところで、例えば
図1(a)の真空ポンプP1において、連結部60の連通開口部Hから内側ネジ溝排気流路R1側に導かれるガスの一部は、内側ネジ溝排気部ステータ18Aと連結部60との間を抜けてステータコラム4の外周に向かい、第1の筒体61の内周面又は連結部60の内周面側へ逆流しようとする。このガスの逆流はステータコラム4のどの外周方向からも生じ得るため、
図8(a)の真空ポンプP5においては、ステータコラム4の外周を囲むように環状に前記固定シール部20を形成することで、前記非接触型シールを環状に設けている。
【0107】
従って、
図8(a)の真空ポンプP5によると、連結部60の連通開口部Hから内側ネジ溝排気流路R1側に導かれるガスが腐食性ガスであっても、そのような腐食性ガスが第1の筒体61の内周面又は連結部60の内周面側へ逆流する現象は非接触型シールによって防止されるから、第1の筒体61の内周面又は連結部60の内周面側が腐食性ガスに曝される可能性は少ない。
【0108】
ところで、
図8(a)の真空ポンプP5においても、
図1(a)の真空ポンプP1と同じく、第1の筒体61又は連結部60の内周面にロータ6のバランス取り部K1を設けるとともに、このバランス取り部K1に質量付加手段Mを設けているが、この
図8(a)の真空ポンプP5の場合は、そのような質量付加手段Mが設けられる領域、すなわち第1の筒体61の内周面又は連結部60の内周面側は、前述のように腐食性ガスの逆流が防止されているので、質量付加手段Mが腐食性ガスに曝される可能性も少なく、質量付加手段Mの腐食による破片の発生をより一層効果的に防止することが可能である。
【0109】
以上説明した
図8(a)の真空ポンプP5における非接触型シールは、
図1(a)の真空ポンプP1だけでなく、例えば
図4(a)、
図5(a)、又は
図6(a)の真空ポンプP2、P3、P4にも適用することができる。
【0110】
上述した実施形態及び各変形例は、種々組み合わせることができる。例えば、第1実施形態と第5実施形態の両方でバランス取りをすることも可能である。