特許第6208146号(P6208146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許62081461,4−ブタンジオールの製造方法、微生物及び遺伝子
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  • 特許6208146-1,4−ブタンジオールの製造方法、微生物及び遺伝子 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208146
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】1,4−ブタンジオールの製造方法、微生物及び遺伝子
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/18 20060101AFI20170925BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170925BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20170925BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20170925BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C12P7/18ZNA
   C12N15/00 A
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-551065(P2014-551065)
(86)(22)【出願日】2013年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2013082068
(87)【国際公開番号】WO2014087921
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-266501(P2012-266501)
(32)【優先日】2012年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 裕史
(72)【発明者】
【氏名】小木戸 謙
(72)【発明者】
【氏名】橋本 陽子
(72)【発明者】
【氏名】米田 正
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−529267(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0259411(US,A1)
【文献】 特開2008−245633(JP,A)
【文献】 特開平10−108682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C12P 7/00 − 7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物及び/又はその培養物を用いて、下記(1)〜(5)の工程を経て、1,4−ブタンジオールを製造する方法であって、
(1)アセチルCoAをアセトアセチルCoAに変換する工程
(2)アセトアセチルCoAを3−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程
(3)3−ヒドロキシブチリルCoAをクロトニルCoAに変換する工程
(4)クロトニルCoAを4−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程
(5)4−ヒドロキシブチリルCoAを1,4−ブタンジオールに変換する工程
前記微生物は、
前記(1)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号3の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号3の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み
前記(2)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号4の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号4の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号4の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み、
前記(3)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号6の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号6の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号6の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み、
前記(4)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号1の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号1の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝
いずれかを含み、
前記(5)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号8または9の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号8または9の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号8または9の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含む、1,4−ブタンジオールの製造方法。
【請求項2】
下記(1)〜(5)の工程を経て、1,4−ブタンジオールを製造する能力を有する微生物であって、
(1)アセチルCoAをアセトアセチルCoAに変換する工程
(2)アセトアセチルCoAを3−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程
(3)3−ヒドロキシブチリルCoAをクロトニルCoAに変換する工程
(4)クロトニルCoAを4−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程
(5)4−ヒドロキシブチリルCoAを1,4−ブタンジオールに変換する工程
前記(1)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号3の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号3の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み
前記(2)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号4の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号4の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号4の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み、
前記(3)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号6の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号6の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号6の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み、
前記(4)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号1の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号1の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝
いずれかを含み、
前記(5)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号8または9の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号8または9の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号8または9の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含む、微生物。
【請求項3】
請求項1に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法に用いられる遺伝子であって
a)配列番号1、3、4、6、8、9のいずれかの塩基配列を有する遺伝子
(b)配列番号1、3、4、6、8、9のいずれかの塩基配列において、1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、元の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかである、遺伝子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,4−ブタンジオールの製造方法、微生物及び遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石資源の枯渇や地球温暖化対策などの観点から、再生可能資源を原料とした化合物製造プロセスが注目されている。特に、バイオマスを原料として、生物化学的プロセスで種々のポリマー原料化合物や化学品原料化合物を製造する、所謂バイオリファイナリーが広く検討されている。
【0003】
バイオマスの原料転換が期待されている化合物として、1,4−ブタンジオールが挙げられる。1,4−ブタンジオールは、精密有機化学品の合成原料、ポリエステル及びエンジニアリングプラスチックのモノマー単位などで広く使用されており、その市場規模は大きい。そのため、バイオマスなどの再生可能資源を原料とした生物化学的プロセスで、効率良く1,4−ブタンジオールを製造する方法に対する要求が大きくなっている。
【0004】
生物化学的プロセスを用いた1,4−ブタンジオールの製造方法としては、例えば、特許文献1乃至2及び非特許文献1に記載された方法が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特許第4380704号明細書
【特許文献2】国際公開2008/115840号公報
【0006】
【非特許文献1】Harry Yim et al., Metabolic engineering of Escherichia coli for direct production of 1,4−butanediol, Nature Chemical Biology, 7, 445−452 (2011).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1乃至2及び非特許文献1に記載された方法は、プロセスが複雑である。
【0008】
上記課題に対して、経済的に1,4−ブタンジオールを得ることができる、新規な1,4−ブタンジオールの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のものを含む。
[1]微生物及び/又はその培養物を用いて、下記(1)〜(5)の工程を経て、1,4−ブタンジオールを製造する方法であって、
(1)アセチルCoAをアセトアセチルCoAに変換する工程
(2)アセトアセチルCoAを3−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程
(3)3−ヒドロキシブチリルCoAをクロトニルCoAに変換する工程
(4)クロトニルCoAを4−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程
(5)4−ヒドロキシブチリルCoAを1,4−ブタンジオールに変換する工程
前記微生物は、
前記(1)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号3の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号3の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み
前記(2)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号4の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号4の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号4の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み、
前記(3)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号6の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号6の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号6の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み、
前記(4)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号1の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号1の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝
いずれかを含み、
前記(5)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号8または9の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号8または9の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号8または9の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含む、1,4−ブタンジオールの製造方法。
【0010】
[2]下記(1)〜(5)の工程を経て、1,4−ブタンジオールを製造する能力を有する微生物であって、
(1)アセチルCoAをアセトアセチルCoAに変換する工程
(2)アセトアセチルCoAを3−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程
(3)3−ヒドロキシブチリルCoAをクロトニルCoAに変換する工程
(4)クロトニルCoAを4−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程
(5)4−ヒドロキシブチリルCoAを1,4−ブタンジオールに変換する工程
前記(1)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号3の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号3の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み
前記(2)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号4の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号4の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号4の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み、
前記(3)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号6の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号6の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号6の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含み、
前記(4)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号1の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号1の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝
いずれかを含み、
前記(5)の工程を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号8または9の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号8または9の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号8または9の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかを含む、微生物。
【0011】
[3][1]に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法に用いられる遺伝子であって
a)配列番号1、3、4、6、8、9のいずれかの塩基配列を有する遺伝子
(b)配列番号1、3、4、6、8、9のいずれかの塩基配列において、1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、元の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
のいずれかである、遺伝子。
【発明の効果】
【0012】
経済的に1,4−ブタンジオールを得ることができる、新規な1,4−ブタンジオールの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態の1,4−ブタンジオールの製造方法の酵素系の一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、「CoA」とは、「コエンザイムA」を意味する。また、「%」は、特に記載のない限り、「質量%」を意味する。「ppm」は質量基準である。
【0015】
実施形態の1,4−ブタンジオールの製造方法は、アセチルCoA、アセトアセチルCoA、3−ヒドロキシブチリルCoA、クロトニルCoA、4−ヒドロキシブチリルCoAを経由する、微生物又はその培養物を用いた酵素反応による1,4−ブタンジオールの製造方法である。各々の酵素反応は、具体的には、
(1)アセチルCoAをアセトアセチルCoAに変換する工程、
(2)アセトアセチルCoAを3−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程、
(3)3−ヒドロキシブチリルCoAをクロトニルCoAに変換する工程、
(4)クロトニルCoAを4−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程及び
(5)4−ヒドロキシブチリルCoAを1,4−ブタンジオールに変換する工程、
を含む。
【0016】
本発明者らは、1,4−ブタンジオールの生産性を向上させるべく種々検討した結果、上述の工程における各反応を触媒する酵素をコードする遺伝子において、特定の遺伝子又はそのホモログを使用することにより、1,4−ブタンジオールを高い生産性で得ることができることを見出した。
【0017】
前記特定の遺伝子としては、具体的には、(4)クロトニルCoAを4−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程における反応を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号1の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号1の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号1に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
のいずれかの遺伝子を好適に使用する。
【0018】
また、他の工程(1)、(2)、(3)、(5)のいずれか1つ以上の工程において、対応する変換反応を触媒する酵素をコードする遺伝子として、
(a)配列番号2乃至9のいずれかの塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号2乃至9のいずれかの塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号2乃至9に記載のいずれかの塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
のいずれかの遺伝子を好適に使用する。
【0019】
本実施形態において、特定の遺伝子は、上述の通り、配列表で具体的に示した塩基配列を有する遺伝子及びそのホモログを含む。ホモログは、オーソログ及びパラログを含む。オーソログとは、共通祖先の遺伝子から種分化により生じた種間で対応する遺伝子及びその遺伝子より得られる酵素の組を指す。パラログとは、同種内において、種分化でなく遺伝子重複によって生じた種間で対応する遺伝子及びその遺伝子より得られる酵素を指す。ホモログとは、オーソログ、パラログに関係なく配列に同一性を有する遺伝子及びその遺伝子より得られる酵素を指す。
【0020】
より具体的には、上述した遺伝子のホモログ(遺伝子)は、当該遺伝子に対して90%以上の同一性、好ましくは95%以上の同一性のある塩基配列を有する遺伝子、より好ましくは、その遺伝子と全く同一又はその塩基の1個若しくは数個が欠失、置換又は付加された遺伝子を指す。
【0021】
また、ホモログ遺伝子は、対象の遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子を含む。具体的には、公知のデータベースに対するホモロジー検索プログラム(例えば、BLAST、FASTA)を適用して、又は、同定遺伝子の少なくとも一部から成るプローブ(当該遺伝子の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNA)を用いたストリンジェントな条件でのハイブリダイゼーション若しくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの常法に基づいて、遺伝子又はその遺伝子による形質転換で得られる酵素として取得することができる。また、当業者であれば、塩基配列を置換等することによって、自ら設計することが可能である。なお、ここで言うストリンジェントな条件としては、例えば、Molecular Cloning −A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press)の非特許文献に記載されたハイブリダイズさせる条件が挙げられる。バイブリダイズさせる条件とは、より具体的には、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M 塩化ナトリウム、0.015M クエン酸ナトリウムで、pH:7.0)、0.5% SDS、5×デンハート溶液及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液に、プローブとともに65℃で8〜16時間恒温保持し、ハイブリダイズさせる条件である。
【0022】
本発明は、例えば、上記のようにして選ばれる、各遺伝子にコードされる酵素又は一連の酵素群を、以下説明する宿主微生物を遺伝子組み換えにより形質転換させた微生物体内で発現(共発現であっても良い)させることで、反応を進行させる。
【0023】
以下、本実施形態で使用される、微生物の特徴、微生物の作製方法、微生物の使用方法(即ち、1,4−ブタンジオールの製造方法)及び製造された1,4−ブタンジオールの取得方法などについて、説明する。
【0024】
(宿主微生物)
本実施形態で使用される宿主微生物は、後述する種々の遺伝子を導入することができる宿主微生物であり、例えば宿主微生物に遺伝子組み換え技術を適用することができる。
【0025】
本実施形態において、上述した遺伝子を導入することができる宿主微生物の例としては、遺伝子組み換え技術を適用することができる微生物であれば、特に限定されない。産業上の利用の観点から、具体例としては、大腸菌、酵母、コリネ型細菌、クロストリジウム属細菌が挙げられる。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、クリベロマイセス・ラクティス、クリベロマイセス・マルキシアヌス等が挙げられる。コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・エフィシエンス、ブレビバクテリウム・ディバリカタム、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム、ブレビバクテリウム・インマリオフィルム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム、ブレビバクテリウム・ロゼウム、ブレビバクテリウム・フラバム、ブレビバクテリウム・チオゲニタリス、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム、コリネバクテリウム・アセトグルタミカム、コリネバクテリウム・カルナエ、コリネバクテリウム・リリウム、コリネバクテリウム・メラセコーラ、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等が挙げられる。クロストリジウム属細菌としては、クロストリジウム・クリベリ、クロストリジウム・アセトブチリカム、クロストリジウム・アミノブチリカム、クロストリジウム・ベイジェリンキー、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカムなどが挙げられる。これらの中でも、大腸菌、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、コリネバクテリウム・グルタミカムを使用することが、形質転換が容易であるため、好ましく、大腸菌を使用することが、より好ましい。
【0026】
また、本実施形態における形質転換微生物は、微生物培養菌体そのもの又はその培養物の各種形態で使用されても良い。本実施形態における微生物の培養物は、具体的には、微生物培養菌体の培地・緩衝液等媒体による懸濁物、微生物培養菌体からの無細胞抽出液、さらにこの無細胞抽出液から当該反応を触媒する成分を濃縮・精製・抽出したもの等の処理物を含む。本実施形態における微生物の培養物は更に、前記の微生物の処理物を難溶性の担体に固定化したものを含む。このような固定化担体としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリ−N−ビニルホルムアミド、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、メチルセルロース、グルコマンナン、アルギン酸塩、カラギーナン等、更にこれらの共重合、架橋化物など、前述の微生物菌体もしくはその処理物を包合した水難溶性の固形分を形成するような化合物が挙げられる。これらは1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を混合して使用しても良い。また、活性炭、多孔質セラミックス、グラスファイバー、多孔質ポリマー成形体、ニトロセルロース膜など、予め固形物として形成された物体上に微生物もしくはその抽出液・抽出成分を保持させたものも、微生物の培養物として用いることもできる。
【0027】
(形質転換微生物)
本実施形態で使用される宿主微生物は、後述する種々の遺伝子を導入することができる宿主微生物であり、例えば宿主微生物に遺伝子組み換え技術を適用することができる。具体的には、その宿主微生物が本来有する酵素系に、更にアセチルCoA、アセトアセチルCoA、3−ヒドロキシブチリルCoA、クロトニルCoA、4−ヒドロキシブチリルCoAを経由して、1,4−ブタンジオールを生産することができる酵素反応系の各々の酵素系を有する。以下、本実施形態の1,4−ブタンジオールの製造方法の酵素系と、各々の酵素系をコードする遺伝子について説明する。
【0028】
図1に、本実施形態の1,4−ブタンジオールの製造方法の酵素系の一例を示す。本実施形態において、1,4−ブタンジオールは、後述する一連の遺伝子を形質転換などにより微生物体内で発現させた培養物を用いて得ることができる。なお、遺伝子は、個別に又は一連のクラスターとして、任意のベクターに挿入して、宿主微生物を形質転換する。得られた形質転換体を、適当な炭素源、例えばグルコースを炭素源として培地中で培養することで、各遺伝子を発現させる。宿主で構成発現し得る遺伝子の場合には、培地中で形質転換体を培養することで、遺伝子が発現する。一方、各遺伝子をベクター上に配されたレギュレーターの制御下で構成した場合には、誘導基質を添加し、誘導的環境へ移行することにより、各々のコードする遺伝子が発現する。なお、本実施形態における培養とは、通常の微生物培養の培養条件を全て含み、また、本実施形態において培養とは、微生物が1,4−ブタンジオールを製造するための十分な時間及び条件で培養することを意味する。
【0029】
[アセチルCoAをアセトアセチルCoAに変換する反応を触媒する遺伝子]
本実施形態において、アセチルCoAをアセトアセチルCoAに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子としては、発明者らにより提供される、
(a)配列番号2の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号2の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号2の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号2に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
が好適に用いられる。
【0030】
また、本実施形態において、アセチルCoAをアセトアセチルCoAに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子としては、発明者らにより提供される、
(a)配列番号3の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号3の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号3に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
が好適に用いられる。
【0031】
[アセトアセチルCoAを3−ヒドロキシブチリルCoAに変換する反応を触媒する遺伝子]
本実施形態において、アセトアセチルCoAを3−ヒドロキシブチリルCoAに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子としては、発明者らにより提供される、
(a)配列番号4の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号4の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号4の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号4に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
が好適に用いられる。
【0032】
また、本実施形態において、アセトアセチルCoAを3−ヒドロキシブチリルCoAに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子としては、発明者らにより提供される、
(a)配列番号5の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号5の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号5の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号5に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
が好適に用いられる。
【0033】
[3−ヒドロキシブチリルCoAをクロトニルCoAに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子]
本実施形態において、3−ヒドロキシブチリルCoAをクロトニルCoAに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子としては、発明者らにより提供される、
(a)配列番号6の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号6の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号6の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号6に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
が好適に用いられる。
【0034】
また、本実施形態において、3−ヒドロキシブチリルCoAをクロトニルCoAに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子としては、発明者らにより提供される、
(a)配列番号7の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号7の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号7の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号7に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
が好適に用いられる。
【0035】
[クロトニルCoAを4−ヒドロキシブチリルCoAに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子]
本実施形態において、クロトニルCoAを4−ヒドロキシブチリルCoAに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子としては、発明者らにより提供される、
(a)配列番号1の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号1の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号1に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
が好適に用いられる。
【0036】
[4−ヒドロキシブチリルCoAを1,4−ブタンジオールに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子]
本実施形態において、4−ヒドロキシブチリルCoAを1,4−ブタンジオールに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子としては、発明者らにより提供される、
(a)配列番号8の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号8の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号8の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号8に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
が好適に用いられる。
【0037】
また、本実施形態において、4−ヒドロキシブチリルCoAを1,4−ブタンジオールに変換する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子としては、発明者らにより提供される、
(a)配列番号9の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号9の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号9の塩基配列に対して90%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、
(c)配列番号9に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、
が好適に用いられる。
【0038】
なお、上述した遺伝子がコードする酵素は、4−ヒドロキシブチリルCoAを4−ヒドロキシブタナールに変換する反応を触媒するが、得られた4−ヒドロキシブタナールは、前述した宿主微生物が通常有するアルコール還元酵素により、実質的に直ちに1,4−ブタンジオールへと導かれる。
【0039】
[アセチルCoAの供給]
本実施形態の1,4−ブタンジオールの製造方法の基質となるアセチルCoAの供給方法としては、特に制限はなく、既知の様々な方法が用いられる。例えば、宿主微生物の解糖系の作用により、グルコースなどの糖質から得ることができる。また、脂質のβ−酸化の過程でも、アセチルCoAを得ることができる。さらに、CoA転位酵素を用いて、適当なCoA物質とのカップリングにより、酢酸にCoAを転位することによって、アセチルCoAを供給しても良い。
【0040】
(微生物の作製方法)
宿主微生物への遺伝子の導入は種々の知られた方法、例えば制限酵素/ライゲーションに基づく方法、In−Fusionクローニング方法などを適宜組み合わせて用いることで、上記遺伝子又はその一部を適当なベクターに連結し、得られた組換えベクターを目的の遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより可能である。又は相同組換えによってゲノム上の任意の位置に目的の遺伝子又はその一部を挿入することにより可能である。「一部」とは、宿主中に導入された場合に各遺伝子がコードするタンパク質を発現することができる各遺伝子の一部分を指す。本発明において遺伝子には、DNA及びRNAが包含され、好ましくはDNAである。
【0041】
前記遺伝子を連結するベクターとしては、宿主で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば大腸菌において外来遺伝子導入に利用されているプラスミド、ファージ及びコスミド等が挙げられる。プラスミドとしては、例えば、pHSG398、pUC18、pBR322、pSC101、pUC19、pUC118、pUC119、pACYC117、pBluescript II SK(+)、pET17b、pETDuet−1、pACYCDuet−1、pCDFDuet−1、pRSFDuet−1、pCOLADuet−1等が挙げられ、ファージとしては、例えばλgt10、Charon 4A、EMBL−、M13mp18、M13mp19等が挙げられる。これらのいくつかは市販されており、市販品(キット)をその手順書に従いそのまま、又は適宜改変して使用することができる。
【0042】
上記ベクターにおいては、挿入した遺伝子が確実に発現されるようにするため、該遺伝子の上流に適当な発現プロモーターを接続してもよい。使用する発現プロモーターは、特に制限されず、宿主に応じて当業者が適宜選択可能である。例えば大腸菌において外来遺伝子発現に利用されているT7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、λ−PLプロモーター、又は大腸菌由来の硝酸呼吸に関与する硝酸還元遺伝子narGHJIオペロンのNarプロモーター領域や、大腸菌の硝酸還元酵素遺伝子であるFrd遺伝子のプロモーター領域を利用することもできる。
【0043】
また場合により宿主微生物の本来の遺伝子を破壊してその遺伝子を発現させないようにすることも好ましい。遺伝子破壊の方法については、大腸菌における遺伝子破壊に利用されている公知の方法を使用できる。具体的には、標的遺伝子の任意の位置で相同組換えを起こすベクター(ターゲティングベクター)を用いて当該遺伝子を破壊する方法(ジーンターゲティング法)や、標的遺伝子の任意の位置にトラップベクター(プロモーターを持たないレポーター遺伝子)を挿入して当該遺伝子を破壊しその機能を失わせる方法(遺伝子トラップ法)、それらを組み合わせた方法等の当技術分野でノックアウト細胞等を作製する際に用いられる方法を用いることが出来る。
【0044】
相同置換を起こす位置又はトラップベクターを挿入する位置は、破壊したい標的遺伝子の発現を消失させる変異を生じる位置であれば特に限定されないが、好ましくは転写調節領域である。
【0045】
さらに、前記ベクターの宿主への導入方法としては、特に制限されないが、例えば、大腸菌へのベクター導入に一般的に利用されているカルシウムイオンを用いる方法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法等を挙げることができる。
【0046】
相同組換えによってゲノム上の任意の位置に目的の遺伝子を挿入する方法は、ゲノム上の配列と相同な配列に目的遺伝子をプロモーターとともに挿入し、この核酸断片をエレクトロポレーションによって細胞内に導入して相同組換えを起こさせることにより実施できる。ゲノムへの導入の際には目的遺伝子と薬剤耐性遺伝子を連結した核酸断片を用いると容易に相同組換えが起こった株を選抜することができる。また、薬剤耐性遺伝子と特定の条件下で致死的になる遺伝子を連結した遺伝子をゲノム上に上記の方法で相同組換えによって挿入し、その後、薬剤耐性遺伝子と特定の条件下で致死的になる遺伝子を置き換える形で目的遺伝子を相同組換えにより導入することもできる。
【0047】
さらに目的とする遺伝子が導入された組換え微生物を選択する方法は、特に制限されないが、目的とする遺伝子が導入された組換え微生物のみを、容易に選択できる手法によるものが好ましい。
【0048】
(培養方法及び得られた1−4ブタンジオールの取得方法)
本発明の反応は、もっとも簡便には、例えば形質転換体をLB培地などの栄養培地で15℃〜40℃、望ましくは18℃〜37℃の温度で24時間程度培養したのち、通常の炭素源、例えば0.01〜50%、望ましくは0.1〜30%のグルコースを炭素源とする培地に移殖し、引き続き同様の温度で1時間〜200時間程度培養し、その過程で培養液中に1,4−ブタンジオールを蓄積させることにより達せられる。また菌の増殖・反応の進行による炭素源の消費に応じて、連続的あるいは間欠的に炭素源を添加してもよく、この場合の炭素源の反応液中濃度は前記の限りではない。
【0049】
微生物を培養するための培地炭素源としては、グルコースやシュークロース、フルクトース等の糖類、グリセロール等のポリオール、エタノールや酢酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、安息香酸、脂肪酸などの有機物またはこれらのアルカリ金属塩、n−パラフィンなどの脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、または例えばペプトン、肉エキス、魚エキス、大豆粉、ふすま等の天然有機物を、単独、あるいはこれらの組み合わせにより、通常0.01%〜30%、望ましくは0.1%〜20%程度の濃度で用いることができる。
【0050】
微生物を培養するための培地窒素源としては、例えば硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの無機窒素化合物、また尿素、尿酸などの含窒素有機物、ペプトン、肉エキス、魚エキス、大豆粉等の天然有機物を単独、あるいはこれらの組み合わせにより、通常0.01%〜20%、望ましくは0.1%〜10%程度の濃度で用いることができる。
【0051】
さらに必要に応じて、リン酸2水素カリウム等のリン酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、酢酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、硫酸ニッケルなどの金属塩を菌の生育、酵素活性の改善のために添加することができる。添加濃度は培養条件により異なるが、通常、リン酸塩に関しては0.01%〜5%、マグネシウム塩においては10ppm〜1%、他の化合物では0.1ppm〜1,000ppm程度である。また選択する培地により、ビタミン類、アミノ酸、核酸などの供給源として例えば酵母エキス、カザミノ酸、酵母核酸を1ppm〜100ppm程度、菌の生育、酵素活性を改善のために添加することができる。
【0052】
培地のpHは、4.5〜9、望ましくは5〜8に調整することが望ましい。また前記のような培地であらかじめ培養された微生物菌体を、遠心分離、膜ろ過などの方法により培養液から分取し、反応原料を含む水、生理食塩水、または培養のpHと同等のpHに調整されたリン酸、酢酸、ホウ酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンなどとこれらの塩よりなる緩衝液などに再度懸濁し、反応させることは、反応液中の夾雑物を低減し、後の生成物の分取を簡便にするために有用である。反応中のpHは、充分な濃度の緩衝液を用いる場合においては通常維持されうるが、反応の進行により上記pHを逸脱する場合においては、同様のpHとなるよう水酸化ナトリウム、アンモニアなどを用いて適宜調整することが望ましい。
【0053】
反応液中に1,4−ブタンジオールが蓄積することにより、反応速度が低下する場合、生成物の濃度に応じて反応液中に、水、生理食塩水、反応緩衝液等を追加し連続的に希釈してゆく方法は好適である。また反応速度が低下した時点で菌を分取し、上清を生産物溶液として回収し、分取した菌は再度反応原料を含む溶液あるいは懸濁液に戻すことにより、反応速度を回復することができる。この操作は、遠心分離器や分離膜等を用いて連続的に、あるいは回分的にも実施することができる。
【0054】
反応液中に生成した1,4−ブタンジオールの分離回収および精製は、1,4−ブタンジオールの生成量が実質的な量に達した時点で、反応液から菌体を遠心分離により除去してから、あるいはそのままの反応液に、一般の有機化合物の分離回収および精製の手段を用いることで行うことができる。例えば、培養液から菌体その他を除去したろ液より、適当な有機溶媒を用いて抽出する。この抽出物をそのまま留去するほか、更に適当な溶媒で再抽出する、あるいはシリカゲル等のクロマトグラフィーを用いて精製する、もしくは多段蒸留等に供することにより、高純度の1,4−ブタンジオールが得られる。
【0055】
(実施例及び比較例)
次に、実施例を説明することにより、本発明をより詳細に説明する。
【0056】
表1に、実施例1乃至3及び比較例1における、想定する反応工程と、各々の反応工程を触媒する酵素と、該酵素をコードする遺伝子についてまとめたものを示す。なお、遺伝子における配列番号は、配列表における配列番号に対応している。
【0057】
【表1】
(比較例1)
配列番号10で示される遺伝子配列の上下流に、発現ベクターpET17b(ノバジェン社製)のマルチクローニングサイト中、NdeIサイトの上流側CAT、下流側ATGをそれぞれ含む上流側、下流側15塩基対分に対応する配列をそれぞれ5'末端側、3'末端側に付加した平滑末端断片を常法により調製した。この断片と、pET17b(ノバジェン社製)をNdeI処理した断片とをIn−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)によりライゲーションし、プラスミドpETBD10を得た。
【0058】
pETBD10と同様の方法により、配列番号12で示される遺伝子配列をpET17bのNdeIサイトをターゲットとして挿入した、配列12を含むプラスミドpETBD12を得た。
【0059】
pETBD10の配列10の終止コドン下流に位置する、pET17bマルチクローニングサイト由来のEcoRIサイトを制限酵素処理により切断し、pETBD10の開環断片を調製した。次にpETBD12の配列12の領域と上流のpET17b由来T7プロモーターを含む領域の上下流に、前記pETBD10のEcoRIサイトを含む上流側15bp分、下流側15bp分に対応する配列を付加した断片を、PCRにより調製した。得られた2つの断片を、In−Fusion HD Cloning Kitによりライゲーションし、配列10及び12を含むプラスミドpETBD10−12を得た。
【0060】
以下同様にして、さらにpETBD10−12の配列12の下流の配列をターゲットとして、順次、配列番号14、16、17を追加し、プラスミドpETBD10−12−14−16−17を得た。なお、配列の追加に際して、被挿入側プラスミドの開環は、挿入済配列を切断しない適切な制限酵素サイトがベクター上にある場合はその制限酵素による切断で、またそのようなサイトがない場合は目的挿入部位からのインバースPCRにより行った(以後同様)。pETBD10−12−14−16−17により大腸菌JM109(DE3)株を形質転換し、大腸菌pETBD10−12−14−16−17/JM109(DE3)を得た。
【0061】
(実施例1乃至3)
比較例1と同様の方法により、プラスミドpETBD10−12−14−16−17上の配列番号10、12、14、16、17の各遺伝子を、各工程を触媒する酵素に対応する酵素をコードする、配列番号2、4、6、1、8の遺伝子で部分的に置換したプラスミドで形質転換したJM109(DE3)の形質転換体を得た。
【0062】
表2に、実施例1乃至3及び比較例1における、想定する反応工程と、各々の反応工程を触媒する酵素と、該酵素をコードする遺伝子についてまとめたものを示す。なお、遺伝子における配列番号は、配列表における配列番号に対応している。
【0063】
【表2】
(比較例2)
実施例1〜3および比較例1と同様にして、まず配列番号11、13、15、16、18で示される遺伝子配列を含むプラスミドpETBD11−13−15−16−18を調製し、これにより大腸菌JM109(DE3)株を形質転換した、大腸菌pETBD11−13−15−16−18/JM109(DE3)を得た。
【0064】
(実施例4乃至6)
更に、プラスミドpETBD11−13−15−16−18上の配列番号11、13、15、16、18の各遺伝子を、各工程を触媒する酵素に対応する酵素をコードする、配列番号3、5、7、1、9の遺伝子で部分的に置換したプラスミドで形質転換したJM109(DE3)形質転換体を得た。
【0065】
各実施例及び比較例で得られた各形質転換体を、アンピシリン100mg/Lを含むLB培地5mLで37℃、12時間、好気下で培養した。培養液0.1mLを、グルコース1%、アンピシリン100mg/L、IPTG0.2mMを含むLB培地5mLに移植し、30℃、48時間、好気下で培養した。培養液上清を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:カラム;Shodex SH−1011(昭和電工製)、カラム温度:60℃、溶離液:25mM硫酸水溶液、流速0.6mL/min、検出:示差屈折検出器)に供試した。用いた形質転換体のプラスミドを構成する遺伝子と、培養液中に生成した1,4−ブタンジオール量の関係を、表3及び表4に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
表3及び表4より、
(1)アセチルCoAをアセトアセチルCoAに変換する工程、
(2)アセトアセチルCoAを3−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程、
(3)3−ヒドロキシブチリルCoAをクロトニルCoAに変換する工程、
(4)クロトニルCoAを4−ヒドロキシブチリルCoAに変換する工程及び
(5)4−ヒドロキシブチリルCoAを1,4−ブタンジオールに変換する工程、
を含む、微生物又はその培養物を用いた、酵素反応を利用した1,4−ブタンジオールの製造方法において、
特定の遺伝子又はそのホモログを使用することにより、1,4−ブタンジオールを高い生産性で得ることができる。
【0068】
本出願は、2012年12月5日に日本国特許庁に出願された特願2012−266501号に基づく優先権を主張するものであり、特願2012−266501号の全内容を本出願に援用する。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]