特許第6208186号(P6208186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6208186-血液成分の分離システム、分離材 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208186
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】血液成分の分離システム、分離材
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20170925BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20170925BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20170925BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20170925BHJP
   A61K 35/17 20150101ALN20170925BHJP
   A61K 35/18 20150101ALN20170925BHJP
   A61K 35/19 20150101ALN20170925BHJP
   A61K 35/28 20150101ALN20170925BHJP
   A61P 7/00 20060101ALN20170925BHJP
   C12M 1/34 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   C12Q1/04
   G01N33/48 B
   C12N5/078
   C12N5/0786
   !A61K35/17 A
   !A61K35/18 A
   !A61K35/19 A
   !A61K35/28
   !A61P7/00
   !C12M1/34 B
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-167819(P2015-167819)
(22)【出願日】2015年8月27日
(62)【分割の表示】特願2011-520911(P2011-520911)の分割
【原出願日】2010年6月28日
(65)【公開番号】特開2016-13130(P2016-13130A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2015年8月27日
(31)【優先権主張番号】特願2009-156383(P2009-156383)
(32)【優先日】2009年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 進也
(72)【発明者】
【氏名】小林 明
(72)【発明者】
【氏名】中谷 勝
【審査官】 星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−104643(JP,A)
【文献】 特開2001−078757(JP,A)
【文献】 特開2004−121144(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/046501(WO,A1)
【文献】 特開平01−224325(JP,A)
【文献】 特開2008−022822(JP,A)
【文献】 特開平04−200550(JP,A)
【文献】 特開平04−236959(JP,A)
【文献】 特開平10−201470(JP,A)
【文献】 特開平10−313855(JP,A)
【文献】 特開2007−289076(JP,A)
【文献】 特表2008−525107(JP,A)
【文献】 化学便覧 応用化学編 第6版,丸善株式会社,2003年 1月30日,第827−828頁
【文献】 第4版 実験化学講座27 生物有機,1991年 5月 5日,第142−146頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
Science Direct
Wiley Online Library
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液を各血球成分に分離する方法であって、
(a)体液を不織布からなる血球分離材と接触させることにより白血球と45%以上の血小板を血球分離材に捕捉し、赤血球豊富分画を得る工程と、
(b)分離溶液を用いて血球分離材から白血球豊富分画を分離する工程
とを含み、
不織布の密度Kが2.0×10以上1.3×10以下、繊維径が1μm以上7μm以下であり、
白血球豊富分画が単核球豊富分画であり、
単核球豊富分画中の、単核球回収率の顆粒球回収率に対する比が1.7以上であることを特徴とする分離方法。
【請求項2】
血球分離材が体液の入口と出口を供えた容器に充填され、体液を該入口から通液することにより血球分離材と接触させることを特徴とする請求項1記載の分離方法。
【請求項3】
(a)工程において、体液を血球分離材と接触させた後に、血球分離材に残存する赤血球を洗浄液で洗浄する請求項1または2記載の分離方法。
【請求項4】
(b)工程において、体液の出口側から分離溶液を注入し白血球を分離回収することを特徴とする請求項2または3記載の分離方法。
【請求項5】
分離溶液が生理食塩水、緩衝液、デキストラン、培地、または輸液を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分離方法。
【請求項6】
体液が血液、骨髄、臍帯血、月経血、または組織抽出物である請求項1〜5のいずれかに記載の分離方法。
【請求項7】
(a)工程の体液を血球分離材と接触させる前に、予め溶液を血球分離材と接触させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の分離方法。
【請求項8】
予め血球分離材と接触させる溶液が生理食塩水、または緩衝液を含むことを特徴とする請求項7記載の分離方法。
【請求項9】
不織布がポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、またはアクリル繊維で構成される請求項1〜8のいずれかに記載の分離方法。
【請求項10】
ポリエステル繊維がポリエチレンテレフタレート繊維、またはポリブチレンテレフタレート繊維である請求項記載の分離方法。
【請求項11】
不織布がナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、またはポリブチレンテレフタレート繊維で構成される請求項記載の分離方法。
【請求項12】
不織布が分割繊維から構成される請求項記載の分離方法。
【請求項13】
分離溶液として、粘度が1mPa・s以上5mPa・s未満の溶液を用いる請求項1〜12のいずれかに記載の分離方法。
【請求項14】
単核球豊富分画中の血小板回収率が白血球回収率以下であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の分離方法。
【請求項15】
単核球豊富分画中の血小板回収率が単核球回収率以下であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の分離方法。
【請求項16】
単核球豊富分画が、造血幹細胞、間葉系幹細胞、またはCD34陽性細胞を含むことを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各血球成分を含む体液から、赤血球豊富分画、白血球豊富分画、及び/又は血小板豊富分画を分離する方法に関する。また、白血球の中でも特に造血幹細胞を含む単核球豊富分画を選択的に回収可能な分離材料、分離方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血液学や科学テクノロジーの急速な進歩に伴い、全血・骨髄・臍帯血・組織抽出物をはじめとする体液のうち治療に応じて必要な血液分画のみを分離し患者に投与し、必要ない分画は投与しない、治療効果をより高め、副作用をより抑制する治療スタイルが広く普及している。
【0003】
例えば、血液輸血もその1つである。赤血球製剤は、出血および赤血球が不足する状態、または赤血球の機能低下により酸素が欠乏している場合に使用される血液製剤である。そのため異常な免疫反応や移植片対宿主病(GVHD)などの副作用を誘導する白血球は不要であり、フィルターで白血球を除去する必要がある。場合によっては白血球に加えて血小板も除去することもある。
【0004】
一方、血小板製剤は、血液凝固因子の欠乏による出血ないし出血傾向にある患者に使用される血液製剤である。遠心分離により、血小板以外の不要な細胞や成分は除去され、必要とされる血小板成分のみを採取している。
【0005】
加えて近年、白血病や固形癌治療に向けた造血幹細胞移植が盛んに行われるようになり、治療に必要な細胞(白血球、特に単核球)を分離し投与するようになってきた。この造血幹細胞のソースとして、ドナーの負担が少ない、増殖能力が優れている等の利点から、骨髄や末梢血に加えて臍帯血も注目を浴びている。また近年、月経血中にも幹細胞が豊富に存在することが示唆され、これまで廃棄されていた月経血も貴重な幹細胞ソースとして利用される可能性がある。
【0006】
骨髄や末梢血に関して、不要な細胞を除き白血球(特に単核球)を分離・純化して投与することが望まれている一方で、臍帯血についても血縁者のためのバンキングが盛んになり、使用時まで凍結保存する必要性から、凍結保存による赤血球溶血を防ぐことを目的に白血球は分離・純化されている。
【0007】
分離方法としてはフィコールを用いた比重液による遠心分離法や赤血球沈降剤であるヒドロキシエチルスターチを用いた遠心分離法が提案されているが、閉鎖系での処理が不可能であり異物や菌が混入するという問題を有している。遠心分離法を用いない細胞分離方法として、最近では、赤血球と血小板は捕捉されず白血球のみを捕捉するフィルター材料を用いて白血球を回収する方法(特許文献1、特許文献2)も報告されているが、この方法では赤血球と血小板とを分離することは不可能である。
【0008】
現在、赤血球製剤は分離フィルターを用いて、血小板製剤は遠心分離で、白血球製剤は比重液や赤血球沈降剤を用いた遠心分離でというように、目的とする成分に応じて異なる分離方法が採用されている状況である。本来、赤血球、血小板、白血球は血液・骨髄・臍帯血など同一のソースから得ることができるため、従来の分離方法では必要な細胞が無駄になっていた。従って、同一のソースから赤血球、白血球、血小板を分離するための煩雑な操作を必要としない、迅速に実現可能な分離技術が切望されている。
【0009】
更に、白血球の中でも特に造血幹細胞を含む単核球分画の純度をより向上させることが望まれているものの、現在の技術においては顆粒球の混入率が依然として高く今以上の顆粒球混入率の低減が求められている(非特許文献1)。
【0010】
また、フィルターに捕捉された白血球や単核球を回収する溶液としてデキストランを含む高粘度の溶液を用いると白血球や単核球回収率が向上することが知られているものの(特許文献2)、一方でこの方法で用いられるデキストラン溶液は粘度が高いためにシリンジで押し出す際の手技が困難であるという問題を有しており、シリンジによる回収が容易で且つ、高収率で白血球や単核球を回収できる分離溶液も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2001−518792
【特許文献2】国際公開第98/32840号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】TRANSFUSION, Vol.45, p1899-1908, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、各血球成分を含む体液から遠心操作を必要とせず、迅速且つ簡便に赤血球豊富分画、白血球豊富分画、血小板豊富分画に分離する方法を提供することである。更に白血球の中でも特に顆粒球の混入率が低い単核球豊富分画を得ることの出来る分離材料と分離方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、従来は容易に実現することが困難であった、遠心操作を必要としない体液からの各血球成分の分離方法に関して鋭意検討を行った結果、ある種の血球分離材を用いることにより、まず白血球と血小板を分離材に捕捉させて赤血球豊富分画を得、次いで分離溶液を用いて血球分離材に捕捉された白血球を回収して白血球豊富分画を得ることにより、体液から赤血球豊富分画、白血球豊富分画、血小板豊富分画に分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、白血球と血小板が捕捉可能で尚且つ白血球豊富分画を分離回収できる血球分離材を用いて、各血球成分を含んだ体液を赤血球豊富分画、白血球豊富分画、血小板豊富分画に分離可能な方法であり、従来の白血球除去フィルターや前記特許文献1、2に記載されているような血小板が実質的に通過する材料を用いた白血球捕捉回収法とは全く異なる方法である。
【0016】
また、本発明者らは、血球分離材として特定の蜜度および繊維径を有する不織布を用いることにより、白血球のなかでも特に単核球を多く含む単核球豊富分画を効率良く分離できることを見出した。
【0017】
即ち、本発明は、体液を各血球成分に分離する方法であって、
(a)体液を血球分離材と接触させることにより白血球と血小板を血球分離材に捕捉し、
赤血球豊富分画を得る工程と、
(b)分離溶液を用いて血球分離材から白血球豊富分画を分離する工程
とを含むことを特徴とする分離方法に関する。
【0018】
血球分離材が体液の入口と出口を供えた容器に充填され、体液を該入口から通液することにより血球分離材と接触させることが好ましい。
【0019】
(a)工程において、体液を血球分離材と接触させた後に、血球分離材に残存する赤血球を洗浄液で洗浄することが好ましい。
【0020】
(b)工程において、体液の出口側から分離溶液を注入し白血球を分離回収することが好ましい。
【0021】
分離溶液が生理食塩水、緩衝液、デキストラン、培地、または輸液を含むことが好ましい。
【0022】
体液が血液、骨髄、臍帯血、月経血、または組織抽出物であることが好ましい。
【0023】
(a)工程の体液を血球分離材と接触させる前に、予め溶液を血球分離材と接触させることが好ましい。
【0024】
予め血球分離材と接触させる溶液が生理食塩水、または緩衝液を含むことが好ましい。
【0025】
血液分離材が不織布から成ることが好ましく、不織布が分割繊維から構成されることが好ましい。
【0026】
不織布がポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、またはアクリル繊維で構成されることが好ましい。また、ポリエステル繊維がポリエチレンテレフタレート繊維、またはポリブチレンテレフタレート繊維であることが好ましい。さらに、不織布がナイロン繊維、ポリプロピレン繊維またはポリブチレンテレフタレート繊維であることが好ましい。
【0027】
不織布の密度Kが2.0×10以上1.9×10以下、繊維径が1μm以上15μm以下であり、白血球豊富分画が単核球豊富分画であることが好ましい。
【0028】
分離溶液として、粘度が1mPa・s以上5mPa・s未満の溶液を用いることが好ましい。
【0029】
白血球豊富分画中または単核球豊富分画中の血小板回収率が白血球回収率以下であることが好ましく、白血球豊富分画中または単核球豊富分画中の血小板回収率が単核球回収率以下であることが好ましい。
【0030】
白血球豊富分画中または単核球豊富分画中の、単核球回収率の顆粒球回収率に対する比が1.0より大きいことが好ましい。
【0031】
白血球豊富分画または単核球豊富分画が造血幹細胞、間葉系幹細胞、またはCD34陽性細胞を含むことが好ましい。
【0032】
また、本発明は、上記の方法により分離された赤血球豊富分画、白血球豊富分画、または血小板豊富分画に関する。
【0033】
また、本発明は、密度Kが2.0×10以上1.9×10以下、繊維径が1μm以上15μm以下である、体液から単核球豊富分画を分離可能な不織布からなる血球分離材に関する。
【0034】
血球分離材は、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維またはポリブチレンテレフタレート繊維で構成されることが好ましい。
【0035】
また、本発明は、上記の血球分離材が体液の入口と出口を供えた容器に積層状態で充填されていることを特徴とする血球分離デバイスに関する。
【0036】
また、本発明は、上記の血球分離材が積層状態で充填された容器、容器の入口側の上流に設置された流路開閉手段、流路開閉手段につながれた白血球豊富分画回収手段、および容器の出口側の下流に設置された分離溶液の導入手段を有する血球分離デバイスに関する。
【0037】
また、本発明は、血球分離材または不織布に捕捉された白血球を回収するための溶液の粘度が1mPa・s以上5mPa・s未満である分離溶液に関する。分離溶液はデキストランを含まないことが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の方法によれば、全血・骨髄・臍帯血・月経血・組織抽出物をはじめとする体液から簡便かつ迅速に体液を赤血球豊富分画、白血球豊富分画、血小板豊富分画に分離することが可能となる。従来の方法では、体液に含まれる赤血球、血小板、白血球の全てを分離回収することはできず、いずれかは回収不能となっていたが、本発明の方法では全てを分離して回収することができる。また血球分離材として前記本発明の不織布を用いることで単核球豊富分画を得ることができる。
【0039】
本発明の方法で回収された赤血球豊富分画は他の血球混入率が極めて低くそのまま輸血に使用することができる。本発明の方法で得られる白血球豊富分画、単核球豊富分画は赤血球の混入率が極めて低いので、使用時まで凍結保存しても赤血球の溶血などによる悪影響は非常に少ない。また、本発明の分離材を容器に充填したフィルターは無菌的な閉鎖系で使用することが可能なので、無菌的に回収した分画をそのまま増幅して細胞を調製することも出来る。
【0040】
本発明の血球分離材は、白血病治療、心筋再生や血管再生などの再生医療のための治療細胞調製用フィルターとして提供することが可能である。さらに、本発明の血球分離材を使用して得られる白血球豊富分画、単核球豊富分画は造血幹細胞リッチな分画なので、輸血用製剤の調製と共に、再生医療用の細胞ソースを調製するためのフィルターとしても非常に有用であり、副作用が少なく安全性の高い治療用細胞の調製が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】密度Kと単核球回収率の関係を示した図である。
図2】繊維径と単核球回収率の関係を示した図である。
図3】本発明の血球分離材を用いた血球成分分離システムの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0043】
1.体液を各血球成分に分離する方法
本発明の、体液を各血球成分に分離する方法は、
(a)体液を血球分離材と接触させることにより白血球と血小板を血球分離材に捕捉し、赤血球豊富分画を得る工程と、
(b)分離溶液を用いて血球分離材から白血球豊富分画を分離する工程
とを含む。
【0044】
本発明の方法では、血球分離材は容器に入れず使用しても良いし、体液の入口と出口を備えた容器に血球分離材を入れて使用しても良い。しかし、実用性を考慮すると容器に入れて使用する後者の方が好ましい。また血球分離材は適当な大きさに切断した平板状で体液を処理しても良いし、またロール状に巻いた形状で処理しても良い。血球分離材を体液の入口と出口を供えた容器に充填する場合、体液を入口から通液することにより血球分離材と接触させる。
【0045】
(a)体液送液工程
この工程では、血球分離材が充填された容器に体液を入口側より注入し、白血球と血小板を捕捉させ赤血球豊富分画を得る。
【0046】
体液とは、全血、骨髄、臍帯血、月経血、組織抽出物を意味し、それらを粗分離したものであっても構わない。また動物種に関しても制限は無く、ヒト、ウシ、マウス、ラット、ブタ、サル、イヌ、ネコなど哺乳動物であれば何であっても構わない。これらの動物の血液のほか、臍帯血、骨髄、組織から採取することもできる。さらに体液の抗凝固剤の種類も問わず、ACD(acid-citrate-dextrose)液、CPD(citrate-phosphate-dextrose)液、CPDA(citrate-phosphate-dextrose-adenine)液などのクエン酸抗凝固であってもヘパリン、低分子ヘパリン、フサン(メチル酸ナファモスタット)、EDTAで抗凝固していても良い。各分画を使用する目的に応じて影響がなければ体液の保存条件も一切問わない。
【0047】
血球分離材を充填した容器の体液入口側より体液を通液する際には、体液を入れた容器から送液回路を通じて自然落下で送液しても、ポンプにより送液しても良い。また、体液を入れたシリンジを直接、該容器に接続し、手でシリンジを押しても良い。ポンプにより通液する場合には、送液速度が速過ぎると分離効率が落ち、遅過ぎると処理時間が掛かり過ぎることから、0.1mL/minから100mL/minが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0048】
また体液送液工程の前処理として、生理食塩水や緩衝液で分離材を浸漬させる工程を実施しても良い。この操作は必ずしも必要ではないが、分離材の上記溶液への浸漬が分離効率の向上と血液流路確保に影響すると考えられるため、場合によっては実施しても良い。この前処理溶液は以下の洗浄工程に用いる溶液と同一である必要もないが、同一であれば溶液バッグを共有できるため、回路システムの単純化と操作性の観点から同一であっても良い。前処理の液量としては、血球分離材が充填される容器の1倍から100倍程度が実用的であり好ましい。
【0049】
白血球と血小板を血球分離材に捕捉した後、血球分離材を洗浄する。このとき、洗浄液を同方向より通液することにより容器内に溜まった赤血球を効率的に回収・分離する。洗浄液は主に赤血球のみを回収できるため、体液を注入した際に通過した液と混合して赤血球豊富分画としても良い。
【0050】
洗浄液の流入側より体液送液工程と同方向より洗浄液を通液する際には、洗浄液は回路を通じて、自然落下で送液しても、ポンプにより送液しても良い。ポンプにより送液する場合の流速は、体液送液工程と同程度であり、0.1mL/minから100mL/minが挙げられるが、これに限定されるものではない。洗浄量は容器の容量によって異なるが、洗浄量が少なすぎると容器に残存する赤血球成分が多くなり、洗浄量が多すぎると分離効率が落ちるとともに多大な時間を要することから、容器の0.5倍から100倍程度の容量で洗浄することが好ましい。
【0051】
使用できる洗浄液としては、赤血球のみを洗い流すことが可能であり白血球豊富分画中の他血球の混入を抑制でき、血球の捕捉状態を保持することができれば、どのような溶液を用いても構わないが、生理食塩水、リンゲル液、細胞培養に用いる培地、リン酸緩衝液等の一般的な緩衝液が好ましい。
【0052】
(b)白血球豊富分画の分離工程
血球分離材を充填した容器に体液の通液とは逆方向(体液出口側)より分離溶液を注入し、白血球豊富分画を得る。体液の通液とは逆方向より分離溶液を注入する理由は、出口側から導入する方が、白血球豊富分画中の白血球回収率が高くなるためである。分離溶液を注入する際には、分離溶液を予めシリンジ等に入れておき、シリンジのプランジャーを手や機器を用いて勢い良く押し出すことにより実行できる。回収液量や流速は、容器の容量や処理量により異なるが、容器の1倍から100倍程度の容量で、流速0.5mL/secから20mL/secが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0053】
分離溶液は低張液であれば特に限定されないが、例えば、生理的食塩水やリンゲル液などの注射用剤として使用実績があるものや、緩衝液、細胞培養用培地、輸液等が挙げられる。
【0054】
また捕捉された細胞の回収率を上げるために回収液の粘張度を上げても良い。そのために上記分離溶液にアルブミン、フィブリノゲン、グロブリン、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルセルロース、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン等を添加できるが、これらに限定されるものではない。但しデキストラン等を高濃度(約10%以上)に含む回収液の粘度は5mPa・s以上あり、シリンジを用いて手押しで回収することが難しい場合が多いため、デキストランを含まない分離溶液、或いは、粘度が1mPa・s以上5mPa・s未満になるようにデキストラン濃度を調整した分離溶液を用いることが好ましい。
【0055】
2.血球成分
赤血球豊富分画とは通過分画中の赤血球回収率が他血球(白血球または血小板)の回収率よりも高いことであり、赤血球豊富分画の赤血球回収率は80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。ここで言う赤血球回収率とは、赤血球豊富分画中の総赤血球数を処理前の総赤血球数で割った割合から求められる。
【0056】
赤血球豊富分画中の白血球含量について、赤血球分画中の総白血球数を処理前の総白血球数で割った割合から算出される回収率は10%以下、好ましくは5%以下である。赤血球豊富分画中の血小板含量について、赤血球分画中の総血小板数を処理前の総血小板数で割った割合から算出される回収率は60%未満、好ましくは40%以下、より好ましくは20%以下である。
【0057】
本発明における方法及び血球分離材を用いて分離回収した白血球豊富分画とは、回収した分離溶液中の白血球回収率、単核球回収率、顆粒球回収率のいずれかが他血球(赤血球または血小板)の回収率の1/2倍以上であることを意味する。リンパ球の回収率が他血球(赤血球または血小板)の回収率の1/2以上であっても該当する。白血球回収率は45%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上である。ここで言う白血球回収率とは、白血球豊富分画中の総白血球数を処理前の総白血球数で割った割合から求められる。単核球回収率、顆粒球回収率に関しても同様の総数より計算できるが、単核球数・顆粒球数はフローサイトメーター等により求めた陽性率と白血球数を掛け合わせることにより算出される。
【0058】
白血球豊富分画中または単核球豊富分画中の血小板回収率は、白血球回収率以下であることが好ましい。また、白血球豊富分画中または単核球豊富分画中の血小板回収率は、単核球回収率以下であることが好ましい。白血球豊富分画または単核球豊富分画は、造血幹細胞、間葉系幹細胞、CD34陽性細胞を含むことが好ましい。
【0059】
白血球豊富分画中の赤血球含量について、白血球豊富分画中の総赤血球数を処理前の総赤血球数で割った割合から算出される赤血球回収率は10%以下、好ましくは5%以下である。白血球分画中の血小板含量について、白血球豊富分画中の総血小板数を処理前の総血小板数で割った割合から算出される血小板回収率は50%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0060】
血小板豊富分画とは、分離溶液による白血球豊富分画取得後に分離材に捕捉されている細胞分画であり、分離材に捕捉されている血小板回収率が他血球(赤血球または白血球)の回収率より高いことを意味する。
【0061】
本発明に記載した、密度Kが2.0×10以上1.9×10以下、繊維径が1μm以上15μm以下である不織布を利用すれば、分離溶液により分離回収した分画中の白血球組成を制御することも可能である。例えば、単核球(リンパ球+単球)と顆粒球との分離に利用することもでき、単核球リッチな組成(単核球豊富分画)が得られる。本発明による単核球豊富分画とは分離溶液により分離回収した分画中の単核球の回収率が、該分画中の顆粒球や他血球成分(赤血球または血小板)の回収率よりも高いことを指し、具体的には単核球回収率/顆粒球回収率の値が1.0より大きく、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上である。
【0062】
3.血球分離材
血球分離材に用いられる材料は特に限定されないが、滅菌耐性や細胞への安全性の観点からは、ポリエチレンテレフタート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリプロピレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート)、ナイロン、ポリイミド、アラミド(芳香族ポリアミド)、ポリアミド、キュプラ、カーボン、フェノール、ポリエステル、パルプ、麻、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの合成高分子、アガロース、セルロース、セルロースアセテート、キトサン、キチンなどの天然高分子、ガラスなどの無機材料や金属等が挙げられる。このうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリウレタン、ガラスであることが好ましい。これらの材料は一種類の単独とは限らず、必要に応じて材料を複合・混合・融合して用いても良い。さらには必要ならば、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、糖類など特定の細胞に親和性のある分子を固定しても構わない。
【0063】
血球分離材の形状としては特に限定されないが、例えば、粒子状、不織布、織布、スポンジ状、多孔体、メッシュ状等が挙げられる。この中でも、繊維状であることが好ましく、容易に作製でき入手できることから不織布がより好ましい。
【0064】
血球分離材の形状が不織布である場合、不織布はポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維の少なくとも1つからなることが好ましい。ポリエステルとしては、赤血球や白血球の分離効率が高くなるため、ポリエチレンテレフタラートまたはポリブチレンテレフタラートが好ましい。さらに、不織布は、赤血球や白血球の分離効率が高くなるため、ナイロン、ポリプロピレン及び/またはポリブチレンテレフタラートからなることがより好ましい。
【0065】
不織布の製造方法としては、大きく分けて湿式と乾式、さらには、レジンボンド、サーマルボンド、スパンレース、ニードルパンチ、ステッチボンド、スパンボンド、メルトブローなどが挙げられるが、これらの製法に限定されることはない。ただし繊維径の細い場合に血球分離効率が良いことからメルトブローやスパンレースがより好ましい。カレンダー加工やプラズマ処理してある材料であっても良い。
【0066】
不織布繊維としては、複合単糸を複数に分割したいわゆる分割繊維も、繊維が複雑に絡み合って血球分離効率が良いことから適している。
【0067】
分離材の密度K、つまり目付(g/m)/厚み(m)は、赤血球豊富分画、白血球豊富分画、血小板豊富分画の分離効率から1.0×10以上5.0×10以下であることが好ましい。白血球の中でも、特に単核球を多く含む単核球豊富分画を回収する際には、2.0×10以上1.9×10以下であることが必要である。単核球回収率の観点からは、4.0×10以上1.9×10以下がより好ましく、顆粒球の混入率を低く抑える観点からは、5.0×10以上1.9×10以下がさらに好ましい。
【0068】
密度Kは、目付(g/m)/厚み(m)を示すが、これは重量(g)/単位体積(m)と表すことも出来る。そこで、密度Kは分離材の形態に関わらず、単位体積(m)あたりの重量(g)を測定することにより求めることも出来る。測定の際には、圧力を加えないように変形しない状態で測定する。例えば、CCDレーザー方位センサー((株)キーエンス製、LK−035)等を使用することで非接触状態での厚みが測定可能である。勿論、用いる材料のカタログ等に目付や厚みが記載されている場合には、そのデータより目付(g/m)/厚み(m)から密度Kを求めても構わない。
【0069】
分離材の繊維径は、1μm以上15μm以下であることが必要である。1μmより細いと目詰まりが起こり易くなり、15μmより太いと白血球及び/または血小板が分離材へ捕捉されず、赤血球豊富分画への白血球及び/または血小板に混入率が高くなり、また、白血球豊富分画、血小板豊富分画の分離効率が格段に低下する。分離効率向上の観点から、好ましくは1μm以上10μm以下、より好ましくは1μm以上7μm以下、特に好ましくは1μm以上5μm以下である。
【0070】
繊維径とは繊維軸に対して直角方向の繊維の幅であり、繊維径の測定は、不織布からなる分離材を走査型電子顕微鏡にて写真撮影し、写真に記載されたスケールから求めた繊維径の計算値を平均することにより求めることが出来る。つまり、本発明記載の繊維径とは、上記のように測定した繊維径の平均値を意味しており、50個以上、望ましくは100個以上の平均値である。但し、繊維が多数に重なりあった場合、他繊維が邪魔をしてその幅が測定できない場合、著しく直径の異なる繊維が混在している場合などは、そのデータは除いて繊維径を算出する。
【0071】
また、太さの大きく異なる、例えば7μm以上繊維径の異なる複数の繊維から構成される不織布の場合には、繊維径が細い方が分離効率への影響が大きいため、別々に繊維径を計算し、細い繊維径をその不織布の繊維径とする。2種の繊維径が異なっても、例えば7μm以下であれば同様のものとして扱い繊維径を計算する。
【0072】
なお、本発明の分離方法においては、上述した本発明の分離材を2種以上併用しても良いし、上記本発明の分離材と本発明以外の分離材を併用しても良い。即ち、上述した材料、密度Kおよび繊維径を有する分離材を少なくとも1種用いている限り、例えば繊維径が15〜30μmである分離材を同時に使用するような場合でも、本発明の分離方法の範疇に含まれる。
【0073】
4.血球分離デバイス
本発明の血球分離デバイスは、血球分離材を、体液の入口と出口を供えた容器に充填して得られる。
【0074】
血球分離デバイスは、洗浄溶液や分離溶液の入口や出口、赤血球豊富分画回収手段、白血球豊富分画回収手段(または単核球豊富分画回収手段)等を同時に備えていることが実用的であり好ましい。回収手段はバッグであってもよい。さらに、血球分離デバイスは、血球分離材が積層状態で充填された容器、容器の入口側の上流に設置された流路開閉手段、流路開閉手段につながれた白血球豊富分画回収手段、および容器の出口側の下流に設置された分離溶液の導入手段を有するものであることが好ましい。
【0075】
血球分離デバイスは、具体的には、体液が流入する入口と流出する出口を有しており、さらに体液の入口或いは体液の入口とは独立して、容器内に溜まった赤血球を流す洗浄溶液の流入部を有し、さらに体液の出口或いは体液の出口とは独立して洗浄液の流出部を有し、尚且つ上記体液及び洗浄液の流出部或いは流出部以外に独立して分離溶液を導入するための入口も備えていることが望ましい。容器に付属する洗浄液の入口出口は体液の入口出口を共有していても良く、入口側の回路を三方活栓等の流路開閉手段を介して血液バッグと洗浄溶液バッグを接続した状態でも構わない。分離溶液の導入口は体液の出口、分離溶液の回収口は体液の入口と共有していても良く、同様に回路を三方活栓を介して各バッグやシリンジ等に接続しても良い。図3に本発明の血球分離材を用いた血球成分分離システムの一例を示す。
【0076】
更に上記容器に体液の保存バッグ、白血球豊富分画を回収するための分離溶液回収バッグ、赤血球豊富分画回収バッグなども備え付けられていることが好ましい。これらのバッグが上記記載の各溶液の入口出口に接続されることで、無菌的な閉鎖系で体液を分離することが可能となる。また各バッグは使用後に切り離して使えることが好ましく、一般的に使用されている血液バッグのような形状をしていても良いが、平板状のカートリッジ方式等でも良い。白血球豊富分画、単核球豊富分画の回収バッグは目的に応じて細胞培養可能なバッグ、凍結保存耐性を有するバッグ等を選択しても良い。
【0077】
血球分離材を容器に充填する際には、圧縮して容器に充填しても良いし、圧縮せずに容器充填しても良い。血球分離材の材質等に応じて適宜選定すれば良い。血球分離材の好ましい使用例としては、不織布から成る血球分離材を適当な大きさに切断し、厚み1mmから200mm程度に、単層または積層状態で使用することが好ましい。各分画の分離効率の面から1.5mmから150mmがより好ましく、さらに好ましくは2mmから100mmである。また容器に充填した時の厚みは1mmから50mm程度に、単層または積層状態で使用することが好ましい。各分画の分離効率の面から1.5mmから40mmがより好ましく、さらに好ましくは2mmから35mmである。
【0078】
また血球分離材をロール状に巻いて、容器に充填しても良い。ロール状で使用する場合、該ロールの内側から外側に向けて体液を処理することにより血球を分離しても良いし、或いはその逆に該ロールの外側から内側に向けて体液を処理しても良い。
【0079】
血球分離材を充填する容器の形態、大きさ、材質は特に限定はない。容器の形態は、球、コンテナ、カセット、バッグ、チューブ、カラム等、任意の形態であって良い。好ましい具体例としては、例えば、容器約0.1mLから400mL程度、直径約0.1cmから15cm程度の半透明の筒状容器;一片の長さ0.1cmから20cm程度の長方形または正方形で、厚みが0.1cmから5cm程度の四角柱容器等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
容器は任意の構造材料を使用して作製することが出来る。構造材料としては具体的には、非反応性ポリマー、生物親和性金属、合金、ガラス等が挙げられる。非反応性ポリマーとしては、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー;ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。容器の材料として有用な金属材料(生物親和性金属、合金)について、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、およびそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、窒化チタン被覆ステンレス鋼等が挙げられる。
【0081】
特に好ましくは滅菌耐性を有する素材であるが、具体的にはポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例において本発明に関して詳細に述べるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
厚さ6mm直径18mmの容器に、ポリプロピレン製不織布(繊維径3.5μm、密度K8.3×10g/m)28枚を積層状態で充填し、まず生理食塩水45mLを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次にクエン酸抗凝固の新鮮ウシ血液10mLを2.5mL/minで通液し、次に同方向より生理食塩水10mLを通液した。その後、通液とは逆方向より10%FBS添加MEM培地30mLをシリンジを用いて手押しで回収した。処理前血液の血算、赤血球豊富分画の血算、白血球豊富分画中の血算を血球カウンター(シスメックス(株)製、K−4500)により測定し、各分画中の各血球回収率を算出した。さらに、処理前の血液、回収した分離溶液をFACS Lysing Solutionで溶血後、フローサイトメーター(日本ベクトン・ディッキンソン(株)製、FACSCanto)により単核球陽性率、顆粒球陽性率を求め、白血球数と各陽性率を掛けあわせて総単核球数及び総顆粒球数を算出した。回収した分離溶液中の総単核球数・総顆粒球数を処理前の総単核球数・総顆粒球数で割った割合を各々単核球回収率・顆粒球回収率とした。結果は表1に示した。
【0084】
(実施例2)
ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径2.5μm、密度K1.0×10g/m)を28枚積層状態で充填したこと以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0085】
(実施例3)
ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径3.8μm、密度K1.2×10g/m)を28枚積層状態で充填したこと以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0086】
(実施例4)
ポリエチレンテレフタレート製不織布(繊維径4.1μm、密度K1.9×10g/m)を44枚積層状態で充填したこと以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0087】
(実施例5)
アクリル製不織布(繊維径4.7μm、密度K1.4×10g/m)を44枚積層状態で充填したこと以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0088】
(実施例6)
ポリエチレンテレフタレートとポリプロピレンの分割繊維から成る不織布(繊維径10μm、密度K1.6×10g/m)を22枚積層状態で充填したこと以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0089】
(実施例7)
ポリエチレンテレフタレートとナイロンの分割繊維から成る不織布(繊維径10μm、密度K1.4×10g/m)を22枚積層状態で充填したこと、クエン酸抗凝固の代わりにACD抗凝固の新鮮ウシ血液10mLを用いること以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0090】
(実施例8)
ナイロン製不織布(繊維径5.0μm、密度K1.3×10g/m)を33枚積層状態で充填したこと、クエン酸抗凝固の新鮮ウシ血液10mLの代わりにCPD抗凝固新鮮ヒト血液10mLを用いること以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0091】
(実施例9)
ポリプロピレン製不織布(繊維径2.4μm、密度K5.6×10g/m)を30枚積層状態で充填したこと以外は実施例8と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0092】
(実施例10)
ポリプロピレン製不織布(繊維径3.5μm、密度K8.3×10g/m)を28枚積層状態で充填したこと以外は実施例8と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0093】
(実施例11)
ポリプロピレン製不織布(繊維径5.7μm、密度K1.2×10g/m)を28枚積層状態で充填したこと以外は実施例8と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0094】
(実施例12)
ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径1.8μm、密度K9.1×10g/m)を84枚積層状態で充填したこと以外は実施例8と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0095】
(実施例13)
ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径2.5μm、密度K1.0×10g/m)を28枚積層状態で充填したこと以外は実施例8と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0096】
(実施例14)
ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径3.8μm、密度K1.2×10g/m)を28枚積層状態で充填したこと以外は実施例8と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0097】
(実施例15)
ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径5.3μm、密度K1.1×10g/m)を28枚積層状態で充填したこと以外は実施例8と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0098】
(実施例16)
CPD抗凝固新鮮ヒト血液10mLの代わりにCPD抗凝固ブタ臍帯血を用いたこと以外は実施例13と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0099】
(実施例17)
10%FBS添加MEM培地の代わりに10%デキストラン糖注を用いること以外は実施例13と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0100】
(実施例18)
ACD抗凝固ヒト血液の代わりにクエン酸抗凝固ウシ血液を用い、10%FBS添加MEM培地の代わりに生理食塩水を用いること以外は実施例7と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0101】
(実施例19)
クエン酸抗凝固の新鮮ウシ血液10mLの代わりにCPD抗凝固ブタ骨髄10mLを用いる以外は実施例3と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0102】
(比較例1)
ポリブチレンテレフタレート不織布(繊維径16μm、密度K5.1×10g/m)を40枚積層状態で充填したこと以外は実施例8と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0103】
(比較例2)
ガラスとポリエチレンテレフタレートから成る不織布(繊維径0.59μm未満/9.3μm、密度K2.0×10g/m)を36枚積層状態で充填したこと以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0104】
(比較例3)
ガラスとポリエチレンテレフタレートから成る不織布(繊維径0.84μm未満/8.4μm、密度K2.2×10g/m)を24枚積層状態で充填したこと以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0105】
(比較例4)
ビニロンから成る不織布(繊維径30μm、密度K3.2×10g/m)を56枚積層状態で充填したこと以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0106】
(比較例5)
アクリルとポリエチレンテレフタレートから成る不織布(繊維径22μm、密度K2.1×10g/m)を6枚積層状態で充填したこと以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0107】
【表1】
【0108】
(実施例20)
10%FBS添加MEM培地、10%デキストラン糖注、および生理食塩水の、25℃における粘度を測定した。粘度はそれぞれ2.9mPa・s、5.3mPa・s、1.1mPa・sであった。
【0109】
不織布の密度Kと単核球回収率との関係を図1に示した。密度Kは、目付けを厚みで割ることにより算出した。なお、厚みは、ダイヤルシックネスゲージを用いて、測定子直径が25mm、圧力が0.7kPaのゲージを使用して測定した。目付けは、10cm四方にカットした不織布の重量を測定することにより算出した。
【0110】
不織布の繊維径と単核球回収率との関係を図2に示した。繊維径は、不織布を走査型電子顕微鏡にて写真撮影し、写真に記載されたスケールから繊維径を100本測定し、その平均値より算出した。
【0111】
以上の結果より、本発明記載の分離材及び分離方法を用いることにより、遠心操作を必要とせず迅速且つ簡便に、体液から赤血球豊富分画、白血球豊富分画、血小板豊富分画に分離可能であることが分かる。さらに密度Kが2.0×10以上1.9×10以下、繊維径が1μm以上15μm以下である不織布を用いると単核球豊富分画を得ることができ、比較例に示したように密度Kが範囲外の不織布または繊維径が細い繊維を含む不織布や繊維径が太い不織布は分離効率が落ちることも分かる。
【符号の説明】
【0112】
1 チャンバー
2 血球分離材の充填された容器
3 体液バッグ
4 洗浄液バッグ
(兼プライミング液バッグ)
5 赤血球豊富分画回収バッグ
6 白血球豊富分画回収バッグ
(単核球豊富分画回収バッグ)
7 回収ポート
8、9、10 三方活栓
11〜17 回路
図1
図2
図3