特許第6208246号(P6208246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6208246高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208246
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170925BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20170925BHJP
   C21D 9/48 20060101ALI20170925BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20170925BHJP
   C23C 2/02 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C22C38/06
   C21D9/48 J
   C23C2/40
   C23C2/02
【請求項の数】16
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-542139(P2015-542139)
(86)(22)【出願日】2013年2月21日
(65)【公表番号】特表2016-504490(P2016-504490A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】CN2013071716
(87)【国際公開番号】WO2014075405
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2016年2月10日
(31)【優先権主張番号】201210461860.6
(32)【優先日】2012年11月15日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鐘 勇
(72)【発明者】
【氏名】王 利
(72)【発明者】
【氏名】馮 偉 駿
(72)【発明者】
【氏名】張 理 楊
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−184226(JP,A)
【文献】 特開昭64−079322(JP,A)
【文献】 特開2006−283130(JP,A)
【文献】 特開2010−235988(JP,A)
【文献】 特開2012−012642(JP,A)
【文献】 特開2012−041611(JP,A)
【文献】 特開2011−184758(JP,A)
【文献】 特開2008−127637(JP,A)
【文献】 特開2010−053446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 9/48
C23C 2/02
C23C 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分の重量百分率が、
C:0.15〜0.25wt%、
Si:1.00〜2.00wt%、
Mn:1.50〜3.00wt%、
P≦0.015wt%、
S≦0.012wt%、
Al:0.03〜0.06wt%、
N≦0.008wt%であり、
残部がFe及び不可避的不純物であり;
鋼板の室温組織が、フェライト10%〜30%+マルテンサイト60〜80%+残留オーステナイト5〜15%であり;降伏強度が600〜900MPa、引張り強度が980〜1200MPa、伸び率が15〜22%である高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記鋼板成分において、C含有量が重量百分率で0.18〜0.22%であることを特徴とする、請求項1に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記鋼板成分において、Si含有量が重量百分率で1.4〜1.8%であることを特徴とする、請求項1に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記鋼板成分において、Mn含有量が重量百分率で1.8〜2.3%であることを特徴とする、請求項1に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記鋼板成分において、重量百分率でP≦0.012%、S≦0.008%であることを特徴とする、請求項1に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
下記の工程を含む、請求項1〜5のいずれに記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
1)溶錬、鋳造
前記成分で溶錬し、ビレットを鋳造し;
2)ビレットを1170〜1230℃に加熱して保温し;
3)熱間圧延
最終圧延温度が880±30℃で、巻取り温度が550〜650℃であり;
4)酸洗、冷間圧延
冷間圧延変形量が40〜60%であり、鋼帯を形成し;
5)焼鈍
焼鈍プロセスは、連続焼鈍を採用し、且つ酸化雰囲気での直火加熱と、還元雰囲気での放射加熱の二段階加熱手段を利用し、
酸化雰囲気で直火加熱手段によって680〜750℃に加熱し、連続焼鈍炉内の露点を>−35℃に制御する。さらに、還元雰囲気で放射加熱手段によって840〜920℃に加熱し、続いて、40〜80s保温し、連続焼鈍炉内のH含有量を8〜15%に制御する。冷却速度3〜10℃/sで720〜800℃に徐冷して、材料にフェライトが得られる。冷却速度≧50℃/sで260〜360℃に急冷して、オーステナイトの一部をマルテンサイトに変態させる。そして、460〜470℃に再加熱し、60〜120s保温する。
6)溶融亜鉛めっき
鋼帯を亜鉛ポットに入れて、溶融亜鉛めっきを完成する。前記再加熱保温及び溶融亜鉛めっきの過程に、炭素は、マルテンサイトからオーステナイトに分配され、オーステナイ
トがカーボンリッチになり、安定化される。最後に室温に冷却し、最終の鋼板室温組織は、フェライト10%〜30%+マルテンサイト60〜80%+残留オーステナイト5〜15%である。降伏強度が600〜900MPa、引張り強度が980〜1200MPa、伸び率が15〜22%である。
【請求項7】
工程2)において、ビレットを1170〜1200℃に加熱することを特徴とする、請求項6に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
工程3)において、熱間圧延後の巻取り温度が550〜600℃であることを特徴とする、請求項6に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
工程5)において、酸化性雰囲気で直火加熱手段によって680〜720℃に加熱することを特徴とする、請求項6に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
工程5)において、酸化性雰囲気で直火加熱手段によって、炉内露点を−30〜−20℃に制御することを特徴とする、請求項6又は9に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
工程5)において、還元雰囲気で放射加熱手段によって860〜890℃にまでさらに加熱されることを特徴とする、請求項6に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
工程5)において、還元雰囲気で放射加熱手段によって連続焼鈍炉内のH含有量を10〜15%に制御することを特徴とする、請求項6又は11に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
工程5)において、280〜320℃に急冷することを特徴とする、請求項6に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項14】
工程5)において、急冷した後に、460〜465℃に再加熱し、80〜110s保温することを特徴とする、請求項6又は13に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項15】
工程5)において、730〜760℃に徐冷することを特徴とする、請求項6に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項16】
工程5)において、酸化性雰囲気で直火加熱手段によって680〜750℃に加熱し、連続焼鈍炉内露点を>−35℃に制御し、加熱時間が10〜30sであることを特徴とする、請求項6に記載の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板、特に高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関するものであり、当該鋼板は、降伏強度が600〜900MPa、引張り強度が980〜1200MPa、伸び率が15〜22%であり、優れた塑性及び低いコストなどの特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
車は、重量が10%減少する毎に、燃料消費を5%〜8%節約できるとともに、COの温室効果ガス及びNO、SOなどの汚染物質の排出を相応的に低減できると推測される。中国が所有するブランドの乗用車の重量は、国外の同じレベルの車より約10%重く、商用車の重量の差が更に大きい。車用鋼板は、車体の主要原材料として、車体重量の約60〜70%を占める。従来の鋼板の代わりに、強度が590〜1500MPaであるレベルの高強度及び超高強度の鋼板を大量に使用するのは、車の「軽量化と省エネ、安全性の向上、及び製造コストの低減」を実現する最適な材料解決策であり、低炭素社会を築くのに意義が大きい。従って、鋼板強度の向上及び鋼板厚さの低減は、近年の鋼板の発展傾向になる。中には、相変強化を主とする先端的な高強度車用鋼の開発及び適用は、既に世界中の各大手鋼鉄会社が研究している主流課題になった。
【0003】
従来の超高強度鋼は、マルテンサイト、ベイナイトなどの高強度相構造によって高強度を実現できるが、それとともに塑性及び成形性能が明らかに低減される。マルテンサイト又はベイナイトの組織に一定量の残りのオーステナイトを導入するのは、高強度及び高塑性材料を実現する有効的な技術アプローチである。例えば、TRIP鋼は、フェライト、ベイナイト及び残りのオーステナイトからなり、その強度及び塑性のいずれも高いが、このような相構造はその強度の更なる向上を制限する。よって、ベイナイトの代わりに、マルテンサイトを主要な強化相とするのが重視されるようになった。また、普通の冷間圧延製品と比べて、溶融亜鉛めっき製品は、耐錆性が優れているので、車に多量に適用することができ、その使用量が平均的に80%以上に達成し、ある車型ではその用量が100%になる場合もある。中国では、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の開発の発足が遅く、品種がまだ揃っていなく、特に強度が1000MPa以上、成形性能が優れかつコストが低い溶融亜鉛めっき高強度鋼製品は、国内でまだ入手できない。特に、高Siで設計される高強度溶融亜鉛めっき鋼製品は、その冶金学特徴に起因する。
【0004】
日本特許JP2010−053020は、加工性が優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を公開した。当該鋼板の成分組成は、質量%で、C:0.04〜0.15%、Si:0.7〜2.3%、Mn:0.8〜2.2%、P<0.1%、S<0.01%、Al<0.1%、N<0.008%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。その組織は、70%以上のフェライト相、2%以上且つ10%以下のベイナイト相、0%以上且つ12%以下のパーライト相、1%以上且つ8%以下の残りのオーステナイト相である。フェライトは、平均結晶粒子径が18μm以下であり、残りのオーステナイトは平均結晶粒子径が2μm以下である。当該発明鋼は、590MPa以上の引張り強度を有し、且つ加工性(延性と穴広げ性)が良好である。しかし、当該発明は、TRIP鋼であり、引張り強度が600〜700MPaのレベルに過ぎなく、超高強度鋼の要求を満たさない。
【0005】
中国特許CN200810119822は、1000MPaレベルの冷間圧延溶融亜鉛めっき二相鋼及びその製造方法を公開し、冷間圧延溶融亜鉛めっき用高強度鋼板の技術分野に属する。当該鋼は、成分質量百分率が、C:0.06〜0.18%、Si:≦0.1%、Mn:1.2〜2.5%、Mo:0.05〜0.5%、Cr:0.05〜0.6%、Al:0.005〜0.05%、Nb:0.01〜0.06%、Ti:0.01〜0.05%、P≦0.02%、S≦0.01%、N≦0.005%であり、残部が不可避的不純物であることを特徴とする。当該発明は、Siの代わりにCr、Moを使用して、オーステナイト+フェライトの二相域を増大し、二相鋼の焼入性を向上する。それと同時に、Nb、Ti合金元素を添加することで、結晶粒を微細化して鋼の強度、靭性を向上し、鋼に良好な可溶接性、使用性を付与し、強度レベルが1000MPa以上に達し、車用超高強度冷間圧延溶融亜鉛めっきの性能要求を満足させる。しかし、当該発明鋼は、伸び率が約10%に過ぎなく、車用超高強度鋼の高成形性能の要求を満たし難く、また、当該発明鋼は、Mo、Cr及びNb、Tiなどの高価な合金元素を大量に添加する必要があるので、コストの制御要求が非常に厳しい車用鋼として適切ではない。
【0006】
日本特許JP2008−255442は、引張り強度が780MPa以上である超高強度溶融亜鉛めっき鋼及びその製造方法を公開した。当該鋼は、成分質量百分率が、C:0.03〜0.25%、Si:0.02〜0.60%、Mn:2.0〜4.0%、Al≦0.8%、N:0.0020〜0.015%、Ti≦0.5%、Nb≦0.5%、Ti+Nb:≧0.05%、Si:0.02〜1.00%、Cu≦1.5%、Ni≦1.5%、Cu+Ni:≧0.05%であり、残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とする。その微視組織構造は、平均結晶粒サイズが5μm未満であるフェライトと、平均粒子径が0.5μm未満である硬質第二相とからなる。当該発明の製造方法は、熱間圧延の直後に、10s内に700℃以下に冷却し;400〜700℃で巻き取り;酸洗の後に、35〜80%の圧下量で冷間圧延し、Ac3〜950℃で5〜200s焼鈍し;400〜600℃に冷却して5〜200s保温する;溶融亜鉛めっきし、540℃まで加熱して、合金化する。当該発明は、1000MPaの引張り強度及び18%の高い伸び率を達成でき、車用超高強度鋼の性能要求を満足できる。しかし、当該発明は、かなり多くのNb、V、Ti合金元素(合計量>0.25%)を添加する必要があり、材料のコストを大幅に増加させるとともに、鋳造、熱間圧延などの点での製造の難しさをも増加する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法の開発を目的とし、当該鋼板は、降伏強度が600〜900MPa、引張り強度が980MPa以上、伸び率が15〜22%であり、成形性が優れ、コストが低くて、車の構造部品と安全部品に適用できる。
【0008】
現在、高強度溶融亜鉛めっき鋼に関する製造方法が多くあるが、これらの発明は、鋼板のめっき性を確保するために、多くの場合は、低Si、Mnの設計を採用した。しかし、Si、Mnは鋼鉄において最も有効的な、コストが低い強化元素であるので、低Si、Mnの設計による性能の低下は、Cr、Mo、Nb、Vなどの高価な合金元素で補償する必要が有り、鋼材のコストを増加するとともに、製品の製造性を低下させる可能性もある。
【0009】
本発明の技術方案は、以下のものである。
高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、高Mn、Si成分設計を採用し、Si、Mnなどの合金元素の強化作用を十分に利用して、超高強度及び高塑性を兼有する優れた性能を達成でき;特有の連続焼鈍プロセスと炉内雰囲気制御プロセスの組み合わせにより、めっき性が良い鋼板基板が得られ;且つ亜鉛めっきを経てめっき層の質量がよく、コストが低い超高強度溶融亜鉛めっき鋼板製品が得られる。上記鋼板は、化学成分の重量百分率が、C:0.15〜0.25wt%、Si:1.00〜2.00wt%、Mn:1.50〜3.00wt%、P≦0.015wt%、S≦0.012wt%、Al:0.03〜0.06wt%、N≦0.008wt%であり、残部がFe及び不可避的不純物であり;鋼板の室温組織が、フェライト10%〜30%+マルテンサイト60〜80%+残りのオーステナイト5〜15%であり;降伏強度が600〜900MPa、引張り強度が980〜1200MPa、伸び率が15〜22%である。
【0010】
前記鋼板成分において、C含有量が重量百分率で0.18〜0.22%であることが好ましい。
【0011】
前記鋼板成分において、Si含有量が重量百分率で1.4〜1.8%であることが好ましい。
【0012】
前記鋼板成分において、Mn含有量が重量百分率で1.8〜2.3%であることが好ましい。
【0013】
前記鋼板成分において、重量百分率でP≦0.012%、S≦0.008%であることが好ましい。
【0014】
本発明鋼の化学成分設計において:
C:鋼における最も基本的な強化元素であり、オーステナイト安定化元素でもあり、オーステナイトにおいて、C含有量が高いと、残りのオーステナイトの分率及び材料性能の向上に有利である。しかし、C含有量が高すぎると、鋼材の溶接性能を劣化させる。よって、C含有量は、適切な範囲に制御する必要がある。
【0015】
Si:炭化物の形成を抑制する元素であり、Siは、炭化物への溶解度が極めて小さくて、炭化物の形成を有効的に抑制し、又は遅らせることができ、溶融亜鉛めっき工程におけるオーステナイトの分解の抑制に寄与し、分配過程においてカーボンリッチなオーステナイトを形成し、残りのオーステナイトとして室温まで保留される。しかし、Si含有量が比較的に高いと、材料のめっき性を低下させる。よって、高Si成分設計の鋼板は、亜鉛めっきの際に、特別の基板熱処理プロセスを組み合わせて、亜鉛めっきの質量を保証する必要がある。
【0016】
Mn:オーステナイトを安定化させる元素である。Mnの存在は、マルテンサイトの変態温度Msを低下させ、残りのオーステナイトの含有量を増加させる。また、Mnは、固溶強化元素であり、鋼板強度の向上に寄与する。しかし、Mn含有量が高すぎると、鋼材の焼入れ性が高すぎることになり、材料組織の精密制御に有利ではない。また、Siの影響と類似しており、Mnが高いと、鋼板のめっき性を低下させ、特別の亜鉛めっきプロセスを必要とする。
【0017】
P:Siの作用と類似し、主として固溶を強化し、及び炭化物の形成を抑制する作用、及び残りのオーステナイトの安定性を向上させる作用を発揮する。Pの添加は、溶接性能を明らかに劣化させ、材料の脆性を増加させる。本発明では、Pを不純物元素として、できるだけ低いレベルに制御する。
【0018】
S:不純物元素として、その含有量をできるだけ低いレベルに制御する。
Al:Siの作用と類似し、主として固溶を強化し、炭化物の形成を抑制する作用と、残りのオーステナイトの安定性を向上させる作用を発揮する。しかし、Alは、Siの強化効果より弱い。
【0019】
N:本発明の鋼では特に制御する必要がない元素である。Nが介在物の制御に対する不利影響を低減するために、溶錬の際にN含有量をできるだけ低いレベルに制御する。
【0020】
本発明の高成形性超高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、下記の工程を含む。即ち、
1)溶錬、鋳造
上記成分で溶錬し、ビレットを鋳造する。
【0021】
2)ビレットを1170〜1230℃に加熱して保温する。
3)熱間圧延
最終圧延温度が880±30℃で、巻取り温度が550〜650℃である。
【0022】
4)酸洗、冷間圧延
冷間圧延変形量が40〜60%であり、鋼帯を形成する。
【0023】
5)焼鈍
焼鈍プロセスは、連続焼鈍を採用し、且つ酸化雰囲気での直火加熱と、還元雰囲気での放射加熱との二段階加熱手段によって、めっき性が良い鋼板基板が得られる。酸化雰囲気で直火加熱手段によって680〜750℃に加熱し、加熱炉における空気−燃料比を調整することで、連続焼鈍炉内の露点を>−35℃に制御する。さらに、還元雰囲気で放射加熱手段によって840〜920℃に加熱し続き、40〜80s保温し、連続焼鈍炉内のH含有量を8〜15%、余分をNに制御する;冷却速度<10℃/sで720〜800℃に徐冷して、材料に一定比例のフェライトが得られる。冷却速度≧50℃/sで260〜360℃に急冷して、オーステナイトの一部をマルテンサイトに変態させる。そして、460〜470℃に再加熱し、60〜120s保温する。
【0024】
6)溶融亜鉛めっき
鋼帯を亜鉛ポットに入れて、溶融亜鉛めっきを完成する。上記再加熱保温及び溶融亜鉛めっきの過程において、炭素は、マルテンサイトからオーステナイトに分配され、オーステナイトがカーボンリッチになり、安定化になる。最後に室温に冷却し、最終の鋼板室温組織は、フェライト10%〜30%+マルテンサイト60〜80%+残りのオーステナイト5〜15%である。降伏強度が600〜900MPa、引張り強度が980〜1200MPa、伸び率が15〜22%である。
【0025】
工程2)において、ビレットを1170〜1200℃に加熱することが好ましい。
工程3)において、熱間圧延巻取り温度が550〜600℃であることが好ましい。
【0026】
工程5)において、酸化性雰囲気で直火加熱手段によって680〜720℃に加熱することが好ましい。
【0027】
工程5)において、酸化性雰囲気で直火加熱手段によって680〜750℃に加熱し、加熱時間が10〜30sであることが好ましい。
【0028】
工程5)において、酸化性雰囲気で直火加熱手段によって、炉内露点を−30〜−20℃に制御することが好ましい。
【0029】
工程5)において、還元雰囲気で放射加熱手段によって860〜890℃に加熱し続くことが好ましい。
【0030】
工程5)において、還元雰囲気で放射加熱手段によって、連続焼鈍炉内のH含有量を10〜15%に制御することが好ましい。
【0031】
工程5)において、730〜760℃に徐冷することが好ましい。
工程5)において、280〜320℃に急冷することが好ましい。
【0032】
工程5)において、急冷の後に、460〜465℃に再加熱し、80〜110s保温することが好ましい。
【0033】
本発明は、熱間圧延高温加熱炉で保温し、C及びNの化合物が十分に溶解することに寄与する。巻取りは、低い巻取り温度を採用し、細かい析出物の生成、及び平面コイル発生の回避に寄与する。また、通常の酸洗及び冷間圧延プロセスを採用する。
【0034】
焼鈍プロセスは、連続焼鈍を採用し、且つ、酸化性雰囲気での直火加熱と、還元雰囲気での放射加熱との二段階加熱手段を採用する。まず、直火加熱で680〜750℃に加熱し、空燃比を調整することで弱酸化性雰囲気とし、その特徴として、炉内雰囲気露点が−35℃より高く、鋼板の表面に酸化鉄層を形成させて、Si、Mnなどの元素の表面への富化を阻止する。そして、放射加熱で840〜920℃に加熱し、炉内に還元性雰囲気とし、その特徴として、炉内Hの含有量を8〜15%(体積比)とし、表面酸化鉄膜を高活性純鉄に還元して、めっき性が良い鋼板基板が得られ、次の高質量の溶融亜鉛めっきの実現に寄与する。高い焼鈍温度を採用するのは、均質化のオーステナイト組織を形成するためであり、鋼強度の向上に寄与する。その後に、冷却速度<10℃/sで720〜800℃に徐冷して、所定量のフェライトが得られ、鋼の塑性の向上に寄与する。その後に、MとMの間にある温度に急冷して、オーステナイトの一部をマルテンサイトに変態させる。そして、亜鉛めっき温度に再加熱し、60〜120s保温した後、鋼帯を亜鉛ポットに入れて、亜鉛めっきプロセスを完成する。当該過程において、炭素がマルテンサイトとオーステナイトとの中に再分配され、オーステナイトのカーボンリッチ安定性を増加させて、多くの残りのオーステナイトが得られ、加工硬化能力及び成形性能の向上に寄与する。鋼板の最終組織は、フェライト+マルテンサイト+残りのオーステナイトからなる。高Si設計を採用したので、鋼に形成されたマルテンサイトが分配過程でほとんど分解しなく、最終に所要の組織形態を得ることを保証できる。それとともに、適切な溶融亜鉛めっき焼鈍技術を採用し、高Si成分鋼板の高質量亜鉛めっきを保証できる。
【0035】
本発明の有益効果:
本発明の鋼は、適切な成分設計によって、通常の熱間圧延及び冷間圧延プロセスの条件下で、連続焼鈍によって超高強度冷間圧延溶融亜鉛めっき鋼板を生産し、如何なる高価な合金元素の添加も必要としなく、Si、Mnの含有量を適切に向上するとともに、適切な焼鈍プロセス及び炉内雰囲気制御プロセスを組み合わせるだけで、強度を大幅に向上させることができ、かつ、優れた塑性も保つことができる。また、鋼板亜鉛めっきの質量が良好であり、車用冷間圧延超高強度溶融亜鉛めっき鋼としての使用要求を満足できる。
【0036】
本発明の鋼は、溶錬、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、亜鉛めっき、調質圧延を経て、車の安全構造部品に好適に適用でき、特に、形状が複雑で、成形性能及び耐錆性に対する要求が高い車両構造部品及び安全部品、例えば、サイドドアビーム、バンパー及びBピラーなどの製造に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施例の鋼の写真を示す。
図2】比較例の鋼の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、実施例及び図面に基づいて本発明を更に説明する。
表1は、本発明鋼の実施例の化学成分を示した。
【0039】
本発明鋼は、溶錬、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍及び溶融亜鉛めっきを経て得られた製品であり、その焼鈍プロセス及び力学性能を、表2に示す。表2から分かるように、本発明の鋼は、適切なプロセス配合によって、降伏強度が600〜900MPa、引張り強度が980〜1200MPa、伸び率が15〜22%である超高強度冷間圧延溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0040】
C:0.15〜0.25wt%、Si:1.00〜2.00wt%、Mn:1.50〜3.00wt%、P≦0.015wt%、S≦0.012wt%、Al:0.03〜0.06wt%、N≦0.008wt%;
C含有量が0.18〜0.22%、Si含有量が1.4〜1.8%、Mn含有量が1.8〜2.3%、P≦0.012%、S≦0.008%である。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
注記:
引張り試験方法:JIS5号の引張り試料を使用し、引張り方向は圧延方向と垂直する。
【0044】
亜鉛層結合力の測定方法:鋼板からサイズが300×70mmである試料板を切取り、曲げき機で曲げ直径が3倍板厚になるように180°冷間曲げ、洗浄後の曲げ角の外側を透明テープで貼り付けて、テープを引き剥がして、テープに剥離物があるかどうかを確認する。剥離物がないものは、亜鉛層の結合力が合格(OK)であると判定し、そうでないと、不合格(NG)であると判定する。
【0045】
図1図2を参照して、図1は本発明の鋼(本発明の炉内雰囲気制御プロセスを採用した)と比較例(本発明の炉内雰囲気制御プロセスを採用しなかった)との亜鉛めっき効果の比較である。本発明の高Si成分は、炉内雰囲気制御プロセスを採用したことで良好な溶融亜鉛めっきの品質が得られることが分かる。
図1
図2