特許第6208266号(P6208266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三洋化成工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208266
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】水溶性潤滑油
(51)【国際特許分類】
   C10M 107/34 20060101AFI20170925BHJP
   C10M 105/18 20060101ALI20170925BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20170925BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20170925BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20170925BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20170925BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20170925BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   C10M107/34
   C10M105/18
   C10N20:00 A
   C10N30:00 Z
   C10N30:02
   C10N40:02
   C10N40:04
   C10N40:08
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-29021(P2016-29021)
(22)【出願日】2016年2月18日
(65)【公開番号】特開2016-156012(P2016-156012A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2016年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-32207(P2015-32207)
(32)【優先日】2015年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 光真
(72)【発明者】
【氏名】勝川 吉隆
【審査官】 大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−226879(JP,A)
【文献】 特開2003−193076(JP,A)
【文献】 特開2006−083378(JP,A)
【文献】 特開昭62−121793(JP,A)
【文献】 特開2000−178576(JP,A)
【文献】 特開2003−034797(JP,A)
【文献】 特開昭58−021488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M、C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される水溶性ポリエーテル(A1−1)を含む水溶性潤滑油であって、(A1−1)の含有量の合計が60重量%以上であり、(A1−1)の数平均分子量が800未満である水溶性潤滑油。
[−O−(AO)−H] (1)
[R3価アルコールから水酸基を除いた残基、(AO)は炭素数が2のオキシアルキレン基である。mは0.3〜350の数である。f3である。]
【請求項2】
前記(A1−1)の流動点が20℃以下である請求項1記載の水溶性潤滑油。
【請求項3】
下記一般式(5)で表される水溶性ポリエーテル(A2)を含む請求項1又は2記載の水溶性潤滑油。
(RCOO)[−(OA11−OH]4−h (5)
[Rは炭素数1〜24の炭化水素基であって、1つ以上の二重結合を有していてもよく、(OA11)は炭素数が2〜4のオキシアルキレン基、Rはソルビタンから水酸基を除いた残基、hは1〜3の整数、nは0.3〜の300の数であり、nが2以上の場合、A11は同じでも異なっていてもよい。]
【請求項4】
船舶用の軸受け油、作動油、又はギア油である請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性潤滑油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から作動油、ギア油、軸受け油等の潤滑油基油としては、鉱物油、ポリオレフィン、又はアルコールのアルキレンオキサイド付加物等のポリエーテル類が使用されてきた。近年、環境問題の高まりの中、潤滑油に対しても生分解性が要求されるようになってきた。しかし、これらの炭化水素系基油やポリエーテル系基油は生分解性がいまだ不十分であり、生分解性基油としては植物油等の天然油脂やその誘導体、合成エステル系潤滑油基油等が基油として使用されてきている(特許文献1〜2参照)。
しかしながら、これらの天然油脂や合成エステル系潤滑油基油は、水が混入した場合に加水分解しやすく潤滑油の使用中の安定性に問題がある。また、これらの基油は水への溶解性が低いため、潤滑油が漏洩した場合に水面での油滴により周辺汚染が大きくなり、洗浄除去も困難であるため、水への溶解性及び生分解性の高いポリエーテル系基油が使用されてきている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−331481号公報
【特許文献2】特開平11−323373号公報
【特許文献3】特開2006−083378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年温暖化が進行し、北極海航路における船舶等の使用に伴い、従来のポリエーテル系基油を使用した潤滑油よりも低温流動性に優れた潤滑油が求められるようになった。
本発明は、生分解性と耐加水分解性に優れ、かつ低温流動性に優れた水溶性潤滑油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、下記一般式(1)で表される水溶性ポリエーテル(A1−1)及び/又は下記一般式(2)で表される水溶性ポリエーテル(A1−2)を含む水溶性潤滑油であって、(A1−1)及び(A1−2)の含有量の合計が40重量%以上である水溶性潤滑油である。
[−O−(AO)−H] (1)
[Rは多価アルコールから水酸基を除いた残基、(AO)は炭素数が2〜4のオキシアルキレン基である。mは0.3〜350の数である。mが2以上の場合、複数のAは同一でも異なっていてもよい。fは3〜8の整数である。]
[−(AO)−H] (2)
[Rはアンモニア又はアミノ基を有する炭化水素から活性水素を除いた残基、(AO)は炭素数が2〜4のオキシアルキレン基である。pは0.3〜350の数である。pが2以上の場合、複数のAは同一でも異なっていてもよい。qは3〜8の整数である。]
【発明の効果】
【0006】
本発明の水溶性潤滑油は以下の効果を奏する。
(1)水溶性なので洗浄除去が容易である。
(2)加水分解しにくいので安定である。
(3)生分解性に優れている。
(4)低毒性である。
(5)低温流動性に優れている。
(6)環境への影響が少ない。
(7)低蓄積性である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の水溶性潤滑油は水溶性ポリエーテル(A1−1)及び/又は水溶性ポリエーテル(A1−2)を含有してなる水溶性潤滑油である。本発明において、水溶性とは、25℃での水への溶解度が水100gに対して20g以上のものをいう。
【0008】
本発明の水溶性潤滑油は、低温流動性の観点から流動点が0℃以下であることが好ましい。より好ましくは−5℃以下、さらに好ましくは−10℃以下である。
なお、流動点は、JIS K2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準じて測定する。
【0009】
本発明における水溶性ポリエーテル(A1−1)は下記一般式(1)で表される。
[−O−(AO)−H] (1)
【0010】
式(1)中、Rは多価アルコールから水酸基をすべて除いた残基、(AO)は炭素数が2〜4のオキシアルキレン基である。mは平均付加モル数を示し、0.3〜350の数である。mが2以上の場合、複数のAは同一でも異なっていてもよい。fは3〜8の整数である。(AO)部分の付加形式はランダム付加でもブロック付加でもよい。
多価アルコールとは、3〜8価の水酸基を有する化合物であって、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ショ糖、ジグリセリン及びポリグリセリン(3〜6量体)等が挙げられる。
【0011】
本発明における水溶性ポリエーテル(A1−2)は下記一般式(2)で表される。
[−(AO)−H] (2)
【0012】
式(2)中、Rはアンモニア又はアミノ基を有する炭化水素から活性水素を除いた残基、(AO)は炭素数が2〜4のオキシアルキレン基である。pは平均付加モル数を示し、1.1〜350の数である。pが2以上の場合、複数のAは同一でも異なっていてもよい。qは3〜8の整数である。(AO)部分の付加形式はランダム付加でもブロック付加でもよい。
【0013】
本発明における水溶性ポリエーテル(A1−1)の式(1)中の(AO)は下記一般式(3)で表すこともできる。
−(AO)(AO)(AO)− (3)
【0014】
式(3)中、(AO)はオキシエチレン基、(AO)はオキシプロピレン基、(AO)はオキシブチレン基を表す。iは0〜350の数、j及びkはそれぞれ0〜100の数であって、i/(i+j+k)は特に限定されないが、生分解性の観点から好ましくは0.6〜1.0である。i、j、kが2以上の場合、付加形式はランダム付加でもブロック付加でもよいが、好ましくはブロック付加である。なお、i+j+k=mである。
【0015】
(A1−1)の数平均分子量は生分解性と潤滑性の観点から好ましくは200〜20,000、より好ましくは200〜10,000である。(A1−1)の数平均分子量は、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定した。
【0016】
(A1−1)としては、例えば、3〜8価の水酸基を有する化合物(例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ショ糖、ジグリセリン及びポリグリセリン(3〜6量体)等)の炭素数が2〜4のアルキレンオキサイド(以下、AOと略記する)付加物(例えば、エチレンオキサイド(以下、EOと略記する)、1,2−プロピレンオキサイド(以下、POと略記する)、1,2−ブチレンオキサイド(以下、BOと略記する)、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記する))等が挙げられる。EO、PO、BO及びTHF等は、単独で用いても併用してもよく、併用した場合の付加形式は、ランダム付加でも、ブロック付加でもよい。
これらのうち生分解性及び低温流動性の観点から好ましいものはグリセリンのEO付加物、トリメチロールプロパンのEO付加物、ペンタエリスリトールのEO付加物、ソルビトールのEO付加物、ショ糖のEO付加物、ジグリセリン及びポリグリセリンのEO付加物、グリセリンのEO/POランダム付加物、トリメチロールプロパンのEO/POランダム付加物、ペンタエリスリトールのEO/POランダム付加物、ソルビトールのEO/PO付加物、ジグリセリン及びポリグリセリンのEO/POランダム付加物、ソルビトールのEO/THFランダム付加物、グリセリンのPO付加物のEO付加物、グリセリンのEO付加物のPO付加物、ショ糖のPO付加物のEO付加物及びショ糖のEO付加物のPO付加物である。
上記(A1−1)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0017】
本発明において、(A1−1)並びに後述する(A1−2)、(A1−3)及び(A2)の数平均分子量(以下、Mnと略記する。)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、ポリエチレンオキサイドを基準物質として、40℃で測定される。
装置本体:HLC−8120(東ソー株式会社製)
カラム:東ソー株式会社製TSKgel α6000、G3000 PWXL
検出器:装置本体内蔵の示差屈折計検出器
溶離液:0.5%酢酸ソーダ・水/メタノール(体積比70/30)
溶離液流量:1.0ml/分
カラム温度:40℃
試料:0.25%の溶離液溶液
注入量:200μl
標準物質:東ソー株式会社製TSK TANDARD POLYETHYLENE OXIDE
データ処理ソフト:GPC−8020modelII(東ソー株式会社製)
【0018】
本発明における水溶性ポリエーテル(A1−2)の式(2)中の(AO)は下記一般式(4)で表すこともできる。
−(AO)(AO)(A10O)− (4)
【0019】
式(4)中、(AO)はオキシエチレン基、(AO)はオキシプロピレン基、(A10O)はオキシブチレン基を表す。rは0〜350の数、s及びtはそれぞれ0〜100の数であって、r/(r+s+t)は特に限定されないが、好ましくは0.6〜1.0、より好ましくは0.8〜1.0、更に好ましくは0.9〜1.0である。r、s、tが2以上の場合、付加形式はランダム付加でもブロック付加でもよいが、好ましくはブロック付加である。なお、r+s+t=pである。
【0020】
(A1−2)の数平均分子量は、生分解性と潤滑性の観点から好ましくは61〜20,000、より好ましくは149〜10,000である。
【0021】
(A1−2)としては、例えば、3〜8価の活性水素を有する化合物(例えばアンモニア、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及び、ペンタエチレンヘキサミン等)の炭素数が2〜4のAO(例えば、EO、PO、BO及びTHF等)付加物等が挙げられる。EO、PO、BO及びTHF等は、単独で用いても併用してもよく、併用した場合の付加形式は、ランダム付加でも、ブロック付加でもよい。
これらのうち好ましいものはアンモニアのEO付加物、エチレンジアミンのEO付加物、ジエチレントリアミンのEO付加物、トリエチレンテトラミンのEO付加物、テトラエチレンペンタミンのEO付加物、ペンタエチレンヘキサミンのEO付加物、アンモニアのEO/POランダム付加物、エチレンジアミンのEO/POランダム付加物、ペンタエチレンヘキサミンのEO/POランダム付加物、及び、ペンタエチレンヘキサミンのEO/THFランダム付加物、アンモニアのEO付加物のPO付加物、アンモニアのPO付加物のEO付加物、ペンタエチレンへキサミンのEO付加物のPO付加物及びペンタエチレンへキサミンのPO付加物のEO付加物である。
上記(A1−2)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
(A1−1)及び(A1−2)は、水溶性潤滑油の低温流動性の観点から、好ましくは流動点が20℃以下であり、より好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−10℃以下である。
【0023】
本発明における水溶性軸受油は、下記一般式(5)で表される水溶性ポリエーテル(A2)を含有してもよい。
(RCOO)[−(OA11−OH]4−h (5)
式(5)中、Rは炭素数1〜24の炭化水素基であって、1つ以上の二重結合を有していてもよく、(OA11)は炭素数が2〜4のオキシアルキレン基、Rはソルビタンから水酸基を除いた残基、hは1〜3の整数、nは平均付加モル数を示し、0.3〜の300の数であり、nが2以上の場合、A11は同じでも異なっていてもよい。(OA11部分の付加形式はランダム付加でもブロック付加でもよい。
【0024】
11は、炭素数2〜4のアルキレン基である。炭素数2〜4のアルキレン基としては、エチレン基、1,2−又は1,3−プロピレン基、及び1,2−、1,3−又は1,4−ブチレン基等が挙げられる。
【0025】
(A2)としては、ソルビタンモノ又はジ脂肪酸エステル(ソルビタンと飽和脂肪酸(例えば、カプリル酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸)及び/又は不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸)とのエステル)、及びそのアルキレンオキサイド(例えばEO、PO、BO、THF)付加物等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、ソルビタンモノエステルのEO付加物、及び、ソルビタンモノエステルのEO/PO付加物である。(A2)の数平均分子量は、生分解性と低温流動性の観点から好ましくは500〜10,000、より好ましくは750〜5,000、さらに好ましくは1,000〜4,000である。
上記(A2)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
本発明において前記(A1−1)、(A1−2)及び(A2)以外の水溶性ポリエーテル(A1−3)を含有してもよい。
(A1−3)としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタノールのEO/POランダム(又はブロック)付加物、グリコールのEO/POランダム(又はブロック)付加物及び(A1−1)を除くグリセリンのEO/POランダム(又はブロック)付加物、ポリアミドポリアミンのEO/POランダム(又はブロック)付加物等が挙げられる。
【0027】
本発明における(A1−1)の含有量は、生分解性、低温流動性及び潤滑性の観点から水溶性潤滑油の重量に基づき、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70重量〜100重量%、更に好ましくは80〜98重量%である。 本発明における(A1−2)の含有量は、生分解性、低温流動性及び潤滑性の観点から水溶性潤滑油の重量に基づき、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%、更に好ましくは80〜98重量%である。
本発明における(A1−1)及び(A1−2)の含有量の合計は通常40重量%以上であり、生分解性、低温流動性及び潤滑性の観点から水溶性潤滑油の重量に基づき、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%、更に好ましくは80〜98重量%である。
本発明における(A1−2)の含有量は、生分解性と低温流動性の観点から水溶性潤滑油の重量に基づき、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%、更に好ましくは80〜98重量%である。
本発明における(A1−3)の含有量は、低温流動性の観点から水溶性潤滑油の重量に基づき、好ましくは0〜20重量%、より好ましくは0〜10重量%、更に好ましくは0〜2重量%である。
本発明における(A2)の含有量は、生分解性の観点から水溶性潤滑油の重量に基づき、好ましくは0〜40重量%、より好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0〜10重量%である。
【0028】
本発明の水溶性潤滑油は、防錆剤(B1)を含有することが好ましい。防錆剤(B1)としては、アルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びトリイソプロパノールアミン等)、炭素数1〜24のアルキル基を有するアルキルアミン、炭素数1〜24のアルキル基を有するアルキルアミンのEO(1〜20モル)付加物、6〜24の炭素原子から構成される環状アミンのEO(1〜20モル)付加物、窒素原子が2個以上のアミン(エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン及びテトラエチレンペンタミン等)及びアルケニルコハク酸等が挙げられる。これらのうち、低毒性の観点から、アルカノールアミンであることが好ましく、より好ましくはジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等である。
【0029】
本発明において、さらに酸化防止剤(B2)を含有することが、環境への影響(長寿命)の観点から好ましい。
酸化防止剤(B2)としては、フェノール系酸化防止剤、例えば、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、及び、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチルメタクレゾール);アミン系酸化防止剤、例えば、N−フェニル−4−オクチルフェニルアミン、及び、ビス(4−オクチルフェニル)アミン;炭素数1〜36のカルビル基を有するジハイドロカルビルジチオリン酸亜鉛及びジアリルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0030】
本発明の水溶性潤滑油は、必要により、消泡剤及びpH調整剤からなる群から選ばれる1種以上を適宜加えて使用しても良い。
【0031】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0032】
pH調整剤としては、有機酸(蟻酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等)、無機酸(塩酸、リン酸、硫酸等)、アルカリ金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等が挙げられる。
【0033】
本発明の水溶性潤滑油において、pH調整剤及び消泡剤の含量は、生分解性と低毒性の観点から水溶性潤滑油の重量に基づき、それぞれ、好ましくは0〜5重量%、より好ましくは0〜1重量%である。
【0034】
本発明の水溶性潤滑油において、水の含有量は、防錆性及び潤滑性の観点より、水溶性潤滑油の重量に基づき、好ましくは0〜10重量%、より好ましくは0〜5重量%である。
【0035】
本発明の水溶性潤滑油は、40℃での動粘度が、潤滑性の観点から、好ましくは30〜250mm/s、より好ましくは40〜150mm/s、更に好ましくは70〜150mm/sである。
なお、水溶性潤滑油の動粘度は、JIS K2283:2000(原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法)に基づき、ウベローデ粘度計により測定する。
【0036】
本発明の水溶性潤滑油における魚毒性は、低毒性の観点から、好ましくは500mg/L以上、より好ましくは1,000mg/L以上、さらに好ましくは2,000mg/L以上である。
水溶性潤滑油の魚毒性の測定方法は、OECD試験法203に準じて、試験期間を96時間として、LC50により算出したものである。
【0037】
本発明の水溶性潤滑油は、水溶性ポリエーテル(A1−1)、水溶性ポリエーテル(A1−2)、水溶性ポリエーテル(A1−3)、水溶性ポリエーテル(A2)、防錆剤、酸化防止剤及びその他の原料を、40℃〜60℃で1〜4時間攪拌混合し、必要によりpH調整剤(苛性ソーダ(NaOH)及び苛性カリ(KOH)等)にてpH[水溶性潤滑油をイオン交換水で2倍に希釈した水溶液を、pHメーター「M−12」(堀場製作所製)を使用して測定できる]を調整して得ることができる。pHの範囲は、防錆性の観点から、好ましくは6〜12であり、より好ましくは7〜12である。
【0038】
本発明の水溶性潤滑油は、生分解性と耐加水分解性の観点から好ましくは船舶用の水溶性潤滑油であり、更に好ましくは船舶用の軸受け油、作動油及びギア油等の水溶性潤滑油用途に使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において、部は重量部を表す。
<実施例1〜17、比較例1〜3>
表1及び2に記載の部数の配合原料を50〜60℃のうち各実施例及び比較例に適した温度で攪拌して混合し、本発明の水溶性潤滑油(S1)〜(S17)及び比較の水溶性潤滑油(H1)〜(H3)を、それぞれ100部得た。
これらの40℃での動粘度(mm/s)を表1及び2に示す。なお、動粘度は以下の条件で測定した。
【0040】
<動粘度の測定方法>
装置:自動粘度測定装置(VMC−252型);株式会社離合社製
粘度計:ウベローデ粘度計(粘度計番号2番)
測定温度:40℃
【0041】
表1中の略号は、以下の組成を表す。
(A1−1−1)グリセリンのEO付加物(数平均分子量=200)
(A1−1−2)グリセリンのEO付加物(数平均分子量=600)
(A1−1−3)グリセリンのPO付加物のEO付加物(数平均分子量=20,000、モル比EO/PO=92/8)
(A1−1−4)トリメチロールプロパンのEO/POランダム付加物(数平均分子量=2,000、モル比EO/PO=92/8)
数)
(A1−1−5)ペンタエリスリトールのEO付加物(数平均分子量=1,200)
(A1−1−6)ソルビトールのEO付加物(数平均分子量=800)
(A1−1−7)ソルビトールのEO/THFランダム付加物(数平均分子量=4,000、モル比EO/THF=71/29)
(A1−1−8)ショ糖のEO付加物(数平均分子量=3,000)
(A1−1−9)ショ糖のPO付加物のEO付加物(数平均分子量=10,000、モル比EO/PO=80/20)
(A1−1−10)ジグリセリンのEO付加物(数平均分子量=1,000)
(A1−1−11)ポリグリセリンのEO付加物(数平均分子量=2,000)
(A1−2−1)アンモニアのEO付加物(数平均分子量=1,500)
(A1−2−2)アンモニアのEO付加物のPO付加物(数平均分子量=300、モル比EO/PO=60/40)
(A1−2−3)ジエチレントリアミンのEO/POランダム付加物(数平均分子量=5,000、モル比EO/PO=84/16)
(A1−2−4)ペンタエチレンへキサミンのPO付加物のEO付加物(数平均分子量=17,000、モル比EO/PO=84/16)
(A1−2−5)ペンタエチレンへキサミンのPO付加物のEO付加物(数平均分子量=60,000、モル比EO/PO=80/20)
(A1−3−1)PEG−200(三洋化成工業株式会社製);ポリエチレングリコール(数平均分子量=200)
(A1−3−2)PEG−600(三洋化成工業株式会社製);ポリエチレングリコール(数平均分子量=600)
(A1−3−3)ブタノールのEO/POランダム付加物(数平均分子量=1,800、モル比EO/PO=57/43)
(A1−3−4)グリセリンのEO付加物(数平均分子量=60,000)
(A1−3−5)ポリアミドポリアミンのEO/POランダム付加物;リノール酸のダイマー酸(ハリダイマー216、ハリマ化成株式会社製)とペンタエチレンヘキサミンとからなるポリアミドポリアミン(数平均分子量)1,900のEO/PO付加物(数平均分子量=190,000、モル比EO/PO=82/18)
(A2−1)ソルビタンモノ脂肪酸エステルのEO付加物;イオネットS20(三洋化成工業株式会社製;ソルビタンモノ脂肪酸エステル)のEO付加物(数平均分子量=1,300、脂肪酸の炭素数=6〜18)
(A2−2)ソルビタンモノ脂肪酸エステルのEO/POランダム付加物;イオネットS80(三洋化成工業株式会社製;ソルビタンモノ脂肪酸エステル)のEO/POランダム付加物(数平均分子量=3,000、モル比EO/PO=70/30、脂肪酸の炭素数=14〜22)
(B−3)シクロヘキシルアミンのEO付加物(EO付加モル数=2)
(C−1)フェノール系酸化防止剤;4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチルメタクレゾール)
(C−2)アミン系酸化防止剤;N−フェニル−4−オクチルフェニルアミン
【0042】
(A1−1−1)〜(A1−1−11)、(A1−2−1)〜(A1−2−5)、(A1−3−3)〜(A1−3−5)、(A2−1)及び(A2−2)は、水酸化カリウムを触媒とし、加圧反応装置を用いて、100〜150℃のうち適した温度で、4〜20時間のうち適した時間をかけてアルキレンオキサイド付加反応を行い、製造した。なお、その他の化合物は、市販品を用いた。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
<評価例>
得られた水溶性潤滑油の生分解性、潤滑性、低温流動性、及び毒性を試験した。
試験方法は、以下のとおりである。結果を表1及び2に示す。
(1)生分解性
OECD試験法301Fに準じて、28日間培養前後のTOCを測定することで、生分解度を測定した。活性汚泥はPEG分解菌「Sphigomonas macrogoltabida EY−1、Sphigomonas macrogoltabida 103等」を含有する下水処理場の汚泥を使用した。
○:生分解度60%以上、×:生分解度60%未満
【0046】
(2)潤滑性
振動摩擦摩耗試験機(オプチモール社製 SRV試験機)を用い、鋼球と平面の鋼ディスクとの点接触(荷重200N)における摩擦係数を評価した。試験条件を下記に示す。
振幅:2mm、 振動数:50Hz、 温度:50℃
時間:10分間
摩擦係数:時間10分間の平均
【0047】
(3)低温流動性
JIS K2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準じて、流動点を測定することにより評価した。
【0048】
(4)毒性
OECD試験法203「魚類急性毒性試験」に準じて、測定を行った。
試験魚としてメダカを用い、暴露時間を96時間として、LC50を算出した。そして、以下の評価基準に従って、毒性を評価した。
○:LC50が500mg/L以上
×:LC50が500mg/L未満
【0049】
表1及び2からわかるように、実施例の水溶性潤滑油は、生分解性、潤滑性、低温流動性、及び低毒性のいずれにも優れている。一方、比較例の潤滑油は、生分解性、潤滑性、及び低温流動性うちのいずれか1項目以上において実施例の水溶性潤滑油と比べて劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の水溶性潤滑油は、水に可溶、かつ潤滑性に優れており、上記のようにして得られた配合液をそのままで自動車、建設機械、船舶及び金属加工機械等の水溶性作動油、水溶性軸受け油、又は水溶性ギア油等として好適に用いることができる。さらには低温流動性に優れるため、寒冷地での使用に好適である。
また、本発明の水溶性潤滑油は、海水に漏れたとしても生分解性及び水溶性が良く、低毒性という特徴を有するので、特に船舶用の水溶性潤滑油として好適である。