特許第6208286号(P6208286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6208286
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】端末装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   B66B5/00 G
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-95990(P2016-95990)
(22)【出願日】2016年5月12日
【審査請求日】2016年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康弘
【審査官】 大塚 多佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−039641(JP,A)
【文献】 特開2013−252936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00 − 5/28
B66B 1/00 − 1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機に巻き架けられたロープの異常箇所を検出器で検出したときの乗りかごの位置を異常検出位置として持つエレベータ制御装置と無線通信可能な機能を備えた端末装置であって、
上記エレベータ制御装置から上記異常検出位置を取得する異常検出位置取得手段と、
上記検出器の設置位置を基準位置として定め、その基準位置と上記異常検出位置取得手段によって得られた異常検出位置とに基づいて、保守員が上記乗りかごの上に乗った状態で上記ロープの異常箇所を目視可能な位置を算出する目視可能位置算出手段と、
上記エレベータ制御装置に運転指示を出し、上記目視可能位置算出手段によって算出された位置に上記乗りかごを移動させる運転指示手段と
上記エレベータ制御装置から少なくとも上記巻上機と上記ロープに関する情報を含んだ物件情報を取得する物件情報取得手段とを具備し、
上記目視可能位置算出手段は、
上記物件情報に基づいて上記巻上機のシーブ外周部に上記ロープが巻き架けられている長さを求め、その長さを考慮して上記ロープの異常箇所を目視可能な位置を算出することを特徴とする端末装置。
【請求項2】
上記物件情報は、上記乗りかごの高さに関する情報を含み、
上記目視可能位置算出手段は、
上記物件情報に含まれる上記乗りかごの高さを考慮して上記ロープの異常箇所を目視可能な位置を算出することを特徴とする請求項1記載の端末装置。
【請求項3】
少なくとも上記保守員の身長に関する個人情報を記憶した個人情報記憶手段を具備し、
上記目視可能位置算出手段は、
上記物件情報に含まれる上記乗りかごの高さと上記個人情報に含まれる上記保守員の身長を考慮して上記ロープの異常箇所を目視可能な位置を算出することを特徴とする請求項記載の端末装置。
【請求項4】
上記端末装置は、
上記運転指示手段による上記乗りかごの移動中に保守員の目線の範囲内に上記ロープの異常箇所が近付いたことを通知する通知手段を具備したことを特徴とする請求項1記載の端末装置。
【請求項5】
上記通知手段は、
保守員の目線の範囲内に上記ロープの異常箇所が近付いたときにブザー音を発生することを特徴とする請求項記載の端末装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータの保守点検を行う保守員が持つ端末装置関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの乗りかごにはワイヤーロープが用いられている。このワイヤーロープは、複数本の銅線を撚って構成されており、摩擦や疲労などにより徐々に破断していく。このため、ロープテスタを用いて定期的にロープの状態を点検する必要がある。
【0003】
ロープ点検は、例えば機械室で巻上機に巻き架けられたロープにロープテスタを接触させた状態で、乗りかごを運転し、その運転中にロープテスタからロープの移動と共に逐次出力される波形信号をモニタ画面でチェックすることで行う。
【0004】
ここで、例えばマーキング装置によってロープテスタの波形信号が異常な箇所に目印を付けておき、後に保守員がその目印が付けられた箇所を目視確認する方法が一般的に採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−249117号公報
【特許文献2】特開2002−362847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ロープに目印を付けておく方法では、専用のマーキング装置を必要とする。また、ロープに付けられた目印は運転中に摩擦などで薄れたり、他の箇所に擦れて付着することもあるため、後に保守員が異常箇所を確認しづらい。特に、乗りかごの上に保守員が乗ってロープの状態を目視確認する場合に、上記目印を探しながら乗りかごを運転操作しなければならず、時間と手間がかかっていた。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、保守員に負担をかけずに、ロープの異常箇所を容易に確認できる端末装置提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る端末装置は、巻上機に巻き架けられたロープの異常箇所を検出器で検出したときの乗りかごの位置を異常検出位置として持つエレベータ制御装置と無線通信可能な機能を備える。
【0009】
上記端末装置は、上記エレベータ制御装置から上記異常検出位置を取得する異常検出位置取得手段と、上記検出器の設置位置を基準位置として定め、その基準位置と上記異常検出位置取得手段によって得られた異常検出位置とに基づいて、保守員が上記乗りかごの上に乗った状態で上記ロープの異常箇所を目視可能な位置を算出する目視可能位置算出手段と、上記エレベータ制御装置に運転指示を出し、上記目視可能位置算出手段によって算出された位置に上記乗りかごを移動させる運転指示手段と、上記エレベータ制御装置から少なくとも上記巻上機と上記ロープに関する情報を含んだ物件情報を取得する物件情報取得手段とを具備し、上記目視可能位置算出手段は、上記物件情報に基づいて上記巻上機のシーブ外周部に上記ロープが巻き架けられている長さを求め、その長さを考慮して上記ロープの異常箇所を目視可能な位置を算出することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は一実施形態に係るエレベータのロープ診断システムの構成を示す図である。
図2図2は同実施形態におけるエレベータ制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は同実施形態におけるエレベータ制御装置に備えられたロープ点検テーブルの一例を示す図である。
図4図4は同実施形態における異常検出位置を説明するための図である。
図5図5は同実施形態における保守員が持つ携帯端末の機能構成を示すブロック図である。
図6図6は同実施形態における携帯端末に備えられた個人情報テーブルの一例を示す図である。
図7図7は同実施形態における携帯端末の目視可能位置算出処理を示すフローチャートである。
図8図8は同実施形態における携帯端末の異常箇所確認処理を示すフローチャートである。
図9図9は同実施形態における目視可能位置算出方法を説明するための図である。
図10図10は同実施形態における異常箇所確認方法を説明するための図である。
図11図11は同実施形態における巻上機のシーブとロープとの関係(半周架けの場合)を説明するための図である。
図12図12は同実施形態における巻上機のシーブとロープ(1周半架けの場合)との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0012】
図1は一実施形態に係るエレベータのロープ診断システムの構成を示す図である。
【0013】
例えばエレベータの昇降路の最上部に機械室があり、その機械室内に巻上機11が設置されている。巻上機11には複数本からなるロープ12が巻き架けられ、そのロープ12の一端に乗りかご13が接続されている。ロープ12の他端には、カウンタウェイト14が接続されている。これにより、巻上機11の回転駆動に伴い、乗りかご12とカウンタウェイト14がロープ12を介してつるべ式に昇降動作する。
【0014】
また、巻上機11のモータ軸には、「パルスジェネレータ」と呼ばれる回転検出器15が設けられている。回転検出器15は、巻上機11の回転に同期してパルス信号をエレベータ制御装置20に出力する。エレベータ制御装置20は、CPU、ROM、RAMなどを備えたコンピュータによって構成され、乗りかご13の運転制御などを含むエレベータ全体の制御を行う。
【0015】
ここで、機械室において、巻上機11に巻き架けられているロープ12に「ロープテスタ」と呼ばれる検出器16が取り付けられている。この検出器16は、ロープ12の破断状態を磁気的に検出し、その検出信号をエレベータ制御装置20に出力する。
【0016】
保守員は、携帯端末30を持ちながら、ロープ12の点検作業を行う。この携帯端末30には、保守点検に必要な機能と、エレベータ制御装置20と無線通信可能な機能が備えられている。
【0017】
図2はエレベータ制御装置20の機能構成を示すブロック図である。
【0018】
エレベータ制御装置20は、制御部21、記憶部22、通信部23を備える。制御部21は、CPUからなり、エレベータ制御装置全体の制御を行う。この制御部21には、本システムを実現するための機能として、運転制御部21a、かご位置検出部21b、異常検出部21cが設けられている。
【0019】
運転制御部21aは、ロープ点検時に乗りかご13を所定の速度で乗りかご13を運転する。かご位置検出部21bは、運転制御部21aによる乗りかご13の運転中に回転検出器15から出力されるパルス信号に基づいて乗りかご13の位置を検出する。異常検出部21cは、ロープ12に取り付けられた検出器16から出力される波形信号に基づいてロープ12の異常箇所(破断箇所)を検出し、そのときの乗りかご13の位置を異常検出位置として取得する。
【0020】
記憶部22は、ROM、RAMなどのメモリデバイスからなり、制御部21を起動するための制御プログラムなど含む各種データが記憶されている。また、記憶部22は、当該エレベータの物件情報を記憶した物件テーブル22a、ロープ点検情報を記憶したロープ点検テーブル22bを有する。
【0021】
「物件情報」は、当該エレベータを1物件として保守管理するための情報であり、例えば建物の住所やエレベータの設置台数、機種などの情報の他に、巻上機11、ロープ12、乗りかご13などの各部品に関する詳細な情報(寸法等)を含んでいる。「ロープ点検情報」は、ロープ12を点検した結果(詳しくは検出器16を用いてロープ12の状態を診断した結果)を示す情報である。
【0022】
図3にロープ点検テーブル22bの一例を示す。
ロープ点検テーブル22bには、複数本のロープ12のそれぞれについて(ロープ1,ロープ2,ロープ3…)、異常の有無,異常検出位置,カレンダ情報(点検日)を1レコードとしたロープ点検情報が記憶される。図中のP1,P2,P3は、ロープ12の異常箇所が検出されたときのかご位置を示しており、例えば最上階から乗りかご13を下方向に低速でロープ点検運転したときのパルスデータ(パルス信号のカウント値)で表される。
【0023】
すなわち、図4に示すように、乗りかご13が最上階に位置しているときのパルスデータが「0100」であったとする。この状態で乗りかご13を最上階から下方向に所定の速度で移動させ、パルスデータが「0150」のときに、ロープ12の異常箇所が検出されたとする。このときのかご位置をP1とすると、P1=「0150」が異常検出位置として取得され、カレンダ情報と共にロープ点検テーブル22bに記憶される。
【0024】
また、例えばパルスデータが「0200」と「0300」のときに、ロープ12の異常箇所が検出されたとすると、P2=「0200」,P3=「0300」が異常検出位置として取得され、カレンダ情報と共にロープ点検テーブル22bに記憶されることになる。
【0025】
なお、図4の例では、ロープ点検時に乗りかご13を最上階から下方向に運転したが、乗りかご13を最下階から上方向に運転することでも良い。
【0026】
ロープ点検テーブル22bに記憶されたロープ点検情報は、保守員が持つ携帯端末30に取り込むことができる。携帯端末30は、保守点検に必要な機能と通信機能を備えている。
【0027】
図5は保守員が持つ携帯端末30の機能構成を示すブロック図である。
【0028】
携帯端末30には、入力部31、表示部32、制御部33、記憶部34、GPS(Global Positioning System)モジュール35、通信部36、ブザー発生部37などが備えられている。
【0029】
入力部31は、各種キーやボタンなどからなり、データの入力や指示を行う。表示部32は、例えばLCDからなり、データの表示を行う。なお、入力部31として、例えば透明のタッチパネルを用い、表示部32の画面上でデータ入力・指示を行う構成でも良い。
【0030】
制御部33は、CPUからなり、所定のプログラムの起動により保守点検作業に関わる各種機能を実行する。記憶部34は、ROMやRAM等のメモリデバイスからなり、各種プログラム34aが記憶されている。また、記憶部34には、個人情報テーブル34bが設けられている。図6に示すように、個人情報テーブル34bには、予め携帯端末30を所持している保守員の名前、所属、端末、端末の電話番号とアドレスなどを含む個人情報が登録されている。この個人情報には、保守員の身長に関する情報が属性情報として含まれている。
【0031】
GPSモジュール35は、現在位置を検出するために用いられる。通信部36は、外部との間でデータ通信を行う汎用のインタフェフェースであり、例えば長距離無線通信及び近接無線通信を可能とする。ブザー発生部37は、ブザー音を発生する。
【0032】
ここで、制御部33には、本システムを実現するための機能として、異常検出位置取得部33a、目視可能位置算出部33b、運転指示部33c、物件情報取得部33d、通知部33eが備えられている。
【0033】
異常検出位置取得部33aは、エレベータ制御装置20からロープ点検テーブル22bに記憶された異常検出位置を取得する。目視可能位置算出部33bは、検出器16が設置された位置を基準位置として定め、その基準位置と異常検出位置取得部33aによって得られた異常検出位置とに基づいて、保守員が乗りかご13の上に乗った状態でロープ12の異常箇所を目視可能な位置を算出する。
【0034】
運転指示部33cは、エレベータ制御装置20に運転指示を出し、目視可能位置算出部33bによって算出された位置に乗りかご13を移動させる。
【0035】
物件情報取得部33dは、エレベータ制御装置20から物件情報を取得する。この物件情報には、巻上機11のシーブ11aとロープ12に関する情報や、乗りかご13の高さに関する情報などが含まれている。
【0036】
通知部33eは、運転指示部33cによる乗りかご13の移動中に保守員の目線の範囲内にロープ12の異常箇所が近付いたことを通知する。
【0037】
次に、本システムの動作について説明する。
【0038】
ロープ12の点検は、巻上機11に巻き架けられているロープ12に検出器16を接触させた状態で、例えば最上階から乗りかご13を下方向に所定の速度でゆっくりと移動させることで行う。なお、実際にはロープ12は複数本あるので、これらの1本1本について同様の点検を行うことになる。
【0039】
乗りかご13の移動に伴って検出器16からロープ12の漏洩磁束を示す波形信号が出力され、エレベータ制御装置20に取り込まれる。エレベータ制御装置20では、この波形信号をA/D変換により数値化した後、予め異常判定の基準値として設定された閾値と比較する。比較の結果、波形信号の値が閾値以上の箇所が検出された場合、つまり、漏洩磁束の大きさが閾値以上であった場合には、エレベータ制御装置20はロープ12に異常ありと判定する。
【0040】
一方、エレベータ制御装置20は、乗りかご13の運転中に巻上機11の回転に同期して回転検出器15から逐次出力されるパルス信号をカウントし、そのカウント値から現在のかご位置を検出している。ここで、ロープ12の異常箇所が検出されたときに、エレベータ制御装置20は、そのときのかご位置を異常検出位置として取得し、その異常検出位置のパルスデータにカレンダ情報を付してロープ点検テーブル22bに記憶する。
【0041】
次に、保守員が乗りかご13の上に乗った状態でロープ12の異常箇所を確認する方法について詳しく説明する。
【0042】
図7は携帯端末30の目視可能位置算出処理を示すフローチャートである。
【0043】
まず、初期設定として、保守員が携帯端末30を操作して、検出器16の設置位置のパルスデータを最上階のパルスデータから予測入力し、このパルスデータの位置を基準位置Poとして定める(ステップS11)。
【0044】
例えば、建物最上部の機械室内に巻上機11が設置され、ロープ点検時にその巻上機11の設置面付近に検出器16が取り付けられていたとする。乗りかご13が最上階に位置しているときのパルスデータが「0100」であったとする。この最上階の位置から巻上機11の設置面までの距離に相当するパルスデータを例えば「0020」と予測すれば、「0100」−「0020」=「0080」を基準位置Poのパルスデータとして定めることができる。
【0045】
続いて、所定の操作により携帯端末30とエレベータ制御装置20との間のリンクを確立し、エレベータ制御装置20から当該エレベータの物件情報を取得する(ステップS13)。この物件情報には、巻上機11、ロープ12、乗りかご13などの各部品に関する詳細な情報(寸法等)が含まれている。また、保守員が指定したカレンダ情報(点検日)に従って、エレベータ制御装置20のロープ点検テーブル22bに記憶されたロープ点検情報から該当するカレンダ情報が付された異常検出位置のパルスデータを取得する(ステップS13)。
【0046】
ここで、携帯端末30に設けられた制御部33は、異常検出位置のパルスデータと基準位置のパルスデータとを比較し、異常検出位置から基準位置までの距離を算出する(ステップS14)。制御部33は、下記の(1)式により、異常検出位置から乗りかご13上で保守員がロープの異常箇所を目視可能な位置までの距離を算出する(ステップS15)。
【0047】
Y=(X−k)/2 ……(1)
ただし、X:異常検出位置から基準位置までの距離
k:巻上機のロープ巻架け長
Y:異常検出位置から目視可能な位置までの距離。
【0048】
図9乃至図12を参照して具体的に説明する。
いま、図9に示すように、検出器16の設置位置を基準位置Poとし、その基準位置Poのパルスデータが「0080」とする。また、検出器16によってロープ12の異常箇所を検出したときのかご位置を異常検出位置Pxとし、その異常検出位置Pxのパルスデータが「0300」であったとする。
【0049】
この場合、異常検出位置Pxから基準位置Poまでの距離Xは、「0300」−「0080」=「0220」となる。なお、「0220」はパルスデータなので、乗りかご13の運転速度に基づいて当該パルスデータを距離データに変換する必要がある。巻上機11のことを考えなければ、距離Xの半分の位置(つまり、「0220」/2=「0110」の位置)に乗りかご13を移動させれば、乗りかご13の位置にロープ12の異常箇所が来る。しかし、実際には、図11または図12に示すように、巻上機11のシーブ11aにロープ12が巻き架けられているので、その分の長さ(ロープ巻架け長k)を考慮しなければならない。
【0050】
ここで、ロープ巻架け長kは、下記(2)式のように求められる。
【0051】
k=2πr×n …(2)
ただし、π:円周率
r:シーブ11aの半径
n:ロープ巻回数。
【0052】
例えば図11に示すように、ロープ12がシーブ11aの上半分に巻き架けられていた場合(半周架けの場合)には、k=2πr×1/2=πrとなる。したがって、上記(1)式により、Y=(X−πr)/2となる。また、図12に示すように、ロープ12がシーブ11aに一周と半分だけ巻き架けられていた場合(1周半架けの場合)には、k=2πr×3/2=3πrである。したがって、上記(1)式により、Y=(X−3πr)/2となる。
【0053】
シーブ11aの半径rとロープ巻回数nに関する情報は、物件情報から得られる。制御部33は、これらの情報に基づいてシーブ11aの外周部にロープ12が巻き架けられている長さkを求め、その長さkを考慮して異常検出位置Pxから目視可能位置Pyまでの距離Yを算出する。
【0054】
なお、上記(1)式は、そらせシーブがない場合である。巻上機11とカウンタウェイト14との間にそらせシーブが介在されている場合には、その間の長さを考慮する必要がある。
【0055】
また、図10に示すように、保守員は乗りかご13の上に乗っているので、乗りかご13の高さh1と保守員の身長h2も考慮して、保守員の目線の範囲内に乗りかご13の異常箇所が来るように距離Yを補正することが好ましい。乗りかご13の高さh1は、物件情報から得られる。保守員の身長h2は、図6に示した個人情報テーブル34bに記憶された保守員の個人情報から得られる。
【0056】
このようにして距離Yが求められると、制御部21は、この距離Yの位置つまり目視可能位置Pyのパルスデータを求めて記憶部34に記憶する(ステップS16)。他に異常箇所があれば(ステップS17のYes)、制御部21は、その異常箇所の検出位置を示すパルスデータをエレベータ制御装置20から取得することにより、上記同様にして当該異常箇所を目視可能位置Pyのパルスデータを求めて記憶部34に順次記憶していく。
【0057】
図8は携帯端末30の異常箇所確認処理を示すフローチャートである。
【0058】
保守員は携帯端末30を持って乗りかご13の上に乗る。この状態で、所定の操作により携帯端末30の記憶部34から目視可能位置(距離Yの位置)のパルスデータを読み出してエレベータ制御装置20に送信する(ステップS21)。そして、携帯端末30からエレベータ制御装置20に対して運転指示を出し、乗りかご13を目視可能位置まで所定の速度で移動させる(ステップS22)。
【0059】
ここで、乗りかご13の移動中に現在のかご位置を示すパルスデータがエレベータ制御装置20から逐次送られて来る。携帯端末30に設けられた制御部33は、このパルスデータに基づいて乗りかご13が目視可能位置に近付いたか否かを判断する(ステップS23)。乗りかご13が目視可能位置に近付いたとき、つまり、保守員の目線の範囲内にロープ12の異常箇所が近付いたときに、制御部33はブザー発生部37を起動してブザー音を鳴らす(ステップS24)。これにより、保守員はロープ12の異常箇所が近付いていることを知ることができ、乗りかご13が目視可能位置で停止したときにロープ12を注視して異常箇所を見つけることができる。
【0060】
なお、通知方法としては、ブザー音以外に、例えば携帯端末30の表示部32に「異常箇所接近中!」といったような警告メッセージを表示したり、バイブ機能を起動して振動で通知する方法などを用いても良い。
【0061】
他の異常箇所があるときも同様であり(ステップS25Yes)、携帯端末30から目視可能位置を示すパルスデータをエレベータ制御装置20に送って、乗りかご13を移動させれば良い。これにより、マーキング装置等の特別な装置を用いてなくても、検出器16で検出した異常箇所を容易に確認することができる。
【0062】
なお、上記実施形態では、ロープテスタである検出器16から出力される波形信号をエレベータ制御装置20が取り込んで異常の有無を判定したが、異常判定を別の制御器で行い、異常ありと判定されたときのかご位置のパルスデータだけをエレベータ制御装置20に取り込む構成としても良い。
【0063】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、ロープの異常箇所を容易に確認できる端末装置及びエレベータのロープ診断システムを提供することができる。
【0064】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
11…巻上機、12…ロープ、13…乗りかご、14…カウンタウェイト、15…回転検出器、16…検出器、20…エレベータ制御装置、21…制御部、21a…運転制御部、21b…かご位置検出部、21c…異常検出部、22…記憶部、22a…物件テーブル、22b…ロープ点検テーブル、23…通信部、30…携帯端末、31…入力部、32…表示部、33…制御部、33a…異常検出位置取得部、33b…目視可能位置算出部、33c…運転指示部、33d…物件情報取得部、33e…通知部、34…記憶部、34a…プログラム、34b…個人情報テーブル、35…GPSモジュール、36…通信部、37…ブザー発生部。
【要約】
【課題】保守員に負担をかけずに、ロープの異常箇所を容易に確認可能とする。
【解決手段】一実施形態に係る端末装置30は、巻上機に巻き架けられたロープの異常箇所を検出器で検出したときの乗りかごの位置を異常検出位置として持つエレベータ制御装置と無線通信可能な機能を備える。携帯端末30は、エレベータ制御装置から異常検出位置を取得する異常検出位置取得部33a、検出器の設置位置を基準位置として定め、その基準位置と異常検出位置とに基づいて保守員が乗りかごの上に乗った状態でロープの異常箇所を目視可能な位置を算出する目視可能位置部33b、エレベータ制御装置に運転指示を出し、上記算出された位置に乗りかごを移動させる運転指示部33cとを備える。
【選択図】 図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12