特許第6208321号(P6208321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208321
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】2,5−フランジカルボン酸の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/68 20060101AFI20170925BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   C07D307/68
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-500624(P2016-500624)
(86)(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公表番号】特表2016-513641(P2016-513641A)
(43)【公表日】2016年5月16日
(86)【国際出願番号】US2014020482
(87)【国際公開番号】WO2014158838
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年3月3日
(31)【優先権主張番号】61/782,589
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507303309
【氏名又は名称】アーチャー−ダニエルズ−ミッドランド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】サンボーン,アレクサンドラ
【審査官】 杉江 渉
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/033058(WO,A1)
【文献】 特表2011−506478(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/132740(WO,A1)
【文献】 特開2007−261989(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/017052(WO,A1)
【文献】 特開2011−084540(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/161972(WO,A1)
【文献】 特開2009−001519(JP,A)
【文献】 特表2013−507359(JP,A)
【文献】 特開2013−203666(JP,A)
【文献】 特開2009−013079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 201/00 − 521/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HMFをFDCAに変換するための方法であって、
HMFを含む水溶液を準備する工程と、
HMFを含む水溶液を、均一系金属塩触媒の存在下であるがHMFおよび均一系金属塩触媒のための水以外の溶媒の非存在下において、触媒の存在下でHMFを酸化してFDCAを形成するのに効果的な条件下で酸素源と組み合わせる工程と、
FDCA析出物を回収する工程と
を含む方法。
【請求項2】
均一系金属塩触媒が、コバルト、マンガン、セリウムおよびジルコニウムのいずれかの酢酸塩、炭酸塩およびハロゲン化物塩からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒が、臭化コバルトである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
種または複数種の六炭糖を含む水性供給材料を酸触媒の存在下で脱水して、HMFを含む粗脱水生成物混合物を得ること、
前記粗脱水生成物混合物を均一系金属塩触媒と組み合わせること、及び
前記粗脱水生成物混合物を前記均一系金属塩触媒と一緒に、水溶液として、酸化工程に直接供給すること、
によって、HMFを含む水溶液が準備され前記均一系金属塩触媒の存在下で酸素源と組み合わせられる、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001] 現在、石油ベースもしくは化石燃料ベースの出発原料から作られている、種々の大規模の化学製品および燃料製品の製造のためのまたはバイオベースのその相当物もしくは類似物の製造のための出発原料としての天然物の使用は、重要性が高まりつつある分野になっている。例えば、天然物を燃料に変換するために、洗浄剤として、およびもちろん、化石燃料ベースのエネルギー源に代わるより持続可能な代替物として、かなり多くの研究が行われている。
【0002】
[0002] デンプン、セルロース、スクロースまたはイヌリンなどの農業原料は、グルコースおよびフルクトースなどのヘキソースの製造のための、安価で再生可能な出発原料である。次にグルコースおよび他のヘキソース、特にフルクトースが、5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは単にヒドロキシメチルフルフラール(HMF)としても知られている2−ヒドロキシメチル−5−フルフルアルデヒドなどの、他の有用な物質に変換され得ることは長年にわたって認識されている。
【0003】
【化1】
【0004】
[0003] 利用可能な非常に豊富なバイオマス炭水化物は、HMFに基づいた大量生産型の化学製品および燃料製品の開発のための強力な再生可能な資源基盤を提供する。例えば、2008年6月に発表され、Gongに譲渡された米国特許第7,385,081号は、例えば、毎年生産されるバイオマスおよそ2000億トンのうちの95%が炭水化物の形であり、次いで、全炭水化物の3〜4%のみが食品およびその他の目的に使用されたと推定している。
【0005】
[0004] この事実を考慮して、またHMFの種々の官能性のために、フルクトースおよびグルコースなどのヘキソースからこうして得られるHMFは、再生可能資源から誘導される、ポリマー、溶媒、界面活性剤、医薬品および植物防疫剤などのさまざまな製品を生産するのに利用され得ることが提案されている。HMFは、この点では、フルフリルジアルコール、ジアルデヒド、エステル、エーテル、ハロゲン化物およびカルボン酸などの幅広い種類の化合物の合成における出発原料または中間体として提案されている。
【0006】
[0005] 文献に論じられている多くの生成物は、HMFの酸化から誘導される。これに含まれるのは、ヒドロキシメチルフランカルボン酸(HMFCA)、ホルミルフランカルボン酸(FFCA)、2,5−フランジカルボン酸(FDCA、デヒドロ粘液酸としても知られている)およびジホルミルフラン(DFF)である。これらのうち、FDCAは、ポリ(エチレンテレフタレート)またはポリ(ブチレンテレフタレート)のような数百万トン規模のポリエステルポリマーの生産における、バイオベースの再生可能な代用品として論じられている。FDCAなどの誘導体は、2,5−ジヒドロキシメチルフランおよび2,5−ビス(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフランから作ることができ、ポリエステルポリマーを作るのに使用することができる。最近では、FDCAエステルも、PVC用のフタル酸エステル系可塑剤の置き換えとして評価されている。例えば、両方ともEvonik Oxeno GmbHに譲渡されたWO2011/023491A1およびWO2011/023590A1ならびにR.D.Sandersonら,Journal of Appl.Pol.Sci.1994年,53巻,1785〜1793頁を参照のこと。
【0007】
[0006] FDCAおよびその誘導体は、最近のかなりの商業的関心を引いており、例として、米国エネルギー省が2004年の研究において、将来の「環境に優しい」化学工業を確立するための12の優先化学物質の1つとして、FDCAを特定しているが、ポリエステルを作る際に使用されるFDCAの潜在能力(その構造がテレフタル酸に類似しているため)は、少なくとも1946年には早くも認識されている。Drewittらに譲渡されたGB621,971「Improvements in Polymer」を参照のこと。
【0008】
[0007] このように、HMFおよびその酸化系誘導体、例えば、FDCAは、種々の適用に将来有望なバイオベースの出発原料、中間体および最終生成物であると長年にわたって考えられてきたが、残念なことに、実行可能な商業規模の方法は得難いことが分かっている。HMFを作るための酸に基づいた脱水方法は長年にわたって知られており、少なくとも1895年の時点で、レブロースから(Dull, Chem. Ztg., 19, 216)およびスクロースから(Kiermayer, Chem. Ztg., 19, 1003)HMFを調製するのに使用されている。しかし、これらの初期の合成は、出発原料から生成物への変換率が低い故に、HMFを生産するための実用的な方法ではなかった。HSO、HPOおよびHClなどの安価な無機酸が使用されてきたが、これらは溶液中で使用され、再利用が困難である。再生および廃棄処分の問題を回避するために、固体のスルホン酸触媒も使用されてきた。しかし、固体の酸樹脂は、樹脂の表面に失活を招くフミンポリマーが形成されるため、代替物として完全にうまくいくとは限らないことが分かっている。
【0009】
[0008] 酸に基づいた脱水方法では、HMFの再水和から、レブリン酸およびギ酸などの副生成物が生じるという追加的な複雑な問題が起こる。別の望ましくない副反応には、HMFおよび/またはフルクトースの重合によってフミンポリマーが形成されるというものが挙げられる。先ほど言及したように、固体の酸樹脂触媒が用いられる場合には、フミンポリマーは、固形廃棄物であり、触媒毒として作用する。溶媒選択の結果として、さらなる複雑な問題が起こり得る。水は、処分が容易であり、フルクトースを溶解させるが、残念なことに、水性条件下では、選択性が低く、ポリマーおよびフミンの形成が増加する。
【0010】
[0009] HMFの経済的な商業生産の実現は、HMFが比較的不安定であり、分解し易い傾向があることによっても妨げられている。考えられているあるアプローチは、より安定であり、容易に分離されるHMF誘導体、例えば、HMFのエステル誘導体およびエーテル誘導体を形成することまたはその分解に寄与する傾向があるそれらの条件、例えば、酸性条件への曝露から、HMFを素早く除去することである。
【0011】
[0010] 前者のアプローチの例は、SanbornらによるUS2009/0156841に見出され得、これには、炭水化物源を固相触媒と接触させることによって、炭水化物源から実質的に純粋なHMFおよびHMFエステルを生産する方法が提供されており、「実質的に純粋な」とは、HMFの純度が約70%以上、任意選択により、約80%以上または約90%以上を指すと定義された。
【0012】
[0011] 後者のアプローチの例は、DignanらによるWO2009/012445に見出され得、これには、フルクトースおよび無機酸触媒の水溶液を水不混和性有機溶媒と混合または撹拌して、水相および有機相のエマルジョンを形成し、次いで、このエマルジョンを流通式反応器中で高圧にて加熱し、水相および有機相を相分離させることによって、HMFを作ることが提案されている。HMFは、水相および有機相中にほぼ同量で存在し、両方から、例えば、有機相から真空蒸発および真空蒸留によってならびに水相をイオン交換樹脂に通すことによって除去される。残留フルクトースは、水相とともに存在する。反応するフルクトースの量に関して、相対的に少量の溶媒を使用するために、初期の水相には高いフルクトースレベルが推奨されている。
【0013】
[0012] 本発明の譲受人に譲渡された特許協力条約出願第PCT/US12/66708号の「Process for Making HMF and HMF Derivatives From Sugars, With Recovery of Unreacted Sugars Suitable for Direct Fermentation to Ethanol」は、現在WO2013106136(「WO’136」)として公表されており、この明細書において、本発明者らは、HMFまたはHMF誘導体(例えば、エステルまたはエーテル誘導体)をヘキソース糖水溶液から作る方法を記載した。これにおいて、ある特定の実施形態によると、酸触媒による脱水工程は、ヘキソース水溶液を周囲温度から反応温度まで急速加熱し、ならびにHMFおよび/またはHMF誘導体未変換糖混合物を急速冷却した後、HMFおよび/またはHMF誘導体生成物から発酵可能な状態の残留糖生成物を分離して行われる。加えて、ヘキソース水溶液が反応器に導入される時点から、HMFおよび/またはHMFエーテル生成物が冷却され始める時点までの間の時間は、制限されることが好ましい。
【0014】
[0013] 1回通過当たりの(per-pass)HMFへの制限された変換を容認することによって、所与の任意のヘキソース水溶液から形成されるHMFの酸性高温条件への全体的な曝露が制限され、好ましくは、廃棄物処理を必要とするフミンなどの望ましくないまたは使用できない副生成物が、ほとんどまたは全く生成されない。生成物の分離および回収が簡単になり、残留糖生成物中のHMFのレベルおよび発酵によるエタノール生産を阻害することが知られている他のヘキソース脱水生成物のレベルが、残留糖生成物をエタノール発酵に直接使用することができる程度まで、必要に応じて低減される。記載されているように行われる方法は、非常に高い糖アカウンタビリティ(accountabilities)および高い変換効率を特徴とし、糖の非常に低い損失が明らかであった。
【0015】
[0014] さらに最近になって、本発明の譲受人に譲渡された特許協力条約出願第PCT/US2014/18186号の「Process For Making HMF From Sugars With Reduced Byproduct Formation, And Improved Stability HMF Compositions」(「WO’186出願」)において、例えば、特にトウモロコシの乾式粉砕もしくは湿式粉砕からの一般的なヘキソース糖からまたはリグノセルロースバイオマスのセルロース画分から、商業規模でHMFを製造しようとする際に遭遇するいくつかの困難に対処するためのさらなる改良が提供されている。特に、WO‘136は、HMFの酸性高温条件への曝露を制限することに関係しているが、本発明者らは、WO’186出願において、特に自動酸化を含むHMFの酸化も、HMFの分解において前述の有難くない役割を果たすことを見出した。それ故に、WO’186出願では、種々の方法が企図されており、1種または複数のヘキソース糖は、低減された酸素環境で脱水され、所望のHMF生成物/HMFからFDCAまたは他の酸化生成物を作るための供給原料の分解を低減する。例として、一実施形態では、WO‘136によるHMF生成方法は、低減された酸素環境で行うことができ、その後HMF(またはHMF誘導体)は、FDCAを作るための酸化プロセスに供給原料として使用される。
【0016】
[0015] この点では、研究者らがHMFを作るための商業的に実行可能な方法を探し求めて取り組んでいる多数の挑戦し甲斐のある課題にもかかわらず−そのため、適したHMF供給原料の大規模生産は、これまで実現されてこなかったのだが−やはり、FDCAへの商業的関心を認識して、HMFからFDCAを作るための多くの方法が、技術文献および特許文献に記載されてきた。
【0017】
[0016] いくつかの参考文献は、Mid−Century型の方法または若干変更されたMid−Century型の方法における、HMFまたはHMFの誘導体の酸化のためのプロセスを記載しており、例えば、Sanbornに譲渡された米国特許出願公開第2012/0059178A1号およびMunoz de Diegoらに譲渡された同2012/0271060を参照のこと(より以前の類似した多くの参考文献が、これらの公開のそれぞれに記載されている)。
【0018】
[0017] 特許協力条約出願第PCT/US2012/052600号の「Spray Oxidation Process for Producing 2,5−Furandicarboxylic Acid from Hydroxymethylfurfural」は、現在WO2013033058(「WO‘058」)として公表されており、噴霧酸化プロセスにおける、HMFをFDCAに酸化するための、Mid−Century型の均一系Co/Mn/Br触媒の使用を記載する際にも同様に例証しているが、その噴霧酸化プロセスに関連して、従来の酸脱水からの粗脱水生成物混合物を、触媒用の溶媒(酢酸が好ましい)に直接可溶化し、反応器中に噴霧して酸化することができ、続いて思いがけなく高収率でFDCA生成物を回収することができるという発見にも注目すべきである。それ故に、統合された、継ぎ目のない方法が企図されており、以上のSanbornらによるUS2009/0156841に述べられているが、酸化によってHMFがFDCAに変換する前にHMFの分解を防ぐために、HMFは単離、精製または誘導体化される必要がなく、HMFの酢酸エステル誘導体(酢酸溶媒との組合せからその場で形成される)は、CoMnBr触媒の存在下で容易に酸化されて、FDCAを生じる。
【0019】
[0018] WO‘136、WO‘186およびWO‘058の発見は、このように、HMFを作るためのおよびHMF酸化生成物であるFDCAを作るための方法の商業的な実現への、ある長年にわたる障害−すなわち、HMFの不安定さおよび分解する傾向−に対処する際の、著しい改善を提供するために、個々におよび/または組み合わせて理解することができるとはいえ、しかし、それでもなおMid−Century型のすべての方法は、ある種の有機溶媒を使用し、その溶媒は(使用量を考えると)回収および再利用されなければならず、酢酸などの有機溶媒の使用、回収および再利用は、プロセス全体にかなりの費用を追加する。
【0020】
[0019] 種々の不均一系触媒を使用してHMFをFDCAに酸化する方法を含む、HMFをFDCAに変換するための他の方法が提案されているが、不均一系触媒によるこれらの種々の方法には、それらの欠点もあり−例えば、妥当な変換率および収率をもたらす長い反応時間、非常に希薄な基質濃度、基質に対する触媒の高い比率、高価な金および白金などの金属の高い含量、費用のかかる金属を再使用のために回収する際の困難さ、触媒を後処理する際の著しい廃棄物の産出、不均一系触媒からFDCAを分離する際の困難さなどが挙げられる。
【0021】
[0020] それ故に、費用がはるかに安い金属触媒が、水のみでHMFのFDCAへの酸化を均一に触媒するために使用され得、これまでに知られている均一系触媒によるMid−Century型の方法における、有機溶媒の使用、回収および再利用に伴う出費が、不均一系触媒による方法の前述の欠点とともに回避され得るような方法が利用できるならば、それは非常に望ましいことである。
【発明の概要】
【0022】
[0021] よって、本発明は、一態様では、HMFをFDCAに変換するための方法であって、多量のHMFを水に溶解させ;HMFを含有する水溶液を、均一系水溶性金属塩触媒の存在下であるが水以外の溶媒の実質的な非存在下において、触媒の存在下でHMFを酸化してFDCAを形成するのに効果的な条件下で酸素源と組み合わせ;FDCA生成物を析出させて回収する方法に関する。
【0023】
[0022] 別の態様では、本発明は、1種または複数種の六炭糖を含有する水性供給材料をFDCAに変換するための方法であって、水性供給材料を酸触媒の存在下で脱水して、HMFを含む粗脱水生成物混合物にし、次いで、粗脱水生成物混合物を、均一系水溶性金属塩触媒の存在下であるが水以外の溶媒の実質的な非存在下において、触媒の存在下でHMFを酸化してFDCAを形成するのに効果的な条件下で、酸素源と組み合わせ、そのように形成されたFDCA生成物を析出させて回収する方法に関する。ある特定の実施形態では、均一系金属塩触媒は、臭化コバルト触媒である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[0023] 本発明の好ましい方法は、いずれかの態様によると、水中において、水に可溶化される均一系金属塩触媒の存在下で、HMFを酸化する工程と、次いで、水に溶解しにくいFDCA生成物を析出させた後、ろ過によって触媒から分離する工程とを含む。
【0025】
[0024] 一般に、HMFおよび金属塩触媒は、限定されることなく、任意の特定の順序で水中に組み合わされ得る。したがって、例えば、触媒はHMFの水溶液に加えられ得る。これは、先立つ酸触媒による脱水工程が、1種または複数種の六炭糖を含有する水性供給材料をHMFを含む粗脱水生成物混合物に変換するために用いられる、第2の態様による統合された方法において、組合せを作る最も都合の良い手段である。先立つ酸触媒による脱水工程は、以上に参考文献として引用および記載してきた方法またはこの変形を実施するための知られている他の任意の方法のいずれかによって実施することができるが、好ましい方法は、固体の酸触媒を用いるおよび/または本発明者らのWO‘136出願もしくはWO‘186出願の教示を使用して実施され、その後の酸化工程によってHMFがFDCAに変換する前に、HMFの分解に寄与し得る(酸性条件および特に高温での酸性条件ならびにそれに続く酸化工程の前の酸素(WO‘186によって示されている)を含む)条件への、その中のHMFの曝露を低減しながら、粗脱水生成物混合物が生成される。
【0026】
[0025] 他の実施形態では、例えば、HMFが前もって別々に生成されるおよび/または中間体HMFの精製もしくは単離工程が、統合された方法において、酸触媒による脱水工程の後に使用される実施形態では、HMFおよび金属塩触媒は、同時に水に可溶化され得る。そのような実施形態は、以上に関連している要約されたプロセス工程に一致しているものと理解される。別の実施形態では、HMFは、金属塩触媒が既に可溶化されている水に加えられる。
【0027】
[0026] 酸素源は、HMFを酸化して、FDCAを含めたHMFの酸化生成物を形成するための酸素を提供する任意の物質、例えば、空気、酸素が豊富に含まれる空気または酸素であり得る。酸素源は、HMFおよび金属塩触媒を含有する水溶液中に吹き込むことができる、または以下の実施例に示されているように、水溶液を含有する反応器に、加圧ガスとして加えられ得る。
【0028】
[0027] 不均一系触媒による方法の実施の場合のように、結果的に不均一触媒からの分離を複雑にする、水溶液中の低FDCA濃度の維持およびFDCA生成物の析出の防止のために、水溶液中のHMFの濃度を限定する必要がない。その上、本発明の方法は、最終的に所望のFDCA生成物の水に溶解しにくい性質を利用して、水溶液中にまだ残存している金属塩触媒からFDCA生成物を分離するので、そのようなより高い濃度のHMF供給材料を使用するために、もっと容易に溶解できるFDCAのカルボン酸塩を形成するために、塩基を全く必要としない。
【0029】
[0028] 種々の金属塩触媒が使用され得、例えば、コバルト、マンガン、セリウムおよびジルコニウムの水溶性塩、特にこれらの金属の酢酸塩、炭酸塩およびハロゲン化物(および特に臭化物)塩が使用され得る。好ましい触媒は、臭化コバルトである。臭化コバルト触媒は、以上に要約されているいくつかの参考文献の不均一系の白金、金およびルテニウム触媒に比べて、費用がかなり安く、均一系触媒は、より簡単に反応体に利用できるため、基質に対する触媒のはるかに低減された比率を使用することができ、妥当な反応時間を用いて、HMF反応体の容認できる変換率および所望のFDCA生成物の少なくともある特定の容認できる収率を達成することができる。
【0030】
[0029] 典型的には、反応温度は80から180℃までであり、酸素を使用して、2.1MPa、ゲージ圧(300psig)から6.9MPa、ゲージ圧(1000psig)までに、反応器を加圧するまたは酸素が豊富に含まれる空気もしくは空気の対応する圧力を使用して、反応のための酸素に相当する供給量を与える。0.1から1.0モルパーセントまでの臭化コバルト含量で(HMF基質に対して)、およそ1時間から10時間までの反応時間が予想され、少なくとも30パーセントの収率のFDCAを得ることができる。好ましくは、最適化して、少なくとも35パーセント、より好ましくは、少なくとも40パーセントの収率のFDCAが実現される。HMFの定量的から定量的に近い変換が予想され、良好から優秀な触媒寿命を有する。
【実施例】
【0031】
[0030] 本発明は、以下の限定されない実施例によって、さらに説明される。
【0032】
[0031] 実施例1
[0032] 蒸留したHMF(5グラム、純度92%)を、100mL MC Series、ステンレス製撹拌型反応容器(Pressure Products Industries、Warmister、PA)に導入し、臭化コバルト(II)脱水物(28.8mg)および水(50グラム)を加えた。反応器を酸素で満たして2.1MPa(300psi)にし、50分後に4.6MPa(650psi)に増加した。温度を周囲温度から反応温度100℃まで上昇させ、100℃で0.5時間後、反応温度を100から115℃まで上昇させた。追加の1.5時間の間、温度を約115〜117℃に、酸素圧4.2MPa(600psi)に維持し、その時点で、反応混合物を冷却し、酸素雰囲気下、周囲温度で15時間、反応を続けた。サンプルを定期的に採取し、真空ろ過によって固体を分離(保持)した。HMFの変換を、ガスクロマトグラフィー/質量分光法、高速液体クロマトグラフィーおよび/またはH核磁気共鳴によって確認した。析出した固体を、GC/FIDによって、本質的に純粋なFDCAと同定した。