特許第6208355号(P6208355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208355
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20170925BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20170925BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20170925BHJP
   F16H 59/38 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
   F16H59/68
   F16H59/38
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-532488(P2016-532488)
(86)(22)【出願日】2015年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2015065205
(87)【国際公開番号】WO2016006346
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2016年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-141742(P2014-141742)
(32)【優先日】2014年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】本間 知明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑太
(72)【発明者】
【氏名】篠原 到
(72)【発明者】
【氏名】関谷 寛
(72)【発明者】
【氏名】荻野 啓
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−213638(JP,A)
【文献】 特開2002−227984(JP,A)
【文献】 特開2005−003065(JP,A)
【文献】 特開2000−205398(JP,A)
【文献】 特開2014−105805(JP,A)
【文献】 特開2000−213635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 59/38
F16H 59/68
F16H 61/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリとセカンダリプーリの間にベルトを巻装して動力を駆動輪に伝達する無段変速機構において、
動力源と前記駆動輪との間の動力伝達を断接可能なトルクコンバータのロックアップクラッチと、
油圧制御指令値を出力し、車両の走行状態に応じて前記無段変速機構の変速比と前記ロックアップクラッチの締結状態を制御する制御手段と、
前記制御指令値に対する前記ロックアップクラッチの締結状態を学習制御する学習制御手段と、
油振を検知する油振検知手段と、
前記油振検知手段により油振が検知されたときは、前記学習制御を禁止する学習制御禁止手段と、
を備えた無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機の制御装置において、
前記学習制御禁止手段は、前記学習制御手段による学習制御中に、前記油振検知手段により油振が検知されたときは、前記学習制御を中止する、無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無段変速機の制御装置において、
ライン圧を生成するライン圧生成手段と、
前記ライン圧が第1の所定圧を超えるときに前記第1の所定圧を超えないように調圧したパイロット圧を供給するパイロットバルブと、
前記パイロット圧によりソレノイドバルブを制御して前記挟持圧を生成する制御手段と、
を有し、
前記学習禁止手段は、油振検知手段により油振を検知したときは、前記ライン圧を前記第1の所定圧よりも高くなるように上昇させ、該ライン圧の上昇により前記油振が検知されないときは前記学習制御の禁止を解除する、無段変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の無段変速機の制御装置において、
前記ロックアップクラッチは、前記動力源と前記無段変速機構との間に設けられ、
前記学習制御手段は、車両の停車中に実行する手段であり、
前記学習制御禁止手段は、前記ライン圧を前記第1の所定圧より高く上昇させてから所定時間経過後も油振を検知したときは、当該停車中の学習制御を禁止する、無段変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の無段変速機の制御装置において、
前記学習制御禁止手段は、車速が走行状態を表す所定車速以上となったときは、前記学習制御の禁止を解除する、無段変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、締結要素への油圧制御指令値と締結開始タイミングとの関係を検知し、締結開始タイミングに対応する油圧制御指令値を学習制御することで、適切な締結制御を達成する技術が開示されている。
しかしながら、締結開始タイミングを検知しているときに、ライン圧等の油圧が変動する油振が生じると、学習制御中に振動的な締結が生じ、運転者に違和感を与えるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−126238号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明は上記課題に着目してなされたもので、運転者に与える違和感を抑制しつつ学習制御が可能な無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、プライマリプーリとセカンダリプーリの間にベルトを巻装して動力を駆動輪に伝達する無段変速機構において、動力源と前記駆動輪との間の動力伝達を断接可能な締結要素と、油圧制御指令値を出力し、車両の走行状態に応じて前記無段変速機構の変速比と前記締結要素の締結状態を制御する制御手段と、前記制御指令値に対する前記締結要素の締結状態を学習制御する学習制御手段と、油振を検知する油振検知手段と、前記油振検知手段により油振が検知されたときは、前記学習制御を禁止する学習制御禁止手段と、を備えた。
【0006】
よって、油振を検知したときは、締結要素の学習制御が禁止されるため、学習制御中の振動的な締結に伴う違和感を回避できる。また、油振中の信頼性の低い学習値を使用することがなく、適切な学習制御を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の無段変速機の制御装置を表すシステム図である。
図2】実施例1のコントロールバルブユニット内の概略を表す油圧回路図である。
図3】実施例1のパイロットバルブの構成を表す概略図である。
図4】実施例1の無段変速機においてライン圧とパイロット圧とロックアップ圧の関係を表す特性図である。
図5】実施例1の学習制御処理を表すフローチャートである。
図6】ライン圧が第1の所定圧よりも低い状態でロックアップクラッチを締結して走行したときに油振が発生した場合のタイムチャートである。
図7】ライン圧が第1の所定圧よりも低い状態で油振が発生したときに、パワートレーンPTの固有振動数とタイヤ回転一次振動数とが共振する領域を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
図1は実施例1の無段変速機の制御装置を表すシステム図である。実施例1の車両は、内燃機関であるエンジン1と、無段変速機とを有し、ディファレンシャルギヤを介して駆動輪であるタイヤ8に駆動力を伝達する。ベルト式無段変速機構CVTからタイヤ8へと接続する動力伝達経路を総称してパワートレーンPTと記載する。
【0009】
無段変速機は、トルクコンバータ2と、オイルポンプ3と、前後進切替機構4と、ベルト式無段変速機構CVTとを有して構成される。トルクコンバータ2は、エンジン1に連結されオイルポンプ3を駆動する駆動爪と一体に回転するポンプインペラ2bと、前後進切替機構4の入力側(ベルト式無段変速機構CVTの入力軸)と接続されるタービンランナ2cと、これらポンプインペラ2bとタービンランナ2cとを一体的に連結可能なロックアップクラッチ2aとを有する。前後進切替機構4は、遊星歯車機構と複数のクラッチ4aから構成されており、クラッチ4aの締結状態によって前進と後進とを切り替える。ベルト式無段変速機構CVTは、前後進切替機構4の出力側(無段変速機の入力軸)と接続されたプライマリプーリ5と、駆動輪と一体に回転するセカンダリプーリ6と、プライマリプーリ5とセカンダリプーリ6との間に巻回され動力伝達を行うベルト7と、各油圧アクチュエータに対して制御圧を供給するコントロールバルブユニット20と、を有する。
【0010】
コントロールユニット10は、運転者の操作によりレンジ位置を選択するシフトレバー11からのレンジ位置信号(以下、レンジ位置信号をそれぞれPレンジ,Rレンジ,Nレンジ,Dレンジと記載する。)と、アクセルペダル開度センサ12からのアクセルペダル開度信号(以下、APO)と、ブレーキスイッチ17からのブレーキペダルON・OFF信号と、プライマリプーリ5の油圧を検出するプライマリプーリ圧センサ15からのプライマリプーリ圧信号と、セカンダリプーリ6の油圧を検出するセカンダリプーリ圧センサ16からのセカンダリプーリ圧信号と、プライマリプーリ5の回転数を検出するプライマリプーリ回転数センサ13からのプライマリ回転数信号Npriと、セカンダリプーリ6の回転数を検出するセカンダリプーリ回転数センサ14からのセカンダリ回転数信号Nsecと、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ15からのエンジン回転数Neを読み込む。尚、プライマリ回転数信号Npriは、Dレンジの場合、クラッチ4aの締結によりタービン回転数と一致することから、以下、タービン回転数Ntとも記載する。
【0011】
コントロールユニット10は、レンジ位置信号に応じたクラッチ4aの締結状態を制御する。具体的にはPレンジもしくはNレンジであればクラッチ4aは解放状態とし、Rレンジであれば前後進切替機構4が逆回転を出力するようにコントロールバルブユニット20に制御信号を出力し、後進クラッチ(もしくはブレーキ)を締結する。また、Dレンジであれば前後進切替機構4が一体回転して正回転を出力するようにコントロールバルブユニット20に制御信号を出力し、前進クラッチ4aを締結する。また、セカンダリ回転数Nsecに基づいて車速VSPを算出する。
【0012】
コントロールユニット10内には、走行状態に応じて最適な燃費状態を達成可能な変速マップが設定されている。この変速マップに基づいてAPO信号と車速VSPとに基づいて目標変速比(所定変速比に相当)を設定する。そして、目標変速比に基づいてフィードフォワード制御により制御すると共に、プライマリ回転数信号Npriとセカンダリ回転数信号Nsecとに基づいて実変速比を検出し、設定された目標変速比と実変速比とが一致するようにフィードバック制御する。具体的には、現在の車速VSPと目標変速比とから目標プライマリ回転数Npri*を算出し、タービン回転数Nt(ロックアップクラッチ2aの締結時はエンジン回転数)が目標プライマリ回転数Npri*となるように変速比を制御する。また、フィードバック制御により各プーリの油圧指令やロックアップクラッチ2aの締結圧指令をコントロールバルブユニット20に出力し、各プーリ油圧やロックアップクラッチ2aのロックアップ差圧を制御する。尚、実施例1では、コントロールバルブユニット20内に特にライン圧センサを設けておらず、ライン圧を検出する際には、後述するライン圧ソレノイドバルブ30への指令信号からライン圧を検出するが、ライン圧センサを設けてライン圧を検出してもよい。
【0013】
コントロールユニット10内には、プライマリプーリ圧センサ15及びセカンダリプーリ圧センサ16からの信号に基づいて油振を検知する油振検知部を有する。まず、プライマリプーリ圧センサ15及びセカンダリプーリ圧センサ16によって検出された電圧信号を油圧信号に変換し、バンドバスフィルタ処理によってDC成分(制御指令に応じた変動成分)を除去し、振動成分のみを抽出する。そして、振動成分の振幅を算出し、プライマリプーリ圧もしくはセカンダリプーリ圧のいずれかの振幅が所定振幅以上の状態が所定時間以上継続した場合には、油振フラグをONとする。一方、油振フラグがONの状態で、振幅が所定振幅未満の状態が所定時間以上継続した場合には、油振フラグをOFFとする。
【0014】
図2は実施例1のコントロールバルブユニット内の概略を表す油圧回路図である。エンジン1により駆動されるオイルポンプ3から吐出されたポンプ圧は油路401に吐出され、プレッシャレギュレータバルブ21によりライン圧に調圧される。油路401は各プーリ油圧の元圧として各プーリに供給される。油路401にはプライマリレギュレータバルブ26が接続され、プライマリレギュレータバルブ26によりプライマリプーリ圧に調圧される。同様に、油路401にはセカンダリレギュレータバルブ27が接続され、セカンダリレギュレータバルブ27によりセカンダリプーリ圧に調圧される。油路401から分岐した油路402にはパイロットバルブ25が設けられ、ライン圧から予め設定された第1の所定圧(請求項1の所定圧に相当)を生成してパイロット圧油路403に出力する。これにより、後述するソレノイドバルブから出力される信号圧の元圧を生成する。尚、ライン圧が第1の所定圧以下の場合には、ライン圧とパイロット圧は同じ圧力として出力される。
【0015】
プレッシャレギュレータバルブ21には油路404が接続され、クラッチレギュレータバルブ22によりクラッチ4aの締結圧に調圧される。油路405にはトルコンレギュレータバルブ23が接続され、トルコンレギュレータバルブ23によりトルクコンバータ2のコンバータ圧に調圧される。油路405から分岐した油路406にはロックアップバルブ24が接続され、ロックアップバルブ24によりロックアップクラッチ2aのロックアップ圧に調圧される。ロックアップクラッチ2aは、コンバータ圧とロックアップ圧との差圧であるロックアップ差圧によりロックアップ制御が行われる。このように、プレッシャレギュレータバルブ21の下流にクラッチレギュレータバルブ22を設け、更に下流にトルコンレギュレータバルブ23を設けることで、エンジン1から過大なトルクが入力されたとしても、ロックアップクラッチ2aのスリップやクラッチ4aのスリップによってベルト式無段変速機構CVTのベルト滑りを防止している。
【0016】
パイロット圧油路403には、ライン圧を制御するライン圧ソレノイドバルブ30と、クラッチ締結圧を制御するクラッチ圧ソレノイドバルブ31と、ロックアップ圧を制御するロックアップソレノイドバルブ32と、プライマリプーリ圧を制御するプライマリソレノイドバルブ33と、セカンダリプーリ圧を制御するセカンダリソレノイドバルブ34とを有する。各ソレノイドバルブは、コントロールユニット10から送信された制御信号に基づいてソレノイドの通電状態を制御し、パイロット圧を元圧として信号圧を各バルブに供給し、各バルブの調圧状態を制御する。
【0017】
ここで、コントロールバルブユニット20内で油振が発生した場合における課題について説明する。上述したように、コントロールバルブユニット20内には、各種バルブが設けられている。プレッシャレギュレータバルブ21は、オイルポンプ3から吐出される最も高い油圧を調圧するバルブであるため、ポンプ脈動の影響を受け易く、プレッシャレギュレータバルブ21を構成するスプール等は、バルブ径やイナーシャ等の設計諸元に従って振動し、ライン圧が振動する場合がある(以下、油振と記載する。)。また、ライン圧はアクセルペダル開度APOに応じて設定されるため、アクセルペダル開度APOが小さいときはライン圧が低く設定され、アクセルペダル開度APOが大きいときはライン圧が高く設定される。
【0018】
図3は実施例1のパイロットバルブの構成を表す概略図である。図3(a)は油圧発生前の初期状態を表し、図3(b)はパイロット圧調圧時の状態を表す。各構成を説明する際は、図3(a)に示す位置関係を用いて説明する。パイロットバルブ25は、コントロールバルブユニット内に形成されたバルブ収装孔251と、バルブ収装孔251内に収装されたスプールバルブ250と、スプールバルブ250を一方に付勢するスプリング250dとを有する。スプールバルブ250は、パイロット圧フィードバック回路255から供給された油圧を受けるフィードバック圧ランド部250a1が形成された第1スプール250aと、ライン圧ポート402aの開度を調整する第2スプール250bと、パイロット圧ポート403a及びドレンポート253aとの連通状態を制御する第3スプール250cとを有する。
【0019】
バルブ収装孔251の底面と第3スプール250cとの間にはスプリング250dが収装され、パイロット圧フィードバック回路255側に付勢している。スプリング250dは、予め設定された所定スプリングセット荷重によってスプールバルブ250を付勢している。このスプリング250dが収装されているバルブ収装孔251にはドレン回路252が接続されている。また、第1スプール250aと第2スプール250bとの間にはドレン回路254が接続され、スプールバルブ250が移動する際、第2スプール250bとバルブ収装孔251との間の空間の容積変化を許容する。このように、スプールバルブ250の両側にドレン回路が接続されることで、スプールバルブ250のスムーズな作動を確保する。
【0020】
ライン圧がパイロット圧最大値である第1の所定圧未満の場合は、スプリング250dの所定スプリングセット荷重に打ち勝つことができず、スプールバルブ250が作動することは無い。このとき、ライン圧ポート402aから直接パイロット圧ポート403aに油圧が供給されるため、ライン圧とパイロット圧は同じである。次に、ライン圧がパイロット圧最大値である第1の所定圧以上の場合は、図3(b)に示すように、スプールバルブ250が作動し始める。具体的には、パイロット圧フィードバック回路255の油圧がフィードバック圧ランド部250a1に作用することで生じる力が、所定スプリングセット荷重を上回り、スプールバルブ250が図3中の左方(スプリング250d側)に移動する。すると、第2スプール250bによってライン圧ポート402aの開口が狭くなり、オリフィス効果によってライン圧が減圧され、パイロット圧フィードバック回路255に供給される油圧も低下する。また、ライン圧が非常に高い場合には、第3スプール250cの移動によってパイロット圧ポート403aとドレンポート253aとが連通し、パイロット圧となるように供給されたライン圧をドレン回路253から大きく減圧する。このように、スプールバルブ250がフィードバック回路255から供給されるパイロット圧により作動することで、第1の所定圧を最大値とするパイロット圧として調圧する。
【0021】
図4は実施例1の無段変速機においてライン圧とパイロット圧とロックアップ圧の関係を表す特性図である。横軸にライン圧を、縦軸に油圧を記したものであり、ライン圧は線形な関係となる。尚、ロックアップクラッチ2aのスリップロックアップ制御は、コンバータ圧とロックアップ圧との差圧であるロックアップ差圧(=コンバータ圧−ロックアップ圧)によって制御されるため、コンバータ圧を元圧として調圧されるロックアップ圧に基づいて説明する。図2の油圧回路構成において説明したように、パイロット圧はライン圧を元圧として調圧された油圧であり、ロックアップ圧はライン圧よりも下流側で調圧された油圧である。ライン圧が第1の所定圧よりも高くなる領域では、ライン圧>パイロット圧>ロックアップ圧となる。仮にライン圧に油振が発生したとしても、パイロット圧への影響は少なく、ロックアップソレノイドバルブ32から出力される信号圧も影響は受けにくい。よって、コントロールバルブ内で振動する要素を少なく、結果、コントロールバルブ内の相互干渉によって油振が増大されることもない。
【0022】
一方、ライン圧が第1の所定圧以下の領域では、ライン圧=パイロット圧>ロックアップ圧となる。このとき、ライン圧に油振が発生すると、パイロット圧も一緒に振動してしまう。また、コンバータ圧は、ライン圧よりも低いためコンバータ圧自体は影響を受けないが、コンバータ圧を調圧してロックアップ圧に調圧するロックアップソレノイドバルブ32は、振動したパイロット圧の影響を受ける。よって、ロックアップソレノイドバルブ32から吐出される信号圧もパイロット圧の振動に影響されてしまい、ロックアップ圧を制御する際に油振の影響を受ける。このように、ライン圧が第1の所定圧以下の領域で、ライン圧に油振が生じると、コントロールバルブ内で振動する要素が増え、結果、コントロールバルブ内の相互干渉によって油振が増大されてしまう。
【0023】
ここで、学習制御について説明する。実施例1の無段変速機の制御装置では、ロックアップクラッチ2aの締結制御を適正に行うべく、ロックアップソレノイドバルブ32に出力する信号(例えばロックアップ指示圧信号、以下D(n)と記載する。)に対する締結開始タイミングを学習制御している。具体的には、車両が停車中であって、Dレンジが選択されているときにロックアップクラッチ2aにロックアップ指示圧信号D(n)をD1ずつ大きくしてロックアップ差圧を増大させる。そして、エンジン回転数が引き込まれたときのロックアップ指示圧信号D(n)を検知し、ロックアップクラッチ2aの締結開始タイミングに一致するロックアップ指示圧信号D(n)を記憶することで学習制御を行う。
【0024】
このとき、油振によりロックアップ差圧が振動すると、油振が無い場合に検知できる締結開始タイミングと異なるタイミングのロックアップ指示圧信号D(n)を記憶してしまい、学習制御の精度が低下するおそれがあった。また、エンジン回転数の低下を安定的に把握するように所定時間をかけて判定したとしても、その間にエンジン1から駆動輪に向けて振動的なトルク伝達が生じるおそれがある。車両が停車中であっても、エンジン1と駆動輪との間のトルクの断接は、サスペンションの変動等を招き、運転者にとって加速度振動に伴う違和感を生じるおそれもある。そこで、実施例1では、油振が生じているときには、学習制御を禁止する構成とした。
【0025】
図5は実施例1の学習制御処理を表すフローチャートである。ここで、学習フラグとは、今回の停車中に学習制御を実行したか否かを表すものである。学習制御開始前であれば学習フラグをONとし、学習制御終了後であれば今回の停車中ではOFFとする。また、学習許可フラグとは、学習制御を許可もしくは禁止を表すフラグであり、ONであれば学習制御を許可し、OFFであれば学習制御を禁止する。イグニッションONの起動時には、学習フラグ及び学習許可フラグは共にONにセットされている。
【0026】
(学習制御開始判断処理)
ステップS1では、車両が停車中か否かを判断し、停車中と判断したときはステップS2に進み、走行中のときはステップS16に進む。
ステップS2では、Dレンジが否かを判断し、DレンジのときはステップS3に進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。動力伝達可能状態でなければ、ロックアップクラッチ2aの締結によるエンジン回転数の引き込みを検知できないからである。
ステップS3では、学習フラグがONか否かを判断し、学習フラグがONのときはステップS4に進み、学習フラグがOFFのときは本制御フローを終了する。
ステップS4では、油振フラグがONか否かを判断し、ONのときは学習制御をすべきでないと判断してステップS5に進み、OFFのときは学習制御を行うためにステップS9に進む。
【0027】
(油振発生時の処理)
ステップS5では、ライン圧上昇制御を行う。具体的には、ライン圧を第1の所定圧より高い第2の所定圧に設定する。この第2の所定圧は、第1の所定圧に、予め実験等で得られた油振の振幅を考慮した第3の所定圧を加算した値を用いる。これにより、油振がパイロット圧へ与える影響をより排除しながら、過剰にライン圧を高くすることなく、エネルギーの消費を抑制することができるが、第1の所定圧でもよい。また、ライン圧の振幅を検知し、この振幅に応じて第2の所定圧を設定してもよい。例えば、振幅しているライン圧の最低値を検知して、その最低値が第1の所定圧を下回らないように第2の所定圧を設定する。
ステップS6では、予め設定された所定時間が経過したか否かを判断し、所定時間が経過するまでライン圧上昇制御を継続し、所定時間が経過したときはステップS7に進む。
【0028】
(学習制御禁止判断)
ステップS7では、再度油振フラグがONか否かを判断し、ONのときは、ライン圧を上昇させても油振が抑制できないと判断し、ステップS8に進んで学習許可フラグをOFFにセットする。これにより、今回の停車中での学習制御を禁止することで、精度の悪い学習制御を回避する。一方、油振フラグがOFFのときはステップS17に進んで学習許可フラグをONにセットすると共にS18に進んで学習フラグをONにセットする。
ステップS9では、学習許可フラグがONか否かを判断し、ONのときはステップS10に進み、OFFのときは本制御フローを終了する。
【0029】
(学習制御)
ステップS10では、ロックアップソレノイドバルブ32にクラッチ締結開始タイミングを検知するためのロックアップ指示圧信号D(n)として、前回のロックアップ指示圧信号D(n-1)に所定値D1を加算した値を出力する。
ステップS11では、エンジン回転数Neの引き込みが有るか否かを判断し、引き込みありと判断したときは締結開始タイミングに到達したと判断してステップS12に進み、それ以外のときはステップS15に進む。尚、エンジン回転数Neの引き込みの有無は、例えばエンジン回転数Neの変化率を算出すると共に、車両が停車中の平均となる基準エンジン回転数を算出し、変化率が負の所定値未満となり、かつ、実エンジン回転数が基準エンジン回転数より所定回転数以上低下した場合に、引き込み有りと判断する。尚、エンジン回転数Neのみ、もしくは変化率のみで判断してもよく、特に限定しない。
【0030】
ステップS12では、エンジン回転数Neの引き込み時におけるロックアップ指示圧信号D(n)を記憶する。これにより、例えば走行中にロックアップクラッチ2aの締結制御を行う際には、記憶されたロックアップ指示圧信号D(n)を締結開始タイミングとして制御を実施し、精度の高いロックアップ制御を実現する。
ステップS13では、通常のライン圧制御を実施する。尚、ステップS5でライン圧上昇制御を行っている状態でステップS14に到達した場合は、ライン圧上昇制御から通常のライン圧制御に切り換えることとなる。
ステップS14では、学習フラグをOFFとし、今回の停車中における学習を禁止する。これにより、停車中に何度も学習制御が行われることに伴う違和感や、無駄なエネルギー消費を回避する。
【0031】
(学習制御中の油振による禁止)
ステップS15では、学習制御中に、再度油振フラグがONか否かを判断し、ONのときはステップS8に進んで学習許可フラグをOFFとするとともに、学習制御を禁止する。締結開始タイミング到達前に油振を検知できれば、締結開始タイミング付近での油振に伴う違和感を回避できるからである。尚、学習許可フラグがOFFとなると、今回の停車中における学習制御は禁止されるため、油振に伴う違和感を回避できる。
【0032】
(今回の停車中から脱した場合のフラグ処理)
ステップS16では、車速VSPが車両の発進を表す所定車速VSP0以上か否かを判断し、VSP0以上のときは車両が発進したとしてステップS17及びS18に進み、学習許可フラグをON、学習フラグをONにセットする。それ以外のときは、車両が停車中であると判断して本制御フローを終了する。
【0033】
すなわち、油振が発生しているときは、学習制御を禁止することで、安定した学習制御を実現しつつ、運転者に与える違和感を回避できる。また、油振発生時であっても、ライン圧を上昇させて油振の抑制を試み、油振が抑制されれば学習制御を許可することで、学習機会を確保できる。
【0034】
以上説明したように、実施例にあっては下記に列挙する作用効果が得られる。
(1)プライマリプーリ5とセカンダリプーリ6の間にベルト7を巻装して動力をタイヤ8に伝達するベルト式無段変速機構CVTにおいて、
エンジン1(動力源)と駆動輪との間の動力伝達を断接可能なロックアップクラッチ2a(締結要素)と、
制御指令値に対するロックアップクラッチ2aの締結状態を学習制御するステップS10,S11及びS12(学習制御手段)と、
油振を検知する油振検知部(油振検知手段)と、
油振検知部により油振が検知されたときは、学習制御を禁止するステップS4及びS8(学習制御禁止手段)を備えた。
よって、油振を検知したときは、ロックアップクラッチ2aの学習制御が禁止されるため、学習制御中の振動的な締結に伴う違和感を回避できる。また、油振中の信頼性の低い学習値を使用することがなく、適切な学習制御を実行できる。
【0035】
(2)ステップS15では、学習制御中に油振フラグがONとなったときは、学習制御を中止することとした。
締結開始タイミング到達前に油振を検知することで、締結開始タイミング付近での油振に伴う違和感を回避できる。尚、学習許可フラグがOFFとなると、今回の停車中における学習制御は禁止されるため、油振に伴う違和感を回避できる。
【0036】
(3)ライン圧を生成するオイルポンプ3及びプレッシャレギュレータバルブ21(ライン圧生成手段)と、
ライン圧が第1の所定圧を超えるときに第1の所定圧を超えないように調圧したパイロット圧を供給するパイロットバルブ25と、
パイロット圧によりソレノイドバルブを制御してプーリ油圧を生成するコントロールユニット10(制御手段)と、
を有し、
コントロールユニット10は、ステップS4により油振を検知したときは、ステップS5においてライン圧を第1の所定圧よりも高くなるように上昇させ、ステップS7において該ライン圧の上昇により油振が検知されないときは、ステップS17において学習制御の禁止を解除することとした。
よって、油振を検知したときは、ライン圧を第1の所定圧より高くすることで油振の抑制を試みることで、学習機会を増大できる。また、ライン圧の上昇により油振フラグがOFFとなれば、再度学習制御を確保できるため、学習制御の信頼性の低下を抑制できる。
【0037】
(4)締結要素は、エンジン1とベルト式無段変速機CVTとの間に設けられたトルクコンバータ2のロックアップクラッチ2aであり、
ステップS1に示すように、学習制御は車両の停車中に実行する制御であり、
コントロールユニット10は、ステップS5においてライン圧を第1の所定圧より高く上昇させ、ステップS6において所定時間経過後も、ステップS7において油振フラグがONと判断されたときは、学習許可フラグをOFFにセットすることで、当該停車中の学習制御を禁止することとした。
よって、油振が抑制できないときは、ロックアップクラッチ2aの学習制御を行わないため、学習制御の信頼性の低下を抑制できる。
【0038】
(5)ステップS16において、車速VSPが走行状態を表す所定車速VSP0以上となったときは、ステップS17及びS18において、学習許可フラグ及び学習フラグをONとすることで、学習制御の禁止を解除することとした。
停車状態から走行状態へ移行すると、学習制御の禁止が解除されるため、次回に車両が停車した場合には、再び学習制御を実施することができ、学習制御の機会を確保することができる。
【0039】
以上、実施例に基づいて本発明を説明したが、上記構成に限らず他の構成であっても本発明に含まれる。例えば、実施例1では、車両停車中のロックアップクラッチの締結開始タイミングを学習する制御に本発明を適用したが、締結要素であれば他のクラッチ等の学習制御に適用してもよい。また、走行中のロックアップクラッチの学習制御に本発明を適用してもよい。尚、走行中に学習制御を行う場合は以下の点を考慮することが望ましい。
【0040】
図6はライン圧が第1の所定圧よりも低い状態でロックアップクラッチを締結して走行したときに油振が発生した場合のタイムチャートである。図6中の太い実線はタイヤ回転一次振動数、細い実線はパワートレーンPTの固有振動数、太い点線は油振振動数、一点鎖線はベルト式無段変速機構CVTが最High側のときのパワートレーンPTの固有振動数、二点鎖線はベルト式無段変速機構CVTが最Low側のときのパワートレーンPTの固有振動数を表す。ここで、タイヤ回転一次振動数とは、タイヤ8が回転する際に生じる回転振動のうち乗員に認識されやすい一次振動数を表す。また、パワートレーンPTの固有振動数とは、パワートレーンPTがシャフト等を介して動力をタイヤ8に伝達する弾性系の捩じり固有振動数を表す。尚、この固有振動数は、ベルト式無段変速機構CVTがHigh側であれば高振動数側に変化し、Low側であれば低振動数側に変化することを表す。
【0041】
図6に示すように、ライン圧の振動がパイロット圧に影響し、コントロールバルブ内の油振振動数(例えば、ライン圧振動数)とタイヤ回転一次振動数やパワートレーンPTの固有振動数と共振する場合があり、車両の前後加速度振動が増幅されるおそれがあった。そこで、実施例1では、油振フラグがON、ライン圧が第1の所定圧以下、かつ、各種振動の共振が発生する恐れがある場面では、ライン圧を上昇させることとした。
【0042】
図6に示すように、ライン圧の油振振動数(図6ではCVT油振振動数と表記)とパワートレーンPTの固有振動数との交点をx1(第2走行状態)、油振振動数とタイヤ回転一次振動数との交点をx2(第1走行状態)、パワートレーンPTの固有振動数とタイヤ回転一次振動数との交点をx3(第3走行状態)、タイヤ回転一次振動数と最Low時固有振動数との交点をx4、タイヤ回転一次振動数と最High時固有振動数との交点をx5とする。尚、これら各種振動数は、それぞれの設計諸元(プレッシャレギュレータバルブの設計諸元、ポンプ特性、パワートレーンPTの設計諸元、タイヤ径等)によって決まる値である。
【0043】
図6の前後加速度Gの振動状態に示すように、車両が発進して徐々に加速する際、ベルト式無段変速機構CVTの変速比は車速VSPとアクセルペダル開度APOとに基づいて最LowからHigh側に向けてアップシフトする。このアップシフトに伴ってパワートレーンPTの固有振動数が増大し、車速VSPの上昇に伴ってタイヤ回転一次振動数も増大する。その後、ロックアップクラッチ2aが締結してから油振の影響によって前後加速度Gが振動しはじめる。
時刻t1において、交点x1付近ではパワートレーンPTの固有振動数と油振振動数とが共振しやすく、前後加速度振動が生じやすい。
また、時刻t2において、交点x2付近ではタイヤ回転一次振動数と油振振動数とが共振しやすく、また、パワートレーンPTの固有振動数も近接していることから、それぞれが共振しやすい。
また、時刻t3において、交点x3付近ではタイヤ回転一次振動数とパワートレーンPTの固有振動数とが共振しやすく、その影響で油振振動数とも共振が起きるおそれがある。
【0044】
図7はライン圧が第1の所定圧よりも低い状態で油振が発生したときに、パワートレーンPTの固有振動数とタイヤ回転一次振動数とが共振する領域を示す特性図である。図7に示すように、車速VSPがVSP1からVSP2によって規定される領域や、目標プライマリ回転数Npri*がN1からN2に規定される領域において、交点x1付近や交点x2付近の共振領域が存在することを発見した。
【0045】
よって、このような共振を誘発するような交点x1、x2、x3を持つ走行状態を、目標プライマリ回転数Npri*と車速VSPの領域によって特定し、油振を検知しているときであって、上記目標プライマリ回転数Npri*や車速VSPとなる領域では、走行中の学習制御を禁止してもよい。また、ライン圧を第1の所定圧より高い所定圧に上昇させて油振の解消を試みることで、学習機会を確保することとしてもよい。これにより、ライン圧に油振が発生した状態での学習制御を回避でき、学習制御の精度を確保できる。また、ライン圧を第1の所定圧より高くして学習制御する場合は、コントロールバルブ内で相互干渉して油振を増幅することを排除でき、他の振動成分との共振を抑制できる。尚、走行状態を目標プライマリ回転数Npri*や車速VSPに基づいて決定するにあたっては、例えば、交点x4と交点x5を含む走行状態に基づいて決定してもよい。交点x4、x5は、設計諸元によって決定でき、パワートレーンPTの固有振動数とタイヤ回転一次振動数とが共振するおそれがある領域の全てをカバーできる。そして、油振振動数とパワートレーンPTの固有振動数やタイヤ回転一次振動数との関係で共振を引き起こすのは、この交点x4、x5を含む領域と言えるからである。
【0046】
このように、油振フラグON時であって、ライン圧が所定パイロット圧よりも低いときに、交点x1、x2、x3が含まれると考えられる走行状態では、ライン圧を上昇させることで油振の影響を排除することができる。これにより、タイヤ回転一次振動数やパワートレーンPTの固有振動数との共振を抑制することが可能となり、安定した学習制御を実現できる。
【0047】
また、実施例1ではロックアップクラッチの学習制御に本発明を適用したが、発進クラッチのような走行中に締結する締結要素や、有段式自動変速機の変速用の締結要素における学習制御に適用してもよい。この場合、走行中での学習制御を行う場合も、上述の共振領域を考慮して実施することが望ましい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7