【実施例】
【0009】
図1は実施例の無段変速機の制御装置の構成を表すシステム図である。ベルト式無段変速機(以下、「CVT」という。)1は、トルク伝達部材であるプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3が両者のV溝が整列するよう配設され、これらプーリ2,3のV溝にはベルト4が掛け渡されている。プライマリプーリ2と同軸にエンジン5が配置され、エンジン5とプライマリプーリ2の間には、エンジン5の側から順に、ロックアップクラッチ6cを備えたトルクコンバータ6、前後進切換え機構7が設けられている。
【0010】
前後進切換え機構7は、ダブルピニオン遊星歯車組7aを主たる構成要素とし、そのサンギヤはトルクコンバータ6を介してエンジン5に結合され、キャリアはプライマリプーリ2に結合される。前後進切換え機構7は、さらに、ダブルピニオン遊星歯車組7aのサンギヤおよびキャリア間を直結する前進クラッチ7b、およびリングギヤを固定する後進ブレーキ7cを備える。そして、前進クラッチ7bの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転がそのままプライマリプーリ2に伝達され、後進ブレーキ7cの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転が逆転され、プライマリプーリ2へと伝達される。
【0011】
プライマリプーリ2の回転はベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転は、出力軸8、歯車組9およびディファレンシャルギヤ装置10を経て図示しない駆動輪へと伝達される。上記の動力伝達中にプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間の変速比を変更可能にするために、プライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3のV溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a,3aとし、他方の円錐板2b,3bを軸線方向へ変位可能な可動円錐板としている。これら可動円錐板2b,3bは、ライン圧を元圧として作り出したプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecをプライマリプーリ室2cおよびセカンダリプーリ室3cに供給することにより固定円錐板2a,3aに向けて付勢され、これによりベルト4を円錐板に摩擦係合させてプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間での動力伝達を行う。変速に際しては、目標変速比に対応させて発生させたプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psec間の差圧により両プーリ2,3のV溝の幅を変化させ、プーリ2,3に対するベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることで目標変速比を実現する。
【0012】
プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecは、前進走行レンジの選択時に締結する前進クラッチ7b、および後進走行レンジの選択時に締結する後進ブレーキ7cの締結油圧と共に、変速制御油圧回路11によって制御される。変速制御油圧回路11は変速機コントローラ12からの信号に応答して制御を行う。
変速機コントローラ12(以下、CVTCU12)には、プライマリプーリ2の回転速度Npriを検出するプライマリプーリ回転センサ13からの信号と、セカンダリプーリ3の回転速度Nsecを検出するセカンダリプーリ回転センサ14からの信号と、セカンダリプーリ圧Psecを検出するセカンダリプーリ圧センサ15からの信号と、アクセルペダルの操作量APOを検出するアクセル操作量センサ16からの信号と、セレクトレバー位置を検出するインヒビタスイッチ17からの選択レンジ信号と、CVT1の作動油温TMPを検出する油温センサ18からの信号と、エンジン5を制御するエンジンコントローラ19(以下、ECU19と記載する。)からの入力トルクTpに関連する信号(推定エンジントルクTeng,エンジン回転速度及び燃料噴射時間等)と、各輪の車輪速度を検出する車輪速センサ21からの信号と、が入力される。
【0013】
図2は実施例の変速比制御を表す制御ブロック図である。実施例のCVT1は、プライマリプーリ圧Ppri及びセカンダリプーリ圧Psecを制御する際、個別に調圧可能なソレノイドバルブを有し、CVTCU12からの指令信号に基づいて調圧し、所望の変速比を達成する。ECU19は、エンジントルクを推定するエンジントルク推定部19aを有する。エンジントルク推定部19aは、推定エンジントルクTengをCVTCU12に出力する。CVTCU12には、推定エンジントルクTengに基づいて目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を算出するセカンダリプーリ圧算出部12aを有する。具体的には推定エンジントルクTengに応じた第1目標セカンダリプーリ圧Pstengを算出し、後述するセカンダリプーリ圧安定化制御を施した後の値を目標セカンダリプーリ圧Ps(n)として出力する。尚、Ps(n)のnは今回の制御周期の値であることを表す。
【0014】
また、推定エンジントルクTengに基づいて目標変速比を達成するためのプライマリプーリ圧Ppriとセカンダリプーリ圧Psecとの比(以下、バランス推力比x1と記載する。)を算出するバランス推力比算出部12bを有する。また、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)とバランス推力比x1とに基づいて目標プライマリプーリ圧Ppri*を算出する。また、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)と目標プライマリプーリ圧Ppri*とに基づいてコントロールバルブ内の変速制御油圧回路11のソレノイドに対して指令信号を出力する油圧指令部12dを有する。
【0015】
実施例の車両には、運転者のアクセルペダル操作によらず、運転者によって設定された一定車速を自動的に維持するオートクルーズ制御(以下、Auto Speed Control Deviceの略称としてASCDと記載する。)を行うクルーズコントローラ30を備える。運転者が一定車速での走行を希望し、目標車速を設定すると、クルーズコントローラ30において車速偏差に応じた所望の要求駆動力が出力される。この要求駆動力を達成するために、実変速比に基づいて目標エンジントルクと目標変速比とが算出され、ECU19及びCVTCU12に出力される。これにより、所望の車速を達成する。
【0016】
(ASCD時における変速比制御について)
上述のように、CVTCU12では、推定エンジントルクTengに基づいて目標セカンダリプーリ圧Ps(n)とバランス推力比x1とを設定し、更にバランス推力比x1と目標セカンダリプーリ圧Ps(n)とに基づいて目標プライマリプーリ圧Ppri*を設定する。
ここで、実変速比が振動する場合、この実変速比の振動に伴ってエンジントルクも振動的になる。
図5は従来の車両において、ASCD中の各パラメータの変化を表すタイムチャートである。ASCD中は車速を設定車速に維持するために要求駆動力(例えばスロットル開度)が変動しやすい。例えば、
図5中の時刻t1,t2,t3に示すように、要求駆動力の変化に伴ってスロットル開度は大きく変動する。このような変動後にあっては、プライマリプーリ圧やセカンダリプーリ圧が振動し、それに伴い実変速比も振動する。また、実変速比をフィードバックしているためエンジントルクTengも振動していることが分かる。エンジントルクTengが振動すると、実変速比も振動的となり、その振動が更にエンジントルクTengに反映されることで、制御系全体で振動的となる。
【0017】
仮に、推定エンジントルクTengの振動を抑制するために、推定エンジントルクTengの振幅の上側頂点や下側頂点をとった緩やかな値に基づいて制御を行い、振動を抑制することも考えられる。しかし、エンジン5は正トルクを出力する状態と、エンジンブレーキのような負トルクを出力する状態とが切り替わる場面があるため、推定エンジントルクTengが実エンジントルクよりも低めに算出される場合がある。そうすると、セカンダリプーリ圧Psecも低めに出力されてしまい、ベルト滑りを招く恐れがある。セカンダリプーリ圧はクランプ力を保証する圧力だからである。また、目標プライマリプーリ圧Ppri*を算出する際に振動を抑制することも考えらえるが、推定エンジントルクTengに基づいて算出される目標セカンダリプーリ圧Ps(n)は振動したままであり、十分に振動を抑制できるとはいえない。
【0018】
そこで、上記実施例では、セカンダリプーリ圧算出部12aにおいて、ASCD中は、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を出力する際に振動を抑制する目標セカンダリプーリ圧の安定化処理を行うこととした。これにより、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)の振動を抑制できる。
また、目標プライマリプーリ圧Ppri*を算出する際に目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を使用する。このとき、振動が抑制された目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を使用して目標プライマリプーリ圧Ppri*を算出することで、制御系の安定化を図ることができる。
【0019】
図3は、実施例のセカンダリプーリ圧制御処理を表すフローチャートである。以下、第1目標セカンダリプーリ圧をPsteng、目標セカンダリプーリ圧をPs(n)と記載する。
ステップS1では、クルーズコントロール(ASCD)中か否かを判断し、ASCD中の時はステップS2に進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。ASCD中は実変速比に基づいてエンジントルクが制御されるため、制御系が振動しやすい環境にあると考えられるからである。
【0020】
(目標セカンダリプーリ圧Ps(n)の安定化処理)
ステップS2では、前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)が今回の制御周期における第1目標セカンダリプーリ圧Psteng以下か否かを判断し、第1目標セカンダリプーリ圧Psteng以下のときはステップS3へ進み、それ以外のときはステップS4へ進む。
ステップS3では、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を第1目標セカンダリプーリ圧Pstengに設定する。言い換えると、今回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n)は、推定エンジントルクTengに応じて算出された値である。
ステップS4では、前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)が第1目標セカンダリプーリ圧Pstengに所定オフセット量P0を加算したオフセット値(Psteng+P0)以上か否かを判断し、オフセット値(Psteng+P0)以上のときはステップS5に進み、オフセット値(Psteng+P0)未満のときはステップS6に進む。なお、所定オフセット量P0は、ゼロ以上(P0≧0)に設定される。
ステップS5では、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)をオフセット値(Psteng+P0)に設定する。言い換えると、今回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n)は、オフセット値(Psteng+P0)が減少する際にオフセット値(Psteng+P0)に沿って減少する。
ステップS6では、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を前回の制御周期におけるPs(n-1)に設定する。言い換えると、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を維持する。
【0021】
つまり、ステップS3に進んだ場合には、前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)に対して今回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n)は上昇する。ステップS5に進んだ場合には、前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)に対して今回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n)は下降する。ステップS6に進んだ場合には、前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)に対して今回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n)が維持される。これにより、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)の安定化が図られる。
【0022】
具体的には、前回の状態に比べ入力トルクが上昇する場合には、その上昇に合わせて目標セカンダリプーリ圧Ps(n)は上昇してベルトが滑るのを防止する。一方、前回の状態に比べ入力トルクが下降し、且つ、その下降量があまり大きくない場合、具体的には、下降量が予め設定されたオフセット量P0より小さい場合には、入力トルクが下降しても目標セカンダリプーリ圧Ps(n)は前回の値に対して変化することなく維持される。そして、前回の状態に比べ入力トルクが大きく下降した場合、具体的には、下降量が予め設定されたオフセット量P0以上の場合には、オフセット量P0が加算されるものの入力トルクの下降に応じて目標セカンダリプーリ圧Ps(n)が低減され、入力トルクに対して過剰に目標セカンダリプーリ圧Ps(n)が高い状態を回避して効率が低下することを防止できる。
【0023】
(目標セカンダリプーリ圧Ps(n)の低減処理)
図3のフローチャートは、さらに、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)の低減制御を含んでいる。ステップS7では、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)と第1目標セカンダリプーリ圧Pstengとの差(Ps(n)−Psteng)が予め設定された第1所定値以上か否かを判断し、第1所定値以上のときはステップS8に進む。一方、第1所定値未満の場合はステップS12に進んで後述するタイマTIMをリセットする。ここで、第1所定値は、所定オフセット量P0よりも小さく、更に好ましくはP0の半分以下である。これにより、オフセット値に近い値を安定的に維持しているか否かを精度よく判定できる。なお、第1所定値は、ゼロ以上(第1所定値≧0)に設定される。
ステップS8では、タイマTIMのカウントアップを行う。
ステップS9では、タイマTIMが予め設定された所定タイマ値T1以上か否かを判断し、所定タイマ値T1以上のときは安定してオフセット値に近い値を維持していたと判断してステップS10に進む。所定タイマ値T1未満のときは本制御フローを終了し、ステップS1からS6における処理を繰り返し行う。
【0024】
ステップS10では、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)として、前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)から所定量P1を減算した値に設定する。これにより、所定勾配で徐々に目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を低下させることができる。目標セカンダリプーリ圧Ps(n)が低くなることは、必要なライン圧が低くなることを意味し、燃費向上に有利である。
ステップS11では、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)と第1目標セカンダリプーリ圧Pstengとの差分が第2所定値未満か否かを判断し、第2所定値未満のときはステップS12に進み、それ以外はステップS10に戻り継続して目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を低下させる。尚、第2所定値は、第1所定値よりも小さな値であり、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)がほぼ第1目標セカンダリプーリ圧Pstengに一致するような値(0以上であればよく、0でもよい)である。これにより、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)をオフセット値(Psteng+P0)よりも低い第1目標セカンダリプーリ圧Psteng相当の値とすることができ、必要なライン圧が低くなることで燃費向上に有利である。
【0025】
ステップS12では、タイマTIMをリセットする。ステップS7でNOの判断となりステップS12へと進んだ場合は、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)と第1目標セカンダリプーリ圧Pstengとが比較的近似していることを意味する。ステップS11からステップS12へと進んだ場合は、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)がオフセット値に近い値から第1目標セカンダリプーリ圧Pstengに近い値へと低下が終了したことを意味する。これにより、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)と第1目標セカンダリプーリ圧Pstengとの差分が第2所定値未満に到達するまで、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を安定した形で低下させる処理が終了する。なお、タイマTIMのリセット後は、再度ステップS1からS6へと制御フローが進む。
【0026】
(目標セカンダリプーリ圧Ps(n)の安定化処理について)
図4は実施例のセカンダリプーリ圧安定化制御処理により目標セカンダリプーリ圧を安定化する状態を表すタイムチャートである。
図4中の点線が第1目標セカンダリプーリ圧Pstengであり、1点鎖線がオフセット値(Psteng+P0)であり、実線が目標セカンダリプーリ圧Ps(n)である。
時刻t1において、第1目標セカンダリプーリ圧Pstengが上昇すると、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)は第1目標セカンダリプーリ圧Pstengとして出力されるため、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)は第1目標セカンダリプーリ圧Pstengに沿って上昇する。
時刻t2において、第1目標セカンダリプーリ圧Pstengが前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)より低下したため、この場合は目標セカンダリプーリ圧Ps(n)として前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)が出力される。よって、第1目標セカンダリプーリ圧Pstengが振動しても目標セカンダリプーリ圧Ps(n)の振動を抑制する。
【0027】
時刻t3において、第1目標セカンダリプーリ圧Pstengは下降していくものの、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)は前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)が維持されている。ここで、時刻t4において目標セカンダリプーリ圧Ps(n)と第1目標セカンダリプーリ圧Pstengとの差分が第1所定値以上となるため、タイマTIMのカウントアップが開始される。そして時刻t5において、オフセット値(Psteng+P0)と合致すると、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)はオフセット値(Psteng+P0)に沿って下降していく。
時刻t6において、オフセット値(Psteng+P0)が前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)よりも上昇したため、この場合は目標セカンダリプーリ圧Ps(n)として前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)が出力される。よって、第1目標セカンダリプーリ圧Pstengが振動しても目標セカンダリプーリ圧Ps(n)の振動を抑制する。
時刻t7において、時刻t4からのタイマカウント値が所定時間T1に到達すると、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を第1目標セカンダリプーリ圧Pstengに向けて徐々に低下させる。これにより燃費の向上を図る。
時刻t8において、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)と第1目標セカンダリプーリ圧Pstengとの差分が第2所定値未満となるため、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)として前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)が出力される。時刻t8以降も同様に処理されるため、第1目標セカンダリプーリ圧Pstengの振動に対して安定した目標セカンダリプーリ圧Ps(n)が出力され、かつ、第1目標セカンダリプーリ圧Pstengに近い値で目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を設定できる。
【0028】
このように、上記実施例では、前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)と第1目標セカンダリプーリ圧Pstengとのセレクトハイを目標セカンダリプーリ圧Ps(n)とすることで、第1目標セカンダリプーリ圧Pstengの特に低下する側への振動を抑制する。また、オフセット値(Psteng+P0)を設定し、前回の制御周期における目標セカンダリプーリ圧Ps(n-1)とオフセット値(Psteng+P0)とのセレクトローを目標セカンダリプーリ圧Ps(n)とすることで、第1目標セカンダリプーリ圧Pstengの特に上昇する側への振動を抑制する。従って、第1目標セカンダリプーリ圧Pstengとオフセット値(Psteng+P0)との間で振動を抑制した目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を設定することが可能となり、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)の振動を抑制することができる。
また、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)がオフセット値(Psteng+P0)に近い位置で推移している場合には、目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を第1目標セカンダリプーリ圧Psteng側に低下させることで、安定的かつ低い目標セカンダリプーリ圧Ps(n)を使用することができ、燃費を向上できる。
また、セカンダリプーリ圧PsecはCVT1のクランプ力を保証する値である。よって、第1目標セカンダリプーリ圧Psteng以上の領域で目標セカンダリプーリ圧Ps(n)の安定化を図ることでベルト滑りを抑制しつつ振動を抑制できる。
【0029】
図6は、上記実施例において、ASCD中の各パラメータの変化を表すタイムチャートである。
図5に示した従来のタイムチャートに比べて、スロットル開度が大きく変化した直後であっても大幅に振動の振幅が抑制され、安定的な変速比制御が実現されていることが分かる。また、安定的なエンジン制御や変速比制御を実現しているため、車速自体の変動も抑制されており、運転者に与える違和感を回避できていることが分かる。
【0030】
以上説明したように、上記実施例にあっては下記に列挙する作用効果が得られる。
(1)エンジン5の出力トルクが入力されるプライマリプーリ2と、セカンダリプーリ3と、両プーリ2,3に架け渡されたベルト4とを有し、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3のプーリ圧を制御することで所望の変速比を達成する無段変速機の制御装置において、
エンジン5の出力トルク(以下、Teng)に基づいて第1目標セカンダリプーリ圧(以下、Psteng)を算出し、該Pstengに所定オフセット量P0を加算したオフセット値(Psteng+P0)を算出し、前回制御周期における目標セカンダリプーリ圧(以下、Ps(n-1))がPsteng以下のときはPstengを目標セカンダリプーリ圧(以下、Ps(n))として出力し、Ps(n-1)がオフセット値(Psteng+P0)以上のときはオフセット値(Psteng+P0)をPs(n)として出力し、それ以外のときはPs(n-1)をPs(n)として出力するステップS2〜S6(目標セカンダリプーリ圧安定化制御を行うセカンダリプーリ圧制御手段)を備えた。
よって、Pstengとオフセット値(Psteng+P0)との間で振動を抑制したPs(n)を設定することが可能となり、Ps(n)の振動を抑制できる。これにより、実変速比を安定的に制御できる。
【0031】
(2)ステップS2〜S11(セカンダリプーリ圧制御手段)は、無段変速機の実変速比に基づいてエンジン5の出力トルクを制御する走行制御時に実行する。
よって、実変速比が振動するとTengも振動しやすくなる制御系にあっても、実変速比の振動を抑制することで制御系全体の安定化を図ることができる。
【0032】
(3)走行制御は、設定された車速を維持するように走行するオートクルーズ制御である。
よって、制御系の振動を抑制しつつ、車速を安定的に維持できる。
【0033】
(4)ステップS7〜S10(セカンダリプーリ圧制御手段)は、Ps(n)とPstengとの差が第1所定値以上のときは、S2〜S6(目標セカンダリプーリ圧安定化制御)からPs(n)を低下させるステップS10(目標セカンダリプーリ圧低減制御)に切り換える。
これにより、Ps(n)を低下させることができ、必要なライン圧が低くなることで燃費を改善できる。
【0034】
(5)ステップS11(セカンダリプーリ圧制御手段)は、ステップS7〜S10でPs(n)を低減中にPs(n)とPstengとの差が第1所定値よりも小さな第2所定値以下となったときは、ステップS7〜S10(目標セカンダリプーリ圧低下制御)からステップS2〜S6(目標セカンダリプーリ圧安定化制御)に切り換える。
よって、Pstengとオフセット値との間でも、より低めの値で振動を抑制したPs(n)を設定することが可能となり、Ps(n)の振動を抑制しつつ燃費を改善することができる。
【0035】
以上、本発明を一実施例に基づいて説明したが、上記構成に限らず本発明を適用できる。上記実施例では目標セカンダリプーリ圧の安定化処理を、実変速比に基づいてエンジントルクを制御するオートクルーズ制御中に適用した例を示したが、他の制御中に適用してもよい。例えば、エンジン運転状態に応じて過給圧をフィードバック制御する過給圧フィードバック制御を行う場合や、エンジントルクを用いて車体のピッチ運動やバウンス振動を抑制する車体制振制御を行う場合のように、実変速比以外の要素によってエンジントルクを制御する場合にも適用できる。例えば、車体制振制御にあっては、エンジントルク自体は振動的に制御することが好ましく、その振動的なエンジントルクを駆動輪に伝達することが好ましい。この場合、変速比が安定しているため、より精度の高い制振制御トルクを駆動輪に伝達できる。