【文献】
榛葉俊一 外5名,ストレスと自律神経,精神医学,日本,株式会社医学書院,2007年11月15日,第49巻第11号,pp.1173-1181
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記LFは、拍動間隔を周波数スペクトル変換して二乗して得たパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、前記HFは、拍動間隔を周波数スペクトル変換して二乗して得たパワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値である請求項1に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に記載されている発明は、統計的手法を用いて生体情報を正しく評価する方法であり、うつ状態の判定に特化した解析方法ではなかった。また、非特許文献2に記載された光トポグラフィ装置を用いた検査方法は、検査が可能な医療機関が限られており、誰もが容易に実施可能な検査方法ではなかった。
そこで本発明は、容易にかつ高い精度でうつ状態を判定できるうつ状態判定方法及びうつ状態判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、簡単に測定可能な生体情報を用いてうつ状態を判定できる方法を開発できないかと考え、まずうつ状態患者の症状に着目した。うつ状態患者は健常者と比較して、刺激・興奮状態を示す交感神経系とリラックス状態を示す副交感神経系からなる自律神経の働きが乱れることが知られているが、これらのデータは心拍や脈拍の間隔を測定することにより簡単に得られるものである。次に本発明者らは、自律神経活動と、被検者の体の動きを示す活動量(加速度や角速度)との関係に着目し、覚醒時間帯におけるうつ状態患者と健常者の心拍間隔と活動量を観察した。その結果、同程度の活動量であっても、うつ状態患者は健常者よりも心拍間隔が短い傾向にあることがわかった。このことは、健常者は活動量が少ない場合、リラックス状態にあるため副交感神経活動が優位になるが、うつ状態患者は活動量が少ないにもかかわらず、交感神経活動が優位になることを示している。これらの検討結果から、本発明者らは自律神経の活動状態と活動量とが密接な関係にあることを利用すればうつ状態を判定できるのではないかと考えた。そして、後述する検証1等の検討を行った結果、拍動間隔などの自律神経活動の状態を示す指標と活動量とを乗除した因子が、健常者とうつ状態患者とで異なる値を示す傾向にあることを見出し、この因子をうつ状態の判定に用いることに想到した。
【0007】
すなわち、本発明のうつ状態判定方法は、被検者の拍動間隔と、被検者の動きに伴う加速度または角速度(以下、「活動量」と記載する)と、を計測し、下記[A]または[B]の条件のうち、少なくとも一つが満足される場合に被検者がうつ状態であると判定するものである。
[A]被検者の覚醒時間帯において、下記(1)式〜(3)式のうち、少なくとも一つの式が計算され、かつその式が満足されること;
拍動間隔×活動量<C1 ・・・(1)
HF×活動量<C2 ・・・(2)
(LF/HF)/活動量>C3 ・・・(3)
[B]被検者の睡眠時間帯において、下記(4)式〜(6)式のうち、少なくとも一つの式が計算され、かつその式が満足されること;
拍動間隔/活動量<C4 ・・・(4)
HF/活動量<C5 ・・・(5)
(LF/HF)×活動量>C6 ・・・(6)
但し、LFは、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、HFは、前記パワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値であり、Hf1>Lf1、Hf2>Lf2であり、C1〜C6は定数である。
被検者の拍動間隔と活動量を計測して、(1)式〜(6)式の条件を用いることにより、容易にかつ高い精度でうつ状態であるかどうかを判定できる。これにより、うつ状態の早期発見及び早期治療を行うことができる。
【0008】
本発明のうつ状態判定方法において、前記LFは、拍動間隔を周波数スペクトル変換して二乗して得たパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、前記HFは、拍動間隔を周波数スペクトル変換して二乗して得たパワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値であってもよい。
【0009】
本発明のうつ状態判定方法において、[A]の条件のうち、少なくとも一つが満足され、[B]の条件のうち、少なくとも一つが満足される場合に被検者がうつ状態であると判定することが好ましい。覚醒時間帯と睡眠時間帯の両方の時間帯における測定データを用いることにより、うつ状態の判定精度を向上させることができる。
【0010】
本発明のうつ状態判定方法において、[A]の条件のうち、(1)式または(2)式の少なくともいずれか一方と、(3)式が満足され、[B]の条件のうち、(4)式または(5)式の少なくともいずれか一方と、(6)式が満足される場合に被検者がうつ状態であると判定することが好ましい。覚醒時間帯における交感神経活動を因子に用いた(3)式と、副交感神経活動を因子に用いた(1)式または(2)式、さらに睡眠時間帯における交感神経活動を因子に用いた(6)式と、副交感神経活動を因子に用いた(4)式または(5)式を組み合わせて判定することにより、さらにうつ状態の判定精度を向上させることができる。
【0011】
本発明のうつ状態判定方法において、[B]の条件のうち、少なくとも一つが満足される場合に被検者がうつ状態であると判定することが好ましい。覚醒時間帯における(1)式〜(3)式の判定方法と比較すると、睡眠時間帯における(4)式〜(6)式の判定方法は、健常者とうつ状態患者との差が大きい傾向にあるため、うつ状態の判定がしやすい。
【0012】
本発明のうつ状態判定方法の拍動間隔として、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRR間隔を用いることが好ましい。RR間隔は信号のピークがはっきり出ることにより拍動間隔の精度が高くなるため、ピーク位置の誤認識が起こりにくい。
【0013】
被検者の姿勢に伴う加速度を計測し、加速度と所定値を比較することによって覚醒時間帯と睡眠時間帯を分類することが好ましい。この分類方法によれば、被検者の自己申告は不要であるため、被検者の検査負担が軽減される。また、被検者の申告漏れや申告誤りによる覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類ミスの発生も抑止される。
【0014】
覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類に用いる加速度は、被検者の姿勢に伴う身長方向の加速度であることが好ましい。身長方向の加速度の値は覚醒時間帯と睡眠時間帯で差があることから、覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類に適しているためである。
【0015】
被検者の立位時に計測された身長方向の加速度が正の値の場合は、前記身長方向の加速度に−1を乗算した値を負加速度Tとし、被検者の立位時に計測された身長方向の加速度が負の値の場合は、前記負の値を負加速度Tとし、下記(9)式が満足される時間帯を睡眠時間帯に分類し、下記(9)式が満足されない時間帯を覚醒時間帯に分類することが好ましい。
T≧C7・・・(9)
但し、C7は定数である。
このように(9)式を用いて負加速度Tと所定値C7の大小を比較することによって、覚醒時間帯と睡眠時間帯を容易に分類することができる。
【0016】
被検者の立位時に計測された身長方向の加速度が正の値の場合は、前記身長方向の加速度に−1を乗算した値を負加速度Tとし、被検者の立位時に計測された身長方向の加速度が負の値の場合は、前記負の値を負加速度Tとし、下記(9)式が満足される時間帯のうち最長の時間帯を睡眠時間帯に分類し、該睡眠時間帯以外を覚醒時間帯に分類することもできる。
T≧C7・・・(9)
但し、C7は定数である。
この分類方法は、睡眠時に中途半端な時間で起きずに連続して眠ることができる被検者に対して有効である。
【0017】
被検者の立位時に計測された身長方向の加速度が正の値の場合は、前記身長方向の加速度に−1を乗算した値を負加速度Tとし、被検者の立位時に計測された身長方向の加速度が負の値の場合は、前記負の値を負加速度Tとし、所定時間以上連続して下記(9)式が満足される時間帯を睡眠時間帯に分類し、該睡眠時間帯以外を覚醒時間帯に分類することもできる。
T≧C7・・・(9)
但し、C7は定数である。
この分類方法は、細切れに分類された睡眠時間帯を積算することにより実質的な睡眠時間帯を推定するため、睡眠時に中途半端な時間で起きてしまう中途覚醒の不眠症を抱えた被検者に対して有効である。
【0018】
覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類に用いる加速度は、加速度−時間波形に対してモルフォロジー演算を行った後の値であることが好ましい。モルフォロジー演算を行うことにより、加速度−時間波形の全体の輪郭が抽出されるため、覚醒時間帯と睡眠時間帯を分類しやすくなる。
【0019】
前記モルフォロジー演算が、所定の時間幅で行われるオープニング処理とクロージング処理の少なくともいずれか一方であることが好ましい。このように膨張演算と収縮演算を組み合わせることによって、加速度−時間波形の全体の輪郭を抽出しやすくなるため、覚醒時間帯と睡眠時間帯をより一層分類しやすくなる。
【0020】
さらに、本発明のうつ状態判定装置は、被検者の拍動間隔と、被検者の動きに伴う加速度または角速度(以下、「活動量」と記載する)とを計測する計測部と、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得た値(以下、「パワースペクトル」と記載する)を求めて、パワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値(以下、「LF」と記載する)と、周波数Hf1からHf2まで定積分した値(以下、「HF」と記載する)とを算出する処理部と、下記[A]または[B]の条件のうち、少なくとも一つが満足される場合に被検者がうつ状態であると判定する判定部と、を備えることを特徴とする。
[A]被検者の覚醒時間帯において、下記(1)式〜(3)式のうち、少なくとも一つの式が計算され、かつその式が満足されること;
拍動間隔×活動量<C1 ・・・(1)
HF×活動量<C2 ・・・(2)
(LF/HF)/活動量>C3 ・・・(3)
[B]被検者の睡眠時間帯において、下記(4)式〜(6)式のうち、少なくとも一つの式が計算され、かつその式が満足されること;
拍動間隔/活動量<C4 ・・・(4)
HF/活動量<C5 ・・・(5)
(LF/HF)×活動量>C6 ・・・(6)
但し、Hf1>Lf1、Hf2>Lf2であり、C1〜C6は定数である。
被検者の拍動間隔と活動量を計測して、(1)式〜(6)式の条件を用いることにより、容易にかつ高い精度でうつ状態であるかどうかを判定できる。これにより、うつ状態の早期発見及び早期治療を行うことができる。
【0021】
本発明のうつ状態判定装置の計測部には、覚醒状態または睡眠状態を入力する入力手段が設けられることが好ましい。これにより、入力手段から覚醒情報及び睡眠情報を入力することができる。
【0022】
本発明のうつ状態判定装置の計測部に、体温計測手段が設けられていることが好ましい。うつ状態患者は、体温の変化も健常者と異なる傾向を示す。このため、体温計測手段により体温データを取得して、この体温データと上記(1)式〜(6)式との両方をうつ状態の判定に用いれば、うつ状態判定装置の判定精度をさらに向上することができる。
【0023】
本発明のうつ状態判定装置は、拍動間隔として、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRR間隔を用いることが好ましい。RR間隔は信号のピークがはっきり出ることにより拍動間隔の精度が高くなるため、ピーク位置の誤認識が起こりにくい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のうつ状態判定方法及びうつ状態判定装置によれば、容易にかつ高い精度でうつ状態であるかどうかを判定することができる。このため、うつ状態の早期発見及び早期治療に寄与するものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のうつ状態判定方法は、被検者の拍動間隔と、被検者の動きに伴う活動量と、を計測し、下記[A]または[B]の条件のうち、少なくとも一つが満足される場合に該被検者がうつ状態であると判定するものである。
[A]被検者の覚醒時間帯において、下記(1)式〜(3)式のうち、少なくとも一つの式が計算され、かつその式が満足されること;
拍動間隔×活動量<C1 ・・・(1)
HF×活動量<C2 ・・・(2)
(LF/HF)/活動量>C3 ・・・(3)
[B]被検者の睡眠時間帯において、下記(4)式〜(6)式のうち、少なくとも一つの式が計算され、かつその式が満足されること;
拍動間隔/活動量<C4 ・・・(4)
HF/活動量<C5 ・・・(5)
(LF/HF)×活動量>C6 ・・・(6)
但し、LFは、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、HFは、前記パワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値であり、Hf1>Lf1、Hf2>Lf2であり、C1〜C6は定数である。
被検者の拍動間隔と活動量を計測して、(1)式〜(6)式の条件を用いることにより、容易にかつ高い精度でうつ状態であるかどうかを判定できる。これにより、うつ状態の早期発見及び早期治療を行うことができる。
【0027】
さらに、本発明のうつ状態判定装置は、被検者の拍動間隔と、被検者の動きに伴う活動量とを計測する計測部と、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得た値(以下、「パワースペクトル」と記載する)を求めて、パワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値(以下、「LF」と記載する)と、周波数Hf1からHf2まで定積分した値(以下、「HF」と記載する)とを算出する処理部と、下記[A]または[B]の条件のうち、少なくとも一つが満足される場合に被検者がうつ状態であると判定する判定部と、を備えることを特徴とする。
[A]被検者の覚醒時間帯において、下記(1)式〜(3)式のうち、少なくとも一つの式が計算され、かつその式が満足されること;
拍動間隔×活動量<C1 ・・・(1)
HF×活動量<C2 ・・・(2)
(LF/HF)/活動量>C3 ・・・(3)
[B]被検者の睡眠時間帯において、下記(4)式〜(6)式のうち、少なくとも一つの式が計算され、かつその式が満足されること;
拍動間隔/活動量<C4 ・・・(4)
HF/活動量<C5 ・・・(5)
(LF/HF)×活動量>C6 ・・・(6)
但し、Hf1>Lf1、Hf2>Lf2であり、C1〜C6は定数である。
被検者の拍動間隔と活動量を計測して、(1)式〜(6)式の条件を用いることにより、容易にかつ高い精度でうつ状態であるかどうかを判定できる。これにより、うつ状態の早期発見及び早期治療を行うことができる。
【0028】
1.うつ状態判定方法
本発明のうつ状態判定方法は、被検者の拍動間隔と、被検者の動きに伴う加速度または角速度である活動量とを計測する。
【0029】
拍動間隔とは心拍あるいは脈拍の間隔を指す(単位:ms)。心拍間隔は、心電図からR波とR波の間隔を読み取ること、あるいは隣り合う心拍同士の間隔を計測することにより取得する。脈拍間隔は、隣り合う脈拍同士の間隔を計測することにより取得する。拍動間隔またはその揺動は、自律神経活動を示しているといわれている。
【0030】
拍動間隔として、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRR間隔(以下、「RRI」と記載する)を用いることが好ましい。RRIは信号のピークがはっきり出ることにより拍動間隔の精度が高くなるため、ピーク位置の誤認識が起こりにくい。
【0031】
活動量とは、被検者の動きに伴う加速度または角速度であり、重力加速度gに対する比で表される(単位:無次元量)。ここで加速度とはX軸、Y軸、Z軸方向の加速度x、y、zの二乗和の平方根から重力加速度g(=9.8m/s
2)分を減じた値である(ここで単位gは重力加速度の大きさを表す)。従って、加速度Aは以下の(7)式で表され、被検者の動きがないときの加速度はゼロであり、被検者が活動しているときの加速度は0よりも大きい。
【0033】
一方、角速度Ωは被検者のX軸、Y軸、Z軸周りの角速度ω
x、ω
y、ω
zの二乗和の平方根であり、単位はrad/sまたは1/sである。つまり、角速度Ωは以下の(8)式で表される。
【0035】
角速度は回転を検出するため、例えば、睡眠時間帯における被検者の寝返りの頻度などを検出するのに適している。
【0036】
本発明のうつ状態の判定方法は、覚醒時間帯における判定方法(条件[A])と睡眠時間帯における判定方法(条件[B])とに大別される。覚醒時間帯とは被検者の目が覚めている、つまり起きている時間帯を指す。一方、睡眠時間帯とは、被検者が眠っている時間帯であり、覚醒時間帯以外の時間帯を指す。覚醒時間帯と睡眠時間帯は、被検者の生活環境や精神状態により様々な態様を示すものであり、時間長や時間帯が特に限定されるものではない。
【0037】
本発明において、覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類は、被検者へのアンケートによって睡眠開始時間と覚醒開始時間を自己申告してもらうことにより行ってもよいし、後述するうつ状態判定装置に設けられる入力手段により行ってもよい。そのほか、例えば特開2010−179133号公報や特開2009−297474号公報に記載の公知の睡眠状態計測方法等を適用することもできる。
【0038】
被検者の姿勢に伴う加速度を計測し、加速度と所定値を比較することによって覚醒時間帯と睡眠時間帯を分類することが好ましい。この分類方法によれば、被検者の自己申告は不要であるため、被検者の検査負担が軽減される。また、被検者の申告漏れや申告誤りによる覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類ミスの発生も抑止される。
【0039】
一般に、睡眠時間帯の身長方向の加速度が立位時に負の値となるように加速度計が調整されている場合、睡眠時間帯の身長方向の加速度は、覚醒時間帯の身長方向の加速度と比べて大きい傾向にある。このため、覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類に用いる加速度としては、被検者の動きに伴う身長方向の加速度であることが好ましい。このように、身長方向の加速度は、覚醒時間帯と睡眠時間帯で差があることから、覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類に適している。本発明において身長方向とは、被検者の足部から頭部へ向かう方向である。
【0040】
身長方向の加速度を用いた覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類は、具体的には次のように行うことができる。第一の分類方法は、(9)式が満足される時間帯を睡眠時間帯に分類し、(9)式が満足されない時間帯を覚醒時間帯に分類する方法である。以降説明する覚醒時間帯と睡眠時間対の分類方法において、被検者の立位時に計測された身長方向の加速度が正の値の場合は、身長方向の加速度に−1を乗算した値を負加速度T(単位:無次元量)とし、被検者の立位時に計測された身長方向の加速度が負の値の場合は、当該負の値を負加速度Tとする。
T≧C7・・・(9)
但し、C7は定数である(単位:無次元量)。
このように(9)式を用いて負加速度Tと所定値C7の大小を比較することによって、覚醒時間帯と睡眠時間帯を容易に分類することができる。この方法は、リアルタイムで覚醒時間帯と睡眠時間帯を分類する必要がある場合に適している。
【0041】
負加速度Tを用いた覚醒時間帯と睡眠時間帯の第二の分類方法は、(9)式が満足される時間帯のうち最長の時間帯を睡眠時間帯に分類し、該睡眠時間帯以外を覚醒時間帯に分類する方法である。具体的には、計測単位時間の間、(9)式が満足される時間帯のうち最長の時間帯を睡眠時間帯に分類し、当該睡眠時間帯以外を覚醒時間帯に分類する。計測単位時間は、計測開始から計測終了までの時間長である。本方法では(9)式が満足される最長の時間帯を睡眠時間帯に分類することから、この際、1日に少なくとも1つの睡眠時間帯が得られるように、計測単位時間は24時間以内の時間長である。第二の分類方法は、睡眠時に中途半端な時間で起きずに連続して眠ることができる被検者に対して有効である。
【0042】
負加速度Tを用いた覚醒時間帯と睡眠時間帯の第三の分類方法は、所定時間以上連続して(9)式が満足される時間帯を睡眠時間帯に分類し、当該睡眠時間帯以外を覚醒時間帯に分類する方法である。所定時間は、睡眠時以外の状態で臥位になったと推定される時間帯を覚醒時間帯とみなすために設定される時間長である。所定時間は例えば15分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上に設定することができる。第三の分類方法では、細切れに分類された睡眠時間帯を積算することにより実質的な睡眠時間帯を推定するため、睡眠時に中途半端な時間で起きてしまう中途覚醒の不眠症を抱えた被検者に対して有効である。
【0043】
加速度を用いて覚醒時間帯と睡眠時間帯を分類する場合、当該加速度は、加速度−時間波形に対してモルフォロジー演算を行った後の値であることが好ましい。モルフォロジー演算は、画像処理でノイズ除去のために用いられる。このため、加速度−時間波形に対してモルフォロジー演算を行った後の値を(9)式に適用すれば、得られた加速度のうち、総計測時間と比較して短時間(例えば、総計測時間の1/150時間以内)に変化する値は除去される。このため、加速度−時間波形の全体の輪郭が抽出されて、覚醒時間帯と睡眠時間帯を分類しやすくなる。その結果、(1)式〜(6)式による判定回数を減少することができるため、うつ状態の判定に必要な時間の短縮が図られる。
【0044】
モルフォロジー演算に要する処理時間を短縮するために、所定値C7をしきい値として2値化処理がなされた加速度−時間波形に対してモルフォロジー演算を行うことも好ましい。2値化処理では、例えば、加速度が所定値(しきい値)C7以上の場合に加速度を0とみなし、加速度が所定値C7未満での場合に加速度を1とみなす。
【0045】
モルフォロジー演算は、例えば、線を太くする処理を行う膨張演算、線を細くする処理を行う収縮演算、収縮演算後に膨張演算を行うオープニング処理、膨張演算後に収縮演算を行うクロージング処理がある。本発明において、モルフォロジー演算後の加速度を用いて覚醒時間帯と睡眠時間帯を分類する場合、モルフォロジー演算が、所定の時間幅で行われるオープニング処理とクロージング処理の少なくともいずれか一方であることが好ましい。また、モルフォロジー演算として、オープニング処理およびクロージング処理の両方を行うことがより好ましい。このように膨張演算と収縮演算を組み合わせることによって、加速度−時間波形の全体の輪郭を抽出しやすくなるため、覚醒時間帯と睡眠時間帯をより一層分類しやすくなる。
【0046】
オープニング処理やクロージング処理を行う回数は特に限定されないが、オープニング処理、クロージング処理をそれぞれ1回以上実施することが好ましく、オープニング処理、クロージング処理をそれぞれ2回以上実施することがより好ましい。
【0047】
膨張演算や収縮演算を行う際の時間幅についても適宜設定すればよいが、例えば、1回目のオープニング処理及びクロージング処理の時間幅を2分とし、2回目のオープニング処理およびクロージング処理の時間幅を5分とすることができる。このように処理回数を重ねる毎に、処理時の時間幅を大きくすることが好ましい。このように、オープニング処理およびクロージング処理の時間幅を段階的に大きくすることで、総計測時間と比較して短時間に変化した加速度のデータが除去されるのを抑止する。
【0048】
LFは、時間信号fである拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、HFは、前記パワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値であり、Hf1>Lf1、Hf2>Lf2であり、C1〜C6は定数である。例えば、LFは、時間信号fである拍動間隔を周波数スペクトル変換したもの(周波数スペクトルF)を二乗することにより得られるパワースペクトルF
2(第1のパワースペクトル)を周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、HFは、前記パワースペクトルF
2(第1のパワースペクトル)を周波数Hf1(>Lf1)からHf2(>Lf2)まで定積分した値とすることができる。第1のパワースペクトルF
2を用いて計算されるLF、HFの単位はms
2である。具体的なC1〜C6の値は特に制限されるものではなく、パワースペクトル積分の積分範囲、活動量の種類(加速度または角速度)、被検者の年齢、性別等の条件に応じて適宜設定することができる。周波数スペクトル変換の方法としては、例えば高速フーリエ変換(FFT)、ウェーブレット解析、最大エントロピー法などを用いることができる。なお、本明細書においては、FFTを用いた場合を例として説明するが、もちろん他の方法を用いることも可能である。
【0049】
本明細書においては、拍動間隔をスプライン補間しサンプリング間隔Δtで再サンプリングした拍動間隔RRI
kの離散フーリエ変換G
kは、以下の(10)式で表され、パワースペクトルF
2(第1のパワースペクトル)(単位:ms
2/Hz)は、以下の(11)式で表される。ここで、kは時系列、Nはデータ数を表し、Sは任意のスケールであり、一般にパワースペクトラムではS=1である。
【0052】
他方、LFおよびHFの値として、拍動間隔を周波数スペクトル変換した値から得たパワースペクトルF(第2のパワースペクトル)(単位:ms)を所定の区間で定積分したものも本発明のうつ状態判定方法に含まれる。このように、パワースペクトルとして拍動間隔を周波数スペクトル変換した値を用いれば、より簡便にLFおよびHFの値を算出することができる。第2のパワースペクトルFを用いて計算されるLF、HFの単位は無次元量である。パワースペクトルF(第2のパワースペクトル)は、以下の(12)式で表される。
【0054】
以下、LF、HF、C1〜C6の詳細について述べる。
【0055】
図1は、本発明に係るパワースペクトル積分の説明図である。
図1の縦軸はパワースペクトル(単位:ms
2/Hz)であり、横軸は周波数(単位:Hz)である。LFは、パワースペクトルF
2を例えば0.04Hz(Lf1)から0.15Hz(Lf2)まで定積分した値であり、
図1において斜線によりハッチングがされている部分の面積である。一方、HFは、パワースペクトルF
2を例えば0.15Hz(Hf1)から0.4Hz(Hf2)まで定積分した値であり、
図1において縦線によりハッチングがされている部分の面積である。
図1では、Lf2とHf1がいずれも0.15Hzと等しくなるように積分範囲を設定したが、Lf1<Hf1及びLf2<Hf2の関係を満たしていれば、Lf2とHf1は異なる値でもよい。ここでは、パワースペクトル積分の方法を、第1のパワースペクトルF
2を用いて説明したが、第2のパワースペクトルFによる定積分も同様に行うことができる。
【0056】
周波数スペクトル変換により得られるパワースペクトルは、血圧の変動に由来する成分でMayer−Wave関連成分ともいわれるLFと、呼吸に由来する成分HFとに分けられる。血圧変動成分LFは0.1Hz周辺のパワースペクトルであり、交感神経活動と副交感神経活動の双方に関連している。一方、呼吸由来の成分HFは0.3Hz周辺のパワースペクトルで、副交感神経活動に関連していると考えられている。
以上のことから、交感神経活動及び副交感神経活動を示すLFの積分範囲は、少なくとも0.1Hzを含み、Lf1<0.1<Lf2であることが好ましい。また、Lf1は0.03Hzであることがより好ましく、0.04Hzであることがさらに好ましい。Lf2は0.16Hzであることがより好ましく、0.15Hzであることがさらに好ましい。
また、副交感神経活動を示すHFの積分範囲は、少なくとも0.3Hzを含み、Hf1<0.3<Hf2であることが好ましい。Hf1は0.14Hzであることがより好ましく、0.15Hzであることがさらに好ましい。Hf2は0.41Hzであることがより好ましく、0.4Hzであることがさらに好ましい。
【0057】
本発明のうつ状態判定方法では、被検者の覚醒時間帯において、拍動間隔×活動量<C1を満足する場合にうつ状態であると判定する。上述したとおり、拍動間隔は副交感神経活動を示しており、活動量は被検者の動きを示している。例えば活動量が加速度の場合には、C1は150msであることが好ましく、160msであることがより好ましく、170msであることがさらに好ましい。拍動間隔×活動量は、C1が150ms以上の場合に健常者とうつ状態患者との差が最も大きくなるため、うつ状態を判定するための良い指標となる。なお、うつ状態の判定をしやすくするために、(1)式は拍動間隔×活動量/100<C11としてもよい。このときC11は、C1を100で除した値、つまりC11=C1/100で表される。
【0058】
本発明のうつ状態判定方法では、被検者の覚醒時間帯において、HF×活動量<C2を満足する場合にうつ状態であると判定する。上述したとおり、HFは拍動間隔と同様に副交感神経活動を示している。従って、(2)式は(1)式と同じく副交感神経活動と、活動量からうつ状態を判定するものである。例えば活動量として加速度を用いて、第1のパワースペクトルF
2から得られるHFの積分範囲を0.15Hz〜0.4Hzにした場合、C2は0.08ms
2であることが好ましく、0.085ms
2であることがより好ましく、0.09ms
2であることがより好ましい。うつ状態の判定をしやすくするために、(2)式はHF×活動量×100<C21としてもよい。このときC21は、C2に100を乗じた値、つまりC21=C2×100で表される。
【0059】
他方、活動量として加速度を用いて、第2のパワースペクトルFから得られるHFの積分範囲を0.15Hz〜0.4Hzにした場合、C2は80であることが好ましく、90であることがより好ましく、100であることがより好ましい。ここでC2の単位は無次元量である。
【0060】
本発明のうつ状態判定方法では、被検者の覚醒時間帯において、(LF/HF)/活動量>C3を満足する場合にうつ状態であると判定する。上述したとおり、LFは交感神経活動と副交感神経活動の両方を示しているため、LF/HFは副交感神経活動に対する交感神経活動の優位性を表している。従って、本発明においてLF/HFは、交感神経活動を示す指標として用いている。(3)式は交感神経活動と活動量からうつ状態を判定する方法である。例えば活動量として加速度を用いて、第1のパワースペクトルF
2から得られるLFの積分範囲を0.04〜0.15Hz、HFの積分範囲を0.15Hz〜0.4Hzにした場合、C3は5であることが好ましく、4.5であることがより好ましく、4であることがさらに好ましい。ここでC3の単位は無次元量である。
【0061】
他方、活動量として加速度を用いて、第2のパワースペクトルFから得られるLFの積分範囲を0.04〜0.15Hz、HFの積分範囲を0.15Hz〜0.4Hzにした場合、C3は27であることが好ましく、26であることがより好ましく、25であることがさらに好ましい。ここでC3の単位は無次元量である。
【0062】
本発明のうつ状態判定方法では、被検者の睡眠時間帯において、拍動間隔/活動量<C4を満足する場合にうつ状態であると判定する。(4)式は、副交感神経活動と活動量からうつ状態を判定する方法である。例えば活動量が加速度の場合には、C4は1200msであることが好ましく、1500msであることがより好ましく、1900msであることがさらに好ましい。うつ状態の判定をしやすくするために(4)式は(拍動間隔/活動量)/100<C41としてもよい。このときC41は、C4を100で除した値、つまりC41=C4/100で表される。
【0063】
本発明のうつ状態判定方法では、被検者の睡眠時間帯において、HF/活動量<C5を満足する場合にうつ状態であると判定する。(5)式は、副交感神経活動と活動量からうつ状態を判定する方法である。例えば活動量として加速度を用いて、第1のパワースペクトルF
2から得られるHFの積分範囲を0.15Hz〜0.4Hzにした場合、C5は40ms
2であることが好ましく、50ms
2であることがより好ましく、60ms
2であることがさらに好ましく、70ms
2であることが最も好ましい。
【0064】
他方、活動量として加速度を用いて、第2のパワースペクトルFから得られるHFの積分範囲を0.15Hz〜0.4Hzにした場合、C5は30000であることが好ましく、40000であることがより好ましく、50000であることがさらに好ましい。ここでC5の単位は無次元量である。この場合、うつ状態の判定をしやすくするために、(5)式は(HF/活動量)/1000<C51としてもよい。このときC51は、C5を1000で除した値、つまりC51=C5/1000で表される。
【0065】
本発明のうつ状態判定方法では、(LF/HF)×活動量>C6を満足する場合にうつ状態であると判定する。(6)式は交感神経活動と活動量からうつ状態を判定する方法である。例えば活動量として加速度を用いて、第1のパワースペクトルF
2から得られるLFの積分範囲を0.04〜0.15Hz、HFの積分範囲を0.15Hz〜0.4Hzにした場合、C6は0.015であることが好ましく、0.01であることがより好ましく、0.005であることがさらに好ましい。ここでC6の単位は無次元量である。うつ状態の判定をしやすくするために、(6)式は(LF/HF)×活動量×100>C61としてもよい。このときC61は、C6に100を乗じた値、つまりC61=C6×100で表される。
【0066】
他方、活動量として加速度を用いて、第2のパワースペクトルFから得られるLFの積分範囲を0.04〜0.15Hz、HFの積分範囲を0.15Hz〜0.4Hzにした場合、C6は0.045であることが好ましく、0.03であることがより好ましく、0.015であることがさらに好ましい。ここでC6の単位は無次元量である。うつ状態の判定をしやすくするために、(6)式は(LF/HF)×活動量×100>C61としてもよい。このときC61は、C6に100を乗じた値、つまりC61=C6×100で表される。
【0067】
本発明のうつ状態判定方法において、[A]の条件のうち、少なくとも一つが満足され、[B]の条件のうち、少なくとも一つが満足される場合に被検者がうつ状態であると判定することが好ましい。つまり、(1)式〜(3)式の少なくとも一つが満足されて、(4)式〜(6)式の少なくとも一つが満足される場合に被検者がうつ状態であると判定することが好ましい。覚醒時間帯と睡眠時間帯の両方の時間帯での測定データを用いることにより、うつ状態の判定精度を向上させることができる。
【0068】
本発明のうつ状態判定方法において、[A]の条件のうち、(1)式または(2)式の少なくともいずれか一方と、(3)式が満足され、[B]の条件のうち、(4)式または(5)式の少なくともいずれか一方と、(6)式が満足される場合に被検者がうつ状態であると判定することが好ましい。覚醒時間帯における副交感神経活動を示す(1)式または(2)式と、交感神経活動を示す(3)式と、睡眠時間帯における副交感神経活動を示す(4)式または(5)式と、交感神経活動を示す(6)式と、を組み合わせて判定することにより、さらにうつ状態の判定精度を向上させることができる。
【0069】
本発明のうつ状態判定方法において、[B]の条件のうち、少なくとも一つが満足される場合に被検者がうつ状態であると判定することが好ましい。覚醒時間帯における(1)式〜(3)式の判定方法と比較すると、睡眠時間帯における(4)式〜(6)式の判定方法は健常者とうつ状態患者との差が大きい傾向にあるため、うつ状態の判定がしやすい。
【0070】
(1)式〜(6)式を適宜組み合わせれば、うつ状態の判定を行うことができる。例えば、拍動間隔と活動量のみを用いる(1)式及び(4)式のみをうつ状態の判定に採用すれば、周波数スペクトル変換やパワースペクトル積分を行うステップを省略することができるため、より簡易的な判定方法にしたい場合に有効である。一方、(1)式〜(6)式の全てを用いて判定を行えば、判定結果の精度を向上させることができる。
【0071】
(1)式〜(6)式の全ての評価を行った結果、少なくとも1式を満足すればうつ状態であると判定することも可能であり、全ての式を満足した場合にうつ状態であると判定することも可能であり、判定に用いる式の数は特に限定されない。(1)式〜(6)式のうち少なくとも1式を満足すればうつ状態と判定する方法であれば、より広い範囲でうつ状態の疑いのある患者をスクリーニングすることが可能である。また、(1)式〜(6)式の全てを満足する場合にうつ状態であると判定する方法であれば、高い精度でうつ状態の判定を行うことができる。
【0072】
2.うつ状態判定装置
本発明のうつ状態判定装置は、計測部と、処理部と、判定部とを備える。計測部は、被検者の心拍を計測する心電計や心拍センサ、または被検者の脈波を計測して脈拍を求める脈波センサと、被検者の活動量を計測する加速度センサまたは角速度センサ等である。処理部は、計測部により計測された拍動間隔に基づき、周波数スペクトル変換を行い、パワースペクトル積分値を算出し、うつ状態の判定に用いるLF及びHFを算出する。判定部は、計測部で計測された拍動間隔と活動量、及び処理部で得られたLF及びHFを用いて判定データを作成して、所定値C1〜C6と判定データを比較することによりうつ状態の判定を行う。処理部及び判定部は、うつ状態の判定に用いる判定データの作成や、所定値と判定用データの比較等を行うソフトウェアを搭載するコンピュータや計測機器等である。
【0073】
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1に係るうつ状態判定装置1の構成を示すブロック図である。
図2に示すうつ状態判定装置1は、計測部であるセンサ10と、解析機50とを備える。
(1)計測部
センサ10は、拍動間隔を検出する拍動計測部12と、活動量を検出する活動量計測部13とから構成される計測部11を備える。センサ10は、小型軽量であり、本体裏面の電極(図示せず)を被検者の胸部に密着させた状態で、被検者の肌に本体ごと取りつけることができるので、服の下に隠れ目立たない。
本発明のうつ状態判定装置は、拍動間隔として、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRR間隔(RRI)を用いることが好ましい。RRIは信号のピークがはっきり出ることにより拍動間隔の精度が高くなるため、ピーク位置の誤認識が起こりにくい。
なお、本実施の形態においては、拍動間隔としてRRIを、活動量として加速度を計測した。
【0074】
拍動計測部12は、電極を被検者の胸部に密着させた状態で心電信号を計測し、この心電信号に基づきRRIを算出して解析機50へ送信する。なお、センサ10の拍動計測部12が心電信号に基づきRRIを算出したが、RRIの算出は後述する処理部51で行われてもよい。
【0075】
拍動計測部12では、心拍を測定する代わりに脈波を測定してもよい。脈波は、人の指先や耳たぶ等に波長が700nm〜1200nmの近赤外線を照射し、近赤外線の反射量を接触あるいは非接触で測定することができる。脈波を測定する場合は、比較的測定器を体に取り付け易いという利点があり、特に非接触で測定するタイプを使用した場合には、測定器を体に取り付ける煩わしさがなくなるので、広く普及する可能性がある。このように測定した脈波の隣り合うピーク同士の間隔から脈拍間隔を求めることができる。
【0076】
計測部11の活動量計測部13では、被検者のX軸、Y軸、Z軸方向における加速度を計測して解析機50へ送信する。加速度を計測するセンサの種類は特に限定されず、例えば、ピエゾ抵抗体型加速度センサ、圧電型加速度センサ、静電容量型加速度センサなどを用いることができる。ピエゾ抵抗体型加速度センサは、半導体を用いているため小型で量産化がしやすい。圧電型加速度センサは、比較的高い加速度の検出がしやすい。静電容量型加速度センサはピエゾ抵抗体型加速度センサに比べて高感度で、検出可能な加速度の範囲が広く、温度依存性も小さい。
【0077】
活動量として、加速度の代わりに角速度を検出してもよい。角速度を計測するセンサの種類は特に限定されず、例えば、回転型、振動型、ガス型、光ファイバー型、リングレーザー型の角速度センサを用いることができる。
【0078】
計測部11で計測された拍動間隔及び活動量のデータを解析機50の受信部52に送信する方法として、無線通信を用いてもよいし、有線通信を用いてもよい。特に無線通信でデータを送受する場合は、内蔵するバッテリーの持ちを向上させるために、例えば3個分のRRIをまとめて送信する等により送受信の頻度を下げることが好ましい。また、このとき活動量である加速度はRRIと同じタイミングで送受することが好ましい。
【0079】
消費電力を抑制する観点から、本発明に係るセンサは電源をON状態にしてから所定時間経過した後、自動的に電源がOFF状態になることも好ましい。所定時間はうつ状態の判定に必要なデータ数を考慮して設定すればよく、例えば24時間や48時間などに設定することができる。
【0080】
(2)処理部
解析機50は、処理部51と判定部81を備え、処理部51は受信部52、周波数スペクトル変換部55、パワースペクトル積分算出部56を備える。受信部52では、センサ10から送信されるRRIと活動量を受信する。
【0081】
周波数スペクトル変換部55では、FFT等の周波数スペクトル変換方法を用いて、受信部52から送信された時間信号であるRRIを周波数スペクトルに変換する。次に、パワースペクトル積分算出部56では、周波数スペクトル変換部55で得られたスペクトルからパワースペクトルを算出して、所定の周波数範囲で積分を行うことにより、LF及びHFを求める。具体的には、以下のような処理が行われる。まず、周波数スペクトル変換部55で得られた周波数スペクトルからパワースペクトルを算出すると、縦軸がパワースペクトル密度、横軸が周波数の分布図が得られる。次に、Lf1〜Lf2の範囲、及びHf1〜Hf2の範囲でパワースペクトルを積分することにより、LFとHFをそれぞれ求める。なお、Lf1<Hf1、Lf2<Hf2である。なお、パワースペクトルの具体的な算出方法は、「1.うつ状態判定方法」で述べたとおりであり、パワースペクトルとして、例えば第1のパワースペクトルF
2を用いてもよく、第2のパワースペクトルFを用いてもよい。
【0082】
(3)判定部
本発明のうつ状態判定装置の判定部81は、判定データ作成部82と、所定値格納部83と、比較部84を備える。まず、判定データ作成部82では、うつ状態の判定に用いる(1)式〜(6)式に必要な判定データを作成する。RRI及び活動量は、処理部51の受信部52から送信されて、HF及びLFは処理部51のパワースペクトル積分算出部56から判定部81の判定データ作成部82に送信される。これらのデータを乗除することにより(1)式〜(6)式の左辺に記載される判定データを作成する。
【0083】
所定値格納部83にはうつ状態の判定に用いる(1)式〜(6)式の右辺に記載される所定値C1〜C6が格納されている。所定値C1〜C6を適宜変更することができるように、所定値格納部83には入力手段が設けられることが好ましい。
【0084】
比較部84では、判定データ作成部82で作成された判定用データ(つまり、(1)式〜(6)式の左辺のデータ)と、所定値格納部83に格納されている所定値(つまり、(1)式〜(6)式の右辺のデータ)を(1)式〜(6)式に代入して、左辺と右辺の大小を比較し、(1)式〜(6)式を満足するか判定する。(1)式〜(6)式を満足する場合はうつ状態であると判定し、満足しない場合にはうつ状態ではないと判定する。
【0085】
解析機50には、判定部81からうつ状態の判定結果を被検者等に通知する通知部91が設けられることが好ましい。通知方法は、音声、静止画、動画など特に限定されない。医師やカウンセラーなどの専門家、被検者やその家族等、通知対象者の専門知識レベルに応じて通知内容を変えることも可能である。ここではうつ状態判定装置1に通知部91が設けられる例を示したが、うつ状態判定装置1とは別の通知用機器に判定結果を送信し、被検者等へ結果を通知してもよい。通知用機器としては、例えば外付けモニタ、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、スピーカー、イヤホンなどが挙げられる。
【0086】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2に係るうつ状態判定装置2の構成を示すブロック図である。
図3に示すうつ状態判定装置2は、センサ10と、解析機60とを備える。なお、実施の形態1のうつ状態判定装置1と同様の構成要素には同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0087】
解析機60は、処理部61と、判定部81を備え、処理部61は、受信部62、異常値検出部63、異常値除去部64、周波数スペクトル変換部65、パワースペクトル積分算出部66を含む。
異常値検出部63は、受信部62から出力されたRRI及び活動量が、異常値とみなすべきものであるか否かを判断する。RRIが異常値とみなすべきものであるか否かは次のように判断する。実施の形態2では、RRI(秒単位)の逆数を60倍して瞬時心拍数を算出し、1拍分前の瞬時心拍数との差の絶対値が第1の所定数(本実施の形態では、「18」とする)以下である直近の複数点(本実施の形態では、「8点」とする)における平均を算出する。次に当該平均と評価対象のRRIに対応する瞬時心拍数との差の絶対値が第2の所定数(本実施の形態では「35」とする)以上である場合に、評価対象のRRIを異常値とみなす。ここで、第1の所定数は30が好ましく、より好ましくは20、さらに好ましくは15である。また、第2の所定数は50が好ましく、より好ましくは40、さらに好ましくは30である。
【0088】
なお、第1の所定数、第2の所定数、直近の複数点の数を、個人差等に応じて適宜変更してもよい。例えば、第1の所定数を30以下、第2の所定数を30以上、直近の複数点の数を4〜20の範囲内で適宜変更してもよい。
【0089】
活動量は、体動がない場合はゼロであるため、マイナスの値になることはない。従って、活動量がマイナスの値になっているときには異常値とみなすことが好ましい。
【0090】
異常値除去部64は、異常値検出部63により異常値とみなされたRRIを周波数スペクトル変換部65におけるデータ処理の対象から除外する。また、異常値除去部64は、異常値検出部63により異常値とみなされたRRI及び活動量を判定データ作成部82におけるデータ処理の対象から除外する。
【0091】
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3に係るうつ状態判定装置3の構成を示すブロック図である。
図4に示すうつ状態判定装置3は、センサ20と、解析機50とを備える。なお、実施の形態1のうつ状態判定装置1と同様の構成要素には同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0092】
センサ20の計測部21には、拍動計測部22と、活動量計測部23に加えて、覚醒状態または睡眠状態を入力する入力手段24が設けられることが好ましい。これにより、覚醒時間帯の開始時と睡眠時間帯の開始時に被検者が自ら入力手段24を操作することにより、覚醒情報及び睡眠情報を得ることができる。入力手段24とは、例えば、センサの表面に設けられたスイッチであり、このスイッチはボタン型でもよく、レバー型でもよく、その方式は特に限定されない。
【0093】
入力手段24はうつ状態判定装置3のセンサ20ではなく、解析機50に設けられることも好ましい。これにより、センサ20に入力手段24が設けられる場合に比べて、睡眠時の寝返りなどに伴って被検者が無意識のうちに入力手段24を操作することを防止することができる。
【0094】
(実施の形態4)
図5は、本発明の実施の形態4に係るうつ状態判定装置4の構成を示すブロック図である。
図5に示すうつ状態判定装置4は、センサ30と、解析機50とを備える。なお、実施の形態1のうつ状態判定装置1と同様の構成要素には同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0095】
センサ30の計測部31には、拍動計測部32と、活動量計測部33に加えて、体温計測部34となる体温計測手段が設けられることが好ましい。うつ状態の場合は低体温になりやすいことが知られている。うつ状態では夜型の生活になりやすくなり、日の光を浴びる機会が減少するため、体内時計を正常に合わせることが困難になるためである。さらに、うつ状態の患者は夜間であっても体温が高いため、身体が休まらない状態になる(非特許文献3)。このため、体温計測手段(体温計測部34)により体温データを取得して、上記の(1)〜(6)式によるうつ状態の判定と組み合わせることにより、うつ状態の判定精度をさらに向上させることができる。
【0096】
一般に体温は口腔、腋下、鼓膜など環境温度による影響が小さい身体の深部で測定されるが、本発明のうつ状態判定装置の計測部は、心拍や脈波を測定するために被検者の肌に取りつけられるものであるため、深部体温を直接計測することは困難である。したがって、ここでの体温とは深部体温だけではなく、体表面温も含むものとする。また、体温を直接測定せずに計測部を構成する部材、例えばセンサの基板の温度を測定することも可能である。被検者の体温が上昇すればセンサの基板温度も上昇するため、センサの基板温度を測定すれば相対的に体温の変化を計測することができる。体温計測手段は温度センサであればその種類は特に限定されず、例えば白金、ニッケル、銅などの金属測温抵抗体、熱電対、サーミスタ、IC化温度センサ、水晶温度計などを用いることができる。
【0097】
(実施の形態5)
図6は、本発明の実施の形態5に係るうつ状態判定装置5の構成を示すブロック図である。
図6に示すうつ状態判定装置5は、センサ40と、解析機70とを備える。なお、実施の形態1のうつ状態判定装置1と同様の構成要素には同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0098】
センサ40には、拍動計測部42と活動量計測部43から構成される計測部41で取得した生体情報を一時的に保存するデータ保存部44が設けられることが好ましい。センサ40で取得したデータを逐次的に解析機70に送信してデータを処理する必要がないため、データ通信によって消費する電力量を抑制することができる。例えば、被検者が自宅でセンサを用いて計測を行い、後日、医療機関にある解析機を用いて医師がうつ状態であるか否かを判定する場合などに適している。
【0099】
解析機70の処理部71は、周波数スペクトル変換及びパワースペクトル積分を行うためにデータ保存部44に保存されたRRIのデータを読み出す。判定部81では、データ保存部44から読み出したRRI及び活動量のデータと、周波数スペクトル変換部75及びパワースペクトル積分算出部76で算出されたLF及びHFを用いてうつ状態の判定を行う。なお、小型軽量なセンサを得るために、データ保存部44には公知の半導体メモリを用いることが好ましい。
【0100】
(実施の形態6)
図7は、本発明の実施の形態5に係るうつ状態判定装置6の構成を示すブロック図である。
図7に示すうつ状態判定装置6は、センサ10と、解析機100とを備える。なお、実施の形態1のうつ状態判定装置1と同様の構成要素には同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0101】
センサ10の計測部11の活動量計測部13ではX、Y、Z軸のうちいずれか1軸が身長方向の加速度と一致している。これは、身長方向の加速度の値を用いて覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類を行うためである。
【0102】
解析機100は、処理部101と、判定部81を備え、処理部101は、受信部102、周波数スペクトル変換部105、パワースペクトル積分算出部106、モルフォロジー演算部107を含む。
モルフォロジー演算部107では、受信部102から出力された負加速度−時間波形のノイズを除去するために負加速度−時間波形に対してモルフォロジー演算を行う。ここでモルフォロジー演算としては上述したように、例えば、膨張演算、収縮演算、オープニング処理、クロージング処理、これらの組み合わせを適用することができる。なお、
図7には示していないが、処理部101には、モルフォロジー演算部107での処理前に、所定値C7をしきい値として負加速度の値の大きさを二値化する二値化処理部を設けることもできる。二値化処理部では、例えば、負加速度TがC7以上であれば負加速度Tは0とみなされ、負加速度TがC7未満であれば1とみなされる。このように、モルフォロジー演算に先立って、加速度に対して二値化処理を行うことにより、モルフォロジー演算に要する処理時間を短縮することができる。所定値C7の値は特に制限されないが、例えば−0.85gであることが好ましく、−0.8gであることがより好ましく、−0.75gであることがさらに好ましい(ここで単位gは重力加速度の大きさを表す)。
【0103】
判定部81では、処理部101のモルフォロジー演算部107で処理された負加速度Tの値を所定値C7と比較して、(9)式が満足される時間帯を睡眠時間帯に分類し、(9)式が満足されない時間帯を覚醒時間帯に分類する。
T≧C7・・・(9)
但し、C7は定数である。
ここでは単に(9)式を用いて覚醒時間帯と睡眠時間帯を分類する第一の分類方法を用いて説明したが、上述したように、(9)式が満足される時間帯のうち最長の時間帯を睡眠時間帯に分類し、該睡眠時間帯以外を覚醒時間帯に分類する方法(第二の分類方法)や、所定時間以上連続して(9)式が満足される時間帯を睡眠時間帯に分類し、当該睡眠時間帯以外を覚醒時間帯に分類する方法(第三の分類方法)を用いることが可能である。
【0104】
本願は、2014年8月26日に出願された日本国特許出願第2014−172075号に基づく優先権の利益を主張するものである。2014年8月26日に出願された日本国特許出願第2014−172075号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【0105】
(検証1)
実施の形態1のうつ状態判定装置1を用いて、本発明のうつ状態判定装置の有用性についての検証を行った。うつ状態であると医師に診断され、医療機関に通院している8名の被検者A〜Hに小型の心電計を2日間装着してもらい、覚醒時間帯及び睡眠時間帯におけるRRI(単位:ms)と活動量(加速度)(単位:無次元量)を測定した。また、RRIと活動量の測定と並行して、うつ状態の症状の経過年数、精神疾患等の現在の投薬状況、うつ状態レベル、症状、睡眠状態について問診を行った。うつ状態レベルについては、うつ状態の重篤度に応じて10段階に分類する評価基準(株式会社疲労科学研究所にて作成)を用いた。心電計で測定したRRIを周波数スペクトル変換して、得られた第1のパワースペクトルF
2(単位:ms
2/Hz)についてパワースペクトル積分を行うことによりLF及びHF(単位:ms
2)を算出した。そして得られたRRI、活動量、LF及びHF/LFの値を、本発明のうつ状態判定方法(1)式〜(6)式に適用し、各式を満足するか検証した。なお、本検証において(1)式〜(6)式の所定値はC1=170ms、C2=0.09ms
2、C3=4、C4=1900ms、C5=70ms
2、C6=0.005、LF及びHFの積分範囲はLf1=0.04Hz、Lf2=0.15Hz、Hf1=0.15Hz、Hf2=0.4Hzとした。また、覚醒時間帯及び睡眠時間帯の分類は、被検者の自己申告の結果に基づき行った。
【0106】
図8〜
図13は、本発明のうつ状態判定方法の(1)式〜(6)式をそれぞれ被検者に適用した例を示す図である。
図8の縦軸は覚醒時間帯の(RRI×活動量)/100、
図9の縦軸は覚醒時間帯のHF×活動量×100、
図10の縦軸は覚醒時間帯の(LF/HF)/活動量である。
図11の縦軸は睡眠時間帯の(RRI/活動量)/100、
図12の縦軸は睡眠時間帯のHF/活動量、
図13の縦軸は睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量×100である。
図8〜
図13の横軸は被検者である。参考として、
図8〜
図13に健常者8名の算術平均値の結果をそれぞれ示した。自律神経活動を示すRRI等と活動量とを乗除した値、つまり(1)式〜(6)式の左辺の値は健常者とうつ状態患者で差があることが
図8〜
図13から読み取れる。特に睡眠時間帯の測定データを用いた結果を示している
図11〜
図13において、健常者とうつ状態患者との差は顕著である。
【0107】
さらに、被検者A〜Hの(1)式〜(6)式の判定結果、うつ状態の症状の経過年数、精神疾患等の現在の投薬状況、うつ状態レベル、症状及び睡眠状態の問診結果を表1に示す。表1に示すように、被検者Dについて(1)式及び(3)式を用いて計算したところ、(1)式及び(3)式を満足せず、うつ状態ではないとの判定結果が出た。これは被検者Dのうつ状態レベルは2(通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠の為、しばしば休息が必要である)と比較的軽度であり、また投薬もないことが影響していると考えられる。
一方、上記以外の全ての事例において、うつ状態と判定することができた。従って、被検者8名について、本発明のうつ状態判定方法の(1)式〜(6)式を計算した結果、48事例(=8名×6通り)のうち46事例でうつ状態であると判定することができた(約95%)。
【0109】
以上のように、本発明に係るうつ状態判定装置を用いて、約95%と高い確率でうつ状態であることを判定できた。よって、本発明に係るうつ状態判定方法及びうつ状態判定装置は、容易にかつ高い精度でうつ状態の判定が可能である。
【0110】
(検証2)
また、本発明に係るうつ状態判定装置によって計測した被検者の加速度を用いて覚醒時間帯と睡眠時間帯を分類する方法の適用可能性について検証した。上記検証1とは異なる7名の被検者に小型の心電計を約15時間装着してもらい、身長方向の加速度を測定し、負加速度Tを算出した。負加速度T≧C7の場合には睡眠時間帯と分類し、T<C7の場合に覚醒時間帯と分類した。このときのしきい値C7は−0.75gに設定した。一例として、
図14〜
図15に2名の被検者(被検者I、J)の負加速度−時間波形を示す。
図14〜
図15には、被検者の自己申告に基づく覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類の結果も示した。
【0111】
被検者Iから、22時46分頃〜1時18分頃、2時00分頃〜8時15分頃が睡眠時間帯であったと申告された。加えて、18時20分〜18時30分頃、20時15分〜20時20分頃は睡眠状態ではないが臥位であったことと、0時20分頃〜1時00分頃は入浴中で心電計は未装着であったこと、これらの時間帯以外が覚醒時間帯であったことが申告された。
【0112】
他方、
図14に示すように、加速度による分類では18時18分〜18時31分、20時16分〜20時19分、21時51分〜1時18分、1時45分〜8時14分に加速度が−0.75g以上を示したことから、これらの時間帯を睡眠時間帯として分類し、睡眠時間帯以外を覚醒時間帯に分類した。また、
図14に示すように、0時18分〜0時59分は加速度のデータが欠落しているが、これは被検者の自己申告のとおり心電計が未装着であったことに起因しているため、この時間帯は睡眠時間帯にも覚醒時間帯にも分類しなかった。
【0113】
被検者Jからは、0時03分頃〜6時10頃が睡眠時間帯であったと申告された。加えて、20時47分頃〜21時47分頃は入浴中で心電計は未装着であったこと、これらの時間帯以外が覚醒時間帯であったことが申告された。
【0114】
他方、
図15に示すように、加速度による分類では、23時10分〜6時33分の時間帯で加速度が概ね−0.75g以上を示したことから、睡眠時間帯に分類し、睡眠時間帯以外を覚醒時間帯に分類した。また、
図15に示すように、20時47分〜21時47分は加速度のデータが欠落しているが、これは被検者の自己申告のとおり心電計が未装着であったことに起因しているため、この時間帯は睡眠時間帯にも覚醒時間帯にも分類しなかった。
【0115】
身長方向の加速度に基づく覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類結果と、被検者の自己申告に基づく覚醒時間帯と睡眠時間帯の分類結果は、若干の差異はあるものの概ね一致した。ここで見られた差異は、加速度による分類の場合、臥位の姿勢を取っているものの実際には覚醒している時間帯が睡眠時間帯として分類されたことによるものと考えられる。図には示していないが、被検者I、J以外の5名の被検者からも同様の結果を得た。以上のことから、覚醒時間帯と睡眠時間帯を分類する際に、自己申告による方法に代えて、或いは自己申告による方法と組み合わせて加速度による方法を適用できる。