特許第6208401号(P6208401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208401
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】揚鉱システム及び揚鉱方法
(51)【国際特許分類】
   E21C 50/00 20060101AFI20171002BHJP
【FI】
   E21C50/00
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-510600(P2017-510600)
(86)(22)【出願日】2016年4月6日
(86)【国際出願番号】JP2016061280
(87)【国際公開番号】WO2017038148
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2017年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-182281(P2015-182281)
(32)【優先日】2015年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399028182
【氏名又は名称】永田 徹三
(73)【特許権者】
【識別番号】515260483
【氏名又は名称】中谷 穣
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(74)【代理人】
【識別番号】100194984
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】永田 徹三
(72)【発明者】
【氏名】中谷 穣
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−212591(JP,A)
【文献】 特開昭50−043001(JP,A)
【文献】 特開昭54−116301(JP,A)
【文献】 特開2015−151856(JP,A)
【文献】 特開2000−248874(JP,A)
【文献】 特表2015−506423(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/005782(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底面または海底下において鉱物を掘削する掘削部と、掘削して得られた鉱物と海水を含む固液混合物を吸引し圧送するポンプとを有する移動操作が可能な海底作業機と、
該海底作業機に対し、動力源となる電力を供給する電力ケーブルを有する電力供給部と、
所要の浮力を有し、海上または海中に浮かせられる主フロートと、
該主フロートに吊設され、同主フロートと前記海底作業機の前記ポンプをつなぐと共に、同ポンプで吸引した鉱物と海水を含む固液混合物を同主フロート側へ搬送する、所要長さを有する揚鉱管と、
前記吊設された揚鉱管に長手方向へ所要間隔で多数配置されており、同揚鉱管に対し、同揚鉱管が自身の重さで脱落または破断することがないようにする浮力を海中側で付与する補助フロートと、
前記揚鉱管により前記主フロート側に搬送された固液混合物から鉱物を選別して集める鉱物選別部とを備える
揚鉱システム。
【請求項2】
前記海底作業機が有するポンプがスラリーポンプである
請求項1の揚鉱システム。
【請求項3】
前記揚鉱管の所要箇所に前記固液混合物の搬送を補助するための所要圧力の液流を注入する補助ポンプを備える
請求項1の揚鉱システム。
【請求項4】
GPS受信機と、該GPS受信機で受信した位置情報とあらかじめ決められている揚鉱システムの設定位置とを比較して設定位置を維持するように位置の補正を行う位置補正装置とを備える
請求項1の揚鉱システム。
【請求項5】
前記主フロートの内部への注水と外部への排水を行い、同主フロートの浮力を調節する注排水装置を備える
請求項1の揚鉱システム。
【請求項6】
作業船を備えており、該作業船は前記電力供給部と前記鉱物選別部を有すると共に、前記電力供給部を構成する電力ケーブル及び前記鉱物選別部を構成し揚鉱管から固液混合物を受け取る送給管が、システムの運転の復旧が可能な状態で切り離しが可能である
請求項1の揚鉱システム。
【請求項7】
前記主フロートにおける前記揚鉱管がつながれた部分に同揚鉱管を支える懸架装置を有しており、該懸架装置近傍の同揚鉱管は、同揚鉱管を通す空隙内において所要の振れの範囲で振動が可能である
請求項1の揚鉱システム。
【請求項8】
鉱物選別部が、廃水処理装置を備える
請求項1の揚鉱システム。
【請求項9】
前記廃水処理装置が、鉱物を磁着して選別する磁着装置を備えている
請求項8の揚鉱システム。
【請求項10】
揚鉱管が、鋼と軽合金製の二重管構造、鋼管を炭素繊維で補強した構造または周壁を中空とした構造である
請求項1の揚鉱システム。
【請求項11】
海上または海中に浮かせた主フロートに吊設され、海底面または海底下において掘削し粉砕した鉱物と海水を含む固液混合物を海上まで送る揚鉱管に、長手方向へ所要間隔で多数配置されている補助フロートにより、前記揚鉱管が自身の重さで脱落または破断することがないようにする浮力を海中側で付与する揚鉱方法。
【請求項12】
補助フロートが、揚鉱管の管体に対し相対的にスライド可能であり、管体のフランジに下から当たったときに相互のスライドが停止するようにしてある
請求項1の揚鉱システム。
【請求項13】
海底面または海底下において鉱物を掘削する掘削部と、掘削して得られた鉱物と海水を含む固液混合物を吸引し圧送するポンプとを有する移動操作が可能な海底作業機と、
該海底作業機の前記ポンプで吸引した鉱物と海水を含む固液混合物を海上まで送る、所要長さを有する揚鉱管と、
該揚鉱管に長手方向へ所要間隔で多数配置されており、同揚鉱管に対し、同揚鉱管が自身の重さで脱落または破断することがないようにする浮力を海中側で付与する補助フロートとを備える
揚鉱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底にある有価金属などの鉱物資源を採掘して揚鉱する揚鉱システム及び揚鉱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、水深20m程度の浅海において、海底砂に含まれる砂鉄や錫などを砂と共にポンプで吸引し、これを陸上に搬送する技術は確立しており、すでに産業上での実用化もなされている。また、このような浅い海底において、鉱石を含む岩盤などを粉砕して細分化することも鉱業分野で広く使われている技術である。
【0003】
しかし、近年になって、日本の領海・排他的経済水域(EEZ)には多くの海底鉱床が存在することが、実際の調査などによって明らかになってきた。この鉱床に含まれる鉄、銅、亜鉛、金などが採掘され、この金属類が海上に搬送できれば、元来資源に乏しいとされ、専ら輸入に頼ってきた日本も、国内において資源を得ることができる。これにより、特に国内において、産業をより活性化させることが可能となり、また世界の資源供給にも貢献することが可能となる。
【0004】
なお、例えば水深1600〜5000mの深海底の鉱石を採削機で粉砕する技術はすでに存在する。しかしながら、深海で粉砕した鉱石を海上まで搬送する技術は、未だ確立していない。搬送技術としては、ポンプ搬送と機械式(バケット式)搬送が考えられるが、機械式はいかにも生産性が低く、現在はポンプ式のものが提案の主流となっている。このようなポンプ式のものとしては、例えば特許文献1に記載の揚鉱装置がある。
【0005】
特許文献1記載の揚鉱装置は、一方が下降管、他方が上昇管(揚鉱管に相当)となるU字管を深海底から海面にかけて鉛直保持し、上昇管の上端開口から下降管の上端開口に海水を輸送してU字管内で海水が循環流動するようにし、深海底で採掘された鉱物塊を上昇管の底部に送り込んで、両端開口部で液面が同じ高さに維持されるU字管の特性を活用し、上昇管を上昇する海水にのせて鉱物塊を海面に浮上させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−269070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の揚鉱装置には、次のような課題があった。
すなわち、鉱石処理船から、例えば水深1600〜5000mの海底まで鋼鉄製の揚鉱管を降ろして装備する場合、揚鉱管自体にある程度の浮力が作用するとしても、その実質的な重さは、50〜150トンにもなる。この重量物である揚鉱管を支持するために、その重量に充分に耐えうる頑丈で浮力に余裕がある大型の鉱石処理船などが必要となる。
【0008】
また、鉱石処理船などにつながれ、構成単位である管体を多数接続して形成される長尺な揚鉱管においては、海面に近いほど接続部に上記のような大きな荷重がかかるので、各管体を強固に接続するためにどのような構造とするかが、非常に難しい課題となっていた。
【0009】
なお、鉱石処理船または支持船に、上記のように極端に長く重い揚鉱管を降ろして運用した場合、更に以下のような困難が予想される。まず、鉱石処理船などが波浪による海面の動揺に伴い、揚鉱管が相対的に首を振るような動き、または首を折るような動きをすることになり、これが原因で揚鉱管の破損や破壊に至る可能性が高い点である。
【0010】
また、台風などの荒天時、鉱石処理船などが一時的に退避しなければならないときに、揚鉱管をつないだままでは航行が妨げられるため、揚鉱管を切り離さざるを得ない場合がある点である。このような場合、揚鉱管をどのようにして切り離すか、また切り離した揚鉱管をどのようにして回収するかなど、大きな課題がある。
【0011】
更に、揚鉱管の次に問題になるのが、粉砕鉱石を含む海水を深海底より海上の鉱石処理船まで搬送することができるポンプシステムの開発である。つまり、例えば1600〜6000mの深海からの上記のような搬送は、どうしても1台のポンプの能力を逸脱してしまうので、複数または多数のポンプの組合せによるポンプシステムが必要になるが、従来、充分な対策はとられていない。
【0012】
本発明は、以上の点を鑑みて創案されたものであり、粉砕鉱石を含む海水を深海底より海上の鉱石処理船まで搬送することができるポンプシステムを備え、深海へ降ろした揚鉱管が自身の重さで管体の接続部などから脱落することがないようにすると共に、それを支持する鉱石処理船などを浮力確保のため必要以上に大型化しなくてすむようにし、また、台風などで海が荒れているとき、鉱石処理船などが波で揺れることが理由で揚鉱管が破損してしまうことがないようにすると共に、揚鉱管を放棄して避難しなくてすむようにした揚鉱システム及び揚鉱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の揚鉱システムは、海底面または海底下において鉱物を掘削する掘削部と、掘削して得られた鉱物と海水を含む固液混合物を吸引し圧送するポンプとを有する移動操作が可能な海底作業機と、該海底作業機に対し、動力源となる電力を供給する電力ケーブルを有する電力供給部と、所要の浮力を有し、海上または海中に浮かせられる主フロートと、該主フロートと前記海底作業機のポンプをつなぎ、前記ポンプで吸引した鉱物と海水を含む固液混合物を前記主フロート側へ搬送する、所要長さを有する揚鉱管と、該揚鉱管の長手方向に所要間隔で配置されており、前記揚鉱管に所要の浮力を付与する補助フロートと、前記揚鉱管により前記主フロート側に搬送された固液混合物から鉱物を選別して集める鉱物選別部とを備える揚鉱システムである。
【0014】
本発明の揚鉱システムの作用を深海において有価鉱物を海上まで揚げる作業を行う場合を例にとり説明する。
揚鉱システムは、海底作業機が鉱床がある所定の深海底に配置され、主フロートは海上に浮かんでいる。また、鉱物選別部、あるいは電力供給部などは、例えば母船などの作業船に装備することができ、電力供給部を構成する電力ケーブルは、海底作業機の受電部に接続されている。海底作業機の走行部、掘削部及びポンプは、供給される電力により駆動される。
【0015】
なお、電力ケーブルと共に、これに添設する形で、海底作業機の掘削部の制御、走行部の制御、あるいはポンプの制御などを行うための信号のやり取りを行う信号ケーブルを装備することもできる。
【0016】
海底作業機のポンプと主フロートは、主フロートに鉛直方向に吊設された長尺な揚鉱管によりつながれており、揚鉱管で搬送される固液混合物は、更に作業船などに装備された鉱物選別部に送られるようになっている。
【0017】
揚鉱管には、所要箇所に、例えば一定間隔で多数の補助フロートが取り付けられており、揚鉱管に対して所定の浮力が付与されている。これにより、揚鉱管は海底に落ちることのないように、浮かせてある。なお、揚鉱管の海底近くの下端部と海底作業機のポンプは、海底作業機の移動動作に支障のないように、あるいは海中で浮遊している揚鉱管の位置が変動しても支障のないように、フレキシブルな管でつなぐのが好ましい。
【0018】
揚鉱システムでは、長尺な揚鉱管に対し、主フロートと各補助フロートにより、揚鉱管が海底に落ちることのない程度の浮力を付与している。補助フロートは、揚鉱管の長手方向に所要間隔で配置されているので、これらの補助フロートで揚鉱管の重量が分担されて支持される。
【0019】
つまり、補助フロートが、揚鉱管の長手方向に所要間隔で多数取り付けられているときに、各補助フロートが、各補助フロート間の長さの揚鉱管の重さの分だけ浮力を付与するようにすると、理論上は揚鉱管の上部に長尺な揚鉱管の荷重が作用しないようにすることができる。
【0020】
このように、補助フロートによって適正な浮力を付与すれば、揚鉱管の長手方向において、一部に偏って重力方向の大きな荷重が作用することはなく、上記構成は、揚鉱管の長手方向に所要間隔で平均的に荷重がかかるようにする意味においても効果的である。また、これにより、揚鉱管が自身の大荷重により途中から破断したり、揚鉱管が多数の管体をつないだ構成であれば、管体の接続部が破壊されたりすることを防止でき、揚鉱管が海底に落ちてしまうことはない。
【0021】
なお、揚鉱管を浮かせる主フロート及び各補助フロートのトータルの浮力は、適宜設定されるが、必ずしも最上部の主フロートを海面に浮かせるだけの浮力を必要とするわけではなく、少なくとも揚鉱管の下端部が海底に落ちない状態(沈まずに海中を漂う状態)が維持されて浮遊できる浮力であるのが好ましい。
【0022】
また、仮に揚鉱管の下端部側が海底に触れたとしても、少なくともそれより上部側が海中で縦になり浮遊している状態を維持できる浮力であるのが好ましい。
なお、重量物である揚鉱管は、主フロート及び各補助フロートにより浮力が付与され、揚鉱システムの管制を行う母船などの作業船、あるいは処理船は、必ずしも揚鉱管を支持する必要はないので、船を大型化する必要がない。
【0023】
また、揚鉱管の実質的な重さは、システムの運転中においては、内部を通り搬送される固液混合物の重さが加わるために、空の場合より重くなる。したがって、上記各フロートによる浮力の設定にあたっては、空の揚鉱管の重さを基準とした設定をせず、この点を勘案する必要があるのはいうまでもない。
【0024】
そして、遠隔操作により海底作業機を適宜移動させながら、例えば鉱床のある海底面または海底下を掘削部で掘削することにより、所要の粒径に粉砕された鉱物粒が得られる。これら鉱物粒は、周囲の砂や海水と共にポンプによって吸引され、固液混合物となって揚鉱管を通り、海上の主フロート側へ搬送される。主フロート側へ搬送された上記固液混合物は、鉱物選別部へ送られて、その中から有価鉱物が集められる。
【0025】
なお、海底作業機は、例えば水深数千mの、海底面または海底下に存在する貴金属やレアメタル(希少金属)などの有価鉱物だけではなく、化石燃料であるメタンハイドレート(例えば表層型メタンハイドレート)などの有用資源が多く含まれる領域の海底に置かれて使用される。揚鉱システムは、鉱物以外の有用資源を深海底から海上まで揚げるシステムとしても利用可能である。
【0026】
(2)本発明は、前記海底作業機が有するポンプがスラリーポンプである構成とすることができる。
この場合は、鉱物と海水を含む固液混合物をポンプの可動部分に損傷を与えることなく、搬送(圧送)することができる。また、スラリーポンプによれば、比較的多量の砂や鉱物粒を含む固液混合物でも送ることができる。これによれば、運転中に砂や鉱物粒などの固形物と海水との比率が変動しても、無理なく柔軟に対応することができ、運転を継続することができる。更には、スラリーポンプは、構造的に吸い込み能力に優れており、固液混合物の搬送を効率的に行うことができる。
【0027】
スラリーポンプとしては、上記の固液混合物を、可動部に損傷を与えることなく搬送することができれば、その種類、構造は特に限定するものではない。例えば、グラベルポンプ、サンドポンプ、あるいはホースポンプなどを挙げることができる。
【0028】
(3)本発明は、前記揚鉱管の所要箇所に固液混合物の搬送を補助するための所要圧力の液流を注入する補助ポンプを備える構造とすることができる。
この場合は、例えば数千mの深海底から固液混合物を海上まで、一台で搬送することができるポンプが仮になくても、揚鉱管の途中に補助ポンプによって所要圧力の液流を注入し、搬送を補助することにより、例えば深海底から海上までの数千mの長い距離を搬送することが可能になる。
【0029】
補助ポンプは、上記した目的からは、揚鉱管に固液混合物を注入する必要はなく、周りの海水を注入すればよいので、スラリーポンプ以外のポンプ、例えば羽根車(インペラー)を有する多段渦巻ポンプやダイヤフラムポンプなどのポンプを採用することができる。
【0030】
なお、例えば1600m以上の深海用の粉砕鉱石搬送ポンプは実用化が困難とされている現在、4000〜6000mの超深海部の開発は困難を極めることは想像に難くない。この解決策としては、既存のポンプを複数、あるいは多数組合せることが有効である。揚鉱管が数千mと長くなると、1台の海中揚水ポンプ(混流、斜流)では、特に粉砕鉱石を含むような固液混合物を海面上の作業船まで搬送することはできない。
【0031】
しかし、揚鉱管の途中で固液混合物を搬送するためのエネルギーが不足している場合、少流量で高圧の海水を揚鉱管の途中にポンプで注入することでこの問題の解消が可能である。ポンプが流体に伝える動力(エネルギー)は、圧力Pと流量Qの積P×Qで決まるので、圧力が超高圧で極端に少流量のポンプが効率化を図る上で好適である。また、少流量であればポンプの小型化が可能である。
【0032】
(4)本発明は、GPS受信機と、該GPS受信機で受信した位置情報とあらかじめ決められている揚鉱システムの設定位置とを比較して設定位置を維持するように位置の補正を行う位置補正装置とを備える構成とすることができる。
この場合では、GPS(全地球測位システム:Global Positioning System)を利用して、あらかじめ設定されている揚鉱システムの位置を維持することができる。すなわち、揚鉱システムの所要の箇所(例えば主フロートなど)に設置してあるGPS受信機で、揚鉱システムの位置を示す位置情報を取得する。
【0033】
次に、あらかじめ設定されている基準となる位置情報と、GPS受信機で取得した位置情報を位置補正装置によって比較する。そして、その差を基に揚鉱システムの位置(この場合は主フロートの位置)を位置補正装置によって、基準となる位置(設定位置)を維持するように、あるいは基準となる位置に近付くように(向かうように)動かして補正する。なお、この位置の補正は、システムの運転中、常時行うようにしてもよいし、一定時間ごとに行ってもよい。
【0034】
位置補正装置は、全体として海に浮遊している揚鉱システムの所要位置に配置されており、システムの一部または全部を移動させることができる。位置補正装置の構成は、GPS受信機で得られた位置情報と、あらかじめ決められた基準の位置情報を比較して、その差を基に位置を補正することができれば、特に限定しない。
【0035】
例えば、モーターと、モーターで駆動される推進方向が異なる複数のスクリューと、モーターの駆動源となるバッテリーと、上記の位置情報の比較と、その結果によりモーター及びスクリューを選択し駆動する制御部などである。また、位置補正装置は、システムの中で複数配置することができる。
【0036】
また、位置補正装置は、GPS受信機が設置してあるものに設けるのがより好ましいが、必ずしもそうでなくてもよく、適宜設定が可能である。例えば、GPS受信機と位置補正装置の両方が主フロートに設けられていてもよいし、あるいはGPS受信機をフロートで電力ケーブルを支持した場合のフロートに設け、位置補正装置を主フロートに設けてもよい。後者の場合でも、電力ケーブルの支持部であるフロートと主フロートの距離が構造的に一定またはほぼ一定に保たれるのであれば、実質的に前者と変わりなく位置の補正が可能である。
【0037】
(5)本発明は、前記主フロートの内部への注水と外部への排水を行い、同フロートの浮力を調節する注排水装置を備える構成とすることができる。
この場合は、注排水装置によって主フロートの内部に海水を取り入れたり、内部の海水を外部に排出したりすることで、主フロート自体の浮力を適宜調節することができる。このように主フロートの浮力を調節することにより、主フロートの一部が海面から出るようにしたり、全部が海面下に沈むようにしたりすることができる。また、沈むようにした際の主フロートの海面下における高さも調節が可能である。
【0038】
主フロートを海面下に沈めると、主フロートは波浪(海面の上下運動)の影響を受けにくくなる。例えば、台風の中、あるいは台風が接近した際の荒天時に、主フロートが海面上に浮いたままでは、激しい波浪の影響を受けて上下運動や横揺れを繰り返すことになり、主フロートに接続されている揚鉱管の取り付け部分、あるいはその周辺部が変形したり破損したりする可能性が高くなる。なお、海面に波浪が生じるのは、多くは海面下数mから10m程度であり、主フロートをそれより深いところで浮遊するように維持できれば、台風の中でも波浪の影響をほとんど受けないようにすることができる。
【0039】
注排水装置の構造は特に限定しないが、例えば、主フロートに防水リチウム蓄電池と、その電力で駆動されるポンプ及び吸水弁、排水弁を備える構造とし、ポンプを駆動することで、主フロートの内部の空間にある海水を排水したり、外から吸水したりして、海水の量を調整することができるものである。
【0040】
(6)本発明は、作業船を備えており、該作業船は前記電力供給部と前記鉱物選別部を有すると共に、前記電力供給部を構成する電力ケーブル及び前記鉱物選別部を構成し揚鉱管から固液混合物を受け取る送給管が、システムの運転の復旧が可能な状態で切り離しが可能である構成とすることができる。
【0041】
この場合は、システムの運転時においては、電力ケーブルと送給管はつながっており、それぞれは機能している。そして、例えば台風の接近などによる荒天時、あるいはその他の何等かの理由で作業船を寄港させなければならないなど、作業船が現場海域を離脱しなければならないときには、電力ケーブル、または送給管を切り離すことができる。
【0042】
その際、電力ケーブル、または送給管は、切り離しても海中に沈んだり海底に落ちたりすることがないように、切り離し後も切り離した側がフロートなど何等かの支持部に固定されたりつながったりした状態となるようにしてある。
【0043】
また、作業船を離脱させる理由が解消したときには、作業船を作業海域に戻して、電力ケーブル、または送給管を作業船側と接続して、揚鉱システムをもとの状態に復帰させることにより、システムの運転を再開することができる。このように、システムからの作業船の離脱と復帰が可能であり、例えば主フロートや揚鉱管などを放棄して避難しなければならない事態が生じることはなく、作業船の移動を柔軟に行うことができるので、システムの運用がしやすい。
【0044】
(7)本発明は、前記主フロートにおける前記揚鉱管がつながれた部分に同揚鉱管を支える懸架装置を有しており、該懸架装置近傍の同揚鉱管は、同揚鉱管を通す空隙内において所要の振れの範囲で振動が可能である構成とすることができる。
この場合は、揚鉱管が通されているか、あるいはつながれている主フロートにおいて、揚鉱管は懸架装置によって支持されており、しかも懸架装置近傍の同揚鉱管は、空隙内において所要の振れの範囲で振動、あるいは揺動が可能であるので、揚鉱管の当該部分の動きの自由度が高く、固定された状態とはならない。
【0045】
これによれば、特に主フロートが海上に浮いている場合、波浪の影響を受けて主フロートが上下運動や横揺れを繰り返しても、揚鉱管は懸架装置近傍で変形をあまり伴わない状態で、長手方向の進退動や直径方向の振動あるいは揺動をするなど、ある程度自由に動くことができるので、例えば金属疲労などによる破損や破壊が起こりにくい。
【0046】
なお、懸架装置の構造は特に限定しないが、例えば揚鉱管を支持することができるコイルバネ、あるいは付勢体と組み合わせられたリンク機構などで構成される。懸架装置は、海中側で補助フロートにより浮力が付与されている揚鉱管の実質的な重量を支持可能であり、揚鉱管がその長手方向に進退動したときに緩衝作用を有する構成となっている。
【0047】
(8)本発明は、前記電力ケーブルの長手方向に、補助フロートが所要間隔で配置されることにより、電力ケーブルに所要の浮力が付与されている構成とすることができる。この場合は、上述の揚鉱管の場合と同様に、補助フロートの浮力によって電力ケーブルに所要の浮力が付与される。これにより、電力ケーブル自身の重さによって、長さ方向の途中で破断してしまうことを防止できる。
【0048】
(9)本発明は、鉱物選別部が、廃水処理装置を備える構成とすることもできる。この場合は、鉱物選別部により鉱物を選別して集めることができると共に、廃水処理装置により、廃液に所要の処理を施した後の清澄な水を海洋投入(海洋投棄ともいう)などにより処分することができる。
【0049】
(10)本発明は、前記鉱物選別部が、鉱物を磁着して選別する磁着装置を備えている構成とすることもできる。この場合は、揚水と同時に上昇する海底泥が環境破壊の原因となる問題に対して、揚鉱中に含まれる金属または鉱物を鉱石処理船上に設けた電気式マグネットなどの磁着装置により採取し、その後、沈殿式など一般の下水処理で行われている方法と同様の方法で海底泥を除去することができる。つまり、これは作業船を廃水処理装置を装備した鉱石処理船とすることで対応できる。
【0050】
なお、磁性を有する鉱物としては、例えば鉄、クロム、ニッケル、コバルトなどがあげられる。これらの鉱物は、いずれも有価金属であり、海底から海上まで揚げる揚水から効率よく選別を行って集めることができる。
【0051】
(11)本発明は、揚鉱管が、鋼と軽合金製の二重管構造、鋼管を炭素繊維で補強した構造または周壁を中空とした構造である構成とすることができる。この場合は、揚鉱管を軽量化することが可能になる。そもそも揚鉱システムにおける最大の課題は、全長が数千mにもおよぶ揚鉱管の重量を如何に軽減するかである。この揚鉱管の重量を軽減するためには、上述のように揚鉱管に浮力を与えて実質的な重量を軽減する方法に加えて、本項の発明のように揚鉱管自体の重量を軽減する方法がある。
【0052】
揚鉱管自体の重量を軽減する方法として、例えば軽合金または鋼製の二重管構造とし、内管と外管との間に気密空間を持つ揚鉱管とする方法がある。また、周壁に気密空間を設けて、その浮力で揚鉱管の重量を一部相殺することが可能であり、揚鉱管の自重による他所への負担は軽減できる。
【0053】
また、揚鉱管自体の重量を軽減する他の方法としては、例えば内管は鋼製で製作されたものの外表面を、炭素繊維で補強された樹脂製とした揚鉱管とする方法がある。また、樹脂製の補強管は、金属製内管の保護にも貢献するものである。
【0054】
(12)本発明は、海底面または海底下において掘削し粉砕した鉱物と海水を含む固液混合物を海上まで送る揚鉱管にフロートで所要の浮力を付与する揚鉱方法である。この方法によれば、揚鉱管を海底に沈まないように海面に浮いた主フロートなどを使用して支持する場合、揚鉱管に所要の浮力を付与することができるので、例えば揚鉱管の重量から浮力を差し引いた重量と同じ重量とすることにより、揚鉱管を支持する主フロートには実質的に重量が作用しないようにすることができる。また、フロートによる浮力を上記よりやや小さくして、揚鉱管が鉛直方向となったバランスを保つことができるようにすることもできる。
【0055】
なお、本発明は、揚鉱管及び通信・電力ケーブルをフロートによって支持し、揚鉱管の重力を軽減するものである。また、本発明は、海面上で浮遊する内部に空洞を有する金属製の大型フロートと、このフロートによって支持される揚鉱管及び通信、電力ケーブルを含み、揚鉱管の重量に対応するために、浮力調整用の海水排出及び海水吸入弁を有する大型フロートを含めることもできる。
【0056】
また、大型フロートに騎乗させている(装備されている)防水蓄電池とポンプを駆動し大型フロートの下部の空洞部に海水を給排水する事により、大型フロートに潜水機能を持たせることができる。
【0057】
更に、大型フロートで支持された揚鉱管の重量軽減のために、海中の揚鉱管の中途に装備された小型フロート群を備えることもできる。また、重量軽減と強度維持のために炭素繊維で補強された樹脂製の揚鉱管を備えることもできる。
【0058】
重量を軽減するために、二重パイプの間隙に空洞を持つ揚鉱管を備えることもできる。荒天時や海上鉱石処理船の現場離脱時、大型フロートで支持された揚鉱管及び通信、電力ケーブルが鉱石処理船から離脱可能な構造とすることができる。
【0059】
鉱石搬送用ポンプを海底鉱石採掘機に騎乗させて(装備して)、吸込み管を短縮したシステムとすることができる。揚鉱管の中間部に、流体エネルギーを供給するため、圧力水を注入するポンプシステムを備えることもできる。
【0060】
更に、揚鉱管で海上の鉱石処理船に送った粉砕鉱石(細粉化鉱石)を含む海水から、鉱石を採取するために電気式、あるいは永久磁石式のマグネット装置を備えるものでもよい。また、鉱石処理船上に鉱石採取後の排水処理を行う装置を備えることもできる。
【発明の効果】
【0061】
本発明は、粉砕鉱石を含む海水を深海底より海上の鉱石処理船まで搬送することができるポンプシステムを備え、深海底へ降ろした揚鉱管が自身の重さで管体の接続部などから脱落することがないようにすると共に、それを支持する鉱石処理船などを浮力確保のため必要以上に大型化しなくてすむようにし、また、台風などで海が荒れているとき、鉱石処理船などが波で揺れることが理由で揚鉱管が破損してしまうことがないようにすると共に、揚鉱管を放棄して避難しなくてすむようにした揚鉱システム及び揚鉱方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】本発明に係る揚鉱システムの一実施の形態を示す説明図である。
図2】主フロートと補助フロートによる揚鉱管の吊り下げ構造を示す一部を省略した断面説明図である。
図3】主フロート及びその近傍の構造を示す断面説明図である。
図4】揚鉱システムに使用される作業船が備える廃水処理装置の構造を示す説明図である。
図5】揚鉱システムに使用される揚鉱管を構成する管体の構造を示す断面説明図である。
図6】揚鉱システムに使用される揚鉱管を構成する管体の他の構造を示す断面説明図である。
図7】補助フロートの他の構造を示し、(a)は縦断面説明図、(b)はA−Aに対応する断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
図1ないし図6を参照して、本発明の実施の形態を更に詳細に説明する。
揚鉱システムSは、海底において鉱物の採掘を行う採掘ユニット1と、採掘した鉱物と海水を海上に揚げる揚鉱ユニット2と、揚鉱ユニット2で揚げられた固液混合物から有価鉱物を選別する鉱物選別部である選別ユニット3により構成されている。
【0064】
(採掘ユニット1)
採掘ユニット1は、外部より移動操作が可能な海底作業機13を有している。海底作業機13は、クローラ走行機130と、その上部に搭載されている掘削機131及び掘削して得られた鉱物と海水を含む固液混合物を吸引し圧送するスラリーポンプ132を有している。海底作業機13は、各部を高水密につくるなど深海底における高圧下での作業が可能な構造としてある。スラリーポンプ132は、後述する各圧力注入ポンプ24と共にポンプシステムを構成する。
【0065】
掘削機131は、先端のドリルの回転または振動により鉱床の鉱物を破砕し掘削することができるようにしてある。なお、掘削機には、他の構造を採用することもできる。スラリーポンプ132は、掘削し破砕された鉱物と海水の混合物(固液混合物)を圧送することができるものであり、例えば斜流式や混流式の採用が可能である。
【0066】
なお、スラリーポンプ132の圧送能力は、特に限定するものではないが、少なくとも、後述する補助的なポンプである圧力注入ポンプ24と協働して、海水と粉砕鉱物の固液混合物を海上まで揚げることができる能力を有していればよい。この場合、例えばスラリーポンプ132から後述する揚鉱管21の下部までの搬送エネルギーはスラリーポンプ132が供給し、それより上の揚鉱管21内の搬送エネルギーは、揚鉱管21の途中に設けた後述する複数個の補助ポンプである圧力注入ポンプ24によって供給することができる。
【0067】
海底作業機13には、クローラ走行機130、掘削機131及びスラリーポンプ132に動力源となる電力を供給するための電力ケーブル12が受電部(符号省略)に接続されている。電力ケーブル12の海上側の端部は、一旦は海面に浮かぶフロート11に接続されており、これにより電力ケーブル12の重さがフロート11により支持されている。なお、フロート11にかかる電力ケーブル12の重さを軽減するために、後述する揚鉱管21と同様に浮力を付与するための補助フロートを取り付けることもできる。
【0068】
フロート11に接続された電力ケーブル12には、母船である作業船10に搭載された電力供給部である発電機(図示省略)から電力ケーブル120を介して電力が供給されるようにしてある。また、電力ケーブル12、120には、これらに添設する形で、海底作業機13の掘削機131の制御、クローラ走行機130の制御、あるいはスラリーポンプ132の制御などを行うための信号のやり取りを作業船10が備える管制部との間で行う信号ケーブル(図示省略)が装備されている。
【0069】
(揚鉱ユニット2)
揚鉱ユニット2は、揚鉱管21を有している。揚鉱管21は、所要長さの管体210を多数接続し、揚鉱作業の対象となる海域の深さに対応して、例えば5000mの長さに形成されている。なお、管体210の構造は、後で詳述する。そして、この長尺な揚鉱管21は、上端側が海面に浮かぶ主フロート20に掛けるようにして実質的に接続されている。また、揚鉱管21は、海中側において長手方向の所要間隔毎に(本実施の形態では各管体210毎に)、補助フロート22に掛けるようにして実質的に接続されている。
【0070】
まず、図3を参照して、主フロート20の構造及び主フロート20に対する揚鉱管21の接続構造について説明する。
主フロート20は、水密かつ中空構造の密封ケース200を有している。密封ケース200の外形は、いわゆるドーナツ形であり、内部には平面視で円を描くように空間部201が形成されている。また、密封ケース200の中心部には、空間部201とは壁部で隔離された円孔形状の通し孔202が貫通して設けられている。
【0071】
密封ケース200内の空間部201は、上下方向のほぼ中間位置に全周にわたり固定された隔離部材203によって上下に液密状態で分割されている。上部空間部201aには、隔離部材203に固定して注排水装置を構成する注排水ポンプ204が配置されている。また、同様にバッテリー205が隔離部材203に固定して配されており、バッテリー205には本実施の形態では防水リチウム蓄電池が採用されており、注排水ポンプ204に対し電力を供給する。
【0072】
バッテリー205は制御盤206に接続されており、制御盤206には、電力ケーブル26が外部から接続されている。電力ケーブル26は、後述する鉱物処理船30に搭載された電力供給部である発電機(図示省略)に接続されており、バッテリー205には発電機から供給される電力が蓄電される。
【0073】
密封ケース200内の隔離部材203によって分割された下部空間部201bは貯水タンクとなっており、注排水ポンプ204によって下部空間部201b内部の水量(必要に応じて空気量も)が調整できるようにしてある。この水量の調整により、必要に応じて主フロート20自体の浮力を大きくして海面に浮かせたり、あるいは浮力を小さくしたりして、潜水させることができるようにしている。なお、潜水は、主フロート20のみ行うようにしてもよいし、揚鉱管21まで含めて全体として行うようにしてもよく、適宜選択できる。
【0074】
密封ケース200の上面には、GPS衛星27の信号を受信するGPS受信機207が設置されている。GPS受信機207にも、電力ケーブル26を介し電力が供給されるようになっている。また、密封ケース200の下面には、位置補正装置を構成する複数の推進機208が取り付けられている。推進機208は、モーターでスクリューを回転させて推力を得る構造である。
【0075】
なお、位置補正装置の構成は、GPS受信機で得られた位置情報と、あらかじめ決められた基準の位置情報を比較して、その差を基に各推進機208を作動させて位置を補正することができる制御部である上記制御盤206を含むものである。各推進機208には、バッテリー205から電力が供給されるようになっており、各推進機208をGPSによる自動制御により適宜組み合わせて駆動することで、主フロート20を海上において所要の方向に移動させることができる。
【0076】
密封ケース200の通し孔202には、揚鉱管21の上端部の管体210が通されている。揚鉱管21を構成している多数の管体210は、図5に示す構造を有している。管体210は、長手方向の両端に接続用のフランジ211、212を有しており、管の部分は内管213と外管214からなる二重管構造となっている。内管213と外管214の間には、軽量化のために浮力を生み出す、言わば円管形状の空間部215を形成している。
【0077】
なお、管体210の外管214の外径は、密封ケース200の通し孔202の内径より径小に形成されており、管体210と通し孔202の間には空隙209が設けられている。また、最上部の管体210のフランジ211(通し孔202に挿通後、後付けにしている。)は、密封ケース200の上側にあり、密封ケース200上面とフランジ211の間には、上部側が次第に径小となった圧縮コイルバネ28が配置されている。
【0078】
この構造により、管体210及びその下方につながれている他の多数の管体210は、上下動しても圧縮コイルバネ28の付勢力により緩衝され、主フロート20に対してかかる衝撃や大きな荷重を軽減できる。また、管体210は、空隙209の作用により通し孔202内部で、ある一定の範囲で遊動または揺動できるようになっている。なお、上端部の管体210の上端には、フレキシブルな供給管25が接続されており、供給管25の先端側は後述する選別ユニット3へ導入されている。
【0079】
揚鉱管21は、上記したように多数の管体210を水密に接続したものであり、最下部の管体210の下端部には、所要長さのフレキシブルな中継管23の一端部が接続されている。中継管23の他端部は、上記スラリーポンプ132の吐出口(符号省略)に接続されている。なお、スラリーポンプ132の吸引口(符号省略)は、上記掘削機131のドリル近傍に配置してあり、掘削され破砕された鉱物を海水と共に吸引できるようになっている。
【0080】
そして、上記したように、この長尺な揚鉱管21は、海中側において長手方向の各管体210毎に、上部側のフランジ211を補助フロート22に掛けるようにして実質的に接続されている。補助フロート22は、水密かつ中空構造の密封ケース220を有している。密封ケース220の外形は、いわゆるドーナツ形であり、内部には平面視で円を描くように空間部221が形成されている。また、密封ケース220の中心部には、空間部221とは壁部で隔離された円孔形状の通し孔222が貫通して設けられている。
【0081】
管体210の外管214の外径は、密封ケース220の通し孔222の内径より径小に形成されており、管体210と通し孔222の間には空隙229が設けられている。なお、補助フロート22は、具体的な構造は示していないが、管体210の管の部分に横方向から嵌め込むように装着可能で取り外しも可能な構造(公知構造)である。
【0082】
この構造により、多数の補助フロート22は、各管体210が上下動したときにも各管体210に対し相対的にスライド可能であり、補助フロート22は、管体210のフランジ211、または後述する圧力注入ポンプ24の注入管241に当たったときに相互のスライドが停止する。補助フロート22と各管体210は、互いに逃げが利くために、衝撃や大きな荷重が作用しにくい。また、管体210は、空隙229の作用により通し孔202内部で、ある一定の範囲で遊動または揺動できるようになっている。
【0083】
また、各補助フロート22は、揚鉱管21に対して所要の浮力を付与することができる。この浮力の設定は、例えば揚鉱管21の重量と同じになるようにして主フロート20に揚鉱管21の重さがほとんどかからないようにしてもよい。また、浮力が揚鉱管21の重量よりやや小さくなるようにして、主フロート20に対し揚鉱管21の加重が適度にかかるようにすると共に、揚鉱管21を海中でより安定させるようにしてもよい。なお、深海にある補助フロート22は、高い水圧に耐えるように、後述する補助フロート22aと同様に内部に補強のためのリブ構造を備えるようにしてもよい。
【0084】
そして、揚鉱管21を構成している管体210のうち、所要間隔で位置する管体210の管の部分には、各々圧力注入ポンプ24の吐出口(符号省略)に接続してある注入管241が接続されている。各圧力注入ポンプ24は、周囲の海水を吸引して揚鉱管21の内部に注入するものであり、揚鉱管21を通る揚水(固液混合物)の上方への搬送(圧送)を助ける。
【0085】
なお、各圧力注入ポンプ24は、吊りワイヤ243でつながれたフロート242の浮力を受けて所要の深さを維持するようになっている。また、各圧力注入ポンプ24に対しては、作業船である鉱物処理船30の発電機に接続されている電力ケーブル240を介し電力が供給される。また、この電力ケーブル240にも、浮力を付与するためにフロートを取り付けるようにしてもよい。
【0086】
そして、上記作業船10とフロート11をつないでいる電力ケーブル120は、フロート11から切り離すことができる構造である。また、上記鉱物処理船30は、供給管25と電力ケーブル26を主フロート20から切り離すことができる構造となっている。これによれば、例えば作業船10や鉱物処理船30を寄港させる場合など、後で復帰が可能な状態で作業域から離脱させることができる。
【0087】
(選別ユニット3)
上記選別ユニット3は、鉱物処理船30に搭載されている。鉱物処理船30には、発電機(図示省略)が搭載されており、この発電機は、上記主フロート20及び各圧力注入ポンプ24に対し電力を供給する。選別ユニット3は、揚鉱ユニット2で揚げられた海水と粉砕された鉱物の固液混合物から有価鉱物を選別するものである。
【0088】
図4を参照する。揚鉱管21内を上昇し供給管25を通して海上の鉱石処理船30に至った粉砕鉱物50を含む固液混合物の処理方法を説明する。
選別ユニット3は、処理の順に選別槽31、沈殿槽32、貯水槽33及び集積槽34を備えている。なお、沈殿槽32、貯水槽33及び集積槽34は、廃水処理装置を構成する。
【0089】
選別槽31には、上記供給管25から粉砕された鉱物50を含む固液混合物が送られる。磁性体である粉砕された鉱物50は、回転体311のアーム先端に取り付けられた電磁石(符号省略)によって磁着されて集められる。なお、磁性体でない鉱物その他の有価鉱物は、例えば篩を使用するなど、各種公知手段によって集められる。
【0090】
また、選別槽31を通ったスラッジを含む海水はスクリーン320を通って沈殿槽32へ送られ、スラッジが槽底に沈殿し分離される。そして、スラッジが除かれた海水は、スクリーン331を通って貯水槽33に送られ、ポンプ330によって次の集積槽34に送られる。集積槽34内においては、薬品処理などによりさらに細かなスラッジが沈殿して除かれ、処理後の清澄な海水は水車340により排水管35を通り、外部(海)へ排出される。
【0091】
(作用)
本発明の揚鉱システムSの作用を深海において有価鉱物を海上まで揚げる作業を行う場合を例にとり説明する。
揚鉱システムSは、図1に示すように海底作業機13が鉱床5がある所定の深海底4に配置され、主フロート20は海上に浮かんでいる。
【0092】
作業船10の管制部からの信号により、電力ケーブル120を介し供給される電力を使用して海底作業機13が操作され、走行機130で移動しながら掘削機131により掘削が行われる。破砕された鉱物50(図4に図示)と海水の混合物(固液混合物)は、掘削と並行してスラリーポンプ132により吸引され、中継管23から揚鉱管21を通り、上方へ圧送される。このとき、揚鉱管21の鉛直方向の経路において、多数の圧力注入ポンプ24によって水流によるエネルギーが注入され、固液混合物が上方の鉱物処理船30の選別ユニット3に揚げられて処理され、清澄な処理水のみ海に投棄される。
【0093】
また、揚鉱管21には、多数の補助フロート22が接続されており、揚鉱管21に対して所定の浮力が付与されている。揚鉱システムSでは、数千mと長尺な揚鉱管21に対し、主フロート20と各補助フロート22により、揚鉱管21が海底4に落ちることのない程度の浮力を付与している。補助フロート22は、揚鉱管21の長手方向に所要数(多数)配置されているので、これらの補助フロート22で揚鉱管21の重量が管体210ごとに分担されて支持される。
【0094】
つまり、補助フロート22が、揚鉱管21の長手方向に所要間隔で多数取り付けられているときに、各補助フロート22が、各補助フロート22間の長さの揚鉱管21の重さの分だけ浮力を付与するようにすると、理論上は揚鉱管21の上部に長尺な揚鉱管21の荷重が作用しないようにすることができる。
【0095】
このように、補助フロート22によって適正な浮力を付与すれば、揚鉱管21の長手方向において、一部に偏って重力方向の大きな荷重が作用することはない。したがって、上記構成は揚鉱管21の長手方向に所要間隔で平均的に荷重がかかるようにする意味においても効果的である。また、これにより、揚鉱管21が自身の大荷重により途中から破断したり、管体210の接続部が破壊されたりすることを防止することができ、揚鉱管21が海底に落ちてしまう不都合は生じない。
【0096】
なお、揚鉱管21を浮かせる主フロート20及び各補助フロート22のトータルの浮力は、適宜設定されるが、必ずしも最上部の主フロート20を海面に浮かせるだけの浮力を必要とするわけではなく、少なくとも揚鉱管21の下端部が海底に落ちない状態、すなわち沈まずに海中を漂う状態が維持されて浮遊できる浮力であるのが好ましい。また、仮に揚鉱管21の下端部側が海底に触れたとしても、少なくともそれより上部側が海中で縦になり浮遊している状態を維持できる浮力であるのが好ましい。
【0097】
なお、重量物である揚鉱管は、主フロート及び各補助フロートにより浮力が付与され、揚鉱システムの管制を行う作業船10、あるいは鉱石処理船30は、必ずしも揚鉱管を支持する必要はないので、船を大型化する必要がない。
【0098】
また、揚鉱管21の実質的な重さは、システムの運転中においては、内部を通り搬送される固液混合物の重さが加わるために、より重くなる。したがって、上記各フロート2、22による浮力の設定にあたっては、空の揚鉱管21の重さを基準とした設定をせず、この点を勘案する必要がある。
【0099】
また、主フロート20は、注排水ポンプ204により内部の水量を調節することにより、浮力の調節が可能である。これにより、例えば潜水艦のように主フロート20の一部が海面から出るようにしたり、全部が海面下に沈むようにしたりすることができる。また、沈むようにした際の主フロート20の海面下における高さ(深さ)も調節が可能である。
【0100】
主フロート20を海面下に沈めると、主フロート20は波浪の影響を受けにくくなる。例えば、台風の中、あるいは台風が接近した際の荒天時に、主フロート20が海面上に浮いたままでは、激しい波浪の影響を受けて上下運動や横揺れを繰り返すことになり、主フロート20に接続されている揚鉱管21の取り付け部分、あるいはその周辺部が変形したり破損したりする可能性が高くなる。
【0101】
なお、海面に波浪が生じるのは、多くは海面下数mから10m程度であり、主フロート20を遠隔操作によって揚鉱管21の上部と共にそれより深いところで浮遊するように維持すると共に、その後の主フロート20の浮上を可能にすれば、台風の中でも波浪の影響をほとんど受けないようにすることができる。
【0102】
また、主フロート20は、GPS受信機207と推進機208を備えており、GPSを利用して、あらかじめ設定されている揚鉱システムSの位置を維持することができる。すなわち、主フロート20に設置してあるGPS受信機207で、揚鉱システムの位置を示す位置情報を取得し、あらかじめ設定されている基準となる位置情報と、GPS受信機207で取得した位置情報を位置補正装置によって比較する。
【0103】
そして、その差を基に、主フロート20の位置が、位置補正装置によって基準となる位置(設定位置)を維持するように、あるいは基準となる位置に近付くように(向かうように)各推進機208を作動させて位置の補正を行う。なお、この位置の補正は、揚鉱システムSの運転中、常時行うようにしてもよいし、一定時間ごとに(間欠的に)行うようにしてもよい。
【0104】
そして、海底作業機13は、例えば水深数千mの、海底面4または海底下に存在する貴金属やレアメタル(希少金属)などの有価鉱物だけではなく、化石燃料であるメタンハイドレート(例えば表層型メタンハイドレート)などの有用資源が多く含まれる領域の海底に置かれて使用することができる。揚鉱システムSは、このような鉱物以外の有用資源を深海底から海上まで揚げるシステムとしても利用可能である。
【0105】
図6を参照する。図6には、揚鉱システムに使用される揚鉱管を構成する管体の他の構造を示す。
管体210aは、鋼製の内管213aの外管214aは、炭素繊維で補強されたアクリル樹脂で一体化して形成されている二重管構造である。これにより、管体210aの重量を軽量化すると共に、引っ張り強度を増加させている。また、管体210aの両端部には、フランジ211a、212aが設けられている。充分な強度を有する鋼製の内管213aと軽量かつ強靱な外管214aを組み合わせることにより、所定の強度を維持しながら上記管体210と同等の重量に抑えることができる。
【0106】
図7を参照する。図7に示す補助フロート22aは、水密に形成された外形が円柱形状の密封ケース220aを有している。密封ケース220a内部の空間部221aには、リブを縦横に組んだ補強リブ225が密封ケース220aの内面に固定して設けられている。そして、補助フロート22aは、連結部材226を介して揚鉱管21に取り付けられる。これにより、揚鉱管21に所定の浮力が付与される。
【0107】
また、補助フロート22aは、内部に補強リブ225を設けることにより、深海の高圧下でも潰れることなく、空間部を確保することで、所定の浮力を維持することができる。
【0108】
本明細書及び特許請求の範囲で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書及び特許請求の範囲に記述された特徴及びその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0109】
S 揚鉱システム
1 採掘ユニット、10 作業船、11 フロート、
12 電力ケーブル、120 電力ケーブル、
13 海底作業機、130 クローラ走行機、
131 掘削機、132 スラリーポンプ、
2 揚鉱ユニット、20 主フロート、200 密封ケース、
201 空間部、201a 上部空間部、201b 下部空間部、
202 通し孔、203 隔離部材、204 注排水ポンプ、
205 バッテリー、206 制御盤、
207 GPS受信機、208 推進機、209 空隙、
21 揚鉱管、210 管体、211、212 フランジ、
213 内管、214 外管、215 空間部、
210a 管体、211a、212a フランジ、213a 内管、
214a 外管、
22 補助フロート、220 密封ケース、221 空間部、
222 通し孔、
22a 補助フロート、220a 密封ケース、221a 空間部、
225 補強リブ、 226 連結部材、 229 空隙、
23 中継管、24 圧力注入ポンプ、240 電力ケーブル、
241 注入管、242 フロート、243 吊りワイヤ、
25 供給管、26 電力ケーブル、27 GPS衛星、
28 圧縮コイルバネ、
3 選別ユニット、30 鉱物処理船、31 選別槽、
311 回転体、
32 沈殿槽、320 スクリーン、33 貯水槽、
330 ポンプ、331 スクリーン、34 集積槽、340 水車、
35 排水管
5 鉱床、50 粉砕鉱物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7