(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
豆板醤と、食用油脂を、HLBが12〜16の乳化剤で、乳化することによりなる調味料の製造方法であって、食用油脂を豆板醤100質量部に対し50〜100質量部配合させ、前記乳化剤を豆板醤100質量部に対して0.6〜1.5質量部配合させることを特徴とする調味料の製造方法。
【背景技術】
【0002】
豆板醤は、発芽したそら豆と唐辛子を塩で漬け、発酵・熟成して作る調味料である。「旨みと辛さを備えた味噌」とも言える独特の香りと味わいは、四川料理になくてはならない味であり、麻婆豆腐や回鍋肉などの中華風の炒め物に広く利用されている。
一方、豆板醤は日本でも広く利用されており、家庭用として販売されている。豆板醤は家庭においても炒め物やあえもの等に使用されるが、その辛さや、味噌様のぼてっとした物性などから、中国の場合と同様に、主に中華料理にのみ用いられる。そのため、日本の一般家庭においては、使用頻度は高くはなく、使いきれずに残ってしまうというのが実情である。
本来豆板醤はその辛味だけではなく、濃厚なコク味も有している。
そこで、日本人が苦手な辛さや、使い勝手の悪い物性を調整することが出来れば、日本においても辛さを特徴とする中華料理のみではなく、広く汎用の調味料として、使用態様や喫食態様の拡大や、使用頻度の向上を達成することが可能であると考えられる。
【0003】
特許文献1には、豆板醤に代表される醤の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、豆板醤の過度の辛さを抑えた豆板醤風の調味料の製造方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は豆板醤に代表される醤の製造方法が記載されているのみであり、豆板醤の使用頻度を向上させるための試みはなされていない。また、特許文献2は、麹や味噌や唐辛子を主原料とした「豆板醤風」の調味料であり、豆板醤の使用頻度の向上を達成するものではない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、豆板醤を主原料とする調味料であって、辛みが抑えられて、かつコク味があるため味わいが良好であり、さらに伸びやすくペースト状であり、かつご飯や具材と味に調和がある物性を有することにより、使用態様が多様な調味料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、豆板醤と、食用油脂を、HLBが12〜16の乳化剤で、乳化することによりなる調味料の製造方法であって、食用油脂を豆板醤100質量部に対し50〜100質量部配合さ
せ、前記乳化剤を豆板醤100質量部に対して0.6〜1.5質量部配合させることを特徴とする調味料の製造方法である。
本発明において、さらに、デンプン、デキストリン及びセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の糖類を配合させることが好ましい。
さらに、本発明においては甘味料を配合させることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、豆板醤を主原料とする調味料であって、辛みが抑えられて、かつコク味があるため味わいが良好な調味料の製造方法を提供することができる。
また本発明によれば、適当な粘度、乳化程度を有することにより物性を良好なものとすることができ、多様な用途に使用可能な調味料の製造方法を提供することができる。
本発明の調味料の製造方法により製造された調味料は、コク味を損なうことなく辛みが抑えられているため、中華料理以外の様々な料理に使用でき、特に甘味料を配合させた場合には、そのまま喫食することが好ましい。
また、本発明においては、甘味料を配合させることによって辛みが抑えられ、喫食しやすい調味料が得られる。また上記の物性改良と組み合わせることにより、適当な呈味を有し、かつ、適当な物性を有する豆板醤調味料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の調味料の製造方法は、豆板醤と、食用油脂を、HLBが12〜16の乳化剤で、乳化することによりなる調味料の製造方法であって、食用油脂を豆板醤100質量部に対し50〜100質量部配合させることを特徴とする。
【0010】
本発明において使用する豆板醤は、通常食品に用いられる豆板醤であれば特に限定されない。豆板醤はソラマメや唐辛子を主原料に、米麹又は麦麹を加えて発酵させて作る発酵調味料であるが、その原料はとくに限定されず、ソラマメや唐辛子以外に米、大豆油、ごま油、塩等を原料に加えたものであってもよい。
【0011】
一般に豆板醤は原料や発酵期間によって旨味や辛みのバランスが異なる。発酵期間が数か月〜1年程度の、赤色の豆板醤は、コク味があるものの辛みが強い傾向にある。これに対し、数年発酵させ、熟成が進んだ高級豆板醤(いわゆる黒豆板醤)は辛みが立ちすぎずコク味が濃厚な傾向がある。
本発明において使用する豆板醤は、原料や発酵期間によって限定されるものではないが、黒豆板醤を用いることが好ましい。
【0012】
本発明において用いられる食用油脂としては、通常食品に用いられる油脂であれば特に限定されるものではなく、植物性油脂、動物性油脂、及びそれらの加工油脂のいずれであってもよい。また、加熱する際に液状となる油脂であればよく、液状油脂であってもよく、常温で固体である固形油脂を加熱溶融したものであってもよい。
植物性油脂としては、キャノーラ油を代表とする菜種油、大豆油、ゴマ油、ココナッツ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、ベニバナ油、米油、ヒマワリ油、落花生を代表とするナッツ油等が挙げられる。植物油は、1種の植物原料のみから得られた油であってもよく、2種以上の植物原料から得られた油を混合した油であってもよい。また、植物油は、予め分離精製処理、脱酸処理、脱色処理等がなされたものであってもよい。このような植物油としては、脱酸、脱色等の処理がなされた白絞油、白絞油にさらにロウ分の除去処理を施したサラダ油が挙げられる。
動物性油脂としては、牛脂、ラード等が挙げられる。
加工油脂としては、ショートニング、バター、マーガリン等が挙げられる。
食用油脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも、本発明における食用油脂としては、キャノーラ油又はサラダ油が好ましい。
【0013】
本発明の調味料の製造方法においては、食用油脂を豆板醤100質量部に対し50〜100質量部配合させる。
本発明においては、食用油脂を豆板醤100質量部に対し50〜90質量部配合させることが好ましく、60〜85質量部させることがより好ましく、70〜80質量部配合させることが特に好ましい。
【0014】
食用油脂の配合量を上記の下限値以上の範囲とすることで、豆板醤の辛みを軽減し、味と口あたりをまろやかにすることができる。また、食用油脂の配合量を上記の上限値以下とすることにより、油分の分離を抑えられ、乳化状態が安定な製品とすることができる。また油分が適度に控えられているため、そのまま喫食しても味や口あたりを良好なものとすることができる。
【0015】
本発明においては、通常食品に用いられる乳化剤であって、HLBが12〜16の乳化剤を用いる。
乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル又は酵素処理レシチンが挙げられる。中でも、入手が容易なショ糖脂肪酸エステルが好ましい。
【0016】
HLBが上記の範囲の乳化剤を用いることにより、味噌状の豆板醤と食用油脂を乳化させ、安定に混合させることができる。また、豆板醤と食用油脂が分離することを防止できる。
本発明によれば、豆板醤と食用油脂が分離することを防止できるため、工程への負荷を少なくすることができる。
本発明において工程への負荷とは、工程中における、豆板醤内容物と、添加した食物油脂の分離により発生する移送配管内でのポンプ送液不良、それに伴って起こる不均一充填、製品物性の不適性による充填時の液ダレなどである。
本発明は味噌状の豆板醤と食用油脂を乳化させているため、ポンプ送液不良等を防止でき、製造ラインへの負荷を少なくし、それにより発生する充填不良を抑制することができる。
【0017】
乳化剤の配合量は、特に限定されるものではないが、豆板醤100質量部に対して、0.4〜1.8質量部が好ましく、0.6〜1.5質量部がより好ましく、0.7〜1.2質量部が特に好ましい。
このような物性とすることにより、通常は味噌様のぼてっとした物性(平板のヘラですくったときに、たれてこない粘度を有する。)であり、ご飯や麺などとなじみにくいものであったのが、伸びやすく、ペースト状の物性とすることができ、ご飯や麺になじみ、食べてその呈味を食材とともに感じることができる調味料とすることができる。
【0018】
本発明においては、さらにデンプン、デキストリン及びセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の糖類を配合させることが好ましい。
デンプン、デキストリン及びセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の糖類を配合させることにより、粘度を調整することができ、製造時に液だれ等を防止することができるため、充填等を容易にすることができる。製造工程において製造ラインへの負荷も少なくすることができる。
【0019】
本発明において、デンプン、デキストリン及びセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の糖類の配合量は特に限定されるものではないが、豆板醤100質量部に対して50〜100質量部配合させることができる。
【0020】
一方で、本発明においては、豆板醤に甘味料を加えることによって、適度に辛みがまろやかになり、呈味性が上がることを見出している。
甘味料は特に限定されるものではなく、適当な甘みを持つものであればよいが、本発明においては、その素直な甘味の質より、ショ糖を配合させることが好ましい。ショ糖としては、グラニュー糖、ザラメ糖、白糖等が挙げられる。
ショ糖を配合させることにより、本発明の調味料を炊飯米やうどん等の麺類に直接かけて食した場合に甘辛く良好な味とすることができる。
【0021】
ショ糖の配合量は、特に限定されないが、豆板醤100質量部に対して50〜100質量部配合させることができる。
【0022】
本発明においては、上記の原料の他に副原料を配合させてもよい。
副原料としては例えば、ねぎ、ごま、しょうが、にんにく等の野菜類、干しエビ、煮干し等の具材、食塩、出汁、香辛料等の調味料;澱粉類;植物性タンパク質;増粘剤、膨張剤、品質改良剤、酸化防止剤等の添加剤等が挙げられる。
【0023】
本発明において、豆板醤、食用油脂、乳化剤、デンプン、デキストリン及びセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の糖類、ショ糖、副原料を配合する方法としては、特に制限は無く、これらをそのまま配合する方法や、これらの原料を順次配合する方法等が挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法により得ることができる調味料は、豆板醤特有の辛みを適度に抑え、コク味を有しているため、麻婆豆腐や回鍋肉等の中華料理に用いる調味料としての使用態様のみならず、和食や洋食にも使用することができる。
そのまま喫食する態様としては、炊飯米、パン、うどん、ラーメン、餃子、納豆、豆腐、おでん、焼き肉、野菜等に直接つけたりかけたりして食する態様が挙げられる。
調味料としての使用態様としては、きんぴら等の和食や、パスタ等にも使用することができる。
本発明の製造方法により得られる調味料のうち、特に甘味の強いショ糖を配合させた場合には、甘辛く良好な味わいとなるため、上記の中でも炊飯米等に直接かけて食する方法が好ましい。
【実施例】
【0025】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、実施例1及び実施例5は、それぞれ参考例1及び参考例5とする。
【0026】
[実施例1〜5]
表1に示す各成分を表中に示す配合量で混合し、調味料を製造した。
以下の表中、副原料は野菜、ガーリックペースト、生おろし生姜等である。
以下の表中、シュガーエステル(P−1570)は三菱化学フーズ社より購入した。シュガーエステル(P−1570)のHLBは15である。
以下の表中、砂糖は上白糖を用いた。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例1〜5の調味料について、工程上の評価及び製品の評価を行った。その結果を表2に示す。
表2中、
◎は、工程に負荷がかからず、良好、
○は、工程に問題なくかけることができ、ほぼ良好、
×は、工程上負荷が高く問題が発生し、不良、を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例1〜5の結果に示すように、豆板醤に食用油脂と乳化剤を混合した調味料は油分の分離を抑えられ、安定な製品とすることができ、味も良好であった。
【0031】
[実施例6〜11]
表3に示す各成分を表中に示す配合量で混合し、調味料を製造した。
以下の表中、副原料は野菜、ガーリックペースト、生おろし生姜等である。
以下の表中、シュガーエステル(P−1570)は三菱化学フーズ社より購入した。シュガーエステル(P−1570)のHLBは15である。
以下の表中、砂糖は上白糖を用いた。
【0032】
【表3】
【0033】
実施例6〜11の調味料について、工程上の評価、製品の評価及びご飯にかけた場合の評価を行った。その結果を表4に示す。
表4中、
工程上の評価における
◎は、工程に負荷がかからず、また、瓶への充填時に液だれがおこらず、大変良好、
○は、工程に問題なくかけることができ、ほぼ良好ではあるが、瓶への充填時に液だれが起き、うまく充填できなかった、を示す。
製品の物性及び味の評価における
◎は、大変良好、
○は、良好、
△は、基準ぎりぎりのレベル、
×は、不良、を示す。
【0034】
【表4】
【0035】
実施例6〜11の結果より、デンプン、デキストリン及びセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の糖類を配合させることにより、粘度を調整することができ、充填等を容易にすることができた。
【0036】
[実施例12]
キャノーラ油を12質量部、ごま油を3質量部配合させたこと以外は、実施例11と同様に調味料を製造した。
その結果、油分の分離を抑えられ、コクがありおいしく、安定な製品を得ることができた。
【0037】
[実施例13]
砂糖として、グラニュー糖を用いたこと以外は実施例11と同様に調味料を製造した。
その結果、油分の分離を抑えられ、コクがあり甘辛くておいしく、安定な製品を得ることができた。
【0038】
[比較例1〜3]
表5に示す各成分を表中に示す配合量で混合し、調味料を製造した。
以下の表中、副原料は野菜、ガーリックペースト、生おろし生姜等である。
以下の表中、砂糖は上白糖を用いた。
【0039】
【表5】
【0040】
比較例1〜3の調味料について、工程上の評価、製品の評価及びご飯にかけた場合の評価を行った。その結果を表6に示す。
表6中、
工程上の評価における
△は、不良、製造不可能を示す。
製品の評価における
○は、良好、喫食可能
△は、やや不良、を示す。
【0041】
【表6】
【0042】
比較例1〜2の結果より、食用油脂を配合させない場合には、コク味が無く、風味が不良であった。
【0043】
[参考例1〜6]
表7に示す各成分を表中に示す配合量で混合し、調味料を製造した。
以下の表中、副原料は野菜、ガーリックペースト、生おろし生姜等である。
以下の表中、砂糖は上白糖を用いた。
【0044】
【表7】
【0045】
参考例1〜6の調味料について、工程上の評価、製品の評価及びご飯にかけた場合の評価を行った。その結果を表8に示す。
表8中、
工程上の評価における
◎は、良好、
○は、やや良好、
×は、不良を示す。
【0046】
【表8】
【0047】
参考例1〜6の結果より、食用油脂の配合量が多すぎる場合には、調味料のバランスが悪くなり、少なすぎると口あたり等が不良になることがわかった。