(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リン酸塩被覆黒鉛におけるリン酸塩が、リン酸アルミニウム類、リン酸マグネシウム類、リン酸カルシウム類、リン酸カリウム類、リン酸ナトリウム類及びリン酸亜鉛類からなる群より選ばれる少なくとも一の塩である、請求項1に記載の摩擦材。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキやドラムブレーキなどのブレーキ、或いはクラッチなどに使用される摩擦材は、補強作用をする繊維基材、摩擦作用を与え且つその摩擦性能を調整する摩擦調整材、及び、これらの成分を一体化する結合材などの原材料からなっている。
昨今の車両の高性能化、高速化に伴い、ブレーキの役割は益々過酷なものとなってきており、十分に高い摩擦係数(効き)を有することが必要である。さらに高速からの制動時には高温となることから、低温低速での制動時とは摩擦状態が異なり、温度変化による摩擦係数の変化が少ない、安定した摩擦特性が求められている。
【0003】
現在、一般的な摩擦材に金属繊維を適量含有することは、摩擦材の強度補強や摩擦係数の安定化、さらには高温における摩擦係数の維持や放熱効率の向上、耐摩耗性向上等に有効であることが知られている。この金属繊維の特性に着目し、スチール繊維を5〜10質量%、平均繊維長が2〜3mmの銅繊維を5〜10質量%、および粒径が5〜75μmの亜鉛粉を2〜5質量%含有した摩擦材が特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1によれば、摩擦材は銅繊維を所定量の範囲で含有すると、低温での摩擦係数の向上を図ることができ、高温高速時の摩擦係数の低下を抑制することができる。このメカニズムは摩擦材と相手材(ディスクロータ)との摩擦時に、摩擦材に含有された金属の展延性によって相手材表面に凝着被膜が生成し、この被膜が保護膜として作用することで低温での摩擦係数を安定化し、高温での高い摩擦係数を維持することに大きく寄与すると考えられる。また、特許文献2によれば、固体潤滑材として、黒鉛材料をリン酸塩で被覆することにより、高温域での耐摩耗性に優れた摩擦材を得ることができる。
【0005】
しかしながら、ディスクロータの摩耗粉やブレーキパッドの摩擦材に含まれる金属成分が摩擦材に食い込み、そこで凝集して大きな金属塊となってブレーキパッドとディスクロータの間に留まってしまう場合がある。このように凝集した金属塊は、ディスクロータを異常摩耗させることがある(特許文献3)。
現在、摩擦材に含まれる金属成分は主にスチール繊維や銅繊維といった金属繊維が多く、これらの繊維を多量に含有した場合、上述のディスクロータの異常摩耗を引き起こすおそれがある。
【0006】
また、摩擦材中に含まれる銅成分は、ブレーキ制動により摩耗粉として放出されることから、自然環境への影響が指摘されている。そこで特許文献4では、摩擦材中の銅成分の溶出を抑制する方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る摩擦材は、リン酸塩被覆黒鉛及びセラミック繊維を含み、かつ銅成分を含まないことを特徴とする。
【0013】
<摩擦材>
摩擦材とは一般的に、結合材、摩擦調整材、繊維基材及び潤滑材を含み、前記摩擦調整材として、有機充填材や無機充填材等の充填材、研削材、金属粉等を含有する。
本発明におけるリン酸塩被覆黒鉛は固体潤滑材として用いられ、セラミック繊維は、無機繊維基材として用いられる。
【0014】
<リン酸塩被覆黒鉛>
リン酸塩被覆黒鉛は、固体潤滑材として用いられる黒鉛をリン酸塩で被覆したものである。リン酸塩で黒鉛を被覆することにより、高温時のロータへの移着を高め、ロータ摩耗量を低減させるだけでなく、摩擦材の高温での耐摩耗性を向上させることができる。
【0015】
摩擦材におけるリン酸塩被覆黒鉛の含有量は適切な移着層の厚みを得る観点から1〜9体積%であることが好ましく、1〜6体積%がより好ましい。
【0016】
(黒鉛材料)
原料として用いる黒鉛材料としては、黒鉛材料をそのまま用いてもよいが、リン酸塩で被覆された黒鉛材料からなる固体潤滑材の耐熱性、耐酸化性を向上させる観点から、予め湿式法または乾式法による前処理が施されたものを用いることが好ましい。また、高温域での摩擦材の耐摩耗性を向上させる観点から、原料の黒鉛材料に予め前処理が施されていても良いし、単にリン酸塩水溶液に黒鉛材料を加え、所定の操作で得られたリン酸塩被覆された黒鉛粉末を前処理なしで用いても良い。
【0017】
(湿式法による黒鉛材料の前処理)
湿式法による黒鉛材料の前処理としては、例えば酸洗処理や陽極酸化処理などを用いることができる。酸洗処理の場合、具体的には、酸として濃度85質量%以上のリン酸を用い、黒鉛材料1質量部に対して1〜5質量部程度の上記リン酸を加え、40〜60℃程度の温度で1〜10分間程度酸洗処理を行う。酸洗処理後の黒鉛材料は、充分に水洗したのち、リン酸塩による表面処理に供する。
【0018】
この酸洗処理に用いる酸としては、機能面や環境面から、リン酸が好ましいが、硫酸や硝酸なども用いることができる。
【0019】
一方、陽極酸化処理の場合、具体的には硫酸浴などを用い、電極に4〜8V程度の電圧を印加し、浴温0〜10℃程度にて20〜50秒間程度、陽極酸化処理を行う。陽極酸化処理後の黒鉛材料は充分に水洗したのち、リン酸塩による表面処理に供する。本発明においては、装置や操作の簡便さの面から、酸洗処理が好ましい。
【0020】
(乾式法による黒鉛材料の前処理)
乾式法による黒鉛材料の前処理としては、例えば大気圧プラズマ処理、加熱処理、マイクロ波照射処理などを用いることができる。大気圧プラズマ処理の場合は、大気圧プラズマ発生装置を用いて、黒鉛材料にプラズマを照射することにより行われる。
【0021】
プラズマ処理方法としては、黒鉛粒子にプラズマを照射し得る方法であれば、特に限定されない。好ましくは大気圧又は大気圧近傍の圧力下で、高周波電圧を対向する電極間に印加することにより放電プラズマを発生させる大気圧プラズマ方法が簡便で有効である。
プラズマ発生源と黒鉛粒子との距離は10〜50mmが好ましく、20〜30mmがより好ましい。処理時間は、30〜180秒が好ましく、60〜120秒がより好ましい。
黒鉛粒子はプラズマ照射時にエアー圧力で吹飛ばされるため、容器はプラズマが照射する部分のみ孔が開いた容器を使用することが好ましい。
【0022】
加熱処理の場合、具体的には、空気雰囲気下、600〜1000℃程度の温度にて、1〜5時間程度加熱処理する。
【0023】
一方、マイクロ波照射処理の場合、電子レンジを用いることができる。電子レンジを使用する際には、例えば550Wの電力を印加し、10〜60秒間程度照射処理を行う。本発明においては、より効果を得られる点から、大気圧プラズマ処理が好ましい。
【0024】
(リン酸塩)
本発明の固体潤滑材において、黒鉛材料に被覆されるリン酸塩としては、その塩を構成する金属が、周期表(長周期型)の1族、2族、12族または13族に属する金属であることが好ましい。具体的には1族に属するNa、K;2族に属するMg;12族に属するZn;13族に属するAl;などを好ましく挙げることができる。
黒鉛材料の被覆に用いるリン酸塩としては、例えばリン酸アルミニウム類、リン酸マグネシウム類、リン酸カルシウム類、リン酸カリウム類、リン酸ナトリウム類およびリン酸亜鉛類からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これらのリン酸塩は、水溶性やpHなどの観点から、リン酸水素塩が好ましい。
【0025】
より具体的には、リン酸アルミニウム類として、リン酸二水素アルミニウム[Al(H
2PO
4)
3]、リン酸水素アルミニウム[Al
2(HPO
4)
3];リン酸マグネシウム類として、リン酸水素マグネシウム[MgHPO
4]、リン酸二水素マグネシウム[Mg(H
2PO
4)
2];リン酸カルシウム類として、リン酸二水素カルシウム[Ca(H
2PO
4)
2]、リン酸水素カルシウム[CaHPO
4]、リン酸三カルシウム[Ca
3(PO
4)
2]、リン酸亜鉛カルシウム[Zn
2Ca(PO
4)
2];リン酸カリウム類として、リン酸二水素カリウム[KH
2PO
4]、リン酸水素二カリウム[K
2HPO
4];リン酸ナトリウム類として、リン酸二水素ナトリウム[NaH
2PO
4]、リン酸水素二ナトリウム[Na
2HPO
4];リン酸亜鉛類として、リン酸水素亜鉛[ZnHPO
4]、リン酸二水素亜鉛[Zn(H
2PO
4)
2];等が挙げられる。
【0026】
これらのリン酸水素塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、性能の観点から、リン酸二水素アルミニウムおよびリン酸二水素マグネシウムが好ましく、特にリン酸二水素アルミニウムが好適である。
【0027】
上記リン酸水素塩を用いて、黒鉛をリン酸塩で被覆する方法については、例えば特開2011−102381号公報に記載の公知の方法を用いて被覆することができる。
【0028】
このようにしてリン酸塩で被覆された黒鉛は、その粒子表面に、通常厚さ5〜500nm程度、好ましくは20〜100nmのリン酸塩被覆層を有する。リン酸塩で被覆されていない黒鉛に比べて、耐熱、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能に優れた摩擦材を得ることができる。
【0029】
<セラミック繊維>
リン酸塩被覆黒鉛由来の移着被膜による潤滑作用を狙って、リン酸塩被覆黒鉛を多量に使用すると、形成される移着被膜の膜厚が厚くなりすぎる。その結果、制動時に移着被膜の亀裂やひび等が生じやすくなり、該亀裂等が引き金となって移着被膜が剥離しやすくなる。被膜が剥離すると、その分摩擦材とロータとの接触が不安定になることから、摩擦係数が低下してしまい、リン酸塩被覆黒鉛の効果が得られなくなる。
そこで、該移着被膜を適度な厚みに削るマイルドな研削材として、本発明ではセラミック繊維が好ましく用いられる。中でも、ショットを含むセラミック繊維がより好ましく用いられる。
【0030】
本発明において、セラミック繊維とは無機繊維の一種であり、Al
2O
3またはSiO
2成分を含有する原料を一般に使用される溶融紡糸法で製造される。通常、セラミック繊維には、製造過程で繊維にならなかったショット(粒状物)が繊維中に含まれていることが多い。
【0031】
またセラミック繊維は、人体への影響など健康影響の点から、SiO
2の他にCaOやMgOが含まれる、生体溶解性のセラミック繊維(以下、「生体溶解性無機繊維」と称することもある。)が好ましい。生体溶解性無機繊維については後述する。
【0032】
セラミック繊維の繊維径は0.1〜10μm、繊維長は1〜1000μmであることが分散性の点から好ましい。ここで、繊維径及び繊維長はJIS A9504により測定することができる。
【0033】
セラミック繊維に含まれるショット(繊維化していない直径45μm以上の粒状物)は、その形状からリン酸塩被覆黒鉛により形成された移着被膜をマイルドに程よく研削することができることから好ましい。セラミック繊維全体に対してショットが0.1〜70質量%含まれることが好ましい。
ショットの大きさは高温での効き(摩擦係数)を得る点から45〜300μmが好ましい。ショットの大きさはJIS Z8815準拠のロータップ振盪法により測定することができる。
【0034】
摩擦材におけるセラミック繊維の含有量はロータ攻撃性の点から1〜6体積%であることが好ましい。
【0035】
次に、セラミック繊維として生体溶解性無機繊維を使用する場合について詳述する。
生体溶解性無機繊維は、人体内に取り込まれた場合でも短時間で分解され体外に排出される特徴を有する無機繊維である。生体溶解性無機繊維は、その化学組成がアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)として18質量%以上であり、かつ、呼吸による短期バイオ永続性試験において20μm以下の繊維の質量半減期が10日以内である若しくは気管内注入時の短期バイオ永続性試験において20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内である、腹膜内試験において過度の発癌性の証拠が無い、又は長期呼吸試験において関連の病原性や腫瘍発生が無いことを満たす無機繊維を意味する(EU指令97/69/ECのNote Q(発癌性適用除外))。
【0036】
このような生体溶解性無機繊維は、化学組成として、SiO
2、MgO及びSrOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、具体的にはSiO
2−CaO−MgO系繊維やSiO
2−CaO−MgO−Al
2O
3系繊維、SiO
2−MgO−SrO系繊維等の生体溶解性セラミック繊維や生体溶解性ロックウール等が挙げられる。
【0037】
本発明において使用するセラミック繊維は、アルミナシリカ繊維と同等の優れた耐熱性を有し、さらに優れた生体溶解性及び耐水性を有する点で、生体溶解性セラミック繊維であるSiO
2−MgO−SrO系繊維が好ましい。また、これらの生体溶解性無機繊維は、無機繊維の原料を一般に使用される溶融紡糸法等により繊維化して製造される。
【0038】
SiO
2−CaO−MgO系繊維、SiO
2−CaO−MgO−Al
2O
3系繊維、SiO
2−MgO−SrO系繊維等の生体溶解性ロックウールや生体溶解性セラミック繊維としては、市販のRB220−Roxul1000(ラピナス社製)、ファインフレックス−E バルクファイバーT(ニチアス社製)、BIOSTARバルクファイバー(ITM社製)等が使用可能である。
【0039】
生体溶解性無機繊維は、繊維径0.1〜10μm、繊維長1〜1000μmであることが好ましく、繊維径0.2〜6μm、繊維長10〜850μmであることが更に好ましい。この範囲であれば、本発明の効果を有効に発揮することができる。
【0040】
また、本発明で用いることのできる生体溶解性無機繊維は、先述したように、一般にショットが繊維中に含まれている。これらのショット含有量は繊維基材中0.1〜70質量%であることが好ましい。ショット含有量が上記範囲よりも多いと、ディスクロータへの攻撃性が増大する。一方ショット含有量が上記範囲よりも少ないとディスクロータのクリーニング効果が期待できなくなる。なお、生体溶解性無機繊維とショットを製造過程で分離し、任意の比率で配合して使用することも可能である。
以上より、生体溶解性無機繊維としては、上記定義内であれば特に制限されない。また、生体溶解性無機繊維は、その表面にシランカップリング剤等により表面処理が施されていてもよい。
【0041】
<その他の成分>
先述したように、本発明に係る摩擦材には、リン酸塩被覆黒鉛以外の潤滑材、セラミック繊維以外の繊維基材も併用することができ、その他に公知の結合材、摩擦調整材が含まれていてもよい。
【0042】
(充填材)
有機充填材としては、例えば、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等からなる各種ゴムやタイヤトレッド、ゴムダスト、カシューダストなどの有機物ダスト等が挙げられる。
【0043】
無機充填材としては、例えば、バーミキュライト、マイカ、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、板状、鱗片状または粉状、複数の凸部形状を有するチタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。
【0044】
中でもチタン酸リチウムカリウムは、銅成分を含まない摩擦材において、移着被膜が形成されることから、高温における高摩擦係数が得られ、好ましい。
チタン酸リチウムカリウムは層状、柱状、板状などの形状が好ましく、効力安定化の点から層状であることが好ましい。なお、チタン酸リチウムカリウムの分子式はK
xLi
yTi
zO
wにおいてx=0.5〜0.7、y=0.27、z=1.73、w=3.85〜3.95などを使用することができる。
【0045】
チタン酸リチウムカリウムの含有量は、摩擦材全体に対して1〜30体積%であることが効力の安定化、フェード時の摩擦係数の低下の防止といったフェード特性向上の点から好ましく、3〜24体積%がより好ましい。
【0046】
また、摩擦材の強度を向上させるという観点から、上記のチタン酸塩の表面にシランカップリング剤等により表面処理が施されていてもよい。
【0047】
チタン酸カリウムの形状は複数の凸部形状を有することが、耐摩耗性の点から好ましい。ここで、複数の凸部形状を有するとは、チタン酸カリウムの平面への投影形状が少なくとも通常の多角形、円、楕円等とは異なり、2方向以上に凸部を有する形状を取りうるものであることを意味する。
凸部とは、光学乃至電子顕微鏡等による写真(投影図)に多角形、円、楕円等(基本図形)を当てはめ、それに対して突出した部分に対応する部分を言う。複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の具体的3次元形状としては、その投影図が、ブーメラン状、十字架状、アメーバ状、種々の動植物の部分(例えば、手、角、葉等)又はその全体形状、あるいはそれらの類似形状、金平糖状等が挙げられる。
中でも、チタン酸カリウムは複数の凸部形状を有する粒子状であることがより好ましい。
【0048】
有機充填材の含有量は、摩擦材中1〜20体積%であること好ましい。無機充填材の含有量は、摩擦材中1〜70体積%であることが好ましい。
また、充填材の総量としては、摩擦材中1〜75体積%であることが好ましい。
【0049】
(研削材)
研削材の粒径は小さいほどマイルドな研削材となるが、小さすぎると研削材としての役目を果たさなくなる。一方、粒径が大きいほど相手材を研削して摩擦係数を向上させるが、大きすぎると相手材を過剰に研削する。研削材の種類や形状、モース硬度に応じて、粒径や含有量を調整することが必要である。
【0050】
研削材としては例えば、アルミナ、シリカ、シリコンカーバイド、ムライト、酸化ジルコニウム、珪酸ジルコニウム、四三酸化鉄、マグネシア、クロマイト等を挙げることができる。
研削材全体の含有量は、摩擦材中通常1〜9体積%である。
【0051】
(金属粉)
金属粉としては、亜鉛、鉄、スズ、アルミニウム、Fe−Al金属間化合物等の銅以外の金属を使用することができる。金属粉の含有量は合計で、摩擦材中通常0.5〜3体積%である。
【0052】
(結合材)
結合材としては通常用いられる結合材が含まれていればよい。
具体的には、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、各種変性フェノール樹脂を含む)、エラストマー変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。なお、各種変性フェノール樹脂には炭化水素樹脂変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0053】
エラストマー変性フェノール樹脂において、フェノール樹脂を変性させるエラストマーはフェノール樹脂に可塑性を与えるものであればよく、架橋した天然ゴムや合成ゴムが例示される。
フェノール樹脂を変性させるエラストマーとしては、アクリルゴム、シリコーンゴム等が好ましく用いられる。
【0054】
エラストマー変性フェノール樹脂は摩擦材全体中に5〜20体積%含有することが好ましく、5〜15体積%含有することが更に好ましい。この範囲であれば、金属成分由来の凝着被膜が無くても、低温での摩擦係数の安定化を図ることができる。
なお、本発明において、結合材は合計して、摩擦材全体中、通常は5〜25体積%、好ましくは5〜20体積%用いられる。
【0055】
(繊維基材)
繊維基材としては、有機繊維として、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、セルロース繊維、ポリアクリル系繊維等が挙げられる。
また、セラミック繊維以外の無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール等が挙げられる。
金属繊維としては、スチール、アルミニウム、亜鉛、錫および錫合金、ステンレス等の繊維が挙げられる。
繊維基材全体の含有量は、摩擦材中通常2〜35体積%であり、好ましくは5〜28体積%である。
【0056】
(潤滑材)
リン酸塩被覆黒鉛以外の潤滑材としては、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化亜鉛、三硫化アンチモン等が挙げられる。
潤滑材全体の含有量は摩擦材中通常15体積%以下が好ましい。
【0057】
上記に摩擦材に含まれていてもよい各種成分を例示したが、成分各々において、1種を用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
<摩擦材の製造方法>
本発明に係る摩擦材を製造するには、上記各成分を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形し、熱成形、加熱、研摩等の処理を施すことにより製造することができる。上記摩擦材を備えたブレーキパッドは、以下の工程(1)〜(4)により製造することができる。
(1)鋼板(プレッシャプレート)を板金プレスにより所定の形状に成形する工程。
(2)所定の形状に成形された鋼板に脱脂処理、化成処理及びプライマー処理を施し、接着剤を塗布する工程。
(3)上記(1)および(2)の工程を経たプレッシャプレートと、上記摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において所定の温度及び圧力で熱成形して両部材を一体に固着する工程。
(4)その後アフタキュアを行い、最終的に研摩や表面焼き、塗装等の仕上げ処理を施す工程。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<実施例1〜5および比較例1〜5>
摩擦材の配合材料を表1に示す配合組成(体積%)に従って混合機にて均一に混合し、摩擦材混合物を得た。続いて摩擦材混合物を常温、圧力20MPaで10秒間予備成形した。成形後の予備成形品を熱成形型に投入し、予め接着剤を塗布した金属板(プレッシャープレート:P/P)を重ね、温度150℃、成形面圧40MPaで5分間加熱圧縮成形を行った。この加熱圧縮成形体に対し、温度150〜300℃で1〜4時間熱処理し、所定の厚みに研磨・塗装することで、実施例1〜5及び比較例1〜5に係る摩擦材を含むブレーキパッドを得た。
【0060】
リン酸塩被覆黒鉛は以下の手順により得た。
リン酸二水素アルミニウムを純粋で溶解し、濃度1質量%の水溶液を調製した。この水溶液100質量部に対し、人造黒鉛(東海カーボン社製、G152A(商品名)、平均粒径700μm)42質量部を加え、回転翼式攪拌機(アズワン社製、PM−203(機種名))により、温度50℃にて1時間攪拌した。
得られた混合物を大気中で24時間乾燥後、解砕したのち、真空中で800℃にて3時間熱処理を行った。熱処理後、乳鉢にて粉砕し、粒子表面がリン酸二水素アルミニウムで被覆された黒鉛粉末(リン酸塩被覆黒鉛)を得た。
【0061】
セラミック繊維は、ショット含有量30%のSiO
2−MgO−SrO系の生体溶解性繊維(株式会社ITM社製、Biostar600/70)を、チタン酸リチウムカリウムは層状・鱗片状のTERRACESS L−SS(大塚化学株式会社製)を、チタン酸カリウムは複数の凸部形状のTERRACESS JP(大塚化学株式会社製)をそれぞれ用いた。
【0062】
得られたブレーキパッドの評価方法を以下に示す。
(1)摩擦係数
JASO C427(温度別摩耗試験)に準拠した摩擦特性評価を1/7スケールテスタを用いて実施した。テストコードを表1に示す。500℃における摩擦係数μの平均を求めた結果を表2に示した。
なお、一般に摩擦係数μは、より高い方が好まれる。
【0063】
【表1】
【0064】
(2)摩耗量・摩耗評価
JASO C427(温度別摩耗試験)に準拠した摩擦特性評価を実施した後の、400℃と500℃におけるブレーキパッドの摩耗量及びディスクロータ(相手材)の摩耗量を評価した。結果を表2に示すが、この摩耗量は1000回制動相当の摩耗量である。なお、ディスクロータ材にはFC250相当を用いた。
なお、表2中の摩耗評価(500℃)とは、比較例1の500℃におけるパッド摩耗量に対して、−30%以下のものを◎、−30%より大きく−10%以下のものを○、−10%より大きく+10%未満のものを△、+10%以上のものを×で表している。また、性能評価(500℃)とは、500℃における摩擦係数が0.40以上であるものを○、0.40未満であるものを×で表している。
【0065】
【表2】
【0066】
比較例1のブレーキパッドは銅繊維を含有しており、配合組成はNAO(Non−Asbestos Organic)材の摩擦材として従来一般的に用いられる配合組成に相当するものである。ブレーキパッドに含まれる摩擦材から銅成分を排除すると、銅による凝着被膜が形成されないために、摩擦係数が低下し、パッド摩耗量が大きくなる。
これに対し、銅繊維の代わりにチタン酸リチウムカリウムを入れた比較例3及び比較例4では、比較的良好な摩擦係数が得られるものの、高温(500℃)におけるパッド摩耗量が増加する。比較例3に対し、比較例4はセラミック繊維を含むことで、高温におけるパッド摩耗量と摩擦係数は多少改善するが、比較例1と比べるとパッドを削り過ぎてしまう結果となった。
【0067】
比較例3及び比較例4に対し、実施例1〜5は黒鉛に代わって、又は、黒鉛と併用して、リン酸塩被覆黒鉛を潤滑材として使用し、併せてセラミック繊維も使用することにより、高温においても比較的良好な摩擦係数を維持したまま、高温におけるパッド摩耗量が著しく少ない良好な結果が得られることが分かる。比較例5のようにリン酸塩被覆黒鉛のみを使用し、セラミック繊維を使用しないと、実施例1に比べパッド摩耗量は大きく、摩擦係数は低い。
すなわち、良好な摩擦係数を維持したまま、高温におけるパッド摩耗量を少なくするという上記効果は、リン酸塩被覆黒鉛及びセラミック繊維を共に含むことによって得られる効果であるといえる。
【0068】
以上より、銅成分を含まない摩擦材において、リン酸塩被覆黒鉛及びセラミック繊維を含有することで、高温における摩擦係数の低下を防ぐことができる。また、セラミック繊維が適度に移着被膜を研削することから、該被膜が適度な厚さとなり、良好なパッド摩耗量が得られる。そのため、銅成分を含む従来の摩擦材と同等またはそれ以上の性能を示す、優れた摩擦材が得られることが分かった。