(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208533
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】水系ポリウレタン組成物及びこれの床下地コンクリートへの施工方法
(51)【国際特許分類】
C08G 18/40 20060101AFI20170925BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20170925BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20170925BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
C08G18/40 009
C08G18/42 088
C08G18/48 079
C08G18/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-221015(P2013-221015)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-81325(P2015-81325A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164862
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏一
(72)【発明者】
【氏名】鹿志村 晃太
(72)【発明者】
【氏名】地田 正宏
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩
(72)【発明者】
【氏名】若山 恵英
(72)【発明者】
【氏名】鹿毛 俊彦
【審査官】
小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−67419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/40
C08G 18/00
C08G 18/42
C08G 18/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール、触媒、ポリイソシアネート、セメント、骨材及び水を含有してなる水硬性ポリマーセメント組成物であって、ポリオールはヒマシ油変性3官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールから成り、触媒はイミダゾール化合物及びジモルホリノジエチルエーテルから成り、さらに水酸基当量が100〜200で1個の水酸基を有するアルコール化合物を含有し、ヒマシ油変性3官能ポリオール及びビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールは水酸基当量が250〜450であり、ビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールは水酸基当量が150〜250であり、セメント及び骨材の合計部数は組成物全体100重量部中の75〜90重量部であることを特徴とする水系ポリウレタン組成物。
【請求項2】
5℃下で混合し床下地コンクリート上に金鏝にて塗布可能な時間が混合直後から11分以上あり、5℃下で床下地コンクリート上に厚さ6〜9mmに塗布した際、塗布後の表面硬度がデュロメータDタイプで60となる時間が6時間以内であることを特徴とする請求項1記載の水系ポリウレタン組成物。
【請求項3】
床下地コンクリートの脆弱層を除去し、床下地コンクリートの際部に深さ7〜13mmで幅が7〜13mmの溝部を設け、対向する溝部と溝部との距離が12m超ある場合は、該溝部から12m以内毎に深さ7〜13mmで幅が7〜13mmの目地部を設け、該溝部内及び目地部内に請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物を充填しながら、床下地コンクリート上に直接、請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物を厚さ6〜9mmに塗布することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物の床下地コンクリートへの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬季の低温下においても塗布作業性が良好で且つ表面の硬化が速い水系ポリウレタン組成物及びこれの床下地コンクリートへの施工方法に関し、特には熱水が流下する食品工場等の床に適し、95℃の熱水が繰り返し流下しても塗膜が剥離することがなく、また重量物が落下しても塗膜が割れたり剥離したりすることがなく、さらには本発明の水系ポリウレタン組成物が施工され硬化した床が湿潤状態であっても歩行者が滑って転倒することがない水系ポリウレタン組成物及びこれの床下地コンクリートへの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、実用上十分な可使時間を持ち、低温硬化性に優れる硬化性ポリマーセメント組成物が提案されている(特許文献1)。該硬化性ポリマーセメント組成物は、ポリオール、触媒、ポリイソシアネート、セメント、骨材及び水を含有してなる硬化性ポリマーセメント組成物において、触媒として該特許文献1に記載の一般式(1)で表されるイミダゾール化合物及びジモルホリノジエチルエーテルを用いることを特徴とする硬化性ポリマーセメント組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−67419号公報
【0004】
しかしながら、該硬化性ポリマーセメント組成物は、低温硬化性に優れてはいるといっても、当該特許文献1に記載の技術的範囲では十分でない場合があり、また95℃の熱水が繰り返し流下する使用環境では塗膜が剥離したり、重量物が落下すると塗膜が割れて剥離したりすることがあり、さらには塗膜表面が樹脂で覆われているため、塗膜上に水が滞留していると歩行者が滑って転倒することがあるという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、5℃においても塗布作業性が良好で且つ表面硬化が速く、また95℃の熱水が繰り返し流下しても塗膜が剥離したり、重量物が落下すると塗膜が割れて剥離したりすることがなく、さらには本発明の水系ポリウレタン組成物が施工され硬化した床が湿潤状態であっても歩行者が滑って転倒することがない水系ポリウレタン組成物及びこれの床下地コンクリートへの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は,ポリオール、触媒、ポリイソシアネート、セメント、骨材及び水を含有してなる水硬性ポリマーセメント組成物であって、ポリオールはヒマシ油変性3官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールから成り、
触媒はイミダゾール化合物及びジモルホリノジエチルエーテルから成り、さらに水酸基当量が100〜200で1個の水酸基を有するアルコール化合物を含有し、ヒマシ油変性3官能ポリオール及びビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールは水酸基当量が250〜450であり、ビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールは水酸基当量が150〜250であり、セメント及び骨材の合計部数は組成物全体100重量部中の75〜90重量部であることを特徴とする水系ポリウレタン組成物を提供する。
【0007】
請求項2記載の発明は、5℃下で混合し床下地コンクリート上に金鏝にて塗布可能な時間が混合直後から11分以上あり、5℃下で床下地コンクリート上に厚さ6〜9mmに塗布した際、塗布後の表面硬度がデュロメータDタイプで60となる時間が6時間以内であることを特徴とする請求項1記載の水系ポリウレタン組成物を提供する。
【0008】
請求項3記載の発明は、床下地コンクリートの脆弱層を除去し、床下地コンクリートの際部に深さ7〜13mmで幅が7〜13mmの溝部を設け、対向する溝部と溝部との距離が12m超ある場合は、該溝部から12m以内毎に深さ7〜13mmで幅が7〜13mmの目地部を設け、該溝部内及び目地部内に請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物を充填しながら、床下地コンクリート上に直接、請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物を厚さ6〜9mmに塗布することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物の床下地コンクリートへの施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水系ポリウレタン組成物及びこれの床下地コンクリートへの施工方法は、冬季の5℃下で施工しても、セメント及び骨材の合計部数は組成物全体100重量部に対して75〜90重量部と多く、相対的に組成物全体に対するポリオール及びポリイソシアネートの配合量(樹脂配合量)が少ないため、塗布作業性が良好で且つ表面硬化が速く、また樹脂の収縮が塗膜の端部を持ち上げる力も小さくなるため、95℃の熱水が繰り返し流下しても塗膜が剥離することがないという効果がある。
【0010】
また、セメント及び骨材の合計部数は組成物全体100重量部に対して75〜90重量部と多いため、床下地コンクリート上に塗布し硬化した本発明の水系ポリウレタン組成物の塗膜表面には骨材が現れていて、例え塗膜表面が水等で濡れて湿潤状態であっても歩行者が滑って転倒することが無いという効果がある。
【0011】
また、ポリオールは、ヒマシ油変性3官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールから成り、さらに組成物には、水酸基当量が100〜200で1個の水酸基を有するアルコール化合物を含有し、ヒマシ油変性3官能ポリオール及びビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールは水酸基当量が250〜450であり、ビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールは水酸基当量が150〜250であることより、5℃下で塗布した塗膜の表面硬度はデュロメータDタイプで6時間以内に60となり、冬季であっても床を早期に使用に供することが出来る効果がある。このため冬季であっても床を一晩で改修することができる効果がある。
【0012】
また、本発明に係る水系ポリウレタン組成物を床下地コンクリート上に塗布するにあたって、床下地コンクリートの脆弱層を除去し、床下地コンクリートの際部に深さ7〜13mmで幅が7〜13mmの溝部を設け、対向する溝部と溝部との距離が12m超ある場合は、該溝部から12m以内毎に深さ7〜13mmで幅が7〜13mmの目地部を設け、該溝部内及び目地部内に請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物を充填しながら、床下地コンクリート上に直接、請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物を厚さ6〜9mmに塗布することで、樹脂の収縮を原因とする塗膜端部のカーリングによる剥離や、塗膜端部から少し離れた部分に生じる塗膜の浮きが生じないという効果がある。特に95℃程度の熱水が繰り返し流下する食品工場では、これらの剥離や浮きが生じないため長期にわたって床を健全な状態で使用し続けることができる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水系ポリウレタン組成物は、ポリオール、触媒、ポリイソシアネート、セメント、骨材及び水を含有してなる水硬性ポリマーセメント組成物であって、ポリオールはヒマシ油変性3官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールから成り、さらに水酸基当量が100〜200で1個の水酸基を有するアルコール化合物を含有し、ヒマシ油変性3官能ポリオール及びビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールは水酸基当量が250〜450であり、ビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールは水酸基当量が150〜250であり、セメント及び骨材の合計部数は組成物全体100重量部中の75〜90重量部であることを特徴とする水系ポリウレタン組成物であり、必要に応じてこれらの他に、顔料や希釈剤、及び分散剤、消泡剤等の添加剤が配合される。
【0015】
本発明の水系ポリウレタン組成物に使用されるポリオールは、ヒマシ油変性3官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールから成る。
【0016】
ヒマシ油変性3官能ポリオールは、ヒマシ油及びその誘導体で、例えばヒマシ油脂肪酸のジグリセライド、モノグリセライド及びそれらの混合物であり、水酸基数が3のポリオールである。本発明に使用するヒマシ油変性3官能ポリオールの水酸基当量は、250〜450が好ましく、250未満では水系ポリウレタン組成物としての硬化が速くなって作業性が不良となり、450超では水系ポリウレタン組成物として硬化後の強度が不十分となる。
【0017】
ビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールは、ビスフェノールA骨格を有するポリエポキシ化合物に活性水素化合物を反応させて得られるエポキシ開環ポリオールであり、水酸基当量は250〜450が好ましい。水酸基当量が250未満では水系ポリウレタン組成物としての硬化が速くなって作業性が不良となり、450超では水系ポリウレタン組成物として硬化後の強度が不十分となる。
【0018】
ビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルオールは、ビスフェノールAにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを1種または2種類以上付加反応させることにより得られるポリエーテルポリオールであり、水酸基当量は150〜250が好ましい。水酸基当量が150未満では水系ポリウレタン組成物としての硬化が速くなって作業性が不良となり、250超では水系ポリウレタン組成物として硬化後の強度が不十分となる。
【0019】
ポリオールのほかに本発明の水系ポリウレタン組成物には、さらに水酸基当量が100〜200で1個の水酸基を有するアルコール化合物を含有する。水酸基当量が100未満又は200超では、硬化時の消泡性が不十分となる。水酸基当量が100〜200のアルコール化合物としてはメントール(水酸基当量156)がある。
【0020】
本発明の水系ポリウレタン組成物に使用する触媒には、イミダゾール化合物及びジモルホリノジエチルエーテルを使用する。イミダゾール化合物としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等が挙げられ、特にはイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールがポリオールとの溶解性が良好であるため使用に適している。
【0021】
本発明の水系ポリウレタン組成物に使用するポリイソシアネートは、作業性が良好となり、また低温での速硬化性さらには硬化後の強度が高いことより、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネートを使用することが好ましいが、他の脂肪族ポリイソシアネートや芳香族ポリイソシアネートや脂環指揮ポリイソシアネート等も使用することもでき、また併用することも可能である。
【0022】
ポリオール及びアルコール化合物の水酸基一個に対するイソシアネート基の数は、5.5〜6.5が好ましく、5.5未満では硬化が遅延し、6.5超では硬化物に炭酸ガスによる発泡が生じる場合がある。
【0023】
本発明の水系ポリウレタン組成物に使用するセメントは、本発明の水系ポリウレタン組成物が床下地コンクリートに塗布し美観を付与することを目的としているため、特定の色調の付与できるように、主として白色ポルトランドセメントを使用することが好ましい。他に普通ポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント、早強ポルトランドセメントを併用することができる。セメントの配合量は組成物全体100重量部中の5〜10重量部である。
【0024】
本発明の水系ポリウレタン組成物に使用する骨材には、粒子径が1.0〜3.0mmのガイシ粉末と、粒子径が0.6〜2.36mmの硅砂と、粒子径が0.21〜1.18mmの硅砂と、粒子径が0.15〜0.85mmの硅砂を併用して使用する。ガイシ粉末は、ガイシの生産工場において破損若しくは廃棄されたガイシを粉砕処理したもので、陶磁器の持つ強度、耐摩耗性、耐熱性などを床に付与する効果がある。粒子径が1.0mm未満では床下地コンクリートへの塗布作業性が悪くなり、3.0mm超では組成物中への分散性及び硬化後の塗膜表面の凹凸が大きくなりすぎる。
【0025】
粒子径が0.6〜2.36mmの硅砂は3号硅砂が、粒子径が0.21〜1.18mmの硅砂は硅砂4号が、粒子径が0.15〜0.85mmの硅砂は5号硅砂がそれぞれ該当する。粒子径が1.0〜3.0mmのガイシ粉末と粒子径が0.6〜2.36mmの硅砂と、粒子径が0.21〜1.18mmの硅砂と、粒子径が0.15〜0.85mmの硅砂の併用比率は、重量で0.9〜1.1:0.9〜1.1:1.8〜2.2:1.8〜2.2が床下地コンクリートへの塗布作業性と強度発現及び耐衝撃性の観点から好ましい。ガイシ粉末及びこれらの硅砂の合計量が組成物全体に対する割合は、組成物全体100重量部中75〜90重量部である。75重量部未満では硬化物表面に樹脂が浮いて防滑性が低下し、90重量部超では塗布作業性が不良となる。
【0026】
本発明の水系ポリウレタン組成物には、上記のほかに消石灰を配合することが好ましい。該消石灰は、ポリイソシアネートと水とのウレア反応で発生する炭酸ガスを吸収し、組成物が床下地コンクリート上に塗布され硬化するまでに発生する炭酸ガスが特定部分に集中して塗膜を押上げて膨れを生じさせることを抑制する効果がある。
【0027】
本発明の水系ポリウレタン組成物は、床下地コンクリート上に塗布する際には、まず床下地コンクリート表面にあるレイタンス等の脆弱層をポリッシング等により除去し、床下地コンクリートの壁際やグレーチング周り等の床としての端部である際部にコンクリートカッター等により深さ7〜13mmで幅が7〜13mmの溝部を設けると共に、対向する溝部と溝部との距離が12m超ある場合は、該溝部から12m以内毎にコンクリートカッター等により深さ7〜13mmで幅が7〜13mmの目地部を設ける。その上で、該溝部内及び目地部内に請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物を充填しながら、床下地コンクリート上に直接、請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物を厚さ6〜9mmに塗布する。溝部から12m以内毎とは、一の溝部から12m以内に目地部を設け、次に該溝部と対向する他の溝部と該目地部との距離が12m超ある場合は、該目地部から12m以内にさらに目地部を設け、さらに該目地部と前記対向する他の溝部との距離が12m超ある場合は、さらに目地部を設けることを繰り返すことを意味し、結果的にすべての溝部と目地部との距離、及び目地部と目地部との距離を12m以内とすることを意味している。
【0028】
床下地コンクリートに溝部や目地部を設けるのは、本発明の水系ポリウレタン組成物は硬化反応によって樹脂が収縮し、結果として水系ポリウレタン組成物全体が収縮し、この収縮により床下地コンクリートより水系ポリウレタン組成物が剥離することを防止することを目的としている。該剥離は、床に熱水を流下させて洗浄する食品工場において顕著に発生する。溝部及び目地部の大きさは深さ7〜13mm、幅7〜13mmがコンクリートカッター等による作業と、剥離防止の観点より好ましい。また溝部から12m超毎に目地部を設けると、本発明の水系ポリウレタン組成物の硬化反応によって塗膜が収縮し、該収縮により溝部と目地部との間の中央付近または目地部と目地部との中央付近に、塗膜の収縮による剥離が発生し、該中央付近の塗膜が浮いた状態となる。
【0029】
また床下地コンクリート上に塗布する本発明の水系ポリウレタン組成物の厚さは、重量物が落下して塗膜が割れたり剥離したりする耐衝撃性の観点及び床下地コンクリート上への塗布作業性の観点から、6〜9mmが好ましい。6mm未満では塗布作業性及び耐衝撃性が不十分と成り、9mm超では樹脂の収縮力の絶対量が増して、上記溝部及び目地部を設けても塗膜が剥離したり浮きが発生したり場合がある。
【0030】
以下,実施例及び比較例にて具体的に説明する。
【実施例】
【0031】
実施例
水酸基当量が350のヒマシ油変性3官能ポリオールを10〜15重量部と、水酸基当量が360のビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールを10〜15重量部と、水酸基当量が180のビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールを5〜10重量部と、水酸基当量が156で1個の水酸基を有するアルコール化合物を1〜5重量部と、希釈剤としてスルホン酸エステル化合物(メザモール;商品名、バイエル社製)を25〜30重量部と、水(イオン交換水)30重量部とを含み全体として100重量部となる、ポリオールと希釈剤と水の混合物270重量部に着色トナー30重量部を混合して実施例の水系ポリウレタン組成物の主剤とした。なお、該主剤の市販品としてJJ−500TA(商品名、アイカ工業株式会社製)がある。またポリイソシアネートとして、クルードMDI(4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート) ルプラネートMB−5S(商品名、BASF INOACポリウレタン株式会社製、NCO重量%:31.4〜32.6%)300重量部を実施例の水系ポリウレタン組成物の硬化剤とした。また骨材には、ガイシ粉末として粒子径1.0〜3.0mmのセルベン(商品名、株式会社オクムラセラム製)450重量部と、粒子径0.6〜2.36mmの硅砂:乾燥硅砂3号(商品名、篠沢硅砂工業株式会社製)450重量部と、粒子径0.21〜1.18mmの硅砂:東北硅砂4号(商品名、東北硅砂株式会社製)900重量部と、粒子径0.15〜0.85mmの硅砂:東北硅砂5号(商品名、東北硅砂株式会社製)900重量部を使用し、セメントとして白色ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)を270重量部を使用して実施例の水系ポリウレタン組成物の骨材及びセメントとした。
【0032】
骨材とセメントは、上記ガイシ粉末と3種類の硅砂と白色ポルトランドセメントを予め均一に混合し、さらにこれらの他に消石灰30重量部を加えて実施例の水系ポリウレタン組成物のセメント骨材部とした。床下地コンクリートへの塗布及び下記評価項目の評価に当たっては上記実施例の主剤300重量部と実施例の硬化剤300重量部と実施例のセメント骨材部3000重量部にさらにイミダゾール化合物とジモルホリノジエチルエーテルと水を1:1:18で混合した触媒部JJ−500R(商品名、アイカ工業株式会社製)を配合し、該触媒部を主剤及び硬化剤及びセメント骨材部の合計3600重量部に対してさらに5重量%添加したものを実施例の水系ポリウレタン組成物とした。
【0033】
比較例1乃至比較例3
水酸基当量が350のヒマシ油変性3官能ポリオールを35〜40重量部と、水酸基当量が360のビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールを3〜8重量部と、希釈剤としてスルホン酸エステル化合物(メザモール;商品名、バイエル社製)を20〜25重量部と、水(イオン交換水)30重量部とを含み全体として100重量部となる、ポリオールと水の混合物270重量部に着色トナー30重量部を混合して比較例の水系ポリウレタン組成物の主剤とした。またポリイソシアネートとしてクルードMDI(4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート)ルプラネートMB−5S(商品名、BASF INOACポリウレタン株式会社製、NCO重量%:31.4〜32.6%)300重量部を比較例の水系ポリウレタン組成物の硬化剤とした。
【0034】
比較例の骨材とセメントは、実施例の骨材及びセメントと同一とし、比較例のセメント骨材部も実施例のセメント骨材部と同一とした。床下地コンクリートへの塗布及び下記評価項目の評価に当たっては比較例の主剤300重量部と比較例の硬化剤300重量部と比較例のセメント骨材部3000重量部にさらにイミダゾール化合物とジモルホリノジエチルエーテルと水を1:1:18で混合した触媒部JJ−500R(商品名、アイカ工業株式会社製)を配合し、該触媒部を主剤及び硬化剤及びセメント骨材部の合計3600重量部に対してさらに3重量%添加したものを比較例1の水系ポリウレタン組成物とし、該触媒部を同様にさらに5重量%添加したものを比較例2の水系ポリウレタン組成物とし、該触媒部を同様にさらに7重量%添加したものを比較例3の水系ポリウレタン組成物とした。
【0035】
評価項目及び評価方法
【0036】
5℃硬化性
5℃下において、床下地コンクリート上に、均一に混合した実施例及び比較例1乃至比較例3の水系ポリウレタン組成物を厚さ6〜9mmに金ゴテで塗布し、表面硬度がJISK7215に規定するデュロメータ硬さDタイプで60以上を示す時間が6時間以内を○として6時間超を×と評価した。
【0037】
5℃可使時間
5℃下において、床下地コンクリート上に均一に混合した実施例及び比較例1乃至比較例3の水系ポリウレタン組成物が厚さ6〜9mmに金ゴテで塗布できる時間を分単位で評価し、11分以上を○、10分以下を×と評価した。
【0038】
5℃表面仕上がり性
5℃下において、床下地コンクリート上に均一に混合した実施例及び比較例1乃至比較例3の水系ポリウレタン組成物を厚さ6〜9mmに金ゴテで塗布した際の塗膜の表面状態を目視にて観察し、平滑な仕上がりである場合を○とし、凹凸のある仕上がりとなっている場合を×と評価した。
【0039】
耐衝撃性
23℃下でJISA5371の300mm×300mm×厚さ60mmの乾燥したコンクリート平板(ケット水分計HI−520コンクリートレンジにて5%以下)の表面に、均一に混合した実施例及び比較例1乃至比較例3の水系ポリウレタン組成物を厚さ6〜9mmに金ゴテで塗布して7日間養生し、中央部に高さ1mから1kgの鋼球を30回落下させ、塗膜に割れ、剥がれ等の異常のないものを○、割れ、剥がれ等の異常が生じたものを×と評価した。
【0040】
耐熱衝撃性
JISA5371の300mm×300mm×厚さ60mmの乾燥したコンクリート平板(ケット水分計HI−520コンクリートレンジにて5%以下)を4分の1にカットして150mm×150mm×厚さ60mmの試験板とし、該の試験板の表面であって4面の木口より5mm内側に深さ10mm幅10mmの目地部を設ける。23℃下において該目地部に、均一に混合した実施例及び比較例1乃至比較例3の水系ポリウレタン組成物を充填しながら、厚さ6〜9mmに塗布し7日間養生する。その後試験体中央部に95℃熱水を5分流下させ次に20℃の冷水を10分流下させることを1サイクルとして4000サイクル繰り返し、塗膜に剥がれ、浮き等異常が生じないものを○、異常が生じたものを×と評価した。
【0041】
防滑性
23℃下でJISA5371の300mm×300mm×厚さ60mmの乾燥したコンクリート平板(ケット水分計HI−520コンクリートレンジにて5%以下)の表面に、均一に混合した実施例及び比較例1乃至比較例3の水系ポリウレタン組成物を厚さ6〜9mmに金ゴテで塗布して7日間養生し、塗膜表面が乾燥状態及び水で湿潤している状態のそれぞれについて、ポータブルスキッドレジスタンステスターにてBPN値を測定した。BPN値が40以上を○と評価した。
【0042】
付着性
23℃下でJISA5371の300mm×300mm×厚さ60mmの乾燥したコンクリート平板(ケット水分計HI−520コンクリートレンジにて5%以下)の表面に、均一に混合した実施例及び比較例1乃至比較例3の水系ポリウレタン組成物を厚さ6〜9mmに金ゴテで塗布して7日間養生し、建研式接着力試験器により、40×40mm部分の水系ポリウレタン組成物とコンクリート平板との付着強度を測定した。破壊状態は下地コンクリート100%凝集破壊を○と、それ以外を×と評価した。
【0043】
評価結果
評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
まとめ
実施例ではすべての評価項目において○評価となったが、比較例は5℃硬化性が×評価であるか、5℃可使時間及び表面仕上がり性が×評価であった。