(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208540
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 32/00 20060101AFI20170925BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20170925BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20170925BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20170925BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
B01J32/00
B01J23/63 AZAB
B01D53/94 241
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-224365(P2013-224365)
(22)【出願日】2013年10月29日
(65)【公開番号】特開2015-85241(P2015-85241A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2015年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】青木 悠生
(72)【発明者】
【氏名】久保 修一
【審査官】
磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−255029(JP,A)
【文献】
特開2002−316049(JP,A)
【文献】
特開平10−277389(JP,A)
【文献】
特開2004−243305(JP,A)
【文献】
特開2007−296514(JP,A)
【文献】
特開2013−072334(JP,A)
【文献】
特開2007−063057(JP,A)
【文献】
特表2013−517934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 32/00
B01D 53/94
B01J 23/63
F01N 3/10
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリア−ジルコニア複合酸化物粒子とθ相のアルミナ粒子とを含み、α相のアルミナ粒子及びγ相のアルミナ粒子を含まない、セリア−ジルコニア複合酸化物粒子の含有量が全体重量に対して25重量%以上であるモノリス基材に貴金属粒子が担持された排ガス浄化触媒。
【請求項2】
セリア−ジルコニア複合酸化物粒子がセリアを30重量%以上の量で含む、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
セリア−ジルコニア複合酸化物粒子がジルコニアを60重量%以下の量で含む、請求項1または2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
Cold−HCを低減させるための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い暖機性能と低い圧力損失の両方を実現した排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの内燃機関から排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、未燃の炭化水素(HC)などの有害ガスが含まれている。そのような有害ガスを分解する排ガス浄化触媒は三元触媒とも称され、コージェライトなどからなるハニカム状のモノリス基材に触媒活性を有する貴金属粒子を含むスラリーをウォッシュコートして触媒層を設けたものが一般的である。そのような触媒の性能を向上させるための試みはこれまで種々行われてきた。
【0003】
例えば特許文献1には、マグネシウムとホウ素を含有させることにより、より大きな細孔径を有するコージェライト製モノリス基材を製造することが提案されている。特許文献2には、貴金属粒子が担持された第1化合物と、第1化合物同士を互いに隔離する第2化合物とを含む構造とし、触媒を長期間使用した後においても貴金属同士が凝集せず大きい表面積を保持するようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−188404号公報
【特許文献2】特開2007−313498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
排ガス浄化触媒中の貴金属使用量の低減は、資源確保およびコスト低減などの観点から重要な命題といえる。しかし、基本的に触媒浄化性能は触媒活性点である貴金属の量に比例するため、貴金属使用量を低減すると触媒の浄化能が低下してしまう。
【0006】
特に、排ガス浄化触媒は、一般的に300℃程度である触媒活性化温度に達しないと十分な浄化性能を発揮しないため、エンジン始動直後に排出されるHC量(いわゆるCold−HC)をいかに低減させるかが重要な課題の一つとされている。貴金属使用量の低減のためには、まずCold−HCを低減させる手段を見出すことが必要となる。排ガス浄化触媒の性能向上の常套手段としてはモノリス基材の高セル化が挙げられるが、高セル化は排気管内の圧力損失を大きくし、エンジン出力の低下、燃費の低下などの弊害をもたらすため、あまり好ましくない。
【0007】
以上の観点から、本発明は、圧力損失を低く維持したまま暖機性能を高めた排ガス浄化触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上述したような問題を検討した結果、モノリス基材の材料としてセリア−ジルコニア複合酸化物とθ相のアルミナ粒子とを用いることにより、上記課題を解決した触媒が提供可能であることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)セリア−ジルコニア複合酸化物粒子とθ相のアルミナ粒子とを含み、セリア−ジルコニア複合酸化物粒子の含有量が全体重量に対して25重量%以上であるモノリス基材に貴金属粒子が担持された排ガス浄化触媒。
(2)セリア−ジルコニア複合酸化物粒子がセリアを30重量%以上の量で含む、(1)に記載の排ガス浄化触媒。
(3)セリア−ジルコニア複合酸化物粒子がジルコニアを60重量%以下の量で含む、(1)または(2)に記載の排ガス浄化触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モノリス基材の材料を変更したことにより、圧力損失を高めることなく、暖機性能を高めた排ガス浄化触媒を提供することができる。本発明によれば、従来品と同等以上の性能を維持しつつ貴金属使用量を低減した排ガス浄化触媒を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】比較例1および2ならびに実施例1の触媒の暖機性能評価結果をまとめたグラフである。
【
図2】比較例1および2ならびに実施例1の触媒の圧力損失の測定結果をまとめたグラフである。
【
図3】比較例1および2ならびに実施例1の触媒における特定流量時の圧力損失と触媒暖機性能値をプロットして、従来触媒に対する本発明の触媒の位置づけをマップ化した図である。
【
図4】CeO
2−ZrO
2(CZ)含有量と基材強度との関係を評価した結果をまとめたグラフである。
【
図5】実施例1の触媒のモノリス基材に用いたθ相のAl
2O
3粒子のX線回折像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の排ガス浄化触媒は、モノリス基材がセリア−ジルコニア複合酸化物粒子とθ相のアルミナ粒子(θアルミナ粒子)とを含むことを特徴とする。モノリス基材におけるセリア−ジルコニア複合酸化物粒子の含有量は、基材の全体重量に対して25重量%以上、好ましくは35重量%以上、特に好ましくは45重量%以上、とりわけ好ましくは50重量%以上である。そのような量でセリア−ジルコニア複合酸化物粒子を用いることにより、モノリス基材に十分な強度を与えることができる。
【0012】
セリア−ジルコニア複合酸化物は、従来排ガス浄化触媒において助触媒(酸素貯蔵材)として用いられている材料であり、その詳細は当業者には公知である。本発明におけるセリア−ジルコニア複合酸化物は、好ましくはセリアとジルコニアが固溶体を形成している。セリア−ジルコニア複合酸化物は、例えばセリウム塩(硝酸セリウムなど)とジルコニウム塩(オキシ硝酸ジルコニウムなど)を溶解させた水溶液に、アンモニア水を加えて共沈殿を生成させ、得られた沈殿物を乾燥させた後に400〜500℃で5時間程度焼成することにより調製することができる。
【0013】
セリア−ジルコニア複合酸化物は、セリウム以外の希土類元素から選択される元素をさらに含んでいてもよい。希土類元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)などが挙げられる。
【0014】
本発明で用いるセリア−ジルコニア複合酸化物は、セリアを30重量%以上、特に40重量%以上の量で含むことが好ましく、さらに90重量%以下、特に80重量%以下の量で含むことが好ましい。また、セリア−ジルコニア複合酸化物は、ジルコニアを60重量%以下、特に50重量%以下の量で含むことが好ましい。そのようなセリア−ジルコニア複合酸化物は熱容量が小さいため、モノリス基材の温度を上昇しやすくし、以って触媒の暖機性能を向上させることができる。
【0015】
θ相のアルミナ粒子をセリア−ジルコニア複合酸化物の仕切り材として用いることにより、マイクロメートルサイズの三次元網目状細孔(マクロ孔)およびナノメートルサイズの細孔(メソ孔)の両方を大きくすることができ、触媒の圧力損失を低下させることができる。アルミナ粒子をθ構造化することにより排ガス中でのアルミナ相変化を抑制できるため、より高い耐熱性が実現可能となる。
【0016】
本発明の排ガス浄化触媒は、上記のモノリス基材に貴金属粒子が担持されている構造を有する。貴金属粒子は、好ましくは白金族金属、特にPt、RhおよびPdから選択される金属である。貴金属粒子のモノリス基材への担持は、従来のように助触媒(酸素貯蔵材)や担体、バインダーなどと共に混合してスラリーを調製し、それをモノリス基材にウォッシュコートすることにより行ってもよいが、本発明のモノリス基材はそれ自体が助触媒や担体の機能を有するため、貴金属粒子を直接担持させても高い浄化性能が期待できる。特にCold−HC低減には三元触媒の低熱容量化が効果的であるため、ウォッシュコートを無くすことにより触媒を低熱容量化することができ、より高いHC浄化性能が望める。なお、貴金属は、硝酸パラジウムや塩化ロジウムなどの一般的な試薬を用いて担持することができる。
【0017】
モノリス基材は、材料は異なるものの、従来のコージェライト基材と同様の製造法により製造することができる。例えば、セリア−ジルコニア複合酸化物粒子とθ相のアルミナ粒子の混合物に水とバインダーを加え、混錬した後に押し出し機により成形し、乾燥および焼成することにより製造することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0019】
1.三元触媒の作製
表1に示した仕様に従って比較例1、比較例2および実施例1の触媒を作製した。比較例1および2の触媒は、所定のコージェライト基材上に触媒層をウォッシュコートした典型的な三元触媒であり、触媒浄化性能や圧力損失の比較のため作製した。ウォッシュコートは、いずれも基材容量に対してコーティング材料の総量が232g/Lとなるよう行った。
【0020】
実施例1の触媒は、コージェライト基材に代えてCeO
2−ZrO
2粒子とAl
2O
3粒子を用いて製造されたモノリス基材(気孔率48%、見かけ強度2MPa、セグメントかさ比重0.45g/ml、熱膨張率9ppm/K)を用いて作製した。
図5は、θ相を有するAl
2O
3粒子のX線回折像である。用いたAl
2O
3粒子は、X線回折像によりθ相を有することを予め確認した。なお、このモノリス基材は自らが触媒担体機能および助触媒機能を有すると考えられるため、ウォッシュコートは行わず、所定量の貴金属を直接基材に担持させた。具体的には、硝酸パラジウムと塩化ロジウムを必要量分散させた水溶液中に基材を浸漬させて一定時間放置することにより基材上に貴金属を担持させた。比較例1および2ならびに実施例1の触媒の基材容量はいずれも0.9Lとした。
【0021】
【表1】
【0022】
2.耐久試験
V8 4.6Lエンジン直下に、作製した比較例1および2ならびに実施例1の触媒をセットした。A/Fはサイクリックに変化する複合パターンとし、床温1000℃で50時間の耐久試験を行った。
【0023】
3.触媒評価
直列4気筒2.4Lエンジンに、上記2の耐久試験を終えた各触媒をセットし、ストイキエンジン始動からHC濃度が50%以下となる時間を測定し、触媒暖機性能を評価した。また、ブロアーと圧力センサを用いた簡易的な測定装置を用いて触媒の圧力損失を測定した。
【0024】
図1は触媒暖機性能の評価結果をまとめたグラフである。従来のウォッシュコートにより触媒層を設けた比較例1および2の触媒と比較して、実施例1の触媒は最も暖機性能に優れていた。
【0025】
図2は触媒の圧力損失の測定結果をまとめたグラフである。実施例1の触媒は、低メッシュ基材にウォッシュコートを行った従来品である比較例2の触媒と同等レベルの性能を有していた。
【0026】
図3は比較例1および2ならびに実施例1の触媒における特定流量時の圧力損失と触媒暖機性能値をプロットして、従来触媒に対する本発明の触媒の位置づけをマップ化した図である。本発明によれば、従来のトレードオフラインから性能が優れた側に大幅にシフト可能であることがわかる。
【0027】
4.モノリス基材強度評価
モノリス基材中のCeO
2−ZrO
2(CZ)含有量を変化させたモノリス基材を作製して曲げ強度を測定した。CZ含有量と基材強度との関係を評価した結果を
図4のグラフにまとめた。評価の結果、25重量%以上のCZを含有させることで高い基材強度が実現可能であると判断された。