(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項6に記載の動力伝達装置において、前記クラッチを外側方から覆うクラッチカバーと前記クランクケースとの合い面が、上方に向かって外側方に傾斜している動力伝達装置。
請求項5から8のいずれか一項に記載の動力伝達装置において、前記ポンプの外側端が、前記エンジンの回転軸に装着された発電機のカバーの外側端よりも車幅方向内側に位置している動力伝達装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、入力軸の近傍に、出力軸およびチェンジ機構が配置されているので、入力軸により駆動される別部材を入力軸の近くに配置するのが難しい。そのため、入力軸と別部材との間の伝達機構が複雑化し、別部材を含めた動力伝達装置も大形化する。
【0005】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、構造が簡単で、装置全体の小形化を図ることができる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の動力伝達装置は、駆動源の回転力が入力される入力軸と、被駆動部へ回転力を出力する出力軸と、前記入力軸から前記出力軸に回転力を伝達する複数の変速ギヤ対と、前記出力軸に支持されて、軸方向に移動することで前記入力軸から前記出力軸に回転力を伝達する変速ギヤを選択するスライダ部材と、前記スライダ部材を軸方向に移動させるシフタ機構と、前記入力軸から回転力が伝達される非変速軸とを備え、前記非変速軸が、前記出力軸の周方向における前記入力軸と前記シフタ機構との間に配置されている。ここで、「出力軸の周方向における入力軸とシフタ機構との間」とは、出力軸と入力軸とを結ぶ直線と、出力軸とシフタ機構とを結ぶ直線とで区画される扇形であって、中心角が180°以下の扇形の領域をいう。
【0007】
非変速軸および出力軸は入力軸から動力が伝達されるものであり、入力軸の周囲に配置されるが、この構成によれば、スライダ部材が出力軸に支持されているので、シフタ機構を入力軸に近接させる必要がない。そのため、入力軸とシフタ機構とを離して配置することができ、その間に
非変速軸を配置する。つまり、シフタ機構を入力軸から遠ざけた分、非変速軸を入力軸に近づけて配置できる。その結果、非変速軸と入力軸との間の伝達体が小形化される。
【0008】
本発明において、前記複数の変速ギヤ対は、前記入力軸に対して軸方向に移動不能で相対回転不能に支持された複数の入力側変速ギヤと、前記入力側変速ギヤとそれぞれ噛み合い、前記出力軸に対して軸方向に移動不能で相対回転可能に支持された複数の出力側変速ギヤとを有し、前記スライダ部材は、前記複数の出力側変速ギヤに対して選択的に係合可能であり、前記出力軸に対して軸方向に移動可能で相対回転不能に支持されていることが好ましい。この構成によれば、出力軸のみにスライダ部材を好適に配置できる。また、変速ギヤは軸方向に移動不能であるから、ギヤ自体を移動させる場合に比べて、ギヤの倒れを防いでピッチングを防ぐことができる。
【0009】
本発明において、前記入力軸から前記非変速軸に回転力を伝達する伝達体を有し、前記シフタ機構が、前記伝達体に対して、前記出力軸の周方向に間隔をあけて配置されていることが好ましい。この構成によれば、シフタ機構と伝達体とが軸方向から見て重なっていないので、伝達体を取り外さずに、シフタ機構にアクセスできる。その結果、シフタ機構のメンテナンス性が向上する。
【0010】
本発明の動力伝達装置をエンジンのクランクケース内に配置する場合、前記非変速軸を、前記エンジンの潤滑液または冷却液を循環させるポンプの回転軸とすることができる。この構成によれば、シフタ機構と入力軸とを離して配置できるから、入力軸の近くにスペースが確保されるので、エンジンを大形化させることなく、ポンプの容量をアップできる。
【0011】
本発明の動力伝達装置は自動二輪車に搭載する場合、前記入力軸、前記出力軸、前記ポンプの回転軸はそれぞれ車幅方向に延び、前記ポンプの回転軸は、前記シフタ機構の下端よりも上方に配置されていることが好ましい。この構成によれば、ポンプが上方に配置されるので、エンジン下部の車幅方向の寸法を小さくして、自動二輪車のバンク角を稼ぐことができる。
【0012】
動力伝達装置が自動二輪車に搭載される場合、前記シフタ機構は、前記入力軸に装着されるクラッチの外周縁よりも径方向外側に配置されていることが好ましい。この構成によれば、クラッチを取り外さずに、シフタ機構にアクセスできるので、シフタ機構のメンテナンス性が向上する。
【0013】
シフタ機構がクラッチの径方向外側に配置される場合、前記クラッチを外側方から覆うクラッチカバーと前記クランクケースとの合い面が、上方に向かって外側方に傾斜していることが好ましい。この構成によれば、クラッチカバーの下部を車幅方向内側に配置できるので、エンジン下部の車幅方向の寸法を小さくして、自動二輪車のバンク角を稼ぐことができる。
【0014】
動力伝達装置が自動二輪車に搭載される場合、前記シフタ機構は、前記ポンプの回転軸よりも後方に配置され、ライダー用フットステップに形成されるチェンジ操作部から前記シフタ機構に変速操作が伝達されることが好ましい。この構成によれば、チェンジ操作部とシフタ機構との距離が短くなるので、伝達経路が簡素化する。
【0015】
動力伝達装置が自動二輪車に搭載される場合、前記ポンプの外側端が、前記エンジンの回転軸
に装着された発電機のカバーの外側端よりも車幅方向内側に位置していることが
好ましい。この構成によれば、発電機のカバーによりポンプが保護される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の動力伝達装置によれば、スライダ部材が出力軸に支持されているので、シフタ機構を入力軸に近接させる必要がない。そのため、入力軸とシフタ機構とを離して配置することができ、その間に非変速機を配置する。このように、シフタ機構を入力軸から遠ざけた分、非変速軸を入力軸に近づけて配置できる結果、非変速軸と入力軸との間の伝達体が小形化される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書において、「左側」および「右側」は、車両に乗車した運転者から見た左右側をいう。
【0019】
図1は本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置を搭載した自動二輪車の側面図である。この自動二輪車の車体フレームFRは、前半部を形成するメインフレーム1と、後半部を形成するシートレール2とを有している。シートレール2は、メインフレーム1の後部に取り付けられている。メインフレーム1の前端にヘッドパイプ4が設けられ、このヘッドパイプ4にステアリングシャフト(図示せず)を介してフロントフォーク8が回動自在に軸支されている。フロントフォーク8の下端部に前輪10が取り付けられ、フロントフォーク8の上端部に操向用のハンドル6が固定されている。
【0020】
一方、車体フレームFRの中央下部であるメインフレーム1の後端部に、スイングアームブラケット9が設けられている。このスイングアームブラケット9に取り付けたピボット軸16の回りに、スイングアーム12が上下揺動自在に軸支されている。このスイングアーム12の後端部に、後輪14が回転自在に支持されている。車体フレームFRの中央下部でスイングアームブラケット9の前側に、駆動源であるエンジンEが取り付けられている。エンジンEがドライブチェーン11を介して被駆動部である後輪14を駆動する。エンジンEは、4気筒4サイクルの並列多気筒水冷エンジンである。ただし、エンジンEの形式はこれに限定されるものではない。
【0021】
エンジンEは、左右方向(車幅方向)に延びる回転軸を有するクランク軸26と、クランク軸26を支持するクランクケース28と、その下方のオイルパン29と、クランクケース28の上面から上方に突出したシリンダブロック30と、その上方のシリンダヘッド32とを有している。クランクケース28の後部は、変速装置20を収容するミッションケースを兼ねている。つまり、変速装置20はクランクケース28内に配置されている。クランク軸26の左端部に発電機23(
図2)が設けられ、クランクケース28の左側面に、この発電機を外側方から覆う発電機カバー27が取り付けられている。
【0022】
クランクケース28の左側面における発電機カバー27の後方斜め下方に、エンジンEを循環する冷却液用および潤滑液用のポンプ25が配置されている。つまり、本実施形態では、冷却液ポンプと潤滑液ポンプが同一軸上に隣接して形成される。具体的には、1つのポンプ回転軸100に、冷却液用と潤滑液用のインペラがそれぞれ形成されている。
【0023】
潤滑液は、オイルパン29および被潤滑部を含む循環経路を循環する潤滑オイルであって、軸受部やピストン部等の被潤滑部に供給されることで、エンジンの潤滑と冷却に用いられる。冷却液は、ラジエータ、オイルクーラ、シリンダ内のウォータジャケットを含む循環経路を循環する冷却水であって、エンジンの熱を奪うために用いられる。ポンプ25の詳細は後述する。
【0024】
シリンダヘッド32の前面の4つの排気ポート35に、4本の排気管36が接続されている。これら4本の排気管36が、エンジンEの下方で集合され、後輪14の右側に配置された排気マフラー38に接続されている。
【0025】
メインフレーム1の上部に燃料タンク15が配置され、シートレール2に操縦者用シート18および同乗車用シート19が支持されている。また、車体前部に、樹脂製のカウリング22が装着されている。カウリング22は、前記ヘッドパイプ4の前方から車体前部の側方にかけての部分を覆っている。カウリング22には、空気取入口24が形成されている。空気取入口24は、カウリング22の前端に位置し、外部からエンジンEへの吸気を取り入れる。
【0026】
車体フレームFRの左側に、吸気ダクト50が配置されている。吸気ダクト50は、前端開口50aをカウリング22の空気取入口24に臨ませた配置でヘッドパイプ4に支持されている。吸気ダクト50の前端開口50aから導入された空気は、ラム効果により昇圧される。
【0027】
シリンダブロック30の後方でクランクケース28の上面に、外気を浄化するエアクリーナ40および過給機42が、エアクリーナ40を外側にして車幅方向に並んで配置されている。吸気ダクト50は、エンジンEの前方からシリンダブロック30およびシリンダヘッド32の左外側方を通過して、エアクリーナ40に走行風Aを吸気Iとして導いている。過給機42は、エアクリーナ40からの清浄空気を加圧してエンジンEに供給する。
【0028】
過給機42とエンジンEの吸気ポート54との間に、吸気チャンバ52が配置され、過給機42の吐出口48と吸気チャンバ52とが直接接続されている。吸気チャンバ52は、過給機42の吐出口48から供給された高圧の吸気Iを貯留する。吸気チャンバ52と吸気ポート54との間には、スロットルボディ44が配置されている。
【0029】
吸気チャンバ52は、過給機42およびスロットルボディ44の上方に配置されている。吸気チャンバ52およびスロットルボディ44の上方に、前記燃料タンク15が配置されている。
【0030】
エンジンEの後方に、ライダー用のフットステップ45が設けられ、このフットステップ45にチェンジペダル46(チェンジ操作部)が連結されている。ライダーが、チェンジペダル46を足で踏みこむと、この踏込力が、チェンジペダル46からロッド47を介して、後述のシフタ機構82に伝達されて、変速操作が行われる。
【0031】
図2に示すように、変速装置20は、エンジンEのクランク軸26の回転力が入力される入力軸60と、後輪14(
図1)へ回転力を出力する出力軸70とを有している。入力軸60には、クラッチ56を介してクランク軸26の回転が入力される。
【0032】
クラッチ56は、クランク軸26に設けられたクラッチギヤ58にギヤ連結されている。クラッチ56の外側方は、クランクケース28に取り付けられたクラッチカバー57により覆われている。
図5に示すように、このクラッチカバー57とクランクケース28との合い面55は上方に向かって外側方に傾斜している。
【0033】
入力軸60に、6つの入力側変速ギヤ61〜66が、軸方向に移動不能で相対回転不能に支持されている。出力軸70には、入力側変速ギヤ61〜66にそれぞれ噛み合う6つの出力側変速ギヤ71〜76が、軸方向に移動不能で相対回転可能に支持されている。変速ギヤの数はこれに限定されない。これら入力側変速ギヤ61〜66と出力側変速ギヤ71〜76とで、入力軸60から出力軸
70に回転力を伝達する変速ギヤ対69を構成している。
【0034】
出力軸70の外周に、リング85を介して入力軸60から出力軸70に回転力を伝達する変速ギヤ対69を選択する環状のスライダ部材80が支持されている。スライダ部材80は、入力軸60を除く位置、具体的には、出力軸70のみに配置されている。スライダ部材80は、出力軸70に対して軸方向に移動可能で相対回転不能に支持されている。スライダ部材80は、出力側1速ギヤ71と出力側2速ギヤ72との間、出力側3速ギヤ73と出力側4速ギヤ74との間、出力側5速ギヤ75と出力側6速ギヤ76との間の3か所に設けられている。
【0035】
各出力側変速ギヤ71〜76には、隣接するスライダ部材80に向かって延びる係合突部からなるドグ爪71a〜76aが形成され、各スライダ部材80には、軸方向に貫通孔からなるドグ孔80aが形成されている。ドグ爪71a〜76aおよびドグ孔80aは周方向に間隔をあけて複数個、例えば、5つ設けられている。さらに、各スライダ部材80の外周面に、環状の溝からなる被係合部80bが形成されている。
【0036】
変速装置20は、さらに、スライダ部材80を軸方向に移動させるシフタ機構82を備えている。シフタ機構82は、前記ロッド47を介してチェンジペダル46(
図1)からの踏込力(変速操作)が入力されるチェンジドラム84と、チェンジドラム84の外周面に形成された案内溝(図示せず)に案内されてスライダ部材80を軸方向に移動させるシフトフォーク86と、シフトフォーク86が軸方向に移動自在に組み付けられたシフトロッド88とを有している。シフトフォーク86は、各スライダ部材80に対応して3つ設けられている。
【0037】
図3は、変速装置20を左側から見た図である。同図に示すように、各シフトフォーク86は、シフトロッド88に支持される基部90と、基部90から二股に分かれてスライダ部材80の外周に沿って延びる2つの円弧状の枝部92,92とを有している。枝部92,92の先端には、各スライダ部材80の被係合部80b(
図2)に係合する係合部92aが形成されている。
【0038】
シフトフォーク86の基部90に、軸方向を向いた貫通孔90aが形成され、この貫通孔90aにシフトロッド88を挿通することで、シフトフォーク86がシフトロッド88に軸方向に移動自在に支持される。さらに、シフトフォーク86の基部90に、チェンジドラム84に向かって前方斜め下方に延びるピン94が形成されている。ピン94は、チェンジドラム84の外周の案内溝(図示せず)に嵌合されている。
【0039】
図2に示すチェンジドラム84の車幅方向外側端に、レバー96およびギヤシフトシャフト98を介して、前記ロッド47が連結されている。つまり、
図1のチェンジペダル46を足で踏みこむと、この踏込力がチェンジペダル46からロッド47、ギヤシフト軸98およびレバー96を介して、
図2のチェンジドラム84に伝達されてチェンジドラム84が回動する。
【0040】
チェンジドラムドラム84が回動すると、チェンジドラム84の回動に応じてシフトフォーク86がシフトロッド88上を左右方向(軸方向)に移動する。シフトフォーク86が移動すると、選択されたシフトフォーク86の係合部92a(
図3)がスライダ部材80の被係合部80bに係合し、スライダ部材80を出力軸70に対して軸方向に移動させる。
【0041】
スライダ部材80が軸方向に移動すると、選択されたスライダ部材80のドグ孔80aが、対応する出力側変速ギヤ71〜76のドグ爪71a〜76aに噛み合う。このようにして、任意の出力側変速ギヤ71〜76が選択可能となっており、選択された出力側変速ギヤ71〜76を介して、クランクシャフト26の回転力が出力軸70に伝達される。
【0042】
図4は、エンジンEを右側から見た側面図である。
図4は、クラッチカバー57を取り外した状態を示している。同図に示すように、前記ポンプ25(
図1)のポンプ回転軸100は、入力軸60から回転が伝達されている。詳細には、入力軸60およびポンプ回転軸100の右側端部にそれぞれプーリ104,106が固定され、これらプーリ104,106に架け渡された伝達体であるチェーン102を介して、入力軸60の回転がポンプ回転軸100に伝達される。
【0043】
ポンプ回転軸100は、変速装置20の入力軸60から動力が与えられているが、変速動作には寄与しない。また、ポンプ回転軸100は、入力軸60に1つの伝達経路102で変速切替え不能に接続されており、入力軸60からの回転を変速できない。つまり、ポンプ回転軸100は非変速軸である。
【0044】
図1に示すように、ポンプ25は、変速装置20の出力軸70の下方でチェンジドラム84の前方に配置されている。
図2のポンプ25の外側端25aは、発電機カバー27の外側端27aよりも車幅方向内側に位置している。
【0045】
図3に示すように、ポンプ回転軸100は、出力軸70の周方向における入力軸60とチェンジドラム84の回転軸84aとの間に配置されている。ここで、「出力軸70の周方向における入力軸60とチェンジドラム84の回転軸84aとの間」とは、出力軸70と入力軸60とを結ぶ直線L1と、出力軸70とチェンジドラム84の回転軸84aとを結ぶ直線L2とで区画される扇形であって、中心角が180°以下の扇形の領域Rをいう。
【0046】
換言すれば、入力軸60と出力軸70とを通過する仮想平面Vに対して、仮想平面Vを境界とする2つの領域S1、S2における同じ側S1に、ポンプ回転軸100とチェンジドラム84の回転軸84aとが配置される。本実施形態では、仮想平面Vの下側の領域に、ポンプ回転軸100とチェンジドラム84とが配置されている。これにより、ミッションケースが上方に突出するのを防ぐことができ、過給機42をミッションケースの上面に配置しやすい。
【0047】
このように、ポンプ回転軸100とチェンジドラム84の回転軸84aとが出力軸70の周方向にずれて配置されているので、ポンプ25を径方向および軸方向に大形化できるうえに、ポンプ25のインペラ(図示せず)をクランクケース26の内側に配置しやすい。また、ポンプ25とチェンジドラム84との干渉を防ぐことで、エンジンEを大形化することなく、ポンプを大形化できる。
【0048】
チェンジドラム84の回転軸84aは、出力軸70の軸心70aよりも後方に配置されている。チェンジドラム84は、ポンプ回転軸100よりも後方に配置され、チェンジドラム84の回転軸84aとポンプ回転軸100とはほぼ水平方向に並んで配置されている。ポンプ回転軸100をチェンジドラム84の下端よりも上方に配置してもよい。このように、ポンプ25を上方に配置することで、エンジン下部の車幅方向寸法が小さくなって、自動二輪車のバンク角を稼ぐことができる。
【0049】
入力軸60の下方かつ後方に出力軸70が配置され、ポンプ回転軸100は、出力軸
70よりも前方に配置されている。これにより、出力軸70との干渉を防いで、ポンプ回転軸100を上方に配置しやすい。また、入力軸60の軸心60aからチェンジドラム84の回転軸84aまでの距離よりも、入力軸60の軸心60aからポンプ回転軸100の軸心100aまでの距離の方が短い。さらに、出力軸70の軸心70aからポンプ回転軸100の軸心100aまでの距離よりも、出力軸70の軸心70aからチェンジドラム84の回転軸84aまでの距離のほうが短い。
【0050】
つまり、チェンジドラム84の回転軸84aは、ポンプ回転軸100よりも出力軸70に近接して配置され、かつ、チェンジドラム84の回転軸84aは、出力軸70を挟んで入力軸60とほぼ反対側に配置されている。
【0051】
図4に示すように、チェンジドラム84およびシフトロッド88は、チェーン102に対して、出力軸
70の周方向に間隔をあけて配置されている。換言すれば、チェンジドラム84およびシフトロッド88は、軸方向から見てチェーン102と重なっていない。さらに、チェンジドラム84およびシフトロッド88は、入力軸60に装着されるクラッチ56の外周縁よりも径方向外側に配置されている。換言すれば、チェンジドラム84およびシフトロッド88は、軸方向から見てクラッチ56とも重なっていない。
【0052】
上記構成において、
図3のポンプ回転軸100および出力軸70は入力軸
60から動力が伝達されるものであり、入力軸
60の周囲に配置されるが、
図2のスライダ部材80が出力軸70のみに支持されているので、シフタ機構82を入力軸60に近接させる必要がない。そのため、入力軸60とシフタ機構82とを離して配置することができ、その間にポンプ25を配置する。つまり、シフタ機構82を入力軸60から遠ざけた分、ポンプ回転軸100を入力軸60に近づけて配置できる。その結果、ポンプ回転軸100と入力軸60との間の伝達体102が小形化される。
【0053】
このように、シフタ機構82と入力軸60とを離して配置できるから、入力軸60の近くにスペースが確保されるので、エンジンEを大形化させることなく、ポンプ25の容量をアップできる。ポンプ25は、ポンプ回転軸100の径方向だけでなく軸方向内側にも大形化できる。このように、ポンプ25を軸方向内側に大形化することで、ポンプ25を大形化しても、ポンプ25がエンジンの外面から外側方に突出するのを防ぐことができ、バンク角を稼ぐことができる。さらに、潤滑用と冷却用の2つのポンプのインペラを軸方向に並べても、ポンプ25のエンジン外面からの突出量を抑制できる。
【0054】
図2の出力用変速ギヤ71〜76は軸方向に移動不能であるから、変速操作を行っても、ギヤ自体に倒れが生じることがなく、ギヤの歯当たりが良好に維持されてピッチングを防ぐことができる。また、各変速ギヤ71〜76が軸方向に固定されているので、各軸の軸長を短く保つことができ、軸径を小さくして軸を軽量化できるとともに、運転中の負荷によって軸がたわむのも抑制できて、シフトタッチもスムースになる。さらに、出力軸70のみにスライダ部材80を設けているので、シフトロッド88を1本にまとめることができる。また、各変速ギヤ71〜76にドグ爪71a〜76aを形成することで、係合凹部を設ける場合に比べて、各変速ギヤ71〜76の強度が向上する。
【0055】
図4のチェンジドラム84およびシフトロッド88とチェーン102とが軸方向から見て重なっていないので、チェーン102を取り外さずに、チェンジドラム84およびシフトロッド88にアクセスできる。その結果、シフタ機構82のメンテナンス性が向上する。
【0056】
チェンジドラム84およびシフトロッド88が、クラッチ56の外周縁よりも径方向外側に配置されているので、クラッチ56を取り外さずに、チェンジドラム84およびシフトロッド88にアクセスできるので、シフタ機構82のメンテナンス性が向上する。
【0057】
図5に示すように、クラッチカバー57とクランクケース28との合い面55が、上方に向かって外側方に傾斜しているので、クラッチカバー57の下部を車幅方向内側に配置できる。これにより、エンジン下部の車幅方向の寸法が小さくなって、自動二輪車のバンク角を稼ぐことができる。
【0058】
図1に示すように、チェンジドラム84はポンプ回転軸100よりも後方に配置されているので、チェンジペダル46とチェンジドラム84との距離が短くなる。これにより、チェンジペダル46とチェンジドラム84との間の伝達経路であるロッド47が短くなる。
【0059】
図2のポンプ25の外側端25aが、発電機カバー27の外側端27aよりも車幅方向内側に位置しているので、発電機カバー27によりポンプ25が保護される。
【0060】
本発明の動力伝達装置は、高いポンプ能力が必要な高出力、高回転型のエンジンに好適に適用される。具体的には、過給機を備えるエンジンに好適に用いられる。また、過給機、ピストン、変速装置に潤滑用・冷却用オイルを循環させるエンジンに好適に用いられる。
【0061】
上記実施形態では、ポンプ25の大形化が可能であるので、潤滑油、冷却水の供給圧力を大きくできる。これにより、潤滑性能および冷却性能が向上ないし安定する。例えば、過給機の潤滑、エンジンから過給機への動力伝達部の潤滑、変速ギヤの歯面への潤滑油噴射、ピストン底面への潤滑油噴射等により、上記実施形態のエンジンは、低出力エンジンに比べて潤滑油の供給圧力の向上が望まれる。同様に、エンジンの高出力化にともなう温度上昇に対応するために、オイルクーラ、ウォータジャケット等に対する冷却水の循環量の増加が望まれる。また、吸気を冷却するためにインタークーラが用いられる場合には、さらなる冷却水循環量の増加が望まれる。このような高出力エンジンに、本発明の変速装置は、特に好適に用いられる。
【0062】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。上記実施形態では、シフタ機構としてチェンジドラムを用いているが、これに限定されず、例えば、モータを用いてもよい。また、アクチュエータを用いてライダー操作とは無関係に変速駆動することもできる。さらに、上記実施形態では、非変速軸がポンプ回転軸である例を説明したが、ポンプ以外の装置であってもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、スライダ部材80を出力側変速ギヤ71〜76と別部材としているが、出力側変速ギヤ自体をスライダ部材としてもよい。出力側変速ギヤ71〜76に、ドグ爪71a〜76aに代えて係合凹部を設けて、軽量化を図ってもよい。さらに、駆動源はエンジンに限定されず、例えば、電気モータであってもよい。本発明の動力伝達装置は自動二輪車に好適に用いられるが、自動二輪車以外の車両、船舶等のエンジンにも適用可能で、さらに、地上設置のエンジンにも適用できる。また、本発明の動力伝達装置は、過給機を搭載しないエンジンに対しても適用でき、さらに、空冷式エンジンにも適用できる。この場合、ポンプは潤滑のみに用いられる。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。