(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記非水電解質は、前記分子内にニトリル基を有する化合物として、前記一般式(1)で表され、かつ前記一般式(1)におけるnが3または4である化合物を含有している請求項2に記載のリチウム二次電池。
前記非水電解質は、前記負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物として、2−プロピニルジエチルホスホノアセテート、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、ビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有している請求項1〜3のいずれかに記載のリチウム二次電池。
前記非水電解質は、前記負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物として、2−プロピニルジエチルホスホノアセテートを含有している請求項4に記載のリチウム二次電池。
前記非水電解質は、前記負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物として、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを含有している請求項4または5に記載のリチウム二次電池。
前記非水電解質は、前記負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物として、ビニレンカーボネートを含有している請求項4〜6のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記の通り、ニトリル化合物は、非水電解質の添加剤として用いられることで、非水二次電池の貯蔵特性(充電状態としたリチウム二次電池の高温環境下での貯蔵特性)や安全性の向上に寄与する一方で、常温下での充放電サイクル特性を低下させてしまう。
【0015】
そこで、本発明では、特定量のニトリル化合物と共に、特定量のLiBOBと、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物とを添加剤として含有する非水電解質を使用することとした。
【0016】
LiBOBと、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物とは、いずれも電池が充放電されることで、負極表面に皮膜を形成する作用を有している。これらの化合物によって負極表面に形成される皮膜によって、リチウム二次電池の充放電を繰り返したときの、負極表面でのニトリル化合物をはじめとする非水電解質成分の分解反応が抑制されることから、かかる分解反応によって生じ得る容量低下を抑えることができる。
【0017】
しかも、LiBOBは負極での還元電位が金属Li電位に対して1.5V程度であることから、LiBOBおよび負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物を含有する非水電解質を用いた電池では、充放電によって、まず、LiBOBが優先的に負極表面に皮膜を形成する。負極表面に形成されるLiBOB由来の皮膜は強固であり、かつリチウムイオン伝導性を有していることから、負極表面での非水電解質成分の分解反応を良好に抑制する一方で、電池反応は阻害しない。
【0018】
また、優先的に負極表面に形成されるLiBOB由来の皮膜は、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物の皮膜形成反応を抑制する。そのため、非水二次電池の使用を開始してから比較的長期にわたって、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物が、そのまま非水電解質に残存する。そして、非水二次電池の充放電を多数繰り返すことで、負極表面に形成されたLiBOB由来の皮膜に欠陥が生じた場合に、この欠陥部分で、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物が負極と反応して皮膜を形成し、これにより、継続して負極表面での非水電解質成分の分解反応が抑制される。
【0019】
このように、本発明のリチウム二次電池では、LiBOBと負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物とが段階的に負極表面で皮膜を形成するため、充放電を繰り返しても長期にわたって負極での非水電解質成分の分解反応を抑制し得ることから、優れた充放電サイクル特性を確保することができる。
【0020】
なお、例えば、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物を含有する非水電解質を用いた非水二次電池では、例えば、それを電源とする携帯機器などの使用が進んだ状態で車内に放置するなどした場合のように、放電状態で高温下に貯蔵すると、負極の電位が高いために、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物による還元反応が進んで、電池電圧が低下しやすい(すなわち、過放電状態となりやすい)。このような状態となった電池を有する携帯機器では電源が入らなくなるため、こうした現象を抑制することも求められる。また、本発明者らの検討によって、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物と共に、ニトリル化合物を添加剤として含有する非水電解質を用いた電池では、前記の過放電状態となる現象が、より発生しやすいことが判明した。
【0021】
しかしながら、負極での還元電位が1.3V以下の化合物および特定量のニトリル化合物と共に、特定量のLiBOBを含有する非水電解質を用いた場合には、前記のような過放電状態となる現象の発生を抑えることができる。なお、LiBOBおよび負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物は、放電状態の電池内において、ガスを発生させて膨れを引き起こすが、特定量のニトリル化合物と、特定量のLiBOBと、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物とを含有する非水電解質を用いた場合には、かかる膨れの発生も抑制できる。
【0022】
このように、本発明の非水二次電池では、非水電解質に添加する特定の添加剤が複合的に作用することで、充放電サイクル特性を高めつつ、放電状態での貯蔵特性も優れたものとすることができる。
【0023】
本発明のリチウム二次電池に係る非水電解質は、通常、電解質塩を有機溶媒に溶解した溶液(非水電解液)が使用される。そして、非水電解質は、添加剤として、分子内にニトリル基を有する化合物、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)、および負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物を含有している。
【0024】
ニトリル化合物の具体例としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、アクリロニトリルなどのモノニトリル;マロノニトリル、下記一般式(1)
NC−(CH
2)
n−CN (1)
〔前記一般式(1)中、nは2〜4の整数である〕
で表される化合物、1,4−ジシアノヘプタン、1,5−ジシアノペンタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,7−ジシアノヘプタン、2,6−ジシアノヘプタン、1,8−ジシアノオクタン、2,7−ジシアノオクタン、1,9−ジシアノノナン、2,8−ジシアノノナン、1,10−ジシアノデカン、1,6−ジシアノデカン、2,4−ジメチルグルタロニトリルなどのジニトリル;ベンゾニトリルなどの環状ニトリル;メトキシアセトニトリルなどのアルコキシ置換ニトリル;などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記例示のニトリル化合物の中でも、ジニトリルが好ましく、前記一般式(1)で表される化合物(スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル)がより好ましく、他の添加剤との併用による電池の充放電サイクル特性の向上効果がより良好となることから、前記一般式(1)で表され、かつ前記一般式(1)におけるnが3または4である化合物(グルタロニトリル、アジポニトリル)が更に好ましい。
【0026】
負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物としては、例えば、2−プロピニルジエチルホスホノアセテート(PDEA)、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
リチウム二次電池に使用する非水電解質におけるニトリル化合物の含有量は、その使用による効果を良好に確保する観点から、0.05質量%以上であり、0.2質量%以上であることが好ましい。ただし、非水電解質中のニトリル化合物の量が多すぎると、例えば、ニトリル化合物による電池の充放電サイクル特性の低下を抑制するために必要となるLiBOBの量が多くなりすぎて、電池の放電状態での貯蔵特性が低下してしまう。よって、リチウム二次電池に使用する非水電解質におけるニトリル化合物の含有量は、1.5質量%以下であり、1質量%以下であることが好ましい。
【0028】
リチウム二次電池に使用する非水電解質におけるLiBOBの含有量は、その使用による効果を良好に確保する観点から、0.05質量%以上であり、0.25質量%以上であることが好ましい。ただし、非水電解質中のLiBOBの量が多すぎると、電池の放電状態での貯蔵特性が低下してしまう。よって、リチウム二次電池に使用する非水電解質におけるLiBOBの含有量は、5質量%以下である。
【0029】
負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物は、前記の通り、電池の充放電サイクル特性の向上に寄与する添加剤であるが、電池に使用する非水電解質中の量が多すぎると、却って電池の充放電サイクル特性を損なう虞があり、また、放電状態での貯蔵時において電池の膨れを生じさせる虞もある。よって、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物の、リチウム二次電池に使用する非水電解質における含有量(非水電解質が、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物を複数含有する場合には、それらの合計量。以下同じ。)は、10質量%以下であり、9質量%以下であることが好ましい。また、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物の使用による効果を良好に確保する観点からは、リチウム二次電池に使用する非水電解質における含有量が、1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
非水電解質に係る電解質塩としては、溶媒中で解離してLi
+イオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こしにくいものであれば特に制限はない。例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6などの無機リチウム塩;LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、Li
2C
2F
4(SO
3)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC
nF
2n+1SO
3(n≧2)、LiN(RfOSO
2)
2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などの有機リチウム塩;などを用いることができる。
【0031】
このリチウム塩の非水電解質中の濃度としては、0.5〜1.5mol/lであることが好ましく、0.9〜1.25mol/lであることがより好ましい。
【0032】
非水電解質に用いる有機溶媒としては、前記のリチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;γ−ブチロラクトンなどの環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いることもできる。なお、より良好な特性の電池とするためには、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートの混合溶媒など、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。
【0033】
また、リチウム二次電池に使用する非水電解質は、1,3−ジオキサンを含有していることが好ましい。これにより、リチウム二次電池の充放電サイクル特性を更に高めることができる。
【0034】
リチウム二次電池に使用する非水電解質における1,3−ジオキサンの含有量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。ただし、非水電解質中の1,3−ジオキサンの量が多すぎると、電池の負荷特性が低下したり、充放電サイクル特性の向上効果が小さくなったりする虞がある。よって、リチウム二次電池に使用する非水電解質における1,3−ジオキサンの含有量は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
また、リチウム二次電池に使用する非水電解質には、充放電サイクル特性の更なる改善や、高温貯蔵性や過充電防止などの安全性を向上させる目的で、無水酸、スルホン酸エステル、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの添加剤(これらの誘導体も含む)を適宜加えることもできる。
【0036】
更に、リチウム二次電池の非水電解質には、前記の非水電解質(非水電解液)に、ポリマーなどの公知のゲル化剤を添加してゲル化したもの(ゲル状電解質)を用いることもできる。
【0037】
本発明のリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解質およびセパレータを有しており、非水電解質に前記の非水電解質を使用していればよく、その他の構成および構造については特に制限はなく、従来から知られているリチウム二次電池で採用されている各種構成および構造を適用することができる。
【0038】
リチウム二次電池に係る正極には、例えば、集電体の片面または両面に、正極活物質、バインダおよび導電助剤などを含有する正極合剤層を有する構造のものを使用することができる。
【0039】
正極活物質には、LiCoO
2などのリチウムコバルト複合酸化物;LiMnO
2、Li
2MnO
3などのリチウムマンガン複合酸化物;LiNiO
2などのリチウムニッケル複合酸化物;LiCo
1−xNiO
2などの層状構造のリチウム含有複合酸化物;LiMn
2O
4、Li
4/3Ti
5/3O
4などのスピネル構造のリチウム含有複合酸化物;LiFePO
4などのオリビン構造のリチウム含有複合酸化物;前記の酸化物を基本組成とし各種元素で置換した酸化物;などのリチウム含有複合酸化物のうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0040】
正極合剤層に係るバインダには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが好適に用いられる。また、正極合剤層に係る導電助剤としては、例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などの黒鉛(黒鉛質炭素材料);アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカ−ボンブラック;炭素繊維;などの炭素材料などが挙げられる。
【0041】
正極は、例えば、正極活物質、バインダおよび導電助剤などを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の正極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理を施す工程を経て製造される。ただし、正極は、前記の製造方法で製造されたものに限定される訳ではなく、他の方法で製造されたものであってもよい。
【0042】
また、正極には、必要に応じて、リチウム二次電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
【0043】
正極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。また、正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質の量が60〜95質量%であることが好ましく、バインダの量が1〜15質量%であることが好ましく、導電助剤の量が3〜20質量%であることが好ましい。
【0044】
正極の集電体は、従来から知られているリチウム二次電池の正極に使用されているものと同様のものが使用でき、例えば、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好ましい。
【0045】
リチウム二次電池に係る負極には、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて導電助剤を含有する負極合剤からなる負極合剤層を、集電体の片面または両面に有する構造のものが使用できる。
【0046】
負極活物質としては、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、リチウムと合金化可能な金属(Si、Snなど)またはその合金、酸化物などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0047】
また、負極のバインダおよび導電助剤には、正極に使用し得るものとして先に例示したものと同じものが使用できる。
【0048】
負極は、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて使用される導電助剤を、NMPや水などの溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の負極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理を施す工程を経て製造される。ただし、負極は、前記の製造方法で製造されたものに限定される訳ではなく、他の方法で製造されたものであってもよい。
【0049】
また、負極には、必要に応じて、リチウム二次電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
【0050】
負極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。また、負極合剤層の組成としては、例えば、負極活物質を80.0〜99.8質量%とし、バインダを0.1〜10質量%とすることが好ましい。更に、負極合剤層に導電助剤を含有させる場合には、負極合剤層における導電助剤の量を0.1〜10質量%とすることが好ましい。
【0051】
負極の集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、機械的強度を確保するために下限は5μmであることが望ましい。
【0052】
リチウム二次電池に係るセパレータには、80℃以上(より好ましくは100℃以上)170℃以下(より好ましくは150℃以下)において、その孔が閉塞する性質(すなわちシャットダウン機能)を有していることが好ましく、通常のリチウム二次電池などで使用されているセパレータ、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン製の微多孔膜を用いることができる。セパレータを構成する微多孔膜は、例えば、PEのみを使用したものやPPのみを使用したものであってもよく、また、PE製の微多孔膜とPP製の微多孔膜との積層体であってもよい。
【0053】
セパレータの厚みは、例えば、10〜30μmであることが好ましい。
【0054】
前記の正極と前記の負極と前記のセパレータとは、正極と負極との間にセパレータを介在させて重ねた積層電極体や、更にこれを渦巻状に巻回した巻回電極体の形態で本発明のリチウム二次電池に使用することができる。
【0055】
本発明のリチウム二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0056】
リチウム二次電池は、その用途に応じて、前記のような角筒形の外装缶やラミネートフィルム外装体といった薄型の外装体を使用することがあるが、こうした形態とした場合、内容積が非常に小さく、高容量化を図るために電池内における電極体(正極および負極)の占有体積を大きくすると、非水電解質の含有量が少なくなってしまう。非水電解質は、リチウム二次電池の充放電に伴って分解などして減量するため、非水電解質の含有量が少ない電池では、充放電の繰り返し回数が比較的少ない段階で、非水電解質の量が足りなくなって十分な容量が引き出し得なくなる(すなわち、充放電サイクル劣化が生じてしまう)虞がある。
【0057】
しかしながら、本発明のリチウム二次電池では、非水電解質における前記の各添加剤の作用によって、充放電に伴う非水電解質の分解、減量を抑制し得るため、前記のような薄型の外装体を用いつつ高容量化を図り、非水電解質の含有量を高め得ない態様としても、良好な充放電サイクル特性を確保できる。
【0058】
具体的には、本発明のリチウム二次電池は、放電容量当たりの非水電解質の量(以下、単に「放電容量当たりの非水電解質の量」という)を、2.1g/Ah以下と少なくしても、良好な充放電サイクル特性を確保できる。なお、本発明のリチウム二次電池における放電容量当たりの非水電解質の量は、1.8g/Ah以上であることが好ましい。
【0059】
前記の放電容量当たりの非水電解質の量の算出に用いられる放電容量は、23℃の環境下で、0.5Cの電流値で4.4Vまで定電流充電し、引き続いて4.4Vで電流値が0.05Cとなるまで定電圧充電を行い、その後に0.2Cの定電流で2.75Vで放電して求められる放電容量である。
【0060】
また、前記の放電容量当たりの非水電解質の量の算出に用いられる非水電解質の量は、下記(1)〜(6)の手順によって求められる値である。
(1)リチウム二次電池の質量を測定する。
(2)質量測定後のリチウム二次電池に穴を開け(外装缶を用いた形態の場合は、外装缶の缶底部に穴を開ける)、遠心分離機を用いて電池内の非水電解質を抽出する。
(3)リチウム二次電池から正極および負極を取り出し、それらを、内部にしみ込んだ非水電解質を抽出するためにジメチルカーボネートに24時間浸漬する。
(4)前記浸漬後の正極および負極、並びに他の部材(外装体、セパレータ、封口部材など)を乾燥させる。
(5)リチウム二次電池の正極および負極、並びに他の部材(外装体、セパレータ、封口部材など)の質量を測定する。
(6)(1)で求めた質量から(5)で求めた質量を引いて、非水電解質の量を算出する。
【0061】
本発明のリチウム二次電池は、充放電サイクル特性および放電状態での貯蔵特性に優れ、また、非水電解質量が制限される薄型の形態としても良好な充放電サイクル特性を維持できる。よって、本発明のリチウム二次電池は、薄型の形態が求められ、かつ放電状態で放置される場合が多いデジタルカメラ、携帯ゲーム機などや、頻繁に充放電が繰り返される携帯電話、スマートフォンなどの携帯機器の電源用途をはじめとして、従来から知られているリチウム二次電池が適用されている各種用途と同じ用途に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0063】
実施例1
<正極の作製>
LiCoO
2とLi
1.0Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2とを8:2の割合(質量比)で混合した正極活物質100質量部と、バインダであるPVDFを10質量%の濃度で含むNMP溶液20質量部と、導電助剤である人造黒鉛1質量部およびケッチェンブラック1質量部とを、二軸混練機を用いて混練し、更にNMPを加えて粘度を調節して、正極合剤含有ペーストを調製した。
【0064】
前記正極合剤含有ペーストを、厚みが15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布した後、120℃で12時間の真空乾燥を行って、アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成した。その後、プレス処理を行って、正極合剤層の厚さおよび密度を調節し、アルミニウム箔の露出部にニッケル製のリード体を溶接して、長さ375mm、幅43mmの帯状の正極を作製した。得られた正極における正極合剤層は、片面あたりの厚みが55μmであった。
【0065】
<負極の作製>
負極活物質である平均粒子径D50%が8μmであるSiO表面を炭素材料で被覆した複合体(複合体における炭素材料の量が10質量%)と、平均粒子径D50%が16μmである黒鉛とを、SiO表面を炭素材料で被覆した複合体の量が3.75質量%となる量で混合した混合物:97.5質量部と、バインダであるSBR:1.5質量部と、増粘剤であるCMC:1質量部とに、水を加えて混合し、負極合剤含有ペーストを調製した。
【0066】
前記負極合剤含有ペーストを、厚みが8μmの銅箔(負極集電体)の両面に塗布した後、120℃で12時間の真空乾燥を行って、銅箔の両面に負極合剤層を形成した。その後、プレス処理を行って、負極合剤層の厚さおよび密度を調節し、銅箔の露出部にニッケル製のリード体を溶接して、長さ380mm、幅44mmの帯状の負極を作製した。得られた負極における負極合剤層は、片面あたりの厚みが65μmであった。
【0067】
<非水電解質の調製>
ECとDECとの体積比3:7の混合溶媒に、LiPF
6を1.1mol/Lの濃度で溶解させ、アジポニトリルを0.5質量%となる量で、LiBOBを0.25質量%となる量で、PDEAを2.0質量%となる量で、FECを1.5質量%となる量で、VCを3.0質量%となる量で、および1,3−ジオキサンを1.5質量%となる量で、それぞれ添加して非水電解質(非水電解液)を調製した。
【0068】
<電池の組み立て>
前記帯状の正極を、厚みが16μmの微孔性ポリエチレンセパレータ(空孔率:41%)を介して前記帯状の負極に重ね、渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状巻回構造の巻回電極体とし、この電極巻回体をポリプロピレン製の絶縁テープで固定した。次に、外寸が厚さ4.0mm、幅34mm、高さ50mmのアルミニウム合金製の角形の電池ケースに前記巻回電極体を挿入し、リード体の溶接を行うとともに、アルミニウム合金製の蓋板を電池ケースの開口端部に溶接した。その後、蓋板に設けた注入口から前記非水電解質を注入し、1時間静置した後注入口を封止して、
図1に示す構造で、
図2に示す外観のリチウム二次電池を得た。
【0069】
ここで
図1および
図2に示す電池について説明すると、
図1はその部分断面図であって、正極1と負極2はセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状の巻回電極体6として、角形(角筒形)の電池ケース4に非水電解質と共に収容されている。ただし、
図1では、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や非水電解質などは図示していない。
【0070】
電池ケース4はアルミニウム合金製で電池の外装体を構成するものであり、この電池ケース4は正極端子を兼ねている。そして、電池ケース4の底部にはPEシートからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状巻回電極体6からは、正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、電池ケース4の開口部を封口するアルミニウム合金製の封口用蓋板9にはポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
【0071】
そして、この蓋板9は電池ケース4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、電池ケース4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、
図1の電池では、蓋板9に非水電解質注入口14が設けられており、この非水電解質注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている。更に、蓋板9には、電池の温度が上昇した際に内部のガスを外部に排出する機構として、開裂ベント15が設けられている。
【0072】
この実施例1の電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって外装缶5と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、電池ケース4の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
【0073】
図2は前記
図1に示す電池の外観を模式的に示す斜視図であり、この
図2は前記電池が角形電池であることを示すことを目的として図示されたものであって、この
図1では電池を概略的に示しており、電池の構成部材のうち特定のものしか図示していない。また、
図1においても、電極体の内周側の部分は断面にしていない。
【0074】
実施例2〜7
アジポニトリル、LiBOB、PDEA、FECおよびVCの添加量を表1に示す量に変更した以外は実施例1と同様にして非水電解質を調製し、これらの非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0075】
実施例8
アジポニトリルに代えてスクシノニトリルを使用した以外は実施例2と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0076】
実施例9
FECおよびVCを添加せずにVECを4.5質量%となる量で添加した以外は実施例2と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0077】
実施例10
1,3−ジオキサンを添加しなかった以外は実施例2と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0078】
実施例11
PDEAを添加しなかった以外は実施例2と同様にして非水電解質を調製し、これらの非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0079】
実施例12
FECおよびVCを添加しなかった以外は実施例2と同様にして非水電解質を調製し、これらの非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0080】
比較例1
アジポニトリルおよびLiBOBを添加しなかった以外は実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0081】
比較例2
LiBOBを添加しなかった以外は実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0082】
比較例3
アジポニトリルを添加しなかった以外は実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0083】
比較例4
PEA、FECおよびVCを添加しなかった以外は実施例2と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0084】
比較例5〜9
アジポニトリル、LiBOB、PDEA、FECおよびVCの添加量を表2に示す量に変更した以外は実施例1と同様にして非水電解質を調製し、これらの非水電解質を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0085】
実施例および比較例のリチウム二次電池について、以下の各評価を行った。
【0086】
<充放電サイクル特性評価>
実施例および比較例のリチウム二次電池について、まず、23℃の環境下で、23℃の環境下で、0.5Cの電流値で4.4Vまで定電流充電し、引き続いて4.4Vの定電圧で電流値が0.05Cとなるまで充電し、その後に0.2Cの定電流で2.75Vまで放電を行って、初回放電容量を求めた。また、各電池について、23℃で、1Cの電流値で4.4Vまで定電流充電し、引き続いて4.4Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電した後に、1Cの電流値で2.75Vまで放電する一連の操作を1サイクルとして、これを多数繰り返した。そして、450サイクル目の放電容量を初回放電容量で除した値を百分率で表して、容量維持率を算出した。
【0087】
また、実施例および比較例の各リチウム二次電池について、環境温度を45℃に変更した以外は前記と同様にして、初回放電容量および500サイクル目の容量維持率を求めた。
【0088】
<放電状態での高温貯蔵特性評価>
実施例および比較例の各リチウム二次電池について、0.1Cの定電流で3.0Vになるまで放電を行い、その後に開路電圧(OCV)測定および厚み測定を行った。その後、各電池を60℃に保った恒温槽内に入れ、30日間貯蔵した。その後各電池を恒温槽から取り出し、2時間経過後にOCV測定および厚み測定を行った。
【0089】
そして、OCVについては、貯蔵前の値から貯蔵後の値を引いて、OCVの変化量(ΔV)を算出した。
【0090】
また、電池の厚みについては、以下の式を用いて厚みの変化率(%)を算出した。
厚みの変化量(%)
= 100 × 貯蔵後の厚み ÷ 貯蔵前の厚み
【0091】
実施例および比較例のリチウム二次電池に係る非水電解質の添加剤の含有量を表1および表2に示し、前記の各評価結果を表3および表4に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
表1〜表4に示す通り、適正量のニトリル化合物と、適正量のLiBOBと、適正量の負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物とを含有する非水電解質を用いた実施例1〜11のリチウム二次電池は、充放電サイクル特性評価時の容量維持率が、23℃、45℃のいずれにおいても高く、良好な充放電サイクル特性を有していた。また、実施例1、2のリチウム二次電池は、放電状態での高温貯蔵後において、OCVの低下および厚みの変化(膨れの発生)が抑制されており、放電状態での高温貯蔵特性が良好であった。
【0097】
これに対し、ニトリル化合物およびLiBOBを含有していない非水電解質を用いた比較例1の電池は、23℃および45℃での充放電サイクル特性が劣っており、放電状態での高温貯蔵後におけるOCVの低下量が実施例の電池よりも大きかった。また、LiBOBを含有していない非水電解質を用いた比較例2の電池、およびLiBOBの含有量が少ない非水電解質を用いた比較例7の電池は、放電状態での高温貯蔵後におけるOCVの低下量が実施例の電池よりも大きかった。更に、ニトリル化合物を含有していない非水電解質を用いた比較例3の電池、およびニトリル化合物の含有量が少ない非水電解質を用いた比較例5の電池は、放電状態での高温貯蔵後における厚みの変化率が実施例の電池よりも大きかった。
【0098】
また、負極での還元電位が金属Li電位に対して1.3V以下の化合物を含有していない非水電解質を用いた比較例4の電池、および当該化合物の含有量が多い非水電解質を用いた比較例9の電池は、23℃および45℃での充放電サイクル特性が劣っており、放電状態での高温貯蔵後における厚みの変化率が実施例の電池よりも大きかった。更に、アジポニトリルの含有量が多い非水電解質を用いた比較例6の電池は、23℃および45℃での充放電サイクル特性が劣っており、放電状態での高温貯蔵後におけるOCVの低下量が実施例の電池よりも大きかった。また、LIBOBの含有量が多い非水電解質を用いた比較例8の電池は、放電状態での高温貯蔵後における厚みの変化率が実施例の電池よりも大きかった。