特許第6208566号(P6208566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208566
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】高分子材の防汚性付与方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20170925BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20170925BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170925BHJP
   B63B 59/04 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D5/16
   C09D7/12
   B63B59/04 Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-251015(P2013-251015)
(22)【出願日】2013年12月4日
(65)【公開番号】特開2015-108055(P2015-108055A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】391033344
【氏名又は名称】百瀬 淑
(73)【特許権者】
【識別番号】513306350
【氏名又は名称】長谷川 清生
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 淑
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 清生
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−294818(JP,A)
【文献】 特開平03−106487(JP,A)
【文献】 特開2000−340415(JP,A)
【文献】 特開2008−274094(JP,A)
【文献】 特開2004−026893(JP,A)
【文献】 米国特許第06001157(US,A)
【文献】 特開平06−001932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
B63B 59/04
C09D 5/16
C09D 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の又は粉粒状の高分子材に未着磁の乃至脱磁処理をした強磁性体粉とともに天然放射性物質粉を添加して、混合分散させたものを硬化させる分子材の防汚性付与方法であって、
前記強磁性体粉が硬磁性体粉と軟磁性体粉との混合系であることを特徴とする高分子材の防汚性付与方法。
【請求項2】
液状の又は粉粒状の高分子材に未着磁の乃至脱磁処理をした強磁性体粉とともに天然放射性物質粉を添加して、混合分散させたものを硬化させ、さらに、該硬化高分子材を着磁処理する分子材の防汚性付与方法であって、
前記強磁性体粉が硬磁性体粉と軟磁性体粉との混合系であることを特徴とする高分子材の防汚性付与方法。
【請求項3】
液状の又は粉粒状の高分子材に未着磁の乃至脱磁処理をした強磁性体粉を添加して、混合分散させたものを硬化させ、さらに、該硬化高分子材を着磁処理する分子材の防汚性付与方法であって、
前記強磁性体粉が硬磁性体粉と軟磁性体粉との混合系であることを特徴とする高分子材の防汚性付与方法。
【請求項4】
前記天然放射性物質粉が、一次放射性核種であるTh及び/又はUを含有する天然放射性鉱物粉であることを特徴とする請求項1又は2記載の高分子材の防汚性付与方法。
【請求項5】
前記液状の又は粉粒状の高分子材が、耐水性および耐摩耗性・耐擦傷性を有する防汚塗料であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の高分子材の防汚性付与方法。
【請求項6】
液状又は粉粒状の高分子材に添加し、硬化させた高分子材に水生生物の防汚効果を付与する防汚添加剤であって、
未着磁の乃至脱磁処理した強磁性体粉に天然放射性物質粉を混合して、γ線放射線当量(湿度60%、測定距離0mm;以下同じ)で、0.1μSV/h以上を示すものとされ
前記強磁性体粉が硬磁性体粉と軟磁性体粉との混合系であることを特徴とする高分子材の防汚添加剤。
【請求項7】
前記強磁性体粉と前記天然放射性物質粉との混合比が、天然放射性物質粉がγ線放射線当量:1〜5μSV/hの場合、前者/後者(質量比)=99/1〜85/15であることを特徴とする請求項記載の高分子材の防汚添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材の防汚性付与方法に関し、特に、船舶等に塗布される防汚塗料として好適な高分子材の防汚性付与方法に関する。
【0002】
本発明において「防汚」とは、「船底、さらには、排水管、漁具、浮標、水中建造物などへの水生生物(海息生物)の付着を防止乃至抑止すること」をいう。
【0003】
また、配合単位を示す「部」「%」は、特に断らない限り「質量」単位とする。
【背景技術】
【0004】
船舶では船底にムラサキ貝、フジツボ、カキなどの貝類が付着すると、船の重量が増加し、水流抵抗が増加する。このため、これらの海息生物の付着による汚染を防止しなければならない。
【0005】
また、船舶と同様に排水管、漁具、浮標、水中建造物などに海息生物が付着すると、排水効率の低下、重量増加などの弊害が生じる。
【0006】
そこで、海息生物による汚染を防止するために、防汚性を備えた船底塗料(防汚塗料)が市販されている。該船底塗料は、船底以外の排水管、漁具、浮標、水中建造物などの塗装にも適用されている。
【0007】
従来、船底塗料には、海息生物を殺滅させて付着を防止するという防汚性付与方法を駆使するため、毒性の高い有機錫を含有するスズポリマー型加水分解型塗料が使用されてきた。しかし、近年では、海息生物保護の見地から高い毒性物質の使用が制約されたので、有機錫を含有しないスズフリー型の船底塗料(防汚塗料)が使用されるようになった(特許文献1段落0007)。
【0008】
そして、現在使用されている、スズフリー型の船底塗料としては、定義の仕方は文献により若干異なるが、大別して以下の3種がある。
【0009】
(a)加水分解形(自己研磨形):塗料に含まれる樹脂の表面が海水により加水分解され、これにともなって塗料に含まれる防汚剤(銅イオン化合物)が水中に少しずつ溶出し、塗膜表面が更新されて防汚を行うもの。
【0010】
(b)水和溶解形(水和分解形、水和崩壊形):ロジン等の親水性の樹脂に亜酸化銅(Cu2O)などの防汚成分を含めたもの。塗膜成分が少しずつ水中に溶出して亜酸化銅などの薬剤が塗膜表面に現れるとともに塗膜表面が滑り易くなって、付着した海息生物が脱落し易くなる。
【0011】
(c)抽出形塗料(不溶解性マトリックス形):疎水性樹脂に亜酸化銅(Cu2O)などの防汚成分を含めたもの。塗料自体の溶解はなく、防汚剤のみがマトリックスから水中に少しずつ溶出する。
【0012】
しかし、上記に挙げるような防汚塗料は、塗料の溶解ないし防汚剤の溶出により防汚作用を発揮させることを前提としており、防汚効果の長期間にわたる維持は予定していない(特許文献1段落0010)。
【0013】
そこで、特許文献1において、有機金属や毒性化学薬品を含有することなく、メジアン粒子径が3〜10μmの常時マイナスイオンを放出する、モナズ石粉(希土類含有鉱物粉、放射性核種物質)および電気石粉(トルマリン粉)の混合物からなる防汚塗料用添加剤が提案されている(特許請求の範囲・要約等)。
【0014】
同様に、モナズ石粉および電気石粉を必須とし、ジルコン石粉、バストネス石粉などを、適宜、組合わせ混合して調製した防汚塗料用添加剤が、特許文献2・3等において提案されている(各特許請求の範囲・要約等)。
【0015】
なお、特許文献4には、海生物の付着・成長を抑制する棒状の磁石を固定保持した磁気処理装置を備えた海水配管装置が提案されている(要約、特許請求の範囲等)。本海水配管装置は、棒状磁石の磁気を利用して海生物の付着・成長を抑制するもので、本発明の特許性に影響を与えるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2000−198965号公報
【特許文献2】特開2002− 80315号公報
【特許文献3】特開2004−238454号公報
【特許文献4】特開2000−270755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、特許文献1〜3における防汚付与剤を添加した防汚塗料は、いずれも、マイナスイオン効果により防汚塗料に防汚性付与乃至防汚性を増大させるものである。マイナスイオンで十分な防汚効果を得るためには、後述の如く、多量の防汚添加剤(マイナスイオンを放出するモナズ石粉や電気石粉)の配合を必要とした。
【0018】
本発明は、上記にかんがみて、毒性の問題がなく、しかも、少ない量の配合で防汚効果を発揮でき、さらには、防汚効果の長期間の維持が可能な、新規な構成の高分子材の防汚付与方法及びそれに使用する防汚添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成の高分子材の防汚性付与方法に想到した。
【0020】
本発明の高分子材の防汚性付与方法の一つは、液状の又は粉粒状の高分子材に未着磁乃至脱磁処理の強磁性体粉とともに天然放射性物質紛を添加して、混合分散させたものを硬化させる高分子材の防汚性付与方法であって、前記強磁性体粉が硬磁性体粉と軟磁性体粉との混合系であることを特徴とするものである。
【0021】
同じく他の高分子材の防汚性付与方法は、上記構成において、さらに、該硬化高分子材を着磁処理することを特徴とするものである。
【0022】
同じくさらに他の高分子材の防汚性付与方法は、液状又は粉粒状の高分子材に未着磁乃至脱磁処理した強磁性体粉を添加して、混合分散させたものを硬化させ、さらに、該硬化高分子材を着磁処理する高分子材の防汚性付与方法であって、前記強磁性体粉が硬磁性体粉と軟磁性体粉との混合系であることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の高分子材の防汚添加剤は、液状又は粉粒状の高分子材に添加し、硬化させた高分子材に水生生物の防汚効果を付与する添加剤であって、未着磁の乃至脱磁処理した強磁性体粉と天然放射性物質粉を混合して、γ線放射線当量(湿度60%、測定距離0mm)(以下、同じ。)で、0.1μSV/h以上を示すものとされ、前記強磁性体粉が硬磁性体粉と軟磁性体粉との混合系であることを特徴とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、塗料に適用する場合を例に採り説明する。本発明は、塗料以外の高分子材製品、例えば、繊維、ゴムシート、プラスチックシート等にも適用できるものである。
【0025】
(1)本発明に適用する塗料は、耐水性及び耐摩耗性・耐擦傷性に優れ、かつ、FRP、鋼材、コンクリート、木材等の基材に対する接着性に優れているものが望ましい。海水や淡水が接触する船底、排水管、漁具、浮標、水中構造物(以下「船底等」と略すことがある。)に適用するためである。
【0026】
すなわち、鋼板(鋼材)用、コンクリート用、木材用、漁具用等の汎用の各種塗料をベースとすることができる。
【0027】
前記高分子材として、アルキッド樹脂系、アルキル樹脂系、アクリル樹脂系(以上、熱可塑性樹脂)、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、不飽和ポリエステル系、メラミン樹脂系、ウレタン樹脂系(以上、熱硬化性樹脂)、さらには、ゴム材として塩化ゴム系等を挙げることができる。
【0028】
なお、従来の前記防汚塗料に適用した場合は、防汚効果のさらなる増大が期待できるが、前記(c)抽出形を除き、(a)加水分解形や(b)水和溶解形は、塗膜の溶解乃至溶出を伴うため、長期間の防汚効果の維持が困難である。
【0029】
(2)前記強磁性体粉の材料としては、狭義の強磁性体である硬磁性体及び/又は弱い強磁性体である軟磁性体を使用可能である。硬磁性体のみ・軟磁性体のみでもよいが、硬磁性体と軟磁性体との混合系とすることが望ましい。硬磁性体は、軟磁性体に比して、高い残留磁化を得難いが、保持力が大きく消磁され難い。逆に軟磁性体は、硬磁性体に比して、高い残留磁化を得易いが、保持力が小さく消磁されやすい。このため、混合系とした方が両者の磁化特性を生かして、磁気による防汚効果を増大かつ安定させやすい。
【0030】
ここで硬磁性体としては、アルニコ、サマリウムコバルト、ネオジウム鉄ボロン、ネオジウム鉄窒素、フェライト(Mn−Zn系、Ni−Zn系)、マグネタイト(Fe)、Fe、等を挙げることができる。軟磁性体としては、三酸化二鉄(Fe)、三酸化二クロム(Cr)、等を挙げることができる。
【0031】
(3)前記天然放射性物質粉としては、α線、β線、γ線等を発生する本来の天然放射性物質(鉱物)ばかりでなく、同程度のエネルギーを有する電磁波(例えば、マイナスイオン)を発生し、強磁性体を磁化可能な天然物質(鉱物)も含む。
【0032】
天然放射性物質は、通常、一次天然放射性核種とするが、二次天然放射性核種のうち、少なくも5年以上の半減期を有する長寿命のものも使用可能である。これらは、磁化エネルギー値が高く、かつ、長期間の防汚効果を維持可能とするためである。一次放射性核種としては、238U(4.5×10y)、235U(7.04×10y)、232Th(1.405×1010y)、等を、二次放射性核種としては、234U(2.455×10y)、230Th(7.538×10y)、226Ra(1,600×10y)、227Ac(21.77y)、238Ra(5.75y)等を挙げることができる。
【0033】
これらの天然放射性物質粉は、γ線放射線当量において、人体に対する危険性が低い範囲内(例えば、5μSV/h以下)で、かつ、0.1μSV/h以上、さらには1μSV/h以上、よりさらには2μSV/h以上が望ましい。天然放射性物質粉により強磁性体粉を磁化させる必要があるためである。
【0034】
通常、天然放射性物質粉は放射性鉱物を使用する。具体的には、ThO2、UO含有鉱物である、モナザイト、パイロクロワ、ゼノタイム等を挙げることができる。これらの中でも、入手のし易さからモナザイトが特に好ましい。なお、本来の天然放射性物質ではないが、マイナスイオンを継続的に発する炭酸塩鉱石(バネストネサイト)、ケイ酸塩鉱石(ジルコン)、チタン鉱石、等も使用可能である。
【0035】
上記防汚添加剤を構成する各粉粒体の粒子径(レーザ回折法によるメジアン径)(一次粒径)は、0.1〜5μm、さらには0.5〜3μmの範囲のものが望ましい。
【0036】
粒子径が大きいと、塗料に添加した場合に、液状での塗料に沈降が発生しやすく、均一に添加剤が分散された塗膜を得難くなる。このため、安定した防汚効果が得難くなる。さらには、相対的に比表面積が小さくなり、磁気量および放射線量が相対的に小さくなる。このため添加剤(防汚付与成分)の添加量が相対的に多くなる。なお、粒子の大きさ、形状並びに塗料の粘度(粘性率)によってこれら粒子の沈降現象は一定ではないので、沈降の発生を抑止するために、添加剤の塗料への添加時に、無機系(ベントナイト、アエロジルなど)及び有機系(セルロース系、ウレタン系、アクリル系、脂肪酸系など)の沈降防止剤を適宜に併用することができる。
【0037】
逆に、防汚添加剤の一次粒径が小さいと、添加剤が飛散や凝集しやすくなり、防汚添加剤の取扱い性に問題が発生しやすくなる。
【0038】
なお、入手した強磁性体粉および天然放射性物質粉の粒子径が上記範囲の上限値より大きいときは、微粉化して使用する。微粉化は汎用の各種ミル、マイクロナイザー、レイモンドミル、ジェットミル、等の微粉砕機を用いて行うことができる。また、磁性体紛および天然放射性物質粉が凝集している場合は、解砕処理をして使用することが望ましい。
【0039】
上記強磁性体粉と天然放射性物質粉の混合比は、強磁性体粉磁磁気特性(初期透磁率、飽和磁束密度)と天然放射性物質粉の放射線当量により異なるが、たとえば、γ線放射線当量:1〜5μSV/hの場合、99/1〜85/15、望ましくは、96/4〜90/10とする。天然放射性物質粉の比率が少ないと、着磁処理しない場合において、実用的な防汚効果を発揮できる磁化強さ(磁気モーメント)を形成し難い。
【0040】
上記防汚成分(防汚添加剤)は、塗料における均一分散を容易とするために、あらかじめ、任意量の水、有機溶剤、液状樹脂などと混合しておいてもよい。なお、この際、強磁性体粉は、通常、脱磁処理をする。なお、未着磁であれば必然的ではないが、脱磁処理しておくことが望ましい。磁力による防汚成分を構成する強磁性体粉の凝集現象を確実に阻止するためである。
【0041】
そして、上記防汚成分物粉は防汚添加剤として、耐水性・耐摩耗性・耐擦傷性等に優れた前記汎用塗料に添加して使用する。すなわち、前述の如く、被塗布物に応じて、それぞれに適した各種汎用塗料(鋼材用、プラスチック(FRPを含む。)用、ゴム用、木材用、コンクリート用、等)に添加して使用する。
【0042】
このときの防汚添加剤の塗料(塗膜成分)100部に対する添加量は、通常0.1〜10部、望ましくは3〜5部の範囲で、防汚要求性能に対応して、適宜、設定する。天然放射性物質の種類により、磁性物質に有効な磁性を付与するに必要な天然放射性物質の混合割合が若干変動する。添加量が多いと、塗料の粘度が上昇して、塗装作業性が低下するおそれがある。
【0043】
上記防汚用添加剤は、前記(a)、(b)、(c)のようなスズフリー型の各種防汚塗料(船底塗料)にも適用できる。その場合も、防汚効果の増大、塗替えスパンの長期化((c)の場合も)に寄与する。
【0044】
なお、上記適用塗料の形態は、水系(エマルション、サスペンション)、溶剤系、粉体系を問わない。
【0045】
こうして調製した天然放射性物質紛からなる本発明の防汚塗料による船底への防汚塗膜の形成は、通常、下記の如く行う。
【0046】
すなわち、鋼材製、木製、FRP製の船艇において、最初に、船底に付着する水分、塗料、錆、油脂、海息生物などの汚染物を除去し、素地を露出させ、それぞれの素地に適した下塗塗料(プライマー)を製造元の説明書に基づいて塗布する。
【0047】
下塗塗膜が硬化後、上記防汚塗料を、船底に塗布して硬化させて防汚塗膜とする。塗布方法は、特に限定されず、刷毛、スプレー、ローラなどの塗装具を適宜用いて行う。塗膜の厚み、塗装回数、乾燥養生方法などについては市販塗料(被添加塗料)の製造元の塗料説明書に従う。
【0048】
こうして形成した防汚塗膜は、防汚添加剤が軟磁性体粉のみの場合を除いて、放射性物質粉により磁性を帯びて、防汚効果を示すため、着磁処理は必然的ではない。
【0049】
しかし、防汚添加剤が強磁性体粉のみの場合には必然的に、または、強磁性体粉に天然放射性物質粉を併用する場合でさらに強い磁力を付与して防汚効果を増大させたいときには、着磁装置を用いて該塗膜に着磁処理を施す。添加剤が強磁性体粉に天然放射性物質粉を併用する防汚添加剤の場合は、天然放射性物質粉の混合比を低減させることができる。
【0050】
具体的には、着磁装置として、高磁力を維持した状態の磁石(ネオジム磁石、サマコバ磁石、フェライト磁石など)を用い、これらの中の何れかの磁石を塗膜の表面に押し当てて、磁石の位置を少しずつ移動させることで着磁処理を完了する。
【0051】
大面積部分の着磁処理には、工業用の大型着磁装置(例えば、コイル式着磁装置)を使用し、上記項記載と同様な方法で着磁処理を行う。
【0052】
しかし、着磁装置の磁力が強すぎると、着磁装置との接触面で塗膜が着磁装置に向けて強く吸引され、その結果、塗膜が被塗装物から剥離することがあるので磁石を低磁力のものに交換、又は、装置の磁力を適宜調節する。
【0053】
なお、着磁処理は、硬化した塗膜に対して行うことが望ましい。塗膜が未硬化の場合、塗膜が流動性を有していることにより、強磁性体粉が凝集したり移動したりして、強磁性体粉の均一分散性が低下するおそれがあるためである。
【0054】
本発明は上記説明の通り、強磁性体粉と天然放射性物質粉で防汚添加剤を調製し、該添加剤を既製の塗料に含有させることで磁気を帯びた塗膜を形成させ、磁気を忌避する海息生物の付着を回避し、防汚効果を高めることができる。そして、該防汚塗膜に着磁処理を施すことができるので、防汚力をさらに増大させることができる。
【0055】
本発明に係る防汚添加剤とその添加剤を含有する防汚塗料および、その塗膜の着磁方法の、特長点を纏めると下記の如くになる。
【0056】
(1) 上記防汚添加剤で使用する強磁性体物質粉と天然放射性物質粉は、毒性を有していないので海洋を汚染することなく、安全に船底、水中構造物、漁具、浮標、工業用水系設備等に適用することができる。
【0057】
(2) 甲殻類、貝類などの生物の付着量を大幅に減少させることができる。
【0058】
(3) 塗料の耐久性が増し、前回の塗布から次回の塗布までの塗替え期間が伸びるので、塗替え塗装費用が軽減される。
【0059】
(4) 河川、海洋などの、防汚塗膜の磁気による浄化も期待できる。
【0060】
(5) 本発明の着磁処理を駆使することで、天然放射性物質粉の使用を低減乃至省略でき、該添加剤の資材コストを全体として低減させることができる。
【0061】
(6) 現在使用されている船底塗料では6ヶ月又は年にー度、付着した海息生物の除去作業や塗料の塗り替え作業が必要であったが、本発明に係る防汚添加剤及び該添加剤を含有する塗料を用いて、さらには、その形成膜の着磁処理を行うことにより、塗膜の塗替えスパンを長期化することができ、経費の削減効果が高い。また、船舶等の航行スピードアップ、エンジン負荷の軽減、消費燃料の節約、船体の損傷軽減など、その効果は大きい。
【0062】
以上、防汚塗料(船底塗料)に適用する場合を主として例に採り説明したが、塗料以外の高分子材製品、例えば、繊維、ゴムシート、プラスチックシート、等にも適用できるものである。
【0063】
その場合は、高分子材は、液状ないし粉粒状(ペレット等)の高分子材に本発明の防汚添加剤(強磁性体粉のみの場合も含む。)を添加し、混練後、紡糸又は成形して硬化(乾燥・固化)させて、適宜、着磁処理を行う。こうして、磁性を帯びた高分子材製品は、漁網としたり、さらに、排水管、浮標、水中建造物等に張り付けたりして、それらに、防汚効果を付与できる。なお、最終製品によっては、インサート成形又は絵付け成形により、防汚膜を製品表面に形成することもできる。
【0064】
なお、本発明と特許文献1〜3との防汚添加剤の添加量及び粒子径に係るコメントを下記する。
【0065】
特許文献1〜3における防汚添加剤の防汚効果を確実に奏する添加量(実施例レベル)は、特許文献1:含有率9%(外掛け10%)(段落0019)、特許文献2:含有率10%(段落0028)、特許文献3:含有率8%(段落0027)と、本発明の実施例における含有率5%に比して、相対的に多量の配合を必要としている。
【0066】
また、これらの防汚添加剤を構成する粉粒体の粒径は、特許文献1:3〜10μm(特許請求の範囲)、特許文献2:1〜10μm(段落0012)、特許文献3:1〜25μm(段落0016)と、本発明の実施例(強磁性体粉:1.5〜2.0μm、放射性セラミックス粉:0.5〜1.0μmに比して、相対的に大きい。
【0067】
このため、上記各特許文献における防汚添加剤を含有する防汚塗料を船底に適用するに際して、防汚塗料の粘度増大による塗布作業性の低下、及び、塗布後硬化前の流動(液状)塗膜における沈降速度の速いことも相まって均一な防汚塗膜を得難い。さらには、硬化後の防汚塗膜の表面平滑性を得難く、汚物が付着し易いとともに、航行中に摩耗しやすくなり、塗膜耐久期間の長期化が困難であると考えられる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
下記電磁波強度およびγ線放射線当量は、下記に準拠して測定したものである。
【0070】
1)電磁波強度・・・電磁波測定器(「テラメータ-TM-701」カネテック株式会社商品名)を用いて、湿度60%、測定距離30mmにおけるものを測定した。
【0071】
2)γ線放射線当量・・・ガイガー測定器(「SC intillation Survey Meter PA-100」γ線測定用、堀場製作所社商品名)を用いて、被測定物に接して(湿度60%、測定距離0mm)測定した。
【0072】
各実施例(試験例)で使用した強磁性体粉および天然放射性物質粉は下記特性値(製造会社製品説明書に基づく。)を有するものを使用した。
【0073】
<強磁性体粉>
1)硬磁性体粉A(市販Mn-Zn系フェライト粉)
粒子径:1.5〜2.0μm
嵩比重:1.3
初期透磁率:6000-12000μi
飽和磁束密度:350-460mT
2)硬磁性体粉B(市販Ni-Zn系フェライト粉 )
粒子径:1.5〜1.8μm
嵩比重:1.3
初期透磁率:5-2000μi
飽和磁束密度:220-450mT
3)軟磁性体粉(市販三酸化二鉄(Fe2O3)粉;三津和化学薬品製)
粒子径:不明
嵩比重:1.4
【0074】
<天然放射性物質粉>
1)放射性セラミックス粉
(モナザイト/ジルコン系;美濃顔料化学社製)
粒子径:0.5〜1.0μm
嵩比重:1.1
電磁波強度:0.29mG/h
γ放射線当量:4.77μSV/h
放射線濃度:250Bq/h
【0075】
<実施例群I>
強磁性体粉(硬磁性体粉A・B、軟磁性体粉、混合系強磁性体粉)と、天然放射性物質粉(放射性セラミックス粉)とを強磁性体粉/天然放射性物質粉=98/2の混合物を添加剤として、表1に示す各市販塗料と組み合わせて、塗料100部(塗膜形成成分)に対して3部ずつ添加混合し、実施例群Iの各防汚塗料を調製した。
【0076】
なお、表示の各塗料は、下記の市販塗料をそれぞれ使用した。
1)アクリル樹脂塗料:
「アスカ」(関西ペイント株式会社商品名)
常温架橋形アクリル樹脂系つや有り塗料/水性
2)市販アルキド樹脂塗料:
アクリル変性アルキッド樹脂塗料/油性
「カンペOFP」 (関西ペイント株式会社商品名)
3)船底塗料:加水分解型船底塗料/油性
「なぎ塗料一番」(日本ペイントマリン株式会社商品名)
【0077】
上記各防汚塗料を、FRP板(ガラス繊維マット強化不飽和ポリエステル、4mmt×70mm×150mm)に2回塗り(平均塗布量:約2.3g)を施した供試体を各2枚ずつ作成した。
【0078】
そして、供試体を4日間放置養生した後に、供試体の一種類毎の各1枚ずつ、合計12枚を選び、これらに下記の磁石を用いて着磁処理をおこなった。具体的には、供試体の塗膜を損傷させないように、塗膜と磁石との接触面にキッチンペーパーを挟んでから、磁石を徐々に移動させ、塗膜全面を着磁処理をして着磁処理有とした。残りの供試体12枚については、着磁処理無とした。
【0079】
磁石仕様・・・ネオジウム磁石、
寸法:78.5mm×4.5mm×1.5mm、
表面集束密度:420mT
吸着力:7.5kgf
【0080】
(海中浸漬試験)
上記で作成した着磁処理無と着磁処理有の上記各供試体2組(合計24枚)を、下記条件で海中に浸漬させた状態で放置し、海息生物の付着状態を観察した。
設置場所:沖縄県宜野湾市真喜志地域 宜野湾港マリーナ港内
設置期間:平成18年3月3日〜平成18年10月6日
浸漬状態:水深 約1.5mに懸垂
【0081】
水中から前記各供試体を引き上げ、表面の汚染状態(海息生物付着状態)を観察した評価結果(以下、単に「評価結果」という。)を表1に示す。
【0082】
評価基準は下記の通りとした。
◎:貝甲類の付着しない部分が全体の95%以上の状態、
○:貝甲類の付着しない部分が全体の70%以上、95%未満の状態、
△:貝甲類の付着しない部分が全体の50%以上、70%未満の状態、
▲:貝甲類の付着しない部分が全体の20%以上、50%未満の状態、
×:貝甲類の付着しない部分が全体の20%未満、
―:試験せず。
【0083】
【表1】
【0084】
<実施例群II>
実施例群Iにおいて、添加剤を強磁性体粉/天然放射性物質粉=95/5とし、添加剤と塗料との組み合わせを表3に示すものとした以外は、同様にして、各防汚塗料を調製した。そして調製した各防汚塗料を用い、実施例群Iと同様にして、FRP板又は鋼板に塗布して、供試体を調製し、海中浸漬試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
<実施例群III>
実施例群1において、添加剤を強磁性体粉のみとし、添加剤と塗料との組み合わせを表2に示すものとした以外は、同様にして、各防汚塗料を調製した。そして、調製した各防汚塗料を用い、実施例群Iと同様にして、FRP板に塗布して、供試体を作成し、海中浸漬試験を行った。評価結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
なお、実施例群I・II・IIIにおける各供試体の塗膜のγ放射線当量(測定距離0mm)は、いずれも、天然放射性物質粉より若干低い約4.5μSVであると推定される。
【0089】
<参考例群>
表4に示す前記各市販塗料を用いて、実施例群Iと同様にして、FRP板又は鋼板に塗布して、着磁処理は施さずに供試体を作成し、海中浸漬試験を行った。評価結果を表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
<考察>
(i)添加剤成分の天然放射性物質の添加を省略した場合、着磁処理を施こすことで貝甲類の付着防止効果を高めることができた。
【0092】
(ii)本発明の添加剤を未添加の状態で用いたアクリル樹脂塗料・アルキッド樹脂塗料の形成膜には貝甲類が付着した。但し、試験に用いた船底塗料には、あらかじめ、防汚作用があるので、試験中に貝甲類が付着することはなかった。
【0093】
上記の結果を纏めると、本発明の防汚添加剤とそれを含有する塗料及び、その防汚塗膜の着磁処理による防汚効果が十分発揮されていることが分かる。