【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明では、単独又は他のクラスのHIV−1誘導物質と組み合せて、2つの別のクラスの化合物、すなわちDNAメチル化阻害剤及びヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(HMTI)のHIV−1再活性化能を利用する。
【0007】
本発明は、単独又は他のクラスのHIV−1誘導物質と組み合せて、2つのクラスの化合物、すなわちDNAメチル化阻害剤(5−アザ−2’デオキシシチジン[5−アザ−CdR又はデシタビン])及びヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(ケトシン及びBIX−01294)のHIV−1再活性化能を利用する。
【0008】
本発明は、単独又は他のHIV−1誘導物質と組み合せたDNAメチル化阻害剤又はHMT阻害剤がHIV−1産生をその潜伏状態から再活性化し、薬物併用時にこの効果が更に強まることを報告する。したがって、これは、持続的な抗レトロウイルス薬療法と共に、cART処置HIV+感染患者における潜伏リザーバーのプールを低減する治療戦略となる。
【0009】
一方で、本発明者らは、骨髄異形成症候群についてヒトの治療に承認されているDNAメチル化阻害剤5−アザ−CdR及びヒトの治療において(例えば、VPA、酪酸ナトリウム(NaBut)、又はSAHA)又は臨床試験において(例えばMS−275)に用いられる種々の構造的HDACIファミリーを含む複数のHDACIを含む組合せの再活性化の効果を試験した(
図5)。これにより、そのような組合せが、組込み後潜伏モデルT細胞系においてHIV−1産生の相乗的活性化(ウイルスmRNAレベル及びタンパク質レベルの両方)を誘導すること及び5−アザ−CdR+NaBut及び5−アザ−CdR+SAHAの組合せを用いた時に最も強い相乗作用が観察されることが示された(
図5)。これらの相乗作用は、少なくとも一部は、非反応性細胞が発現細胞集団へと相乗的にリクルートされることによるものであり(
図5b)、HIV−1 5’LTR中のCpGジヌクレオチドの部分的脱メチル化を伴っていた。更に、ウイルス量が検出不能なHIV
+ cART処置患者から単離したCD8
+枯渇PBMC培養物における本発明者らの予備データは、5−アザ−CdRがSAHAの再活性化能を増大させ得ることを強調していた。
【0010】
好ましい実施形態では、5−アザ−CdR等のDNAメチル化阻害剤を、VPA、酪酸ナトリウム(NaBut)、又はSAHA等のヒトの治療に用いられる種々の構造的HDACIファミリーを含むHDACIと組み合せる。SAHAと比べて毒性が低く、活性が高いため、酪酸ナトリウムとの組合せが特に好ましい。
【0011】
他方で、本発明者らは、HMT阻害剤(それぞれSuv39H1又はG9aの2つの特異的阻害剤であるケトシン及びBIX−01294)の治療可能性を、潜伏期からのHIV−1の再活性化に与える影響について評価した。最初に、潜伏感染細胞系において、本発明者らは、HMTIケトシンが単独でHIV−1遺伝子発現及び産生を増大させ(
図1)、非腫瘍NF−κB誘導物質プロストラチンと相乗的に機能すること(
図2)を示した。第2に、本発明者らは、ウイルス量が検出不能な67名のHIV
+cART処置患者か
ら単離したCD8
+枯渇PBMC又は休止CD4
+T細胞の生体外培養物中で単独の又は他のHIV−1誘導物質(IL−2及び同種異系刺激の非存在下)と組み合せたHMTIで処理した後のHIV−1復活を測定した。これにより、ケトシンが、HIV−1
+cAR
T処置患者から単離したCD8
+枯渇PBMC培養物の50%(表2
A)及び休止CD4
+T細胞培養物の86%(表2
B)でHIV−1復活を誘導し、一方、BIX−01294が、同様な患者から単離した休止CD4
+T細胞培養物の80%でHIV−1発現を再活
性化すること(表4)が初めて示された。更に、これらは、1つのHMTIとHDACIであるSAHA又は非腫瘍促進NF−KB誘導物質であるプロストラチンのいずれかとを含む併用処置が、これらの化合物単独での処置よりも高い再活性化能を有することを示した(
図3及び4並びに表3)。結論として、本発明者らは、単独又は他のHIV−1誘導物質と組み合せて用いたHMTIが、cART処置患者由来の休止記憶CD4
+T細胞中
でHIV−1復活を生じさせることを初めて示した。これらの結果は2012年7月にAIDSで公開された(BOUCHAT et al., AIDS, 26(12), 1473-1482.PMID:22555163)。ケ
トシン及びBIX−01294はヒトに安全に投与することはできないが、これらの結果は、HIV−1潜伏リザーバーのプールを低減することを目的とした戦略にHMTIを用いるというコンセプトの証明となる。HMTIは抗癌療法における有望な化合物でもあるので、他のより安全なHMTIがすぐに合成され、HIV−1
+cART処置個体におけ
るそれらの再活性化能が評価されるであろう。
【0012】
これらの結果は、単独又は他のHIV−1誘導物質と組み合せたDNAメチル化又はHMTの阻害剤の投与が、持続的cARTと共に、感染患者中でHIV−1を潜伏期から再活性化する有望な治療戦略であることを示唆している。
【0013】
したがって、本発明は以下を提供する。
1.そのような処置が必要な対象においてレトロウイルスに関連する疾患又は状態を処置する方法であって、治療又は予防有効量の
a)DNAメチル化阻害剤及び
b)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤
を前記対象に投与することを含む、方法。
【0014】
2.DNAメチル化阻害剤が投与された後にヒストンデアセチラーゼ阻害剤が投与される、第1項に記載の方法。
【0015】
3.前記DNAメチル化阻害剤が、5−アザシチジン(アザシチジン)、5−アザ−2’−デオキシシチジン(5−アザ−CdR、デシタビン)、1−β−Dアラビノフラノシル−5−アザシトシン(ファザラビン)、ジヒドロ−5−アザシチジン(DHAC)、5−フルオロデオキシシチジン(FdC)、2−Hピリミジノンを含むオリゴデオキシヌクレオチド二本鎖、ゼブラリン、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)、MG98、(−)−エピガロカテキン−3−ガラート、ヒドララジン、プロカイン、及びプロカインアミドを含む2つのクラスのDNAメチル化阻害剤(非ヌクレオシド及びヌクレオシド脱メチル化剤)から選択される、第1項又は第2項に記載の方法。
【0016】
4.前記DNAメチル化阻害剤が5−アザ−2’−デオキシシチジン(5−アザ−CdR
、デシタビン)である、第1〜3項のいずれか一項に記載の方法。
【0017】
5.前記ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、TSA、SAHA、MS−275、アミノスベロイルヒドロキサム酸、M−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサマート、LAQ−824、LBH−589、ベリノスタット(PXD−101)、M−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサマートの桂皮ヒドロキサム酸アナログであるパノビノスタット(LBH−589)、IF2357、アリールオキシアルカノン酸ヒドロキサミド、デプシペプチド、アピシジン、分子のペプチド基を含む環状ヒドロキサム酸、FK−228、レッドFK、脂肪族鎖でヒドロキサム酸に連結された環状ペプチド模倣物、ブチラート、酪酸フェニル、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、ピバロイルオキシメチルブチラート、5 NOX−275、及びMGCD0103を含む種々のファミリーのHDACI(ヒドロキサマート、環状ペプチド、脂肪酸、及びベンズアミド)から選択される、第1〜4項のいずれか一項に記載の方法。
【0018】
6.前記ヒストンデアセチラーゼが、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA、ボリノスタット)又は酪酸ナトリウム(NaBut)である、第1〜5項のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
7.5−アザ−2’−デオキシシチジン+SAHA及び5−アザ−2’−デオキシシチジン+NaButの組合せが用いられる、第1〜6項のいずれか一項に記載の方法。
【0020】
8.そのような処置が必要な対象におけるレトロウイルスに関連する疾患又は状態を処置する方法であって、治療又は予防有効量のヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤を前記対象に投与することを含む、方法。
【0021】
9.前記ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤が、ケトシン、UNC0224、ジアゼピニル−キナゾリンアミン、非SAM(S−アデノシルメチオニン)アナログ系HMTase阻害剤、BIX−01294、BIX−01338(水和物)、及び2−シクロヘキシル−N−(1−イソプロピルピペリジン−4−イル)−6−メトキシ−7−(3−(ピロリジン−1−イル)プロポキシ)キナゾリン−4−アミンを含む群から選択される、第8項に記載の方法。
【0022】
10.前記ヒストンメチルトランスフェラーゼがケトシン又はBIX−01294である、第8項又は第9項に記載の方法。
【0023】
11.HIV誘導物質、例えば
a)PMA、プロストラチン、ブリオスタチン、及びTNF−αを含む群から選択されるNF−κ−B誘導物質、
b)TSA、SAHA、MS−275、アミノスベロイルヒドロキサム酸、M−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサマート、LAQ−824、LBH−589、ベリノスタット(PXD−101)、M−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサマートの桂皮ヒドロキサム酸アナログであるパノビノスタット(LBH−589)、IF2357、アリールオキシアルカノン酸ヒドロキサミド、デプシペプチド、アピシジン、分子のペプチド基を含む環状ヒドロキサム酸、FK−228、レッドFK、脂肪族鎖でヒドロキサム酸に連結された環状ペプチド模倣物、ブチラート、酪酸フェニル、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、ピバロイルオキシメチルブチラート、5 NOX−275、及びMGCD0103を含む種々のファミリー(ヒドロキサマート、環状ペプチド、脂肪酸、及びベンズアミド)から選択されるヒストンデアセチラーゼ阻害剤、及び/又は
c)5−アザシチジン(アザシチジン)、5−アザ−2’−デオキシシチジン(5−アザ−CdR、デシタビン)、1−β−Dアラビノフラノシル−5−アザシトシン(ファザ
ラビン)及びジヒドロ−5−アザシチジン(DHAC)、5−フルオロデオキシシチジン(FdC)、2−Hピリミジノンを含むオリゴデオキシヌクレオチド二本鎖、ゼブラリン、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)、MG98、(−)−エピガロカテキン−3−ガラート、ヒドララジン、プロカイン、及びプロカインアミドを含む2つクラス(非ヌクレオシド及びヌクレオシド脱メチル化剤)から選択されるDNAメチル化阻害剤
の投与を更に含む、第8〜10項のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
12.ケトシン+プロストラチン及びケトシン+SAHAの組合せが用いられる、第8〜11項のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
13.BIX−01294+SAHAの組合せが用いられる、第8〜11項のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
14.前記レトロウイルスが、HIV−1、HIV−2、HTLV−1、及びHTLV−2からなる群から選択される、第1〜13項のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
15.
a)DNAメチル化阻害剤、
b)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、及び
c)そのような医薬組成物処置が必要な対象におけるレトロウイルスに関連する疾患又は状態の処置に有用であり得る1又は複数の更なる成分、例えば、限定されるものではないが、1若しくは複数の溶媒及び/又は1若しくは複数の薬学的に許容される担体
を含む、医薬組成物又は製剤。
【0028】
16.前記DNAメチル化阻害剤が、5−アザシチジン(アザシチジン)、5−アザ−2’−デオキシシチジン(5−アザ−CdR、デシタビン)、1−β−Dアラビノフラノシル−5−アザシトシン(ファザラビン)及びジヒドロ−5−アザシチジン(DHAC)、5−フルオロデオキシシチジン(FdC)、2−Hピリミジノンを含むオリゴデオキシヌクレオチド二本鎖、ゼブラリン、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)、MG98、(−)−エピガロカテキン−3−ガラート、ヒドララジン、プロカイン、及びプロカインアミドを含む2つのクラス(非ヌクレオシド及びヌクレオシド脱メチル化剤)から選択される、第15項に記載の医薬組成物。
【0029】
17.前記DNAメチル化阻害剤が5−アザ−2’−デオキシシチジンである、第15項に記載の医薬組成物。
【0030】
18.前記ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、TSA、SAHA、MS−275、アミノスベロイルヒドロキサム酸、M−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサマート、LAQ−824、LBH−589、ベリノスタット(PXD−101)、M−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサマートの桂皮ヒドロキサム酸アナログであるパノビノスタット(LBH−589)、IF2357、アリールオキシアルカノン酸ヒドロキサミド、デプシペプチド、アピシジン、分子のペプチド基を含む環状ヒドロキサム酸、FK−228、レッドFK、ヒドロキサム酸に脂肪族鎖で連結された環状ペプチド模倣物、ブチラート、酪酸フェニル、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、ピバロイルオキシメチルブチラート、5 NOX−275、及びMGCD0103を含む種々のファミリー(ヒドロキサマート、環状ペプチド、脂肪酸、及びベンズアミド)から選択される、第15〜17項のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【0031】
19.前記ヒストンデアセチラーゼ阻害剤がSAHA又はNaButである、第15〜1
8項のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【0032】
20.前記DNAメチル化阻害剤が5−アザ−2’−デオキシシチジンであり、前記ヒストンデアセチラーゼ阻害剤がSAHA又はNaButである、第15〜19項のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【0033】
21.
a)ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、及び
b)あり得る1又は複数の更なる成分、例えば、限定されるものではないが、1若しくは複数の溶媒及び/又は1若しくは複数の薬学的に許容される担体
を含む、そのような処置が必要な対象におけるレトロウイルスに関連する疾患又は状態の処置のための医薬組成物又は製剤
【0034】
22.前記ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤が、ケトシン、UNC0224、ジアゼピニル−キナゾリンアミン、非SAM(S−アデノシルメチオニン)アナログ系HMTase阻害剤、BIX−01294、BIX−01338(水和物)、及び2−シクロヘキシル−N−(1−イソプロピルピペリジン−4−イル)−6−メトキシ−7−(3−(ピロリジン−1−イル)プロポキシ)キナゾリン−4−アミンを含む群から選択される、第21項に記載の医薬組成物。
【0035】
23.HIV誘導物質、例えば
a)PMA、プロストラチン、ブリオスタチン、及びTNF−αを含む群から選択されるNF−κ−B誘導物質、
b)TSA、SAHA、MS−275、アミノスベロイルヒドロキサム酸、M−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサマート、LAQ−824、LBH−589、ベリノスタット(PXD−101)、M−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサマートの桂皮ヒドロキサム酸アナログであるパノビノスタット(LBH−589)、IF2357、アリールオキシアルカノン酸ヒドロキサミド、デプシペプチド、アピシジン、分子のペプチド基を含む環状ヒドロキサム酸、FK−228、レッドFK、脂肪族鎖によってヒドロキサム酸に連結された環状ペプチド模倣物、ブチラート、酪酸フェニル、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、ピバロイルオキシメチルブチラート、5 NOX−275、及びMGCD0103を含む種々のファミリー(ヒドロキサマート、環状ペプチド、脂肪酸、及びベンズアミド)から選択されるヒストンデアセチラーゼ阻害剤、及び/又は
c)5−アザシチジン(アザシチジン)、5−アザ−2’−デオキシシチジン(5−アザ−CdR、デシタビン)、1−β−Dアラビノフラノシル−5−アザシトシン(ファザラビン)及びジヒドロ−5−アザシチジン(DHAC)、5−フルオロデオキシシチジン(FdC)、2−Hピリミジノンを含むオリゴデオキシヌクレオチド二本鎖、ゼブラリン、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)、MG98、(−)−エピガロカテキン−3−ガラート、ヒドララジン、プロカイン、及びプロカインアミドを含む2つのクラス(非ヌクレオシド及びヌクレオシド脱メチル化剤)から選択されるDNAメチル化阻害剤
を更に含む、第21項又は第22項に記載の医薬組成物。
【0036】
24.ケトシン+プロストラチン又はケトシン+SAHAの組合せを含む、第23項に記載の医薬組成物。
【0037】
25.BIX−01294+SAHAの組合せを含む、第23項に記載の医薬組成物。
【0038】
26.種々の成分を混合して組成物又は製剤にすることを含む、上記項のいずれかに記載の組成物又は製剤の製造方法。
【0039】
27.レトロウイルス、好ましくはHIV−1、HIV−2、HTLV−1、及びHTLV−2からなる群から選択されるレトロウイルス、好ましくは潜伏感染のレトロウイルスに関連する疾患又は状態の処置のための、第15〜25項のいずれか一項に記載の組成物。
【0040】
28.潜伏レトロウイルス感染症の根絶及び/又はレトロウイルスリザーバーの破壊のための、第15〜25項のいずれか一項に記載の組成物。
【0041】
29.ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、DNAメチル化阻害剤が投与された後に投与される、レトロウイルス、好ましくはHIV−1、HIV−2、HTLV−1、及びHTLV−2からなる群から選択されるレトロウイルス、より好ましくは潜伏感染症のレトロウイルスに関連する疾患又は状態の処置のための、第15〜25項のいずれか一項に記載の組成物。
【0042】
以下に本発明を図を用いて説明するが、これらは例示のみを目的とすると理解するべきであり、発明は開示されている実施形態に何ら限定されない。