(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施形態に係る羽根車は、
図10に示すようなターボチャージャ1に適用される。
ターボチャージャ1は、排気を受けて回転するタービン羽根車17と、このタービン羽根車17に追従する回転によって吸気及び圧縮をして図示を省略する当該機関のシリンダへと送り込むコンプレッサ羽根車10とを備えている。
コンプレッサ羽根車10とタービン羽根車17とは、ターボチャージャ1の内部に回転可能に軸支されたシャフト19によって一体となって回転するように連結されている。
【0014】
コンプレッサ羽根車10は、コンプレッサハウジング20の内部に収容されている。
コンプレッサハウジング20は、コンプレッサ羽根車10の正面側に、吸気を導入するための吸入口21と、コンプレッサ羽根車10の外周に、渦巻き状に延びるコンプレッサ通路23と、を備えている。このコンプレッサ通路23は、コンプレッサ羽根車10の外周部に開口する吐出口22に接続されている。
【0015】
タービン羽根車17は、タービンハウジング30の内部に収容されている。
タービンハウジング30は、タービン羽根車17の外周に、渦巻き状に延びるスクロール通路33を備えている。図示を省略する内燃機関より排出された排気は、このスクロール通路33に導入され、スクロール通路33を通過する過程で回転力を得た排気は、
図10に矢印にて示すように、スクロール通路33の内面に形成された導入口32を通じてタービン羽根車17のタービンブレード18へと吹き付けられる。こうして吹き付けられた排気によって、タービン羽根車17が回転される。なお、タービン羽根車17に吹き付けられた排気は、タービン羽根車17の正面側に開口した排出口31を通じて排出される。
【0016】
タービン羽根車17の回転がシャフト19を通じて伝達され、コンプレッサ羽根車10が回転されると、吸入口21を通じて吸気が吸引される。吸引された吸気は、コンプレッサ羽根車10に設けられたコンプレッサブレード15によって圧縮され、吐出口22を通じてコンプレッサ通路23へと強制的に送り込まれる。コンプレッサ通路23へと送り込まれた吸気は、内燃機関のシリンダ(図示略)へと送られ、過給が行われる。
【0017】
本実施形態に係るコンプレッサ羽根車10は、繊維強化樹脂を射出成形することにより形成されている所に特徴を有するが、始めにコンプレッサ羽根車10の概略の構成について説明する。
コンプレッサ羽根車10は、
図1(a)に示すように、
図10に示したシャフト19と同軸に設けられる円盤状のハブ11と、ハブ11の一方の面側から各々が立ち上がり、吸気の流路を形成する複数の羽根形状のコンプレッサブレード15と、を備えている。なお、コンプレッサ羽根車10において、コンプレッサブレード15が設けられる側を正面11a、その反対側を背面11bと定義する。また、コンプレッサ羽根車10において、回転軸線Cに近い側を内径側とし、遠い側を外径側とする。
ハブ11は、正面11aが、外径側から内径側に向かうのにつれて連続的に突出するように湾曲している。ハブ11は、シャフト19が嵌合されるボス孔12を備えるとともに、ボス孔12の周囲には、コンプレッサ羽根車10の回転軸線Cを取り囲むボス13を備える。
コンプレッサブレード15は、本実施形態では、長翼15aと短翼15bの2種類を備えており、長翼15aと短翼15bは交互に配列されている。
【0018】
コンプレッサ羽根車10は、繊維強化樹脂により形成されているが、特にボス13における強化繊維Fの配向に特徴を有している。
コンプレッサ羽根車10を繊維強化樹脂により形成するには、強化繊維を含む溶融樹脂を回転軸線Cに沿って射出する。そうすると、ボス孔12の周囲のいわゆるスキン層において、強化繊維Fは射出方向に沿って配向されるので、そのままでは回転軸線Cに沿って配向される。
しかし、本実施形態によるコンプレッサ羽根車10は、ボス孔12の周囲を囲むボス13のスキン層に対応する部分について、配向の向きが異なる二つの部分を備える。つまり、本実施形態は、回転軸方向断面で捉えると、
図1(a)に示すように、強化繊維Fがボス13(ハブ11)の径方向に対して傾斜する配向領域(以下、第1領域α)と、強化繊維Fがボス13(ハブ11)の回転軸線Cに沿う配向領域(以下、第2領域β)と、を備える。
【0019】
繊維強化樹脂は、一般的に、強化繊維が配向する方向と同じ方向に対する機械的な強度(例えば、引張り強度)は高いが、強化繊維の配向方向と直交する方向に対する機械的な強度は低い。
コンプレッサ羽根車10が回転している間に、コンプレッサ羽根車10のボス13の部分には、
図1(b)に示すように、主応力S
Pが周方向に生じる。特に、第1領域αは、ハブ11の外径が大きく肉厚が厚いために、第2領域βに比べて大きい主応力S
Pが生じる。そこで、回転による主応力S
Pに強度的に対応するためには、第1領域αのように強化繊維Fを径方向に傾斜して配向させることで、主応力S
Pに対する強度を確保する。この第1領域αは、ハブ11の外径が最大になる回転軸線C方向の位置を含んでいる。
一方で、コンプレッサ羽根車10は、ボルトによる締め付けにより固定されるが、この締め付けによりボス13の部分には、回転軸線Cに沿う圧縮応力が生じる。第2領域βにおいては、主応力S
Pよりもこの圧縮応力に対向することを優先させるために、第2領域βにおいては、強化繊維Fを回転軸線Cに沿うように配向させる。
強化繊維を含む溶融樹脂を回転軸線Cに沿って射出すると、強化繊維Fは回転軸線Cに沿って配向されるので、第2領域βを得ることは比較的に容易と言えるが、第1領域αを得るには格別の処置が必要である。以下、
図2を参照して説明する。なお、
図2は、コンプレッサ羽根車10を成形するためのキャビティ42とスプルーRの外径を示しているが、説明の必要上、コンプレッサ羽根車10に対応する部位にはコンプレッサ羽根車10における符号を付している。
【0020】
本実施形態は、コンプレッサ羽根車10を射出成形する際に、第1領域αに対応する領域に、強化繊維Fをボス13の径方向に傾斜して配向させる溶融樹脂の流れを生じさせる。具体的には、本実施形態では、射出成形している最中に、ボス孔12に対応して配置されるセンターピン49の長さを特定する。以下、
図2(a)と
図2(b)と比較して具体的に説明する。なお、
図2(a)は本実施形態に係り、センターピン49がボス13を貫通しないで、背面11bから所定の寸法だけ、正面11aの側にずれた位置にその先端49Eが留まっている。この先端49Eは、成形される製品であるコンプレッサ羽根車10に対応するキャビティ42の内部、特に径が最大になる位置に留まる。これに対して
図2(b)は、センターピン49がボス13を回転軸線Cの方向に貫通して設けられている。なお、
図2において、破線で示す矢印A1〜A3は、溶融樹脂が流れる向きを示している。また、センターピン49は、コンプレッサ羽根車10の正面11aの側から挿入されることを前提とする。
【0021】
通常、強化繊維を含む溶融樹脂を平板状のキャビティに射出した際の繊維の配向として、以下が知られている。
流動状態にある溶融樹脂のキャビティ壁面の近傍、つまりスキン層に相当する部分にはせん断応力が作用するため、溶融樹脂中の強化繊維は溶融樹脂の流動方向に配向する。一方、キャビティ壁面から離れた厚さ方向の中央付近、つまりコア層に相当する部分にはせん断応力が作用しないため、溶融樹脂中の強化繊維は溶融樹脂の流動方向と直交する方向に配向する。すなわち、成形品の肉厚の中心部分では流動方向と直交かる方向に強化繊維が配向するため、平板状の成形品の肉厚の中心部分では強化繊維は幅方向に配向し、円柱状の成形品の肉厚の中心部分では強化繊維は円柱の横断面内にランダムに配向する現象がある。本発明はこの現象を利用している。
はじめに、
図2(a)に示す例では、第一領域αに対応する領域では、センターピン49が存在しないため、ボス13の繊維配向は回転軸線Cの横断面内にランダムに配向し、第二領域βに対応する領域では、センターピン49の外周面によるせん断応力によってボス孔12の周囲は回転軸線C方向に繊維が配向することとなる。
一方で,
図2(b)の場合においては、第一領域αに対応する領域にてセンターピン49の外周面によるせん断応力によって回転軸線Cの方向に繊維が配向することとなり、センターピン49の先端49Eの位置に応じて、ボス13に繊維配向の異なる領域を設けることが可能となる。
【0022】
ここで、
図2(a),(b)において、二点鎖線より図中の左側は、溶融樹脂の通り道であるスプルーRであり、射出成形後に加工により除去される。つまり、コンプレッサ羽根車10として残る射出成形体は、二点鎖線より図中の右側である。そこで、
図2(a)と
図2(b)を比較すると、センターピン49を貫通させない
図2(a)、つまり本実施形態は、溶融樹脂の流れが径方向に沿う領域が、コンプレッサ羽根車10の範囲に内に収まり、センターピン49を貫通させない
図2(b)は、溶融樹脂の流れが径方向に沿う領域は除去され、コンプレッサ羽根車10に残らない。
以上のように、センターピン49を挿入する深さを調整することにより、第1領域αと第2領域βが並存するコンプレッサ羽根車10を得ることができる。
【0023】
図1(b)及び
図2(a)に示す強化繊維Fが周方向に配向される形態は、第1領域αにおける最も好ましい配向の形態であるが、現実には、すべての強化繊維Fが周方向に配向されるとは限らない。
したがって、例えば、
図3(b)に示すように、ボス13の横断面において、強化繊維Fがボス13の径方向に対して傾斜するように配向されていてもよい。この傾斜配向の場合にも、強化繊維Fは主応力S
Pと交差するので、主応力S
Pに対する強度を担保できる。また、本実施形態は、
図3(c)に示すように、周方向に配向される強化繊維F1と傾斜配向される強化繊維F2が混じっていてもよく、本実施形態は、両者を含めて傾斜配向という。
【0024】
以上説明したように、本発明は、第1領域αにおいて、ボス13の径方向に対して強化繊維Fを傾斜するように配向することによって、主応力S
Pに対する強度を向上させる。この傾斜の角度は、0°を超え90°(直交)以下の範囲とされるが、傾斜角度が大きくなるほど主応力S
Pに対する強度が向上するので、好ましくは30°以上、さらに好ましくは50°以上、より好ましくは70°以上とする。
【0025】
本発明の第1領域αにおいて、主応力S
Pに対する強度の向上は、ボス13の横断面における強化繊維Fをボス13の径方向に対して傾斜させることが支配的であるが、縦断面について言及すると以下の通りである。
図4(a)に示すように、強化繊維Fは、回転軸線Cと直交するように配向されていてもよく、また、
図4(b)に示すように、強化繊維Fは、回転軸線Cに対して傾斜するように配向されていてもよい。
【0026】
以上、本実施形態における第1領域α及び第2領域βのそれぞれについて説明したが、第1領域αと第2領域βの境界部分は、両者における強化繊維Fの配向が入り混じることになる。つまり、本実施形態におけるボス13は、ハブ11の径方向に対して傾斜して配向される強化繊維の頻度が高い第1領域αと、回転軸線Cの方向に配向される強化繊維Fの頻度が高い第2領域βと、第1領域αと第2領域βの間に設けられ、傾斜配向される強化繊維Fと軸線方向配向される強化繊維Fが入り混じる第3領域とから構成される。
【0027】
本実施形態において、ボス13の周囲のハブ11の部分の強化繊維Fの配向は任意である。ただし、繊維強化樹脂は、スキン層よりも外径側の領域については、強化繊維Fの配向がランダムになり、傾斜配向される強化繊維Fも相当に含まれる。したがって、当該部分については、このランダムな配向をそのまま利用すればよい。
【0028】
コンプレッサ羽根車10を構成する樹脂(母材)及び強化繊維Fは任意である。母材は、射出成形に供されるものであるから、熱可塑性樹脂が用いられ、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンなどの汎用樹脂や、ポリアミドやポリカーボネートなどの耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックなどの公知の樹脂を用いることができる。また、強化繊維Fとしては、ガラス繊維、炭素繊維などの公知の強化繊維など、公知の繊維を用いることができる。なお、一般的にターボチャージャのコンプレッサ羽根車10は回転の上昇に伴い、圧縮する空気温度が上昇し、これによりコンプレッサ羽根車10自体の温度も上昇していくことから、前記コンプレッサ羽根車10を構成する樹脂は、前記回転上昇時のコンプレッサ羽根車10の到達温度に対し適切なガラス転移温度を有する耐熱性の熱可塑性樹脂で構成されることが好ましい。
また、強化繊維Fの含有量は、好ましくは5質量%〜60質量%の範囲、より好ましくは25質量%〜45質量%の範囲とすればよい。
強化繊維Fは、同じ繊維長のものを用いることができるが、相対的に長い強化繊維Fと短い強化繊維Fを混在させることができる。
また、コンプレッサ羽根車10は、熱可塑性樹脂及び強化繊維Fに加えて、熱可塑性エラストマを添加することができる。熱可塑性エラストマを含有することで、繊維強化樹脂の延性が向上し割れ発生に対する感度を低減できるとともに、射出成形時の高圧での溶融樹脂の圧縮性が増加し、冷却固化収縮を補うだけの膨張量を確保でき、引張残留応力の発生や割れの防止に有効である。本発明者らの検討によると、0.1質量%〜30質量%の熱可塑性エラストマを含有することにより、引張残留応力や割れを、更に低減できる。
また、ハブ11の背面11bに窪みを設けることにより、ハブ11の肉厚を低減すれば、射出成形時における溶融樹脂の収縮量の絶対値が小さくなるので、引張応力や割れを低減できる。
【0029】
[製造方法]
以上、説明したコンプレッサ羽根車10は、繊維強化樹脂を固定金型と可動金型を備える射出成形機を用いて製造される。
射出成形機は、型締め装置と可塑化装置を備えている。型締め装置は、固定金型が取り付けられる固定ダイプレートと、可動金型が取り付けられた可動ダイプレートとを備え、型開閉用の油圧シリンダの作動により可動ダイプレートを移動させて可動金型を固定金型に強固に当接さて型締めを行う。可動金型と固定金型からなる金型の内部には、コンプレッサ羽根車10を成形するための空隙であるキャビティが形成される。
可塑化装置は、筒型の可塑化シリンダと、可塑化シリンダの内部に設けられるスクリュと、強化繊維と樹脂原料が投入される供給部と、を備える。供給部は、強化繊維を投入する部分と樹脂原料を投入する部分を個別に設けることもできる。
スクリュを回転させることで樹脂原料を溶融し、型締め装置に保持される金型の内部のキャビティに向けて強化繊維Fが分散された溶融樹脂を射出する。
【0030】
以下、
図5を参照して、コンプレッサ羽根車10を成形するのに好適な金型40を説明する。本実施形態における金型40は、コンプレッサ羽根車10を射出成形する際に、指向性冷却ができる点に特徴を有している。なお、金型40は、要部のみを示している。
【0031】
金型40は、
図5に示すように、図示を省略する固定ダイプレートに取り付けられる固定金型41と、図示を省略する可動ダイプレートに取り付けられる可動金型43とを備え、型開閉用の油圧シリンダを動作させることにより可動ダイプレートを移動させて可動金型43を固定金型41に強固に当接させて型締めを行う。可動金型43と固定金型41の間には、コンプレッサ羽根車10を成形するための空隙であるキャビティ42が形成される。可動金型43には、スプルーを形成するスプルー金型44が取り付けられており、可塑化装置からの溶融樹脂はスプルー金型44を介してキャビティ42に供給される。また、可動金型43は、コンプレッサ羽根車10の形状に応じて、破線で示すように第1要素43A、第2要素43B及び第3要素43Cに分割することができる。
【0032】
スプルー金型44は、円筒状の形態をなしており、その外周に沿って、第1ヒータ45Aと第2ヒータ45Bが設けられている。第1ヒータ45Aと第2ヒータ45Bは、主に、可塑化装置から供給される溶融樹脂が、スプルーRを通る間に、必要な温度を維持するために設けられている。
また、可動金型43の内部には、第2ヒータ45Bよりも外側に第3ヒータ45Cが設けられている。第3ヒータ45Cは、可動金型43に形成された円環状の溝に挿入されている。第3ヒータ45Cは、主に、キャビティ42に連なるゲートGを通る溶融樹脂を必要な温度にするために設けられている。
以上のように、第1ヒータ45A、第2ヒータ45B及び第3ヒータ45Cは、溶融樹脂が供給される上流側に設けられている。なお、第1ヒータ45A、第2ヒータ45B及び第3ヒータ45Cの構成要素は任意であり、電熱線を加熱要素として備えるヒータや、加熱した油や加圧水を金型内に設置した温調回路に流通するなど、公知の加熱方法を適用することができる。
【0033】
次に、可動金型43には、その外周の近傍に第1冷却水路47A、第2冷却水路47B及び第3冷却水路47Cを備えている。第1冷却水路47A、第2冷却水路47B及び第3冷却水路47Cは、図示を省略する供給源から供給される冷却水が内部を循環することにより、キャビティ42に供給される溶融樹脂をその周囲から冷却するために設けられている。なお、第1冷却水路47A、第2冷却水路47B及び第3冷却水路47Cは、それぞれ、第1要素43A、第2要素43B及び第3要素43Cに設けられており、それぞれが冷却水を独立して流すことができるようになっている。
また、可動金型43には、コンプレッサ羽根車10にボス孔12を形成するために、中心部にセンターピン49が挿入されている。センターピン49は、正面11aの側から挿入されるが、キャビティ42を貫通することなく、その先端49Eが背面11bの側から後退してキャビティ42の内部に留まっている。その理由は、前述した通りである。
センターピン49は、内部に第4冷却水路49Aが形成されており、図示を省略する供給源から供給される冷却水が内部を循環することにより、キャビティ42に供給される溶融樹脂を中心から冷却することができる。
以上のように、可動金型43は、キャビティ42を外周側及び内周側の双方から冷却する機構を備えているとともに、外周側からの冷却機構は、軸方向に沿って独立して冷却できる冷却機構を備えている。
【0034】
次に、指向性冷却をしながらコンプレッサ羽根車10を射出成形により得る手順を
図6及び
図7を参照して説明する。ここで、スプルー金型44が設けられる側をゲート(正面)側P1とし、その逆側を反ゲート(背面)側P2とすると、本実施形態における指向性冷却とは、反ゲートの側P2からゲートの側P1に向けて、温度が高くなるように温度勾配を設けること、逆の言い方をすると、ゲートの側P1から反ゲートの側P2に向けて、温度が低くなるように温度勾配を設けることをいう。この指向性冷却を実現するために、第1ヒータ45A、第2ヒータ45B及び第3ヒータ45C、並びに、第1冷却水路47A、第2冷却水路47B、第3冷却水路47C及び第4冷却水路49Aの動作を制御する。
【0035】
射出成形の一連の工程は、
図6に示すように、溶融樹脂をキャビティ42に充填する射出工程と、キャビティ42に溶融樹脂が充填された後に、キャビティ42内の溶融樹脂に必要な圧力を付与する保圧工程とを備える。この工程に応じてヒータによる加熱と冷却水による冷却が制御されるが、射出工程より後は、射出された溶融樹脂が冷却される冷却工程ということができる。
【0036】
射出工程においては、
図6及び
図7(a)に示すように、第1ヒータ45A、第2ヒータ45B及び第3ヒータ45Cはいずれも加熱状態(
図6 ON)とされる。一方で、第1冷却水路47Aを除いて、第2冷却水路47B、第3冷却水路47C及び第4冷却水路49Aに冷却水を循環(
図6 ON)させる。このように、射出工程においては、キャビティ42のゲートの側P1に近い領域の温度を高く維持している。なお、
図7において、加熱状態にあるヒータには網掛けを施し、加熱状態にないヒータは白抜きで示している。同様に、冷却水が循環される冷却水路には網掛けを施し、冷却水が循環されていない冷却水路は白抜きで示している。
【0037】
次に、射出工程から保圧工程に移行すると、
図6及び
図7(b)に示すように、第3ヒータ45Cによる加熱を停止する(
図6 OFF)とともに、第1冷却水路47Aにも冷却水を循環(
図6 ON)させる。これにより、射出工程では温度が維持されていた領域が冷却に転じる。この状態を保圧工程が完了してから所定時間だけ継続して冷却工程を完了し、その後は、型開きを行ってコンプレッサ羽根車10を取り出す。
【0038】
次に、以上の手順による効果を説明する。
ヒータによる加熱と冷却水による冷却を制御して温度勾配を付けることで、反ゲートの側P2から溶融樹脂の冷却を行い、溶融樹脂の温度低下に伴う収縮が反ゲートの側P2に発生させる。一方で、ゲートの側P1を加熱・圧力保持することで、反ゲートの側P2の収縮分に対してゲートの側P1から溶融樹脂を補充できるので、収縮による内部の引張応力や割れの発生を防止できる。
次に、溶融樹脂の充填が済んで射出工程が完了した時点から、第1冷却水路47Aにも冷却水を循環させることで、反ゲートの側P2からゲートの側P1への軸線方向の冷却に加え、コンプレッサ羽根車10の半径方向において、キャビティ42の外径側から中心側に向け冷却が進む。したがって、本実施形態によると、半径方向に対する溶融樹脂の収縮に対しても、収縮分に対してゲートの側P1から溶融樹脂を補充できるので、収縮による内部の引張応力や割れの発生を防止できる。また、時間差を置いて第1冷却水路47Aに冷却水を流して、ゲートG及びその近傍領域の冷却を開始することで、ゲートGの直下の樹脂の冷却・固化を進め、最終の冷却固化位置をゲート内部に追い出すことが可能で、肉厚部の引張残留応力の発生や割れの発生を防止できる。
また、指向性冷却を行うことにより、当初に冷却されているハブ11の正面11aと加熱されている背面11bを比べると、背面11bの表面粗さが小さい。射出成形において,金型温度を高い状態で溶融樹脂を射出した場合、樹脂成形品は金型壁面の転写性が向上し、平滑鏡面に仕上げた金型では、成形品の表面平滑性が格段に向上することが知られている。よって、本実施形態では、背面11b側の金型を高温に保持した状態で射出成形することで、背面11bの表面平滑性を向上させている。これは、コンプレッサ羽根車10を回転させている際に、空気との摩擦による発熱を抑えることができることを示唆している。特に、背面11bの側は、圧縮した空気の漏れを防止するため、ベアリングハウジングの固定面と微小な隙間を持って組み付けられ、かつ高速回転するため、空気の摩擦発熱等により、正面11aに比べて温度上昇がしやすい。したがって、本実施形態による指向性冷却を行うことにより、この発熱の低減にも有効である。
【0039】
本実施形態において、ヒータによる加熱と冷却水による冷却の条件を
図8に示すように変更することもできる。
図8に示す条件によると、第1冷却水路47Aに冷却水を流してゲートGの冷却を開始するまで、射出圧力の保持(保圧工程)を行い、成形品の収縮分に対してゲートの側P1から溶融樹脂を順次押し込むことができる。そうすると、収縮に対する溶融樹脂の補充と、ゲート直下の製品部最終冷却固化位置の応力や割れの発生を防止できる。
【0040】
本実施形態において、保圧工程における射出圧力は任意であるが、好ましくは140MPa以上、より好ましくは200MPa以上で保持を行う。そうすることで、粘性のある溶融樹脂の補充性や、溶融樹脂の圧縮量を確保し、冷却固化収縮を補うだけの膨張量を確保でき、引張応力や割れの防止に有効である。
また、保圧工程において、ゲート近傍の樹脂温度が樹脂の融点とガラス転移温度との間の温度域で保持を継続することが好ましい。これにより、樹脂流動が可能な温度域のみに圧力保持を行えば足りるので、射出軸の圧力保持の動力が必要最小限となり、省エネルギーに寄与する。
【0041】
以上、本発明好ましい実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、強化繊維Fの傾斜配向については、長翼,短翼の二種類のブレードを備える羽根車に限らず、一種類のブレードだけを備える羽根車について適用することができる。
また、以上では羽根車としてコンプレッサ羽根車10を例にして説明したが、タービン羽根車、他の羽根車について、本発明を適用することができる。
さらにまた、以上説明した実施形態は、コンプレッサ羽根車10の背面11bの側にゲートGを設ける一方、正面11aを反ゲートの側とした例を示したが、本発明方法はこの射出の向き(第一の向き)に限るものでなく、
図9に示すように、コンプレッサ羽根車10の正面11aの側にゲートGを設ける一方、背面11bを反ゲートの側とする射出の向き(第二の向き,破線矢印)にすることもできる。この第二の向きで溶融樹脂を射出成形する場合にも、冷却用のセンターピン49は、上記と同じ効果が得られるようにする。つまり、センターピン49は、背面11bの側から挿入され、その先端がボス13の正面11aの側から背面11bの側に後退して配置されることが好ましい。