特許第6208738号(P6208738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6208738エポキシ化合物の製造プラントからの流出流を処理するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208738
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】エポキシ化合物の製造プラントからの流出流を処理するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/08 20060101AFI20170925BHJP
   C25B 1/26 20060101ALI20170925BHJP
   C02F 1/04 20060101ALI20170925BHJP
   C07D 301/03 20060101ALI20170925BHJP
   C07D 303/04 20060101ALI20170925BHJP
   C07D 303/08 20060101ALI20170925BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C25B15/08 304
   C25B1/26 C
   C02F1/04 D
   C07D301/03
   C07D303/04
   C07D303/08
   C25B9/00 C
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-502331(P2015-502331)
(86)(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公表番号】特表2015-520295(P2015-520295A)
(43)【公表日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】EP2013056564
(87)【国際公開番号】WO2013144227
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年3月14日
(31)【優先権主張番号】MI2012A000486
(32)【優先日】2012年3月27日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】イアコペティ,ルチアーノ
(72)【発明者】
【氏名】メネギーニ,ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】ポルシーノ,ガエターノ
(72)【発明者】
【氏名】フェイタ,ジュゼッペ
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/016872(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/095429(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/152043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/08
C25B 9/00
C25B 1/26
C02F 1/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニットの生成物を用いて有機原材料を酸化することによってエポキシ化合物を合成するプラントにおける消耗したブラインから構成される廃棄流の有機物質含量を減少させる方法であって、次の:
(a)水流を、処理する消耗したブライン中に注入して蒸気ストリッピングを行い;
(b)次亜塩素酸塩を用いてpH3.5〜5及び50〜60℃の温度において予備酸化し;
(c)次亜塩素酸塩の存在下において、pH3〜4及び80〜95℃の温度において最終酸化を行って新たなブラインを得る;
逐次工程を含む上記方法。
【請求項2】
消耗したブラインが、工程(a)の入口において10,000mg/Lの酸素より高く、工程(a)の出口において2,000〜4,000mg/Lの酸素のCODを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸気ストリッピング工程を3〜4の間に調節したpHにおいて行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
消耗したブラインが、工程(b)の出口において400〜1,500mg/Lの酸素のCODを有する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(c)の出口における新たなブラインが40mg/Lの酸素以下のCODを有する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
有機原材料が、プロピレン、塩化アリル、及びグリセリンからなる群から選択され、エポキシ化合物がプロピレンオキシド又はエピクロロヒドリンである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
次亜塩素酸塩を用いる予備酸化工程を、塩素及びアルカリを供給することによって行う、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
次亜塩素酸塩を用いる予備酸化工程を非分割タイプの電気分解セル内で行う、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
最終酸化工程を電気分解セル内で行う、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
電気分解セルが非分割タイプのアルカリブライン電気分解セルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
最終酸化工程を、フッ素化ポリマー繊維を含む非アスベスト隔膜セパレーターを装備した電気分解セルから構成される、新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニット内で直接行う、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
続いて、次の:
(d)活性炭上に吸収させることによって塩素化副生成物の濃度を調節し;
(e)酸性範囲に調節したpHにおいて亜硫酸塩を注入することによって塩素酸塩の濃度を調節する;
同時又は逐次工程の1以上を行う、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
合成プラントの消耗したブラインの有機物質含量を減少させる手段を含み、かかる減少手段が、新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニット、消耗したブラインの蒸気ストリッピングユニット、pH3.5〜5及び50〜60℃の温度において予備酸化を行うように適合されている次亜塩素酸塩を用いる予備酸化のユニット、並びに塩素及び苛性ソーダが供給される反応器から構成される最終酸化ユニットを含む、エポキシ化合物の合成プラント。
【請求項14】
新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニットが、フッ素化ポリマー繊維を含む非アスベスト隔膜セパレーターを装備した電気分解セルから構成される、請求項13に記載のプラント。
【請求項15】
たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニットがメンブレンタイプの電気分解セルから構成される、請求項13に記載のプラント。
【請求項16】
予備酸化ユニットが非分割タイプの電気分解セルから構成される、請求項13〜15のいずれかに記載のプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化合物の工業合成におけるプロセス電解液を処理及び再生利用すること、並びに関連する製造プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンオキシド及びエピクロロヒドリンのようなエポキシ化合物は、塗料、及び航空宇宙産業においてますます用いられている炭素繊維強化材料のような高機能のものを含む加工品のために用いられるエポキシ樹脂の製造における重要な成分である。
【0003】
エポキシ化合物の製造プロセスは、不飽和有機化合物(式:CH=CH−R(式中、Rは一般にアルキル又はクロロアルキル基を表す)によって示される)の塩素及びアルカリ、例えば苛性ソーダとの反応を規定する下記に示すスキームに基づく。反応全体は、次亜塩素酸(HClO)を生成させる第1工程、不飽和化合物の二重結合に次亜塩素酸を付加して対応するクロロヒドリン(CHCl−CH(OH)−Rとして示される)を形成する第2工程、及び苛性ソーダを用いてクロロヒドリンを転化させて、最終生成物(下記においてCH−(O)−CH−Rとして示し、これは構造式(I)によって表される)及び塩化ナトリウム(消耗したブライン(depleted brine))を形成する第3工程によって行う。
【0004】
【化1】
【0005】
下記においては明確にエポキシ化合物合成セクションを塩素−苛性ソーダユニットに組合せるプラントに関して述べるが、同じ概念は他のクロルアルカリユニット(例えば塩素−苛性カリ電気分解セル)に適用されると理解される。
【0006】
エポキシ化合物製造プラントの全体的な反応スキームを下記に報告する。
【0007】
・塩素−苛性ソーダユニット:
【0008】
【化2】
【0009】
・エポキシ化セクション
【0010】
【化3】
【0011】
この反応スキームは、塩素と苛性ソーダを1:2のモル比で用いることを示す。
【0012】
より関連性の高い工業プロセスは、式(I)(R=CH)によって表されるプロピレンオキシド、及び式(I)(R=CHCl)によって表されるエピクロロヒドリンの製造に関し、ここでは用いる不飽和化合物はそれぞれプロピレン(CH=CH−CH)及び塩化アリル(CHCl−CH=CH)である。
【0013】
下記において示すように、エピクロロヒドリンはまた、その使いやすい値段における利用可能性が最近増加しているグリセロール:CH(OH)−CH(OH)−CH(OH)を用いることに基づく別のプロセスによって製造することもできる。このプロセスは、塩素と水素を化合させて(combination)気体状の塩酸(HCl)を形成し、グリセロールを塩酸と反応させてジクロロヒドリン(CHCl−CH(OH)−CHCl)を生成させ、そして最後に苛性ソーダを用いてジクロロヒドリンをエピクロロヒドリン及び消耗したブラインに転化させることによって与えられる3工程にまとめられる。
【0014】
・塩素−苛性ソーダユニット:
【0015】
【化4】
【0016】
・塩酸ガス製造ユニット:
【0017】
【化5】
【0018】
・エポキシ化セクション:
【0019】
【化6】
【0020】
この反応スキームは、塩素と苛性ソーダを1:1のモル比で用いることを示す。
【0021】
塩素、水素、及び苛性ソーダは、エポキシ化合物製造プラントの上流に設置される隔膜又はメンブレンタイプの塩素−苛性ソーダユニットにおいて製造される。
【0022】
エポキシ化合物を製造するための全てのプロセスにおいて、特にプロピレンオキシド及びエピクロロヒドリンの場合においては、消耗したブラインを上流のクロルアルカリユニットへ再循環することが重要であり、実際、本件の場合のように出口ブラインを外部の処理プラントに送ると、損失する塩化ナトリウムの量は中程度から大型の能力に関しては約100,000t/年であり、これは必然的にプラントの操業に対して大きな経済的影響を与える。しかしながら、消耗したブラインの再循環は、残留有機化合物の含量(下記においては化学的酸素要求量:CODで表す)を前もって減少させる場合にのみ実現可能である。かかる操作は、高い食塩含量のために、生物学的に行うことはどちらかというと困難である。更に、この処理は通常のあまり激しくないプロセスであるので、非常に大きい容積及び表面が必要であり、製造場所の通常の要求に合致させることは殆どできない。
【0023】
特許出願US−20100219372−A1においては、異なる性質の少なくとも2種類の処理(その中には、一般的な電気化学的処理、例えば塩素及び苛性ソーダを用いる化学的酸化、及び結晶化が示される)を組み合わせることによって行う、エピクロロヒドリン製造に関する消耗したブラインのCODを減少させることが提供される。本発明者らは、実用的な観点から、後者の処理は示されるプロセスに有効に再循環することができる、即ち40mg/Lの酸素を超えない最終CODを有する出口ブラインを得るために重要であることを認めた。しかしながら、結晶化工程は時間がかかり且つ面倒であり、消耗したブラインから塩化ナトリウムの結晶を分離して母液を形成すること、清浄なブラインを得るために分離した結晶を再溶解すること、母液のパージに対してより多くの十分な結晶化を行うこと、及び関連する塩を再循環することが必要である。かかる工程を明細書において言及されている他の化学的及び電気化学的処理と組み合わせることによって、得られるブラインは有機物質含量の観点で許容できる品質を有するが、塩素酸塩(1g/Lの桁の通常の濃度を有する)、及びかかる処理の当然の結果として形成される塩素化有機誘導体の濃度が高すぎる。ブライン中のかかる副生成物の濃度は、当該技術において公知の方法によって、例えば活性炭上に吸着させる(塩素化副生成物を減少させる)ことによって、及び亜硫酸塩を酸性雰囲気中で注入すること(塩素酸塩を減少させる)ことによって好適に調節しなければならない。US−20100219372−A1において示唆されている処理の組み合わせによってかかる副生成物の過度に高い値が与えられ、これにより関連する減少処理が非常に不利になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】US−20100219372−A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
したがって、操作の簡単さ、減少した寸法、及び妥当なコストを特徴とする、エポキシ化合物製造プラントにおける消耗したブラインを復活させる方法に対する必要性は明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の種々の形態は添付の特許請求の範囲において示される。
【0027】
一形態においては、本発明は、まず消耗したブラインを、場合によっては水流を注入して3〜4の間に調節したpHにおいて蒸気ストリッピングすることによって残留有機化合物の相当割合を除去し、次にpH3.5〜5及び50〜60℃の温度において次亜塩素酸塩を用いて予備酸化することによって無機化(即ち転化させて二酸化炭素に分解)し、そしてpH3〜4及び80〜95℃の温度において次亜塩素酸塩の存在下で最終酸化を行うことを含む、クロルアルカリ電気分解ユニットの生成物を用いて有機原材料を酸化することによるエポキシ化合物の製造において生じる消耗したブラインの有機物質含量を減少させる方法に関する。次亜塩素酸塩という用語は、ここで及び下記において、当業者に明らかなように関連するpHにおいて次亜塩素酸と平衡の塩形態の次亜塩素酸塩種を示すように用いる。特に、蒸気ストリッピング工程は、揮発性有機物質の全体をより高沸点のものの一部と一緒に排除するように用いられ、これによって引き続く酸化工程を大きく緩和し、特にかかる段階中における塩素化副生成物の形成を減少させる有利性を与えることができる。一態様においては、蒸気ストリッピングによって、通常の使用されたブラインのCOD(通常は10,000より高く、時には30,000mg/Lの酸素を超える)を、2,000〜4,000mg/Lの酸素の値に低下させることができる。このような残留量は、次亜塩素酸塩を用いる酸化処理にかけるのに好適であり、本発明者らは、かかる2工程の酸化を行う(即ち、僅かにより高いpH及び低い温度において予備酸化を行い、次により低いpH及びより高い温度において完全な酸化を行う)ことによって、塩素酸塩の形成を最小にし(通常の濃度は0.1g/L以下の桁である)、且つ塩素化副生成物の形成を最小にする有利性が与えられる。実際、予備酸化によってCODを更に減少させることができる(一態様においては予備酸化工程の出口において800〜1,500mg/Lの酸素にすることができる)。一態様においては、予備酸化工程は、場合によっては同じクロルアルカリ電気分解ユニット内で生成した塩素及びアルカリ、例えば苛性ソーダを供給して、有機原材料を酸化するための反応物質を与えることによって行う。これにより、その場所に既に存在する薬剤を用いて予備酸化のために必要な次亜塩素酸塩が生成されるという有利性が与えられる。一態様においては、予備酸化工程は、次亜塩素酸塩の製造において通常用いられる非分割タイプのアルカリブライン電気分解セル内で行う。
【0028】
最終酸化工程は、pH3〜4及び80〜95℃の温度において、次亜塩素酸塩の存在下で行う。かかるプロセス工程によって、一態様においては40mg/Lの酸素以下のCOD、0.1g/L以下の塩素酸塩濃度、及び塩素化副生成物の適度な含量を有することを特徴とする新たなブライン(fresh brine)が与えられる。2種類の副生成物の濃度は、場合によっては、ブラインをプラントに再循環する前に、活性炭上における吸収処理によって、及び酸性範囲に制御されたpHにおいて亜硫酸塩を注入することによって調節することができる。かかる操作は、従来技術のプロセスに関して含まれる非常に減少した量によって完全に実施可能になる。予備酸化の場合と同様に、一態様においては、最終酸化工程は、場合によっては同じクロルアルカリ電気分解ユニット内で生成する塩素及びアルカリ、例えば苛性ソーダを供給して、有機原材料を酸化するための反応物質を与えることによって行う。一態様においては、最終酸化工程は、新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニット内で直接行うが、但し後者は隔膜セルから構成される。隔膜セルという用語は、本明細書においては、当業者に公知なように、フッ素化ポリマー繊維、及び場合によっては酸化ジルコニウムのような無機材料を含む非アスベストタイプの隔膜セパレーターを備える電気分解セルを意味するように用いる。実際、本発明者らは驚くべきことに、隔膜の半透性によって次亜塩素酸塩がアノード液自体の中で局所的に生成し、かかる次亜塩素酸塩は酸性雰囲気(pH3〜4)の観点で顕著な割合の次亜塩素酸を、残留有機物質の主要な部分をその場で酸化するような量で含むので、かかるブライン流は何の問題もなく隔膜セルのアノード液中に供給することができることを認めた。この解決法は、逆に、クロルアルカリ電気分解ユニットが異なるタイプのものである場合、例えばセパレーターとしてイオン交換膜を備えたセル(メンブレンセル)の場合には適用できない。実際、本発明による予備酸化工程において得られる数百mg/Lの酸素のCODを有するブラインを供給すると、やがてイオン交換膜及びアノードの重大な機能不全が引き起こされるであろう。したがって、この場合の最終酸化工程は、既に述べたようにセルの上流の別のユニット内において塩素及びアルカリを供給するか、又は更なる態様においては、次亜塩素酸塩の製造において通常用いられる非分割タイプのアルカリブライン電気分解セルから構成されるユニット内において行わなければならない。
【0029】
他の形態においては、本発明は、新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニット、消耗したブラインの蒸気ストリッピングユニット、次亜塩素酸塩を用いる予備酸化ユニットを含む、エポキシ化合物の合成プラントに関する。一態様においては、予備酸化ユニットは、次亜塩素酸塩の製造において通常用いられる非分割タイプのアルカリブライン電気分解セルから構成される。一態様においては、クロルアルカリ電気分解ユニットは、フッ素化ポリマー繊維を含む非アスベストタイプの隔膜セパレーターを装備した電気分解セルから構成される。1つの別の態様においては、このプラントは、塩素及び苛性ソーダが供給される反応器から構成される最終酸化ユニットを更に含み、クロルアルカリ電気分解ユニットはメンブレンタイプの電気分解セルから構成される。
【0030】
ここで、添付の図面を参照して本発明を例示する幾つかの実施態様を記載するが、これらは本発明のかかる特定の実施態様に関する異なる構成要素の相互の配置を示すという目的のみを有するものであり、特に、図面は必ずしも一定縮尺で描かれてはいない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、消耗したブラインを外部処理プラントに送る、クロルアルカリ電気分解ユニットを含む従来技術によるプロピレンオキシドの製造のスキームを示す。
図2図2は、消耗したブラインを外部処理プラントに送る、クロルアルカリ電気分解ユニットを含む従来技術によるエピクロロヒドリンの製造のスキームを示す。
図3図3は、メンブレンクロルアルカリ電気分解ユニットを含む、本発明によるプロピレンオキシドの製造のスキームを示す。
図4図4は、隔膜クロルアルカリ電気分解ユニットを含む、本発明によるグリセロールからのエピクロロヒドリンの製造のスキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1に示すスキームは、従来技術によるプロピレンオキシド製造プラントは、固体の塩6、例えば塩化ナトリウムを水5中に溶解し、場合によっては再循環した塩14を再び導入することによって得られるブラインが供給されるクロルアルカリユニット7、例えば隔膜又はメンブレンタイプの塩素−苛性ソーダセルを含むことを示す。クロルアルカリユニットの生成物は、塩素1、カソード液2(これは、隔膜の塩素−苛性ソーダセルの場合には指標として15%のNaOH及び15%のNaClを含み、メンブレンの塩素−苛性ソーダセルの場合には苛性ソーダの32重量%水溶液を含む)、及び水素4から構成される。塩素1及びカソード液2は、場合によっては水5で希釈してプロピレンオキシドユニット10に供給し、ここで上記記載の反応スキームにしたがってプロピレン9と反応させる。反応混合物は、分離ユニット13に送ってプロピレンオキシド11を引き抜き、この場合にはクロルアルカリユニットにおいて生成する塩素及び苛性ソーダの全量に対応して消耗したブライン12を排出する。このスキームにおいては、20〜25%のNaClに加えて相当量の有機物質を含む消耗したブライン12は、産業廃水に適用される環境基準に合致させるために外部処理に送られることが前提である。隔膜電気分解ユニットの場合には、カソード液2は、反応器10に直接供給する代わりに蒸発器17に送ることができ、これから再循環される固体の塩14、水5で希釈した後に反応器10に注入される濃NaOH(15)、及び凝縮物16が引き抜かれる。この別法によって、NaClがNaOHと一緒に反応器10中に導入されることを回避することができ、これは電気分解ユニットがプロピレンオキシド製造の要求量に対して大きすぎる場合に用いられる。この場合には、更なる濃苛性ソーダ15及び塩素1は他の最終ユーザーに送る。
【0033】
図2に示すスキームは、原材料としてグリセロールを用いるエピクロロヒドリン製造プラントに関する。このプラントは、水5中に溶解した投入される固体の塩6及び再循環された固体の塩14が供給される隔膜又はメンブレンタイプのクロルアルカリ電気分解ユニット7を含む。クロルアルカリ電気分解ユニットの生成物は図1に示す場合と同じである。隔膜セルユニットの場合には、エピクロロヒドリン製造の要求量を超えるカソード液2の部分は蒸発−結晶化セクション17に供給し、これから再循環する固体の塩14、プラント外に排出する濃NaOH(15)、及び凝縮物16を引き抜く。また、カソード液2の全部を蒸発−結晶化ユニット17に供給することもできる。かかる場合においては、濃NaOH(15)の必要な部分を水5で希釈した後に鹸化器23に送り、一方、鹸化の要求量を超える部分は排出する。かかる別法によって、塩化ナトリウムが苛性ソーダと一緒に鹸化器23中に供給されることが回避される。
【0034】
メンブレンセルユニットの場合には、エピクロロヒドリン製造の要求量を超えるカソード液2の部分は、濃縮セクション(図には示していない)に供給し、これからNaOHを50%の商業的な重量濃度で引き抜く。
【0035】
蒸発−結晶化及び濃縮ユニットはまた、エピクロロヒドリン製造の要求量に対して電気分解ユニットが大きすぎる場合にも必要である。この場合には、更なる濃苛性ソーダ及び塩素は他の最終ユーザーに送る。
【0036】
燃焼ユニット18内で塩素及び水素を化合し、ここで次のユニット20に送られる無水HCl(27)を生成させる。ここでは、気体状の塩酸をグリセロール19と反応させることによってジクロロヒドリン28が得られる。ジクロロヒドリンは鹸化器23内でカソード液と反応させて、それからエピクロロヒドリン21及び消耗したブライン12(20〜25%のNaClに加えて関連量の有機物質を含む)を引き抜く。消耗したブライン12は外部処理に送る。
【0037】
図3に示すスキームは、下記において塩素−苛性ソーダユニットと呼ぶメンブレンタイプのクロルアルカリ電気分解ユニット7を含むプロピレンオキシドプラントに適用することができる本発明の一態様を示す。この場合には、プロピレンオキシド11から分離される消耗したブライン12は、通常は2,500〜3,000mg/Lの酸素のCODを含み、メンブレンの腐食及びアノードの機能不全の可能性を阻止しながら再循環させるためには、20〜40mg/Lの酸素の目標値まで処理しなければならない。この目的のために、消耗したブライン12は蒸気ストリッピングユニット29に供給する。この運転は、消耗したブラインを、好ましくは固体の塩が分離する段階に到達させることなくほぼ飽和状態まで濃縮するように行う。本発明者らは、蒸気ストリッピングを、特に塩酸の添加によってpHを約3〜4に調節して行うと、CODを大きく低下させることができることを認めた。約2,500〜3,000mg/Lの酸素のCODを有する出口ブラインを用いてこの範囲内で運転することによって、約1,000〜1,500mg/Lの残留酸素を有する溶液を得ることができる。初期CODと比べて残留CODは、カソード液2中に注入する水5の量によって定まることが分かった。かかる水の量は、実際には、29内における蒸気流速、及びしたがってストリッピング作用の効率性を決定する。場合によっては、更なる水をストリッピングユニット29中に直接注入することができる。蒸気ストリッピング出口29における溶液は、次に、この場合には減少させる有機物質に対して2〜4倍化学量論的に過剰量の1:2のモル比の塩素及び苛性ソーダが供給される予備酸化ユニット24に供給する。予備酸化ユニット24は、pH3.5〜5及び50〜60℃の温度において運転する。これらの条件においては、残留CODを400〜600mg/Lの酸素の値に容易に低下させることができ、塩素酸塩及び塩素化副生成物の非常に減少した含量が同時に得られた。予備酸化ユニット24から排出される溶液は、次に、この場合には、3〜4の範囲に調節されたpH及び80〜95℃の温度の最適な運転条件において運転される、次亜塩素酸塩溶液を生成させるための非分割タイプの電気分解装置から構成される最終酸化ユニット25に供給する。これらの条件においては、最終酸化ユニット25から20〜40mg/Lの酸素の間で変化するCODを有する出口ブラインを得ることができ、これはメンブレン電気分解ユニットのメンブレン及びアノードの正常運転に適合する。
【0038】
図4は、下記において塩素−苛性ソーダユニットと呼ぶ、フッ素化ポリマー繊維をベースとする非アスベスト隔膜を備えたタイプの1タイプのクロルアルカリ電気分解ユニット7を含むエピクロロヒドリン製造プラントに関する本発明の一態様を示す。この場合には、通常は高く、例えば10,000〜30,000mg/Lの酸素のCOD値を有することを特徴とする消耗したブライン12は、第1処理工程としてストリッピングユニット29に送る。本発明者らは、ストリッピング工程中において3〜4の範囲のpHを維持し、更なる水をストリッピングユニット29中に直接注入することによって、出口溶液14において4,000mg/Lの酸素より低く、常に2,000〜3,000mg/Lの間の酸素を含む残留COD値を検出することができた。蒸気ストリッピングユニット29の出口溶液は、次に、減少させる有機物質に対して2〜4倍化学量論的に過剰の1:1のモル比の塩素及び苛性ソーダが供給される予備酸化ユニット24に送る。予備酸化ユニット24は、pH3.5〜5及び50〜60℃の温度において運転する。これらの条件においては、残留CODを800〜1,000mg/Lの酸素の値に容易に低下させることができ、塩素酸塩及び塩素化副生成物の非常に減少した含量が同時に得られた。予備酸化ユニット24から排出される溶液は、必要な塩6及び水5を加えて、次に、この場合には隔膜タイプの塩素−苛性ソーダユニット7と同一の空間を占める最終酸化ユニットに供給する。隔膜セルユニットのアノード区画のpHを3〜4に、温度を90〜95℃に維持することによって、僅か20〜40mg/Lの酸素の残留CODしか有しない苛性ソーダ2を出口において得ることができ、生産サイクル中に塩素化副生成物及び塩素酸塩の大きな蓄積はなかった。本発明者らは更に、サイクルから予備酸化ユニット24を迂回し、隔膜タイプの塩素−苛性ソーダユニット7の内部で単一段階の酸化を行うと、出口における苛性ソーダのCODは500〜1,000mg/Lの酸素よりも決して低くはならず、更に塩素酸塩及び塩素化副生成物の漸進的な蓄積が起こることを認めた。
【0039】
上記の記載は、本発明を限定するようには意図されず、これらはその範囲から逸脱することなく異なる態様にしたがって用いることができ、その範囲は専ら特許請求の範囲によって規定される。
【0040】
本出願の明細書及び特許請求の範囲の全体にわたって、「含む」という用語、並びに「含み」、「包含する」のようなその変形は、他の構成要素、成分、又は更なるプロセス工程の存在を排除するように意図するものではない。
【0041】
文献、作用、材料、装置、物品などの議論は、専ら本発明に関する文脈を与える目的のために本明細書中に含ませている。これは、これらの事項の全部が、従来技術の基礎を形成したか、或いは本出願のそれぞれの請求項の優先日より前の本発明に関連する分野における通常の一般知識であったことを示唆又は意味するものではない。
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[1]
新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニットの生成物を用いて有機原材料を酸化することによってエポキシ化合物を合成するプラントにおける消耗したブラインから構成される廃棄流の有機物質含量を減少させる方法であって、次の:
(a)水流を、処理する消耗したブライン中に注入して蒸気ストリッピングを行い;
(b)次亜塩素酸塩を用いてpH3.5〜5及び50〜60℃の温度において予備酸化し;
(c)次亜塩素酸塩の存在下において、pH3〜4及び80〜95℃の温度において最終酸化を行って新たなブラインを得る;
逐次工程を含む上記方法。
[2]
消耗したブラインが、工程(a)の入口において10,000mg/Lの酸素より高く、工程(a)の出口において2,000〜4,000mg/Lの酸素のCODを有する、[1]に記載の方法。
[3]
蒸気ストリッピング工程を3〜4の間に調節したpHにおいて行う、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
消耗したブラインが、工程(b)の出口において400〜1,500mg/Lの酸素のCODを有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
工程(c)の出口における新たなブラインが40mg/Lの酸素以下のCODを有する、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
有機原材料が、プロピレン、塩化アリル、及びグリセリンからなる群から選択され、エポキシ化合物がプロピレンオキシド又はエピクロロヒドリンである、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
次亜塩素酸塩を用いる予備酸化工程を、塩素及びアルカリを供給することによって行う、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
次亜塩素酸塩を用いる予備酸化工程を非分割タイプの電気分解セル内で行う、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[9]
最終酸化工程を電気分解セル内で行う、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
電気分解セルが非分割タイプのアルカリブライン電気分解セルである、[9]に記載の方法。
[11]
最終酸化工程を、フッ素化ポリマー繊維を含む非アスベスト隔膜セパレーターを装備した電気分解セルから構成される、新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニット内で直接行う、[9]に記載の方法。
[12]
続いて、次の:
(d)活性炭上に吸収させることによって塩素化副生成物の濃度を調節し;
(e)酸性範囲に調節したpHにおいて亜硫酸塩を注入することによって塩素酸塩の濃度を調節する;
同時又は逐次工程の1以上を行う、[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]
新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニット、消耗したブラインの蒸気ストリッピングユニット、次亜塩素酸塩を用いる予備酸化のユニットを含む、エポキシ化合物の合成プラント。
[14]
新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニットが、フッ素化ポリマー繊維を含む非アスベスト隔膜セパレーターを装備した電気分解セルから構成される、[13]に記載のプラント。
[15]
塩素及び苛性ソーダが供給される反応器から構成される最終酸化ユニットを更に含み、新たなブラインが供給されるクロルアルカリ電気分解ユニットがメンブレンタイプの電気分解セルから構成される、[13]に記載のプラント。
[16]
予備酸化ユニットが非分割タイプの電気分解セルから構成される、[13]〜[15]のいずれかに記載のプラント。
図1
図2
図3
図4