(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208750
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】メッセンジャーRNAの肺送達
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20170925BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20170925BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20170925BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20170925BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20170925BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20170925BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20170925BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20170925BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20170925BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20170925BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20170925BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K47/34
A61K47/06
A61K9/72
A61K47/02
A61K47/22
A61K47/42
A61K47/26
A61K47/36
A61K48/00
A61P11/00
A61P43/00 105
【請求項の数】25
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-515538(P2015-515538)
(86)(22)【出願日】2013年6月7日
(65)【公表番号】特表2015-518874(P2015-518874A)
(43)【公表日】2015年7月6日
(86)【国際出願番号】EP2013061811
(87)【国際公開番号】WO2013182683
(87)【国際公開日】20131212
【審査請求日】2016年6月7日
(31)【優先権主張番号】61/657,344
(32)【優先日】2012年6月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512024886
【氏名又は名称】エスリス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ethris GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】ガイガー,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】アネジャ,マニーシュ・クマール
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ,カルステン
【審査官】
横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0286852(US,A1)
【文献】
特表2002−541125(JP,A)
【文献】
特表平10−502918(JP,A)
【文献】
特開2011−116765(JP,A)
【文献】
特表2006−527245(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0299127(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0086842(US,A1)
【文献】
国際公開第2010/110314(WO,A1)
【文献】
特表2012−502074(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/127230(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K47/00−47/69
A61K9/00−9/72
A61K48/00
A61P1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
mRNAを肺の中で発現させるための方法に使用するための、mRNAとポリエチレンイミン(PEI)とを含む組合せを含む医薬組成物であって、該方法は:
−該mRNAとPEIとを含む組合せは肺へ投与されて肺細胞内に入り;そして
−該mRNAを肺細胞内で発現させる、
ことを含む方法である、前記医薬組成物。
【請求項2】
肺が、ヒト患者、好ましくは肺障害、特にサーファクタントタンパク質B(SPB)欠損症、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー3(ABCA3)欠損症、嚢胞性線維症、α−1アンチトリプシン(A1AT)欠損症、肺癌、サーファクタントタンパク質C(SPC)欠損症、肺胞タンパク症、サルコイドーシス、急性及び慢性気管支炎、気腫、マクラウド症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、気管支拡張症、塵肺症、石綿症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、新生児呼吸窮迫症候群(IRDS)、肺浮腫、肺好酸球増加症、レフレル肺炎、ハンマン・リッチ症候群、特発性肺線維症、間質性肺疾患、原発性線毛機能不全症、肺動脈性肺高血圧症(PAH)及びSTAT5b欠損症、凝固障害、特に血友病A及びB;補体障害、特にプロテインC欠損症、血栓性血小板減少性紫斑病、及び先天性血色素症、特にヘプシジン欠損症;肺感染症、好ましくは呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症、パラインフルエンザウイルス(PIV)感染症、インフルエンザウイルス感染症、ライノウイルス感染症、及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS−CoV)感染症、結核、緑膿菌感染症、バークホルデリア・セパシア感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症、及びインフルエンザ菌感染症から選択される肺障害のあるヒト患者の肺である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
PEIが、1kDa〜1000kDa、好ましくは10kDa〜50kDa、特に20〜30kDaの分子量を有する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
PEIが、標的化(tergeting)リガンド、好ましくはIP1受容体リガンド、より好ましくはプロスタサイクリン類似体、特に、イロプロスト(5−{(E)−(1S,5S,6R,7R)−7−ヒドロキシ−6[(E)−(3S,4RS)−3−ヒドロキシ−4−メチル−1−オクテン−6−イニル]−ビシクロ[3.3.0]オクタン−3−イリデン}ペンタン酸)又はトレプロスチニル((1R,2R,3aS,9aS)−[[2,3,3a,4,9,9a−ヘキサヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(3S)−3−ヒドロキシオクチル]−1H−ベンズ[f]インデン−5−イル]オキシ]酢酸);又はβ2−アドレナリン受容体リガンド、特に、クレンブテロール、ラクトフェリン、ウロン酸、又はレクチンを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
mRNAが、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)、サーファクタントタンパク質B(SPB)、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー3(ABCA3)又はα−1アンチトリプシン(A1AT)、サーファクタントタンパク質C(SPC)、エリスロポエチン、第VIII因子、第IX因子、フォン・ヴィレブランド因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ADAMTS13、ヘプシジン、アンジオテンシン変換酵素II、又はウイルス性及び細菌性病原体の抗原をコードする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
mRNAとPEIとを含む組合せが、肺へ気管内投与される、好ましくはエアゾール剤として、特に高圧でスプレーすることによって投与される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
mRNAを肺の中で発現させる方法に使用するための、mRNAとPEIとを含む医薬組成物。
【請求項8】
肺障害、特に、サーファクタントタンパク質B(SPB)欠損症、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー3(ABCA3)欠損症、嚢胞性線維症、α−1アンチトリプシン(A1AT)欠損症、肺癌、サーファクタントタンパク質C(SPC)欠損症、肺胞タンパク症、サルコイドーシス、急性及び慢性気管支炎、気腫、マクラウド症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、気管支拡張症、塵肺症、石綿症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、新生児呼吸窮迫症候群(IRDS)、肺浮腫、肺好酸球増加症、レフレル肺炎、ハンマン・リッチ症候群、特発性肺線維症、間質性肺疾患、原発性線毛機能不全症、肺動脈性肺高血圧症(PAH)及びSTAT5b欠損症、凝固障害、特に血友病A及びB;補体障害、特にプロテインC欠損症、血栓性血小板減少性紫斑病、及び先天性血色素症、特にヘプシジン欠損症;肺感染症、好ましくは、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症、パラインフルエンザウイルス(PIV)感染症、インフルエンザウイルス感染症、ライノウイルス感染症、及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS−CoV)感染症、結核、緑膿菌感染症、バークホルデリア・セパシア感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症、及びインフルエンザ菌感染症から選択される肺障害を治療するための、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
PEIが、1kDa〜1000kDa、好ましくは10kDa〜50kDa、特に20〜30kDaの分子量を有する、請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
PEIが、標的化リガンド、好ましくはIP1受容体リガンド、より好ましくはプロスタサイクリン類似体、特に、イロプロスト(5−{(E)−(1S,5S,6R,7R)−7−ヒドロキシ−6[(E)−(3S,4RS)−3−ヒドロキシ−4−メチル−1−オクテン−6−イニル]−ビシクロ[3.3.0]オクタン−3−イリデン}ペンタン酸)又はトレプロスチニル((1R,2R,3aS,9aS)−[[2,3,3a,4,9,9a−ヘキサヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(3S)−3−ヒドロキシオクチル]−1H−ベンズ[f]インデン−5−イル]オキシ]酢酸);又はβ2−アドレナリン受容体リガンド、特に、クレンブテロール、ラクトフェリン、ウロン酸、又はレクチンを含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
mRNAが、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)、サーファクタントタンパク質B(SPB)、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー3(ABCA3)又はα−1アンチトリプシン(A1AT)、サーファクタントタンパク質C(SPC)、エリスロポエチン、第VIII因子、第IX因子、フォン・ヴィレブランド因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ADAMTS13、ヘプシジン、アンジオテンシン変換酵素II、又はウイルス性及び細菌性病原体の抗原をコードする、請求項7〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
少なくとも1つのフルオロカーボンをさらに含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
エアゾール剤である、請求項7〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
エアゾール剤が、磁気粒子、特に直径が最小5nmで最大800nmである磁気粒子を含有する、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
磁気粒子の直径が、最小50nmで最大750nm、好ましくは最小100nmで最大700nm、より好ましくは最小150nmで最大600nm、さらにより好ましくは最小200nmで最大500nm、特に好ましくは最小250nmで最大450nm、最も好ましくは最小300nmで最大400nmである、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
PEIが磁気粒子に結合している、請求項7〜15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
磁気粒子が、金属及び/又はその酸化物及び/又は水酸化物から成るか、あるいは金属及び/又はその酸化物及び/又は水酸化物を含有する、請求項14〜16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
金属が、鉄、コバルト、又はニッケルから成る群より選択され;酸化物又は水酸化物が、Fe3O4、γ−Fe2O3、二価若しくは三価の鉄イオンとCo2+、Mn2+、Cu2+、Ni2+、Cr3+、Gd3+、Dy3+、若しくはSm3+との複酸化物又は複水酸化物、及びそれらの混合物から成る群より選択される、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
磁気粒子を含有するエアゾール剤が、治療すべき気道及び/又は肺の領域の表面へ磁場によって沈着される、請求項14〜18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
磁場強度が、少なくとも100mT(ミリテスラ)、少なくとも200mT、少なくとも500mT、又は少なくとも1T(テスラ)である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
磁場勾配が、1T/mより大きいか又は10T/mより大きい、請求項19又は20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
磁場が、パルス磁場、振動磁場、又はパルス−振動磁場である、請求項19〜21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
磁場が患者の呼吸と動的に適合しており、吸息と呼息の間又は呼息と吸息の間の休止期でのみアクティブである、請求項19〜22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
pHが、6.5未満、好ましくは3〜6、特に4〜5.5である、請求項7〜23のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
25℃導電率が、10000μS/cm以下、好ましくは1000μS/cm以下、特に100μS/cm以下である、請求項7〜24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、mRNAを肺中で発現させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メッセンジャーRNA(mRNA)は、主に、アデノシン、シチジン、ウリジン、及びグアノシンをヌクレオシドとして含むヌクレオシドリン酸の構成要素(building blocks)から組み立てられるポリマーであり、中間的な担い手として、細胞核のDNA由来の遺伝情報を細胞質へ持ち込み、そこでそれはタンパク質へ翻訳される。従って、それらは、遺伝子発現の代替手段として適している。
【0003】
細胞内の生化学プロセスの解明とヒトゲノムの解明により、欠損遺伝子と疾患との間の関連が明らかになってきた。従って、欠損遺伝子による疾患を遺伝子治療によって治癒するという願望が久しくある。この期待は大きかったが、これへの当初の試みは失敗し、進歩が報告されたのはごく最近である。遺伝子治療に対する最初のアプローチは、欠損又は障害遺伝子のインタクトDNAをベクター内で細胞核へ持ち込み、そのインタクト遺伝子の発現を達成して、それにより欠失又は障害タンパク質を提供することにあった。これらの試みはほとんど成功せず、さらに不成功な試みでは、実質的な副作用、特に腫瘍形成の上昇が重荷になった。ごく最近、より有望な結果が報告されたものの、それらは承認されるにはまだほど遠い。
【0004】
さらに、遺伝子欠損に起因していない、タンパク質の欠失又はタンパク質の欠損による疾患がある。このような症例でも、DNAの投与によって生体内で関連タンパク質を産生することが考慮される。代謝において何らかの役割を担って、病理学的又は非病理学的な理由のために破壊されるか又は阻害される因子の提供も、副作用が無いか又は少ない核酸治療によって有効になる可能性がある。
【0005】
遺伝性疾患の治療にmRNAを使用して、疾患をもたらす遺伝子障害を治療することもすでに提唱されている。この利点は、mRNAを細胞の細胞質へ導入するだけでよく、核内へ移行させる必要がないことである。核内への移行は困難で非効率であり、その上に、ベクター又はその一部がゲノム内へ取り込まれれば、染色体DNAが改変されるかなりのリスクがある。
【0006】
試験管内で転写されるメッセンジャーRNAが哺乳動物の組織中で実際に発現され得ることは確かに示せたが、mRNAを疾患の治療に使用する試みにはさらなるハードルが現れた。mRNAの安定性欠如により、所望のタンパク質が哺乳動物の組織において十分な量で入手し得ないという影響があったのである。mRNAがかなりの免疫学的反応の引き金になるという事実からは、さらに実質的な欠点が生じた。これらの強い免疫反応は、TLR3、TLR7、TLR8、及びヘリカーゼRIG−1のようなToll様受容体への結合を通して生じると推定されている。
【0007】
免疫学的反応を防ぐために、特許文献1では、4種のリボヌクレオチドのうち1つが修飾ヌクレオチドに置換されたRNAを使用することが提唱された。特に、ウリジンを完全にシュードウリジンに置換した場合に、mRNAがどのように挙動するのかが検討された。このようなRNA分子は、免疫原性が有意に低いことが見出された。さらに、タンパク質又はタンパク質断片をコードする配列を有するRNA(ここで、このRNAは非修飾ヌクレオチドと修飾ヌクレオチドの組合せを含有し、ウリジンヌクレオチドの5〜50%とシチジンヌクレオチドの5〜50%がそれぞれ修飾ウリジンヌクレオチドと修飾シチジンヌクレオチドに置換されている)を使用することが提唱された。そのようなRNA分子は、免疫原性が有意に低く、より安定でさえあることが見出された。さらに、そのようなRNAを使用して、サーファクタントタンパク質B(SP−B)欠損症に罹患しているマウスの死を、マウスにおける反復的な気管内エアゾール適用によって防ぎ得ることが提唱された。このように、これらの観察事実は、生命を脅かす遺伝性及び獲得性の肺疾患を治療して未充足な高い医療ニーズに対処することに対するRNAの有望性を実証するものである。しかしながら、患者での適用に関して言えば、この適用手順は、麻酔が求められること及び標準的な臨床使用ネブライザーを使用するときRNAが分解することのために、反復エアゾールの適用にはまだ適していなかった。
【0008】
身体の肺に必要又は有益なタンパク質を提供すること、及び/又は欠失又は欠損タンパク質による疾患をRNAで治療することが可能であるためには、患者の反復麻酔を回避した反復エアゾール適用の方法を利用可能にすることが望ましい。しかしながら、同時に、この方法は、RNAの効力を有意な度合いまで低下させてはならない。
【0009】
特許文献2では、反復麻酔と噴霧化の方法に伴う、効率が試験管内トランスフェクションと比較して顕著に低下するという以前からの未解決問題を克服するのに適した、遺伝子を肺へエアゾール送達するためのポリエチレンイミン(PEI)25kDa/DNA製剤を使用することが提唱された。PEI/DNA製剤は、ジェットネブライザーによって生体内送達されるとき、ジェットネブライザー誘発性のトランスフェクション効率低下に抵抗するので、それまでに最適化された脂質ベースの製剤より優れていることが見出された。具体的には、特許文献2は、遺伝子巨大分子とポリエチレンイミンとの複合体の水性分散液を微粒子エアゾールにより個体の気道を介して送達する工程を含む、気道を介した遺伝子治療のような標的化治療の方法を開示する。この発明の方法による遺伝子巨大分子の代表的な例には、DNA、RNA、及び他の核酸分子種が含まれた。しかしながら、この発明は、その特許に含まれる実施例はDNA送達に関する実施のみになっており、mRNAに関する実施はない。さらに、目的遺伝子をコードするプラスミドDNAとPEIとの複合体は、水に溶かしたプラスミドDNAをPBSに溶かした適正量のPEIと混合することによって形成されている。しかしながら、非特許文献1は、低浸透圧性の蒸留水にて組み立てられて噴霧化される場合のPEI−DNA複合体が、等張5%ブドウ糖液又はHepes緩衝化生理食塩水におけるものより、マウス肺においてそれぞれ57倍及び185倍高い発現レベルを生じることを実証した。驚くべきことに、PBSにて組み立てられて噴霧化される場合のPEI−DNA複合体は完全に無効であった。これは、主に、PBSにて製剤化されたPEI遺伝子ベクターの直径が大きくなり(848±142nm)、それが動力学的に不安定で沈殿をもたらすという事実に起因していた。また、PEIと複合体化したナノグラム量のエアゾール化pDNA(350ng)では、気管内挿管によりマウス肺へ直接適用された140倍高い用量(50μg)の同じベクターより、15倍高いトランスフェクションレベルを生じることが見出された。
【0010】
さらに、非特許文献2は、ポリエチレンイミン(分岐鎖PEI 25kDa及び直鎖PEI 22kDa)、ポリ(L−リジン)(PLL、54kDa)、又はデンドリマーに基づいたポリプレックス(polyplexes)ではなく、リポプレックス(lipoplexes)が、トランスフェクトされたB16−F10細胞においてmRNAの効率的な翻訳に介在することを実証した。無細胞翻訳アッセイにおけるPEI 25kDa/mRNA又はPLL 54kDa/mRNAの発現欠如とそれに続くRat1細胞への細胞質注入は、これらのポリプレックスがmRNAを放出するには安定すぎることを示した。このmRNAとトランスフェクション剤との間の静電相互作用の強さは、達成される発現レベルに劇的な効果を及ぼし、熱力学的に安定したポリプレックスベクター、例えばPEI−mRNAは、mRNAの翻訳にあまり適していないことが実証された。より短いポリカチオンを使用することによって担体とmRNAとの間の静電相互作用を減少させると、発現の大幅な増加をもたらし、低分子量のPEI及びPLLを使用して形成したmRNAポリプレックスでは、DOTAP/mRNAより5倍大きいルシフェラーゼ発現レベルを達成した。しかしながら、低分子量ポリカチオンを使用して形成したポリプレックスは、そのエンドソーム溶解活性を失い、mRNA発現に介在するにはクロロキンを必要とした。低分子量PEIを膜作用性ペプチドのメリチンへコンジュゲートさせることによってエンドソーム溶解性が回復し、クロロキン非存在下で高レベルのmRNA発現が実証された。まとめると、上記の観察事実は、一本鎖mRNAのカチオン性ポリマーへの結合は、pDNAの結合より概ね強いことを示している。このことは、核移行の前提条件としてのカチオン性ポリマーからのpDNA放出、転写、及び成功裡の導入遺伝子発現に、細胞質RNAが関与していることを示唆した非特許文献3によってさらに確認されている。結論として、上記の観察事実は、PEI 25kDaが細胞内への機能的なmRNA送達に介在できないことを示唆している。
【0011】
挿管を含む連続反復処置は生命の質の要件に適合し得ないので、本発明の根底にある課題は、メッセンジャーRNAの肺送達に適合した非侵襲性の方法を提供し、mRNAによってコードされるタンパク質を肺で発現させることであった。
【0012】
先行技術には、mRNA肺送達のための非侵襲的な方法がない。
【0013】
従って、本発明の目的は、コードされたタンパク質を肺の中で有効レベルで産生する、非侵襲的な肺への適用によるmRNA治療薬剤の送達方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO 2007/024708 A
【特許文献2】EP 1 173 224 B1
【特許文献3】WO 2011/076391 A
【特許文献4】EP 1 924 244 A
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Rudolphら、J.Mol.Ther.2005、12:493−501
【非特許文献2】Bettingerら、Nucleic Acids Res.2001、29:3882−91
【非特許文献3】Huthら、J.Gene Med.2006、8:1416−1424
【非特許文献4】Morimotoら、Mol.Ther.7(2003)、254−261
【非特許文献5】Elfingerら、J.Control Release 2009、135:234−241
【非特許文献6】Elfingerら、Biomaterials 2007、28:3448−3455
【非特許文献7】Weissら、Biomaterials 2006、27:2302−2312
【非特許文献8】Biesら、Adv.Drug Deliv.Rev.2004、56:425−435
【非特許文献9】Grudzienら、2006.J.Biol.Chem.、281、1857−67
【非特許文献10】Sambrook,J.、Fritsch,E.F.、及びManiatis,T.(1989)「分子クローニング:実験室マニュアル」コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、ニューヨーク、第1、2、及び3巻
【非特許文献11】Rudolphら、J.Gene Med.2005、7:59−66
【非特許文献12】Honigら、Biomacromolecules 2010、11:1802−1809
【非特許文献13】Buckley SM、Howe SJ、Wong SP、Buning H、McIntosh Jら(2008)「Luciferin detection after intra−nasal vector delivery is improved by intra−nasal rather than intra−peritoneal luciferin administration(鼻腔内ベクター送達後のルシフェリン検出は、腹腔内よりも鼻腔内のルシフェリン投与によって改善される)」Hum.Gene Ther.
【発明の概要】
【0016】
故に、本発明は、mRNAを肺の中で発現させるための方法を提供するものであり、
−発現させるmRNAをポリエチレンイミン(PEI)と組み合わせて該mRNAとPEIとを含む組合せを提供し;
−該mRNAとPEIとを含む該組合せは肺へ投与されて肺細胞内に入り;そして
−該mRNAを肺細胞内で発現させる。
【0017】
本発明は、ヒトの医学における使用に特に適している。故に、本発明に従って治療される肺は、好ましくはヒト患者、好ましくは、肺障害、特に、サーファクタントタンパク質B(SPB)欠損症、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー3(ABCA3)欠損症、嚢胞性線維症、α−1アンチトリプシン(A1AT)欠損症、肺癌、サーファクタントタンパク質C(SPC)欠損症、肺胞タンパク症、サルコイドーシス、急性及び慢性気管支炎、気腫、マクラウド症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、気管支拡張症、塵肺症、石綿症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、新生児呼吸窮迫症候群(IRDS)、肺浮腫、肺好酸球増加症、レフレル肺炎、ハンマン・リッチ症候群、特発性肺線維症、間質性肺疾患、原発性線毛機能不全症、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、及びSTAT5b欠損症から選択される肺障害のあるヒト患者の肺である。
【0018】
さらに、ヒト患者の肺は、エリスロポエチン、血友病A及びBのような凝固障害、プロテインC欠損症、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP、ADAMTS13欠損症)、及び先天性血色素症(例えばヘプシジン欠損症)のような補体障害のように、mRNAによって発現されるタンパク質が肺細胞から血液循環中へ分泌されるためのバイオリアクターとして役立ち得る。
【0019】
mRNAの肺細胞からの発現は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症、パラインフルエンザウイルス(PIV)感染症、インフルエンザウイルス感染症、ライノウイルス感染症、及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS−CoV)感染症、結核、緑膿菌感染症、バークホルデリア・セパシア感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症、及びインフルエンザ菌感染症のような肺感染症に対する予防接種にも使用し得る。そのような予防接種の目的では、送達されるmRNAが病原体の1以上の抗原をコードする。
【0020】
本発明の過程において投与されるPEIは通常臨界的ではないが(非特許文献4)、本発明の過程では、1kDa〜1000kDa、好ましくは10kDa〜50kDa、特に20〜30kDaの分子量を有するPEIを使用することが有利である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、EPO mRNAとPEI 25kDaとを含む組合せ(EPOと表示)、又は化学修飾EPO mRNAとPEI 25kDaとを含む組合せ(EPO modと表示)でエアゾール処理後24時間のマウス肺溶解液における、ELISAで測定したEPO発現の結果を未処理マウス(w/o)と比較して示す。EPOレベルは、両処理群で、未処理マウスと比較した場合に有意に増加している。
【
図2】
図2は、化学修飾MetLuc mRNAとPEI 25kDaとを含む組合せ(Met−Lucと表示)、又は対照として役立つ、化学修飾EGFPLuc mRNAとPEI 25kDaとを含む組合せ(EGFP−Lucと表示)でエアゾール処理後24時間のマウスの肺溶解液における、発光活性で測定したメトリディア(Metridia)・ルシフェラーゼ発現の結果を示す。メトリディア・ルシフェラーゼレベルは、化学修飾MetLuc mRNA/PEI 25kDaで処理したマウス群において、化学修飾EGFPLuc mRNA/PEI 25kDAで処理した対照マウスと比較した場合に有意に増加している。
【
図3】
図3は、化学修飾Luc mRNAをPEI 25kDaとの組合せとして肺にエアゾール送達すると、マウス肺細胞において有効に発現することを示す(
図3a及び3b)。
【
図4】
図4は、キャップ−1を含む化学修飾Luc mRNAで、ルシフェラーゼ発現が最も高いことを示す。
【
図5a】
図5aは、噴霧水で処理した対照動物の肺ではLuc発現が見られないことを示す。
【
図5b】
図5bは、
図5aに対して、化学修飾Luc mRNAをPEI 25kDaとの組合せとして肺にエアゾール送達すると、ブタの肺細胞において有効に発現することを示す。
【
図6】
図6は、PEI製剤において注射用水(WFI)が化学修飾mRNAを安定にすることを示す: レーン1:水+ヘパリン中の修飾mRNA: レーン2:PBS+ヘパリン中の修飾mRNA: レーン3:PBS/水+ヘパリン中のbrPEI 25kDa/修飾mRNA(pH7.4)(特許文献2による方法): レーン4:PBS+ヘパリン中のbrPEI 25kDa/修飾mRNA(pH7.4)(Ethrisの方法): レーン5:水+ヘパリン中のbrPEI 25kDa/修飾mRNA(pH7.4): レーン6:水+ヘパリン中のbrPEI 25kDa/修飾mRNA(pH6.0): レーン7:水+ヘパリン中のbrPEI 25kDa/修飾mRNA(pH5.0)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、PEIは、標的化リガンド、好ましくはIP
1受容体リガンド、より好ましくはプロスタサイクリン類似体、特にイロプロスト(5−{(E)−(1S,5S,6R,7R)−7−ヒドロキシ−6[(E)−(3S,4RS)−3−ヒドロキシ−4−メチル−1−オクテン−6−イニル]−ビシクロ[3.3.0]オクタン−3−イリデン}ペンタン酸)又はトレプロスチニル((1R,2R,3aS,9aS)−[[2,3,3a,4,9,9a−ヘキサヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(3S)−3−ヒドロキシオクチル]−1H−ベンズ[f]インデン−5−イル]オキシ]酢酸);又はβ
2−アドレナリン受容体リガンド、特にクレンブテロール(非特許文献5)、ラクトフェリン(非特許文献6)、ウロン酸(非特許文献7)、又はレクチン(非特許文献8)を含む。
【0023】
IP
1受容体リガンド、より好ましくはプロスタサイクリン類似体の、PEIベースの医薬製剤を肺細胞へ、特に気管支又は肺胞上皮細胞へ標的特異的に送達することへの使用については、特許文献3に開示されており、利用可能になっている。
【0024】
本発明による方法では、医学的な恩恵を有するmRNA、特に、肺において病原性の作用がある遺伝子に置き換わる、それを克服する、それに拮抗する、若しくはそれを抑制するmRNA、又はこの患者のためになるmRNAを肺細胞へ送達することが好ましい。その肺細胞において欠陥遺伝子と置換するmRNAを送達することが特に好ましい。従って、本発明の好ましい態様は、mRNAが、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)、サーファクタントタンパク質B(SPB)、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー3(ABCA3)又はα−1アンチトリプシン(A1AT)、サーファクタントタンパク質C(SPC)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、エリスロポエチン、第VIII因子、第IX因子、フォン・ヴィレブランド因子、ADAMTS13、ヘプシジン、アンジオテンシン変換酵素II、又はウイルス性及び細菌性病原体の抗原をコードする、方法及び組成物である。
【0025】
本発明は、mRNAを肺の中で発現させるための方法に使用するための、mRNAとPEIとを含む医薬組成物にも関する。本発明による医薬組成物は、肺障害、特に、サーファクタントタンパク質B(SPB)欠損症、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー3(ABCA3)欠損症、嚢胞性線維症、α−1アンチトリプシン(A1AT)欠損症;肺癌、サーファクタントタンパク質C(SPC)欠損症、肺胞タンパク症、サルコイドーシス、急性及び慢性気管支炎、気腫、マクラウド症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、気管支拡張症、塵肺症、石綿症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、新生児呼吸窮迫症候群(IRDS)、肺浮腫、肺好酸球増加症、レフレル肺炎、ハンマン・リッチ症候群、特発性肺線維症、間質性肺疾患、原発性線毛機能不全症、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、及びSTAT5b欠損症、凝固障害、特に血友病A及びB;補体障害、特にプロテインC欠損症、血栓性血小板減少性紫斑病、及び先天性血色素症、特にヘプシジン欠損症;肺感染症、好ましくは呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症、パラインフルエンザウイルス(PIV)感染症、インフルエンザウイルス感染症、ライノウイルス感染症、及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS−CoV)感染症、結核、緑膿菌感染症、バークホルデリア・セパシア感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症、及びインフルエンザ菌感染症から選択される肺障害の治療に特に適している。
【0026】
本発明による好ましい医薬組成物は、少なくとも1つのフルオロカーボンをさらに含む。ペルフルオロカーボン類を用いるエアゾール療法は、一般に、そのペルフルオロカーボンの分子構造や蒸気圧とは無関係に、ガス交換の改善及び肺炎症反応の低下を示す。蒸気圧と分子構造の違いにより最適な投薬戦略が異なる場合はあるものの、いくつかの異なるペルフルオロカーボン類、例えば、ペルフルオロシクロエーテル(FC77)、ペルフルオロオクチルブロミド、又はペルフルオロトリブチルアミン(FC43)は、エアゾール療法に主に適していることが示された。
【0027】
従って、本発明は、好ましくは、エアゾール剤として提供される。好ましい態様において、肺内投与を企図された本発明による医薬組成物は、トランスフェクション効率を高めるために医薬組成物より前か同時に投与されるペルフルオロカーボンと組み合わされる。
【0028】
好ましい態様において、本発明によるmRNA/PEIの組合せは、例えば吸入による、肺からの取込みに適した形態で提供される。これに適した処方は当業者に公知である。この場合、製剤は、例えば噴霧用の液剤又は散剤として、通常のネブライザー又は吸入器により気道へ導入できる形態である。液体としての投与用デバイスも公知であり、超音波ネブライザー又はノズルジェットネブライザーに比べて低い剪断力で作動する穿孔振動膜付きネブライザーが好適である。粉末エアゾール剤も好適である。PEIとの複合体であるmRNAは、糖のスクロースとともに凍結乾燥された後に粉末として利用可能であり、その後呼吸可能な大きさまで破砕することができ、そしてさらに生物活性を示す。
【0029】
mRNA/PEIの組合せは、エアゾール剤として高圧でスプレーすることによって、気管内に投与されることが好ましい。
【0030】
本発明の特に好ましい態様では、医薬製剤は、磁気粒子を含有するエアゾール剤、特に、エアゾール剤が、最小5nmで最大800nmの直径を有する磁気粒子をmRNA/PEIの組合せと一緒に含有する製剤として提供される(特許文献4)。磁気粒子は、通常最小50nmで最大750nm、好ましくは最小100nmで最大700nm、より好ましくは最小150nmで最大600nm、さらにより好ましくは最小200nmで最大500nm、特に好ましくは最小250nmで最大450nm、最も好ましくは最小300nmで最大400nmの直径を有する。
【0031】
好ましい態様によれば、PEIは、エアゾール剤において磁気粒子と結合している。
【0032】
好ましくは、本発明による磁気粒子を含有するエアゾール剤は、金属及び/又はその酸化物及び/又は水酸化物から成るか、あるいはそれらを含有する。好ましい態様によれば、磁気粒子は、金属から成るか又はそれらを含有し、鉄、コバルト、又はニッケル、Fe
3O
4、γ−Fe
2O
3のような磁性酸化鉄又は水酸化鉄、二価若しくは三価の鉄イオンとCo
2+、Mn
2+、Cu
2+、Ni
2+、Cr
3+、Gd
3+、Dy
3+、若しくはSm
3+のような他の二価若しくは三価の金属イオンとの複酸化物又は複水酸化物、及びこれらのそれらの混合物から成る群より選択される。
【0033】
磁気粒子を含有するこのようなエアゾール剤を適用する場合、この磁気粒子を含有するエアゾール剤は、治療すべき気道及び/又は肺の領域の表面へ磁場によって沈着され得る。好ましくは、磁場強度は、少なくとも100mT(ミリテスラ)、少なくとも200mT、少なくとも500mT、又は少なくとも1T(テスラ)である。好ましくは、磁場勾配は、1T/mより大きいか又は10T/mより大きい。この方法の好ましい態様によれば、磁場は、パルス磁場、振動磁場、又はパルス−振動磁場である。好ましくは、磁場は患者の呼吸と動的に適合しており、吸息と呼息の間又は呼息と吸息の間の休止期でのみアクティブである(特許文献4)。
【0034】
特に適しているのは、タンパク質又はタンパク質断片をコードするmRNAを製剤化するために使用されるPEI 25kDaであり、この製剤は、蒸留水で作製され、ジェットネブライザーを使用してエアゾール剤として肺へ適用される。
【0035】
本発明の特に好ましい態様は、低pH及び低導電率の水性緩衝液及び溶媒を使用することによって調製される。PBS緩衝液は、pH7.4及び導電率16,500±500μS/cm(25℃)である。本発明による組成物中のmRNAは、驚くべきことに、より低導電率及び/又はより低pHの溶液剤を適用すれば、安定性が増加する。例えば、高圧滅菌した超純水は、導電率1±0.2μS/cm(米国薬局方では、25℃での導電率の上限が1.3であることを必要とする)及びpH5.0〜7.0である。0.2μmフィルターに通して濾過した水道水は、導電率300±5μS/cmである。本発明の好ましい態様では、PBS緩衝液よりpHも導電率も低い水性の緩衝液及び溶媒が適用される。故に、本発明による医薬組成物は、好ましくはpH6.5未満、好ましくは3〜6、特に4〜5.5、及び/又は25℃導電率(即ち、25℃での導電率)10000μS/cm以下、好ましくは1000μS/cm以下、特に100μS/cm以下である。例えば、特に好ましい態様は、(PBSのような緩衝液の代わりに)米国薬局方において定義されるような医薬的に許容される水(注射用水)を含有する。
【0036】
当然ながら、本発明による医薬製剤は、医薬的に許容される担体、及び/又はさらなる補助化合物、特にヒト肺へ送達されるエアゾール組成物において通常提供される化合物をさらに含有することができる。
【0037】
遺伝子治療の分野では、トランスフェクション効率の高さ故に、複製欠損ウイルスが最も成功裡に使用されてきた。しかしながら、それらを安全に適用するためには、挿入変異と望ましくない免疫応答誘発のリスクが依然として重大なままである。一方、プラスミドDNA(pDNA)送達については、非ウイルスベクターがより安全な代替手段として集中的に検討されてきたが、それらの遺伝子導入効率は、ウイルスベクターより依然として数倍低く、これは、pDNAの核内への輸送が不十分であることに主に起因するとされてきた。非ウイルス遺伝子送達の分野では、最近、pDNAに代わって、メッセンジャーRNA(mRNA)が魅力的で有望な代替手段として台頭してきた。この戦略は、pDNAと比較していくつかの利点を兼ね備えている:i)mRNAがその機能を発揮するのは細胞質なので、pDNAの重大な障壁である核膜を回避することができる;ii)挿入変異のリスクを排除することができる;iii)効率的なプロモーターの決定及び使用が省略される;iv)反復適用が可能である;v)mRNAは非分裂細胞においても有効である、並びにvi)ベクター誘発性の免疫原性が回避可能であり得る。
【0038】
mRNAに基づいた遺伝子導入担体は、遺伝性疾患の潜在的な治療又は(抗腫瘍)予防接種のための、DNAより作製される担体に対する魅力的な代替手段として台頭してきた。癌免疫療法では、全抗原のすべてのエピトープを1つの工程で一緒に送達することが可能であるだけでなく、操作及び精製がかなり簡便でもあるという理由で、その成功した応用が実証されてきた。加えて、mRNAはゲノム内に組み込まれず、トランスフェクションは一過性のままであるので、この戦略には、医薬品の安全性に関していくつかの利点がある。万能(versatile)抗原をコードするmRNAを樹状細胞(DC)への送達と組み合わせることは、癌患者において免疫応答を誘発するための強力で有望なアプローチである。
【0039】
これまで、プラスミドDNA(pDNA)は、非ウイルス遺伝子導入のために主に使用されてきた。しかしながら、それは、非分裂性の哺乳動物細胞へはほとんどトランスフェクトできず、その上、細菌の非メチル化DNA CpGモチーフは、Toll様受容体9(TLR9)を介して強い免疫応答を誘発する。例えば、エレクトロポレーション、カチオン性ポリマー、又はカチオン性脂質の手段によってトランスフェクトされるDCは1〜10%にすぎない。一方、mRNAのエレクトロポレーションによるトランスフェクション効率は、トランスフェクト細胞が最大95%に達すると以前に示されたことがある。上記の観察事実は、mRNA導入がpDNA導入と比較して非常に有効であることを示唆するものであり、これは、大部分が、mRNAを核内へ輸送する必要がないからである。その結果として、初期の劇的に高いタンパク質発現が報告された。
【0040】
非ウイルス遺伝子導入にmRNAを使用することの上記に列挙した利点は強調されるべきであるが、mRNAは真核細胞内でのメチル化を含めてほぼ13種の異なるヌクレオシド修飾を受け、試験管内で転写されるmRNAでは、TLR3、TLR7、及びTLR8に介在される強い免疫応答を引き起こし、それがその成功裡の生体内適用にとって重大な課題となっていることも注目しなければならない。しかしながら、修飾ヌクレオシドは、後に考察するように、これら免疫刺激作用の抑制に寄与する場合もある。
【0041】
真核細胞内の成熟mRNAは、5種の主要部分:キャップ構造([m7Gp3N(N:あらゆるヌクレオチド)])、5’非翻訳領域(5’UTR)、オープンリーディングフレーム(ORF)、3’非翻訳領域(3’UTR)、及び100〜250アデノシン残基のテール(ポリ(A)テール)から成る。試験管内で転写されるmRNAは、T7、SP6、又はT3のようなバクテリオファージプロモーターを有するプラスミドDNAから入手することができる。試験管内転写は、市販のキットを使用する一般的な技術であり、十分量の機能性mRNAを得る。これまでに、実行可能性と技術改良が劇的に進歩してきた。
【0042】
キャップの1/3〜1/2は、試験管内転写のあいだに逆配向で取り込まれ、キャップ結合タンパク質である真核細胞翻訳開始因子4E(eIF4E)にとって認識し得ないものになることが見出された。正常なキャップ構造の代わりに、正常キャップの3’OH基が除去されているか又はOCH
3で置換されている抗リバースキャップ類似体(ARCA)であるm
27,3’OGp
3G及びm
73’dGp
3Gであれば、誤った配向でのキャップ取込みを回避し得ることが発見された。その後、ARCAに対する数多くの修飾が報告されてきた。きわめて興味深いことに、C3’位だけでなく、C2’位での修飾も逆の取込みを防ぐことが見出された。さらに、四リン酸ARCAは、他のキャップ類似体より効率的に翻訳を推進することができる。結果として、試験管内ARCAキャップ化転写産物(ARCA−mRNA)は、ウサギ網状赤血球溶解液において、正常なキャップ化転写産物(CAP−mRNA)と比較して、有意に高い翻訳効率を示した。さらに、α−β−連結又はβ−γ−連結中の架橋酸素がそれぞれメチレン基で置換されたm
27,3’OGpp
CH2pG又はm
27,3’OGp
CH2ppGは、デキャッピング酵素の1つであるヒトDcp2による加水分解に試験管内で耐性であり、mRNA安定性を高めると報告された(非特許文献9)。しかしながら、m
27,3’OGpp
CH2pGは、eIF4Eへの親和性を、m
27,3’OGp
3Gと比較して52〜68%しか示さなかった。ホスホロチオエート担持ARCA(S−ARCA)は安定化し、翻訳効率を高めることが近年報告された。ARCAのβ−リン酸部分の非架橋酸素をイオウで置換したm
27,2’OGpp
spG(D2)でキャップ化されたルシフェラーゼ(luc)mRNAは、正常キャップより5.1倍効率的に翻訳されることが見出された。別のジアステレオ異性型(D1)も、2.8倍高い翻訳効率を示した。S−ARCAとARCAのあいだで、翻訳効率に有意差は無かった。しかしながら、D2のt
1/2(257分)は、正常キャップ(86分)又はARCA(155分)と比較して、明確に延長されることがわかった。故に、ホスホロチオエートは、加水分解耐性に寄与するようである。
【0043】
ポリ(A)テールは、mRNAの翻訳及び安定性に重要な役割を担う。ポリ(A)テールは、ポリアデノシル結合タンパク質(PABP)へ結合する。PABPは、eIF4GのN末端と相互作用して、それがmRNAの環化をもたらす。加えて、ポリ(A)テールは、数多くのPABPに結合することができ、それがeIF4Gと相互作用することで、キャップ構造に対するeIF4Eの親和性が高まる。このキャップ−ポリ(A)相互作用は、mRNAの5’端と3’端とのあいだの物理的な相互作用から協同的に生じる。ポリ(A)テールが除去されるか又は12未満の残基へ短縮されると、5’キャップ構造の切断と5’→3’へのエクソヌクレオチド消化又は3’→5’への分解により、mRNAの分解が生じる。これらの観察事実は、デキャッピング及びmRNA分解を阻害するのにポリ(A)テールがきわめて重要であることを例証している。試験管内転写では、鋳型プラスミドDNAがポリd(A/T)テールを含有していなければ、ポリ(A)ポリメラーゼによって転写後ポリアデニル化される場合がある。しかしながら、この場合、ポリ(A)テールの長さは反応ごとに変動する場合があるものの、1つのアプローチの中では、この変動性は驚くほど低いままである。
【0044】
大変興味深いことに、キャップ化ポリアデニル化mRNAの翻訳が外因性ポリ(A)のトランス付加によって阻害されるのに対し、キャップ化非ポリアデニル化mRNAの翻訳は、あるポリ(A)濃度の下でむしろ刺激されることが報告された。しかしながら、10〜180残基から成る外因性ポリ(A)のトランス付加は、ウサギ網状赤血球溶解液において、100アデノシン残基のポリ(A)テールを有するキャップ化mRNAの翻訳を11倍刺激した。15〜600残基の範囲にあるポリ(A)テールの付加は、リポフェクションを使用するARCA−luc mRNA−A100の同時トランスフェクションによって、タンパク質発現を2.3倍刺激した。
【0045】
その上、キャップ構造もポリ(A)テールも、タンパク質発現レベルに個別に寄与することが報告されてきた。ARCA−luc mRNA−A64又は100は、マウス樹状細胞(JAWSII)においてリポフェクションを使用すると、CAP−luc mRNA−A64又は100より、それぞれ25倍及び50倍高いルシフェラーゼ活性を示した。加えて、ARCA−luc mRNA−A100は、CAP−luc mRNA−A64より700倍高いルシフェラーゼ活性を示した。従って、樹状細胞では、長いポリ(A)テールを修飾キャップ構造のARCAと組み合わせることで、発現効率が大いに改善される。
【0046】
酵素反応の性質に在るのは、ルシフェラーゼ活性がタンパク質発現レベルを間接的にしか測定しないことであり、そのことは、翻訳効率に対する実際の効果は依然として決定されていないことを意味する。ポリ(A)テールの長さ(A0、A20、A40、A60、A80、及びA100)が樹状細胞だけでなく他の細胞種においても発現レベルに影響を及ぼすかどうかが検証された。興味深いことに、ラット由来骨芽細胞様の骨肉腫細胞株UMR−106では、長さがA60までのポリ(A)テールを使用すると翻訳効率は高まり、それ以上にポリ(A)テールの長さが増えると、翻訳効率は低下することが見出された。故に、ポリ(A)の長さの翻訳に及ぼす効果は、細胞種に依存するのかもしれない。
【0047】
また、mRNA修飾の安定性及び翻訳効率に対する影響が樹状細胞において検討された。i)ポリ(A)の長さをA120まで延長すること;ii)鋳型プラスミドベクターの線状化を行う際、ポリ(A)テールの3’端での突出を回避して平滑末端のポリ(A)テールを得るために、SapI及びBpiIのようなIIS型制限酵素を使用すること;iii)ヒトβ−グロビン遺伝子の2つの連続した3’UTRを、ORFとポリ(A)テールとのあいだにクローン化することによって、mRNAの安定性と翻訳効率を高めるのに重要な様々な因子を発見した。
【0048】
様々なトランスフェクション試薬について、mRNA送達能が評価されてきた。現在まで、ほとんどの公表文献は、mRNAトランスフェクション用リポプレックス、ポリエチレンイミン(PEI、25及び22kDa)に基づくポリプレックス)は、かなり不良な結果をもたらすと示唆している。しかしながら、DEAE−デキストラン、ポリ(L−リジン)、及びデンドリマーが試験管内でmRNAを細胞内へトランスフェクトすることが可能であったにもかかわらず、ポリカチオンの使用については、これまで文献にほとんど記載されていない。
【0049】
カチオン性脂質を利用する、哺乳動物細胞へのmRNA導入の実行可能性については、1980年代後半にすでに記載されている。リポソーム(リポフェクチン)に取り込んだ合成カチオン性脂質DOTMAを使用して、試験管内でmRNAが異なる細胞株へ効率的にトランスフェクトされたのである。様々な量のmRNAの適用により、ルシフェラーゼ活性の線形応答が得られた。現在、最も効率的で最も広く使用されているカチオン性脂質は、比較的安価で試験管内及び生体内のmRNA送達適用において効率的であるDOTAPであろう。加えて、カチオン性ポリマーも、mRNAトランスフェクションに使用し得る。還元性ポリカチオンに基づいたある種の合成ベクターは、25kDa PEIのmRNAトランスフェクション効率を圧倒的に超えた。しかしながら、その修飾ベクターを生体内の遺伝子導入に直接使用し得るかどうかは検討されていない。トランスフェクション機序に関して言えば、カチオン性のポリマー又は脂質とのあいだの結合力が、mRNA発現効率に影響を及ぼす重要なパラメータの1つを代表することが見出された。プラスミドDNA送達に有効であってmRNAに強固に結合する、分岐鎖PEI 25kDa及び直鎖PEI 22kDaのようなカチオン性ポリマーでは検出可能な発現が生じないのに対し、低分子量のPEI 2kDa結合mRNAは、クロロキン又は化学的に結合したメリチンのようなエンドソーム溶解剤の存在下で、さほど効率的ではないものの、DOTAPに匹敵する高発現レベルをもたらした。上記の観察事実は、カチオン性ポリマーに結合する一本鎖mRNAの方が、pDNA結合より強いことを示している。核移行と転写の前提条件としてカチオン性ポリマーからpDNAが放出されるには、細胞質RNAが関与することが示唆された。故に、mRNA送達用の新規カチオン性ポリマーの設計には、核酸の結合力に注意深く対処しなければならず、pDNA送達に使用される効率的なカチオン性ポリマーは、mRNA送達に適していない可能性がある。
【0050】
ポリマー及びリポソームのベクター系とは別に、ここ数年の間に注目されるようになった興味深いさらなる選択肢は、エレクトロポレーションの使用である。外因性RNAの送達用のプロトコールが開発され、ヒト造血細胞とヒト胚性幹細胞において50〜90%のトランスフェクション効率をもたらした。mRNAは核に入る必要がないので、穏やかな電気パルスをかければよく、細胞毒性が抑えられる。エレクトロポレーションの別の利点は、RNAが細胞質内へ直接輸送されるので、おそらくは固有のRNA受容体によって感受されず、それにより望ましくない免疫応答が回避され得ることであろう。
【0051】
細菌DNAの生体内適用が、特に非メチル化CpGモチーフを介して、強い免疫応答をもたらし得ることがすでに示されている。軽度のサイトカイン応答しか誘発しない裸のDNAとは対照的に、カチオン性脂質とのその複合体は強いサイトカイン応答をもたらす。カチオン性脂質の投与経路を変えても、炎症性サイトカインの発現を顕著に変化させなかったが、静脈内注射又はエアゾール送達の後のPEI−DNAは、カチオン性脂質と比較して、より低い肺サイトカインレベルをもたらした。これはおそらくは、それらのエンドソーム取込みの違いと、それによるTLR9受容体との相互作用の違いによるものであろう。
【0052】
RNA送達に対する応答についてはさらに探究されていない。DNAもRNAもToll様受容体(TLR)の活性化を通して哺乳動物の自然免疫系を刺激する。ヒト及びマウスにおいて、13種のTLR(単にTLR1〜TLR13と命名されている)がすでに同定されており、このうちの多くの等価型が他の哺乳動物種で発見されている。注目すべきことに、様々なTLRが、いくつかの構造的に無関係なリガンドを認識することができる。TLR介在性の自然免疫系は蝶タイ構造(a bow-tie architecture)を有しており、多様な病原体とその分子が、非常に少数のリガンドによって表される。様々なTLRの細胞内局在化は、それらのリガンドの分子パターンとある程度相関している。従って、TLR3、TLR7、TLR8、及びTLR9はいずれも核酸様構造の認識に関与しているが、これらは、細胞内部に局在化している。TLR3がdsRNA、siRNA、及びmRNAを認識するのに対し、TLR7及びTLR8はssRNAに結合し、CpG DNAモチーフの認識はTLR9により介在される。
【0053】
DNA CpGのメチル化(これは、TLR9を介した認識を抑制する)と合致して、RNAの免疫原性は、類似した修飾型の制御下にあるらしい。試験管内で転写されたRNAは、哺乳動物に典型的な修飾を示さなくても、樹状細胞による強いTNF−α応答をもたらした。大変興味深いことに、特定のヌクレオチドの修飾(例えばN6−メチルアデノシン又はシュードウリジン)は、TLR3、TLR7、及びTLR8に介在されるサイトカイン分泌とDCの活性化を劇的に低下させた。従って、試験管内転写反応に修飾NTPを導入することによって、生体内で増幅される免疫応答を消失させることが可能であるかもしれない。ヒト末梢血単核細胞(PBMC)では、ウリジン及びシチジンのわずか25%を2−チオウリジン及び5−メチル−シチジンに置換すると、TLR3、TLR7、TLR8、及びRIG−Iのようなパターン認識受容体へのmRNA結合が相乗的に減少した。これらの修飾は、試験管内及び生体内で自然免疫系の活性化を実質的に減少させると同時にmRNAの安定性を高め、培養ヒト及びマウスII型肺胞上皮細胞の80%強において、細胞培養上清及びマウス血清のフローサイトメトリー及びサイトカインELISAによって実証されるように、延長された高レベルの細胞内タンパク質発現を可能にした。内在性のmRNA免疫原性を克服することは、例えば、遺伝性及び代謝性の疾患の治療のために、又は再生医学の分野において、反復投薬が求められる新規の治療法を可能にするのに不可欠であると考えられている。
【0054】
上記のこととは対照的に、RNAの強い免疫刺激作用は、治療用のワクチン接種に使用される。特に、樹状細胞(DC)は、抗原提示細胞(APC)として、ワクチン免疫原の標的とされ、抗原特異的T細胞及びB細胞の活性化がこれに続く。いくつかの生体内及び試験管内の試験は、DCをmRNAの標的とすると腫瘍免疫又は抗腫瘍応答が誘発されることを示した。pDNAのトランスフェクションと比較して、mRNAベースの遺伝子導入は、DCの腫瘍抗原負荷がより高く、細胞傷害性Tリンパ球応答を刺激する可能性がより高かった。抗腫瘍アプローチとは別に、RNAをトランスフェクトされたDCを使用して、AIDS、C型肝炎、又は真菌感染症のような感染性疾患を治癒又は予防することも熱望された。RNA予防接種を達成するための別の洗練された戦略は、抗原及びRNAレプリカーゼをコードするバイシストロン性複製RNAによって標的抗原を発現させ、それによりアルファウイルスの能力を利用して多量のウイルスmRNAを産生することである。細胞がトランスフェクトされると、それ自体が多くのゲノムRNAポジティブ鎖のRNAレプリカーゼによる合成の鋳型となる、ゲノムのネガティブ鎖を合成するレプリカーゼ複合体によって、ウイルスRNAが増幅される。このアプローチはマウスモデルにおいてすでに使用されており、免疫寛容を破綻させてメラノーマに対する免疫性を提供した。
【0055】
本発明は、mRNAを肺細胞に効率的に送達し、そのmRNAによってコードされるタンパク質を上記細胞内で有効に発現させる好適な方法を可能にした。
【0056】
本発明を以下の実施例及び付随の図面においてより詳しく説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
1.ポリエチレンイミン(PEI)と製剤化した、エリスロポエチン(EPO)及びメトリディア・ルシフェラーゼ(metLuc)をコードする化学修飾mRNA及び非修飾mRNAのマウス肺への生体内エアゾール適用
化学物質
分岐鎖PEI(平均分子量=25kDa)をシグマ・アルドリッチ(シュネルドルフ、ドイツ)より入手し、さらに精製せずに使用した。PEIを再蒸留水で希釈し、HClでpH7に調整した。再蒸留したエンドトキシン除去水をDelta Pharma(ベーリンガー・インゲルハイム、ドイツ)より購入した。
【0058】
mRNAの産生
マウスEPO(mEPO)cDNAのpVAXA120ベクターへのクローニング
mEPOをコードするcDNAを、pCR4EPOプラスミド(Open Biosystemsより購入、カタログ番号:MMM1013−99829153)よりEcoRI消化により切り出し、pVAXA120のそれぞれの部位へクローニングした。クローンを、PmeI消化を使用して挿入物についてスクリーニングし、NheI(一本鎖消化)及びSmaI−XbaI(二本鎖消化)を使用して配向についてスクリーニングした。3種すべての消化で正しいクローンをRNA産生に使用した。
【0059】
mEPO mRNAの産生
試験管内転写用の鋳型を作製するために、プラスミドをXbaI(Fermentas)で37℃にて一晩消化することにより、ポリ(A)テールの下流で線状化し、非特許文献10に記載のようなクロロホルム抽出及び酢酸ナトリウム沈殿を使用して精製した。プラスミド鋳型の完全な線状化を1%アガロースゲルで確認した。
【0060】
抗リバースキャップ類似体(ARCA;P1−(5’−(3’−o−メチル)−7−メチル−グアノシル)P3−(5’−(グアノシル))三リン酸ナトリウム塩、Jena Biosciences、ドイツ)を使用するRiboMAXラージスケールRNA産生システム−T7(プロメガ、ドイツ)を30℃及び37℃で用いて、製造業者のプロトコールに従い、pVAXA120−mEPOの試験管内転写を行った。化学修飾mEPO mRNA(EPO Mod)の試験管内転写では、シチジン−5’−三リン酸及びウリジン−5’−三リン酸のそれぞれ25%を5−メチルシチジン−5’−三リン酸(TriLink、米国)及び2−チオウリジン−5’−三リン酸(TriLink、米国)に置換した。クロロホルム抽出及びPD−10カラム(GEヘルスケア、ドイツ)でのサイズ排除クロマトグラフィーによってmRNAの精製を実施した。産生したmRNAを、気管支上皮細胞株(BEAS−2B)及びヒト胚性腎上皮細胞株(HEK293)のトランスフェクション、並びにELISA(R&Dシステムズ、ドイツ)によるmEPO量の測定により、活性についてスクリーニングした。30℃で産生したmEPO mRNAでトランスフェクトされたBEAS−2Bから、37℃で産生したその対照物と比較して、有意に高量のmEPOを定量することができた。
【0061】
メトリディア・ルシフェラーゼ(MetLuc)ORFのpVAXA120ベクターへのクローニング
MetLuc(クローンテック配列)をコードするORFを合成し、GeneArt AG(ドイツ)によるpVAXA120のBamHI/EcoRI部位にクローニングした。受領したpVAXA120−MetLucプラスミドを、試験管内転写にさらに使用した。
【0062】
化学修飾MetLuc mRNAの産生
試験管内転写用の鋳型を作製するために、プラスミドをXbaI(Fermentas)で37℃にて一晩消化することにより、ポリ(A)テールの下流で線状化し、非特許文献10に記載のようなクロロホルム抽出及び酢酸ナトリウム沈殿を使用して精製した。プラスミド鋳型の完全な線状化を1%アガロースゲルで確認した。
【0063】
抗リバースキャップ類似体(ARCA;P1−(5’−(3’−o−メチル)−7−メチル−グアノシル)P3−(5’−(グアノシル))三リン酸ナトリウム塩、Jena Biosciences、ドイツ)を使用するRiboMAXラージスケールRNA産生システム−T7(プロメガ、ドイツ)を30℃で用いて、製造業者のプロトコールに従い、pVAXA120−MetLucの試験管内転写を行った。化学修飾MetLuc mRNAの試験管内転写では、シチジン−5’−三リン酸及びウリジン−5’−三リン酸のそれぞれ25%を5−メチルシチジン−5’−三リン酸(TriLink、米国)及び2−チオウリジン−5’−三リン酸(TriLink、米国)に置換した。クロロホルム抽出及びPD−10カラム(GEヘルスケア、ドイツ)でのサイズ排除クロマトグラフィーによってmRNAの精製を実施した。産生したmRNAを、マウス線維芽細胞株(NIH3T3)のトランスフェクション、及びメトリディア・ルシフェラーゼレポーターアッセイを使用するMetLuc活性の測定により、活性についてスクリーニングした。
【0064】
動物
6〜8週齢の雌性BALB/cマウスを、Janvier(Route Des Chenes SecsBP5、F−53940 Le Genest St.Isle、フランス)より入手し、特定病原体のない条件下に維持した。実験に先立って、マウスを、この動物施設の環境に少なくとも7日間適応させた。すべての動物実験は、当地の倫理委員会によって承認及び管理されたものであり、動物の生命保護に関するドイツの法律のガイドラインに従って行った。
【0065】
PEI−mRNAポリプレックスの調製
ポリプレックスを以下のように製剤化した:mRNA及びPEIを4.0mlの再蒸留水に希釈し、それぞれの濃度を250μg/ml mRNA及び326.3μg/ml PEIとした(N/P比10に相当)。このmRNA溶液をPEI溶液へピペット注入し、上下のピペッティングによって混合して、最終mRNA濃度を125μg/mlとした。この複合体を、使用前に周囲温度で20分間インキュベートした。本発明の過程の中では、複合体形成には、緩衝液を含まない水のみを使用することが特に有利であることが観測された。そうしなければ、ナノ粒子がマウスの肺において凝集するか又は効果がなくなり得るからである(非特許文献1)。
【0066】
エアゾールデバイスの設計
全身デバイスにおける噴霧化手順では、蓋で密封し得る9.8×13.2×21.5cmのプラスチック箱にマウスを入れる。この箱の一方の短辺面に、4個の小穴がエアゾール流出口として位置している。この箱は、反対の短辺面にある穴から直径2.1cmの接続部品を介して幅15.4cm×長さ41.5cmのプラスチックシリンダーに接続されている。このシリンダーの底は、シリンダーの他端に接続したジェットネブライザー(PARI BOY(登録商標)LC plus、PARI GmbH)によって産生されるエアゾールを乾燥するために150gのシリカゲル(1〜3mm、#85330;Fluka、スイス)で均等に覆われている(詳細は非特許文献11に記載)。
【0067】
肺ホモジネートにおけるEPO活性とMetLuc活性の測定
投与から24時間後に、メデトミジン(11.5μg/kg体重)、ミダゾラム(115μg/kg体重)、及びフェンタニル(1.15μg/kg体重)の腹腔内注射によってマウスを麻酔し、正中切開によって腹膜を開いた。正中切開によって腹膜を開けた後で、動物より肺を切除し、PBSで灌流処理した。肺を液体窒素中で瞬間凍結させて凍結した状態で乳鉢及び乳棒でホモジナイズした。25mMトリス(pH7.4)、0.1% Triton X−100、及びコンプリートプロテアーゼインヒビター(ロシュ・ダイアグノスティックスGmbH、ペンツベルク、ドイツ)を含有する溶解緩衝液400μlを添加後、試料を氷上で20分間インキュベートした。引き続き、タンパク質溶解液を10,000rcfで5分間遠心分離した。上清中のEPO活性をELISA(R&Dバイオシステムズ)で測定し、非特許文献12に記載のようなセレンテラジン添加時の発光活性の測定によってMetLuc活性を分析した。
【0068】
結果:
第一の実験は、非修飾EPO mRNA及び化学修飾EPO mRNAが、PEI 25kDaとの組合せとして肺エアゾール送達されると、動物の肺細胞において有効に発現されることを示す。このことは、肺への送達方法がmRNAの化学組成とは無関係であることを示している。第二の実験は、メトリディア・ルシフェラーゼが、PEI 25kDaとの組合せとして肺エアゾール送達されると、動物の肺細胞において有効に発現されることを示す。このことは、肺への送達方法は、一本鎖のコーディングmRNAに制限されるものではなく、mRNAがコードする配列とは無関係であることを示している。まとめると、上記のことは、本発明の目的が本発明による方法及び医薬製剤によって適切に対処し得ることを示している。
【0069】
2.ポリエチレンイミン(PEI)と製剤化した、ホタルルシフェラーゼ(Luc)をコードする化学修飾mRNAのマウスの肺への生体内エアゾール適用
化学物質
分岐鎖PEI(平均分子量=25kDa)をシグマ・アルドリッチ(シュネルドルフ、ドイツ)より入手し、さらに精製せずに使用した。PEIを注射用水で希釈し、HClでpH7に調整した。エンドトキシン除去水をB.Braun(メルズンゲン、ドイツ)より購入した。
【0070】
化学修飾Luc mRNAの産生
試験管内転写(IVT)用の鋳型を作製するために、プラスミドpVAXA120−LucをNotIで制限消化することにより線状化した。鋳型をクロロホルム−エタノール沈殿によってさらに精製した。鋳型の品質を非変性アガロースゲル電気泳動によって決定した。リボヌクレオチド三リン酸、抗リバースキャップ類似体(ARCA、m
7,3’−OGpppG)、及びT7 RNAポリメラーゼを含有する標準IVTミックスを用いてIVTを行った。25%の5−メチル−シチジン−5’−三リン酸及び25%の2−チオ−ウリジン−5’−三リン酸を使用して修飾を導入した。ARCAを使用して、キャップが所望の配向でのみ取り込まれることを確実にした。キャッピング後の手順を使用してキャップ−0又はキャップ−1の構造を含有するmRNAを作製するために、キャップ類似体を用いずにIVTを実施したところ、5’端三リン酸を含有するmRNAを生じた。ワクシニアウイルスキャッピング酵素rGTP、及びメチルドナーとしてのS−アデノシルメチオニン(SAM)を使用してキャッピングを実施し、7−メチルグアニル酸キャップ−0構造(m7GpppG)を先のmRNAの5’端へ付加した。キャッピング後の手順より生じるmRNAの5’端にあるキャップ−0構造に隣接する第1のヌクレオチドの2’−O位にメチル基を付加するために、mRNAキャップ2’−O−メチルトランスフェラーゼとSAMを使用した。このメチル化は、mRNAキャップのキャップ−1構造(m7GpppGm)をもたらした。酢酸アンモニウム沈殿によってmRNAの精製を実施した。修飾Luc RNAを注射用水に再懸濁させ、UV測定、非変性アガロースゲル電気泳動、及びNIH3T3細胞内でのトランスフェクションを使用して、品質検査を実施した。
【0071】
動物
6〜8週齢の雌性BALB/cマウスをJanvier(Route Des Chenes SecsBP5、F−53940 Le Genest St.Isle、フランス)より入手し、特定病原体のない条件下に維持した。実験に先立って、マウスを、この動物施設の環境に少なくとも7日間適応させた。すべての動物実験は、当地の倫理委員会によって承認及び管理されたものであり、動物の生命保護に関するドイツの法律のガイドラインに従って行った。
【0072】
PEI−mRNAポリプレックスの調製
ポリプレックスを以下のように製剤化した:mRNA及びPEIを4.0mlの再蒸留水に希釈し、それぞれの濃度を250μg/ml mRNA及び326.3μg/ml PEIとした(N/P比10に相当)。このmRNA溶液をPEI溶液へピペット注入し、上下のピペッティングによって混合して、最終mRNA濃度を125μg/mlとした。この複合体を、使用前に周囲温度で20分間インキュベートした。本発明の過程の中では、複合体形成には、緩衝液を含まない水のみを使用することが特に有利であることが観測された。そうしなければ、ナノ粒子がマウスの肺において凝集するか又は効果がなくなり得るからである(非特許文献1)。
【0073】
エアゾールデバイスの設計
全身デバイスにおける噴霧化手順では、蓋で密封し得る9.8×13.2×21.5cmのプラスチック箱にマウスを入れる。この箱の一方の短辺面に、4個の小穴がエアゾール流出口として位置している。この箱は、反対の短辺面にある穴から直径2.1cmの接続部品を介して幅15.4cm×長さ41.5cmのプラスチックシリンダーに接続されている。このシリンダーの底は、シリンダーの他端に接続したジェットネブライザー(PARI BOY(登録商標)LC plus、PARI GmbH)によって産生されるエアゾールを乾燥するために150gのシリカゲル(1〜3mm、#85330;Fluka、スイス)で均等に覆われている(詳細は非特許文献11に記載)。
【0074】
生体内生物発光造影法を使用する、マウス肺におけるLuc活性の測定
投与から24時間後に、メデトミジン(11.5μg/kg体重)、ミダゾラム(115μg/kg体重)、及びフェンタニル(1.15μg/kg体重)の腹腔内注射によってマウスを麻酔した。D−ルシフェリン基質(3mg/50μl PBS/マウス)を鼻腔内経路より適用した(非特許文献13)。10分後に、IVIS100造影システム(Xenogen、アラメダ、米国)及び以下のカメラ設定:視野10、Fストップ F1、高解像ビニング、及び露光時間10分を使用して生物発光を測定した。Living Image Software、バージョン2.50(Xenogen、アラメダ、米国)を使用して、このシグナルを定量化して解析した。
【0075】
結果:
この実験は、化学修飾Luc mRNAが、PEI 25kDaとの組合せとして肺エアゾール送達されると、マウスの肺細胞において有効に発現されることを示す(
図3)。ルシフェラーゼ発現は、キャップ−1を含む化学修飾Luc mRNAにおいて最高である(
図4)。まとめると、上記のことは、本発明の目的が本発明による方法及び医薬製剤によって適切に対処し得ることを示している。
【0076】
3.ポリエチレンイミン(PEI)と製剤化した、ホタルルシフェラーゼ(Luc)をコードする化学修飾mRNAのブタの肺への生体内エアゾール適用
化学物質
上記の実施例2を参照のこと。
【0077】
化学修飾Luc mRNAの産生
上記の実施例2を参照のこと。
【0078】
実験手順
アザペロン2mg/kg体重、ケタミン15mg/kg体重、アトロピン0.1mg/kg体重の麻酔前投薬によってブタの沈静化を開始し、その後、外耳介静脈に静脈内ラインを挿入した。必要に応じて、プロポフォール3〜5mg/kg体重の静脈内注射によってブタを麻酔した。必要に応じて、1%プロポフォールの連続静脈内注入で麻酔を維持した。換気パラメータを呼気終末二酸化炭素に適合させ、必要であれば調整した。麻酔、呼吸、及び心臓血管系のパラメータについて、パルスオキシメトリー、カプノグラフィー、直腸温度プローブ、及び反射状態を用いて連続的にモニターした。ブタは、平衡電解液の注入を10ml/kg/時で受けた。麻酔の継続時間はおよそ80〜120分であった。ブタは、エアゾール適用(Aeroneb メッシュネブライザー)が完了した後の沈静後に、外耳静脈を介したペントバルビタール100mg/kg体重のボーラス注射でと殺した。肺を切り出してスライスし、およそ1cm厚の組織標本を様々な肺部位より採取して、インキュベーター内で37℃(5%二酸化炭素)にて24時間細胞培養培地中でインキュベーションした。ルシフェラーゼ活性を測定するために、PBS中にD−ルシフェリン基質を含む(100μg/ml)培地浴において組織標本を37℃にて30分間インキュベートし、体外ルシフェラーゼ生物発光造影法(IVIS 100、Xenogen、アラマダ、米国)へ処した。
【0079】
PEI−mRNAポリプレックスの調製
2チャンネルシリンジポンプ(KDS−210−CE、KDサイエンティフィック)を使用してポリプレックスを形成した。mRNA及びPEIをそれぞれ12.0mlの再蒸留水で希釈し、それぞれの濃度を500μg/ml mRNA及び650μg/ml PEIとした(N/P比10に相当)。シリンジポンプの吸引機能を5mL/分の速度で使用して、両方の溶液を別々の20mLシリンジへ充填した。両方の試料を混合するために、2つのシリンジをT字形の管(Safeflow Extension Set、B.Braun)を介して連結した。シリンジポンプの吸引機能を40mL/分の速度で使用して混合を実施した。この複合体を、使用前に周囲温度で30分間インキュベートした。本発明の過程の中では、複合体形成には、緩衝液を含まない水のみを使用することが特に有利であることが観測された。そうしなければ、ナノ粒子がマウスの肺において凝集するか又は効果がなくなり得るからである(非特許文献1)。
【0080】
結果:
この実験は、噴霧水で処理した対照動物の肺ではルシフェラーゼ発現が見られない(
図5a)のに対し、化学修飾Luc mRNAは、PEI 25kDaとの組合せとして肺エアゾール送達されると、ブタの肺細胞において有効に発現される(
図5b)ことを示す。まとめると、上記のことは、本発明の目的が本発明による方法及び医薬製剤によって適切に対処し得ることを示している。
【0081】
4.注射用水(WFI)は、PEI製剤中の化学修飾mRNAを安定化する
mRNA安定性に対する注射用水の効果を、アガロースゲル電気泳動によってPBSと比較して検証した(
図6)。PBS中でPEIと複合体化したmRNAでは、mRNA分解産物のスメアによって示されるように、室温で4時間のインキュベーション後に早くもmRNA分解が生じるのに対し、WFI中のPEI/mRNA製剤は、mRNA分解産物がより少ないこと(
図5)及びmRNA主要産物のバンド強度がより大きいことによって示されるように、顕著に安定化している。この効果は、短いLuc mRNAよりもCFTR mRNAのような大きいmRNAでより明瞭であり、室温で24時間のインキュベーション後ではさらにより明白になる。重要なことには、mRNA分解は、pH低下に伴って減少し、pH5で最小値に達する。この観測事実は、mRNAをエアゾール送達するためにPEI製剤にWFIを使用することの最も好ましい特性及び必要性を説明している。何故なら、WFIが通常pH5の酸性pHであるため、水性PEI製剤中での分解に抗してmRNAを本質的に安定化するからである。
【0082】
実験手順
mRNA−PEIポリプレックスの調製。分岐鎖PEI 25kDa(シグマ・アルドリッチ、シュネルドルフ)ストック溶液を、Aqua ad Injectabilia(WFI、B. Braun、メルズンゲン)又はダルベッコPBS(Life technologies、ダーマシュタット)で10mg/ml及び5mg/mlに調製し、pHをHClでpH7.4、pH6.0、又はpH5.0に調整した。
【0083】
25μlの修飾mRNA(1μg/μl)及び3.3μlのPEIストック溶液(10mg/ml)を、50μlのWFI又はD−PBSで希釈し、それぞれ濃度を0.5μg/μl mRNA及び0.66μg/μl PEIとした(N/P比10に相当)。特許(特許文献2)に従って、修飾mRNA(1μg/μl)25μl及びD−PBS中のPEIストック溶液(5mg/ml)6.6μlを、50μl WFIで希釈した。PEI溶液をゆっくりボルテックスし、それにDNA溶液を加えて、最終容量100μlとした。この混合物を使用前にそのまま室温で20分間放置した。
【0084】
非変性アガロースゲル電気泳動を使用する放出アッセイでは、1μlのポリプレックス溶液を、4μlのヘパリン溶液(WFI中40mg/ml)に加えた。この混合物を室温で10分間インキュベートした。インキュベーション後、5μlの2×RNAローディング色素(Thermo Fisher)を加え、試料を70℃で10分間インキュベートした。その後、試料を氷上に2分間置いてから、1%アガロースゲルにロードした。このゲルを180Vで1〜1.5時間操作して、Intas Gel Documentation Systemを使用して可視化した。