特許第6208833号(P6208833)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6208833
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】認知症評価システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   A61B10/00 H
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-167144(P2016-167144)
(22)【出願日】2016年8月29日
【審査請求日】2017年2月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516259527
【氏名又は名称】入倉 知映
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 裕明
(74)【代理人】
【識別番号】100158241
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 安子
(72)【発明者】
【氏名】入倉 知映
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−071897(JP,A)
【文献】 特開2003−071125(JP,A)
【文献】 特開平09−265293(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3160387(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A63F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマスによって形成された経路を有し、駒を移動させることによって進行するボードゲーム用の表示部を備え、
前記マスは、前記駒が止まったときにプレイヤが実行するイベントを示すイベントマスを少なくとも1つ以上有し、
前記イベントは、認知症の中核症状を評価する評価イベントと、日常生活動作を評価する動作イベントと、参加しているプレイヤ全員が同じタイミングで実行可能な自由参加イベントとを含み、
前記自由参加イベントは、前記評価イベント又は前記動作イベントと組み合わせたイベントを含み
前記プレイヤが実行した前記イベントの結果に基づく評価を担当者がゲームの進行をしながら記入する評価シートを備え、
前記評価シートは、前記評価イベントに対応した評価欄を有し、
前記評価欄の背景は、前記評価イベントのマスの背景の色と同じ色である
ことを特徴とする認知症評価システム。
【請求項2】
前記表示部は、スタート地点及び終点を含む第1表示部と、開始地点及びゴール地点を含む第2表示部と、前記第1表示部と前記第2表示部の間である1又は2以上の中間表示部とを有し、
前記終点は、前記第1表示部の左下に設けられており、
前記開始地点は、前記第2表示部の左上に設けられており、
前記中間表示部は、中間開始地点と、中間終点と、前記中間開始地点から出発し複数の前記マスを経由して前記中間終点にたどり着くまでの経路とを有し、
前記中間開始地点は、前記中間表示部の左上に設けられ、
前記中間終点は、前記中間表示部の左下に設けられ、
前記経路は、前記中間終点の先において、前記中間表示部の下方向を指している
ことを特徴とする請求項1記載の認知症評価システム。
【請求項3】
前記駒は、プレイヤの名前を記入する欄を有することを特徴とする請求項1又は2記載の認知症評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知症評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
認知症は、後天的な脳の器質的障害により、一旦正常に発達した知能が不可逆的に低下した状態とされている。全ての認知症患者に観察される症状を、中核症状と呼ぶ。中核症状は、記憶障害、見当識障害、認知機能障害などからなる。認知症患者のケアにおいて、患者の現存能力、すなわち、患者のできることを生活場面において最大限活用することが、患者及びケアをする側にとって重要であると認識されている。患者の現存能力を活用するために、患者の認知症の程度を的確に評価することが必要である。
【0003】
患者の認知症の程度を評価する認知度把握システムが開示されている(例えば、特許文献1)。上記認知度把握システムは、患者によって着色される塗り絵シートと、当該塗り絵シートの着色された絵柄及び着色作業状態に基づいて評価するチェックシートとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−78561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記特許文献1の認知度把握システムでは、患者が塗り絵をすることが困難な場合、例えば着色するためのクレヨンや色鉛筆を持つことが困難な場合、色を識別することができない場合や、塗り絵そのものに興味を示さない場合には、認知症の程度を的確に評価できるとはいえない、という問題があった。
【0006】
本発明は、認知症患者の認知症の程度をより的確に評価することができる認知症評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る認知症評価システムは、複数のマスによって形成された経路を有し、駒を移動させることによって進行するボードゲーム用の表示部を備え、前記マスは、前記駒が止まったときにプレイヤが実行するイベントを示すイベントマスを少なくとも1つ以上有し、前記イベントは、認知症の中核症状を評価する評価イベントを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゲームを通じて種々のイベントが用意されているので、認知症患者の認知症の程度をより的確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る第1表示部の外観を示す図である。
図2】実施形態に係る第2表示部の外観を示す図である。
図3】実施形態に係る中間表示部の外観を示す図である。
図4】実施形態に係る評価シートの外観を示す図である。
図5】変形例に係る認知症評価システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
1.実施形態
(全体構成)
本実施形態に係る認知症評価システムは、ゲーム具としてボードゲーム用の表示部を備える。認知症評価システムは、評価シートを備えていてもよい。表示部は、スタート地点を含む第1表示部と、ゴール地点を含む第2表示部とを有する。本実施形態の場合、表示部は、紙やプラスチックなどの媒体に絵が印刷された双六のボードである。表示部は、前記第1表示部と前記第2表示部の間に、1又は2以上の中間表示部を有してもよい。
【0012】
図1に示す第1表示部10の表面は、スタート地点14と、終点30と、複数のマスと、スタート地点14から出発し複数のマスを経由して終点30にたどり着くまでの経路12とが描かれている。スタート地点14は、第1表示部10の左上に描かれている。経路12は、スタート地点14から右へ進み、左右へ折り返しながら、第1表示部10の左下に描かれている終点30へ繋がっている。経路12は、終点30の先において、第1表示部10の下方向を指している。
【0013】
マスは、通常マスと、イベントマスとを含む。通常マスは、プレイヤが特別な動作を必要としない内容、例えば、「スタートに戻る」、「1回休み」などの内容が記載されている。イベントマスは、プレイヤが実行するイベントの内容が記載されている。イベントは、認知症の中核症状を評価する評価イベント、日常生活動作を評価する動作イベント、参加しているプレイヤ全員が同じタイミングで実行可能な自由参加イベントを含む。
【0014】
評価イベントの内容は、評価の観点から複数に分類される。本実施形態の場合、評価イベントの内容は、見当識に関する第1分類、記憶力に関する第2分類、実行機能に関する第3分類、理解・判断力に関する第4分類、失語に関する第5分類、失行に関する第6分類、失認に関する第7分類に分かれている。
【0015】
第1分類(見当識)に属する評価イベントは、現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握できているかを評価することを目的とし、例えば、「今日は何月何日?」、「今、何歳ですか?」などの質問に答えるイベントが考えられる。
【0016】
第2分類(記憶力)に属する評価イベントは、即時記憶、短期記憶、長期記憶の程度を評価することを目的とする。例えば、即時記憶としては、「『あいうえお』を反対から言う」、「早口言葉を言う」などのイベントが考えられる。短期記憶としては、「今サイコロの出た目の数はいくつでした?」、「今日の朝ご飯は何を食べましたか?」などの質問に答えるイベントが考えられる。長期記憶としては、「富士花鳥園に行ったことがありますか?」、「去年の納涼祭で浴衣は着ましたか?」などの質問に答えるイベントが考えられる。
【0017】
第3分類(実行機能)に属する評価イベントは、計画を立て適切に処理できるかを評価することを目的とし、例えば、「ゴールの1コマ手前に行く」などの動作や、「あなたの得意料理は何?作り方を教えてください」などの質問に答えるイベントが考えられる。
【0018】
第4分類(理解・判断力)に属する評価イベントは、ものを考えることに障害があるかを評価することを目的とし、例えば、「クイズに答える」、「お茶を飲む」などのイベントが考えられる。
【0019】
第5分類(失語)に属する評価イベントは、「聞く・話す・読む・書く」などの音声や文字の言語情報に関わる機能を評価することを目的とし、例えば、「果物の名前を4つ言う」、「文房具の名前を3つ言う」などのイベントが考えられる。
【0020】
第6分類(失行)に属する評価イベントは、目的とする行動の方法が分かっていることを評価することを目的とし、例えば、「箸で豆を10粒お椀に移しましょう」、「針に糸を通してみましょう」などのイベントが考えられる。
【0021】
第7分類(失認)に属する評価イベントは、体の器官に問題が無いことを前提に、五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)」による認知力を正常に働かせ、状況を正しく把握することができるかを評価することを目的とし、例えば「青 この字の色は何色?」、「赤 この字は何と読む?」などの質問に答えるイベントが考えられる。
【0022】
動作イベントは、食事・移動など生活を営む上で不可欠な基本的行動ができるかを評価することを目的とし、例えば、「ラジオ体操をやる」、「足踏みを20回する」などのイベントが考えられる。
【0023】
自由参加イベントは、娯楽性を高めることを目的とし、例えば、「皆で歌を唄う」、「皆でラジオ体操をやる」などのイベントが考えられる。
【0024】
第1表示部10は、評価イベントが記載された5個のイベントマス16,18,20,22を有する。2個のイベントマス16は、第4分類(理解・判断力)に属する評価イベントである「クイズに答える」と記載されている。「クイズに答える」との評価イベントにおいてプレイヤは、予め用意されたカード集(図示しない)から1枚のカードを選択し、当該カードに記載されているクイズに答える。クイズの内容は、第1分類(見当識)、第2分類(記憶力、短期記憶・長期記憶)、第7分類(失認)の評価イベントに含まれる質問を用いるのが好ましい。カードは、表面にクイズが記載されており、裏面に当該クイズの解説を記載してもよい。
【0025】
イベントマス18、20は、第2分類(記憶力、即時記憶)に属する評価イベントであり、「『あいうえお』を反対から言う」、「早口言葉を3回言う」とそれぞれ記載されている。イベントマス22は、第6分類(失行)に属する評価イベントであり、「洗面台で手を洗う」と記載されている。
【0026】
第1表示部10は、動作イベントが記載された3個のイベントマス24,26,28を含み、「ラジオ体操を皆でやる」、「足踏みを20回する」、「テラスに行き深呼吸をする」とそれぞれ記載されている。イベントマス24(「ラジオ体操を皆でやる」)は、動作イベントと、自由参加イベントを兼ねる。
【0027】
第1表示部10は、評価イベント、動作イベント、自由参加イベント以外にも、娯楽性を向上する他のイベント、例えば、「『むすんでひらいて』の歌に合わせて手を動かす」、「ことわざを一つ」、「ビリの人の指示に従う」などのイベントが記載されたイベントマスや、「スタートに戻る」、「3コマ戻る」、「1回休み」などの通常マスを含む。
【0028】
図2に示す第2表示部32の表面は、開始地点34と、ゴール地点36と、複数のマスと、開始地点34から出発し複数のマスを経由してゴール地点36にたどり着くまでの経路35とが描かれている。開始地点34は、第2表示部32の左上に描かれている。経路35は、開始地点34から右へ進み、左右へ折り返しながら、第2表示部32の左下に描かれているゴール地点36へ繋がっている。
【0029】
第2表示部32は、評価イベントが記載された3個の上記イベントマス16と1個のイベントマス38を有する。イベントマス38は、第5分類(失語)に属する評価イベントであり、「魚の名前を5つ言う」と記載されている。
【0030】
第2表示部32は、自由参加イベントが記載されたイベントマス33(「皆で口笛を吹く」)、34(「皆で歌を唄う」)、37(「スタッフが皆にジュースをごちそうする」)及び39(「皆で『武田節』を唄う」)と、動作イベント40(「足首を回す」)とを含む。
【0031】
第2表示部32は、他にも、「掛け算の九九『5の段』をいう」などのイベントが記載されたイベントマスや、「スタートに戻る」の通常マスを含む。
【0032】
図3に示す中間表示部42の表面は、中間開始地点44と、中間終点46と、複数のマスと、中間開始地点44から出発し複数のマスを経由して中間終点46にたどり着くまでの経路47とが描かれている。中間開始地点44は、中間表示部42の左上に描かれている。経路47は、中間開始地点44から右へ進み、左右へ折り返しながら、中間表示部42の左下に描かれている中間終点46へ繋がっている。経路47は、中間終点46の先において、中間表示部42の下方向を指している。
【0033】
中間表示部42は、評価イベントが記載された5個の上記イベントマス16、上記イベントマス20、及びイベントマス48,51,52を有する。
【0034】
イベントマス48は、第3分類(実行機能)に属する評価イベントであり、「ゴールの1コマ手前に行く」と記載されている。本実施形態の場合、ゴールの1コマ手前の通常マス41(図2)には「スタートに戻る」と記載されている。したがって「ゴールの1コマ手前に行く」と記載された評価イベントにおいて、プレイヤはスタートに戻る必要がある。このように「ゴールの1コマ手前に行く」との評価イベントでは、ゲームの進め方が理解できているか、を評価することができる。
【0035】
イベントマス51は第5分類(失語)に属する評価イベントであり、「『あ』から始まる言葉を3つ言う」と記載されている。イベントマス52は、第4分類(理解・判断力)に属する評価イベントであり、「1回休みお茶を飲む」と記載されている。
【0036】
中間表示部42は、自由参加イベントが記載されたイベントマス43「1番の人の好きな歌を皆で唄う」、45「皆で足を5回蹴り上げる」を含む。イベントマス45(「皆で足を5回蹴り上げる」)は、動作イベントと自由参加イベントを兼ねる。
【0037】
中間表示部42は、他にも、「『ほうとう』に入っている『具』といえば」、「犬の鳴き真似をする」、「ペンギンの真似をする」などのイベントが記載されたイベントマスや、「9コマ戻る」の通常マスを含む。
【0038】
中間表示部42の中間終点46は、「ことわざを一つ言う」というイベントが、あえて小さい文字で記載されている。中間終点46は、イベントが小さい文字で記載されているので、視力を評価することができる。
【0039】
中間表示部42が複数ある場合、それぞれの中間表示部42の表面に描かれた通常マス、イベントマスの配置及び内容は、同じでも異なっていてもよい。
【0040】
上記のように第1表示部、第2表示部、及び中間表示部には、通常マス、イベントマスがランダムに配置されている。さらにイベントマスは、評価イベント、動作イベント、自由参加イベントがランダムに記載されると共に、内容も適宜選択可能である。自由参加イベントは、評価イベント及び動作イベントに組み合わされてもよい。
【0041】
図4に示す評価シート53は、紙に、被験者名記入欄55、評価欄57、評価記入欄68が印刷されている。評価欄57は、第1分類評価欄54、第2分類評価欄56、第3分類評価欄58、第4分類評価欄60、第5分類評価欄62、第6分類評価欄64、第7分類評価欄66を含む。各評価欄の背景は、各表示部における評価イベントが記載されたイベントマスの背景と、同じであるのが好ましい。この場合の背景は、模様や色を含む。例えば、第3分類評価欄58の背景は、第3分類に属する評価イベントが記載されたイベントマス48(図3)と同じ模様が施され、第4分類評価欄60の背景は、第4分類に属する評価イベントが記載されたイベントマス16(図1図2図3)と同じ模様が施され、第5分類、第6分類についても、評価欄と、対応するイベントマスの背景が同じ模様が施されていてもよい。
【0042】
各評価欄は、複数の評価項目を含む。本図の場合、第1分類評価欄54には、「今日は何月何日?」、「今、何歳ですか?」などを含む6個の評価項目が記載されている。
【0043】
第2分類評価欄56は、即時記憶欄、短期記憶欄、長期記憶欄に分かれている。即時記憶欄には、「『あいうえお』を反対から言う」、「早口言葉を言う」の2個の評価項目が記載されている。短記憶欄には、「今サイコロの出た目の数はいくつでした?」、「今日の朝ご飯は何を食べましたか?」などを含む5個の評価項目が記載されている。長期記憶欄には、「富士花鳥園に行ったことはありますか?」、「去年の納涼祭で浴衣は着ましたか?」などを含む3個の評価項目が記載されている。
【0044】
第3分類評価欄58には、「★ゲームの順番が理解できている」、「★サイコロを振り出た目の数だけコマを動かす事ができる」、「ゴールの1コマ手前に行く」などを含む4個の評価項目が記載されている。
【0045】
第4分類評価欄60には、「★ゲームの進め方が理解できず混乱している」、「★クイズにすぐ答える事ができる」、「お茶を飲むように促しても飲まない」などを含む4個の評価項目が記載されている。
【0046】
第5分類評価欄62には、「果物の名前を4つ言う」、「文房具の名前を3つ言う」などを含む8個の評価項目が記載されている。
【0047】
第6分類評価欄64には、「箸で豆を10粒お椀に移しましょう」、「皆で針に糸を通してみましょう」などを含む3個の評価項目が記載されている。
【0048】
第7分類評価欄66には、「青 この字の色は何色?」、「赤 この字は何と読む?」などを含む4個の評価項目が記載されている。
【0049】
評価項目は、評価イベント、クイズの内容に限定されない。例えば、図4に示す評価シートにおいて★印が付された評価項目(「ゲームの順番が理解できている」、「クイズにすぐ答えることができる」、「他者と会話のキャッチボールをする様子が見られる」、「文字を読むことができる」、「文字を書くことができる」)は、評価イベント及びクイズには含まれていない。
【0050】
本図に示す評価シート53は、39個の評価項目を含む。評価項目は、上から順番に番号が付けられている。第1、第2、第7分類評価欄54,56,66に属する評価項目は、上記カード集(図示しない)に記載された質問と同じである。なお、評価項目は、表示部に記載する評価イベント、及びクイズの内容に応じて、適宜変更することができる。
【0051】
評価記入欄68は、評価日毎に、評価項目に対応して結果記入欄及び特記有無記入欄を有する。結果記入欄には、例えば、「○」、「△」又は「×」のいずれかの結果を記入する。「○」は、イベントに対応することができ、答え、行動があっているときの結果である。「△」は、担当者や他のプレイヤの助けにより対応することができたときの結果である。「×」は、イベントに対応することができず、答え、行動があっていないときの結果である。
【0052】
認知症評価システムは、動作イベントの評価欄を有していてもよい(図示しない)。動作イベントの評価欄の背景は、表示部における動作イベントが記載されたイベントマスの背景と、同じであるのが好ましい。動作イベント評価欄には、「ラジオ体操を皆でやる」、「足踏みを20回する」など、各表示部の内容に合わせて評価項目を記載する。さらに認知症評価システムは、所見記入シートを有していてもよい。所見記入シートは、上記評価結果以外に、被評価者の様子について気付いた事柄を記録するためのシートである。所見記入シートは、日付記入欄、評価項目に付された番号を記入する番号記入欄、所見記入欄とを有する。
【0053】
(使用方法及び効果)
次に上記のように構成された認知症評価システムの使用方法について説明する。本認知症評価システムは、双六式のゲームをしながら認知症の中核症状の評価を行うことができ、複数のプレイヤと、ゲームの進行及び認知症の評価をする担当者で行う。担当者は、プレイヤの中から被評価者を1人決める。担当者は、本ゲームが認知症の評価を兼ねていること、被評価者がどのプレイヤであるかを、被評価者本人及び他のプレイヤにも知らせない。被評価者を1人に決めるのは、ゲームの進行を進めながら複数の被評価者を評価することが困難だからである。したがって複数のプレイヤを評価することが困難ではない場合、例えば、ゲームの進行役とは別に評価者がいる場合は、複数又は全員のプレイヤを被評価者としてもよい。
【0054】
まずプレイヤは、プレイヤを現す駒(図示しない)に記名する。駒は、例えば、名前を書いた紙片と、当該紙片を挟んだ洗濯バサミとを有する。なお、名前を書くことは、第5分類(失語)に属する評価イベントであり、図4における32番目の評価項目「文字を書くことができる」に該当する。担当者は、被評価者が、自分の駒に名前を書く様子を見て評価し、該当する結果記入欄に「○」、「△」又は「×」を記入する。
【0055】
次いで、各プレイヤは、順にサイコロを振り、サイコロの目にしたがって、自分の駒を進める。その結果、駒がいずれかのイベントマスに止まると、プレイヤは、イベントマスに記載されているイベントを行う。
【0056】
例えば、イベントマス16では、プレイヤが、カード集(図示しない)から1枚のカードを選択し、当該カードに記載されているクイズに答える。この際、カードに記載されたクイズは、プレイヤ自身が読み上げる。なお、字を読むことは、第5分類(失語)に属する評価イベントである。担当者は、被評価者が、クイズを読み上げる様子を見て評価し、図4における31番目の評価項目「字を読むことができる」の結果記入欄に結果を記入する。
【0057】
また担当者は、被評価者がクイズに答えられたか否かの結果に基づき評価し、図4における22番目の評価項目「クイズにすぐ答える事ができる」の結果記入欄に結果を記入する。22番目の評価項目が含まれる第4分類評価欄60の背景は、表示部におけるイベントマス16の背景と同じであるので、担当者が結果記入欄を容易に見つけることができる。
【0058】
さらに担当者は、クイズの内容に応じ、第1、第2、第7分類評価欄66の該当する結果記入欄に結果を記入する。クイズが記載されたカードの背景は、クイズの内容が属する分類の評価欄の背景と同じであるので、担当者が結果記入欄を容易に見つけることができる。
【0059】
上記のように、イベントマス16では、図4における31番目の評価項目「字を読むことができる」、22番目の評価項目「クイズにすぐ答える事ができる」、クイズの内容に応じた第1、第2、第7分類のいずれかの評価項目からなる3種類の評価をすることができる。
【0060】
イベントマス20では、プレイヤが、早口言葉を書いたカード集(図示しない)から1枚のカードを選択し、当該カードに記載されている早口言葉を3回言う。担当者は、被評価者が、早口言葉を3回言う様子を見て評価し、図4における8番目の評価項目「早口言葉を3回言う」の結果記入欄に結果を記入する。
【0061】
上記のようなイベントに対応した後、順番が次のプレイヤに移り、同様にサイコロを振り、駒を進めていく。以上の流れを繰り返して、各プレイヤは、ゴール地点36を目指す。
【0062】
認知症評価システムの表示部は、評価イベント、動作イベントだけでなく、娯楽性を高める他のイベントや、通常マスを含むので、プレイヤがゲームとして楽しみながら、認知症の中核症状の評価を行うことができる。認知症評価システムは、ゲームを通じて種々のイベントが用意されているので、認知症患者の認知症の程度をより的確に評価することができる。
【0063】
また認知症評価システムは、被評価者が、ゲームの目的が認知症の程度を評価することであること、及び自分が評価されていることを意識せずに、ゲームに参加することができるので、被評価者に心理的な負担をかけずに認知症の評価をすることができる。
【0064】
担当者は、ゲームの進行をしながら、被評価者を評価する。評価の際、担当者は、被評価者の行動に気になった点があった場合は、その都度、評価項目に該当する特記有無記入欄に印を記入する。担当者は、印のある特記有無記入欄に基づき、ゲーム終了後、所見記入シート(図示しない)に、評価項目の番号と、気になった点の詳細とを記入する。評価シート53において評価項目に番号が付けられていることにより、評価シート53の評価項目と、所見記入シートの特記事項とを容易に関連付けることができる。
【0065】
担当者は、ゲームの進行状況を見ながら、中間表示部42を使うか否か、使う場合には2以上使うかを適宜決めることができる。第1表示部10、第2表示部32、中間表示部42は、いずれも左上から左下へ進む経路12を有するので、中間表示部42を使用しても使用しなくてもプレイヤに違和感を与えずにゲーム時間を調整することができる。
【0066】
2.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0067】
上記実施形態の場合、サイコロを振り、サイコロの出た目の数にしたがって駒を進める場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、サイコロに換えて、番号が記載された札を用いてもよい。またサイコロと番号が記載された札を組み合わせて、サイコロの出た目と、札の番号の合計の数にしたがって、駒を進めることとしてもよい。
【0068】
上記実施形態の場合、表示部は、紙やプラスチックなどの媒体に絵が印刷された双六のボードである場合について説明したが、本発明はこれに限らない。認知症評価システムは、図5に示すゲーム機70を備えることとしてもよい。ゲーム機70は、制御部72、記憶部74、表示部76、操作部78を有し、それらがバス80を介して接続されている。
【0069】
制御部72は、予め格納されている基本プログラムやゲームプログラムなどの各種プログラムを読み出して、これら各種プログラムに従ってゲーム機70全体を制御する。記憶部74は、ゲームを動作させるためのプログラム、プログラムを実行する際に用いられるクイズやことわざなどの各種データを格納している。記憶部74は、DVD等の記憶媒体でもよいし、図示しない通信インターフェースを介してネットワークからダウンロードし記憶するローカルディスクでもよい。表示部76は、例えば液晶表示装置を用いることができ、上記第1表示部10、第2表示部32及び中間表示部42の表面と同様の画像を表示する。操作部78は、コントローラ、キーボード、ポインティング・デバイスなどを用いることができる。
【0070】
まず制御部72は、表示部76にゲーム設定画面を表示する。そしてプレイヤは、表示部76に表示された駒に、操作部78を用いて記名する。記名には、ポインティング・デバイスとしてペンタブレットを用いるとよい。次いで、制御部72は、上記実施形態の表示部の表面と同様の画像を表示する。各プレイヤは、操作部78を用いて表示部76上で、順にサイコロを振る。制御部72は、操作部78からの入力に応じ、サイコロのいずれかの目を表示部76に表示する。プレイヤは、サイコロの目にしたがって、操作部78を用いて表示部76上で、自分の駒を進める。その結果、駒がいずれかのイベントマスに止まると、プレイヤは、イベントマスに記載されているイベントを行う。
【0071】
例えば、イベントマス16では、制御部72が複数のカードを表示部76に表示する。プレイヤが、操作部78を用いて1枚のカードを選択すると、制御部72は当該カードのクイズを記憶部74から読み出して表示部76に表示する。
【0072】
本変形例の場合、上記表示部76の表面と同様の画像を表示する表示部76を備えるので、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
また上記実施形態の場合、評価シート53は、紙に、被験者名記入欄、評価欄、評価記入欄が印刷されている場合について説明したが、本発明はこれに限らない。前記表示部76とは別の、例えば携帯端末が備える表示画面に評価シート53を表示することとしてもよい。この場合、携帯端末は、上記ゲーム機70から出力される信号に基づいて、被評価者の評価シート53を表示画面に表示する。さらに携帯端末は、被評価者の駒が止まったイベントマスに記載された評価イベントに対応した信号をゲーム機70から受け取り、当該評価イベントに応じた評価項目を携帯端末の表示画面に表示させることとしてもよい。このように被評価者ごとに、イベントマスに応じた評価項目を携帯端末に表示させることにより、担当者が結果を入力する負担を軽減することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 第1表示部(表示部)
12 経路
14 スタート地点
16,18,20,22,33,38,43,45,48,51,52 イベントマス
32 第2表示部(表示部)
36 ゴール地点
42 中間表示部(表示部)
53 評価シート
57 評価欄
【要約】
【課題】認知症患者の認知症の程度をより的確に評価することができる認知症評価システムを提供する。
【解決手段】複数のマスによって形成された経路12を有し、駒を移動させることによって進行するボードゲーム用の表示部10を備え、前記マスは、前記駒が止まったときにプレイヤが実行するイベントを示すイベントマス16,18,20を少なくとも1つ以上有し、前記イベントは、認知症の中核症状を評価する評価イベントを含むことを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5