特許第6208843号(P6208843)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6208843太陽電池パネルの検査装置、及び太陽電池パネルの検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6208843
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】太陽電池パネルの検査装置、及び太陽電池パネルの検査方法
(51)【国際特許分類】
   H02S 50/15 20140101AFI20170925BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20170925BHJP
   G01M 11/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H02S50/15
   G01N21/88 Z
   G01M11/00 T
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-250931(P2016-250931)
(22)【出願日】2016年12月26日
【審査請求日】2016年12月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593207765
【氏名又は名称】株式会社アイテス
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】高野 和美
(72)【発明者】
【氏名】柴田 千代美
(72)【発明者】
【氏名】戸田 祐介
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−527863(JP,A)
【文献】 実開昭63−073955(JP,U)
【文献】 欧州特許出願公開第02421052(EP,A1)
【文献】 特開2015−043395(JP,A)
【文献】 特開2015−228724(JP,A)
【文献】 特開2012−238716(JP,A)
【文献】 特開2016−208705(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/087390(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02S 10/00−99/00
G01R 31/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロルミネッセンス(EL)を利用した太陽電池パネルの検査装置であって、
前記太陽電池パネルに交流を印加するための交流電力を発生する交流電源と、
前記太陽電池パネルの表面を撮影するカメラと、
を備え、
前記交流電力は、前記太陽電池パネルにEL発光を誘起させる交流のインピーダンスが1kΩ以上となるように設定され、前記交流の印加により、前記太陽電池パネルの発電回路に順方向の電流が流れ、前記太陽電池パネルの発電回路と並列に接続されたバイパスダイオードに逆方向の電流が流れることで、前記太陽電池パネルに順方向の電流及び逆方向の電流が交互に流れるように構成されている太陽電池パネルの検査装置。
【請求項2】
前記交流のインピーダンスが3kΩ以上となるように設定されている請求項1に記載の太陽電池パネルの検査装置。
【請求項3】
前記交流電源は、出力が100V又は200Vの交流電力を発生する交流発電機である請求項1又は2に記載の太陽電池パネルの検査装置。
【請求項4】
順方向の電流を通過させる第一LEDと、逆方向の電流を通過させる第二LEDとが並列に接続されてなる回路検査部をさらに備え、
前記太陽電池パネルの検査時において、前記交流電源と前記回路検査部との間に検査対象の太陽電池パネルを配置するように構成されている請求項1〜3の何れか一項に記載の太陽電池パネルの検査装置。
【請求項5】
前記太陽電池パネルは、太陽電池セルが複数接続された太陽電池モジュールである請求項1〜4の何れか一項に記載の太陽電池パネルの検査装置。
【請求項6】
前記太陽電池パネルは、単結晶シリコン型太陽電池、多結晶シリコン型太陽電池、又はCIGS{銅(Copper)−インジウム(Indium)−ガリウム(Gallium)−セレン(Selenium)}系化合物太陽電池である請求項1〜5の何れか一項に記載の太陽電池パネルの検査装置。
【請求項7】
エレクトロルミネッセンス(EL)を利用した太陽電池パネルの検査方法であって、
前記太陽電池パネルに交流を印加する電流印加工程と、
前記太陽電池パネルの表面を撮影する撮影工程と、
を備え、
前記電流印加工程において、前記太陽電池パネルにEL発光を誘起させる交流のインピーダンスを1kΩ以上に設定し、前記交流の印加により、前記太陽電池パネルの発電回路に順方向の電流が流れ、前記太陽電池パネルの発電回路と並列に接続されたバイパスダイオードに逆方向の電流が流れることで、前記太陽電池パネルに順方向の電流及び逆方向の電流が交互に流れる太陽電池パネルの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス(EL)を利用した太陽電池パネルの検査装置、及び太陽電池パネルの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮したクリーンなエネルギーへの関心の高まりから、エネルギー源が無尽蔵に存在する太陽光を利用した太陽光発電が注目されている。太陽光発電によって長期的に安定したエネルギーを供給するためには、発電に使用する太陽電池パネルに不具合が生じていないかを定期的に検査する必要がある。
【0003】
太陽電池パネルの検査では、通常、「クラック(マイクロクラックを含む)」や「断線」等の欠陥の有無の確認が行われる。太陽電池パネルにおける欠陥の有無の検査を行う方法の一つに、エレクトロルミネッセンス(EL)を利用したEL検査法が知られている。一般に、半導体に所定のエネルギーを与えると、半導体中の励起された電子が基底状態に遷移する際に光が発生する。ここで、上記の所定のエネルギーを電気エネルギーによって与える方法をエレクトロルミネッセンス(EL)という。太陽電池パネルのEL検査においては、半導体である太陽電池セルに禁制帯幅以上のエネルギーを持つ電流を印加すると、半導体中に電子と正孔が生成され、これらが再結合する際に発光する。このとき、半導体結晶中に欠陥や不純物が存在すると、これらの欠陥等は電気エネルギーを与えたときに形成される電子と正孔との再結合過程に影響を及ぼし、半導体結晶は正常な結晶よりも小さい強度のエネルギーの光(EL光)を放出する。この現象を利用し、EL発光によって得られた情報から太陽電池パネルの欠陥を検知することができる。
【0004】
通常、太陽電池パネルは、太陽光を効率よく利用するために陰の影響の少ない場所に設置される。例えば、建物に太陽電池パネルを設置する場合、屋上等の高所に設置される。また、自動車等の乗り物に太陽電池パネルを設置する場合は、ルーフやボンネットの上に設置される。太陽電池パネルは、一度設置されると取り外すことが想定されていないため、現場で迅速且つ簡便に検査を行えることが望まれている。
【0005】
これまで、本出願人は、太陽電池パネルの検査装置として、撮影画像の補正機能を備えたEL検査装置を開発した(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の太陽電池パネルの検査装置は、主に最近の大型化した太陽電池パネルを検査するために開発したものであり、そのための構成として、太陽電池パネルにEL発光を誘起させる直流電源と、太陽電池パネルの検査面全体を一括撮影可能な短焦点広角レンズを有するカメラとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/152445号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の太陽電池パネルのEL検査装置は、太陽電池パネルをインライン方式で連続的に検査することを想定したものである。すなわち、この検査装置は、出荷前の太陽電池パネルを暗室内でEL方式により連続検査するものである。そのため、EL検査を行うにあたって、太陽電池パネルの欠陥を高精度で発見できるように、強力なEL発光が誘起される検査条件が望ましい。また、特許文献1のように、検査室で太陽電池パネルの検査を行う場合、事前に検査環境を整えることができるため、検査を実施する際に設備面で制約を受けることは少ない。ちなみに、特許文献1では、検査対象の太陽電池パネルにEL発光を誘起させるための電源として直流電源が使用されており、これはEL検査装置の専用設備として設けられるものである。
【0008】
これに対し、屋外に既に設置されている太陽電池パネルの検査では、出荷前の製品の検査程の高精度の検査は必要でない場合もあり、むしろ、迅速且つ簡便に検査を実施できることが求められている。しかしながら、屋外の太陽電池パネルの検査は、常に同じ条件や環境で実施できるわけではなく、インフラが整備されていない環境や、過酷な状況下での検査が強いられることもある。とりわけ、EL方式による検査では、現場において電源等の検査に必要な設備の確保が重要課題となっており、どのような状況でも迅速且つ簡便に利用できるEL検査装置が望まれている。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、屋外等において迅速且つ簡便に利用できる太陽電池パネルのEL検査装置、及び太陽電池パネルのEL検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る太陽電池パネルの検査装置の特徴構成は、
エレクトロルミネッセンス(EL)を利用した太陽電池パネルの検査装置であって、
前記太陽電池パネルに交流を印加するための交流電力を発生する交流電源と、
前記太陽電池パネルの表面を撮影するカメラと、
を備え、
前記交流電力は、前記太陽電池パネルにEL発光を誘起させる交流のインピーダンスが1kΩ以上となるように設定されていることにある。
【0011】
太陽電池パネルは、それ自体が半導体製品であり、特定の方向の電流のみが通過できるように構成されている。また、太陽電池パネルには、異常時に発生し得る発熱等を防止するため、バイパスダイオードが接続されている。通常、バイパスダイオードには電流は流れないが、例えば、太陽電池パネルのバスバーのハンダ付けがはがれるなどして高抵抗化すると、電流はインターコネクタからバイパスダイオード回路の方に迂回し、太陽電池パネルの配線の過熱が防止されるようになっている。
本構成の太陽電池パネルの検査装置によれば、太陽電池パネルに交流を印加して検査を行うものであるため、交流電源として商用電源を利用することができる。その際に交流電源が発生する交流電力は、太陽電池パネルにEL発光を誘起させる交流のインピーダンスが1kΩ以上となるように設定されているため、特定の方向に流れる電流によって太陽電池パネルの検査に必要な程度のEL発光を誘起させることができる。このような商用電源を利用できる本構成の太陽電池パネルの検査装置は、利便性に優れているため、屋外に既に設置されている太陽電池パネルについて、迅速且つ簡便に検査を行うことができる。
【0012】
本発明に係る太陽電池パネルの検査装置において、
前記交流のインピーダンスが3kΩ以上となるように設定されていることが好ましい。
【0013】
本構成の太陽電池パネルの検査装置によれば、太陽電池パネルにEL発光を誘起させる交流のインピーダンスが3kΩ以上となるように設定されているため、発電回路に逆向きの半波が流れることが確実に防止しつつ、特定の方向に流れる電流によって太陽電池パネルの検査に十分なEL発光を誘起させることができる。
【0014】
本発明に係る太陽電池パネルの検査装置において、
前記交流電源は、出力が100V又は200Vの交流電力を発生する交流発電機であることが好ましい。
【0015】
本構成の太陽電池パネルの検査装置によれば、交流電源として出力が100V又は200Vの交流電力を発生する交流発電機を用いることで、一般家庭用の電源(商用電源)と同じ電力が供給可能となる。従って、通常のコンセントがあれば、どのような場所であっても、迅速且つ簡便に検査を行うことができる。
【0016】
本発明に係る太陽電池パネルの検査装置において、
順方向の電流を通過させる第一LEDと、逆方向の電流を通過させる第二LEDとが並列に接続されてなる回路検査部をさらに備え、
前記太陽電池パネルの検査時において、前記交流電源と前記回路検査部との間に検査対象の太陽電池パネルを配置するように構成されていることが好ましい。
【0017】
本構成の太陽電池パネルの検査装置によれば、順方向の電流を通過させる第一LEDと、逆方向の電流を通過させる第二LEDとが並列に接続されてなる回路検査部を使用し、交流電源と回路検査部との間に検査対象の太陽電池パネルを配置することで、太陽電池パネルの状態(正常/故障)が第一LED及び第二LEDの点灯状態に反映されるため、異常発生箇所を特定することができ、その結果、迅速且つ簡便に検査できることに加えて、より正確な検査結果を得ることができる。
【0018】
本発明に係る太陽電池パネルの検査装置において、
前記太陽電池パネルは、太陽電池セルが複数接続された太陽電池モジュールであることが好ましい。
【0019】
本構成の太陽電池パネルの検査装置によれば、通常、太陽電池パネルは複数のセルが接続された太陽電池モジュールとして製品化されているため、販売されている殆どのタイプの太陽電池パネルについて検査を行うことができる。
【0020】
本発明に係る太陽電池パネルの検査装置において、
前記太陽電池パネルは、単結晶シリコン型太陽電池、多結晶シリコン型太陽電池、又はCIGS{銅(Copper)−インジウム(Indium)−ガリウム(Gallium)−セレン(Selenium)}系化合物太陽電池であることが好ましい。
【0021】
本構成の太陽電池パネルの検査装置によれば、上述の各種タイプの太陽電池パネルの検査に対応することができる。
【0022】
上記課題を解決するための本発明に係る太陽電池パネルの検査方法の特徴構成は、
エレクトロルミネッセンス(EL)を利用した太陽電池パネルの検査方法であって、
前記太陽電池パネルに交流を印加する電流印加工程と、
前記太陽電池パネルの表面を撮影する撮影工程と、
を備え、
前記電流印加工程において、前記太陽電池パネルにEL発光を誘起させる交流のインピーダンスを1kΩ以上に設定することにある。
【0023】
本構成の太陽電池パネルの検査方法によれば、上述の太陽電池パネルの検査装置と同様の優れた作用効果を奏することができる。すなわち、太陽電池パネルに交流を印加する際、そのインピーダンスが1kΩ以上となるように設定されているため、特定の方向に流れる電流によって太陽電池パネルの検査に必要な程度のEL発光を誘起させることができる。そして、このような検査方法によれば、商用の電源を利用できるため、利便性に優れており、屋外に既に設置されている太陽電池パネルについて、迅速且つ簡便に検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係る太陽電池パネルの検査装置の説明図である。
図2図2は、太陽電池パネルに関する説明図である。
図3図3は、太陽電池パネルの検査に関する説明図である。
図4図4は、各種の太陽電池パネルに交流を印加したときに計測されるインピーダンスと周波数との関係を示すグラフである。
図5図5は、本発明の第二実施形態に係る太陽電池パネルの検査装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の太陽電池パネルの検査装置に関する実施形態を、図1図5に基づいて説明する。本発明の太陽電池パネルの検査方法については、太陽電池パネルの検査装置の中であわせて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0026】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る太陽電池パネルの検査装置(以下、単に「検査装置」と称する。)100の説明図である。検査装置100は、半導体に電気エネルギーを付与したときに発生するエレクトロルミネッセンス(EL)を利用して太陽電池パネルMを検査するものである。太陽電池パネルMは、一般に、太陽電池セルSが複数接続された太陽電池モジュールとして構成される。本発明の検査装置100は、例えば、48〜72枚の太陽電池セルが直列に接続された太陽電池モジュールとしての太陽電池パネルの検査に使用可能であるが、特に、60枚又は72枚の太陽電池セルからなる太陽電池パネルの検査に好適である。検査対象の太陽電池パネルMとしては、例えば、単結晶シリコン型太陽電池、多結晶シリコン型太陽電池、CIGS{銅(Copper)−インジウム(Indium)−ガリウム(Gallium)−セレン(Selenium)}系化合物太陽電池等が挙げられる。
【0027】
本発明の検査装置100は、太陽電池パネルMに交流を印加するための交流電力を発生する交流電源10と、太陽電池パネルMの表面を撮影するカメラ20とを備える。交流電源10により、太陽電池パネルに交流を印加する電流印加工程が実施され、カメラ20により、太陽電池パネルの表面を撮影する撮影工程が実施される。
【0028】
本発明の検査装置100は、上述の特許文献1に例示される従来のEL検査装置とは異なり、電源に交流電源10を使用することに大きな特徴がある。交流電源10としては、商用電源の他に、交流発電機を使用することが可能である。交流発電機の種類や性能等については特に限定されないが、汎用性、コスト、入手可能性の点において、出力が100V又は200Vの交流電力を発生する交流発電機が好ましい。このような交流発電機であれば、商用電源と同じ交流電力(50Hz又は60Hz)を発生することができる。すなわち、交流発電機を用いることで、一般家庭用の電源(商用電源)と同じ電力が供給可能となるため、通常のコンセントがあれば、どのような場所であっても、迅速且つ簡便に太陽電池パネルMの検査を行うことができる。
【0029】
ここで、太陽電池パネルMのEL検査を実施するにあたり、検査に必要な程度のEL発光を太陽電池パネルMに誘起させるためには、検査対象の太陽電池パネルMに応じて、交流電源10から太陽電池パネルMに印加する交流の周波数とインピーダンスとの関係を把握しておく必要がある。そこで、上記関係について、以下の考察を行った。
【0030】
図2は、太陽電池パネルMに関する説明図である。図2(a)は、太陽電池パネルMの概略構成図である。上述のように、太陽電池パネルMは複数のセルSが直列に接続された太陽電池モジュールとして構成され、太陽電池パネルMどうしも所望の枚数が直列に接続される。図2(a)では4枚の太陽電池パネルMを例示している。夫々の太陽電池パネルMを構成するセルSは、負の電荷を有する電子を多く含むn型半導体と、正の電荷を有するホールを多く含むp型半導体とが接合されたものである。ホールがn型半導体に入ると電子と結合する。これと同様に、電子がp型半導体に入るとホールと結合する。このように、n型半導体とp型半導体とが接合した際、接合面では電子もホールもない空乏層と呼ばれる領域が形成される。この空乏層には電界が生じており、空乏層に太陽光が入射すると光が半導体に吸収されて電子とホールが生じ、これらが電界で押し出されることにより外部回路へ電流として流れる。この一連の仕組みが発電である。太陽電池パネルMで生成された電流は直流であり、電気として利用するためには交流に変換する必要がある。図2(a)に示すように、太陽電池パネルMの各配線は接続箱1に集約されており、接続箱1はさらにパワーコンディショナー2に接続されている。太陽電池パネルMで発電された直流は、パワーコンディショナー2によって交流に変換され、工場、オフィス、住居等で電力として利用される。
【0031】
図2(b)は、太陽電池パネルMを構成する1枚のセルSにおける等価回路図である。太陽電池パネルM全体の構成は上記のとおりであるが、電気回路図で考えた場合、太陽電池パネルMを構成する1枚のセルSは、図2(b)に示すように定電流源(I成分)、並列ダイオード(D成分)、直列抵抗(Rs成分)、及び並列抵抗(Rsh成分)の組み合わせで表すことができる。太陽電池パネルMはセルSを直列に接続したモジュール構造をしているが、図2(b)に示す等価回路がセルSの枚数だけ直列に接続したものと考えることができる。従って、太陽電池モジュールの等価回路図は、直列抵抗等の各成分の値は変わるものの、セルSが1枚のときと同様に図2(b)の等価回路図として表すことができる。
【0032】
図3は、太陽電池パネルMの検査に関する説明図である。図3(a)は、太陽電池パネルMに交流を印加したときの交流波の流れを示す図である。図3(b)は、図3(a)から導かれる実質的な等価回路図である。上記のとおり、セルS内には空乏層が形成され電界が生じている。ここに交流を印加すると、交流波は空乏層を電荷が蓄えられるコンデンサとして捉えるため、図3(a)に示すように、等価回路図には容量性リアクタンス(C成分)を表記することができる。そして、図3(a)中の矢印で示すように、交流波は並列抵抗(Rsh成分)を通らず、電気容量の大きいコンデンサを通る。つまり、太陽電池パネルMの発電回路は、一種のダイオードとして機能し、図3(a)において、実線で示してある部分の誘導性リアクタンス(L成分)、直列抵抗(Rs成分)、及び容量性リアクタンス(C成分)を通ることとなる。従って、図3(b)に示すように、太陽電池パネルMに交流波を入力した場合の等価回路図は、実質的には直列抵抗(Rs成分)と誘導性リアクタンス(L成分)と容量性リアクタンス(C成分)とで表される等価回路図となる。
【0033】
図3(b)のような等価回路図で表されるとき、Zをインピーダンス(Ω)、Rを抵抗(Ω)、ωを角周波数(rad/s)とすると、次の式(1)が成り立つ。
【0034】
【数1】
【0035】
式(1)において、角周波数ωは次の式(2)を意味する。
【0036】
【数2】
【0037】
式(1)において、インピーダンスZが一定以上であれば、太陽電池パネルMの発電回路にバイアス電流(逆向きの半波)が流れず、特定の方向に流れる電流(順方向の半波)によって太陽電池パネルMの検査に十分なEL発光を誘起させることができる。そのためには、ω(すなわち、周波数f)の値を太陽電池パネルMの種類に応じて適切に選択する必要がある。そこで、交流の周波数fを変更しながら式(1)及び式(2)により各種太陽電池パネルMのインピーダンスZを計測し、太陽電池パネルMに印加する交流の周波数fとインピーダンスZとの関係を明らかにした。
【0038】
図4は、各種の太陽電池パネルに交流を印加したときに計測されるインピーダンスZと周波数fとの関係を示すグラフである。図4では、(a)単結晶シリコン型太陽電池(6インチ、60セル)、(b)多結晶シリコン型太陽電池(6インチ、60セル)、(c)薄膜型CIGS系化合物太陽電池(ソーラーフロンティア株式会社製太陽電池モジュール 製品名:SF145−K)について、夫々の太陽電池パネルに印加する交流の周波数fを42Hzから5MHzまで変化させたときに計測されるインピーダンスZを示してある。(a)単結晶シリコン型太陽電池においては、交流の周波数が1000Hz以下であれば、交流のインピーダンスが1kΩ以上となった。この場合、太陽電池パネルMに検査に必要な程度のEL発光が誘起され、確実にEL検査を実施することができる。同様に、(b)多結晶シリコン型太陽電池においては、交流の周波数が1000Hz以下であることが望ましく、(c)薄膜型CIGS系化合物太陽電池においては、交流の周波数が20000Hz以下であることが望ましいことが判明した。なお、太陽電池パネルMの種類に関わらず、確実にEL検査を実施するためには、交流電源10から発生させる交流電力において、交流のインピーダンスが3kΩ以上となるように設定されていることが好ましい。この場合、太陽電池パネルMの発電回路に逆向きの半波が流れることが確実に防止され、特定の方向に流れる電流によって太陽電池パネルMの検査に十分なEL発光を誘起させることができる。
【0039】
交流電源10によって交流が印加された太陽電池パネルMは、図1に示すように、カメラ20を用いて検査面のEL発光状態が撮影される。なお、図1では、紙面の関係でカメラ20は太陽電池パネルMの側方に配置されているように描かれているが、実際にはカメラ20は太陽電池パネルMの正面に配置され、正面から太陽電池パネルMの表面全体を撮影可能である。カメラ20で撮影された太陽電池パネルMのEL発光画像は、予め撮影しておいた正常な太陽電池パネルMのEL発光画像と比較することで、クラックや断線等の欠陥を認識することができる。
【0040】
カメラ20は、EL発光の波長に感度を有するものであれば特に限定されないが、CCDセンサやCMOSセンサ等の受光素子を搭載したデジタルカメラを好適に利用することができる。カメラ20による太陽電池パネルMの撮影は、通常、検査員がカメラ20のシャッターを直接操作することにより実施されるが、カメラ20を無線LANやIEEE802.15.1(いわゆる、Bluetooth(登録商標))を介して携帯情報通信機器(スマートホン、タブレット端末等)と同期させ、当該携帯情報通信機器によってシャッター操作を行うことも可能である。また、検査対象の太陽電池パネル20が高所にある場合など、撮影環境が厳しい場合は、カメラ20を小型無人航空機(ドローン等)に搭載し、携帯情報通信機器とあわせて遠隔でシャッター操作を行うことも可能である。
【0041】
カメラ20は、画像処理機能を備えるものであってもよい。例えば、カメラ20で撮影された画像からノイズを含むバックグラウンド画像を差し引くことにより、ノイズが低減されたEL発光画像に加工することができる。このように、撮影された画像に対して適切な処理を施すことによって、太陽電池パネルMの検査面の欠陥の判定に利用可能な鮮明な処理画像を得ることができる。なお、カメラ20による撮影画像が鮮明である場合は、撮影画像の画像処理を特に実施する必要はない。従って、カメラ20の画像処理機能は、必要に応じて設ければよい任意の構成である。
【0042】
以上のように、第一実施形態の検査装置100によれば、交流電源10と、カメラ20とを備えることで、太陽電池パネルMを迅速且つ簡便に検査することができる。
【0043】
[第二実施形態]
図5は、本発明の第二実施形態に係る太陽電池パネルの検査装置(以下、単に「検査装置」と称する。)200の説明図である。検査装置200は、第一実施形態の検査装置100に発電回路又はバイパスダイオード回路を検査するための回路検査部30を追加したものである。従って、交流電源10及びカメラ20は、第一実施形態の検査装置100のものと同様であるため、これらの説明は省略する。
【0044】
回路検査部30は、トランスを介して、第一LED31と、第二LED32とを並列接続したものである。ここで、第一LED31及び第二LED32は、夫々の電流通過方向が互いに反対となるように配置されている。このように配置することで、第一LED31には、交流電源10から太陽電池パネルMの発電回路を通って再び交流電源10に戻って来る交流波(プラス電圧の半波)のみ通過することができる。一方、第二LED32には、交流電源10から太陽電池パネルMのバイパスダイオード回路を通って再び交流電源10に戻って来る交流波(マイナス電圧の半波)のみ通過することができる。
【0045】
太陽電池パネルMの検査を行う際には、図5に示すように、交流電源10と回路検査部30との間に検査対象の太陽電池パネルMが配置される。このような配置とすることで、太陽電池パネルMの状態(正常/故障)が回路検査部30の第一LED31及び第二LED32の点灯状態に反映されるため、異常発生箇所を特定することが可能となる。具体的には、以下の4通りの点灯パターンより、太陽電池パネルMの発電回路及びバイパスダイオード回路の状態を判定することができる。
【0046】
(1)第一LED:点灯/第二LED:点灯
この場合、第一LED31には、交流電源10から太陽電池パネルMの発電回路を通って再び交流電源10に戻って来る交流波(プラス電圧の半波)が通過していることになる。また、第二LED32には、交流電源10から太陽電池パネルMのバイパスダイオード回路を通って再び交流電源10に戻って来る交流波(マイナス電圧の半波)が通過していることになる。従って、第一LED31及び第二LED32の両方が点灯している場合は、太陽電池パネルMの発電回路及びバイパスダイオード回路が共に正常であると判断できる。
【0047】
(2)第一LED:点灯/第二LED:消灯
この場合、第一LED31には、交流電源10から太陽電池パネルMの発電回路を通って再び交流電源10に戻って来る交流波(プラス電圧の半波)が通過していることになる。一方、第二LED32には、交流電源10から太陽電池パネルMのバイパスダイオード回路を通って再び交流電源10に戻って来る交流波(マイナス電圧の半波)は通過していないことになる。従って、第一LED31が点灯し、第二LED32が消灯している場合は、太陽電池パネルMのバイパスダイオード回路が異常であると判断できる。
【0048】
(3)第一LED:消灯/第二LED:点灯
この場合、第一LED31には、交流電源10から太陽電池パネルMの発電回路を通って再び交流電源10に戻って来る交流波(プラス電圧の半波)は通過していないことになる。一方、第二LED32には、交流電源10から太陽電池パネルMのバイパスダイオード回路を通って再び交流電源10に戻って来る交流波(マイナス電圧の半波)が通過していることになる。従って、第一LED31が消灯し、第二LED32が点灯している場合は、太陽電池パネルMの発電回路が異常であると判断できる。
【0049】
(4)第一LED:消灯/第二LED:消灯
この場合、第一LED31及び第二LED32には、何れも交流電源10からの交流波が通過していないことになる。従って、第一LED31が消灯し、第二LED32が消灯している場合は、太陽電池パネルMのバイパスダイオード回路及び発電回路が共に異常であると判断できる。
【0050】
以上のように、第二実施形態の検査装置200によれば、交流電源10と、カメラ20と、検査回路部30とを備えることで、太陽電池パネルMを迅速且つ簡便に検査できることに加えて、太陽電池パネルMにおける異常発生箇所を正確に特定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の太陽電池パネルの検査装置、及び太陽電池パネルの検査方法は、太陽電池の検査に利用されるものであるが、エレクトロミネッセンス(EL)により検査可能な半導体であれば、太陽電池以外のデバイスの検査に利用することも可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 交流電源
20 カメラ
30 回路検査部
31 第一LED
32 第二LED
100 検査装置
200 検査装置
S 太陽電池セル
M 太陽電池パネル(太陽電池モジュール)
【要約】
【課題】屋外等において迅速且つ簡便に利用できる太陽電池パネルのEL検査装置を提供する。
【解決手段】エレクトロルミネッセンス(EL)を利用した太陽電池パネルMの検査装置100であって、太陽電池パネルMに交流を印加するための交流電力を発生する交流電源10と、太陽電池パネルMの表面を撮影するカメラ20と、を備え、交流電力は、太陽電池パネルにEL発光を誘起させる交流のインピーダンスが1kΩ以上となるように設定されている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5