特許第6208844号(P6208844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208844
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】測定対象物の形状輪郭を割り出す方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/00 20060101AFI20170925BHJP
   G01B 5/00 20060101ALI20170925BHJP
   G01B 21/20 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   G01B21/00 L
   G01B5/00 L
   G01B21/20 101
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-505710(P2016-505710)
(86)(22)【出願日】2013年4月2日
(65)【公表番号】特表2016-517957(P2016-517957A)
(43)【公表日】2016年6月20日
(86)【国際出願番号】EP2013056953
(87)【国際公開番号】WO2014161568
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2016年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】509052067
【氏名又は名称】カール ザイス インダストリエル メステクニーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト, ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ザーゲミュラー, ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ザイツ, ドミニク
【審査官】 ▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−084408(JP,A)
【文献】 特開2011−027616(JP,A)
【文献】 特開平08−114442(JP,A)
【文献】 特表2009−536325(JP,A)
【文献】 特開2005−300318(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第04027339(DE,A1)
【文献】 国際公開第2007/128444(WO,A1)
【文献】 特開2012−163366(JP,A)
【文献】 特開2011−135751(JP,A)
【文献】 特開昭60−238702(JP,A)
【文献】 特開2007−040822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00−21/32
G01B 5/00− 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物(30)の形状輪郭(43)を割り出す方法であって、該方法は、
加工品保持器と、測定素子(22)を備える測定ヘッド(20)と、前記測定ヘッド(20)が配置されたフレームとを有する座標測定機(10)を設けるステップであって、前記フレームは前記加工品保持器に対し第1の移動軸(Y)沿いに動かすことができる第1のフレーム部品(14)を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第2の移動軸(X)沿いに動かすことができる第2のフレーム部品(16)を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第3の移動軸(Z)沿いに動かすことができる第3のフレーム部品(18)を有し、前記加工品保持器はさらなる軸(36)周りに回転できる回転台(32)を有する、ステップと、
前記回転台(32)に前記測定対象物(30)を配置し、且つ前記第1、第2、および第3の移動軸(X、Y、Z)沿いの所定位置に前記測定素子(22)を含む前記測定ヘッド(20)を配置するステップと、
前記測定ヘッド(20)が前記測定素子(22)を用いて前記測定ヘッド(20)に対する前記測定対象物(30)上の測定点の空間位置を表す現在測定値を記録している間に前記回転台(32)を回転させるステップと、
前記測定値に基づいて前記形状輪郭(43)を割り出すステップとを備える測定対象物(30)の形状輪郭(43)を割り出す方法において、
前記加工品保持器に対する前記測定素子(22)の動きを可能にするため、前記測定素子(22)は少なくとも1つの流体軸受(48)を介して据え付けられ、自動測定工程内にて、前記測定ヘッド(20)が前記所定位置に配置された後であって、前記現在測定値の前記記録中に前記少なくとも1つの流体軸受(48)は停止されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第1および前記第2の移動軸(X、Y)は前記さらなる軸(36)に対し垂直な平面(52)にまたがり、前記第1のフレーム部品(14)は少なくとも1つの第1の流体軸受(48a)を介して据え付けられ、前記第2のフレーム部品(16)は少なくとも1つの第2の流体軸受(48b)を介して据え付けられ、前記少なくとも1つの第1の流体軸受と前記少なくとも1つの第2の流体軸受(48a、48b)は前記測定値の前記記録中に停止されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1および前記第2の移動軸(X、Y)は前記さらなる軸(36)に対し垂直な平面(52)にまたがり、前記第1のフレーム部品(14)は少なくとも1つの第1の流体軸受(48a)を介して据え付けられ、前記第2のフレーム部品(16)は少なくとも1つの第2の流体軸受(48b)を介して据え付けられ、前記少なくとも1つの第1の流体軸受(48a)は前記測定値の前記記録中に停止されるが、前記少なくとも1つの第2の流体軸受(48b)は前記測定値の前記記録中に作動し続けることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第3の移動軸(Z)は前記さらなる軸(36)に対し平行に延び、前記第3のフレーム部品(18)は少なくとも1つの第3の流体軸受(48c)を介して据え付けられ、前記少なくとも1つの第3の流体軸受(48c)は前記測定値の前記記録中に停止されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第3の移動軸(Z)は前記さらなる軸(36)に対し平行に延び、前記第3のフレーム部品(18)は少なくとも1つの第3の流体軸受(48c)を介して据え付けられ、前記少なくとも1つの第3の流体軸受(48c)は前記測定値の前記記録中に作動し続けることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記座標測定機(10)は前記加工品保持器に対する前記測定ヘッド(20)の位置を前記第1の移動軸(Y)沿いに制御する第1の位置制御器(74a)を有し、前記座標測定機(10)は前記加工品保持器に対する前記測定ヘッド(20)の位置を前記第2の移動軸(X)沿いに制御する第2の位置制御器(74b)を有し、前記座標測定機(10)は前記加工品保持器に対する前記測定ヘッド(20)の位置を前記第3の移動軸(Z)沿いに制御する第3の位置制御器(74c)を有し、前記第1、第2、および第3の移動軸(Y、X、Z)の前記各位置制御器(74)は前記現在測定値の前記記録中に停止され、このとき前記同じ移動軸(Y、X、Z)に属する流体軸受(48)は停止されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記回転台(32)は少なくとも1つのさらなる流体軸受(34)を介して据え付けられ、前記さらなる流体軸受(34)は前記現在測定値の前記記録中に作動し続けることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記測定ヘッド(20)は、前記測定対象物(30)に触れるスタイラス(22)と、前記スタイラス(22)に所定の所望測定力をかけるよう構成された少なくとも1つの測定力発生器(70)とを有することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記測定ヘッド(20)は最小所望測定力と最大所望測定力とを規定する動作域(72)を有し、前記測定値は前記最大所望測定力の少なくとも30%に達する所定の所望測定力で記録されることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
測定対象物(30)の形状輪郭(43)を割り出す方法であって、該方法は
加工品保持器と、測定素子(22)を備える測定ヘッド(20)と、前記測定ヘッド(20)が配置されたフレームとを有する座標測定機(10)を設けるステップであって、前記フレームは前記加工品保持器に対し第1の移動軸(Y)沿いに動かすことができる第1のフレーム部品(14)を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第2の移動軸(X)沿いに動かすことができる第2のフレーム部品(16)を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第3の移動軸(Z)沿いに動かすことができる第3のフレーム部品(18)を有し、前記加工品保持器はさらなる軸(36)周りに回転できる回転台(32)を有する、ステップと
前記回転台(32)に前記測定対象物(30)を配置し、且つ前記第1、第2、および第3の移動軸(X、Y、Z)沿いの所定位置に前記測定素子(22)を配置するステップと
前記測定ヘッド(20)が前記測定素子(22)を用いて前記測定ヘッド(20)に対する前記測定対象物(30)上の測定点の空間位置を表す現在測定値を記録している間に前記回転台(32)を回転させるステップと
前記測定値に基づいて前記形状輪郭(43)を割り出すステップとを備える測定対象物(30)の形状輪郭(43)を割り出す方法において
前記加工品保持器に対する前記測定素子(22)の動きを可能にするため、前記測定素子(22)は少なくとも1つの流体軸受(48)を介して据え付けられ、前記現在測定値の前記記録中に前記少なくとも1つの流体軸受(48)は停止され
前記少なくとも1つの流体軸受(48)の前記停止前に、前記移動軸(X、Y、Z)に対する前記測定対象物(30)の位置を表す第1の測定値が記録され、前記測定ヘッド(20)は前記第1の測定値に基づく所定位置に配置されることを特徴とする、方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの流体軸受(48)の前記停止によって生じる前記測定ヘッド(20)の位置変化を表す較正データ(46)が提供されることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
測定対象物(30)の形状輪郭(43)を割り出す方法であって、該方法は
加工品保持器と、測定素子(22)を備える測定ヘッド(20)と、前記測定ヘッド(20)が配置されたフレームとを有する座標測定機(10)を設けるステップであって、前記フレームは前記加工品保持器に対し第1の移動軸(Y)沿いに動かすことができる第1のフレーム部品(14)を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第2の移動軸(X)沿いに動かすことができる第2のフレーム部品(16)を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第3の移動軸(Z)沿いに動かすことができる第3のフレーム部品(18)を有し、前記加工品保持器はさらなる軸(36)周りに回転できる回転台(32)を有する、ステップと
前記回転台(32)に前記測定対象物(30)を配置し、且つ前記第1、第2、および第3の移動軸(X、Y、Z)沿いの所定位置に前記測定素子(22)を配置するステップと
前記測定ヘッド(20)が前記測定素子(22)を用いて前記測定ヘッド(20)に対する前記測定対象物(30)上の測定点の空間位置を表す現在測定値を記録している間に前記回転台(32)を回転させるステップと
前記測定値に基づいて前記形状輪郭(43)を割り出すステップとを備える測定対象物(30)の形状輪郭(43)を割り出す方法において
前記加工品保持器に対する前記測定素子(22)の動きを可能にするため、前記測定素子(22)は少なくとも1つの流体軸受(48)を介して据え付けられ、前記現在測定値の前記記録中に前記少なくとも1つの流体軸受(48)は停止され
少なくとも1つの機械的固定素子(54)が設けられ、これにより前記少なくとも1つの流体軸受(48b)の前記停止後に前記測定素子(22)はさらに機械的に固定されることを特徴とする、方法。
【請求項13】
測定対象物(30)の形状輪郭(43)を割り出す座標測定機であって、加工品保持器と、測定素子(22)を備える測定ヘッド(20)と、前記測定ヘッド(20)が配置されたフレームと、評価及び制御ユニット(38)とを備え、前記フレームは前記加工品保持器に対し第1の移動軸(Y)沿いに動かすことができる第1のフレーム部品(14)を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第2の移動軸(X)沿いに動かすことができる第2のフレーム部品(16)を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第3の移動軸(Z)沿いに動かすことができる第3のフレーム部品(18)を有し、前記加工品保持器はさらなる軸(36)周りに回転できる回転台(32)を有し、前記評価及び制御ユニット(38)は、前記第1、第2、および第3の移動軸(Y、X、Z)沿いの所定位置に前記測定ヘッド(20)を配置し、かつ前記測定ヘッド(20)が前記測定素子(22)を用いて前記測定ヘッド(20)に対する前記測定対象物(30)上の測定点の空間位置を表す現在測定値を記録している間に前記回転台(32)を回転させるよう構成され、前記評価及び制御ユニット(38)はさらに、前記測定値に基づいて前記形状輪郭(43)を割り出すよう構成され、前記加工品保持器に対する前記測定素子(22)の動きを可能にするため、前記測定素子(22)は少なくとも1つの流体軸受(48)を介して据え付けられ、前記評価及び制御ユニット(38)はさらに、自動測定工程内にて、前記測定ヘッド(20)が前記所定位置に配置された後であって、前記現在測定値の前記記録中に前記少なくとも1つの流体軸受(48)を停止させるよう構成されることを特徴とする、座標測定機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定対象物の形状輪郭を割り出す方法に関し、該方法は、
加工品保持器と、測定素子を備える測定ヘッドと、前記測定ヘッドが配置されたフレームとを有する座標測定機を設けるステップであって、前記フレームは前記加工品保持器に対し第1の移動軸沿いに動かすことができる第1のフレーム部品を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第2の移動軸沿いに動かすことができる第2のフレーム部品を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第3の移動軸沿いに動かすことができる第3のフレーム部品を有し、前記加工品保持器はさらなる軸周りに回転できる回転台を有する、ステップと、
前記回転台に前記測定対象物を配置し、且つ前記第1、第2、および第3の移動軸沿いの所定位置に前記測定素子を配置するステップと、
前記測定ヘッドが、前記測定素子を用いて前記測定ヘッドに対する前記測定対象物上の測定点の空間位置を表す現在測定値を記録している間に前記回転台を動かすステップと、
前記測定値に基づいて前記形状輪郭を割り出すステップとを備える。
【0002】
本発明はさらに、加工品保持器と、測定素子を備える測定ヘッドと、前記測定ヘッドが配置されたフレームと、評価及び制御ユニットとを備え、測定対象物の形状輪郭を割り出す座標測定機に関し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第1の移動軸沿いに動かすことができる第1のフレーム部品を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第2の移動軸沿いに動かすことができる第2のフレーム部品を有し、前記フレームは前記加工品保持器に対し第3の移動軸沿いに動かすことができる第3のフレーム部品を有し、前記加工品保持器はさらなる軸周りに回転できる回転台を有し、前記評価及び制御ユニットは、前記第1、第2、および第3の移動軸沿いの所定位置に前記測定ヘッドを配置し、かつ前記測定ヘッドが前記測定素子を用いて前記測定ヘッドに対する前記測定対象物上の測定点の空間位置を表す現在測定値を記録している間に前記回転台を回転させるよう構成され、前記評価及び制御ユニットはさらに、前記測定値に基づいて前記形状輪郭を割り出すよう構成される。
【背景技術】
【0003】
ドイツ特許公開公報10 2008 058 198号ではそのような方法および対応する座標測定機が開示されている。
【0004】
座標測定機は主に産業生産測定技術に使われる柔軟性に富む測定装置である。座標測定機は通常、測定体積の中で加工品保持器に対し動かすことができる測定ヘッドを有する。移動軸は測定体積にまたがっており、測定ヘッドは加工品保持器に対し移動軸沿いに動くことができる。測定にあたっては、様々な選択測定点を基準とする所定位置に測定ヘッドが移される。その後、測定体積内での測定ヘッドの位置と選択測定点に対する測定ヘッドの位置からそれぞれの選択測定点の空間座標を割り出すことができる。空間座標は測定体積内での測定点の位置を規定する。多数の測定点の空間座標を割り出す場合は、それらの空間座標を用いて測定対象物の幾何学的寸法を割り出すことができる。
【0005】
座標測定機は当初、主に個別点測定に利用されていた。このため測定ヘッドは自由端を備えるスタイラスを有し、自由端は選択測定点に接触する。簡素な測定ヘッドは、選択測定点との接触を知らせる切替信号を生成することしかできない。所謂走査型測定ヘッドや計測型測定ヘッドは、さらに感知中に測定ヘッドに対するスタイラスの振れを判断できる。計測型測定ヘッドでは所謂走査モードで加工品の輪郭に沿って進みながら多数の測定値を確認し、結果として、輪郭沿い多数の測定点の多数の空間座標を割り出すことができる。
【0006】
また、現在は座標測定機のための様々な非接触型測定ヘッドが存在する。例えば、容量式センサを備えた測定ヘッドや、レーザー三角測量法、レーザー干渉法、または焦点測定法を利用する測定ヘッドは、測定ヘッドと測定対象物上の選択測定点との距離を光学的に割り出す。
【0007】
回転体の真円度測定等、極めて精密な形状測定には専用の形状測定装置がこれまで一般的に使われてきた。これらは従来の座標測定機より柔軟性が大幅に劣る。これらは柔軟性を犠牲にして特定の測定対象物にとって望ましい形状測定に最適化されている。
【0008】
例えば、ドイツ特許195 22 276号はテーパー雄ねじを測定する形状測定装置を開示している。テーパー雄ねじを有する測定対象物はキャリッジ上の2点間で回転可能な状態に固定される。その後、雄ねじの軸と1つの座標方向に動かすことができるフィーラーの測定軸とが互いに直角になるようにキャリッジが配置される。互いに向い合せのねじ山の隙間に置かれてフィーラーによって感知される測定ワイヤーによって測定値を記録でき、それらの測定値から測定対象物のフランク直径とテーパー角度が割り出される。測定対象物を揃えた後にはキャリッジを固定できる。
【0009】
冒頭で述べたドイツ特許公開公報10 2008 058 198号は、柔軟性に富むポータル型座標測定機を説明している。測定ヘッドは垂直方向に動かすことができるクイルの下端に配置されている。クイルは第1の水平方向に動かすことができるキャリッジに配置されている。キャリッジは第2の水平方向に動かすことができるポータルに配置されている。ポータルはベース上に据え付けられ、ベース上には回転台の形をとる加工品保持器が配置されている。回転台は測定対象物を測定ヘッドに対して回転させることができる。原理上はこのようにして形状測定が可能となる。例えば、測定すべき回転対称物は回転台で回転させることができ、その間測定ヘッドは測定対象物の外周を走査する。
【0010】
ドイツ特許公開公報10 2008 058 198号は偏心荷重によって生じるベースに対する回転台の傾斜を割り出し、ぐらつき誤差を補正することを提案しているが、そのような形状測定の測定精度は専用形状測定装置や真円度測定装置に比べて限られている。この補正にも関わらず、回転台を有するかかる座標測定機の形状測定時の測定精度をさらに高めることが望まれている。
【0011】
中国実用新案201059953号は手動式のポータル型座標測定機を開示しており、操作員は、測定ヘッドにあるキーパッドを使って各軸の空気軸受に対する給気を選択的に作動または停止させることができる。このため、座標測定機の移動軸を個別にブロックすることが可能である。
【0012】
更に、ヨーロッパ特許0 701 663号またはドイツ特許公開公報10 2011 112 734号によると、座標測定機がある程度の時間にわたって止まるときに電力を節約するため、座標測定機の空気軸受を停止させることが知られている。ドイツ特許公開公報10 2010 006 297号は、空気軸受が停止された場合でも、作動を再開したときの初期化手順を最小限に抑えるため、位置制御器を作動状態に保つことを提案している。
【0013】
ドイツ特許公開公報196 23 601号またはヨーロッパ特許1 862 761号によると、触覚測定ヘッドのスタイラスを1つまたは2つの座標方向にブロックし、スタイラスの振れを残りの座標方向に限定することが知られている。
【0014】
ヨーロッパ特許0 402 440号によると、測定ヘッドが静止している間に測定対象物の表面をスタイラスで連続的に走査することが知られている。この場合、測定ヘッドは2軸回転スイベルジョイントを有しており、これによりスタイラスを測定ヘッドに対し2つの直交軸のまわりで回転させることができる。
【0015】
以上を踏まえ、本発明の目的は、測定対象物の、特に回転対称物の、形状測定時に、より高い測定精度を可能にする、冒頭で述べたタイプの方法および座標測定機を提供することである。冒頭で述べた座標測定機の柔軟性に関わる不利点をなくして、より高い測定精度を実現することも目的である。
【0016】
本発明の第1の態様によると、この目的は冒頭で述べたタイプの方法によって達成され、この方法では、加工品保持器に対する測定素子の動きを可能にするため、測定素子が少なくとも1つの流体軸受を介して、具体的には空気軸受を介して、据え付けられ、少なくとも1つの流体軸受は現在測定値の記録中に停止される。
【0017】
さらなる態様によると、この目的は冒頭で述べたタイプの座標測定機によって達成され、この座標測定機では、加工品保持器に対する測定素子の動きを可能にするため、測定素子が少なくとも1つの流体軸受を介して、具体的には空気軸受を介して、据え付けられ、評価及び制御ユニットはさらに、現在測定値の記録中に少なくとも1つの流体軸受を停止させるよう構成される。
【0018】
新規性のある方法および対応する座標測定機は、有利な点が数多くあるとともに、現代の座標測定機のフレーム部品および/または測定ヘッドに装備されている流体軸受が、回転台を使った輪郭測定のときに測定素子の振動を助長するという知見に基づいている。振動は測定値における雑音成分の大幅増加に結び付き、したがって、個々の測定値に未知の統計誤差が重ね合わされるため、精度の低下にも結び付く。測定値の記録中に流体軸受を一時的に停止させることで、測定値の記録中に振動を顕著に減らすことにつながる。形状測定中、フレームと測定素子の剛性を容易に高めることができる。その結果、新規性のある方法および対応する座標測定機は、回転台によって測定ヘッドに対し回転される測定対象物の形状輪郭を走査するときに、測定精度の向上を可能にする。
【0019】
また、従来の形状測定装置と比べて、新規性のある方法および対応する座標測定機には、輪郭の形状ばかりでなく、測定対象物の様々な寸法や測定体積内での測定対象物の位置を同じ固定位置で測定できるという利点があり、すなわち測定対象物の固定をやりなおす必要はない。測定対象物の固定をやりなおすたびに許容誤差から測定精度が損なわれるが、この利点は複雑な測定対象物を測定するときの測定精度のさらなる向上につながる。望ましくは互いに直交する、3つの移動軸沿いに測定ヘッドを動かすことができることから特に生じる既知の座標測定機の柔軟性は完全に維持される。しかし、その上さらに、高い剛性と、回転台による形状測定中の高い測定精度が得られる。
【0020】
望ましくは、新規性のある座標測定機とこれに基づく方法は、前述した各3つの移動軸沿いに回転台の直径より大きい測定体積を有する。これは、測定ヘッドが前述した3つの移動軸の各々に沿って少なくとも回転台の直径より大きい距離Lx、Ly、およびLzを移動できることを意味する。したがって測定ヘッドは事実上どの所望方向からでも測定対象物へ向かって進むことができるほか、従来の形状測定装置に比べて非常に大きい測定体積のため、様々な種類の加工品を測定できる。
【0021】
また、測定値を記録した後に、特に同じ測定対象物でさらなる測定値を記録するため、少なくとも1つの空気軸受は評価及び制御ユニットによって自動的に再起動されることが望ましい。この場合、少なくとも1つの空気軸受は長時間の測定工程の中で比較的短い期間にわたって停止される。
【0022】
したがって、周知の方法および装置と比べて、新規性のある方法および対応する座標測定機は、複雑な加工品のより柔軟でより正確な測定を可能にする。
【0023】
流体軸受の停止は、具体的には座標測定機の空気軸受の停止は、冒頭で指摘した文書で明らかなように、先行技術によって既に開示されている。ただし新規性のある方法および対応する座標測定機は、先行技術と違って、実際の測定作業中に1つ以上の流体軸受を停止させる。その上さらに、新規性のある座標測定機の評価及び制御ユニットはモーター駆動装置を用いて測定体積の中で測定ヘッドを配置できる。したがって新規性のある方法および対応する座標測定機は測定を自動運転で行うことを可能にし、自動測定工程では、測定ヘッドが所定測定位置に配置された後に少なくとも1つの流体軸受が停止される。少なくとも1つの流体軸受が停止することで、対応するフレーム部品は測定中に止められる。一方、電気駆動装置がこの状態で測定素子を動かすと損傷に結び付くため、評価及び制御ユニットは電気駆動装置が測定素子を動かさないよう配慮しなければならない。したがって新規性のある方法および対応する座標測定機は既知の座標測定機の自動測定工程の徹底的改良を要する。
【0024】
これは回転台の形で加工品保持器を有する冒頭で述べたタイプの座標測定機にある程度当てはまる。回転台の軸は荷重に応じて様々な方向に傾くことがあるからである。このため回転台の回転中に、測定ヘッドは、形状輪郭に対し、単独であり、回転台の荷重に応じて変化する位置に配置される。冒頭で述べた座標測定機では、必要に応じて個々の回転台の傾斜に対応するため、測定値の記録中に3つの移動軸沿いの測定ヘッドの位置を再調整することが検討されていた。空気軸受が停止された移動軸沿いでは測定ヘッドを動かすことができなくなるため、これは新規性のある方法および対応する座標測定機において容易く可能ではない。
【0025】
ただし、新規性のある方法および対応する座標測定機の利点が前述した不利点を想像以上に埋め合わせることが詳しい研究で明らかになっている。このため、上述した目的は完全に達成されている。
【発明の概要】
【0026】
本発明の好適な改良において、第1および第2の移動軸はさらなる軸に対し垂直な平面にまたがり、第1のフレーム部品は少なくとも1つの第1の流体軸受を介して据え付けられ、第2のフレーム部品は少なくとも1つの第2の流体軸受を介して据え付けられ、少なくとも1つの第1の流体軸受と少なくとも1つの第2の流体軸受は測定値の記録中に停止される。
【0027】
この改良において、座標測定機の2つの移動軸は測定値の記録中に一時的に固定される。固定される移動軸は回転台の回転軸に対し概ね直角な平面にまたがる。ここで、搭載許容誤差による、および/または測定対象物による回転台の偏心荷重による、回転台軸の傾斜は無視される。この改良は、回転台軸に対し垂直な平面でフレームの最大剛性を可能にする。ここで、これは通常水平面である。この改良はとりわけ大幅な測定精度の向上を可能にする。
【0028】
別の改良において、第1および第2の移動軸はさらなる軸に対して垂直な平面にまたがり、第1のフレーム部品は少なくとも1つの第1の流体軸受を介して据え付けられ、第2のフレーム部品は少なくとも1つの第2の流体軸受を介して据え付けられ、少なくとも1つの第1の流体軸受は測定値の記録中に停止されるが、少なくとも1つの第2の流体軸受は測定値の記録中に作動し続ける。
【0029】
この改良で、測定ヘッドは上述した平面のただ1つの方向に固定されるが、他の軸方向には引き続き動くことができる。座標測定機がポータル設計で実装される好適な例示的実施形態において、加工品保持器に対しポータルを動かすことができる移動軸は有利にブロックされる。この移動軸はしばしばY軸と呼称される。一方、この例示的実施形態ではキャリッジの流体軸受が作動し続けるため、ポータルの横材上のキャリッジは可動状態に保たれる。この改良には、評価及び制御ユニットが第2の移動軸の駆動装置を用いて測定ヘッドを測定対象物に近づけることによって、あるいは測定対象物から遠ざけることによって、偏心誤差を、すなわち回転台上での測定対象物の偏心固定を、比較的容易に排除できるという利点がある。この改良は測定ヘッドを最適測定範囲内に保つことを可能にする。したがってこの改良は、前述した代案とは異なる形で高い測定精度に寄与する。この改良は、完全な回転対称を呈しない測定対象物の、例えば円筒形ハーフシェルの、測定にとりわけ有利である。
【0030】
さらなる改良において、第3の移動軸はさらなる軸に対し概ね平行に延び、第3のフレーム部品は少なくとも1つの第3の流体軸受を介して据え付けられ、少なくとも1つの第3の流体軸受は測定値の記録中に停止される。この改良はそれ自体で有利であるほか、前述した改良と組み合わせても有利である。
【0031】
この改良において、測定ヘッドは回転台の回転軸に対し概ね平行に延びる移動軸沿いで固定される。ポータル設計かブリッジ設計の座標測定機の場合、これは通常、測定ヘッドによってクイルが垂直に動かされる移動軸である。ポータル設計かブリッジ設計の座標測定機において、クイルはポータルやポータルキャリッジと比べて比較的長い自由懸垂部分を有するため、クイルは一般的に振動の影響を最も受けるフレーム部品である。したがってこの移動軸の固定は、機械の振動に起因する測定誤差の低減に特に寄与する。
【0032】
さらなる改良において、第3の移動軸はさらなる軸に対し平行に延び、第3のフレーム部品は少なくとも1つの第3の流体軸受を介して据え付けられ、少なくとも1つの第3の流体軸受は測定値の記録中に作動し続ける。
【0033】
この改良で、測定ヘッドは第3の移動軸沿いに可動状態に保たれるが、その間少なくとも1つの他の移動軸は固定される。この改良は、他の2つの移動軸がそれぞれの流体軸受の停止のため固定される場合にとりわけ有利である。この改良は測定中に測定ヘッドを第3の移動軸沿いに動かすことを可能にする。これは例えば、回転対称形円筒の外周や孔の円筒形内壁を螺旋状に走査する場合に有利に役立てることができる。換言すると、この改良では測定ヘッドを回転軸に対し平行に動かしながら様々な垂直位置で形状湾曲を走査できる。
【0034】
また、この改良を利用することにより、測定値の記録中に所謂Z-付加を排除するか解消することが可能となる。Z-付加とは、回転台の傾斜によって生じる測定対象形状輪郭の垂直位置変化である。好適な例示的実施形態では、例えば冒頭で述べたドイツ特許公開公報10 2008 058 198号で説明されているように、実際の測定値記録に先立ち、第1の測定サイクルで回転台軸の傾斜が確認される。この文書は、特に回転台軸傾斜の確認についての説明に関して、参照により本書に援用される。その後第2の測定サイクルで形状輪郭の実際の測定値が記録され、望ましくは交互に評価及び制御ユニットが確認済みの回転台軸傾斜に基づいて測定ヘッドを第3の移動軸沿いに動かす。この改良は、特に非常に非対称的な重量配分、および/または搭載許容誤差による回転台軸の大幅な傾斜を呈する測定対象物で、高い測定精度を可能にする。
【0035】
さらなる改良において、座標測定機は加工品保持器に対する測定ヘッドの位置を第1の移動軸沿いに制御する第1の位置制御器を有する。さらに、座標測定機は加工品保持器に対する測定ヘッドの位置を第2の移動軸沿いに制御する第2の位置制御器を有する。最後に、座標測定機は加工品保持器に対する測定ヘッドの位置を第3の移動軸沿いに制御する第3の位置制御器を有する。第1、第2、および第3の移動軸の各位置制御器は現在測定値の記録中に停止され、このとき同じ移動軸に属する流体軸受は停止される。
【0036】
この改良では、1つ以上の流体軸受の停止によって測定ヘッドが固定されるだけではない。加えて、1つ以上の位置制御器も一時的に停止される。この改良は、測定値の記録中にフレームの振動を回避することに寄与し、あるいは最低でもフレームの振動を減らすことに大いに寄与する。位置制御器が作動している限り、各移動軸沿いの測定ヘッドの現在位置を閉制御ループで繰り返しチェックする。所期位置と実際の位置とのずれが確認される場合は、位置の差を補償するため、位置制御器が該当する移動軸の電気駆動装置を作動させる。測定ヘッドが、対応する移動軸の1つ以上の流体軸受の停止によって固定される場合でも、電気駆動装置の度重なる作動によってフレームに振動が生じることがある。この不利な現象はこの改良によって最小限に抑えられる。
【0037】
さらなる改良において、回転台は少なくとも1つのさらなる流体軸受を介して据え付けられ、さらなる流体軸受は現在測定値の記録中に作動し続ける。
【0038】
この改良で、少なくとも1つの流体軸受を介して据え付けられ、動くことができるのは測定ヘッドだけではない。回転台も少なくとも1つのさらなる流体軸受を介して据え付けられる。回転台の極めて均一で摩擦のない回転を可能にするため、さらなる流体軸受は測定中に作動し続ける。したがって、この改良では、流体軸受が一時的に停止されているときにも、座標測定機のための空気供給が、または別の流体軸受の場合は別の流体媒体の供給が、維持される。この改良は、一時的に停止されている流体軸受の速やかな再始動を可能にする。
【0039】
さらなる改良において、測定ヘッドは、測定対象物に触れるスタイラスと、スタイラスに所定の所望測定力をかけるよう構成された少なくとも1つの測定力発生器とを有する。
【0040】
この改良で測定ヘッドは所謂能動型測定ヘッドである。測定力発生器は少なくとも1つの移動方向でスタイラスに力をかけることができる。スタイラスが空間内で測定対象物に触れずに自由に吊るされている場合は、測定力によってスタイラスは測定ヘッドベースに対し振れる。ただし、スタイラスが測定対象物に寄りかかっている場合は、スタイラスは測定力発生器の測定力から逃げることができない。スタイラスは測定力を測定対象物に伝える。
【0041】
この意味での能動型測定ヘッドは周知である。新規性のある方法および対応する座標測定機における能動型測定ヘッドでは、測定力発生器を有利に使用することで静止した測定ヘッドから測定対象物の表面までの様々な距離をある程度まで補償できるという利点がある。したがって、好適な例示的実施形態では新規性のある座標測定機の評価及び制御ユニットが測定力発生器を作動させ、測定値の記録中にスタイラスの先端は、形状輪郭の変化をたどり、測定対象物の表面に絶えず接触した状態に保たれる。スタイラスは発生した測定力を使用して振れるため、加工品の表面に窪みがある場合でも加工品の表面との接触を維持する。一例示的実施形態において、評価及び制御ユニットは予め確認しておいた回転台軸傾斜に基づいて回転台軸と平行に測定力発生器を作動させ、座標測定機の駆動装置を用いて測定ヘッドそのものを動かすことなく、垂直Z-付加を排除する。この改良は、測定対象物が所望の所期位置からずれている場合でもスタイラスの先端を高い測定精度で容易に測定することを可能にする。
【0042】
さらなる改良において、測定ヘッドは最小所望測定力と最大所望測定力とを規定する動作域を有し、測定値は、最大所望測定力の少なくとも30%に、望ましくは最大所望測定力の少なくとも50%に達する所定の所望測定力で記録される。
【0043】
この改良では、測定値の記録中に能動型測定ヘッドの測定力発生器が制御信号によって作動され、測定対象物が所期位置の場合には比較的高い測定力を発生させる。同様に、受動型測定ヘッドの所定位置は、スタイラスから測定対象物に比較的高い測定力がかかるように選択される。この改良には、スタイラスが測定対象物の表面との接触を高い確率で維持するという利点がある。特に、回転台の偏心荷重の場合に、および/または加工品の歪んだ固定の場合に、起こる所謂「エアスキャン」は、最小限に抑えられる。
【0044】
さらなる改良において、少なくとも1つの流体軸受の停止前に、移動軸に対する測定対象物の位置を表す第1の測定値が記録され、測定ヘッドは第1の測定値に基づく所定位置に配置される。
【0045】
この改良では、形状輪郭を割り出すための実際の測定値の記録が2段階で遂行される。まずは第1の測定サイクルで測定ヘッドが測定対象物に対する所定測定位置に移されることにより、測定対象物の第1の測定値が記録される。この過程で、望ましくは座標測定機の全流体軸受は作動している。測定体積内での測定対象物の現在位置は第1の測定値から割り出すことができる。いくつかの例示的実施形態では、測定対象物の所定測定点における複数の走査によって、十分に測定体積内での測定対象物の現在位置を割り出すことができる。例えば、評価及び制御ユニットは3つの測定点で測定対象物を走査できる。別の例示的実施形態では、回転台は第1の測定値を記録するため既に回転され、評価及び制御ユニットは測定ヘッドを用いて測定対象物の形状輪郭を既に表す多数の測定値を記録する。第2の測定サイクルで評価及び制御ユニットは第1の測定サイクルの測定結果を使用し、測定対象物に対する測定ヘッドの位置を最適に割り出す。したがって、評価及び制御ユニットは座標測定機の駆動装置を使用し、まずは測定ヘッドを第1の測定値から割り出された測定位置まで動かす。評価及び制御ユニットはその後、少なくとも1つの流体軸受を停止させ、新規性のある方法と新規性のある座標測定機により空間輪郭を高い測定精度で割り出す。この改良には、特に計測型測定ヘッドのセンサを線形中央測定範囲の中で作動させるために、評価及び制御ユニットが測定ヘッドを常に最適な測定位置まで動かすことができるという利点がある。新規性のある方法および対応する座標測定機の測定精度はさらに高められる。
【0046】
さらなる改良では、少なくとも1つの空気軸受の停止によって生じる測定ヘッドの位置変化を表す較正データが提供される。
【0047】
作動中の流体軸受は、フレーム部品と嵌合面との間に作られる空気または液体のクッションによってフレーム部品をある程度の距離にわたって持ち上げる。流体軸受が停止されると、対応するフレーム部品は流体軸受の嵌合面まで沈下する。したがって座標測定機の測定体積内での測定ヘッドの位置は、少なくとも1つの流体軸受が停止されるときに変化する。この好適な改良で、座標測定機はそのような測定ヘッドの位置変化を表す較正データを有する。評価及び制御ユニットは、較正データを用いて現在測定値を割り出すよう有利に構成される。この改良には、特に同一測定対象物のさらなる形状特徴に関して、現在測定値が形状輪郭をより正確に表すという利点がある。したがってこの改良は、測定対象物の形状輪郭を割り出すことが複数測定工程の1工程に過ぎず、例えばこのほかに測定対象物の寸法も割り出す場合に特に有利である。
【0048】
また、較正データは所謂沈下誤差の補正に有利に役立てることができる。例えば、円錐台形の測定対象物を新規性のある方法で測定する場合に、少なくとも1つの流体軸受が停止すると、評価及び制御ユニットは測定対象物で若干大きい直径か若干小さい直径を「キャッチ」することがある。少なくとも1つの流体軸受の停止のため、評価及び制御ユニットは停止しない場合とは異なる断面で測定対象物を測定する。この断面オフセットは較正データを用いて有利に補正できる。
【0049】
さらなる改良では、少なくとも1つの機械的固定素子が設けられ、これにより少なくとも1つの流体軸受の停止後に少なくとも1つの測定素子はさらに機械的に固定される。
【0050】
この改良において、新規性のある座標測定機は、測定素子をさらに機械的に直接的に、および/またはフレーム部品を介して、固定するよう構成された少なくとも1つの機械的固定素子を有する。この改良はとりわけ高い剛性を可能にし、結果的に、回転台上に置かれた測定対象物の形状測定でとりわけ高い測定精度を可能にする。
【0051】
上述した特徴、およびこれ以降説明する特徴が、それぞれ記載された組み合わせで使用できるばかりでなく、本発明の範囲から逸脱することなく、別の組み合わせでも、あるいは単独でも、使用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
本発明の例示的実施形態を図面に示し、以下に詳しく説明する。
図1】新規性のある座標測定機の例示的実施形態を示す。
図2a図1の座標測定機で使用される測定ヘッドの簡略図を示す。
図2b図1の座標測定機で使用される測定ヘッドの簡略図を示す。
図3図1の座標測定機で新規性のある方法に従って作動される機能的サブアセンブリの簡略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1では、新規性のある座標測定機の例示的実施形態が全体的に符号10で指示されている。座標測定機10はベース12を有し、ここではベース12上にポータル14が配置されている。ポータル14はキャリッジ16を携えている。キャリッジ16にはクイル18が配置されている。クイル18の下方自由端には測定ヘッド20が配置されており、ここで測定ヘッド20はスタイラス22を携えている。他の例示的実施形態において、測定ヘッド20は非接触型測定ヘッドであってよく、例えば容量的に、または光学的に、測定対象物上の測定点までの距離を割り出す測定ヘッドであってよい。
【0054】
符号24、26、28はそれぞれ目盛りを指示しており、これらの目盛りによりベース12に対するポータル14の位置と、ポータル14に対するキャリッジ16の位置と、キャリッジ16に対するクイル18の位置を割り出すことができる。目盛り24、26、28は適当なセンサ(ここでは図示せず)を用いて既知の方法で読み取られる。例えば、これらは光センサで読み取られるガラス目盛りである。
【0055】
符号30は回転台32上に配置される測定対象物を指示している。ここでは回転台32が空気軸受34を介してベース12に据え付けられている。回転台32は電気駆動装置(ここでは図示せず)によって軸36の周りに回転させることができる。この回転台32により、測定ヘッド20およびスタイラス22に対して測定対象物30を回転させることができる。
【0056】
符号38は評価及び制御ユニットを指示しており、評価及び制御ユニットはこの場合、座標測定機10の全駆動装置を制御する。評価及び制御ユニット38はまた、座標測定機10の全センサから測定値を受信し、これらの測定値に基づいて測定対象物30の空間座標および/または形状輪郭を割り出す。符号40は評価及び制御ユニット38のプロセッサを指示している。符号42はディスプレイを指示しており、ここでは一例として円筒形の測定対象物30の外周を表す円形の形状輪郭43がディスプレイに表示されている。
【0057】
符号44は評価制御プログラムが格納される第1のメモリを指示している。制御プログラムはアルゴリズムを含んでおり、例えば測定対象物30上の選択された測定点の空間座標を割り出すため、目盛り24、26、28による測定値がこのアルゴリズムによって処理される。
【0058】
この例示的実施形態におけるさらなるメモリ46は較正データを収容し、この較正データは、評価及び制御ユニット38が測定値を処理して測定対象物30の形状輪郭を割り出す際に使われる。好適な例示的実施形態において、較正データは、とりわけ新規性のある方法により後述する空気軸受の停止によって生じる測定ヘッド20の位置変化等を表す。
【0059】
ここでは一例として符号48a、48b、48cは空気軸受を指示しており、ポータル14、キャリッジ16、およびクイル18はこれらの空気軸受を介して据え付けられているため、ベース12に対して動くことができ、それ故回転台32に対して動くこともできる。代わりに、座標測定機10は流体軸受を有することもあり、この流体軸受は空気の代わりに別の媒体を、例えば水と油の混合物を使用する。座標測定機10はいくつかの電気駆動装置50a、50b、50c(図3参照)を有し、これらの電気駆動装置により、評価及び制御ユニット38はポータル14の最大動程とキャリッジ16の最大動程とクイル18の最大動程にまたがる測定体積の中で測定ヘッド20を動かすことができる。第1の駆動装置50aにより、評価及び制御ユニット38はポータル14をベース12に対し矢印Yの方向に動かすことができる。ポータル型座標測定機におけるこの移動軸はY軸と通常呼称される。
【0060】
さらなる駆動装置50bにより、評価及び制御ユニット38はキャリッジ16を矢印Xの方向に動かすことができる。したがって、キャリッジ16の移動軸はX軸と通常呼称される。評価及び制御ユニット38はクイル18を第3の移動軸Zの方向に動かすことができ、それ故この移動軸はZ軸と呼称される。XおよびY軸は共に面52にまたがり、面52はポータル型座標測定機において通常は水平の測定面である。ここで、回転台32の回転軸36は面52に対し垂直であり、クイル18の移動軸Zに対し平行である。
【0061】
ここでは一例として、符号54a、54bは、ポータル14の横材上、キャリッジ16の両側に配置された2つのスライドを指示している。この例示的実施形態における評価及び制御ユニット38はスライド54aを矢印56aの方向にずらすことができる。同様に、評価及び制御ユニット38はスライド54bを矢印56bの方向にずらすことができる。スライド54a、54bは共に機械的固定素子を形成し、これにより、新規性のある方法の好適な例示的実施形態ではキャリッジ16が機械的に固定され、測定対象物30の形状測定を行うにあたってとりわけ堅固なフレーム構造を得ることができる。
【0062】
図2aおよび2bには、座標測定機10の測定ヘッド20が非常に簡略化された図で示されている。測定ヘッド20は測定ヘッドベース60と部品62とを有し、部品62は2枚の板ばね64a、64bによって測定ヘッドベース60へ接続されている。図2bに示すように、部品62は板ばね64a、64bにより測定ヘッドベース60に対し矢印65a、65bの方向に動かすことができる。
【0063】
測定ヘッドベース60は第1の保持素子66aへ接続されている。部品62は第2の保持素子66bへ接続されている。保持素子66a、66bは互いに対向している。保持素子66a、66bの間にはセンサ68が配置されており、これにより、測定ヘッドベース60に対する矢印65a、65bの方向での部品62の変位を測定できる。図示された例示的実施形態でセンサ68はプランジャコイルである。代わりに、センサ68は圧電式、容量式、光学式、および/または磁気式センサであってもよい。
【0064】
符号70は、保持素子66a、66bを矢印65a、65bの方向に互いに引き離すことができ、あるいは保持素子66a、66bを共に反対方向に引き寄せることができる、測定力発生器を指示している。測定力発生器70により、評価及び制御ユニット38はスタイラス22にかかる測定力を発生させることができる。符号72に示されているように、測定力発生器70は最小所望測定力と最大所望測定力とを規定する動作域を有する。スタイラス22が測定対象物に寄りかかっていない限り、測定ヘッドベース60に対するスタイラス22の振れに測定力が顕現する。
【0065】
図2a、2bで、スタイラス22は測定ヘッドベース60に対し1方向のみに振れることができる。ただし好適な例示的実施形態では、測定ヘッド20が3つのスプリングパラレログラムと3つの測定力発生器70とを有し、これらにより評価及び制御ユニット38はスタイラス22を移動軸X、Y、およびZ沿いに随意に振ることができ、あるいは前記スタイラスに測定力をかけることができる。新規性のある方法の好適な例示的実施形態では、評価及び制御ユニット38がこの特性を利用し、測定値の記録中にスタイラス22を測定対象物30に接触させる。座標測定機10の3つの移動軸に対応する移動軸X、Y、Zのための3つの測定力発生器70は、図3の符号70a、70b、70cにも示されている。
【0066】
図2は、測定力発生器70によって測定力をそれぞれの移動方向に制御できる所謂能動型測定ヘッドの簡略化された図を示している。図3の符号71a、71b、71cにはそれぞれの測定力方向に対応する制御器が示されている。別の例示的実施形態の測定ヘッドは、既知のばね定数を有するばねと加工品30に対する測定ヘッド20の位置によって測定力が設定される受動型測定ヘッドである。
【0067】
図3は、評価及び制御ユニット38のマイクロプロセッサ40と、座標測定機10のさらなる機能的サブアセンブリとを示している。符号74aは位置制御器を指示しており、マイクロプロセッサ40はこの位置制御器を用いて座標測定機10のY軸の電気駆動装置を作動させる。XおよびZ移動軸にも同等の位置制御器74a、74cが設けられている。位置制御器74は閉制御ループを形成し、これがポータル14とキャリッジ16とクイル18の現在位置をそれぞれ評価し、これらの現在位置に基づいてそれぞれの電気駆動装置50a、50b、および50cを作動させることで、メモリ44内の制御プログラムに基づいてマイクロプロセッサ40によって設定される所期位置まで可動フレーム部品を動かす。
【0068】
符号76a、76b、76cは弁を指示しており、評価及び制御ユニット38はこれらの弁を用いてポータル14、キャリッジ16、およびクイル18の空気軸受48a、48b、48cを作動または停止させることができる。新規性のある方法によると、まずは測定ヘッド20が測定対象物30に対する所定測定位置まで動かされる。評価及び制御ユニット38はその後、測定ヘッド20を所定測定位置にしっかり固定するため、1つ以上の移動軸の空気軸受48を停止させる。図示された例示的実施形態では評価及び制御ユニット38が測定ヘッド20を所定測定位置まで動かし、そこでスタイラス22は測定対象物30で測定すべき形状輪郭に触れる。評価及び制御ユニット38はその後、測定対象物30をスタイラス22に対し回転させるため、回転台32を作動させる。測定ヘッド内のセンサ68により、測定対象物30の回転によって生じるスタイラス22の振れが測定される。評価及び制御ユニット38はその後、これらの測定値を使用し、さらに好適な例示的実施形態では、メモリ46内の較正データを使用して、形状輪郭を割り出す。
【0069】
新規性のある方法の好適な例示的実施形態では、第1のステップで、基準物を用いて、例えば既知の特性を有するテストシリンダを用いて、あるいはリングゲージを用いて、回転台32の軸36の傾斜が割り出される。次に、測定すべき形状輪郭を有する測定対象物30が回転台32上で可能な限り中心に固定される。いくつかの例示的実施形態では、回転台32が3つのジョーを備えるチャック(ここでは図示せず)を有し、これで測定対象物30を固定できる。
【0070】
その後、評価及び制御ユニット38によってスタイラス22が所定の所望測定力で選択測定点に触れるまで、測定ヘッド20が測定対象物30の方へ動かされ、測定対象物30の選択測定点が走査される。走査された測定点の位置から測定体積内の加工品30の位置を割り出すことができる。これの代わりに、またはこれに加えて、評価及び制御ユニット38は、第1の測定サイクルで測定すべき形状輪郭を走査するため、回転台32を回転させることができる。
【0071】
好適な例示的実施形態では、取得した第1の測定値を用いて、加工品の軸と回転台の軸36が少なくとも凡そは同じか否かをチェックする。好適な例示的実施形態では回転台の軸36からの測定対象物の軸のずれが所定の制限値を上回る場合に評価及び制御ユニット38が警告メッセージを発して、加工品の固定を修正すべきことを座標測定機10の操作員に知らせる。いくつかの例示的実施形態では、評価及び制御ユニット38が回転台の適切なモーター駆動装置(ここでは図示せず)を用いて測定対象物30の固定を自動的に修正できる。
【0072】
好適な例示的実施形態では、測定力発生器70でスタイラス22を振ることができる動作域72によって所定制限値が与えられる。好適な例示的実施形態では、測定ヘッド20のセンサ68を概ね線形の中央動作域内に保つため、所定制限値は最大可能動作域72より小さい。
【0073】
次のステップで、評価及び制御ユニット38は較正データ46を考慮に入れて測定体積内での測定ヘッド20の最適測定位置を判断する。評価及び制御ユニット38は、スタイラス22が測定すべき形状輪郭の領域で測定対象物の表面に触れるまで最適測定位置の測定ヘッド20を測定対象物30の方へ動かす。
【0074】
新規性のある方法によると、評価及び制御ユニット38はその後、座標測定機10の1つ以上の移動軸の空気軸受をオフにする。いくつかの例示的実施形態では、XおよびY軸の空気軸受が停止されるが、XおよびY軸の空気軸受が停止されたときに測定ヘッド20のZオフセットを補償するため、Z軸の空気軸受は作動し続ける。
【0075】
別の例示的実施形態において、評価及び制御ユニット38は座標測定機10の全3つの移動軸の空気軸受を停止させる。ここでZオフセットの補償は、望ましくは測定ヘッド20内にあるZ軸の測定力発生器を用いて遂行される。代わりに、評価及び制御ユニット38は測定ヘッド20の最適測定位置を判断する場合に、較正データ46を用いてオフセットを予め考慮に入れることができる。
【0076】
その後、評価及び制御ユニット38によって回転台32が軸36周りに回転させられることにより、測定対象物30の表面で極めて正確な形状輪郭走査が行われる。好適な例示的実施形態では、エアスキャンを回避するため、XおよびY軸の測定力発生器によってスタイラス22の振れ範囲全体にわたって絶えず所定の測定力が生成される。
【0077】
評価及び制御ユニットはその後、記録された測定値に基づいて測定対象物30の形状輪郭を割り出す。
【0078】
いくつかの例示的実施形態では、評価及び制御ユニット38がポータル14の空気軸受48aを停止させるが、キャリッジ16の空気軸受48bは作動し続ける。その結果、評価及び制御ユニットは測定値の記録中に測定ヘッド20をX方向に動かすことができ、該当する測定力発生器70の動作域72にわたって測定対象物30の形状輪郭をたどることが可能となる。これは特に測定対象物30が回転台32上で偏心して固定される場合に有利である。
【0079】
いくつかの例示的実施形態では、評価及び制御ユニット38が評価及び制御ユニット38のメモリ46にパラメータデータの形で格納された経験値を用いて偏心誤差を判断する。例えば、機械的停止体は通常0.5 mm未満の再現精度を有する。加工品の公称直径は、CADデータから、および/または第1の測定サイクルで得られる第1の測定値から、判明する。したがって評価及び制御ユニット38は、一連の検査の中で同種の測定対象物を繰り返し固定することから生じる偏心誤差を推定できる。
【0080】
新規性のある方法と新規性のある座標測定機には、能動型測定ヘッド20の代わりに(測定力発生器70がない)受動型測定ヘッドを使用することもできる。この場合、スタイラス22は機械的ばねに逆らって作動する。スタイラス22は、測定対象物30の公称直径でスタイラス22が所定の振れを経験して所望の測定力が発生するまで、評価及び制御ユニット38によって測定対象物30の方へ動かされる。
【0081】
また、新規性のある方法と新規性のある座標測定機には非接触型測定ヘッド20を使用できる。この場合でも評価及び制御ユニット38は、測定体積内での測定ヘッド20の望ましい測定位置を判断した後、座標測定機10の1つ以上の空気軸受を停止させる。特に容量式距離センサの場合は、測定値を記録する直前に測定ヘッドの較正を行うと有利であり、この場合は、例えば実際の測定値を記録する前に測定ヘッド20が測定対象物30の方へ動かされ、測定ヘッド20から提供される測定値が、座標測定機10の目盛り24、26、28から得られる測定値に比較される。
【0082】
測定ヘッドでは、望ましくはスタイラス22が測定対象物30の回転方向に引かれるような方法で、測定対象物30の走査が行われる。スティックスリップ現象を回避するため、走査は回転方向に約45°のオフセットで行われる。
【0083】
ここでは新規性のあるポータル型座標測定機の好適な例示的実施形態で新規性のある方法を説明してきたが、本発明はこれに限定されない。この方法は別のフレーム構造を有する座標測定機にも、例えばブリッジ型座標測定機にも、あるいは水平アーム型座標測定機にも、同様に応用できる。また、形状測定中にも測定ヘッドで流体軸受を停止させる形に方法を有利に応用することもできる。また、例えば測定対象物の表面で、例えば測定対象物30の上平面で、平坦度測定および/またはうねり測定を行う形に、新規性のある方法を有利に応用することもできる。
図1
図2a
図2b
図3