(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記周期律表5A族元素はV、Nb、Taの少なくとも1つであり、V、Nb、Taの炭化物の含有量の合計が0.5体積%以上、15体積%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタングステン耐熱合金。
前記第1の相、前記第2の相、並びに前記第3の相の平均結晶粒径が、0.1μm以上、10μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のタングステン耐熱合金。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<本願の概要>
まず、本願発明の実施形態を列記して説明する。
【0032】
本願のタングステン耐熱合金は、Wを主成分とする第1の相と、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、Wを除いた場合に前記炭窒化物を主成分とする第2の相と、周期律表5A族元素の少なくとも一つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする第3の相と、を有し、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験による破断撓みが1mm以上であり、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上である、タングステン耐熱合金である。なお、本発明では、「室温におけるビッカース硬度」とは、20℃におけるビッカース硬度をいう。
【0033】
上記タングステン耐熱合金は、1000℃におけるビッカース硬度が190Hv以上であることが好ましい。190Hv以上とすることによって、摩擦攪拌接合工具として用いる場合の連続使用時の摩耗および変形をより抑制することができる。
【0034】
上記タングステン耐熱合金は、Ti、Zr、Hfの炭窒化物の含有量が5体積%以上、25体積%以下であることが好ましい。5体積%以上とすることによって、室温硬度、高温での0.2%耐力を高めることができる。また、高温強度を高めることができる。25体積%以下とすることによって、延性の低下を抑制することができる。
【0035】
また、上記タングステン耐熱合金は、V、Nb、Taの炭化物の含有量の合計が0.5体積%以上、15体積%以下であることが好ましい。0.5体積%以上とすることによって、室温硬度、高温での0.2%耐力を高めることができる。また、高温強度を高めることができる。15体積%以下とすることによって、延性の低下を抑制することができる。
【0036】
また、上記タングステン耐熱合金は、前記第1の相、前記第2の相、並びに前記第3の相の平均結晶粒径が、0.1μm以上、10μm以下であることが好ましい。0.1μm以上とすることによって、延性の低下を抑制することができる。10μm以下とすることによって、室温硬度、高温での0.2%耐力を高めることができる。また、高温強度を高めることができる。
【0037】
さらに、本願の摩擦攪拌接合工具は、上記したタングステン耐熱合金を有する摩擦攪拌接合工具である。
【0038】
また、本願の摩擦攪拌接合装置は、上記した摩擦攪拌接合工具を有する、摩擦攪拌接合装置である。
【0039】
一方、本願の製造方法は、W粉末と炭窒化物粉末と5A族元素を含む炭化物を混合する(a)と、前記(a)により得られた混合粉を室温中で成形する(b)と、前記(b)により得られた成形体を常圧の雰囲気にて、1800℃以上、2000℃以下で加熱して焼結する(c)と、を有する、上記タングステン耐熱合金を製造する製造方法である。
【0040】
次に、図面を参照して本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
【0041】
<タングステン耐熱合金組成>
まず、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具(塑性加工用工具)に用いられるタングステン耐熱合金の組成について説明する。
【0042】
図1は、本発明の実施形態に係るタングステン耐熱合金中の各相の模式図である。
【0043】
本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具に用いられるタングステン耐熱合金は、
図1に示すように、Wを主成分とする第1の相1と、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、Wを除いた場合に前記炭窒化物を主成分とする第2の相2と、周期律表5A族元素の少なくとも一つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする第3の相3と、を有し、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験による破断撓みが1mm以上であり、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上である。
【0044】
また、
図1では、さらに、第2の相2と第3の相3の周囲に形成された固溶体である第4の相4も図示されている。
【0045】
以下、各相および各相を構成する材料について説明する。
<第1の相>
第1の相1はWを主成分とする相である。ここでいう主成分とは最も含有量(質量%)が多い成分であることを意味する(以下同様)。
【0046】
具体的には、第1の相1は例えばWと不可避不純物で構成されるが、後述する炭窒化物や炭化物の含有量によっては、第1の相1に炭窒化物や炭化物を構成する元素が固溶している場合もある。
【0047】
第1の相1におけるWは高融点、高硬度でかつ高温における強度に優れ、タングステン耐熱合金に金属としての物性をもたせるために、必須である。
【0048】
<第2の相>
第2の相2は、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの炭窒化物を有し、Wを除いた場合に炭窒化物を主成分とする相である。具体的には、例えば上記した炭窒化物、W、および不可避不純物で構成される。
【0049】
第2の相2におけるTi、Zr、Hfの炭窒化物は、Wに添加することにより、後述するように、室温硬度、および高温での0.2%耐力を高めることができるため、必須である。
【0050】
なお、炭窒化物の代表的なものとしてはTiCNが挙げられるが、TiCNの組成としては、例えばTiC
xN
1−x(x=0.3〜0.7)となるものが挙げられ、具体的にはTiC
0.3N
0.7、TiC
0.5N
0.5、TiC
0.7N
0.3などが挙げられる。
【0051】
この中で代表的なものとしては、TiC
0.5N
0.5が知られているが、その他の組成の炭窒化チタン、炭窒化ジルコニウム、炭窒化ハフニウムも、TiC
0.5N
0.5と同様の効果が得られる。
【0052】
<第3の相>
第3の相3は、周期律表5A族元素の少なくとも一つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする相である。具体的には、例えば上記した炭化物、W、および不可避不純物で構成される。
周期律表5A族元素の具体例としては、V、Nb、Taが挙げられる。
【0053】
このように、Ti、Zr、Hfの炭窒化物元素を添加するだけでなく、上記の炭化物を複合添加することにより、単純に炭窒化物元素の添加量を増やす場合と比較して、添加による延性の低下を抑制しつつ、室温硬度、高温強度を向上させることができる。そのため、5A族元素は必須である。
【0054】
この点について、より具体的に説明する。まず、炭窒化物がTiCNである場合を考える。この場合、W−TiCN合金の特性(強度)向上を目的とする場合、TiCN添加量の増量が考えられるが、TiCN添加量を増やしてTi含有量が25体積%を越える場合には延性が低下し、工具として使用した場合に欠損する問題が生じる恐れがある。そこで、TiCN以外の硬質粒子をさらに添加し、TiCNと複合添加することで、室温硬度、高温強度向上し、かつ延性を持つタングステン耐熱合金を得ることができる。なお炭窒化物がZrCN、HfCNの場合も炭窒化物がTiCNである場合と同様である。
【0055】
<第4の相>
第4の相4は第2の相2および第3の相3の少なくとも一方の周囲に形成される層であり、第1の相1のWと第2の相2の炭窒化物または第3の相3の炭化物との固溶体を主成分とし、これと不可避不純物で構成される。
【0056】
即ち、第4の相4は 第2の相2の周囲に形成される場合は炭窒化物の存在割合が、第1の相1よりも高い固溶体であり、第3の相3の周囲に形成される場合は炭化物の存在割合が、第1の相1よりも高い固溶体である。
なお第4の相4は必須の構成ではない。
【0057】
<組成>
合金中のTi、Zr、Hfの炭窒化物の含有量は5体積%以上、25体積%以下であるのが望ましい。これは、5体積%未満の場合は室温硬度、高温での0.2%耐力を高くする効果が十分に得られないおそれがあり、25体積%を超えると延性の低下を抑制する効果が十分に得られないおそれがあるため、上記工具として使用した場合に欠損したり亀裂を生じたりしやすくなるおそれがあるためである。なお、延性の低下の大幅な抑制という観点から、上記範囲の中でも、5体積%以上、20体積%以下であることがより望ましい。
【0058】
また、5A族炭化物の含有量は0.5体積%以上、15体積%以下であることが望ましい。5A族炭化物の含有量が0.5体積%未満の場合は5A族添加による室温硬度、高温での0.2%耐力を高くする効果が十分に得られないおそれがあり、15体積%を越えると延性の低下を抑制する効果が十分に得られないおそれがある。これらの効果をより高めるためには、上記範囲の中でも、1体積%以上、13体積%以下であることがより望ましい。
【0059】
また、本発明において、Ti、Zr、Hfの炭窒化物および5A族炭化物の含有量(体積%)とは、以下の方法により算出した値をいうものとする。まず、タングステン耐熱合金の試料中に含まれるW、Ti、Zr、Hfおよび5A族元素の元素含有量(質量)を測定する。次に、測定したそれぞれの質量から、Wは全量が金属として、Ti、Zr、Hfは全量が炭窒化物として、5A族元素は全量が炭化物として上記試料中に存在しているとした場合の、W金属およびTi、Zr、Hfの炭窒化物ならびに5A族元素炭化物の体積をそれぞれの密度を用いて算出し、それら体積の合計を試料全体の体積としてTi、Zr、Hfの炭窒化物および5A族元素炭化物の体積割合(体積%)を算出する。上記元素含有量(質量)を測定する方法としては、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析により測定する方法を用いることができる。なお、本発明における「Ti、Zr、Hfの炭窒化物の含有量」とは、TiC
0.5N
0.5、ZrC
0.5N
0.5、HfC
0.5N
0.5に換算した場合の含有量をいう。
【0060】
<不可避不純物>
本発明に係る摩擦攪拌接合工具を形成するタングステン耐熱合金は、上記した必須の成分に加え、不可避不純物を含む場合がある。
不可避不純物としては、Fe、Ni、Cr、などの金属成分や、C、N、Oなどがある。
【0061】
<結晶粒径>
第1の相1、第2の相2、第3の相3(および存在する場合は第4の相4)は、平均結晶粒径が0.1μm以上、10μm以下であることが望ましい。
【0062】
タングステン耐熱合金の主となる相である第1の相1の平均結晶粒径を小さくすることにより硬度や強度を高めることができるが、0.1μm未満の場合は延性が低下しやすくなり、延性の低下を抑制する効果が十分に得られないおそれがある。また、焼結材料で結晶粒径を細かくするためには原料粉末の粒度を細かくする方法が一般的であるが、上記平均結晶粒径を0.1μm未満とするための細かな原料粉末は、実際には凝集を避けることが難しくなり、却って硬度や強度を高めるという効果が得られにくくなるおそれがある。上記第1の相1の平均結晶粒径を大きくすることにより、第1の相1の連続区間が長くなるため変形しやすくなり、延性の低下を抑制することができるが、10μmを超える場合は却って硬度や強度を高める効果が十分に得られないおそれがある。したがって、第1の相1の平均結晶粒径は0.1μm以上、10μm以下であることが望ましい。さらに、延性の低下を抑制しつつ硬度や強度を高めるという効果をより高めるためには、上記範囲の中でも、0.5μm以上、8μm以下であることがより望ましい。
【0063】
第2の相2、第3の相3(および存在する場合は第4の相4)の平均結晶粒径についても、タングステン耐熱合金の一部を構成する相ではあるものの、第1の相1と同様のことがいえる。すなわち、これらの相の平均結晶粒径についても、0.1μm以上、10μm以下であることが望ましく、0.5μm以上、8μm以下であることがより望ましい。
【0064】
なお、結晶粒径を測定する方法としては、インターセプト法が挙げられる。これは、測定箇所となる断面について倍率1000倍の拡大写真を撮り、この写真上において、任意に直線を引き、この直線が横切る対象となる結晶粒の粒子について、この直線状を横切る個々の結晶粒の粒径を測定し総和を算出する方法である。測定の視野は例えば120μm×90μm程度であり、測定する粒子数は例えば50個以上である。また、観察された結晶粒の組成は例えばEPMA(Electron Probe MicroAnalyser)による線分析で特定できる。
【0065】
<物性>
次に、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具用のタングステン耐熱合金の物性について説明する。
【0066】
本発明の実施形態に係るタングステン耐熱合金の強度は、室温におけるビッカース硬度(室温硬度)が550Hv以上、1200℃における3点曲げ試験による破断撓みが1mm以上、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上である。
【0067】
タングステン耐熱合金をこのような物性にすることにより、タングステン耐熱合金を例えばFe系、FeCr系、Ti系用等の摩擦攪拌接合部材のような、高融点、高強度が要求される耐熱部材に適用することができる。
【0068】
なお、ここでいう0.2%耐力(曲げ相当)とは、曲げ試験を行い、永久ひずみ量が0.2%となる場合の応力を示すものであり、以下「0.2%耐力(曲げ相当)」と記載する。
【0069】
なお、本発明がタングステン「耐熱」合金であるにも関わらず、室温硬度を条件にしているのは、以下の理由によるものである。
【0070】
本発明の実施形態に係るタングステン耐熱合金を摩擦攪拌接合工具として用いる場合、工具の摩耗量が工具材料の硬度と密接な関係にあり、硬度が高いほど工具摩耗量を少なくできる効果がある。摩擦攪拌接合の場合、ツールを挿入する際に工具への高い負荷が生じるため、挿入時の摩耗が顕著に現れる。挿入時はまだ工具もワークも発熱が少なく、両者の温度も高くはなっていないため、工具の摩耗量は、室温の硬度に依存することとなる。本発明の実施形態に係るタングステン耐熱合金は、摩擦攪拌接合工具そのものとして使用される場合もあるが、多くの場合は摩擦攪拌接合工具母材として使用され、周期律表IVa、Va、VIa、IIIb族元素およびC以外のIVb族元素よりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、またはこれら元素群から選択される少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物あるいは炭窒化物を含む被膜が表面に被覆され工具とされる。ここで、実際に工具として使用する場合、まず室温にて工具を接合対象材料に強く押し込みながら回転させ、摩擦熱により接合対象物の温度を上昇させる。よって、回転初期の母材の変形、破壊または母材と被覆膜との剥離がないように、母材の室温硬度が高い(550Hv以上である)ことが必要である。
【0071】
また、上記タングステン耐熱合金は、1000℃におけるビッカース硬度が190Hv以上であることが好ましい。190Hv以上とすることによって、摩擦攪拌接合工具として用いる場合の連続使用時の摩耗をより抑制することができる。
以上がタングステン耐熱合金の条件である。
【0072】
<製造方法>
次に、本発明の実施形態に係るタングステン耐熱合金およびそれを用いた摩擦攪拌接合工具の製造方法について、
図2を参照して説明する。
【0073】
本発明の実施形態に係るタングステン耐熱合金およびそれを用いた摩擦攪拌接合工具の製造方法については、上記した条件を満たす摩擦攪拌接合工具が製造できるものであれば、特に限定されるものではないが、
図2に示すような方法を例示することができる。
【0074】
まず、原料粉末を所定の比率で混合して混合粉末を生成する(
図2のS1)。
【0075】
原料としては、W粉末およびTiCN粉末(または炭窒化チタン、炭窒化ジルコニウム、炭窒化ハフニウム等の炭窒化物粉末)、5A族の炭化物粉末が挙げられるが、以下、各粉末の条件について、簡単に説明する。
【0076】
W粉末は純度99.99質量%以上、Fsss(Fisher Sub-Sieve Sizer)平均粒径0.1μm〜5.0μmのものを用いるのが好ましい。
【0077】
なお、ここでいうW粉末純度とは、JIS H 1403記載のタングステン材料の分析方法により得たものであり、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Si、Snの値を除いた金属純分を意味する。
【0078】
炭窒化物粉末は、純度99.9%以上、Fsss平均粒径2μm〜3μmのものを用いるのが好ましい。
【0079】
炭化物粉末も、純度99.9%以上、Fsss平均粒径2μm〜3μmのものを用いるのが好ましい。
【0080】
なお、ここでいう炭窒化物粉末の純度とは、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Si、Snを除いた純分を意味する。
【0081】
また、粉末の混合に用いる装置や方法については特に限定されることはなく、例えば、乳鉢、V型ミキサー、ボールミルなど公知の混合機を使用することができる。
【0082】
次に、得られた混合粉末を圧縮成形し、成形体を形成する(
図2のS2)。
【0083】
圧縮成形に用いる装置は特に限定されるものではなく、一軸式プレス機やCIP(Cold Isostatic Pressing)など公知の成形機を使用すればよい。圧縮の際の条件としては、圧縮の際の温度は室温(20℃)でよい。
【0084】
一方、成形圧はCIPの場合、98〜294MPa(室温)であるのが好ましい。これは、成形圧が98MPa未満の場合は成形体が十分な密度を得られず、また、294MPaを超えると、圧縮装置と金型が大型化し、コスト面で不利になるためである。
【0085】
次に、得られた成形体を加熱し、焼結する(
図2のS3)。
【0086】
具体的には、常圧焼結で、焼結温度を1800℃以上、2000℃以下とするのが望ましい。
【0087】
これは、加熱温度が1800℃未満の場合、焼結不十分となり焼結体の密度が低くなるためであり、また、加熱温度が2000℃より高いと、炭窒化物の分解が進行することにより巨大柱状結晶粒の成長へと至り、その結果タングステン耐熱合金の強度が低下してしまうためである。そのため、焼結する際には、1800℃以上、2000℃以下で焼結するのが好ましい。さらに、高温強度をより高めるという観点から、より好ましい焼結温度は、1900℃以上2000℃以下である。
【0088】
次に、得られた焼結体の相対密度が95%程度であった場合には、不活性雰囲気にて熱間等方圧加圧(Hot Isostatic Pressing 以降HIPとも呼ぶ)することが好ましい。(
図2のS4)。ただし、得られた焼結体の相対密度が96%以上となっていれば、HIPを省略しても室温硬度や高温での0.2%耐力を低下させることはほとんどない。
【0089】
HIPを行う際の具体的な加圧条件としては、温度1400〜1800℃、圧力152.0〜253.3MPaの不活性雰囲気で、HIP処理を行うのが好ましい。これは、この範囲を下回ると密度が上がらなくなり、上回ると大型装置が必要となり製造コストに影響するためである。
【0090】
このようにして得られた摩擦攪拌接合工具の素材は、切削、研削・研磨、コーティング等の加工を経て(
図2のS5)、摩擦攪拌接合工具が作製される。
【0091】
以上が本発明の実施形態に係るタングステン耐熱合金とそれを用いた摩擦攪拌接合工具の製造方法である。
【0092】
<摩擦攪拌接合工具>
本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具を形成するタングステン耐熱合金は、上記の構成を有するものであるが、ここで、本発明の実施形態に係るタングステン耐熱合金を用いた摩擦攪拌接合工具の構成について、
図3を参照して簡単に説明する。
【0093】
図3は本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具101を示す側面図である。
【0094】
図3に示すように、摩擦攪拌接合工具101は、接合装置の図示しない主軸と連結されるシャンク102と、接合時に接合対象物の表面と接触するショルダー部103と、接合時に接合対象物に挿入されるピン部104を有している。
【0095】
このうち、少なくともショルダー部103とピン部104の母材は、本発明に係るタングステン耐熱合金で形成される。
【0096】
また、摩擦攪拌接合工具が使用中の温度によって酸化、また接合対象物と溶着することのないように、タングステン耐熱合金の表面に周期律表IVa、Va、VIa、IIIb族元素およびC以外のIVb族元素よりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、またはこれら元素群から選択される少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物あるいは炭窒化物を含む被膜が表面に被覆されるのが好ましい。被膜層の厚さは、1〜20μmが好ましい。被膜層の厚さが1μm未満の場合は、被膜層を設けたことによる効果が期待できない。一方で、被膜層の厚さが20μm以上の場合は、過大な応力が生じ、膜が剥離する恐れがあるため、極端に歩留まりが悪くなる可能性がある。
【0097】
このような被膜(コーティング層)としては、TiC、TiN、TiCN、ZrC、ZrN、ZrCN、VC、VN、VCN、CrC、CrN、CrCN、TiAlN、TiSiN、TiCrN、並びに少なくともこれらの内の2層以上を含む多層膜を有するものが挙げられる。ここで、コーティング層の各元素の組成比率は任意に設定できる。上記TiCNも本願発明に記載のTiC
xN
1−x(x=0.3〜0.7)のX値に限定されるものではない。
【0098】
コーティング層の形成方法は、特に限定されることなく、公知の方法で被膜形成できる。代表的な方法として、アークイオンプレーティングやスパッタリングなどのPVD(Physical Vapor Deposition)処理、化学反応によりコーティングするCVD(Chemical Vapor Deposition)処理、ガス状元素をプラズマにより分解、イオン化しコーティングするプラズマCVD処理などがあるが、いずれの方法でも単層膜から多層膜まで処理可能であり、本願発明のタングステン耐熱合金を母材とした場合に、優れた密着性を発揮できる。
【0099】
このように、本発明の実施形態に係るタングステン耐熱合金はWを主成分とする第1の相1と、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、Wを除いた場合に前記炭窒化物を主成分とする第2の相2と、周期律表5A族元素の少なくとも一つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする第3の相3と、を有し、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験による破断撓みが1mm以上であり、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上である。
【0100】
そのため、本発明の実施形態に係るタングステン耐熱合金を用いた摩擦攪拌接合工具は従来よりも接合対象物(加工対象物)の高融点化に対応した耐力や硬度等の物性と実用性の双方を充足する。
【実施例】
【0101】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
【0102】
(実施例1)
まず、Wに炭窒化物としてTiCNを10体積%、5A族炭化物としてNbCを2.5体積%配合した合金を作製し、硬度の測定および曲げ試験を行った。具体的な手順は以下の通りである。
【0103】
<試料の作製>
まず、原料として、W粉末、TiCN粉末、NbC粉末を用意した。具体的には、W粉末はアライドマテリアル製の純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒径が1.2μmのものを用いた。
【0104】
さらに、TiCN粉末には、株式会社アライドマテリアル製のTiCN粉末・品種名5OR08で、純度99.9質量%以上、Fsss法による平均粒径が0.8μmのものを用いた。
【0105】
また、NbC粉末は和光純薬工業製の和光一級NbC粉末で、平均粒径が1μm〜3μmの粉末を用いた。
【0106】
次に、これらの粉末を乳鉢で混合して混合粉末を作製し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧294MPaの条件下で加圧して成形体を得た。
【0107】
次に、得られた成形体を常圧水素雰囲気下にて温度2000℃で加熱し、相対密度95%以上の焼結体を得た。
【0108】
さらに、焼結体を処理温度1600℃、Ar雰囲気下、圧力202.7MPaでHIP処理し、相対密度約99%のタングステン耐熱合金を製作した。
【0109】
次に、作製したタングステン耐熱合金について、電子顕微鏡による組織観察およびEPMAによる組織の組成分析を行った。測定条件は以下の通りである。
EPMAによる線分析の分析条件
装置 :EPMA1720H(島津製作所製)
加速電圧 :15kV
ビーム電流 :20nA
ビームサイズ :1μm
測定倍率 :5000倍
積分時間 :20s/point
図4に電子顕微鏡写真を模した図を示す。
【0110】
また、観察された組織の組成を表1に示す。なお、ここでいう組成とは、各組織中のW、Ti、Nb、C、Nの割合を示す。なお、さらにここでいう第2の相とは、Wを除けばTiCNが主成分となる相をいい、第3の相とは、Wを除けばNbCが主成分となる相をいう。第2の相においてTiCN、第3の相においてNbCが主成分となっていることを確認する方法としては、X線回折装置を用いてTiCN,NbCの回折ピークが得られることを確認する方法を用いて、化合物成分の同定を行った。
測定条件は以下の通りである。
装置:PANalytical製X線回折装置(Empyrean)
管球:Cu(KαX線回折)
ソーラースリット:0.04rad
発散スリットの開き角:1/2°
散乱スリットの開き角1°
管電流:40mA
管電圧:45kV
スキャンスピード:0.33°/min
図5に、X線回折により得られた回折ピークの例を示す。この結果により、第2の相の主成分はTiCN、第3の相の主成分はNbCであることがわかった。
【0111】
【表1】
【0112】
作製したタングステン耐熱合金には、Wを主成分とする第1の相1と、Tiの炭窒化物を有し、Wを除いた場合にTiの炭窒化物を主成分とする第2の相2と、Nbの炭化物を有し、Wを除いた場合にNbの炭化物を主成分とする第3の相3が形成されていた。
【0113】
<硬度測定>
次に、得られたタングステン耐熱合金の硬度測定を行った。
【0114】
具体的には(株)アカシ製マイクロビッカース硬度計(型番:AVK)を用い、測定圧子をダイヤモンドとし、大気中で20℃および1200℃にて測定荷重20kgを15秒間、試料に対して加えることにより、ビッカース硬度を測定した。測定点数は5点とし、平均値を算出した。結果は以下の通りである。
室温硬度:580Hv
1000℃におけるビッカース硬度:220Hv
【0115】
<高温強度測定>
次に、得られた合金の高温強度を評価した。
【0116】
摩擦攪拌接合工具は、回転しながら工具の横移動により接合を実施するため、高温での回転曲げに対する強度が必要であるが、高温回転曲げ試験は特殊である。そのためここでは単純曲げ試験により高温強度を評価した。さらに摩擦攪拌接合工具は耐変形性が要求されるため、同じ歪量での評価を実施することを目的として便宜上0.2%の歪を生じた際の応力、すなわち0.2%耐力(曲げ相当)を用いた(一般に0.2%耐力は引張試験時、降伏点が不明瞭な材料の評価に使用される)。
【0117】
0.2%耐力(曲げ相当)は、以下の手順により測定した。
まず、タングステン耐熱合金の試料片を長さ:約25mm、幅:2.5mm、厚さ:1.0mmとなるように加工し、表面を#600のSiC研磨紙を用いて研磨した。
【0118】
次に、
図6および
図7に示す模式図のように試料片11をピン13の間隔が16mmとなるようにインストロン社製高温万能試験機(型番:5867型)にセットし、Ar雰囲気下で、1200℃で、クロスヘッドスピード1mm/minでヘッド15を試料に押し付けて、3点曲げ試験を行い、0.2%耐力(曲げ相当)を測定した。0.2%耐力(曲げ相当)は、3点曲げ試験における曲げ応力と歪みを下記の式を用いて算出して応力歪み線図を描き、0.2%の永久歪みが生じる応力を解析することによって求めた。
曲げ応力=3FL/2bh
2
曲げ歪み=600sh/L
2
ここで、F:試験荷重(N)、L:支点間距離(mm)、b:試験片の幅(mm)、h:試験片の厚さ(mm)、s:たわみ量(mm)である。
【0119】
さらに、上記測定で荷重とたわみ量との関係が得られるので、破断したときのたわみ量を読み取り、靭性を評価した。ただし、たわみ量は6mm以内が装置限界であり、6mmに達した場合は測定を中断しフルベンドとして扱うことにした。
【0120】
なお、曲げ試験での0.2%耐力が得られる前(破断撓み0.4mm以下)で破断した場合を脆性破断と規定する。
結果は以下の通りである。
1200℃における3点曲げ試験での0.2%耐力:1150MPa
1200℃における3点曲げ試験での破断撓み:6mm以上(装置限界が6mm)
【0121】
この結果から、従来では困難とされていた、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1000℃におけるビッカース硬度が190Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験による破断撓みが1mm以上であり、0.2%耐力が900MPa以上であるタングステン耐熱合金が得られることが分かった。
【0122】
(比較例1)
合金の組成をW−10.5体積%TiCN−1.5体積%HfCとし、その他の条件は実施例1と同様の条件でタングステン耐熱合金の作製および試験を行った。即ち、5A族元素の炭化物を添加せず、代わりに4A族元素(Hf)の炭化物を添加したタングステン耐熱合金の作製および試験を行った。HfC粉末は、高純度化学研究所製のHfC粉末で、Fsss法による平均粒径が0.9μmの粉末を用いた。
図8に電子顕微鏡写真を模した図を示す。
【0123】
また、観察された組織の組成を表2に示す。なお、ここでいう組成とは、各組織中のW、Ti、Hf、C、Nの割合を示す。なお、さらにここでいう第2の相とは、Wを除けばTiCNが主成分となる相をいい、第3の相とは、Wを除けばHfCが主成分となる相をいう。
【0124】
【表2】
【0125】
一方で、
図8に示すように、試料は粉末形状が維持されており、焼結が進んでいないことがわかった。これは、4A族の同族の元素であるTiとHfを、それぞれ炭窒化物と炭化物の状態で添加したことにより、TiCN中の窒素の拡散および4A族の元素の互いの拡散が阻害され、焼結の進行が阻害されたためだと考えられる。
【0126】
(実施例2)
種々の組成にて合金の作製を行いその他の条件は実施例1と同様の条件でタングステン耐熱合金の作製および試験を行った。結果を表3に示す。
【0127】
なお、各相の平均粒径の制御方法は、第1の相はアライドマテリアル製のW粉末(品種名A20、B20、C20、D10、D20等)、第2の相はアライドマテリアル製 TiCN粉末(品種名5OR08、5MP15、5MP30)、また、ZrCN粉末にはアライドマテリアル製のZrCN粉末・品種名、5OV25で、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmのものを用いた。さらに、HfCN粉末は本出願人が試作した、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmの粉末を用いた。
【0128】
第3の相はVC粉末(品種名OR10)、日本新金属製のNbC粉末、TaC粉末、またはそれを粉砕した粉末を分級処理して調整した粉末を使用し、焼結時間を調整して粒成長の進行を制御する方法で行った。
【0129】
また、表3に示したタングステン耐熱合金のうち、試料番号1、15を除いたすべてのタングステン耐熱合金には、Wを主成分とする第1の相1と、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、Wを除いた場合に前記炭窒化物を主成分とする第2の相2と、周期律表5A族元素の少なくとも一つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする第3の相3が形成されていた。
【0130】
【表3】
【0131】
表より、以下の点が分かった。
まず、4A族のTi、Zr、Hfのいずれの炭窒化物を添加しても、タングステン耐熱合金の物性としてはほぼ同等のものが得られた。また、上記4A族の炭窒化物の体積%は、タングステン耐熱合金の室温硬度、高温強度および延性を高めるという観点から、さらには高温強度を高めるという観点から、5体積%以上、25体積%以下とするのが望ましく、5体積%以上、20体積%以下とするのがさらに望ましいことがわかった。
【0132】
次に、5A族のV、Nb、Taのいずれかの炭化物の体積%は、タングステン耐熱合金の室温硬度、高温強度および延性を高めるという観点から、さらには高温強度を高めるという観点から、0.5体積%以上、15体積%以下とするのが望ましく、1体積%以上、13体積%以下とするのがさらに望ましいことがわかった。
【0133】
次に、各相の結晶の平均粒径は、タングステン耐熱合金の室温硬度、高温強度および延性を高めるという観点から、さらには高温強度を高めるという観点から、0.1μm以上、10μm以下とすることが望ましく、0.5μm以上、8μm以下とするのがさらに望ましいことが分かった。
【0134】
(参考例)
これまでの実施例および比較例は組成を体積%で表してきたが、質量%で表すことも可能である。以下の例は質量%で組成を表した場合のものである。
【0135】
(参考例1)
まず、合金中の炭窒化物の含有量と合金の物性の関係を調べるために、予備試験として、Wに炭窒化物のみを添加したタングステン耐熱合金を作製し、室温硬度の測定および高温での曲げ試験を行った。具体的な手順は以下の通りである。
【0136】
<試料の作製>
まず、原料として、母材(第1の相1)としてのW粉末を、炭窒化物としてのTiCN粉末、ZrCN粉末、HfCN粉末を用意した。具体的には、W粉末はアライドマテリアル製の純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒径が1.2μmのものを用いた。
【0137】
さらに、TiCN粉末には、株式会社アライドマテリアル製のTiCN粉末・品種名5OR08で、純度99.9質量%以上、Fsss法による平均粒径が0.8μmのものを用いた。
【0138】
また、ZrCN粉末にはアライドマテリアル製のZrCN粉末・品種名、5OV25で、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmのものを用いた。
【0139】
さらに、HfCN粉末は本出願人が試作した、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmの粉末を用いた。
【0140】
成形性を促進するバインダーとしてパラフィンを用い、W粉末に対し、TiCN粉末、ZrCN粉末、HfCN粉末のいずれかを表4に示す割合で添加した。
【0141】
次に、これらの粉末を乳鉢で混合して混合粉末を作製し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧3ton/cm
3の条件下で圧縮成形し、成形体を得た。
【0142】
次に、得られた成形体を水素雰囲気下(大気圧)にて温度1900℃で加熱し、相対密度90%以上の焼結体を得た。
【0143】
さらに、焼結体を処理温度1600℃、Ar雰囲気下、圧力202.7MPaでHIP処理し、相対密度約98%のタングステン耐熱合金を製作した。
なお、作製した試料中の各元素の含有量は実施例と同様に行った。
【0144】
<硬度測定>
次に、得られたタングステン耐熱合金の硬度測定を実施例と同様の条件で行った。
結果を表4に示す。
【0145】
【表4】
【0146】
表4から明らかなように、合金中の炭窒化物の含有量が増えるに従い、炭窒化物の構成元素の一つである金属元素の含有量が高くなり、室温硬度が高くなった。
【0147】
一方で、炭窒化物の構成元素の一つである金属元素の含有量が1質量%未満の場合、合金の硬度が純タングステンの硬度(Hv400程度)と同程度であり、炭窒化物を添加する効果が十分に得られないことが分かった。
【0148】
<高温強度測定>
次に、0.2%耐力(曲げ相当)、抗析力、たわみ量を、実施例と同様の手順により測定した。
結果を表5に示す。
【0149】
【表5】
【0150】
表5から明らかなように、Wに7.6質量%を超えてTiを含有させると、脆性破断を起こすため、合金中のTiの含有量の上限は7.6質量%以下とするのがより望ましいことが分かった。
【0151】
なお、これらの試験で得られた焼結体の炭窒化物の平均粒径は0.7μm、タングステンの平均粒径は0.8μmであった。なお、炭窒化物としてZrCN、HfCNも用いた場合も、TiCNと同等の室温硬度と高温強度が得られた。
【0152】
(参考例2)
次に、炭窒化物に加えて5A族炭化物を添加してタングステン耐熱合金を作製し、合金の組織観察、各相の組成、物性測定を行った。具体的な手順は以下の通りである。
【0153】
まず、原料として、第1の相1としてのW粉末、第2の相2の炭窒化物としてのTiCN粉末、ZrCN粉末、HfCN粉末を、第3の相3の炭化物としてのNbC粉末、TaC粉末、VC粉末を用意した。
【0154】
具体的には、W粉末はアライドマテリアル製の純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒径が1.2μmのものを用いた。
【0155】
さらに、TiCN粉末には、株式会社アライドマテリアル製のTiCN粉末・品種名5OR08で、純度99.9質量%以上、Fsss法による平均粒径が0.8μmのものを用いた。
【0156】
また、ZrCN粉末にはアライドマテリアル製のZrCN粉末・品種名、5OV25で、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmのものを用いた。
【0157】
さらに、HfCN粉末は本出願人が試作した、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmの粉末を用いた。
【0158】
一方、NbC粉末としては和光純薬工業製の和光一級NbC粉末で、平均粒径が1μm〜3μmの粉末を用いた。
【0159】
また、TaC粉末としては高純度化学研究所製TaC粉末で純度99%、粒径2μmのものを用いた。
【0160】
さらに、VC粉末としては、アライドマテリアル製のVC粉末・品種名、OR10で、Fsss法による平均粒径が1.2μm以下の粉末を用いた。
【0161】
次に、上記粉末を所定の割合で乳鉢を用いて混合して混合粉末を作製し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧294MPaの条件下で圧縮成形し、成形体を得た。
【0162】
次に、得られた成形体を水素雰囲気下(大気圧)で温度1900℃または2000℃で加熱し、相対密度90%以上の焼結体を得た。
【0163】
さらに、焼結体を処理温度1600℃、Ar雰囲気下、圧力202.7MPaでHIP処理し、相対密度約99%のタングステン耐熱合金が完成した。
【0164】
作製したタングステン耐熱合金のうち、組成がW−3質量%TiCN−1質量%NbC(焼結温度2000℃または1900℃)、W−3質量%TiCN−1質量%HfC(焼結温度1900℃)の試料について、電子顕微鏡による組織観察およびEPMAによる組織の組成分析を行った。測定条件は以下の通りである。
EPMAによる線分析の分析条件
装置 :EPMA1720H(島津製作所製)
加速電圧 :15kV
ビーム電流 :20nA
ビームサイズ :1μm
測定倍率 :5000倍
積分時間 :20s/point
組成がW−3質量%TiCN−1質量%HfC(焼結温度1900℃)の試料の電子顕微鏡写真を
図9に、それぞれ示す。
【0165】
上記試料で観察された組織の組成を表6に示す。なお、ここでいう組成とは、各組織中のW、Ti、Nb、C、Nの割合を示す。
【0166】
【表6】
【0167】
図9および表6に示すように、試料には、第1の相1、第2の相2、第3の相3に加えて、第2の相2、第3の相3の周囲に別の相が観察された。
【0168】
この相の組成は第1の相1と第2の相2または第3の相3の組成の中間の組成であったため、第4の相4に該当することが分かった。
【0169】
次に、同じ組成で焼結温度2000℃の試料も作製したが、この試料では第4の相4に相当する相が観察されなかった。よって焼結温度を下げると第4の相4が現れやすくなると考えられる。
【0170】
(参考例3)
組成としてW−TiCN−NbCを選択し、TiCNの添加量を3質量%、NbCの添加量を0.1〜1質量%、焼結温度を2000℃とし、他の条件は参考例2と同様の条件でタングステン耐熱合金を作製し、参考例1および参考例2と同じ条件で室温硬度および高温強度を測定した。結果を表7に示す。
【0171】
【表7】