特許第6208947号(P6208947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208947
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】防振装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/08 20060101AFI20170925BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   F16F15/08 C
   F16F15/08 W
   B60K5/12 J
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-2612(P2013-2612)
(22)【出願日】2013年1月10日
(65)【公開番号】特開2014-134250(P2014-134250A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 隆
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−057780(JP,A)
【文献】 特開2012−116242(JP,A)
【文献】 特開2011−247332(JP,A)
【文献】 特開2010−249188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K1/00−6/12
7/00−8/00
F16F11/00−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生側部材または振動受側部材の何れか一方に取り付けられるエンジンブラケットと、
前記振動発生側部材または前記振動受側部材の何れか他方に取り付けられる第2取付け部材と、
前記エンジンブラケットと前記第2取付け部材とを接続する弾性部材とを有する防振装置であって、
前記エンジンブラケットは、
前記振動発生側部材または前記振動受側部材の何れか一方への取付け部と、
前記取付け部と一体に形成され、前記弾性部材に埋設されるとともに該弾性部材の一部が入り込む凹部を備えた埋設部とを有し、
前記弾性部材は、
前記第2取付け部材に保持されて該第2取付け部材と前記埋設部との間に配置される本体部と、前記本体部と一体に形成されるストッパ部とを有し、
前記ストッパ部は、前記埋設部を挟んで前記本体部とは反対側に配置され
前記埋設部は、主振動方向に沿って貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔は、前記本体部及び前記ストッパ部と一体の前記弾性部材で満たされていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記埋設部は、埋設部本体と、前記埋設部本体から主振動方向に沿って該第2取付け部材の側へ向けて突出する断面錐台形状の錐台部分とを備え、前記凹部は前記錐台部分の外周面に沿って設けられる請求項1記載の防振装置。
【請求項3】
前記凹部は、前記錐台部分の外周面の全周に沿って環状に形成される請求項2記載の防振装置。
【請求項4】
前記第2取付け部材は有底筒状であり、開口端に底壁側よりも径が小さい窄み部を備え、前記弾性部材の本体部は前記第2取付け部材の底壁と前記窄み部との間に配置される大径部を備える請求項1〜のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項5】
前記第2取付け部材は有底筒状であり、前記弾性部材の本体部の基端は筒状に形成され、前記第2取付け部材の底壁は本体部の側へ向けて突出するボス部を備える請求項1〜のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項6】
請求項1に記載の防振装置を製造する防振装置の製造方法であって、
前記弾性部材に前記エンジンブラケットの埋設部を埋設して前記弾性部材と前記エンジンブラケットとを一体化する一体化工程と、
前記エンジンブラケットが一体化された前記弾性部材の本体部を前記第2取付け部材に装着する装着工程と、を有することを特徴とする防振装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンマウントとして用いられる防振装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンと車体との間に設けられてエンジンの荷重を防振支持するエンジンマウントと呼ばれる防振装置が知られており、例えば特許文献1には、エンジンに取り付けられる第1取付け部材に装着されたストッパゴムが、車体に取り付けられる第2取付け部材に固定されるストッパ部材に当接することにより第1取付け部材の車両上方側への移動が規制されるようにした防振装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−247332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の防振装置では、ストッパゴムは弾性部材とは別体に形成されて第1取付け部材に装着される構成となっているので、その部品点数や製造工数が増加して防振装置の製造コストが高くなるという問題があった。
また、上記従来の防振装置では第1取付け部材を弾性部材に接着することなく、中央凸部を弾性部材の窪みに挿し入れて第1取付け部材を弾性部材に支持させる構造となっているので、第1取付け部材に大きな荷重が加わって弾性部材が大きく弾性変形すると弾性部材による第1取付け部材の保持性が低下するという問題もあった。
【0005】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものでありその目的とするところは、弾性部材によりエンジンブラケットを安定して保持することができる防振装置を、低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の防振装置は、エンジンブラケットは、振動発生側部材または振動受側部材の何れか一方への取付け部と、前記取付け部と一体に形成され、弾性部材に埋設されるとともに該弾性部材の一部が入り込む凹部を備えた埋設部とを有し、前記弾性部材は、第2取付け部材に保持されて該第2取付け部材と前記埋設部との間に配置される本体部と、前記本体部と一体に形成されるストッパ部とを有し、前記ストッパ部は、前記埋設部を挟んで前記本体部とは反対側に配置され、前記埋設部は、主振動方向に沿って貫通する貫通孔を有し、前記貫通孔は、前記本体部及び前記ストッパ部と一体の前記弾性部材で満たされていることを特徴とする。
本発明によれば、エンジンブラケットに設けた埋設部を弾性部材に埋設するとともに埋設部に設けた凹部に弾性部材の一部を入り込ませるようにしたので、エンジンブラケットを弾性部材に接着しなくても、エンジンブラケットの変位に対する弾性部材の埋設部への追従性を高めて、弾性部材によるエンジンブラケットの保持性を高めることができる。また、エンジンブラケットに設けた埋設部を弾性部材に埋設することにより弾性部材の本体部とストッパ部とを一体に構成することができるので、部品点数や製造工数を低減して防振装置の製造コストを低減することができる。したがって、弾性部材によりエンジンブラケットを安定して保持することができる防振装置を、低コストで提供することができる。
【0007】
本発明の防振装置では、前記埋設部は、埋設部本体と、前記埋設部本体から主振動方向に沿って該第2取付け部材の側へ向けて突出する断面錐台形状の錐台部分とを備え、前記凹部は前記錐台部分の外周面に沿って設けられるのが好ましい。
この構成によれば、主振動方向に直交する方向への第1取付け部材の変位に際し、錐台部分により第1取付け部材を弾性部材に強固に保持させることができるとともに、第1取付け部材と第2取付け部材との間に主振動方向に沿ってこれらを互いに接近させる方向の荷重が加えられたときには、弾性部材の本体部を錐台部分の外周面に沿って埋設部本体の側へ変位させ、当該変位した弾性部材の本体部を凹部で支持することができるので、弾性部材による第1取付け部材の保持性をさらに高めることができる。なお、主振動方向とは、第1取付け部材の埋設部と第2取付け部材とが弾性部材の本体部を挟んで接近・離反する方向である。
【0008】
本発明の防振装置では、前記凹部は、前記錐台部分の外周面の全周に沿って環状に形成されるのが好ましい。
この構成によれば、錐台部分に沿って埋設部本体の側へ潜り込んだ弾性部材の本体部を錐台部分の外周面の全周の範囲において凹部に支持させることができるので、弾性部材による第1取付け部材の保持性をさらに高めることができる。
【0009】
本発明の防振装置では、前記埋設部は主振動方向に沿って貫通する貫通孔を有する。
この構成によれば、弾性部材の、埋設部の貫通孔に入り込んだ部分により弾性部材の本体部とストッパ部とを連結して埋設部を隔てて位置する本体部とストッパ部とを連動させて弾性変形させることができるので、エンジンブラケットの変位に対する弾性部材の追従性を高めて弾性部材によるエンジンブラケットの保持性をさらに高めることができる。特に、エンジンブラケットと第2取付け部材との間に主振動方向に沿ってこれらを互いに離間させる方向の荷重が加えられたときには、弾性部材の本体部が貫通孔を介してストッパ部と連結されているので、本体部とストッパ部との間にこれらの離間を抑制する抗力が発生して、その作用が顕著となる。
【0010】
本発明の防振装置では、前記第2取付け部材は有底筒状であり、開口端に底壁側よりも径が小さい窄み部を備え、前記弾性部材の本体部は前記第2取付け部材の底壁と前記窄み部との間に配置される大径部を備えるのが好ましい。
この構成によれば、弾性部材を第2取付け部材に接着することなく当該第2取付け部材に確実に保持させることができる。
【0011】
本発明の防振装置では、前記第2取付け部材は有底筒状であり、前記弾性部材の本体部の基端は筒状に形成され、前記第2取付け部材の底壁は本体部の側へ向けて突出するボス部を備えるのが好ましい。
この構成によれば、弾性部材を第2取付け部材に接着することなく当該第2取付け部材に確実に保持させることができる。
【0012】
本発明の防振装置の製造方法は、上記防振装置を製造する防振装置の製造方法であって、前記弾性部材に前記エンジンブラケットの埋設部を埋設して前記弾性部材と前記エンジンブラケットとを一体化する一体化工程と、前記エンジンブラケットが一体化された前記弾性部材の本体部を前記第2取付け部材に装着する装着工程と、を有することを特徴とする。
この製造方法によれば、本発明の防振装置を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、弾性部材により第1取付け部材を安定して保持することができる防振装置を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施の形態であるエンジンマウントを用いたエンジンの車体への支持構造を示す断面図である。
図2図1におけるA−A線に沿う断面図である。
図3図1に示すエンジンブラケットの斜視図である。
図4図1に示すエンジンマウントの組立て手順を示す斜視図である。
図5図2に示すエンジンマウントで、ボディブラケットに窄み部とボス部とを設けた変形例を示す断面図である。
図6図2に示すエンジンマウントで、貫通孔として形成された複数の凹部をゴム体に設けた変形例を示す断面図である。
図7】ゴム体とエンジンブラケットの変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について例示説明する。
【0016】
図1は、本発明の防振装置を、その一実施の形態として自動車のエンジン1と車体2との間に設けられてエンジン1を車体2に防振支持するエンジンマウント3として構成した場合を示している。
【0017】
このエンジンマウント3は第1取付け部材としてのエンジンブラケット4を備えている。図1図3に示すように、このエンジンブラケット4は、例えば鋼材やアルミニウム合金等の金属材料により取付け部5と埋設部6とが一体となった略T字形状に形成されている。取付け部5には3つの取付け孔5aが設けられており、これらの取付け孔5aに挿通されるボルト等の図示しない締結手段によりエンジンブラケット4は取付け部5において振動発生側部材であるエンジン1に固定される。エンジンブラケット4は、エンジン1に固定された状態では、取付け部5に対して埋設部6が車両水平方向に延在する水平姿勢とされている。埋設部6の詳細については後述する。
【0018】
エンジンマウント3は第2取付け部材としてのボディブラケット7を備えている。このボディブラケット7は、例えば鋼板等の金属材料により円筒状の側壁8と、側壁8の一端に設けられて、例えば中央に貫通孔を有する底壁9とを備えた有底筒状に形成されており、側壁8の外周面には一対の脚部10が固定されている。ボディブラケット7は、これらの脚部10が溶接やかしめ等の固定手段によって車体2に固定されることにより、その開口を車両上方側に向けた姿勢で振動受側部材である車体2に取り付けられる。
【0019】
エンジンブラケット4とボディブラケット7は弾性部材としてのゴム体11により接続されている。弾性部材としては、ゴム体11に代えて熱可塑性エラストマー等で形成された部材を用いることもできる。
ゴム体11は方形状に形成されたヘッド部12を有しており、このヘッド部12の内部にはエンジンブラケット4の埋設部6が埋設されている。エンジンブラケット4はゴム体11のヘッド部12の車両水平方向の側を向く側面から突出しており、つまり、ゴム体11をその側方から支持している。
ゴム体11は、ヘッド部12からボディブラケット7の側つまり車両下方側へ向けて延在してエンジンブラケット4の埋設部6とボディブラケット7との間に配置される本体部13を一体に備えている。ゴム体11の本体部13は車両下方側へ向けて徐々に外径が拡大する円錐形状部分13aを有しており、その基端(図中では下端)は内側に空洞部13bを備えた円筒状の大径部13cとなっている。大径部13cの外径寸法はボディブラケット7の側壁8の内径寸法より僅かに大きくされており、ゴム体11は大径部13cがボディブラケット7の内部に圧入されることにより、本体部13の軸心をボディブラケット7の軸心と一致させた状態でボディブラケット7に保持されている。
【0020】
このように、ゴム体11のヘッド部12にエンジンブラケット4の埋設部6が埋設されるとともにゴム体11の本体部13に設けた大径部13cがボディブラケット7に保持されることにより、エンジンブラケット4とボディブラケット7はゴム体11により接続されている。そして、エンジンブラケット4に加わるエンジン1の荷重はボディブラケット7に保持されたゴム体11により弾性支持され、また、エンジン1の振動はゴム体11により吸収されて車体2への伝達が抑制される。つまり、エンジンブラケット4の埋設部6とボディブラケット7とがゴム体11を挟んで接近・離反する方向がこのエンジンマウント3の主振動方向であり、主振動方向の振動がゴム体11により吸収される。なお、主振動方向はボディブラケット7の軸方向と一致している。
ゴム体11の本体部13にエンジン1の荷重が加えられると、その大径部13cが径を拡大する方向に弾性変形して、ゴム体11の本体部13はボディブラケット7に確実に保持されることになる。なお、ボディブラケット7はゴム体11を支持できれば有底でなくてもよい。
【0021】
図1図2に示すように、ボディブラケット7にはストッパ部材としてのストッパブラケット14が固定されている。ストッパブラケット14は例えば鋼板等により門型に形成されており、一対の脚部14aがそれぞれボディブラケット7の脚部10に溶接やかしめ等の固定手段により固定されている。ストッパブラケット14の両脚部14aの間の部分はストッパ壁14bとなっており、このストッパ壁14bはボディブラケット7に対して車両上方側に間隔を空けて配置され、エンジンブラケット4の埋設部6の上方に架け渡されて当該埋設部6を囲っている。なお、ストッパブラケット14は、エンジンブラケット4の埋設部6の上方側の面に対向するストッパ壁14bを有するものであれば、その形状は種々変更することができる。
【0022】
エンジンブラケット4の埋設部6の上面、つまりエンジンブラケット4のボディブラケット7とは反対側を向く面を覆って配置されるゴム体11のヘッド部12の一部は、本体部13と一体に形成されたストッパ部15となっている。すなわち、ストッパ部15は埋設部6を挟んで本体部13とは反対側に配置されている。ストッパ部15は、エンジンブラケット4の埋設部6とストッパブラケット14のストッパ壁14bとの間に配置されてストッパ壁14bに当接可能となっている。このストッパ部15がストッパ壁14bに当接することにより、エンジンブラケット4のボディブラケット7から離れる方向つまり車両上方側への移動が所定の範囲に規制されるようになっている。
【0023】
エンジンマウント3によりエンジン1を車体2に確実に支持させるためには、ゴム体11にエンジンブラケット4を安定して保持させる必要がある。そのため本発明では、ゴム体11のヘッド部12に埋設されるエンジンブラケット4の埋設部6に凹部16を設け、この凹部16にゴム体11の一部を入り込ませるようにしている。
本実施の形態では、エンジンブラケット4の埋設部6は、図3に示すように直方体形状に形成された埋設部本体17を備えており、この埋設部本体17のボディブラケット7の側、つまり車両下方側を向く表面に凹部16を設けるようにしている。埋設部本体17の表面に凹部16を設け、凹部16にゴム体11の一部を入り込ませることにより、ゴム体11に対して埋設部6をずれづらくして、ゴム体11を埋設部6に接着することなくエンジンブラケット4をゴム体11に安定的に保持させることができる。
【0024】
また、本実施の形態では、埋設部6に、埋設部本体17に加えて錐台部分18を一体に設けるようにしている。錐台部分18はその軸心がボディブラケット7の軸心に一致する錐台形状に形成されており、埋設部本体17からボディブラケット7の軸方向に沿ってボディブラケット7の側つまり車両下方側へ向けて外径を漸減しつつ突出している。凹部16は埋設部本体17の表面に錐台部分18の外周面18aに沿って形成されている。本実施の形態においては、図3に示すように、凹部16は錐台部分18の外周面18aの全周に沿って環状に設けられており、つまり凹部16は錐台部分18の根元部分の全周を囲う環状溝として形成されている。なお、図3は、図1および図2に示すエンジンブラケット4を上下逆にして示したものである。
【0025】
埋設部6にボディブラケット7の軸方向に沿って突出する錐台部分18が設けられることにより、ボディブラケット7の軸方向に直交する車両水平方向へのエンジンブラケット4の変位をゴム体11に伝達し易くして、エンジンブラケット4の車両水平方向への変位をゴム体11に確実に支持させることができる。また、エンジンブラケット4に加わるエンジン1の荷重がゴム体11により弾性支持され、エンジンブラケット4の埋設部6とボディブラケット7の間のゴム体11の本体部13がボディブラケット7の軸方向に沿って縮む方向に弾性変形すると、ゴム体11の本体部13の錐台部分18の周りの部分が錐台部分18の外周面18aに沿って埋設部本体17の側へ潜り込むが、当該潜り込んだ本体部13は錐台部分18の外周面18aに沿って埋設部本体17の表面に設けられた凹部16により支持され、錐台部分18の外周面18aに沿った状態に維持されることになる。さらに、エンジンブラケット4にボディブラケット7の軸方向に直交する方向の変位が加えられても、ゴム体11の本体部13の一部が凹部16に入り込んでいるので、本体部13は埋設部6の変位に追従することができる。したがって、埋設部6をゴム体11に接着することなく、当該埋設部6のヘッド部12や本体部13に対するずれの発生を防止して、ゴム体11にエンジンブラケット4を安定して保持させることができる。
【0026】
凹部16の、埋設部本体17の表面からボディブラケット7の軸方向に沿う方向への最も深い部分までの深さ寸法は5mm以上とするのが好ましい。凹部16を5mm以上の深さとすることにより、ゴム体11の本体部13がエンジン1からの繰り返し荷重を受けて劣化し、本体部13と凹部16の内面との間に隙間が生じた場合であっても、ゴム体11が上下方向の荷重を受けたときに、本体部13が凹部16から抜け出すことを防止して、エンジンブラケット4の埋設部6がゴム体11に対してずれを生じることを確実に防止することができる。
【0027】
また、本実施の形態においては、エンジンブラケット4の埋設部6に、錐台部分18の根元部分に設けた凹部16に加えて、固定孔19をさらに設けるようにしている。この固定孔19はボディブラケット7の軸方向に沿って錐台部分18の軸心と埋設部本体17とを貫通する貫通孔に形成され、その内部にはゴム体11の一部が配置されている。固定孔19に配置されるゴム体11の一部は本体部13やストッパ部15と一体となっており、したがって、固定孔19に配置されたゴム体11の一部によりゴム体11の本体部13とストッパ部15とが埋設部6を挟んで連結されている。これにより、エンジンブラケット4の埋設部6を、埋設部6を隔てて位置する本体部13とストッパ部15との間に挟み込んで、ゴム体11の埋設部6への追従性をさらに高めることができる。
【0028】
図示する場合では、固定孔19は錐台部分18を貫通する部分の内径よりも埋設部本体17を貫通する部分の内径の方が大きくされている。これにより、例えば金型を用いた鋳造等により固定孔19を形成する際に、固定孔19を形成するために金型に設けられるピンとして根元側が太いものを用いることを可能として、当該ピンの折れを防止することができる。なお、固定孔19は全部分で内径が一定であってもよく、また、上方から下方へ向けて内径が漸減するものでもよい。
【0029】
次に、上記のような本発明の一実施の形態に係るエンジンマウント3の製造方法について説明する。
【0030】
まず、予め鋳造等により所定の形状に形成されたエンジンブラケット4を用意し、このエンジンブラケット4の埋設部6を、ゴム体11を加硫成形するための金型(不図示)の内部に配置する。この状態で金型により未加硫のゴムを加硫成形することにより、図4に示すように、エンジンブラケット4の埋設部6がヘッド部12に埋設されたエンジンブラケット4とゴム体11とが一体化された一体物を形成する(一体化工程)。一体化工程により、エンジンブラケット4の埋設部6の表面に下地処理や接着剤塗布を行なうことなく、ゴム体11をエンジンブラケット4の埋設部6に非接着で一体化することができる。
【0031】
次に、予め板金等により形成されたボディブラケット7を用意し、このボディブラケット7の内部に、圧入機等を用いて、エンジンブラケット4と一体化されたゴム体11の大径部13cを圧入する。これにより、エンジンブラケット4と一体化されたゴム体11をボディブラケット7に装着する(装着工程)。装着工程により、ゴム体11の大径部13cを、接着剤を用いることなく圧入によってボディブラケット7に装着することができる。非接着でゴム体11をボディブラケット7に装着する構成では、ゴム体11がボディブラケット7に対して擦れて異音を生じる場合があるので、当該異音を低減するために、ゴム体11として滑り性のよい自己潤滑ゴムを用いるようにしてもよい。
【0032】
このような製造方法により、エンジンブラケット4やボディブラケット7をゴム体11に接着することなく、エンジンブラケット4とボディブラケット7とをゴム体11に確実に接続することができるとともに、ゴム体11の本体部13とストッパ部15とが一体とされたエンジンマウント3を容易に製造することができる。
【0033】
装着工程に次いで、ストッパブラケット14を溶接やかしめ等の固定手段によりボディブラケット7に固定するストッパ固定工程が行なわれる。これにより、エンジンマウント3が完成する。
【0034】
このような製造方法により製造されたエンジンマウント3は、車両の組立工程において、溶接やかしめ、ねじ止め等の固定手段によりボディブラケット7がストッパブラケット14とともに車体2に固定され、次いでボルト等の締結手段を用いてエンジンブラケット4がエンジン1に固定されて車両に組み付けられることになる。
【0035】
図5図2に示すエンジンマウント3の変形例を示す断面図である。なお、図5においては前述した部材に対応する部材には同一の符号を付してある。
【0036】
図2に示すエンジンマウント3では、ボディブラケット7の側壁8は内径が一定の円筒状に形成されている。これに対して、図5に示す変形例においては、ボディブラケット7の側壁8の開口端に窄み部(すぼみ部)20を設けて、ボディブラケット7の開口端の径を小さくするようにしている。窄み部20は側壁8の開口端の全周に亘って設けられており、その内径寸法は底壁9の側における側壁8の内径寸法よりも小さくされている。したがって、窄み部20は側壁8に対して径方向内側に突出し、ボディブラケット7の開口端の径を小さくしている。
【0037】
また、ボディブラケット7の底壁9には、車両上方側へ向けて突出するボス部21が一体に設けられている。このボス部21は底壁9の軸心を中心とした円形に形成されており、本体部13の側、つまり大径部13cの内側へ向けて突出して、大径部13cの内側に嵌め込まれている。
【0038】
この変形例においては、ゴム体11の本体部13は、その大径部13cがボディブラケット7の側壁8の内面に当接し、窄み部20と底壁9との間に配置されるとともに側壁8とボス部21との間に配置されてボディブラケット7に保持されている。このように、ゴム体11の大径部13cを、その軸方向(上下方向)については窄み部20と底壁9との間で保持し、径方向については側壁8とボス部21との間で保持するようにしたので、接着材を用いることなく、ゴム体11の本体部13をボディブラケット7に確実に保持させることができる。
なお、図示する変形例では、ボディブラケット7に窄み部20とボス部21の両方を設けるようにしているが、これに限らず、ボディブラケット7に窄み部20とボス部21の何れか一方のみを設けることもできる。
【0039】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0042】
さらに、前記実施の形態においては、エンジンブラケット4の埋設部6を凹部16が形成される埋設部本体17と錐台部分18とを有する形状としているが、これに限らず、埋設部6は凹部16を有してゴム体11に埋設されるものであれば、任意の形状とすることができる。
【0043】
さらに、前記実施の形態においては、エンジンブラケット4の埋設部6に設けられる錐台部分18を錐台形状に形成するようにしているが、これに限らず、例えば図7に示すように、弾性部材であるゴム体11として主振動方向に垂直な方向に向けて埋設部本体17に沿って延びる断面一様な形状のものを用いた場合には、埋設部6の錐台部分18を、当該ゴム体11の形状に沿って延びる断面錐台形状に形成することもできる。また、この場合においても、埋設部6にこれを主振動方向に貫通する貫通孔としての固定孔19を設けることができる。
【0044】
さらに、前記実施の形態においては、エンジンブラケット4がゴム体11のヘッド部12から側方へ向けて突出する構成とされているが、これに限らず、エンジンブラケット4がゴム体11のヘッド部12からボディブラケット7の軸方向上側つまり車両上方側へ向けて突出する構成とすることもできる。この場合、エンジンブラケット4の埋設部6は、ストッパ壁14bとの間にゴム体11のストッパ部15を挟みこむことができるようにストッパ壁14bに対向する面を有する形状に形成される。
【0045】
さらに、前記実施の形態においては、凹部16を錐台部分18の外周面18aに沿って環状に形成するようにしているが、これに限らず、錐台部分18の外周面18aに沿って複数の凹部16を錐台部分18の周りに間隔を空けて配置するようにしてもよい。
【0046】
さらに、前記実施の形態においては、凹部16を錐台部分18の外周面18aに沿って環状に形成するようにしているが、凹部16は埋設部6に形成されていれば、その位置、形状等は任意に設定することができる。また、凹部16を、埋設部6を貫通する貫通孔として設けることもできる。この場合、図6に示すように、錐台部分18の外周面18aに沿って環状に形成された凹部16に加えて、またはこれに替えて錐台部分18の外周面18aに沿い、ボディブラケット7の軸方向に沿って貫通する貫通孔とされた複数の凹部16を錐台部分18の周りに間隔を空けて設けるようにしてもよい。
【0047】
さらに、前記実施の形態においては、ストッパブラケット14はボディブラケット7に固定されているが、エンジンマウント3がストッパブラケット14を除いて車体2に固定された後、ストッパブラケット14がゴム体11のストッパ部15を囲うように車体2を介してボディブラケット7に固定される構成であってもよい。
【0048】
さらに、前記実施の形態においては、ゴム体11はエンジンブラケット4およびボディブラケット7に対して非接着で保持される構成とされているが、これに限らず、ゴム体11に対するエンジンブラケット4およびボディブラケット7の追従性を高めるために、ゴム体11をエンジンブラケット4およびボディブラケット7に対して接着剤等を用いて接着する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0049】
1:エンジン(振動発生側部材) 2:車体(振動受側部材) 3:エンジンマウント(防振装置) 4:エンジンブラケット(第1取付け部材) 5:取付け部 6:埋設部 7:ボディブラケット(第2取付け部材) 9:底壁 11:ゴム体(弾性部材) 13:本体部 13c:大径部 14:ストッパブラケット(ストッパ部材) 15:ストッパ部 16:凹部 17:埋設部本体 18:錐台部分 18a:外周面 19:固定孔(貫通孔) 20:窄み部 21:ボス部
図1
図2
図3
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図5
図6
図7