特許第6208968号(P6208968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208968
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】水処理方法及び水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/48 20060101AFI20170925BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20170925BHJP
   B01F 3/04 20060101ALI20170925BHJP
   B01F 5/02 20060101ALI20170925BHJP
   G21F 9/10 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C02F1/48 B
   B01J19/08 E
   B01F3/04 A
   B01F5/02 A
   G21F9/10 A
   G21F9/10 C
   G21F9/10 G
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-80196(P2013-80196)
(22)【出願日】2013年4月8日
(65)【公開番号】特開2014-200755(P2014-200755A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】513086935
【氏名又は名称】GLOBAL ENERGY TRADE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】特許業務法人小倉特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100081695
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 正明
(74)【代理人】
【識別番号】100103414
【弁理士】
【氏名又は名称】戸村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】ルベッツ デニス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルボーフスキ ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】ペトロフ スタニスラブ
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表平09−507428(JP,A)
【文献】 特開2001−009462(JP,A)
【文献】 特開2005−293945(JP,A)
【文献】 特開平09−001379(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/018783(WO,A1)
【文献】 特開2004−351449(JP,A)
【文献】 特開2009−190003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/30、46、48、52−56
B01J 19/08
G21F 9/04−26
B01D 21/00−34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部間が所定の間隔を介して配置された複数の電極と,前記各電極を収容すると共に処理対象水を貯留又は通過させる処理槽を設け,
前記処理槽内に前記各電極の少なくとも先端部が浸漬するように前記処理対象水を導入し,該導入された処理対象水中に動作ガスをマッハ1.0〜1.5の超音速で噴射して,前記処理対象水中に分散された前記動作ガスの微小な気泡と前記処理対象水によって構成された気液二相流であるバブル噴流を生成し,
前記バブル噴流を,それぞれ交流電圧が印加された前記電極の先端部に導入することにより,前記電極間にプラズマアーク放電を生じさせることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記処理槽内に前記電極を長手方向に所定速度で給送し,前記電極の先端部間の間隔を前記所定の間隔に維持することを特徴とする請求項1記載の水処理方法。
【請求項3】
前記電極を,ハフニウム合金によって形成することを特徴とする請求項1又は2記載の水処理方法。
【請求項4】
前記分散後の気泡の直径を1〜2mmとしたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の水処理方法。
【請求項5】
前記電極に印加する交流電圧のピーク電圧に対し40〜70%の範囲にある放電開始電圧以上となったときに前記プラズマアーク放電が発生し,前記放電開始電圧未満の時,無放電で電極間電流が流れる電流密度となるよう,処理対象水に対する前記電極の接触面積を調整することを特徴とする請求項1〜いずれか1項記載の水処理方法。
【請求項6】
前記バブル噴流の噴射軸方向における流動速度を10〜50m/秒の範囲とすることを特徴とする請求項1〜いずれか1項記載の水処理方法。
【請求項7】
前記処理対象水のガス含有率が容積比で30〜90%となるよう前記ガスの噴射を行うことを特徴とする請求項1〜いずれか1項記載の水処理方法。
【請求項8】
処理対象水を入れる処理槽に,該処理槽内に複数本の電極を先端部を相互に近付けるように固定するための複数の電極挿入孔を設け,
前記電極の先端部側に向かって前記処理槽内に導入された処理対象水に動作ガスをマッハ1.0〜1.5の超音速で噴射して,前記処理対象水中に分散された前記動作ガスの微小な気泡と前記処理対象水によって構成された気液二相流であるバブル噴流を発生させるガス導入路を設けると共に,
前記バブル噴流の発生下における前記電極の先端部間にプラズマアーク放電を発生させるために必要な交流電圧を前記電極のそれぞれに印加する電圧源を備えることを特徴とする水処理装置。
【請求項9】
前記処理槽に処理対象水を導入する給水口と,処理後の水を排出する排水口を設けたことを特徴とする請求項記載の水処理装置。
【請求項10】
前記電極挿入孔を前記処理槽の壁面を貫通して設け,該電極挿入孔を介して前記電極を長手方向に所定速度で前記処理槽内に給送する電極給送装置を設けたことを特徴とする請求項8又は9記載の水処理装置。
【請求項11】
前記ガス導入路の先端に,噴射ガスを前記処理対象水中に分散させるガス気流分散器を設けたことを特徴とする請求項8〜10いずれか1項記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水処理方法及び水処理装置に関し,より詳細には,不純物を含む導電性の水を処理対象とし,この水にイオン化して含まれる重金属不純物を固形化させて除去する他,有機物の分解によるガス化,殺菌,洗浄,活性化等を行うための水処理方法,及び前記水処理方法の実施に使用する水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や有機物等の不純物を含む水の処理技術は,上下水道水の処理,工場排水の処理等において広く利用され,現在も発展を続けている。
【0003】
このような水処理技術としては,オゾン処理や電気凝集法,促進酸化法(Advanced Oxidation Technologies :AOT's)等が公知であり,また,促進酸化法によっても分解・除去できない有機化合物を分解・除去することを目的として,処理対象とする水にプラズマ放電を行う水処理技術も提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
〔オゾン処理〕
上記従来の水処理方法のうち,オゾン処理は上下水等の処理に広く使用されている処理方法であり,処理対象水にオゾンを添加することで,オゾンの強い酸化作用を利用して殺菌,脱臭,脱色等を行うものである。
【0005】
この方法では,オゾン発生器により空気中また酸素中で電気放電(グロー放電,誘電体バリア放電,コロナ放電)を行うことによりオゾンを発生させ,このようにして得たオゾンを汚染水中に酸化剤として導入する。
【0006】
しかし,この方法では,オゾンと反応を起こさない物質も多数存在するため,これらの物質を不純物として含む汚染物質の処理に使用することができない。
【0007】
また,酸化剤としてオゾンを使用することで,また,酸化剤として塩化物(クロール)を併用することで,二次化合物として発生するオゾニドや有機塩素化合物(トリハロメタン等)が,処理前の不純物よりも毒性の高い物質となる場合があるという欠点を有する。
【0008】
〔電気凝集法〕
先に挙げた水処理技術中,電気凝集法は,処理槽の中に配置された電極間に汚染水を流すことで,汚染水中の不純物を凝集,沈殿させて除去する方法である。
【0009】
この方法では,電極のうち少なくとも陽極を鉄又はアルミによって製造し,電極間に電圧を印加した際にイオン化して汚染水中に電極を溶出させることで,溶出した電極を凝集剤として利用する。
【0010】
すなわち,電極が汚染水中に溶出して生成されるアルミ又は鉄の水酸化物は,汚染水に溶解した不純物と反応して不溶解性の化合物を生成し,このようにして生成された化合物が凝集して沈殿することで,取り除きやすい状態となるのである。
【0011】
この電気凝集法によって,水に含まれる重金属イオン,石油製品,ポリマー,脂肪類,オイル類などの乳化・分散した不純物を取り除くことができる。
【0012】
〔促進酸化法〕
促進酸化法(Advanced Oxidation Technologies, AOT's)は,オゾン,紫外線,過酸化水素という複数の酸化剤を2種以上併用することにより,これらの酸化剤と水との反応によって強力な酸化作用を持つOHラジカルを生成することで,汚染物質である有機物を酸化分解反応によって除去しようというものである。
【0013】
この方法では,酸化剤として使用したオゾンや紫外線,過酸化水素は,汚染物質の分解後は酸素や水となるため二次廃棄物の発生がなく,また,OHラジカルは酸化力が非常に強く有機物の完全分解が可能で,OHラジカルは選択性が低く,ダイオキシン類や環境ホルモン,農薬等の毒性の高い有機物の分解除去にも非常に高い効果を発揮し,しかも,汚染水の殺菌,脱色,脱臭,COD低減などの効果を同時に享受できるといった利点がある。
【0014】
〔プラズマによる処理(特許文献1)〕
なお,塩素,オゾン,OHラジカルなどの強酸化剤を用いても分解することができず,また,前述した促進酸化法により,オゾン,過酸化水素,紫外線照射を組み合わせてOHラジカルを生成しても全く分解しない,難分解性有機物である有機フッ素化合物を分解することを目的として,難分解性有機物を含む液体中にガスをバブリングする気液2相流装置において,バブリングした気体内に放電プラズマを発生する高電圧電源を備えた気液2相流プラズマ処理装置も提案されており(特許文献1参照),この装置によれば,この放電プラズマによって,有機フッ素化合物のような難分解性有機物についても直接分解可能であることが説明されている(特許文献1[0029]欄)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2011−56451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上で説明した従来技術中,促進酸化法は,オゾンや過酸化水素,紫外線照射を複合的に適用することで生成したOHラジカルを利用して不純物の分解や除去を行うものであることから,これらの酸化剤を単独で利用する場合に比較して効率的にOHラジカルを生成することが可能で,その結果,高い処理効率を得ることができるものとなっている。
【0017】
しかし,この方法では,高価なオゾン発生器を必要とするだけでなく,汚染水に過酸化水素を添加したり,UVランプを設けて紫外線の照射を行う必要があり,装置構成が大掛かりとなるため,多大な初期投資が必要となる。
【0018】
しかも,汚染水の処理能力はオゾンや過酸化水素の生成効率や,UVランプの発光効率に大きく依存するために,高い処理能力を維持しようとすれば消費電力が増大するため,ランニングコストも多大なものとなる。
【0019】
これに対し,前掲の特許文献1として紹介した水処理方法では,酸素を泡の状態で導入して気液二相流体とした汚染水を電極間を通過させることで,気泡中にプラズマを生成し,このプラズマによって気泡中に発生した活性物質によって直接的に不純物の分解を行うことで,従来の水処理方法では分解できなかった難分解性の有機物についても分解できるものとなっている。
【0020】
しかし,特許文献1に記載の水処理装置では,陰極と陽極間に誘電体を介在させて放電を行っていることから,この絶縁体の存在により電荷が電極に流れ込むことがないために放電はアークとはならず,温度上昇を伴わず,強力な閃光や轟音が発生しない,「誘電体バリア放電」乃至は「無声放電」と呼ばれる放電を行うものとしているため(特許文献1[0024]欄),依然として処理能力には改善の余地がある。
【0021】
即ち,プラズマ放電時の閃光は紫外線を含み,紫外線は汚染水中の微生物や藻類を死滅させる作用があるだけでなく,酸素に乖離反応を起こさせてオゾンの生成と,OHラジカルの生成にも寄与するものである。また,閃光と共に生じる轟音による衝撃波や発熱は,微生物や藻類の死滅や有機物の分解等にも寄与するものであることから,閃光,音,温度上昇が生じる放電形式とすることができれば処理能力の一層の向上が期待できる。
【0022】
そこで本発明は,上記従来技術の欠点を解消するためになされたものであり,プラズマ放電を利用して行う水処理を,より経済的且つ効率的に行うことができ,しかも,有機物の分解による除去のみならず,重金属や放射性物質等の有機物以外の不純物についても同時に,高い除去率で除去することができる水処理方法,及び前記水処理方法の実施に使用する水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするために記載したものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0024】
上記目的を達成するために,本発明の水処理方法は,先端部間が所定の間隔を介して配置された複数の棒状等の電極20と,前記各電極20を収容すると共に処理対象水を貯留又は通過させる処理槽10を設け,
前記処理槽10内に前記各電極20の少なくとも先端部が浸漬するように前記処理対象水を導入し,該導入された処理対象水中に動作ガスをマッハ1.0〜1.5の超音速で噴射して,前記処理対象水中に分散された前記動作ガスの微小な気泡と前記処理対象水によって構成された気液二相流であるバブル噴流を生成し,
前記バブル噴流を,それぞれ交流電圧が印加された前記電極20の先端部に導入することにより,前記電極20間にプラズマアーク放電を生じさせることを特徴とする(請求項1)。
【0025】
なお,本発明において電極20とは,所定長さに形成された棒材の他,コイル状に巻き取った長尺のワイヤ等も含む。
【0026】
上記水処理方法において,前記処理槽10内に前記電極20を長手方向に所定速度で給送し,前記電極20の先端部間の間隔を前記所定の間隔に維持するようにしても良い(請求項2)。
【0027】
また,前述の電極20としては,鉄又はアルミニウムを使用しても良いが,鉄やアルミニウムではプラズマアーク放電により早く溶ける為,長時間使用が出来ないことから,好ましくはこれをハフニウム合金によって形成する(請求項3)。
【0029】
このようにして行う気泡の分散は,分散後の気泡の直径が1〜2mmとなるように行うことが好ましい(請求項)。
【0030】
更に,前記電極20に印加する交流電圧のピーク電圧に対し40〜70%の範囲にある放電開始電圧以上となったときに前記プラズマアーク放電が発生し,前記放電開始電圧未満の時,無放電で電極間電流が流れる電流密度となるよう,処理対象水に対する前記電極20の接触面積を調整する(請求項)。
【0031】
また,前述のバブル噴流の流動速度は,噴射軸方向において10〜50m/秒の範囲とすることが好ましい(請求項)。
【0032】
更に,前述の動作ガスの噴射は,処理対象水のガス含有率が容積比で30〜90%となるよう行うことが好ましい(請求項)。
【0033】
また,上記水処理方法に使用する本発明の水処理装置1は,処理対象水を入れる処理槽10に,該処理槽10内に複数本の電極20を先端部を相互に近付けるように固定するための複数の電極挿入孔15を設け,
前記電極20の先端部側に向かって前記処理槽10内に導入された処理対象水に動作ガスをマッハ1.0〜1.5の超音速で噴射して,前記処理対象水中に分散された前記動作ガスの微小な気泡と前記処理対象水によって構成された気液二相流であるバブル噴流を発生させるガス導入路13を設けると共に,
前記バブル噴流の発生下における前記電極20の先端部間にプラズマアーク放電を発生させるために必要な交流電圧を前記電極にそれぞれ印加する電圧源(図示せず)を備えることを特徴とする(請求項)。
【0034】
前記処理槽10には,処理対象水を連続的に導入する給水口11と,処理後の水を連続的に排出する排水口12を設け,前記水処理装置1で連続した水処理を行えるように構成するものとしても良く(請求項),この場合,処理槽内の流水速度は,放電範囲外の滞留時間0.5秒以下で,全工程で15秒以下とすることが好ましく,また,排水口12の排水温度は60℃以下であることが好ましい。
【0035】
更に,前述した電極挿入孔15を処理槽10の壁面を貫通して設け,該電極挿入孔15を介して前記電極20を長手方向に所定速度で前記処理槽10内に給送する電極給送装置30を設けるものとしても良い(請求項10)。
【0036】
また,前記ガス導入路13の先端には,噴射ガスを前記処理対象水中に分散させる多孔体,例えば円筒状のメッシュ等によって構成されたガス気流分散器14を設ける(請求項11)。
【発明の効果】
【0037】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の水処理方法及び水処理装置1によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0038】
処理対象水中に動作ガスを噴射してバブル噴流を形成し,このバブル噴流の発生下において絶縁破壊を生じ得る交流電圧を処理対象水と接触した電極20間に印加することで,処理水中でプラズマアーク放電を生じさせることができた。
【0039】
このプラズマアーク放電の発生により,気泡中に直接,高い活性状態の分子やラジカルを生成することで,有害な二次生成物を発生することなく,処理対象水中にイオン化して溶解している重金属を固形化することができると共に,処理対象水中の有機物の分解を同時に行うことができた。
【0040】
しかも,本発明の方法で水処理を行う場合には,従来技術として説明した促進酸化法のように,オゾン発生装置や過酸化水素,UVランプ等を使用する必要が無くなり,促進酸化法等と比較して経済的に高効率の水処理を,薬剤を使用することなく,且つ,二次生成物等の発生なしに行うことができた。
【0041】
特に,本発明ではプラズマアーク放電を生じさせることから,誘電体バリア放電(無声放電)を行う特許文献1に記載の方法とは異なり,放電に発熱や,強烈な閃光,轟音を伴うものとなっている。
【0042】
その結果,発熱,強力な紫外線照射,轟音に伴う衝撃波の発生に伴い処理対象水中の微生物や藻類の死滅,有機,無機不純物の分解等の効果についても複合的に享受することができると共に,閃光の発生の伴う強力な紫外線照射により,OHラジカル等の生成をより一層促進させることができ,プラズマアーク放電に伴い発生するエネルギーを包括的に水処理に利用することができた。
【0043】
なお,電極としてハフニウム合金電極を使用する場合,イオン化して溶解している重金属の固形化と有機物の分解が同時に得られるだけでなく,プラズマアーク放電の発生によっても電極が溶解し難く,長時間連続して安定的に処理を行うことができるためコスト面でも有利である。
【0044】
一方,鉄やアルミニウムなどの溶解性の電極を使用する場合には,プラズマアーク放電によって電極が溶解するものの,電極の成分が処理対象水中に溶出し,溶出した電極成分が処理対象水中に溶解している不純物に対する凝集剤の役割を果たすことで,遠心分離や濾過を行わない場合であっても,凝集と沈殿によって重金属や放射性物質等の有機物以外の不純物の除去速度を向上させることができた。
【0045】
なお,ハフニウム合金製の電極を使用する場合には,本発明の水処理装置を通過させて重金属の固形化を行った後,遠心分離や濾過により固形化した不純物を除去することで,固形化した不純物の自然な沈殿を待つ場合に比較して格段に処理速度を向上することができ,また,鉄やアルミニウム製の電極を使用する場合であっても,不純物の凝集後,遠心分離や濾過によって凝集した不純物を除去することで,より一層の処理時間の短縮を図ることができる。
【0046】
ここで,従来技術として説明した「電気凝集法」においても,溶出した電極の成分によって液体中に溶解した不純物を凝集することができるものとなっているが,本発明の方法では,鉄やアルミニウムなどの溶解性の電極を使用する場合,電気凝集法とは異なり,交流電圧の印加に伴うプラズマアーク放電の発生により,各電極は,電圧の半周期において陽極となっている時に電気分解によって液体中に溶出するだけでなく,電圧の別の半周期において陰極になっている時にも,プラズマアーク放電に伴い蒸発して液体中に多量に溶出することから,電気凝集法とは比較にならない程の高い処理効率を実現できるものとなっている。
【0047】
更に,電極給送装置30を設け,処理槽10内に前記電極20を長手方向に所定速度で給送するようにした場合には,溶解性の電極を使用した場合であっても,電極20を所定速度で処理槽10内に送り込むことで,電極20の先端部間の間隔を一定の間隔に維持することができ,これによりプラズマアーク放電を安定的に行わせることができた。その結果,処理能力の安定した水処理方法及び水処理装置1を提供することができた。
【0048】
なお,本発明において電極給送装置30は必ずしも設ける必要は無く,電極20は位置固定した状態で取り付けるものとしても良い。この場合には,電極20はハフニウム合金を使用する事で長時間の使用に耐えることができる。また,鉄又はアルミニウム製の電極を使用した場合に於いては溶出や蒸発に伴う電極間距離の変動に対し,電極電圧を変化させることで対応するものとしても良い。
【0049】
動作ガスの噴射をマッハ1.0〜1.5の超音速で行うと共に,ガス気流分散器14によって分散することで,バブル噴流を長距離安定的に維持することができ,電極20間に微細な気泡が形成された処理対象水を導入することができた。
【0050】
気泡の直径を1〜2mmと比較的小さなものとすることで,気泡と処理対象水界面の表面積を増大させることができ,プラズマアーク放電によって気泡内に生成された活性物質が処理対象水中に拡散し易くなり,水処理効率を更に向上させることができる。
【0051】
絶縁破壊は,電流密度に関連し,電流密度は,処理対象水と電極20の接触面積と関連することから,電極20と処理対象水との接触面積を適切に調整することにより,プラズマアーク放電の開始電圧を,交流電圧のピーク値に対し40〜70%の電圧値の範囲で好適に設定することができる。
【0052】
前記バブル噴流の移動速度を,10〜50m/秒の範囲で設定する場合には,絶縁破壊によるプラズマアーク放電が生じる電極20間のエリアに,バブル噴流を微細な気泡を含んだ状態で確実に導入することが可能である。
【0053】
また,処理対象水のガス含有率を容積比で30〜90%の範囲とすることで,水処理時における有機物の高い分解能を発揮させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明の水処理装置(装置構成1)の正面断面図。
図2】本発明の水処理装置(装置構成2)の正面断面図。
図3図2のIII−III線断面図。
図4】本発明の水処理装置(装置構成3)の正面断面図。
図5】本発明の水処理装置(装置構成4)の正面断面図。
図6図5のVI−VI線断面図。
図7】ガス噴流の噴射方向における圧力変化を示すグラフ。
図8】電極間電圧,電極間電流のオシロ波形を示す図面代用写真。
図9】電極間電圧,電極間電流のオシロ波形を示す図面代用写真。
図10】電極間距離及び処理対象水の導電率と電極電圧の相関図。
図11】電流密度と絶縁破壊状態の関係を示した説明図。
図12】処理対象水のガス含有率と絶縁破壊電圧の相関図。
図13】処理対象水の脱色試験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0055】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0056】
〔水処理装置の構成〕
装置構成1(図1参照)
図1中の符号1は,本発明の水処理装置を示し,図示の実施形態にあっては,この水処理装置1を,流動する処理対象水に対し連続的に処理を行うことができる連続式のものとして構成しているが,例えば本発明の水処理装置1は,これをバッチ式のものとして構成しても良い。
【0057】
この水処理装置1は,処理対象水が導入される処理槽10と,この処理槽10内に先端を鋭角又は円錐状とした棒状の電極20を給送するための電極給送装置30,及び,前記電極20に対し交流電圧を印加する,図示せざる交流電圧源によって構成されている。
【0058】
前述の処理槽10は,図示の実施形態にあっては両端が塞がれた円筒体によって構成されており,この円筒状の処理槽10の一端側(図1中の紙面下側)に,処理対象水を導入するための給水口11が設けられていると共に,処理槽10の他端側(図1中の紙面上側)に,処理槽10内を通過して処理された水を,反応によって生成された凝集物及び気泡と共に排出する排水口12が設けられており,処理槽10内に処理対象水を連続して給水すると共に排水することで,処理槽10内を軸線方向に処理対象水が通過するようになっている。
【0059】
この処理槽10の前記給水口11を設けた側の端部には,給水口11を中心として対称の位置に,一対のガス導入路13,13が設けられており,このガス導入路13,13を介して,処理槽10内の処理対象水に,一例として空気や炭酸ガス,又はこれらの混合ガスを動作ガスとして吹き込むことにより,処理槽10内の水と動作ガスの気泡とによって構成された,気液二相流であるバブル噴流を生成することができるように構成している。
【0060】
このガス導入路13の先端には,多孔体,例えば円筒状のメッシュによって構成されたガス気流分散器14が取り付けられており,ガス導入路13を介して処理槽10内に噴射されたガスは,このガス気流分散器14を通過する際に細かな気泡に粉砕されて処理水中に分散できるように構成されている。
【0061】
このガス導入路13によるガスの噴射方向前方には,処理槽10の側壁を貫通して形成された電極挿入孔15が開口しており,この電極挿入孔15内に,処理槽10の外側から内部に向かって電極20を挿入することで,電極20の先端を,処理槽10内の空間に突出させることができようになっている。
【0062】
この電極20は,一例として処理槽10の中心軸に対する角度θを30°〜90°,好ましくは45°〜90°の傾きで配置されており,図示の実施形態にあっては,処理槽10の中心軸に対し約70°の傾きで先端が上向きとなるように挿入されている。
【0063】
この電極挿入孔15は,平面視においてガス導入路の形成位置の真上に設けることが好ましく,従って電極挿入孔15を対象の位置に二箇所設けた図示の実施形態にあっては,ガス導入路13についても二箇所設け,処理槽10内に二筋のバブル噴流が生成されるように構成されている。
【0064】
なお,図1中の符号30は,前述の電極20を処理槽10内に所定の速度で給送する電極給送装置であり,この電極給送装置30を処理槽10の外部に,各電極挿入孔15の形成位置に対応して設けている。
【0065】
図示の例では,一対のローラ31,32間に電極20を挟持すると共に,この状態でローラ31,32の少なくとも一方を図示せざるモータ等で回転駆動することで,ローラ31,32を駆動するモータの回転速度を制御することにより,電極20を所望の速度で処理槽10内に定量給送することができるようになっている。
【0066】
なお,前述した電極20は,図示の例では一定の長さに形成された円柱状の棒として表しているが,この構成に代え,例えばコイル状に巻かれた長尺のワイヤ状の電極を引き出しながら処理槽10内に給送するものとしても良い。
【0067】
装置構成2(図2,3参照)
図1に示した水処理装置1にあっては,前述のガス導入路13,電極挿入孔15,及び電極給送装置30を,処理槽10の周方向に180°毎の等間隔でそれぞれ2個ずつ設けるものとしたが,例えば図2及び図3に示すように,これらの部材を120°毎の等間隔でそれぞれ3個ずつ設けるものとし,処理槽10内に三筋のバブル噴流を形成すると共に,電極挿入孔15に挿入された電極に三相交流電圧を印加するものとしても良く,更に,図示は省略するが,これらの部材は,3個以上設けるものであっても良く,この場合,単層交流電源を使用する場合には各部を2の倍数で,三相交流電源を使用する場合には3の倍数として設ける。
【0068】
装置構成3(図4参照)
以上,図1〜3を参照して説明した水処理装置1の構成例にあっては,電極20を処理槽10の側面より処理槽10の中心軸に先端を向けて挿入する構成例を説明したが,この構成に変え,図4に示すように,処理槽10の一端及び他端より,電極20を処理槽10の長手方向に挿入するように構成するものとしても良い。
【0069】
図4に示す例では,処理槽10の下端に給水口11を,上端に排水口12を設けると共に,処理槽の下端側にガス導入路13を設け,このガス導入路13を電極20の先端間を介して,排水口12に向けて配置している。
【0070】
装置構成4(図5,6参照)
なお,図4を参照して説明した水処理装置1にあっては,処理槽10の下端側にのみ単一のガス導入路13を設けた構成としているが,この構成に代え,図5及び図6に示すように,ガス導入路13を処理槽の上下端にそれぞれ設けるものとしても良い。
【0071】
また,図4に示した構成では,処理対象水を,処理槽10の下端側から導入して上端側より排出するものとしていたが,図5,6に示す実施形態では,処理槽の上下端にそれぞれ給水口11を設けると共に,処理槽10の長手方向の中心位置の側壁より,処理槽10外に処理後の水を排出する排水口12を形成している。
【0072】
図5,6に示す実施形態にあっては,処理槽10の長手方向の中間位置において,処理槽10の内壁に周方向に連続する溝16を形成し,この溝16内に前述の排水口12を連通している。
【0073】
〔水処理方法〕
以上で説明した本発明の水処理装置1を使用して,本発明の水処理方法を実施することができる。なお,以下の説明において,特に説明が無い場合,水処理装置1は図1に示した構成のものを使用することを前提として説明する。
【0074】
処理槽10の下端側に設けた給水口11を介して処理槽10内に処理対象水を導入して処理槽10内を処理対象水で満たすと共に,この処理槽10内の処理対象水に対し,処理槽10の下端側に設けられたガス導入路13よりガス気流分散器14を介して動作ガス(例えば空気,炭酸ガスまたこれらの混合ガス)を噴射して供給する。
【0075】
動作ガスの噴射は,処理対象水中のガス含有率が,容積比で30〜90%となるように行い,またガス気流分散器14に至る前の,ガス導入路13内におけるガスの流速が,マッハ1.0〜1.5となるように行う。
【0076】
このようにして,処理槽10内の処理対象水に動作ガスを噴射すると,ガス気流分散器14の前方には,処理槽10中の処理対象水と噴射されたガスの気泡によって形成された気液二相流であるバブル噴流が生成されると共に,このバブル噴流の流れは,処理槽10の内壁に沿って上昇し,電極20の先端部方向に向かう流れとなる。
【0077】
電極20に向けたバブル噴流の噴射軸方向の速度は,好ましくは10〜50m/秒であり,バブル噴流は電極20を冷却しながら,電極20の先端部間の間隔に導入される。
【0078】
このとき気泡は,処理槽10内の処理対象水中に均等に分散されており,電極20間に構成された放電エリアを連続的に通過し,処理槽10の上端部側に設けられた排水口12まで流れて,処理槽外に排出される。
【0079】
処理対象水中の気泡は,排水口12に到達する前に結合して大きくなり,ランダムな形状に変化する。
【0080】
本発明の方法では,多様な処理の組み合わせにより,物理的影響,運動条件の安定化を図ることで,水処理における経済性と処理能力の向上を図っている。その一例として,超音速のガス噴流において動作ガスの分散を生じさせている。
【0081】
このように,処理対象水に対して動作ガスを超音速で吹き込むことにより,気−液が一体化した噴流が成形され,動作ガスの移動速度減少と液体の摂動により,成形された噴流が粉砕される(図7)。
【0082】
処理対象水へ流れ込む動作ガスの速度が速い場合,ガス流入域における処理対象水の運動は激しくなり,ガス噴流の粉砕により気−液の混合が生じた二相流(処理対象水が不純物微粒子を含む場合には気−液−固体の三相流)が起きる。ガス気流分散器14の直前において形成される気泡の標準的な大きさはガス気流分散器14内に位置してノズル状に開口するガス導入路13の直径に比例し,動作ガスの噴流と液体との境界部分に生じる大きな乱流の発生を抑制するために,ガス導入路13の先端に,ガス気流分散器14となる円筒形のメッシュを取り付ける。
【0083】
このとき,動作ガスの流入速度をマッハ1.0未満にすると,ガス噴流の流入部における速度が下がるため,バブル噴流の形成距離が急激に減少する。マッハ数が1.5を越える場合,ガス噴流の導入初期のエリアにおいて波動が増大することにより大きな乱流を起こし,この場合にもバブル噴流の形成距離が急激に減少することから,ガス流入速度はマッハ1.0〜1.5とすることが好ましい。
【0084】
このように,バブル噴流の形成距離が減少することを防止する対策を行うことで,処理槽10内の電極20間を直径1〜2mm程度の気泡で均等的に埋め尽くすことができる。
【0085】
ガス気流分散器14により成形したバブル噴流は,処理槽10内の壁面に沿って広がるように電極20の方へ流れて行く(但し,処理槽10の内壁面周辺には気泡が集まらないため,壁面での気泡の通過頻度は略0となる)。
【0086】
噴流の特性(コアンダ効果)により,処理対象水は処理槽10の内壁面に沿って流れ,壁面より突出した電極20に当たり,電極20の表面に沿って流れる。その結果,処理対象水中の気泡は,電極20の先端部間に流れ込み,気泡が処理対象水を均質に埋めるようになる。
【0087】
本発明の方法において,処理対象水が電極20の表面と接触し,また電極20の先端部間に気泡が存在する事により,水の分子構造を破壊することなく,液体から電極への連続的な電流をイオン化により無放電状態で発生させることができる。これにより,絶縁破壊を起こす前提条件を整える事ができる。
【0088】
電極部分に向けたバブル噴流の噴射軸方向の流動速度は10〜50m/秒の範囲となるように設定することが好ましく,その理由は,この流速範囲であれば絶縁破壊によるアーク放電が行われる電極間の領域に,気泡を含んだバブル噴流を確実に導入することができるためである。
【0089】
処理槽10内に突出する電極20の先端間の間隔を適切に設定することで,プラズマアーク放電を制御して安定的に発生させることができる。また,電極として鉄やアルミニウムなどの溶解性の電極を使用する場合,電極20が交流電圧の半周期において陽極として作用するとき,電極材料は液体中に均等に溶出するだけでなく,更なる半周期において陰極として作用している時においても,プラズマアーク放電の発生に伴い電極材料が蒸発して液体中に溶出する。その結果,このようにして液体中に溶出した電極材料が,液体中に溶解している不純物を凝集,沈殿させる凝集剤として作用し,本発明の方法では,液体中に溶解している重金属や放射性物質等の無機不純物を固形化させるだけでなく,凝集,沈殿させることにより除去することが可能となっている。
【0090】
交流電圧のピーク値に対し,40〜70%の電圧値である放電開始電圧以上となったとき,印加する交流電圧の半周期毎に絶縁破壊が起こりアーク放電が発生し,前記放電開始圧力未満の電圧の状態において,無放電による電極間電流の発生を確保する事は,本発明の重要な特徴である。
【0091】
この条件は,印加する電圧の周波数に関係が無い事を,50−5000−30000Hzの周波数を使用して実験により確認している。
【0092】
処理対象水の導電率は30〜500mS/mで,電圧の設定及び電極間距離は,処理対象水の導電率に関連して変化する。処理対象水と接触する電極の面積は,絶縁破壊の前提になる電流密度に関連して設定する。
【0093】
図8及び図9に,電源の周波数を50Hzとした水処理装置1における電圧及び電流のオシロ波形を示す。
【0094】
図8及び図9中の電流波形より,絶縁破壊後の拡散放電が発生していることが確認できる。この放電では,電流が高パルス化し高周波成分を含むものとなる点に特徴がある。その理由は,気泡表面における0.00001〜0.000001秒アーク放電時間のアークが多数発生・消滅するためであり,このような気泡表面の超高速な局部加熱と冷却により,平均濃度よりかなり高濃度の励起子(分子が格子振動している変形可能な格子を伝播する)や遊離基が発生する。
【0095】
なお,図8及び図9の波形より,図示の例では放電開始電圧が,交流電圧のピーク値に対し約60%の電圧値となっていることが判る。
【0096】
図10に,電極間距離及び処理対象水の導電率と電極電圧の相関図を示す。図10より電極間距離が増大する程,電極電圧は増大し,処理対象水の導電率が増大する程,電極電圧は低下する。
【0097】
従って,処理対象とする液体の導電率との相対的な関係により電極間距離及び電圧値を調整することで,効率的且つ経済的に水処理を行うことができる。
【0098】
一例として,図10に示す例において,液体の伝導率が150mS/mの場合,電圧は1800Vであり,この電圧1800Vに対応する電極間距離は25mmである。
【0099】
また,電極給送装置30を設けることなく電極20を固定式とした場合には,ハフニウム合金によって構成された電極を使用して電極間距離が一定間隔となるようにしても良く,また,鉄やアルミニウム製の溶解性の電極を固定式で使用する場合には,上記の対応関係に従い,電極20の蒸発等に伴う電極間距離の増加に対応して電極電圧を上昇させる。
【0100】
図11は,電流密度と液体中の電極間に生じる絶縁破壊状態の相関図である。
【0101】
絶縁破壊の様子は目視にて確認し,計算にあたり各パラメーターはオシロスコープの表示より求めた。
【0102】
電流密度の計算は,オシロスコープに表示された電流値を,処理対象水中に露出している電極の表面面積で割ることにより求めた。
【0103】
電極間と電極表面付近に起こる絶縁破壊条件は異なり,電極間の絶縁破壊はバブルガスの気泡内表面に起こり,次に,気泡内表面を通じて液体に繋がりながら広がっていく。
【0104】
気泡は電極表面で弾き返される為,電極付近の境界層にも絶縁破壊が起こる。電極付近の絶縁破壊は重要で,本発明の特徴にはこの点も含まれる。
【0105】
図11に示す結果は,直径2.5mmのスチールワイヤを電極として使用し,装置の稼動モードにおいて,電圧:1500〜2500V,電流:4А,液体の電気伝導率:150mS/m,電極間隔:35mm,液体中のガス体積含有率:75%とし,電極はバブルガス噴流と平行に配置し,液中に対する電極の露出長さを1mmから40mm(表面面積を7.85mm2から314mm2)まで変動させて,電流密度を0.51А/mm2から0.0127А/mm2まで変化させ,絶縁破壊状態を目視で確認したものである。
【0106】
図12に,液体のガス含有率と絶縁破壊電圧の相関図を示す。図12より,絶縁破壊の電圧は,実験を行ったガス含有率の範囲において殆ど変化が見られないことが確認された。
【0107】
本発明の水処理方法では,飽和状態を超える高活性物質を気泡内に大量に発生させる事により,気泡表面より液体中に高活性物質を拡散させ,これにより処理対象とする液体中にイオン化して溶け込む不純物を固形化して除去し易い状態にすると共に,有機化合物の分解によるガス化,殺菌,漂白等の処理を好適に行うことができる。
【0108】
特に,電極として鉄又はアルミを使用して,プラズマアーク放電により電極を処理対象水中に凝集剤として大量に溶解させることで,不純物の凝集や沈殿をも伴う複合的な作用によって液体の処理を行うことができる。
【0109】
その結果,本発明の方法では,従来の処理プロセスよりも処理能力が格段に向上することとなるため,本発明の方法は,液体の電気化学方式処理として万能な方法である。
【0110】
また,本発明の方法による水処理では,副生成物(環境汚染を発生させる二次生成物)が発生しないことも特徴である。本発明の放電動作条件による場合,ガス相及び水溶液相におけるオゾン濃度は3%まで下がり,この数値は,商業化において非常に大事な数値となる。
【0111】
オゾンは気泡中に発生し,気泡より水の中に入り込むが,1秒またそれ以下の短命であり,OHラジカル等を発生させるためには,放電を水溶液の気泡表面付近に発生させなければならない。
【0112】
本発明の方法で使用する拡散プラズマアーク放電によれば,寿命1秒以下となるオゾン化・水酸化混合物が発生する。従って,処理槽内における液体の滞留時間は1秒以上であれば良く,液体中に発生させる活性物質量が,本発明の水処理の経済性及び処理能力に影響を及ぼすため,本発明において活性物質の発生量向上は,重要な課題の1つである。
【0113】
ここで,プラズマアーク放電によって生成された活性物質には,気泡から処理対象水中に拡散して処理対象水に溶解した物質を酸化あるいは還元させるものと,ガスの気泡から出ることなく,従って,不純物を酸化等させることなくそのまま自然消滅してしまうものがある。
【0114】
そのため,ガスの気泡内で自然消滅してしまう活性物質を減らし,気泡内から液体中に拡散して不純物の酸化等を行う活性物質量を増加させる条件を見出すことができれば,本発明の水処理を,一層経済的且つ効率的に行うことが可能となる。
【0115】
図13は,上記発想の下,処理対象水のガス含有率を変化させることにより,液体中に溶解する有機物の分解時間がどのように変化するかを測定した結果を示したものである。
【0116】
この実験における処理対象水は,オレンジ色の着色剤を溶解した水(濃度0.5%以下のC161242S水溶液)であり,処理対象水のガス含有量を変化させて上記水溶液の脱色時間がどのように変化するかを測定した。
【0117】
図13の結果より,処理対象水に対して動作ガスの噴射を行っていない状態から,ガス含有率を徐々に上昇させていくと,脱色時間は徐々に減少し,従って,有機物の分解能が向上することが確認された。
【0118】
この脱色時間の減少は,ガス含有率が約60%となった時にピークを迎え,その後,ガス含有率を増加させると,脱色時間は徐々に長くなり,有機物の分解能が低下することが確認された。
【0119】
上記の結果は,ガス含有率が60%に対して大幅に低い場合,気泡中の活性物質の濃度が高くなり過ぎ,活性物質の自然消滅速度が速くなって液体中の不純物の分解や固形化による除去に貢献しない活性物質が増える結果処理能力が低下する一方,ガス含有率60%に対し大幅に高いガス含有率とした場合には,個々の気泡中で生成される活性物質の濃度が低くなり過ぎ,気泡から液体中に拡散して入り込む活性物質の量が減少するため,液体中に溶解した物質を酸化等させる作用が低下するためであると考えられる。
【0120】
因って,液体中のガス含有量は,60%に近付く程高い効果を得ることかでき,ガス濃度の好適な範囲は,上記条件において一例として脱色時間16秒以下を達成できた30〜90%の範囲とすることが好ましい。
【0121】
ここで,前述した液体のガス含有量からも判るように,液体の処理効率の向上を得ようとした場合,ガスの気泡中で発生した活性物質をより多く液体中に拡散させることが重要であることが判る。
【0122】
このような活性物質の拡散は,気泡と液体との境界の表面積に影響され,境界表面積が大きくなる程,活性物質は液体中に拡散し易いものとなる。
【0123】
そのため,本発明の水処理装置にあっては,ガス気泡の大きさを微小なものとすることで,気液界面の表面積を増大させるものとしており,このような微小な気泡を発生させることができるようにするために,ガス噴射口の前方に円筒状メッシュ等からなるガス気流分散器14を配置する等して,放電エリアや処理槽10内の液体の流れの中に於いてガス気泡の大きさが最小限のものとなるよう,装置構成についても工夫をすることで,液体の処理に貢献することなく消滅する活性物質を減少させて処理効率の向上を図っている。
【0124】
また,処理槽10内で乱流により生じる気泡の粉砕,プラズマアーク放電によって生ずる気泡の熱膨張による表面張力の減少,気泡内圧力の増加等により,気泡の粉砕が活発化し,液体中に対する活性物質の拡散を促すことができるものとなっている。
【0125】
本発明の水処理方法では,前述したようにプラズマアーク放電によって気泡中に発生した活性物質を利用して有機物の分解を行うだけでなく,液体中に溶解している重金属や放射性物質等の不純物についても固形化して除去できるものである点を特徴の1つとするものであることは既に述べた。
【0126】
このように,本発明の水処理方法には重金属や放射性物質の除去能があることを確認するために,本発明の水処理装置を使用して,処理対象水中に溶解した重金属塩(表1参照)と,放射性物質(表2〜4)の除去試験を行った。
【0127】
重金属の除去試験
重金属を含む水を,本発明の水処理装置を通過させて処理した結果を表1に示す。なお,本試験例ではハフニウム合金製の電極を備えた水処理装置を使用し,該水処理装置を通過させた後の処理対象水を濾材(綿製)にて濾過して固形化した重金属を除去した。
【0128】
【表1】
【0129】
以上の結果から,本発明の水処理装置を使用して水処理を行う場合には,液体中に溶解した重金属についても極めて高い除去率で好適に除去できることが確認された。
【0130】
放射性物質の除去試験
放射性物質を含む水を処理対象とし,本発明の水処理装置を通過させて不純物を固形化し,除去した後の放射性物質残存状態を測定した結果を,表2〜4に示す。
【0131】
【表2】
【0132】
【表3】
【表4】
【0133】
以上の結果,本発明の水処理方法によれば,液体中に含まれる放射性物質の除去についても好適に行うことができることが確認された。
【符号の説明】
【0134】
1 水処理装置
10 処理槽
11 給水口
12 排水口
13 ガス導入路
14 ガス気流分散器
15 電極挿入孔
16 溝
20 電極
30 電極給送装置
31,32 ローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13