(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208984
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】塗装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20170925BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20170925BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20170925BHJP
E04F 13/02 20060101ALI20170925BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20170925BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B18/00 C
B32B27/30 A
E04F13/02 C
B05D7/00 C
B05D7/24 302P
B05D7/24 302K
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-120768(P2013-120768)
(22)【出願日】2013年6月7日
(65)【公開番号】特開2014-237255(P2014-237255A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】503367376
【氏名又は名称】ケイミュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(74)【代理人】
【識別番号】100155745
【弁理士】
【氏名又は名称】水尻 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100143465
【弁理士】
【氏名又は名称】竹尾 由重
(74)【代理人】
【識別番号】100155756
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136696
【弁理士】
【氏名又は名称】時岡 恭平
(74)【代理人】
【識別番号】100162248
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 豊
(72)【発明者】
【氏名】榎本 孝之
【審査官】
横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第02/083326(WO,A1)
【文献】
特開平09−253576(JP,A)
【文献】
特開平2−22366(JP,A)
【文献】
特開2008−74908(JP,A)
【文献】
特開平4−351671(JP,A)
【文献】
特開昭61−166808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00−7/26
E04F 13/00−13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窯業系基材と、
アクリル樹脂系の塗料から形成される塗料層と
を備える塗装体であって、
前記塗料層が10〜20質量%の範囲内の塩化ビニリデン樹脂粉を含有し、
前記塩化ビニリデン樹脂粉が、塩化ビニリデン樹脂を粉砕して磨り潰したものであることを特徴とする塗装体。
【請求項2】
前記塩化ビニリデン樹脂粉の平均粒径が、2〜30μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窯業系基材に塗膜を形成した塗装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、窯業系基材に塗膜を形成して得られる塗装体は、外壁材として、広く利用されている。外壁材には、その下地を隠蔽するため、着色塗装が施される。また、着色塗料として、耐久性に優れ且つ外観意匠性の向上に寄与可能なアクリルエマルション樹脂系のエナメル塗料が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−246340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防災意識の高まりにより、外壁材の耐火性・防火性のさらなる向上が求められている。
【0005】
また、外壁材の耐火性・防火性は、窯業系基材自体が難燃性であることから、窯業系基材に形成される塗膜の組成によって左右される。
【0006】
しかしながら、塗膜を形成するためにアクリルエマルション樹脂系のエナメル塗料を用いると、アクリルエマルション樹脂系のエナメル塗料が有機系の塗料であるために、塗膜の燃焼時の発熱量が増加してしまい、耐火性・防火性を阻害するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、アクリル樹脂系塗料から形成された塗膜を備え、且つ、この塗膜の燃焼時の発熱量が低減された塗装体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る塗装体は、窯業系基材と、アクリル樹脂系の塗料から形成される塗料層とを備える塗装体であって、前記塗料層が10〜20質量%の範囲内の塩化ビニリデン樹脂粉を含有
し、前記塩化ビニリデン樹脂粉が、塩化ビニリデン樹脂を粉砕して磨り潰したものであることを特徴とするものである。
【0009】
本発明にあっては、前記塩化ビニリデン樹脂粉の平均粒径が、2〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、塗料層の燃焼時に、塗料層中の塩化ビニリデン樹脂粉から不活性ガスが発生するため、塗料層の燃焼が抑制され、発熱量も抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る塗装体1は、窯業系基材11と、アクリル樹脂系の塗料から形成される塗料層13とを備える。
【0013】
本発明では、塗料層13がアクリル樹脂系の塗料から形成されるため、耐久性、外観に優れる。
【0014】
本発明では、塗料層13が10〜20質量%の範囲内の塩化ビニリデン樹脂粉を含有するため、塗料層13の燃焼時に、塩化ビニリデンの樹脂から不活性ガスが発生することで、塗料層13の燃焼が抑制され、発熱量も抑制される。
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
本実施形態の塗装体1は、
図1に示すように、窯業系基材11と塗料層13とを備える。
【0017】
また、塗装体1は、塗料層13以外の一以上の層を更に備えてもよい。本実施形態では、窯業系基材11と塗料層13との間に、下塗層12が形成される。勿論、窯業系基材11の上に直接、塗料層13が積層してもよい。
【0018】
窯業系基材11は、例えば、無機質硬化体の原料となる水硬性膠着材に対して、無機充填剤、繊維質材料等を配合し、これを成形後、養生硬化させることで得られる。水硬性膠着材は、特に限定されるものではないが、例えば、ポルトランドセメント、高炉セメント、高炉スラグ、ケイ酸カルシウム及び石膏からなる群から選択される一種以上の材料を含有することができる。また、無機充填剤は、例えば、フライアッシュ、ミクロシリカ及び珪砂からなる群から選択される一種以上の材料を含有することができる。また、繊維質材料は、例えば、パルプ、合成繊維等の無機繊維、スチールファイバー等の金属繊維から選択される一種以上の材料を含有することができる。また、成形方法は、例えば、押出成形、注型成形、抄造成形、プレス成形等から選択される。窯業系基材11の成形後には、必要に応じてオートクレーブ養生、蒸気養生、常温養生等を行う。
【0019】
下塗層12は、窯業系基材11の表面上に形成され、窯業系基材11の表面上に凹凸等がある場合の目止め及び窯業系基材11と塗料層13との密着性の確保を為す。
【0020】
下塗層12は、下塗塗料から形成される。下塗塗料は、アクリル樹脂系の塗料であることが好ましい。下塗塗料として、例えば、低分子量の樹脂及び小粒径のエマルション等を含有する浸透性タイプの塗料を用いることができる。下塗塗料は、顔料を含有してもよい。顔料は、例えば、酸化チタン、酸化鉄系顔料、カーボンブラック及び炭酸カルシウムからなる群から選択される一種以上の材料を含有することができる。下塗塗料は、例えば、アクリルエマルション樹脂に対して、顔料、その他の添加剤、水等を加えて撹拌分散することで調製される。
【0021】
下塗層12は、例えば、窯業系基材11の表面上に下塗塗料を塗布後、焼付乾燥して形成される。下塗塗料の塗布方法は、例えば、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等から選択される。このとき、下塗塗料の塗布量は、50〜170g/m
2の範囲内であることが好ましい。また、下塗塗料の焼付乾燥は、80〜120℃で1〜3分間の範囲内で行うことが好ましい。
【0022】
塗料層13は、下塗層12の表面上にアクリル樹脂系の塗料(以下、上塗塗料という)を塗布して形成される。特に、上塗塗料は、下地の隠蔽力が高く、耐久性に優れ、種類豊富な色揃えを有し、外観意匠性向上に寄与可能なアクリル樹脂系のエナメル塗料であることが好ましい。
【0023】
上塗塗料は、エナメル塗料である場合、顔料を含有してもよい。顔料は、例えば、酸化チタン、酸化鉄系顔料、カーボンブラック及び硫酸バリウムからなる群から選択される一種以上の材料を含有することができる。
【0024】
上塗塗料は、塩化ビニリデン樹脂粉を含有する。本願実施形態では、上塗塗料中の固形成分に対する塩化ビニリデン樹脂粉の割合は、10〜20質量%の範囲内である。そのため、例えば、上塗塗料が塩化ビニリデン樹脂粉を5〜10質量%の範囲内の割合で含有する。
【0025】
塩化ビニリデン樹脂粉は、例えば、塩化ビニル樹脂を原料として得られる。塩化ビニル樹脂は再生品であってもよい。例えば、塩化ビニル樹脂系の塗料を用いた塗装工程で発生する廃塗料から回収された塩化ビニル樹脂が用いられてもよい。
【0026】
本実施形態では、塩化ビニリデン樹脂粉の平均粒径が2〜30μmの範囲内であることが好ましい。塩化ビニリデン樹脂粉の平均粒径が2μm以上であると、上塗塗料の原料と塩化ビニリデン樹脂粉とを容易に撹拌分散することができる。また、平均粒径が30μm以下であると、上塗塗料から塗料層13を形成した際の外観が向上する。
【0027】
本実施形態では、上塗塗料は、例えば、アクリルエマルション樹脂に対して、顔料、塩化ビニリデン樹脂、その他の添加剤、水等を加えて撹拌分散することで調製される。
【0028】
塗料層13は、例えば、下塗層12の表面上に、上塗塗料を塗布後、焼付乾燥して形成される。上塗塗料の塗布方法は、例えば、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーターからなる群から選択される。上塗塗料の塗布量は、76〜140g/m
2の範囲内であることが好ましい。塗布した上塗塗料の焼付乾燥は、例えば、ジェット乾燥機を用いて、80〜120℃で1〜3分間の範囲内で行うことが好ましい。
【0029】
本実施形態では、塗料層13が、10〜20質量%の範囲内の塩化ビニリデン樹脂粉を含有する。塩化ビニリデン樹脂粉の含有量が10質量%以上であるため、塗料層13の燃焼時に、塩化ビニリデン樹脂粉から、特に不活性ガスが発生するため、塗料層13の燃焼が抑制され、発熱量も抑制される。含有量が20質量%以下であるため、下塗層12との密着性を確保することができる。
【0030】
本実施形態の塗装体1は、窯業系基材11と塗料層13とを備えるものであるが、塗料層13の上に、任意の層を設けてもよい。例えば、塗装体1の耐候性向上のため、塗料層13の上にクリヤー層14を形成することができる。
図2に本実施形態の一変形例を示す。本実施形態に係る塗装体1はクリヤー層14を備える。クリヤー層14は、例えば、紫外線カット剤を添加したアクリル樹脂塗料から形成される。紫外線カット剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0032】
(窯業系基材)
まず、普通ポルトランドセメント40質量部、フライアッシュ40質量部、パルプ6質量部及びセメント板廃材粉砕物14質量部を混合し、これに水を固形分濃度が20質量%となるように混合して分散することによって、セメントスラリーを調製した。次に、このセメントスラリーを抄造した後、プレス加工して成形を行い、抄造板を作製した。そして、この抄造板を60℃で10時間蒸気養生し、さらに170℃で5時間オートクレーブ養生することによって、窯業系基材を作製した。
【0033】
(下塗塗料)
アクリルエマルション樹脂24質量部に対して、酸化チタンと炭酸カルシウムを含有する顔料を26質量部、ブチルセロソルブ、消泡剤等の添加剤を1質量部、水を49質量部加えて撹拌分散し、調製することで、下塗塗料を得た。
【0034】
(塩化ビニリデン樹脂粉)
塩化ビニリデン樹脂として、塗料(関西ペイント製)の乾燥樹脂を用意した。塩化ビニリデン樹脂をビーズミルで粉砕して磨り潰し、表1に示す各実施例及び比較例に用いる平均粒径が2、20、30、40μmの塩化ビニリデン樹脂粉を得た。
【0035】
(上塗塗料)
各実施例及び比較例において、アクリルエマルション樹脂と、塩化ビニリデン樹脂粉と、酸化チタン、酸化鉄系顔料、カーボンブラック、クロム酸鉛及び硫酸バリウムからなる顔料と、ブチルセロソルブ、消泡剤及び増粘剤からなる添加剤と、水とをそれぞれ表1に示す量を加えて撹拌分散することで、上塗塗料を得た。
【0036】
(クリヤー塗料)
アクリルエマルション樹脂45質量部に対して、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤と、ブチルセロソルブ、消泡剤、増粘剤及びヒンダードアミン系酸化防止剤からなる添加剤を5質量部、水を45質量部加えて撹拌分散することで、水性アクリルエマルション塗料を得た。
【0037】
(塗装体)
まず、窯業系基材の表面上に下塗塗料を塗布し、その後乾燥して、下塗層を形成した。このとき、下塗塗料の塗布量は54g/m
2である。焼付け乾燥は、ジェット乾燥機を用いて、120℃で1.5分間行った。続いて、下塗層の表面上に、表1に示す組成の上塗塗料を塗布し、その後乾燥して塗料層を形成した。このとき、上塗塗料の塗布量は98g/m
2である。焼付け乾燥は、ジェット乾燥機を用いて、120℃で2分間行った。尚、各塗料の塗布には、スプレーガンを用いた。
【0038】
更に、実施例3、比較例4の場合は、塗料層の表面上にクリヤー塗料を塗布・乾燥してクリヤー層を形成した。このとき、クリヤー塗料の塗布量は32〜76g/m
2である。焼付け乾燥は、ジェット乾燥機を用いて、120℃で2分間行った。尚、クリヤー塗料の塗布には、スプレーガンを用いた。
【0039】
以上により、各実施例及び比較例の塗装体を得た。そして、各塗装体について、次のような特性を評価した。
【0040】
(総発熱量)
塗装体に対して、JIS A5430:2008 10.9項b)附属書JAによる発熱性試験を実施した。試験装置としてコーンカロリーメータを使用し、加熱時間20分における総発熱量(MJ/m
2)を測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
(密着性)
塗装体を60℃の温水に24時間浸漬し、その乾燥後、塗装体にセロテープ(登録商標、ニチバン製)を張り付け、このセロテープ(登録商標、ニチバン製)を剥がした際の、塗膜の剥離率を測定した。評価としては、剥離率が5%以下の場合をA、5〜10%の場合をB、10%以上の場合をCとした。結果を表1に示す。
【0042】
(外観)
塗装体の外観を次のように調査した。光沢度計(BYK製、マイクロTRIグロス)を用いて、塗膜表面の60°の光沢度を測定した。その結果、光沢度が15%を超えて20%以下の場合を「1」、15%以下の場合を「2」と、評価した。
【0043】
【表1】
【符号の説明】
【0044】
1 塗装体
11 窯業系基材
13 塗料層