(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
空気源から供給される空気を測定ヘッドのノズルから測定対象物に向けて噴出して、前記ノズルと前記測定対象物との間の隙間寸法を測定するエアマイクロメータであって、
前記空気源から前記測定ヘッドのノズルに至る空気流路中に介在し且つ一部に絞り部が設けられてなる空気配管と、
前記空気配管内部における、前記絞り部よりも前記ノズル側の圧力を検出する第1圧力センサと、
前記絞り部よりも前記空気源側の圧力を検出する第2圧力センサと、
前記第1圧力センサの第1検出値と前記第2圧力センサの第2検出値との差圧と、前記第2検出値との比率である算出値を求め、当該算出値に基づいて前記隙間寸法を算出する処理を行う計測演算処理装置と、を備える
エアマイクロメータ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エアマイクロメータは、一般に、空気回路部と電気回路部とで構成される。空気回路部に関して、非特許文献1では、流体力学に基づいてオリフィス(絞り)とノズルを通過する空気流量を示す理論式を求め、非特許文献1の
図2に示すように、理論値と実験値は概ね一致することを示している。
【0008】
しかし、後述するように、隙間寸法がオリフィス入口部の絶対圧力や大気圧の変動に大きく影響されるという課題があった。また、隙間寸法と絶対背圧が比例する部分は極めて少なく、隙間寸法を正確に測定できる範囲が極めて狭いという課題もあった。
【0009】
従来の背圧方式のエアマイクロメータで絶対背圧でなく、ゲージ背圧(絶対背圧と大気圧との差圧)を測定する場合でも同様の課題があった。非特許文献1に記載されているように、調整バルブにより絞り入口部圧力の安定化を図っても、理論式が示すように、大気圧や空気温度の変動により隙間寸法が影響されるので、長時間に亘り高精度な測定ができないという課題があった。
【0010】
特許文献1に記載された背圧・差圧方式のエアマイクロメータでは、差圧を測定するために、空気源圧力の変動の影響は少なくなるものの、特許文献1の
図2に記載されるように、線形な範囲が狭く、非線形な範囲で使用した場合、測定精度が悪化する。また、差圧を測定する圧力センサのセンサ特性(例えば、温度特性)が測定結果に直接影響し、高精度な測定ができないという課題があった。
【0011】
背圧方式や背圧・差圧方式のエアマイクロメータで、線形な範囲が調整できるように、測定時に手動の摘み調整による感度調整や零調整ができるものが市販されているが、煩雑な作業を必要とし、機械加工ラインのインプロセス計測に用いるには多くの課題があった。
【0012】
特許文献2に記載された背圧制御方式のエアマイクロメータでは、電気回路で構成される測定演算部のバルブ制御手段により、制御バルブを動かして背圧が一定になるようにした後、流量算出手段と寸法算出手段によって加工物の寸法測定を行うために、測定時間が長くなるという課題があった。
【0013】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、空気源の供給圧の変動、ならびに、大気圧の変動に起因した測定精度の低下を抑制でき、特に、機械加工ラインでのインプロセス計測において、取り扱いが容易で、測定時間が短く、長時間に亘り高精度な測定ができるエアマクロメータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明に係るエアマイクロメータは、空気源から供給される空気を測定ヘッドのノズルから測定対象物に向けて噴出して、ノズルと測定対象物との間の隙間寸法を測定するエアマイクロメータであって、空気源から測定ヘッドのノズルに至る空気流路中に介在し且つ一部に絞り部が設けられてなる空気配管と、空気配管内部における、絞り部よりも前記ノズル側の圧力を検出する第1圧力センサと、絞り部よりも空気源側の圧力を検出する第2圧力センサと、前記第1圧力センサの第1検出値と前記第2圧力センサの第2検出値との
差圧と、前記第2検出値との比率
である算出値を求め、当該算出値に基づいて隙間寸法を算出する処理を行う計測演算処理装置と、を備えることを特徴とする。
【0015】
本構成によれば、第1圧力センサの第1検出値と第2圧力センサの第2検出値との比率に応じた算出値に基づいて、測定対象物の寸法を算出するので、空気源の供給圧の変動ならびに大気圧の変動を考慮せずに隙間寸法を算出する構成に比べて、空気源の供給圧の変動ならびに大気圧の変動に起因した隙間寸法の測定精度の低下を抑制できる。
【0017】
また
、上記算出値
は、上記第1検出値と上記第2検出値との差圧と、上記第2検出値との比率であ
るので、第1検出値(背圧)のみに基づいて上記寸法を算出する構成に比べて、空気源の供給圧の変動ならびに大気圧の変動の影響を受けにくい。また、電源電圧や温度の変動による圧力センサの感度変化の影響を受けにくい。従って、長時間に亘り高精度な測定ができる。
【0018】
(
2)本発明に係るエアマイクロメータは、上記計測演算処理装置が、上記算出値と上記隙間寸法との関係を示すテーブルデータから、上記隙間寸法を算出するものであってもよい。
【0019】
本構成によれば、上記計測演算処理装置がテーブルデータを用いることにより、計測演算処理装置の処理負担の軽減を図ることができる。
【0020】
(
3)また、本発明に係るエアマイクロメータは、上記第1検出値が、上記空気配管内部における、上記絞り部よりも上記ノズル側のゲージ圧力であり、上記第2検出値が、上記空気配管内部における、上記絞り部よりも上記空気源側のゲージ圧力であってもよい。
【0021】
本構成によれば、上記算出値として、上記空気源側のゲージ圧力と、上記ノズル側のゲージ圧力の圧力比率に応じた値なので、上記ノズル側の圧力のみに基づいて上記隙間寸法を算出する構成に比べて、大気圧の変動の影響を受けにくい。従って、高精度な測定ができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のエアマイクロメータによれば、計測演算処理装置が、圧力比率に基づいて、測定対象物とノズルとの間の隙間寸法を算出する。従って、空気源の供給圧を用いずに上記隙間寸法を算出する構成に比べて、空気源の供給圧の変動、ならびに、大気圧の変動に起因した隙間寸法の測定精度の低下を抑制できる。温度や電源電圧の変化による圧力センサの感度変化の影響を受けにくい。さらに、調整箇所がなく、取り扱いが容易で、測定時間が短く、長時間に亘り高安定な測定ができるので、機械加工ラインでのインプロセス計測に適している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<実施の形態>
<1>構成
図1に、本実施の形態に係るエアマイクロメータの概略図を示す。
本実施の形態に係るエアマイクロメータは、エアコンプレッサや調整バルブ等の空気源(図示せず)から供給される空気を、後述の測定ヘッド3のノズル22aから円筒状のワークWの内壁に向けて噴出する。そして、エアマイクロメータは、ノズル22aとワークWの内壁との間の隙間寸法を測定する。
【0025】
このエアマイクロメータは、メータ本体1と、測定ヘッド3とを備える。そして、メータ本体1は、空気回路部10と、圧力センサ15、17と、計測演算処理装置20とを備える。
【0026】
空気回路部10は、ノズル22aとワークWの内壁との間の隙間寸法を算出するのに必要な圧力値を得るためのものである。空気回路部10は、チューブP12を介して測定ヘッド3に接続され、チューブP11を介して空気源に接続されている。空気回路部10には、空気源から調整バルブ(図示せず)を経て、チューブP11を通じて空気が供給される。そして、空気回路部10は、空気源から供給された空気を、チューブP12を通じて測定ヘッド3に供給する。また、空気回路部10には、圧力センサ15、17が設けられ、これらの圧力センサは、計測演算処理装置20と信号線を介して接続されている。
【0027】
空気回路部10は、空気配管13と、オリフィス(絞り部)14と、を備える。そして、空気配管13には、2つの圧力センサ15,17が設けられている。
空気配管13は、空気源から測定ヘッド3のノズル22aに至る空気流路中に介在する。
【0028】
オリフィス14は、空気配管13の管軸方向における略中央部に設けられている。オリフィス14は、例えば、金属板からなり且つ一部に厚み方向に貫通する貫通孔14aが設けられた部材からなる。ここで、空気源から上記調整バルブを通って空気配管13内部に流れた空気は、オリフィス14の貫通孔14aを通って測定ヘッド3に流れていく(
図1の白矢印A1,A2,A3,A4,A5参照)。
【0029】
圧力センサ15は、オリフィス14よりも上流側(空気源側)の空気のゲージ圧力PHを検出する。また、圧力センサ17は、空気配管13内部におけるオリフィス14よりも下流側(測定ヘッド3のノズル22a側)の空気のゲージ圧力であるゲージ背圧PLを検出する。
【0030】
図2に計測演算処理装置20の構成図を示す。
計測演算処理装置20は、アナログデジタル変換器24と、記憶部25と、演算処理部26と、入出力部27とを備える。
【0031】
アナログデジタル変換器24は、2つの圧力センサ15,17から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するものである。
記憶部25は、圧力比率と隙間寸法との関係を示す校正データと、ノズルの断面積などの登録データとをテーブルデータとして記憶するものである。
【0032】
演算処理部26は、アナログデジタル変換器24から入力されるデジタル信号から圧力比率を算出する機能を有する。また、演算処理部26は、入出力部27から入力される校正データと登録データをテーブルデータとして記憶部25に記憶させる機能を有する。
更に、演算処理部26は、算出した圧力比率を示すデータと、テーブルデータとして記憶している校正データおよび登録データとから、ワーク寸法を算出する機能と、その算出した結果を入出力部27に出力する機能とを有する。
【0033】
入出力部27は、演算処理部26にテーブルデータとして校正データや登録データを入力したり、動作指令信号を入力したりする機能を有する。また、入出力部27は、演算処理部26により算出されたワーク寸法をアナログ信号あるいはデジタル信号として出力する機能も有する。
【0034】
なお、計測演算処理装置20は、アナログデジタル変換器、ROM、RAM、MPU、デジタルアナログ変換器などの個別ICで構成したものでも良いし、また、これらの機能を集積したワンチップマイコンで構成したものでもよい。
【0035】
また、計測演算処理装置20は、圧力センサ15,17に信号線を介して接続されている。計測演算処理装置20は、入出力部27を介して、LED表示器やスイッチ、タッチパネル付き液晶パネルなどのユーザインターフェース101に接続されている。
【0036】
なお、計測演算処理装置20は、ユーザインターフェース101に接続されておらず、入出力部27を介してワーク寸法を示すアナログ信号やデジタル信号を出力するだけのものであってもよい。更に、計測演算処理装置20は、入出力部27を介して、ネットワーク(図示せず)に接続されるものであってもよい。
【0037】
図1に戻って、測定ヘッド3は、ノズル22aを備える。測定ヘッド3は、チューブP12を介して、空気配管13に接続されている。
図1に示すように、測定ヘッド3のノズル22aから放出される空気は、ノズル22aとワークWの内壁と間の隙間を通っていく(
図1の白矢印A5参照)。
【0038】
<2>エアマイクロメータにおける空気流量と隙間寸法の関係
発明者は、従来方式のエアマイクロメータが抱えている課題を明確にしてその課題を解決するために、流体力学における連続の式と圧縮性流体に対するベルヌーイの式に基づいて、流路断面積変化に伴う空気流量の理論式を導出した。
【0039】
流路断面積をA、流量損失等を補正する流量係数をα、入口部の絶対圧力と絶対温度を、それぞれ、poとTo、出口部の絶対圧力をpとすれば、空気流量Qは下記の式(1)で表される。
【数1】
ここで、ρは空気の密度、γは比熱比、Rは気体定数、αは流量係数である。式(1)は非特許文献1に記載の理論式と同等の理論式となった。
【0040】
背圧方式のエアマイクロメータのオリフィス14の貫通孔14aの直径をd
1とすれば、その流路断面積は(πd
12)/4となる。また、測定ヘッド3のノズル22aの穴径をd
2とし、ノズル22aと被測定対象物との隙間寸法をZとすれば、ノズル22aと被測定対象物が形成する流路断面積はπd
2Zとなる。絞り入口部の絶対圧力をps、絞り出口部の絶対圧力(ノズルの絶対背圧)をpn(=PL)、大気圧をpaとして、式(1)を適用し、オリフィス14を通過する空気流量とノズル22aを通過する流量が等しいことから、ノズル22aと被測定対象物との隙間寸法を表す下記の式(2)が導出できる。
【数2】
【0041】
ここで、Zo(α
1,α
2,d
1,d
2)、Q(ρn,ρa,Ts,Tn)、P(ps,pn,pa)は、下記式(3)〜(5)のように表され、それぞれ、オリフィス14とノズル22aの形状による関数、空気の絶対温度による関数、空気の絶対圧力による関数に分けて記述できる。
【数3】
ここで、α
1とα
2は、それぞれ、オリフィス14部分とノズル22a部分の流量係数である。
【数4】
ここで、ρnとρaは、それぞれ、背圧部と大気圧部の空気の密度である。
【数5】
式(2)は、隙間寸法がオリフィス14の入口部の絶対圧力、ノズル22aの絶対背圧、大気圧、空気の絶対温度などに依存していることを示している。すなわち、従来の背圧方式のエアマイクロメータにおいて絶対背圧のみを測定する場合、絶対背圧から算出される隙間寸法は、オリフィス入口部の絶対圧力や大気圧の変動に影響されることを示している。
【0042】
これらの影響がどの程度であるかを明らかにするために、式(2)に基づいて、psとpaがそれぞれ10%変動したときのノズルの背圧(絶対背圧)pnと隙間寸法Zとの関係を表すグラフを算出した。
【0043】
図3は、背圧方式のエアマイクロメータに関して、供給圧(絶対供給圧)psと大気圧paがそれぞれ10%変動した場合、ゲージ背圧PLに対して、隙間寸法Zとその変化率が、どのように変化するかを表したグラフをまとめたものである。ここで、ゲージ背圧PLとは、絶対背圧pnと大気圧paとの差圧(pn−pa)に相当する圧力である。
【0044】
図3(a)および(b)は、供給圧(絶対供給圧)psを0.30MPaに固定して、大気圧paを0.09,0.10,0.11[MPa]と変化させた場合における、ゲージ背圧PLに対する隙間寸法Zとその変化率(ΔZ/ΔPL)を表すグラフである。
また、
図3(c)および(d)は、大気圧paを0.10MPaに固定して、供給圧psを0.27,0.30,0.33[MPa]と変化させた場合のゲージ背圧PLに対する隙間寸法Zとその変化率を表すグラフである。
【0045】
図3から、隙間寸法Zがオリフィス14の入口部の絶対圧力や大気圧の変動に大きく影響されるという課題があるのは明らかである。また、隙間寸法と絶対背圧が比例する部分は極めて少なく、隙間寸法を正確に測定できる範囲が極めて狭いという課題があるのも明らかである。従来の背圧方式のエアマイクロメータで絶対背圧でなく、ゲージ背圧(絶対背圧と大気圧との差圧)を測定する場合でも同様の課題がある。
【0046】
非特許文献1に記載されているように、調整バルブにより絞り入口部圧力の安定化を図っても、大気圧や空気温度の変動により隙間寸法が影響されるので、長時間に亘り高精度な測定ができないという課題があるのも理論式から明らかである。
【0047】
発明者は、上記式(2)〜(5)に示すように、隙間寸法Zに関する式(2)が、空気回路部10のオリフィス14の貫通孔14aの直径と測定ヘッド3のノズル22aの穴径に依存する式(3)と、空気の比重量と温度に依存する式(4)と、絶対供給圧psと絶対背圧pnと大気圧paに依存する式(5)に分解できることを見出している。
【0048】
式(4)おいて、空気配管13内部と外部とでは空気重量が略同じである。また、空気配管13内部全体に亘って温度が略一定であるとすると、式(4)は定数Cとなる。また、式(3)は空気回路部10のオリフィス14とノズル22aとで決まる形状関数Zoであるので、式(2)は下記式(6)のように変形できる。
【数6】
ここで、空気の比熱比γは、一定(γ=1,40307)であるので、Zoで規格化した式(6)は、絶対供給圧ps、絶対背圧pn、大気圧paのみに依存することが分かる。これら3つの圧力値を測定して、式(6)に基づいて隙間寸法を算出することは可能ではある。しかし、理論値と実測値とは完全に一致するわけではないので、実測値に基づいて校正するのが好ましい。この場合、校正データは、3つの圧力値をパラメータにしたものとなり、膨大なデータ量になるので、少ないパラメータで校正できる方法の創出を必要としている。
【0049】
<3>隙間寸法を算出するためのパラメータの検討
ここで、絶対圧力(第1圧力、第2圧力)ps,pnに加えて、大気圧との差圧であるゲージ圧力(第1ゲージ圧力、第2ゲージ圧力)という概念を導入し、供給圧力のゲージ圧力、すなわち、ゲージ供給圧(第2検出値)をPH(=ps−pa)、背圧のゲージ圧力、すなわち、ゲージ背圧(第1検出値)をPL(=pn−pa)とする。
発明者は、絶対背圧pn、ゲージ背圧(第1検出値)PL(=pn−pa)、差圧(ps−pn,PH−PL)、さらに、いくつかの圧力比率について、隙間寸法Zを算出するためのパラメータとしての妥当性を検討した。
その結果、第1の圧力比率(算出値)[PL/PH]、ならびに、第2の圧力比率(算出値)[(PH−PL)/PH]が、最適なパラメータであることを見出した。以下、この経緯について詳細に説明する。
【0050】
図4は、実施の形態に係るエアマイクロメータについて、第1の圧力比率に対して、規格化隙間寸法(Z/Zo)とその変化率が、どのように変化するかを表したグラフをまとめたものである。
【0051】
図4(a)および(b)は、供給圧psを0.30MPaに固定して、大気圧paを0.09,0.10,0.11[MPa]と変化させた場合の第1の圧力比率に対する規格化隙間寸法とその変化率を表すグラフである。
また、
図4(c)および(d)は、大気圧pa=0.10MPaに固定して、ps=0.27,0.30,0.33MPaと変化させた場合の第1の圧力比率に対する規格化隙間寸法とその変化率を表すグラフである。
【0052】
図4を
図3と比較すれば、圧力比率[PL/PH]をパラメータにすれば、絶対供給圧や大気圧の変動に影響され難いことが判る。また、第1の圧力比率に対する規格化隙間寸法の変化率は、[PL/PH]が0.3から0.9の範囲で略平坦、すなわち、この範囲で、圧力比率に対して規格化隙間寸法が略直線的になる。この略直線的な範囲は、
図3のそれよりも充分に広い。
【0053】
図5は、実施の形態に係るエアマイクロメータについて、第2の圧力比率に対して、規格化隙間寸法(Z/Zo)とその変化率が、どのように変化するかを表したグラフをまとめたものである。
図5(a)および(b)は、供給圧psを0.30[MPa]に固定して、大気圧paを0.09,0.10,0.11[MPa]と変化させた場合の第2の圧力比率に対する規格化隙間寸法とその変化率を表すグラフである。また、
図5(c)および(d)は、大気圧paを0.10[MPa]に固定して、供給圧psを0.27,0.30,0.33[MPa]と変化させた場合の、第2の圧力比率に対する規格化隙間寸法とその変化率を表すグラフである。
【0054】
図5を
図3と比較すれば、第2の圧力比率をパラメータにすれば、絶対供給圧や大気圧の変動に影響され難いことが判る。また、第2の圧力比率に対する規格化隙間寸法の変化率は、[(PH−PL)/PH]が0.15から0.7の範囲で略平坦、すなわち、この範囲で、圧力比率に対して規格化隙間寸法は略直線的になる。この略直線的な範囲は、
図3のそれよりも充分に広い。
図4および
図5と
図3との比較から、第1の圧力比率あるいは第2の圧力比率をパラメータにすれば、校正データに関するパラメータは一つで良いこととなり、その結果、校正データ量も少なり、校正データを生成し易くなる。
【0055】
<4>校正データと登録データ
第1の圧力比率[PL/PH]をパラメータにした場合おける、計測演算処理部20の記憶部25に予めテーブルデータとして記憶しておく校正データと登録データについて、説明する。第2の圧力比率をパラメータにした場合においても同様に説明できる。
【0056】
図6は、本実施の形態に係るエアマイクロメータについて、テーブルデータとして記憶する校正データと登録データとの関係を示したグラフである。
校正データは、絶対供給圧(ps=0.30MPa)と大気圧(pa=0.10MPa)を一定にして、圧力比率(PL/PH)に対する規格化隙間寸法(Z/Zo)の関係を示すグラフの略直線的な範囲に限定せず、より広い全範囲に亘って、圧力比率(PL/PH)と規格化隙間寸法(Z/Zo)の関係を実測したもの(
図6参照、○印が実測値)とし、記憶部25により予め記憶しておく。すなわち、校正データは、対供給圧(ps=0.30MPa)と大気圧(pa=0.10MPa)を一定値に固定した場合における、式(6)が示す関係を実測したものである。後述するが、これにより、エアマイクロメータの測定範囲は、略直線的な範囲に限定されず、より広い測定範囲に適用することができる。また、Zoが異なる場合の隙間寸法Zでなく、規格化した規格化隙間寸法Z/Zoを用いるので、少ない校正データ量となる。
【0057】
登録データは、空気回路部の基準とするオリフィス14の穴径と、基準とする基準測定ヘッドのノズルの穴径と、を記憶部25により予め記憶しておく。これにより、オリフィス14や測定ヘッド3を交換した場合、すなわち、Zoを変化させても、式(3)の関係から、容易に隙間寸法Zを算出することができる。なお、
図1では、ノズルが一つの場合を示しているが、ノズルが複数ある場合は、流路断面積の考え方に従い、式(3)を修正すれば良い。例えば、ノズルの穴径がdで、2つのノズルがある場合は、式(3)のd2を(d+d)とすれば良い。
【0058】
前節<3>隙間寸法を算出するためのパラメータの検討の結論から、第1の圧力比率あるいは第2の圧力比率をパラメータとすれば、節<2>エアマイクロメータにおける空気流量と隙間寸法の関係に記述した式(2)から式(5)を適用して、概略の隙間寸法を算出することも可能ではあるが、空気回路部10の寸法公差(例えば、オリフィス14の穴径の公差)や圧力センサの感度のバラツキなどがあるので、個々のエアマイクロメータ毎に校正データを予め実測しておくことが好ましい。
【0059】
そこで、本実施形態に係るエアマイクロメータのメータ本体1は、圧力センサ15,17と、計測演算処理装置20とを含んで構成される。ここで、圧力センサ17は、空気配管13内部における、オリフィス(絞り部)14よりもノズル22a側のゲージ圧力PLを検出する。圧力センサ15は、オリフィス14よりも空気源側のゲージ圧力PHを検出する。計測演算処理装置20は、圧力センサ17のゲージ背圧(第1検出値)PLと、圧力センサ15のゲージ供給圧(第2検出値)PHとの第1の圧力比率(算出値)を求め、当該圧力比率に基づいて隙間寸法Zを算出する処理を行う。
なお、本実施形態に係る計測演算処理装置20では、例えば、ゲージ供給圧(第2ゲージ圧力)PHと、ゲージ供給圧PHとゲージ背圧PLとの差圧(PH−PL)との、第2の圧力比率を算出し、算出した比率に基づいて隙間寸法Zを算出する処理を行うものであってもよい。
【0060】
ところで、圧力センサ17のゲージ背圧(第1検出値)PLと、圧力センサ15のゲージ供給圧(第2検出値)PHとの比率(圧力比率)に応じた算出値とは、前述の第1の圧力比率[PL/PH]および第2の圧力比率[(PH−PL)/PH]に限られるものではない。この算出値は、第1の圧力比率[PL/PH]を含む所定の関係式により算出されるあらゆる算出値をも含む。この算出値は、例えば[(PH+PL)/PH]であってもよい。
【0061】
<5>動作
本実施形態に係る計測演算処理装置20は、ゲージ供給圧PHとゲージ背圧PLとの圧力比率(PL/PH)と隙間寸法Zとの関係を示すテーブルデータから、隙間寸法Zを算出する。
【0062】
そこで、本実施の形態に係るエアマイクロメータについて、計測演算処理装置20が登録データをテーブルデータとして登録設定を行う登録設定動作について説明する。
図7に、計測演算処理装置20の設定動作のフローチャートを示す。
まず、計測演算処理装置20は、マスタゲージ寸法設定を行う(ステップS101)。マスタゲージとは、筒状をした測定原器であり、ここでは内径の大きさの異なる2種類のマスタゲージを使用する場合について説明する。以下、この2種類のマスタゲージを、大マスタゲージおよび小マスタゲージと称する。ここにおいて、計測演算処理装置20は、ユーザが入出力部27を介して入力した大マスタゲージの実測寸法(X1とする)と小マスタゲージの実測寸法(X2とする)とを入力し、記憶部25により登録データとして記憶する(ステップ101、
図6参照)。
【0063】
大マスタゲージと小マスタゲージとは、その実測寸法がワークWに許容される実測寸法の上限値および下限値に相当するものを選択すればよい。例えば、ワークWの内径の設計寸法が20.000mmであり、許容される寸法公差が、±0.01mmであるとする。この場合、大マスタゲージとして、内径の実測寸法がX1=20.01mmのマスタゲージを選択し、小マスタゲージとして、内径の実測寸法がX2=19.99mmのマスタゲージを選択すればよい。
【0064】
次に、計測演算処理装置20は、マスタゲージの測定を行う(ステップS102)。ここでは、大マスタゲージおよび小マスタゲージそれぞれについて、アナログデジタル変換器24が、圧力センサ15,17から出力される信号に基づいて、ゲージ供給圧PHおよびゲージ背圧PLを示す情報を取得する。そして、アナログデジタル変換器24は、取得した情報を、ゲージ供給圧PHとゲージ背圧PLに対応するデジタル値に変換する。
【0065】
その後、計測演算処理部20は、演算処理手段により、大マスタゲージに対する圧力比率(P1とする)および小マスタゲージに対する圧力比率(P2とする)を算出し、記憶部25により、P1とP2を登録データとして記憶する(ステップS103、
図6参照)。
【0066】
最後に、計測演算処理部20は、演算処理手段により、大マスタゲージを測定して得られる圧力比率に対応する規格化隙間寸法(Z1とする)および小マスタゲージを測定して得られる圧力比率に対応する規格化隙間寸法(Z2とする)を校正データから算出し、記憶部25により、Z1とZ2を登録データとして記憶する(ステップS104、
図6参照)。なお、Z1とZ2を校正データから算出するには、隣接する2つの校正データ値を通る直線を求めて、その直線から算出してもよいし、近接する複数の校正データ値に近似する曲線を求めて、その曲線から算出してもよい。
【0067】
<6>まとめ
結局、本実施の形態に係るエアマイクロメータでは、圧力比率に基づいて、ワークWとノズル22aとの間の隙間寸法を算出するので、空気源の供給圧(第2圧力)psの変動ならびに大気圧paの変動を考慮せずに上記寸法を算出する構成に比べて、空気源の供給圧psの変動ならびに大気圧paの変動に起因した寸法の測定精度の低下を抑制できる。
【0068】
また、本実施の形態に係るエアマイクロメータは、上記圧力比率として、絞り部の空気源側の空気圧力に対するノズル側の空気圧力(第1圧力)との圧力比率、あるいは、絞り部の空気源側の空気圧力(第2圧力)に対する絞り部の空気源側とノズル側の差圧との圧力比率が算出できるので、背圧psのみに基づいて上記寸法を算出する構成に比べて、空気源の供給圧の変動ならびに大気圧の変動の影響を受けにくい。また、電源電圧や温度の変動による圧力センサの感度変化の影響を受けにくい。従って、長時間に亘り高精度な測定ができる。
【0069】
更に、本実施の形態に係るエアマイクロメータによれば、上記圧力比率と上記隙間寸法との関係を示す関係式が、空気源の供給圧の変動ならびに大気圧の変動の影響を受けにくい。また、上記圧力比率は、温度や電源電圧の変化による圧力センサの感度の変化の影響を受けにくい。従って、長時間に亘り高精度な測定ができる。
【0070】
<変形例>
(1)実施の形態では、空気回路部10が絞り部としてオリフィス14を備える例について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、オリフィス14の代わりに層流素子を用いてもよい。層流素子としては、例えば、多孔質部材やメッシュ等が挙げられる。また、多孔質部材としては、金属、セライック、ガラスなどの粉末を焼結させてなる多孔質体、或いは、フッ素樹脂などのポーラスポリマーからなる多孔質体が挙げられる。
【0071】
(2)実施の形態では、計測演算処理装置20が、圧力センサ15,17から入力される計測データに対して何らの信号処理も施さずに圧力比率を算出する例について説明したが、計測データのSN比の改善のための移動平均処理や計測時間を短縮するための先行予測信号処理などのデジタル信号処理を組み合わせて計測データを処理するようにしてもよい。
【0072】
(3)実施の形態に係る計測演算処理装置20は、LAN接続用のポート(例えばRS485ポートなど)を備えるものとし、LANを介して外部機器(例えば、パーソナルコンピュータ等)と接続できるものであってもよい。
本構成によれば、計測演算処理装置20は、外部機器から設定データを取得できるとともに、測定して得られたワークWの内径の寸法を示す数値データを外部機器に送信することができる。
【0073】
(4)実施の形態では、2種類のマスタゲージを使用する例について説明したが、使用するマスタゲージの種類は2種類に限定されるものではない。例えば、3種類以上のマスタゲージを使用してもよい。
本構成によれば、計測演算処理装置20は、最小二乗法を用いて、前述の式(6)で表される理論曲線のうち、3種類以上のマスタゲージそれぞれを測定して得られる測定データを通る曲線を算出する。従って、算出した曲線は、2種類のマスタゲージを使用した場合に比べて、より実測データを反映したものとなるので、寸法測定精度の向上を図ることができる。
【0074】
(5)実施形態では、マスタゲージを用いて登録データを作成して隙間寸法を算出する方法を説明したが、マスタゲージを用いず、校正データから直接、隙間寸法を算出してもよい。
本構成によれば、マスタゲージを必要とせず、登録設定も行う必要がないので、簡便に隙間寸法が算出できる。すなわち、計測演算処理装置20は、ワークWに対するPxを計測し、校正データから規格化隙間寸法Zxを求め、式:Z=Zx・Zoから隙間寸法Zを算出する(
図6参照)。この場合、計測演算処理装置20は、予めZoを求めておき、記憶部25に記憶しておく必要がある。
【0075】
(6)実施形態では、ゲージ供給圧(第2ゲージ圧力)PHに対するゲージ背圧(第1ゲージ圧力)PLの圧力比率と、隙間寸法との関係を示すテーブルデータを用いる構成について説明したが、テーブルデータはこれに限定されるものではない。例えば、圧力センサ(第2圧力センサ)15が検出した第2圧力に対する、圧力センサ(第1圧力センサ)17が検出した第1圧力Pの圧力比率と隙間寸法Zとの関係を示すテーブルデータを用いるものであってもよい。更には、ゲージ供給圧PHに対する、ゲージ背圧PLとゲージ供給圧PHとの差圧(PH−PL)の圧力比率と、隙間寸法Zとの関係を示すテーブルデータを用いるものであってもよい。