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特許6209095FRP成形治具及びFRP構造体の成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209095
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】FRP成形治具及びFRP構造体の成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/32 20060101AFI20170925BHJP
   B29C 43/12 20060101ALI20170925BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20170925BHJP
   B29C 33/12 20060101ALI20170925BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20170925BHJP
   B29L 24/00 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   B29C43/32
   B29C43/12
   B29C70/16
   B29C33/12
   B29K105:08
   B29L24:00
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-17314(P2014-17314)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-142993(P2015-142993A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2016年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102864
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(72)【発明者】
【氏名】阿部 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 清嘉
(72)【発明者】
【氏名】小山 貴之
(72)【発明者】
【氏名】吉野 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】岸本 和昭
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】石田 隆司
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04389367(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0221322(US,A1)
【文献】 特開2009−179001(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02327525(EP,A1)
【文献】 国際公開第2013/151617(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00−43/58
B29C 70/00−70/88
B29C 33/12
B29K 105/08
B29L 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維コンポーネントを組み合わせて成形されるFRP構造体の成形に用いる中子と、バッグとを備え、
前記バッグは、
前記中子の外周を被中子用バッグ部と、
前記複数の繊維コンポーネントを外部から被外被バッグ部と、
を有し、
前記バッグは、前記繊維コンポーネントが配置された部位を真空に引いた際においても前記中子が大気圧環境下に存在する構成であり、
記中子用バッグ部と前記外被バッグ部との間の、前記繊維コンポーネントが配置された部位を真空に引くことにより、前記繊維コンポーネント同士を押圧して成形を行うFRP成形治具。
【請求項2】
前記中子は、複数の部品から構成される割型構造である請求項1に記載のFRP成形治具。
【請求項3】
前記中子は、加熱により収縮性又は溶融性を有する素材である請求項1に記載のFRP成形治具。
【請求項4】
前記成形時において、前記繊維コンポーネント同士を接合する部分に接着剤又はマトリックス樹脂が配置され、
前記中子は、前記接着剤又はマトリックス樹脂の硬化温度以下で収縮又は溶融する素材である請求項3に記載のFRP成形治具。
【請求項5】
前記中子は、脆性を有し、粉砕により離型可能な素材、又は柔軟性を有する素材である請求項1に記載のFRP成形治具。
【請求項6】
第1の繊維コンポーネントを治具上に配置する工程と、
前記第1の繊維コンポーネント上に、中子用バッグ部で外周を被った第1の中子を配置する工程と、
前記第1の繊維コンポーネント及び前記第1の中子の上に第2の繊維コンポーネントを配置する工程と、
前記繊維コンポーネントを外被バッグ部で被う工程と、
前記中子用バッグ部と前記外被バッグ部とは、前記繊維コンポーネントが配置された部位を真空に引いた際においても前記第1の中子が大気圧環境下に存在する構成であって、前記繊維コンポーネントが配置された部位を真空に引く工程と
を有するFRP構造体の成形方法。
【請求項7】
外被バッグ部を治具上に配置する工程と、
前記外被バッグ部内に第1の繊維コンポーネントを配置する工程と、
前記第1の繊維コンポーネント上に、中子用バッグ部で外周を被った第1の中子を配置する工程と、
前記第1の繊維コンポーネント及び前記第1の中子の上に第2の繊維コンポーネントを配置する工程と、
前記中子用バッグ部と前記外被バッグ部とは、前記繊維コンポーネントが配置された部位を真空に引いた際においても前記第1の中子が大気圧環境下に存在する構成であって、前記繊維コンポーネントが配置された部位を真空に引く工程と
を有するFRP構造体の成形方法。
【請求項8】
前記第2の繊維コンポーネントの上に、中子用バッグ部で外周を被った第2の中子を配置する工程と、
前記第2の繊維コンポーネント及び前記第2の中子の上に第3の繊維コンポーネントを配置する工程と
を更に有する請求項6又は7に記載のFRP構造体の成形方法。
【請求項9】
前記複数の繊維コンポーネント間に接着剤を配置する工程
を更に有する請求項6乃至8のいずれかに記載のFRP構造体の成形方法。
【請求項10】
前記繊維コンポーネントが配置された部位を真空に引く工程の後に、加熱により前記接着剤を硬化させる工程
を更に有する請求項に記載のFRP構造体の成形方法。
【請求項11】
前記複数の繊維コンポーネントが配置されている部位にマトリックス樹脂を注入する工程
を更に有する請求項6乃至8のいずれかに記載のFRP構造体の成形方法。
【請求項12】
前記繊維コンポーネントが配置された部位を真空に引く工程の後に、加熱により前記マトリックス樹脂を硬化させる工程
を更に有する請求項11に記載のFRP構造体の成形方法。
【請求項13】
前記外被バッグ部を取り外す工程と、
前記中子用バッグ部及び前記中子を取り外す工程と
を更に有する請求項6乃至12のいずれかに記載のFRP構造体の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP(繊維強化プラスチック)構造体の成形に用いるFRP成形治具及びFRP構造体の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工業製品に対しFRP構造体の適用範囲が拡大している。FRP構造体のメリットとして、一体成形することで部品点数、及び組立工数の削滅を図ることができる点が挙げられる。
【0003】
部品の一体成形化を進める際、どうしても構造上閉空間となってしまう箇所がしばしば存在する。閉空間を持つFRP構造体を成形する場合には、圧力をかける方法、及び治具との関係が問題となる。
【0004】
例えば、米国特許出願公開第2013/0020438号明細書(特許文献1)では、FIG.25に示されるように、波形の治具の上に第1のファイバープリフォームを配置しておき、第2のファイバープリフォームを被せた中子(マンドレル)を、更に波形の治具の上方に配置し、フィレット成形用の治具を配置して、第3のファイバープリフォームを上から被せている。そして、積層したプリフォーム及び治具を吸引バッグで包んだ後に真空に引いて、母材のマトリックス樹脂を注入する。その後加熱、硬化を経て、所定の長さに切断した後に外板に結合させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/0020438号明細書
【特許文献2】米国特許第6702911号明細書
【特許文献3】米国特許第5469686号明細書
【特許文献4】米国特許第7625618号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている成形方法は、硬質な中子を用いて強化繊維同士を位置決めして、小規模なFRP構造体を成形する方法である。このような成形方法では、力学特性が優れたプリプレグ材を用いた大型のFRP構造体を成形することは困難である。また、治具や中子とFRP構造体との熱膨張率の差異により、寸法精度が悪化するという問題点もある。
【0007】
図8及び図9は、円筒形のFRP構造体を成形する従来の成形方法を説明する断面図である。図8に示すFRP構造体の成形方法は、先ず硬質中子90(ハードツール)の外側に強化繊維92を配置して、外周を吸引バッグ94で被う。そして、吸引バッグ94の内部を真空に引く。そして加熱、硬化を行った後に、吸引バッグ94を剥がし、硬質中子90を引き抜いて、円筒形のFRP構造体が完成する。この成形時においては、硬質中子90は正圧の環境下に存在している。
【0008】
図9に示すFRP構造体の成形方法は、先ず硬質外型91(ハードツール)の内側に強化繊維92を配置して、強化繊維92の更に内側に加圧バッグ95を配置する。そして、加圧バッグ95により加圧する。そして加熱、硬化を行った後に、加圧バッグ95を剥がす。そして、硬質外型91から円筒形のFRP構造体を引き抜いて完成する。
【0009】
図8に示す成形方法では、閉空間が一定断面ではなく、曲率を有する複雑な形状を有する場合には、硬質中子90を用いて成形した後に、硬質中子90を取り外す離型の処理が困難となることが多い。又、成形時の外形寸法精度を向上させるためには、図9に示す成形方法を用いることが望ましいが、複雑な形状に対し硬質外型91の内部から加圧する方法が課題である。このような理由から、複数の閉空間を有する複雑な形状のFRP構造体を成形することは困難であった。
【0010】
本発明の目的は、閉空間を有するFRP構造体を高精度に成形するFRP成形治具及びFRP構造体の成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0012】
本発明によるFRP成形治具は、複数の繊維コンポーネント(12、14、16)を組み合わせて成形されるFRP構造体(10、30)の成形に用いる中子(20)と、バッグ(22、24)とを備える。バッグ(22、24)は、中子(20)の外周を被う中子用バッグ部(24)と、複数の繊維コンポーネント(12、14、16)を外部から被う外被バッグ部(22)とを有する。そして、中子用バッグ部(24)と外被バッグ部(22)との間の、繊維コンポーネント(12、14、16)が配置された部位を真空に引くことにより、繊維コンポーネント(12、14、16)同士を押圧して成形を行う。
【0013】
バッグ(22、24)は、繊維コンポーネント(12、14、16)が配置された部位を真空に引いた際においても中子(20)が大気圧環境下に存在する構成である。
【0014】
中子(20)は、複数のコア部品から構成される割型構造である。
【0015】
中子(20)は、加熱により収縮性又は溶融性を有する素材である。
【0016】
成形時において、繊維コンポーネント(12、14、16)同士の接合部(18)に接着剤又はマトリックス樹脂が配置される。中子(20)は、接着剤又はマトリックス樹脂の硬化温度以下で収縮又は溶融する素材である。
【0017】
中子(20)は、脆性を有し、粉砕により離型可能な素材、又は柔軟性を有する素材である。
【0018】
本発明によるFRP構造体の成形方法は、第1の繊維コンポーネント(12)を治具上に配置する工程と、第1の繊維コンポーネント(12)上に、中子用バッグ部(24)で外周を被った第1の中子(20)を配置する工程と、第1の繊維コンポーネント(12)及び第1の中子(20)の上に第2の繊維コンポーネント(14)を配置する工程とを有する。更に、繊維コンポーネント(12、14)を外被バッグ部で被う工程と、繊維コンポーネント(12、14)が配置された部位を真空に引く工程とを有する。
【0019】
本発明によるFRP構造体の成形方法は、外被バッグ部(22)を治具(40)上に配置する工程と、外被バッグ部(22)内に第1の繊維コンポーネント(12)を配置する工程と、第1の繊維コンポーネント(12)上に、中子用バッグ部(24)で外周を被った第1の中子(20)を配置する工程とを有する。更に、第1の繊維コンポーネント(12)及び第1の中子(20)の上に第2の繊維コンポーネント(14)を配置する工程と、繊維コンポーネント(12、14)が配置された部位を真空に引く工程とを有する。
【0020】
本発明によるFRP構造体の成形方法は、第2の繊維コンポーネント(14)の上に第2の中子(20)を配置する工程と、第2の繊維コンポーネント(14)及び第2の中子(20)の上に第3の繊維コンポーネント(16)を配置する工程とを更に有する。
【0021】
本発明によるFRP構造体の成形方法は、複数の繊維コンポーネント(12、14、16)間に接着剤を配置する工程を更に有する。
【0022】
また、繊維コンポーネント(12、14、16)が配置された部位を真空に引く工程の後に、加熱により接着剤を硬化させる工程を更に有する。
【0023】
本発明によるFRP構造体の成形方法は、複数の繊維コンポーネント(12、14、16)が配置されている部位にマトリックス樹脂を注入する工程を更に有する。
【0024】
本発明によるFRP構造体の成形方法は、繊維コンポーネント(12、14、16)が配置された部位を真空に引く工程の後に、加熱によりマトリックス樹脂を硬化させる工程を更に有する。
【0025】
本発明によるFRP構造体の成形方法は、外被バッグ部(22)を取り外す工程と、中子用バッグ部(24)及び中子(20)を取り外す工程とを更に有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るFRP成形治具及びFRP構造体の成形方法を用いることによって、閉空間を有するFRP構造体を高精度に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明のFRP成形治具を用いて成形したFRP構造体の外観斜視図である。
図2図2は、本発明のFRP成形治具を用いてFRP構造体を成形する状態を示す図であり、図1におけるA−A矢視断面図である。
図3図3は、本発明のFRP成形治具を用いてFRP構造体を成形する状態を示す図であり、図1におけるB−B矢視断面図である。
図4図4は、本発明のFRP成形治具を用いてFRP構造体を成形する他の実施形態を示す図であり、図1におけるA−A矢視断面図である。
図5図5は、本発明のFRP成形治具を用いて成形したFRP構造体の外観斜視図である。
図6図6は、本発明のFRP成形治具を用いてFRP構造体を成形する状態を示す図であり、中子が収縮する前の状態を示す断面図である。
図7図7は、本発明のFRP成形治具を用いてFRP構造体を成形する状態を示す図であり、中子が収縮した後の状態を示す断面図である。
図8図8は、外部から加圧するFRP構造体の成形方法を説明する断面図である。
図9図9は、内部から加圧するFRP構造体の成形方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付図面を参照して、本発明によるFRP成形治具及びFRP構造体の成形方法の実施の形態を以下に説明する。
【0029】
図1は、本発明のFRP成形治具を用いて成形したFRP構造体10の外観斜視図である。図2は、FRP成形治具を用いてFRP構造体10を成形する状態を示す図であり、図1におけるA−A矢視断面図である。図3は、FRP成形治具を用いてFRP構造体10を成形する状態を示す図であり、図1におけるB−B矢視断面図である。
【0030】
図1を参照して、FRP構造体10は、外板12と、ストリンガー14と、外板12とストリンガー14とを接合する接合部18とを有している。図1に示すFRP構造体10は、ストリンガー14と外板12との間に台形断面の閉空間を有している。
【0031】
外板12は例えば板状のFRPであり、ストリンガー14は例えば凸型の断面形状を有するFRPの形材である。図1に示すFRP構造体10は、外板12に一列のストリンガー14を配置した実施例を示してあるが、外板12に複数列のストリンガー14を配置することもできる。また、外板12の大きさも、小型のものから大型のものまで対応することができる。
【0032】
接合部18は、外板12とストリンガー14とを接合している部位であり、接着フィルムや接着剤、マトリックス樹脂等を用いて接合する。
【0033】
図2及び図3を参照して、FRP構造体10の成形方法について説明する。FRP構造体10を成形する場合には、先ず所定の形状を有する治具40の上部に、外被バッグ部22(第1の外被バッグ部)を配置する。そして、外被バッグ部22の内部に外板12(第1の繊維コンポーネント)を配置する。次に、外被バッグ部22内の外板12上に、中子用バッグ部24を用いて外周を被った中子20を配置する。
【0034】
外板12とストリンガー14との間に接着フィルム等の接着剤を配置してもよい。そして、外板12及び中子20の上にストリンガー14(第2の繊維コンポーネント)を配置する。
【0035】
次に、外被バッグ部22及び中子用バッグ部24の端部をバッグ接合部25にて接合して気密性を確保する(図3参照)。そして、外板12及びストリンガー14の繊維コンポーネントが配置された部位を真空に引いて、大気圧を用いて接合部18に押圧力を印加する。このとき、外板12又はストリンガー14の素材に、樹脂を含侵していない強化繊維基材を用いる場合には、マトリックス樹脂を注入して含侵させる。なお、外板12及びストリンガー14が配置された部位を真空に引いた場合であっても、中子20は大気圧の環境下に存在している。このため、中子20の変形を少なくすることができ、FRP構造体10の寸法精度を向上させることができる。
【0036】
接着剤又はマトリックス樹脂として熱硬化型のものを用いる場合には、真空に引いた後に加熱を行って、接着剤又はマトリックス樹脂を硬化させる。
【0037】
接着剤又はマトリックス樹脂が硬化したら、外被バッグ部22を取り外し、中子用バッグ部24及び中子20をFRP構造体10の閉空間から取り外す。こうして、図1に示すFRP構造体10が得られる。
【0038】
外板12や、ストリンガー14の繊維コンポーネントの構成として、強化繊維基材を用いる場合には、連続した強化繊維糸条がお互いに並行するように引き揃えた強化繊維糸条群を用いることができる。また、必要に応じて強化繊維糸条による一方向性基材、二方向性基材、多方向性基材を用いることができる。また、強化繊維基材の他の組織形態として、例えば、織組織(織物)、編組織(たて編、よこ編)、不織組織、又はこれらの組み合わせを用いることもできる。
【0039】
また、繊維コンポーネントにおける強化繊維として、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、フェノール繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維等の有機繊維、金属繊維、又はセラミック繊維、これらの組み合わせ等を使用することもできる。
【0040】
また、マトリックス樹脂として、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を使用することができる。成形性や、力学特性の面からは、現状では熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ、フェノール、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、シアネートエステル、ビスマレイミド、ベンゾオキサジン、アクリルその他の樹脂を用いることができる。更に、エラストマー、ゴム、硬化剤、硬化促進剤、触媒等を添加したものも使用することができる。なお、外被バッグ部22及び中子用バッグ部24の繊維コンポーネント側には、離型剤や樹脂拡散メディアを配置しておくことが好ましい。
【0041】
また、中子20の素材として、柔軟性を有する素材(硬質ゴム、シリコンゴム等)や、粉砕により離型が容易となる脆性を有する素材(石膏等)を用いることができる。
【0042】
次に、図4を参照して、治具40上に直接外板12を配置してFRP構造体10を成形する実施形態、及び、割型構造の中子20を用いた実施形態について説明する。図4は、本発明のFRP成形治具を用いてFRP構造体を成形する他の実施形態を示す図であり、図1におけるA−A矢視断面図である。なお、図1乃至図3に示した実施形態における構成部分と同一の作用を有する部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0043】
図2及び図3に示した実施形態では、治具40上に外被バッグ部22を配置して、この外被バッグ部22の内部に外板12を配置した。これに対し、図4に示す実施形態では、気体の遮蔽効果を有する治具40上に直接外板12を配置して、外板12及びストリンガー14(第1及び第2の繊維コンポーネント)が配置された部位を真空に引いて、大気圧を用いて接合部18に押圧力を印加する。このように構成しても、閉空間を有するFRP構造体10を成形することができる。
【0044】
また、図4に示すように、中子20の構成として、長手方向スライドコア20Aと、横方向移動コア20B、20Cとの複数の部品から構成される割型構造を用いることもできる。この場合には、先ず長手方向スライドコア20Aを(図4の紙面の手前方向に)引き抜いてから、横方向移動コア20B、20Cを閉空間内において横方向(図4の紙面の左右方向)に移動させて、横方向移動コア20B、20CをFRP構造体10から離型しやすくする。その後、横方向移動コア20B、20CをFRP構造体10の閉空間から(図4の紙面の手前方向に)引き抜いて、中子20の離型を行うことができる。
【0045】
次に、図5図6及び図7を参照して、複数のストリンガー14を外板12と内板16とで挟んだサンドイッチ構造のFRP構造体30を成形する実施形態について説明する。図5は、本発明のFRP成形治具を用いて成形したFRP構造体30の外観斜視図である。図6は、本発明のFRP成形治具を用いてFRP構造体30を成形する状態を示す図であり、中子20が収縮する前の状態を示す断面図である。図7は、中子20が収縮した後の状態を示す断面図である。なお、図1乃至図3に示した実施形態における構成部分と同一の作用を有する部位については、その説明を省略する。
【0046】
図1乃至図4では、外板12とストリンガー14とを接合したFRP構造体10の成形について説明した。これに対して図5に示すFRP構造体30は、複数のストリンガー14を外板12と内板16とで挟んだ構造を有している。この図5に示すFRP構造体30も、図6及び図7に示すように、中子20の外周を被う中子用バッグ部24と、複数の繊維コンポーネントを外部から被う外被バッグ部22とを用いて成形することができる。
【0047】
図6を参照して、FRP構造体30を成形する場合には、先ず所定の形状を有する治具40の上部に外被バッグ部22(第1の外被バッグ部)を配置する。そして、外被バッグ部22の内部に外板12(第1の繊維コンポーネント)を配置する。次に、外被バッグ部22内の外板12上に、中子用バッグ部24を用いて外周を被った第1の中子20を、必要に応じて複数配置する。
【0048】
外板12とストリンガー14との間に接着フィルム等の接着剤を配置してもよい。そして、外板12及び第1の中子20の上にストリンガー14(第2の繊維コンポーネント)を配置する。
【0049】
再びストリンガー14(第2の繊維コンポーネント)の上に、中子用バッグ部24で外周を被った第2の中子20を配置する。そして、必用に応じてストリンガー14と内板16との間に接着フィルム等の接着剤を配置して、第2の中子20及びストリンガー14の上に内板16(第3の繊維コンポーネント)を配置する。
【0050】
次に、外板12、ストリンガー14及び内板16の繊維コンポーネントが配置された部位を真空に引いて、大気圧を用いて接合部18に押圧力を印加する。このとき、外板12、ストリンガー14又は内板16の素材に、樹脂を含侵していない強化繊維基材を用いる場合には、マトリックス樹脂を注入する。
【0051】
接着剤又はマトリックス樹脂として熱硬化型のものを用いる場合には、真空状態にした後に加熱を行って、接着剤又はマトリックス樹脂を硬化させる。
【0052】
また、図7に示すように、中子20の素材として、加熱により収縮する素材(硬質ポリスチレンフォーム、硬質ウレタンフォーム等)を用いる場合には、硬化時の加熱により中子20が収縮する。中子20が収縮することにより、中子20をFRP構造体10の閉空間から引き抜くことが容易となる。中子20の素材として、接着剤又はマトリックス樹脂の硬化温度以下で収縮する特性を有する素材(硬質ポリスチレンフォーム、硬質ウレタンフォーム等)を用いることができる。この場合、例えば50℃以上で硬化温度以下の温度域の温度で熱収縮する特性を有する材料が望ましく、接着剤又はマトリックス樹脂の流動性がなくなる温度以上で硬化温度以下の温度域で収縮する特性を有する材料がより望ましい。また、加熱により溶融するロウ材を用いることもできる。この場合も、例えば50℃以上で硬化温度以下の温度域の温度で溶融する特性を有する材料が好ましく、接着剤又はマトリックス樹脂の流動性がなくなる温度以上で硬化温度以下の温度域で溶融する特性を有する材料がより望ましい。
【0053】
以上、実施の形態を参照して本発明によるFRP成形治具及びFRP構造体の製造方法を説明したが、本発明によるFRP成形治具及びFRP構造体の製造方法は上記実施形態に限定されない。上記実施形態に様々の変更を行うことが可能である。上記実施形態に記載された事項と上記他の実施形態に記載された事項とを組み合わせることが可能である。
【0054】
また、本発明に係るFRP成形治具及びFRP構造体の製造方法を用いて成形したFRP構造体は、車両、船舶、航空機、あるいは建築部材など種々の分野に用いられる。本発明に係るFRP成形治具及びFRP構造体の製造方法は、2つ以上の繊維コンポーネントを一体成形することにより、閉空間を有する複雑な最終形状を成形する場合に好適である。また、本発明に係るFRP成形治具及びFRP構造体の製造方法は、RFI(レジンフィルムインフュージョン成形法)、RTM(樹脂トランスファー成形法)、VaRTM(真空含浸工法)その他のFRP構造体の成形に用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
10、30...FRP構造体
12...外板
14...ストリンガー
16...内板
18...接合部
20...中子
20A...長手方向スライドコア
20B、20C...横方向移動コア
22...外被バッグ部
24...中子用バッグ部
25...バッグ接合部
90...硬質中子
91...硬質外型
92、93...強化繊維
94...加圧バッグ
95...加圧バッグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9