特許第6209105号(P6209105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6209105送信機、XPD補正演算係数算出装置、XPD補正演算係数算出方法、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209105
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】送信機、XPD補正演算係数算出装置、XPD補正演算係数算出方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0413 20170101AFI20170925BHJP
   H04J 11/00 20060101ALI20170925BHJP
   H04L 27/26 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H04B7/0413 300
   H04J11/00 B
   H04L27/26 100
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-39437(P2014-39437)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-164246(P2015-164246A)
(43)【公開日】2015年9月10日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(72)【発明者】
【氏名】北藪 透
(72)【発明者】
【氏名】中野 雅之
【審査官】 太田 龍一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−049740(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0292926(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02−7/10
H04J 11/00
H04L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサブキャリアを利用する直交偏波通信システムの送信機において、
前記サブキャリア毎に、XPD補正演算に使用されるXPD補正演算係数を記憶する係数記憶部と、
各前記サブキャリアの送信信号に対して、該サブキャリアの前記XPD補正演算係数を使用してXPD補正演算を行うXPD補正演算部と、
を備えたことを特徴とする送信機。
【請求項2】
前記係数記憶部は、サブキャリア毎にビーム方向の別に前記XPD補正演算係数を記憶し、
前記XPD補正演算部は、前記サブキャリア毎に、ビーム方向に該当する前記XPD補正演算係数を使用して前記XPD補正演算を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の送信機。
【請求項3】
前記係数記憶部は、サブキャリア毎に各偏波のビーム方向の別に前記XPD補正演算係数を記憶し、
前記XPD補正演算部は、前記サブキャリア毎に、各偏波のビーム方向に該当する前記XPD補正演算係数を使用して前記XPD補正演算を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の送信機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の送信機で使用されるXPD補正演算係数を算出するXPD補正演算係数算出装置であり、
前記送信機から偏波毎に送信された既知信号の受信機での受信信号と、該既知信号との相関演算を行い、この相関演算結果を用いて前記XPD補正演算係数を算出する、
ことを特徴とするXPD補正演算係数算出装置。
【請求項5】
前記送信機から偏波毎に繰り返し送信された既知信号の受信機での受信信号を平均化し、この平均化された受信信号と該既知信号との差分を用いて前記XPD補正演算係数を算出する、
ことを特徴とする請求項4に記載のXPD補正演算係数算出装置。
【請求項6】
前記送信機から偏波毎に繰り返し送信された既知信号は、各偏波の既知信号が各々直交するサブキャリアで送信されたものであることを特徴とする請求項5に記載のXPD補正演算係数算出装置。
【請求項7】
前記送信機から偏波毎に繰り返し送信された既知信号は、各偏波の既知信号が時分割で送信されたものであることを特徴とする請求項5に記載のXPD補正演算係数算出装置。
【請求項8】
所定の伝送品質を満たすサブキャリア又は受信信号のXPD補正演算係数のみを前記送信機で使用するものとすることを特徴とする請求項4から7のいずれか1項に記載のXPD補正演算係数算出装置。
【請求項9】
Kファクターが所定の閾値より高い受信信号から算出されたXPD補正演算係数のみを前記送信機で使用するものとすることを特徴とする請求項8に記載のXPD補正演算係数算出装置。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか1項に記載の送信機で使用されるXPD補正演算係数を算出するXPD補正演算係数算出装置のXPD補正演算係数算出方法であり、
前記XPD補正演算係数算出装置が、前記送信機から偏波毎に送信された既知信号の受信機での受信信号と、該既知信号との相関演算を行い、この相関演算結果を用いて前記XPD補正演算係数を算出する、
ことを特徴とするXPD補正演算係数算出方法。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか1項に記載の送信機で使用されるXPD補正演算係数を算出するXPD補正演算係数算出装置のコンピュータに、
前記送信機から偏波毎に送信された既知信号の受信機での受信信号と、該既知信号との相関演算を行い、この相関演算結果を用いて前記XPD補正演算係数を算出する機能、
を実現させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信機、XPD補正演算係数算出装置、XPD補正演算係数算出方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
LTE(Long Term Evolution)規格やWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)規格等の無線通信システムでは、スループットを増加させるためにMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を利用している。MIMO技術は、送信機側と受信機側のそれぞれに複数のアンテナを用いて空間多重を行うことにより、スループットを増加させる技術である。この空間多重では、複数ある送受信アンテナ間の伝搬路に相違があることを利用して、多重した信号を分離および復調する。そのため、見通し環境のように直接波が支配的となる場所では伝搬路間の相関性が高くなり、空間多重による効果が減少する。
【0003】
そこで、偏波の異なる送信アンテナを用いることで伝搬路の相関性を低く抑える技術が提案されている。直交偏波としては、例えば、垂直偏波(V偏波)と水平偏波(H偏波)の直交する偏波や、右旋円偏波と左旋円偏波の組合せなどが利用可能である。ここで、例えばV偏波用の送信アンテナから送信される信号はV偏波成分のみであることが望ましいが、実際にはH成分も含む。同様にH偏波用の送信アンテナから送信される信号はV偏波成分も含む。この偏波間の電力差を表す指標として交差偏波識別度(Cross Polarization Discrimination:XPD)が知られている。また、送信機から受信機までの信号の流れを考えると、上述した送信アンテナが理想的でないことに起因するXPDの他に、伝搬路の途中で偏波面が回転することで生じるXPD、受信アンテナのXPDがある。
【0004】
特許文献1に記載の従来技術では、受信機で計算した直交偏波電力比を送信機側に伝え、該直交偏波電力比に基づいて送信機のXPDを調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−49740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1の従来技術では、各サブキャリアで周波数特性が一様でないことを考慮していない。このため、各サブキャリアにおけるXPDを十分に補正できないという課題がある。また、XPDは、送信アンテナの指向方向に依存する。このため、3GPP(3rd Generation Partnership Project)で検討されている「Massive-MIMO」技術などで利用されるビームフォーミングを行う場合、送信ビームの方向によってXPDの値は異なるので、XPDを補正すべき値も異なってくる。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、複数のサブキャリアを利用する直交偏波通信システムにおいて、各サブキャリアの交差偏波識別度を向上させることができる送信機、XPD補正演算係数算出装置、XPD補正演算係数算出方法、及びコンピュータプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る送信機は、複数のサブキャリアを利用する直交偏波通信システムの送信機において、前記サブキャリア毎に、XPD補正演算に使用されるXPD補正演算係数を記憶する係数記憶部と、各前記サブキャリアの送信信号に対して、該サブキャリアの前記XPD補正演算係数を使用してXPD補正演算を行うXPD補正演算部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
(2)本発明に係る送信機は、上記(1)の送信機において、前記係数記憶部は、サブキャリア毎にビーム方向の別に前記XPD補正演算係数を記憶し、前記XPD補正演算部は、前記サブキャリア毎に、ビーム方向に該当する前記XPD補正演算係数を使用して前記XPD補正演算を行う、ことを特徴とする。
【0010】
(3)本発明に係る送信機は、上記(2)の送信機において、前記係数記憶部は、サブキャリア毎に各偏波のビーム方向の別に前記XPD補正演算係数を記憶し、前記XPD補正演算部は、前記サブキャリア毎に、各偏波のビーム方向に該当する前記XPD補正演算係数を使用して前記XPD補正演算を行う、ことを特徴とする。
【0011】
(4)本発明に係るXPD補正演算係数算出装置は、上記(1)から(3)のいずれかの送信機で使用されるXPD補正演算係数を算出するXPD補正演算係数算出装置であり、前記送信機から偏波毎に送信された既知信号の受信機での受信信号と、該既知信号との相関演算を行い、この相関演算結果を用いて前記XPD補正演算係数を算出する、ことを特徴とする。
【0012】
(5)本発明に係るXPD補正演算係数算出装置は、上記(4)のXPD補正演算係数算出装置において、前記送信機から偏波毎に繰り返し送信された既知信号の受信機での受信信号を平均化し、この平均化された受信信号と該既知信号との差分を用いて前記XPD補正演算係数を算出する、ことを特徴とする。
【0013】
(6)本発明に係るXPD補正演算係数算出装置は、上記(5)のXPD補正演算係数算出装置において、前記送信機から偏波毎に繰り返し送信された既知信号は、各偏波の既知信号が各々直交するサブキャリアで送信されたものであることを特徴とする。
【0014】
(7)本発明に係るXPD補正演算係数算出装置は、上記(5)のXPD補正演算係数算出装置において、前記送信機から偏波毎に繰り返し送信された既知信号は、各偏波の既知信号が時分割で送信されたものであることを特徴とする。
【0015】
(8)本発明に係るXPD補正演算係数算出装置は、上記(4)から(7)のいずれかのXPD補正演算係数算出装置において、所定の伝送品質を満たすサブキャリア又は受信信号のXPD補正演算係数のみを前記送信機で使用するものとすることを特徴とする。
【0016】
(9)本発明に係るXPD補正演算係数算出装置は、上記(8)のXPD補正演算係数算出装置において、Kファクターが所定の閾値より高い受信信号から算出されたXPD補正演算係数のみを前記送信機で使用するものとすることを特徴とする。
【0017】
(10)本発明に係るXPD補正演算係数算出方法は、上記(1)から(3)の送信機で使用されるXPD補正演算係数を算出するXPD補正演算係数算出装置のXPD補正演算係数算出方法であり、前記XPD補正演算係数算出装置が、前記送信機から偏波毎に送信された既知信号の受信機での受信信号と、該既知信号との相関演算を行い、この相関演算結果を用いて前記XPD補正演算係数を算出する、ことを特徴とする。
【0018】
(11)本発明に係るコンピュータプログラムは、上記(1)から(3)の送信機で使用されるXPD補正演算係数を算出するXPD補正演算係数算出装置のコンピュータに、前記送信機から偏波毎に送信された既知信号の受信機での受信信号と、該既知信号との相関演算を行い、この相関演算結果を用いて前記XPD補正演算係数を算出する機能、を実現させるためのコンピュータプログラムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数のサブキャリアを利用する直交偏波通信システムにおいて、各サブキャリアの交差偏波識別度を向上させることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る送信機1の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る係数記憶部111の構成例を示す図である。
図3】本発明の実施例2に係る既知信号の送信手順を説明するためのタイムチャートである。
図4】本発明の実施例3に係る既知信号の送信手順を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る送信機1の構成を示すブロック図である。この送信機1は、複数のサブキャリアを利用する直交偏波通信システムで使用される。直交偏波通信システムでは、送信機と受信機が直交偏波を利用して無線通信を行う。直交偏波通信システムとして、例えば、MIMO技術を利用した無線通信システム(以下、MIMO通信システムと称する)、FWA(Fixed Wireless Access)で利用される偏波多重通信システムなどが挙げられる。直交偏波としては、例えば、垂直偏波(V偏波)と水平偏波(H偏波)の組み合わせ、円偏波(右旋円偏波と左旋円偏波の組み合わせ)、又は、斜め偏波(+45度偏波と−45度偏波の組み合わせ)等の直交偏波を利用可能である。
【0022】
本実施形態では、直交偏波通信システムとして、MIMO通信システムを例に挙げて説明する。また、直交偏波として、垂直偏波(V偏波)と水平偏波(H偏波)を例に挙げて説明する。また、本実施形態に係るMIMO通信システムは、複数のサブキャリアを利用するマルチキャリア(多重搬送波)伝送方式の一例である、直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:OFDM)方式を使用する。
【0023】
図1において送信機1は、サブキャリアマッピング部101と、交差偏波識別度(XPD)補正演算部102と、周波数特性補正部103と、逆高速フーリエ変換(IFFT)部104と、サイクリックプレフィックス(Cyclic prefix:C/P)挿入部105と、デジタル−アナログ変換(DAC)部106と、無線部107と、位相・振幅調整部108と、複数(図1の例では3本)のV偏波アンテナANT_Vと、複数(図1の例では3本)のH偏波アンテナANT_Hと、制御部110と、を備える。制御部110は係数記憶部111を備える。
【0024】
サブキャリアマッピング部101、周波数特性補正部103、IFFT部104、C/P挿入部105、DAC部106、無線部107及び位相・振幅調整部108は、V偏波アンテナANT_V群とH偏波アンテナANT_H群の別に設けられる。XPD補正演算部102と制御部110は、V偏波アンテナANT_V群とH偏波アンテナANT_H群に共通して設けられる。
【0025】
サブキャリアマッピング部101は、入力される送信信号(一次変調された送信信号)をOFDM信号の各サブキャリアにマッピングする。XPD補正演算部102は、サブキャリアマッピング部101による各サブキャリアへのマッピング後の送信信号に対して、XPD補正演算を行う。このXPD補正演算は、[数1]で表される。
【0026】
【数1】
【0027】
但し、kはサブキャリア番号である。S(k)は、V偏波アンテナANT_V群に対応して設けられたサブキャリアマッピング部101により、k番目のサブキャリアにマッピングされた送信信号である。S(k)は、H偏波アンテナANT_H群に対応して設けられたサブキャリアマッピング部101により、k番目のサブキャリアにマッピングされた送信信号である。S’(k)は、V偏波アンテナANT_V群に対応して設けられた周波数特性補正部103へ入力される、k番目のサブキャリアの送信信号である。S’(k)は、H偏波アンテナANT_H群に対応して設けられた周波数特性補正部103へ入力される、k番目のサブキャリアの送信信号である。a(k),b(k),c(k),d(k)は複素数の係数(複素係数)である。
【0028】
[数1]では送信信号S(k),S(k)と対応する複素係数a(k),b(k),c(k),d(k)との複素乗算が行われる。複素係数a(k),b(k),c(k),d(k)は制御部110からXPD補正演算部102へ入力される。
【0029】
複素係数a(k),b(k),c(k),d(k)は、予め、係数記憶部111に記憶されている。制御部110は、係数記憶部111に記憶される複素係数a(k),b(k),c(k),d(k)を、XPD補正演算部102へ出力する。
【0030】
図2は、本実施形態に係る係数記憶部111の構成例を示す図である。図2において、係数記憶部111は、サブキャリア番号とV偏波ビーム方向とH偏波ビーム方向の組み合わせに対して複素係数a(k),b(k),c(k),d(k)を記憶する。これにより、係数記憶部111には、サブキャリア毎に、V偏波ビーム方向の別、且つ、H偏波ビーム方向の別に、複素係数a(k),b(k),c(k),d(k)が格納される。
【0031】
なお、V偏波とH偏波を同一方向にしか向けない場合には、ビーム方向をV偏波とH偏波で分けず、サブキャリア毎にビーム方向の別に、複素係数a(k),b(k),c(k),d(k)を係数記憶部111に格納すればよい。また、ビーム方向が固定されている場合には、サブキャリア毎に、複素係数a(k),b(k),c(k),d(k)を係数記憶部111に格納すればよい。
【0032】
制御部110は、サブキャリア番号毎に、V偏波ビーム方向とH偏波ビーム方向に対応する複素係数a(k),b(k),c(k),d(k)を係数記憶部111から読み出して、XPD補正演算部102へ出力する。これにより、XPD補正演算部102のXPD補正演算によって、サブキャリア毎に、V偏波ビーム方向とH偏波ビーム方向に応じたXPD補正が行われる。
【0033】
説明を図1に戻す。周波数特性補正部103は、XPD補正演算部102によるXPD補正演算後の各サブキャリアの送信信号に対して、無線部107の周波数特性を補正するための係数を乗算する。この補正はアナログ回路の不完全性に起因して送信回路内の周波数特性が一様にならないものを補正するものである。送信機1の温度、電源電圧に周波数特性が依存するような場合には、温度、電源電圧を検出するセンサを送信機1内部に保持し、その検出値に基づいて補正係数を決定するようにしてもよい。例えば、温度、電源電圧の検出値に対応する補正係数を保持する補正係数テーブルを設け、該補正係数テーブルから検出値に対応する補正係数を取得することが挙げられる。なお、周波数特性は回路に依存することから、V偏波用の送信系とH偏波用の送信系とで補正係数を別に用意する。
【0034】
IFFT部104は、周波数特性補正部103による周波数特性の補正後の各サブキャリアの送信信号に対して、逆高速フーリエ変換を行う。C/P挿入部105は、該逆高速フーリエ変換後の送信信号に対して、サイクリックプレフィックスを挿入する。DAC部106は、該サイクリックプレフィックス挿入後の送信信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換する。無線部107は、該アナログ信号に変換された送信信号を送信周波数の信号に変換する。位相・振幅調整部108は、該送信周波数の送信信号に対して、位相および振幅の調整を行う。この位相および振幅の調整値は、制御部110から指示される。
【0035】
各V偏波アンテナANT_Vは、自系統の位相・振幅調整部108による位相および振幅の調整後の送信信号を送信する。各H偏波アンテナANT_Hは、自系統の位相・振幅調整部108による位相および振幅の調整後の送信信号を送信する。
【0036】
本実施形態によれば、サブキャリア毎に、XPD補正演算に使用される複素係数を設ける。そして、サブキャリア毎に、該複素係数を用いてXPD補正演算を行う。これにより、各サブキャリアに適合するXPD補正演算を行うことができるので、各サブキャリアの交差偏波識別度を向上させることができるという効果が得られる。
【0037】
さらに、ビーム方向が変化する場合には、サブキャリア毎にビーム方向の別に、XPD補正演算に使用される複素係数を設ける。そして、サブキャリア毎にビーム方向の別に、該複素係数を用いてXPD補正演算を行う。これにより、各サブキャリアと各ビーム方向に適合するXPD補正演算を行うことができるので、各サブキャリアの各ビーム方向に関する交差偏波識別度を向上させることができるという効果が得られる。
【0038】
また、偏波毎にビーム方向が異なる場合には、サブキャリア毎に、各偏波のビーム方向の別に、XPD補正演算に使用される複素係数を設ける。そして、サブキャリア毎に、各偏波のビーム方向の別に、該複素係数を用いてXPD補正演算を行う。これにより、各サブキャリアと各偏波のビーム方向に適合するXPD補正演算を行うことができるので、各サブキャリアの各偏波のビーム方向に関する交差偏波識別度を向上させることができるという効果が得られる。
【0039】
次に、本実施形態に係るXPD補正演算に使用される複素係数(以下、XPD補正演算係数と称する)a(k),b(k),c(k),d(k)の取得方法(XPD補正演算係数取得方法)について、以下に実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0040】
送信機1から送信された送信信号は、伝搬路の影響を受けて受信機で受信される。その送信信号と受信機での受信信号との関係は[数2]で表される。ここでは、説明の便宜上、送信機1と受信機の両方ともに、V偏波アンテナとH偏波アンテナを1本ずつ合計2本のアンテナを使用し、送信機1が該2本のアンテナで送信し、受信機が該2本のアンテナで受信するとする。
【0041】
【数2】
【0042】
但し、sは、V偏波アンテナから送信される送信信号である。sは、H偏波アンテナから送信される送信信号である。rは、V偏波アンテナで受信される受信信号である。rは、H偏波アンテナで受信される受信信号である。Hは伝搬路のチャネル行列である。Qは、XPDに応じた成分を表す行列である。
【0043】
行列Qは[数3]で表される。
【0044】
【数3】
【0045】
そして、行列Qの各成分q11、q12、q21、q22は[数4]により算出される。
【0046】
【数4】
【0047】
但し、r(k,i)は、V偏波アンテナで受信されたk番目のサブキャリアのi番目の受信シンボルである。r(k,i)は、H偏波アンテナで受信されたk番目のサブキャリアのi番目の受信シンボルである。p(k,i)は、V偏波アンテナで送信されるk番目のサブキャリアのi番目のパイロット信号(既知信号)である。p(k,i)は、H偏波アンテナで送信されるk番目のサブキャリアのi番目のパイロット信号(既知信号)である。パイロット信号p(k,i)とp(k,i)とは、互いに直交する。iは各サブキャリアのシンボル番号である。nはシンボル数である。
【0048】
送信機1は、V偏波アンテナからパイロット信号p(k,i)を送信し、H偏波アンテナからパイロット信号p(k,i)を送信する。受信機は、V偏波アンテナで受信した受信信号に対してOFDM復調を行うことにより、受信シンボルr(k,i)を取得する。また、受信機は、H偏波アンテナで受信した受信信号に対してOFDM復調を行うことにより、受信シンボルr(k,i)を取得する。
【0049】
その受信機で得られた受信シンボルr(k,i),r(k,i)と、既知のパイロット信号p(k,i),p(k,i)とを使用して上記[数4]の相関演算を行うことにより、行列Qの各成分q11、q12、q21、q22が算出される。この算出された成分q11、q12、q21、q22から成る行列Qを使用して、[数5]により、XPD補正演算係数a(k),b(k),c(k),d(k)が算出される。
【0050】
【数5】
【0051】
但し、Qは、行列Qの複素共役転置行列である。
【0052】
その算出されたXPD補正演算係数a(k),b(k),c(k),d(k)は、送信機1の係数記憶部111に格納され、XPD補正演算に使用される。なお、上記[数4]及び[数5]の演算は、受信機の演算装置(XPD補正演算係数算出装置)で行ってもよく、又は、受信機とは別に設けられる演算装置(XPD補正演算係数算出装置)で行ってもよい。
【0053】
なお、所定の伝送品質を満たすサブキャリア又は受信信号に着目し、該サブキャリア又は受信信号のXPD補正演算係数a(k),b(k),c(k),d(k)のみを用いるようにしてもよい。例えば、送信機1から繰り返し送られた既知信号の受信機での受信信号(既知信号受信信号)のうちから、直接波と反射波の電力比を表すKファクターが所定の閾値より高い既知信号受信信号を選択する。そして、該選択された既知信号受信信号から算出されたXPD補正演算係数a(k),b(k),c(k),d(k)について平均化を行う。
【実施例2】
【0054】
上述した実施例1のXPD補正演算係数取得方法では、電波無響室内などのチャネル変動の影響を受けない環境でパイロット信号の送受を行う場合には問題ない。しかしながら、そうではない環境、例えば実際に運用される送信機1の設置場所でパイロット信号の送受を行う場合には、周辺の建物等によって反射したり又は回折されたりする信号が受信機に届くため、受信機や周辺の人や車などが移動することによって発生するチャネル変動の影響を受ける。そこで実施例2のXPD補正演算係数取得方法では、直接波以外の信号の影響を取り除いた状態でXPD補正演算係数を算出することを図る。
【0055】
[送信機での既知信号の送信手順]
図3を参照して、送信機1での既知信号の送信手順を説明する。図3は、実施例2に係る既知信号の送信手順を説明するためのタイムチャートである。
【0056】
まずOFDMシンボルの送信開始タイミング(t=0とする)に合わせて、送信信号として、送受信機間で既知である疑似乱数系列を割り当てる。OFDMシンボル時間(ガードインターバルを含まない)をTとし、ガードインターバル時間をTgとする。そして、疑似乱数系列の長さをN、疑似乱数系列のシンボル時間をTnとすると、疑似乱数系列は「N×Tn≦T」を満たすものとする。疑似乱数系列として、例えば、M系列を利用できる。又は、疑似乱数系列としては、k×Tn時間遅延した自身との相関値が低くなる系列であれば、任意の系列であってもよい(但し、k<N)。これにより、時刻「t=0」から「t=T」まで疑似乱数系列(例えばM系列)が送信される(図3参照)。
【0057】
次いで、時刻「t=T」から「t=T+Tg」までは送信信号として0を割り当てる(つまり、送信を行わない)。次いで、時刻「t=T+Tg」からは、送受信機間で既知である既知信号を各サブキャリアに割り当てたOFDMシンボル(以下、シンボルAと称する)の送信を開始する。これにより、時刻「t=T」から「t=T+Tg」までのガードインターバルのタイミングではサイクリックプレフィックスを付加していない状態になる(図3参照)。この後、シンボルAを時刻「t=T+Tg」から「2T+Tg」まで送信する(図3参照)。
【0058】
上述の送信手順を、「2T+2Tg」の周期で所定回数、又は受信機からの終了通知を受けるまで繰り返す(図3参照)。
【0059】
また、上述のシンボルAとして、V偏波用のシンボルAvとH偏波用のシンボルAhとに分けて生成し、シンボルAvとシンボルAhを同じタイミングで送信する。このとき、シンボルAvとシンボルAhとでサブキャリア間が直交するように0を割り当てる。例えば、シンボルAvには奇数番目のサブキャリアのみを使用し、シンボルAhには偶数番目のサブキャリアのみを使用することが挙げられる。
【0060】
[受信機の受信信号からXPD補正演算係数を取得する手順]
受信機において、送信機から送信された信号を受信し、この受信信号と送受信機間で既知である疑似乱数系列(例えばM系列)とのスライディング相関を演算する。この相関値のピークが立つタイミングをシンボル同期タミングとして保持する。受信機側の時刻をt’とし、シンボル同期タミングを「t’=0」とする。
【0061】
まず、時刻「t’=T+Tg」から「t’=2T+Tg」までの受信信号(時間領域の受信信号(時間信号))「r(i),i=0,1,2,3,・・・」を取得する。この時間信号の取得を「2T+2Tg」の周期で繰り返し、該取得した時間信号の平均を計算する。j回目に取得した時間信号をr(i)とすると、時間信号の平均r(i)は次式で表される。
r(i)=(r(i)+r(i)+・・・+r(i))/j
この時間信号の平均r(i)は、送信機1から受信機までの伝搬路におけるチャネル変動の影響が相殺されたものとして扱うことができる。
【0062】
次いで、その時間信号の平均r(i)に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うことにより、各サブキャリアの受信信号r(k)を取得する。そして、
V偏波成分r(k)とH偏波成分r(k)を、送受信機間で既知である割り当てに従って受信信号r(k)から分離し取得する。
【0063】
ここで、各サブキャリアに割り当てられた信号(シンボルAv,Ah)S(k),S(k)は既知である。これにより、受信信号から取得されたV偏波成分r(k)及びH偏波成分r(k)と、既知信号S(k),S(k)との差分を複素除算により算出し、該差分を用いて各サブキャリアの行列Qを求める。
【0064】
次いで、各サブキャリアの行列Qを用いて、上記[数5]により、XPD補正演算係数a(k),b(k),c(k),d(k)を算出する。
【実施例3】
【0065】
実施例3は上述した実施例2の変形例である。実施例2では、V偏波の信号とH偏波の信号を同一タイミングで送信したが、本実施例3ではV偏波の信号とH偏波の信号を、時間をずらして送信する。
【0066】
図4は、実施例3に係る既知信号の送信手順を説明するためのタイムチャートである。図4に示されるように、時刻「t=T+Tg」から「t=2T+Tg」までは一方の偏波(図4の例ではV偏波)の信号を送信する。そして、時刻「t=2T+2Tg」から「t=3T+2Tg」まではもう一方の偏波(図4の例ではH偏波)の信号を送信する。この繰り返しの周期は、「3T+3Tg」とする。
【0067】
なお、上記実施例2,3において、XPD補正演算係数を算出する演算は、受信機の演算装置(XPD補正演算係数算出装置)で行ってもよく、又は、受信機とは別に設けられる演算装置(XPD補正演算係数算出装置)で行ってもよい。
【0068】
また、上記実施例2,3において、所定の伝送品質を満たすサブキャリア又は受信信号に着目し、該サブキャリア又は受信信号のXPD補正演算係数a(k),b(k),c(k),d(k)のみを用いるようにしてもよい。例えば、送信機1から繰り返し送られた既知信号の受信機での受信信号(既知信号受信信号)のうちから、直接波と反射波の電力比を表すKファクターが所定の閾値より高い既知信号受信信号を選択する。そして、該選択された既知信号受信信号から算出されたXPD補正演算係数a(k),b(k),c(k),d(k)について平均化を行う。
【0069】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0070】
例えば、上述した実施形態では、直交偏波通信システムとして、MIMO通信システムに適用したが、他の直交偏波通信システム(例えば、FWAで利用される偏波多重通信システムなど)にも同様に適用可能である。
【0071】
また、上述した実施形態では、直交偏波として、V偏波とH偏波を使用したが、円偏波(右旋円偏波と左旋円偏波の組み合わせ)、斜め偏波(+45度偏波と−45度偏波の組み合わせ)等を使用してもよい。
【0072】
また、上述したXPD補正演算係数算出装置の機能を実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
【0073】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disk)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0074】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0075】
1…送信機、101…サブキャリアマッピング部、102…XPD補正演算部、103…周波数特性補正部、104…IFFT部、105…C/P挿入部、106…DAC部、107…無線部、108…位相・振幅調整部、110…制御部、111…係数記憶部、ANT_V…V偏波アンテナ、ANT_H…H偏波アンテナ
図1
図2
図3
図4