(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209132
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物で表面を硬化した成型物構造体及びその製造法。
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20060101AFI20170925BHJP
C09D 183/07 20060101ALI20170925BHJP
C09D 183/05 20060101ALI20170925BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
C08J7/04 M
C09D183/07
C09D183/05
C09D7/12
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-106520(P2014-106520)
(22)【出願日】2014年5月7日
(65)【公開番号】特開2015-214665(P2015-214665A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2016年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】藤村 忠正
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 茂
【審査官】
久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−508382(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0033071(US,A1)
【文献】
特開2007−224102(JP,A)
【文献】
特開2013−047160(JP,A)
【文献】
特開平03−028269(JP,A)
【文献】
特開2007−231277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J7/04−7/06
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
B32B1/00−43/00
C09D1/00−10/00、101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノダイヤモンド及びその誘導体を含む付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物の触媒活性を、電磁波を照射して高めて後、成型物基材表面に塗布して均一に硬化させることを特徴とする成型物構造体の製造方法。
【請求項2】
前記付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物が
(A)ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子結合水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:本成分の1分子中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が、(A)成分のオルガノポリシロキサンが有するアルケニル基1個当たり、0.4〜10個となる量、
(C)電磁波活性型白金錯体硬化触媒:有効量
からなることを特徴とする請求項1に記載の成型物構造体の製造方法。
【請求項3】
前記(C)電磁波活性型白金錯体硬化触媒が、β−ジケトン白金錯体又は環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体であることを特徴とする請求項2に記載の成型物構造体の製造方法。
【請求項4】
前記電磁波が紫外線、可視光線、赤外線、又はマイクロ波であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の成型物構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族不飽和基を有するオルガノポリシロキサンとケイ素原子に結合する水素原子を有するオルガノポリシロキサンとの電磁波により活性可能な白金触媒による付加硬化型成型物構造体及びその製造法に関し、さらに詳しくは、耐熱性、耐候性、撥水性、撥油性に優れたオルガノポリシロキサン硬化組成物で被覆された金属、樹脂、ガラス等の成型物構造体及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白金化合物を硬化触媒とした付加硬化型のシリコーンゴム組成物は、その優れた硬化性から様々な用途に使用されている。材料としても熱加硫シリコ−ンゴム(ミラブルタイプ)、液状タイプのいずれにも適用可能であり、その用途は多岐にわたる。特に、液状タイプにおいては、接着材から型取り材、液状シリコーンゴム射出成形システム(LIMS材料)等に使用されている。いずれも組成物を混合及び/又は加熱することで架橋反応を促進し、ゴム硬化物を得ることができる。
【0003】
従来の一液付加硬化タイプのものは、使用するまでの保存安定性を確保しなければならないため、硬化制御剤を使用するので、硬化させるためには加熱が必要になる。加熱硬化した際、被着体である金属、樹脂、ガラス等の部品類も加熱されるが、この加熱に必要なエネルギーや時間を削減することが求められている。
【0004】
これに対し、脱アルコール/脱オキシム反応を利用した湿気硬化型や、(メタ)アクリル性官能基や、エポキシ基等を利用した紫外線硬化型などのシリコーンゴム組成物も提案されている。しかしながら、湿気硬化型は、硬化にかかる時間が非常に長いという問題がある。また、紫外線硬化型は、硬化は短時間で終了するものの、光(紫外線)が当たらない影の部分は硬化しないという問題点がある。
【0005】
一方、紫外線を照射することによって付加硬化を促進する触媒作用を有する白金触媒(錯体)を利用した付加硬化型のシリコーン組成物の応用例として、特表2008−521252号公報(特許文献1)や、特表2010−519573号公報(特許文献2)などがあるが、いずれの場合も組成物を所望の箇所に適用した後に紫外線照射して硬化させるもので、光(紫外線)が当たらない影の部分は硬化しないという問題点がある。また厚い成形物については内部が均一に硬化しにくいという問題もあった。
【0006】
さらに、シリコーンの付加硬化を促進する例として、特開平09−248881号公報(特許文献3)は、波長400nm以上の可視光線による硬化の例であり、特開2001−062958号公報(特許文献4)、及び特開2003−344607号公報(特許文献5)は、前者は加速電圧が100〜500kV、吸収線量が0.1〜6Mrad、後者は加速電圧が120KV以下の電子線による硬化の例であり、特開2013−147549(特許文献6)は、2〜10GHzの電磁波による硬化の例であるが、付加硬化を促進するその波長域は限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−521252号公報
【特許文献2】特表2010−519573号公報
【特許文献3】特開平09−248881号公報
【特許文献4】特開2001−062958号公報
【特許文献5】特開2003−344607号公報
【特許文献6】特開2013−147549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、予め付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物の触媒に紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波等の電磁波を照射して触媒活性を高めて成型物構造体に適用しておけば、適用後、特定の波長域の電磁波を照射しなくとも、硬化を進めることができ、電磁波が当たらない部分や、厚い成形物でも均一に硬化させることができる。電磁波によって活性化する白金触媒(錯体)を利用した付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物の成型物構造体及びその製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、電磁波活性型白金錯体硬化触媒を含有する付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物に、予め電磁波を照射して該触媒の触媒活性を高めた後、所望の箇所に適用して硬化させる方法が、成型物構造体に適用後に電磁波を照射しなくとも硬化を進めることができ、電磁波が当たらない部分や、厚い成形物でも均一に硬化させることができることを見出し、本発明に到達したものである。
【0010】
従って、本発明は、下記に示す付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物の成型物構造体及びその製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物に、予め広い範囲の電磁波の中から工業レベルでの生産に最適な電磁波を選択、照射して該触媒の触媒活性を高めた後、所望の箇所に適用して硬化させる方法が、適用後、電磁波を照射しなくとも硬化を進めることができ、電磁波が当たらない部分や厚い成形物でも均一に硬化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
すなわち本発明の成型物構造体及びその製造法は、付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物の触媒活性を、電磁波を照射して高めて後、成型物構造体表面に適用して均一に硬化させることを特徴とする。
【0013】
更に前記に記載の成型物構造体において、前記付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物が
(A)ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子結合水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)電磁波活性型白金錯体硬化触媒
を含有する組成物に電磁波を照射して(C)成分の触媒活性を高め、しかる後この工程で得られた組成物を所望の箇所に適用し、硬化させる工程からなることを特徴とする。電磁波を照射して(C)成分の触媒活性を高めると同時に、電磁波による内部発熱によって硬化スピードを促進することを特徴とする。
【0014】
本発明に用いられるオルガノポリシロキサン組成物は、(A)成分として、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサンを含有する。(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個、好ましくは2〜20個含有するものであり、その分子構造については特に制限はなく、直鎖状、分岐状、環状又は網状のいずれであってもよく、また、単一のシロキサン単位からなる重合体であっても、2種以上のシロキサン単位からなる共重合体であってもよい。
【0015】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)
R
1aSiO
(4−a)/2 (1)
(式中、R
1は非置換又は置換の好ましくは炭素数1〜12、特に1〜10の1価炭化水素基であり、aは1.0〜2.2、好ましくは1.95〜2.05の正数である。)
で表されるものが好ましい。
【0016】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの有機基(上記一般式(1)中のR
1)には、アルケニル基が含まれるが、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等が例示される。好ましくはビニル基又はアリル基であり、その合成の容易さや化学的安定性の点からはビニル基が最も好ましい。
【0017】
一方、アルケニル基以外の有機基としては、脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、又はこれらの1価炭化水素基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子、塩素原子、ニトリル基等で置換された置換1価炭化水素基、例えばトリフルオロプロピル基、クロロメチル基、シアノエチル基等が例示される。
【0018】
有機基(R
1)は、同一でも相互に異なっていてもよいが、なかでもその化学的安定性や合成の容易さから全有機基(R
1)の90モル%以上、特にアルケニル基以外の有機基の全てがメチル基であることが好ましいが、特性上必要な場合は、メチル基以外にフェニル基、トリフルオロプロピル基を含むものも好ましく用いられる。
【0019】
(A)成分のオルガノポリシロキサン中のアルケニル基の含有量は、オルガノポリシロキサン中0.000010〜0.0010モル/g、特に0.000025〜0.0005モル/gであることが好ましい。
【0020】
また、この(A)成分のオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は10mPa・s以上であることが好ましく、50〜5,000,000mPa・sのものがより好ましく、100〜1,000,000mPa・sのものが特に好ましい。粘度が低すぎると、硬化物が脆くなるおそれがあり、粘度が高すぎると、組成物の粘度が大きくなり、作業性が低下する場合がある。なお、粘度は回転粘度計により測定した値である(以下、同じ)。
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0021】
本発明に用いられるオルガノポリシロキサン組成物は、(B)成分として、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有する。(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、後述する(C)成分の電磁波活性型白金錯体硬化触媒の存在下で、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基と(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)とが反応して、三次元網目構造を形成する架橋剤として作用するものである。
【0022】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造については特に制限はなく、直鎖状、分岐状、環状、網状のいずれであってもよく、ケイ素−水素結合を有するシロキサン単位のみからなる重合体であっても、ケイ素−水素結合を有するシロキサン単位と、トリオルガノシロキシ単位、ジオルガノシロキサン単位、モノオルガノシロキサン単位及びSiO
2単位のうちの1種又は2種以上との共重合体であってもよい。
【0023】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、下記一般式(2)
R
2bH
cSiO
(4−b−c)/2 (2)
(式中、R
2は非置換又は置換の好ましくは炭素数1〜12、特に1〜10の1価炭化水素基であり、bは0.7〜2.0、cは0.002〜1.2、かつb+cは0.8〜3.0を満たす正数、好ましくはbは0.9〜2.0、cは0.01〜1.0、かつb+cは1.0〜3.0を満たす正数である。)
で表すことができる。
【0024】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの有機基(上記一般式(2)中のR
2)としては、脂肪族不飽和基を有していないものが好ましく、上述した(A)成分において、アルケニル基以外の有機基として例示したものが挙げられる。有機基(R
2)は、同一でも相互に異なっていてもよいが、なかでもその化学的安定性や合成の容易さから全有機基(R
1)の90モル%以上、特に全てがメチル基であることが好ましいが、特性上必要な場合は、メチル基以外にフェニル基、トリフルオロプロピル基を含むものも好ましく用いられる。
【0025】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン1分子中のケイ素原子結合水素原子(SiH基)の数は、2個以上、好ましくは3個以上、より好ましくは3〜200個、更に好ましくは4〜100個である。
【0026】
また、重合度についても特に制限はないが、(A)成分との相溶性や合成の容易さ等の点からケイ素原子の数が2〜300個、特に4〜150個のものが好適とされる。なお、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0027】
本発明に用いられるオルガノポリシロキサン組成物において、(B)成分の配合量は、(A)成分中のオルガノポリシロキサンが有するアルケニル基1モル当たり、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)が、0.4〜10モル、好ましくは0.5〜5.0モルとなる量である。(B)成分の配合量が上記範囲未満では、硬化が不十分となり、必要な硬化物の強度が得られず、上記範囲を超えると硬化時に発泡したり、物性の経時変化の原因となったりする。
【0028】
本発明に用いられるオルガノポリシロキサン組成物は、(C)成分として、紫外線、可視光線、赤外線、及びマイクロ波と言った電磁波で活性化する活性型白金錯体硬化触媒を含有する。該電磁波活性型白金錯体硬化触媒は、電磁波を照射して活性化すると、(A)成分と(B)成分との付加反応を促進する触媒作用を有する。該(C)成分である電磁波活性型白金錯体硬化触媒となる化合物としては、β−ジケトン白金錯体又は環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体である事を特徴とする。
【0029】
ここで言う電磁波のうち、マイクロ波は、波長は特に限定されないが、30〜150mm(2〜10GHz)のものが好ましい。誘電体の分極をマイクロ波で行い,その損失で熱を得て、加熱によって硬化を促進する。紫外線は波長200〜380nmのもので、長波長紫外線、中波長紫外線、短波長紫外線を含む近紫外線が特に有効である。可視光線は波長380〜750nmのもので、紫外線より硬化スピードは遅くなるが、工業レベルでは十分に速く有効である。赤外線は波長750nm〜1mmのもので、近赤外線、中赤外線、遠赤外線を含む。可視光線より硬化スピードは遅くなるが、工業レベルでの硬化スピードが不足であれば、硬化雰囲気、特に温度を上げれば良い。
【0030】
こうした白金錯体は、例えば、米国特許第6,376,569号明細書、米国特許第4,916,169号明細書、米国特許第6,046,250号明細書、米国特許第5,145,886号明細書、米国特許第6,150,546号明細書、米国特許第4,530,879号明細書、米国特許第4,510,094号明細書に開示されている。
【0031】
ここで、β−ジケトン白金錯体としては、例えば、トリメチル(アセチルアセトナート)白金錯体、トリメチル(2,4−ペンタンジオネート)白金錯体、トリメチル(3,5−ヘプタンジオネート)白金錯体、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金錯体、ビス(2,4−ペンタンジオナート)白金錯体、ビス(2,4−ヘキサンジオナート)白金錯体、ビス(2,4−ヘプタンジオナート)白金錯体、ビス(3,5−ヘプタンジオナート)白金錯体、ビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオナート)白金錯体、ビス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナート)白金錯体等が挙げられる。
【0032】
また、環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体としては、例えば、(1,5−シクロオクタジエニル)ジメチル白金錯体、(1,5−シクロオクタジエニル)ジフェニル白金錯体、(1,5−シクロオクタジエニル)ジプロピル白金錯体、(2,5−ノルボラジエン)ジメチル白金錯体、(2,5−ノルボラジエン)ジフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)ジエチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジフェニル白金錯体、(メチルシクロオクタ−1,5−ジエニル)ジエチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)エチルジメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)アセチルジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(ジメチルフェニルシリルシクロペンタジエニル)トリフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチルトリメチルシリルメチル白金錯体等が挙げられる。
【0033】
本発明に用いられるオルガノポリシロキサン組成物において、(C)成分の含有量は、触媒としての有効量であればよいが、例えば、(A)成分及び(B)成分の合計質量に対して、好ましくは白金金属として1〜1,000ppmとなる量、より好ましくは5〜500ppmの範囲である。前記配合量が少なすぎると硬化が遅くなることがあり、多すぎると経済的に不利になることがある。
【0034】
本発明に用いられるオルガノポリシロキサン組成物においては、上記成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲でその他の任意成分を配合することができる。
特に、第一の工程で得られた組成物を所望の箇所に適用するまでの時間を調整するために反応制御剤を配合することが好ましい。硬化してシリコーンゲルとなるような架橋点の比較的少ない組成物では必ずしも反応制御剤を用いる必要はないが、硬化してシリコーンゴムとなるような比較的架橋点の多い組成物では、作業性を向上させるために反応制御剤を用いることが好ましい。反応制御剤としては、ヒドロシリル化反応に対する白金系触媒の活性を制御できるものであれば制限されず、公知の反応制御剤を用いることができ、例えばアセチレン系化合物、マレイン酸誘導体などが挙げられる。当該化合物による硬化遅延効果の度合いは、その化学構造によって大きく異なる。従って、その添加量は、使用する化合物の個々について最適な量に調整すべきであるが、(A)成分100質量部に対して0.0001〜10質量部、特に0.001〜3質量部であることが好ましい。
【0035】
付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、上記各成分を常法に準じて混合することにより調製することができる。
【0036】
本発明の硬化方法は、上記付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物に電磁波を照射して(C)成分の触媒活性を高める最初の工程と、それに続く触媒活性が高められた組成物を所望の箇所にコーティングやポッティングし、硬化させる工程からなる。このように二つのステップを踏むことにより本発明の組成物は硬化物表面だけでなく硬化物内部も均一に硬化することができる。硬化スピードが十分速くない場合は加熱してもよく、例えば30℃〜100℃の温度を加えることができる。
【0037】
最初の工程において電磁波照射は、組成物全体に照射してから注型等中継所望の箇所に適用してもよいし、組成物の一部に電磁波を照射しながら連続的に注型等中継所望の箇所に適用してもよい。電磁波として、紫外線、可視光線、赤外線、及びマイクロ波等が挙げられる。
【0038】
紫外線を照射するランプは、波長が200〜400nmの紫外線を供給できるものなら特に制限されず、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、紫外線LEDランプ等が挙げられる。紫外線照射量は、使用する電磁波活性型白金錯体の種類や量により異なるが、電磁波活性型白金錯体が活性化するのに十分な量であればよく、10〜1,000mW/cm
2、特に20〜400mW/cm
2の紫外線強度を0.5秒〜5分、特に1秒〜1分程度照射することが好ましい。
【0039】
可視光線は波長400〜750nmのもので、太陽光、蛍光灯ランプ、LEDランプが挙げられるが、紫外線より硬化スピードは遅くなるが、工業レベルでは十分に速く有効であるが、必要なら雰囲気温度を上げて、硬化スピードを速めれば良い。
【0040】
赤外線は波長750nm〜1mmのもので、近赤外線、中赤外線、遠赤外線を含む。可視光線より硬化スピードは遅くなるが、工業レベルでの硬化スピードが不足であれば、硬化雰囲気、特に温度を上げれば良い。これら電磁波に共通して、硬化温度を上げれば、硬化スピードは速くなる。硬化の化学反応として、10℃上がれば、硬化スピードは2倍程度になる。従って、硬化温度20℃アップで4倍、30℃アップで8倍程度速くなる。
【0041】
マイクロ波は、波長は特に限定されないが、30〜150mm(2〜10GHz)のものが好ましい。誘電体の分極は、マイクロ波を発生させるマグネトロン、クライストロン、ジャイロトロンなどの電子デバイスで行い,その損失で熱を得て加熱によって硬化を促進することを特徴とする。
【0042】
さらに、付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物にナノダイヤモンド及びその誘導体を添加して、硬化時間を短縮することを特徴とする。その理由は明確ではないが、爆射法によって製造されたナノダイヤモンド及びその誘導体は、コアがSP
3のダイヤモンド構造、シェルがSP
2のグラファイト構造から構成されており、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波等の外部から入ってくる電磁波を吸収して、よりエネルギーレベルの低い長波長電磁波を放出することによると推定される。SP
3ダイヤモンドのバンドギャップは5.5eV、SP
2グラファイトのバンドギャップは2.4eVとそのバンドギャップが異なるので、SP
3とSP
2の構成割合によっては放出する電磁波の波長が異なる。
【実施例】
【0043】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、下記の例において、粘度は回転粘度計により測定した25℃における値を示す。
(参考例1
)
【実施例1】
【0044】
分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、粘度が約1,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100質量部、粘度が12mPa・sの分子鎖末端と側鎖にケイ素原子結合水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子含有量=0.55質量%)2.2質量部、ビス(2,4−ペンタンジオナート)白金錯体を白金原子含有量として0.4質量%含有する酢酸−2−(2−ブトキシエトキシ)エチル溶液0.12質量部を混合して組成物Aを調製した。
フイルター・均一照射ユニットを装着したUV XeFL紫外線照射器(USHIO製)を用いて、125mW/cm
2、4秒間、室温で組成物A 10gに紫外線を照射した。この組成物Aは液体であった。この反応液(組成物A)を一辺が10cmの直方体の発砲スチロールの表面にスプレイで吹き付け、ぶら下げて、室温で2時間放置した後、組成物Aの硬化状態を観察した結果、全体が均一に硬化していた。全体が均一に塗布された保証はないが、重量増加から計算して、250ミクロン程度の厚みで万遍なく覆われていると推定された。これを屋外の池の水に浮かせて、3月〜8月の半年間放置して観察したが、劣化もせず、耐水性、耐候性の良い成型物構造体が得られた。
(参考例2
)
【実施例2】
【0045】
ビス(2,4−ペンタンジオナート)白金錯体の代わりに、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体の白金原子含有量として1質量%含有するイソオクタン溶液0.05質量部、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン0.01質量部を使用した以外は実施例1に従い、組成物Bを調製した。
実施例1で使用した紫外線照射器を用いて、20mW/cm
2、2秒間、組成物B、8gに紫外線を照射した。この反応液(組成物B)を実施例1と同様に一辺が10cmの直方体の発砲スチロールの表面にスプレイで吹き付け、ぶら下げて、室温で2時間放置した後、組成物Aの硬化状態を観察した結果、全体が均一に硬化していた。全体が均一に塗布された保証はないが、重量増加から計算して、200ミクロン程度の厚みで万遍なく覆われていると推定された。これを屋外の池の水に浮かせて、3月〜8月の半年間放置して観察したが、実施例1と同様に耐水性、耐候性の良い成型物構造体が得られた。
(参考例3
)
【実施例3】
【0046】
実施例1で得られた組成物Aを用いて、蛍光灯を用いて、50℃で30分、組成物A10gに可視光を照射した。この組成物Aは液体であった。この反応液(組成物A)を一辺が10cmの直方体の発砲スチロールの表面にスプレイで吹き付け、ぶら下げて、室温で2時間放置した後、組成物Aの硬化状態を観察した結果、全体が均一に硬化していた。全体が均一に塗布された保証はないが、重量増加から計算して、230ミクロン程度の厚みで万遍なく覆われていると推定された。これを屋外の池の水に浮かせて、3月〜8月の半年間放置して観察したが、劣化もせず、耐水性、耐候性の良い成型物構造体が得られた。
(参考例4
)
【実施例4】
【0047】
実施例1で得られた組成物Aを用いて、赤外線発光LED(標準波長850nm・オスラム社製)を使用して、60℃で20分、組成物A 10gに赤外線を照射した。この組成物Aは液体であった。この反応液(組成物A)を一辺が10cmの直方体の発砲スチロールの表面にスプレイで吹き付け、ぶら下げて、室温で2時間放置した後、組成物Aの硬化状態を観察した結果、全体が均一に硬化していた。全体が均一に塗布された保証はないが、重量増加から計算して、300ミクロン程度の厚みで万遍なく覆われていると推定された。これを屋外の池の水に浮かせて、3月〜8月の半年間放置して観察したが、劣化もせず、耐水性、耐候性の良い成型物構造体が得られた。
(参考例5
)
【実施例5】
【0048】
実施例1で得られた組成物Aを用いて、電子レンジ(2.45GHz)を用いて、室温で5分、組成物A10gにマイクロ波を照射した。この組成物Aは液体であった。この反応液(組成物A)を一辺が10cmの直方体の発砲スチロールの表面にスプレイで吹き付け、ぶら下げて、室温で2時間放置した後、組成物Aの硬化状態を観察した結果、全体が均一に硬化していた。全体が均一に塗布された保証はないが、重量増加から計算して200ミクロン程度の厚みで万遍なく覆われていると推定された。これを屋外の池の水に浮かせて、3月〜8月の半年間放置して観察したが、劣化もせず、耐水性、耐候性の良い成型物構造体が得られた。
【実施例6】
【0049】
(1)ナノダイヤモンドの作製
TNT(トリニトロトルエン)とRDX(シクロトリメチレントリニトロアミン)を60/40の比で含む0.65kgの爆発物を3m
3の爆発チャンバー内で爆発させて生成するBDを保存するための雰囲気を形成した後、同様の条件で2回目の爆発を起こしBDを合成した。爆発生成物が膨張し熱平衡に達した後、15mmの断面を有する超音速ラバルノズルを通して35秒間ガス混合物をチャンバーより流出させた。チャンバー壁との熱交換及びガスにより行われた仕事(断熱膨張及び気化)のため、生成物の冷却速度は280℃/分であった。サイクロンで捕獲した生成物(黒色の粉末、BD)の比重は2.36g/cm
3、メジアン径(動的光散乱法)は230nmであった。このBDは比重から計算して、91体積%のグラファイト系炭素と9体積%のダイヤモンドからなっていると推定された。
【0050】
このBDを60質量%硝酸水溶液と混合し、160℃、14気圧、20分の条件で酸化性分解処理を行った後、130℃、13気圧、1時間で酸化性エッチング処理を行った。酸化性エッチング処理により、BDからグラファイトが一部除去された粒子が得られた。この粒子を、アンモニアを用いて、210℃、20気圧、20分還流し中和処理した後、自然沈降させデカンテーションにより35質量%硝酸での洗浄を行い、さらにデカンテーションにより3回水洗し、遠心分離により脱水し、120℃で加熱乾燥し、グラファイト相を有するナノダイヤモンドの粉末を得た。このナノダイヤモンドの粉末の比重は3.38g/cm
3であり、メジアン径は5.5μm(動的光散乱法)であった。比重から計算して、90体積%のダイヤモンドと10体積%のグラファイト系炭素からなっていると推定された。
【0051】
このナノダイヤモンド0.001重量%を、超音波をかけながら良く分散して添加した以外は、実施例1と全く同様にして紫外線を照射して、反応液(組成物A)を作製した。この反応液(組成物A)をガラス表面に素早く滴下し、室温で1時間放置した後、組成物Aの硬化状態を観察した。結果全体が均一に硬化していた。硬化物の硬さ(IRHD硬度計スーパーソフト)は75であった。24時間後では88であった。これに対し、ナノダイヤモンドを入れてないものは、硬化物の硬さ(IRHD硬度計スーパーソフト)は70で、24時間後では84であった。以上の結果からナノダイヤモンドを入れることによって、硬化が促進することが理解される。
【0052】
[比較例1]
紫外線を照射することなく、実施例1と同様にして試料を作製したところ全く硬化しなかった。
【0053】
[比較例2]
紫外線を照射することなく、実施例2と同様にして試料を作製したところ全く硬化しなかった。
以上の結果から本発明の成型物構造体は、電磁波で容易に硬化し、耐水性、耐候性にすぐれることが理解される。