特許第6209173号(P6209173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6209173密閉型二次電池の劣化診断方法及び劣化診断システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209173
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】密閉型二次電池の劣化診断方法及び劣化診断システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20170925BHJP
   G01R 31/36 20060101ALI20170925BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20170925BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20170925BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H02J7/00 Q
   G01R31/36 AZHV
   H01M10/48 301
   H01M10/44 Q
   H02J7/00 X
   H02J7/10 H
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-36791(P2015-36791)
(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公開番号】特開2016-158467(P2016-158467A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 武司
(72)【発明者】
【氏名】南方 伸之
【審査官】 高橋 優斗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−195055(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007805(WO,A1)
【文献】 特開2013−196805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/36,
H01M10/42−10/48,
H02J7/00−7/12,
H02J7/34−7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉型二次電池の劣化診断方法において、
前記密閉型二次電池の変形を検出し、満充電状態からの放電容量または満充電状態までの充電容量と、検出した前記密閉型二次電池の変形量との関係を表す第1曲線を求めるステップと、
その充放電容量と前記第1曲線の傾きとの関係を表す第2曲線を求めるステップと、
前記第2曲線に現れるピークの幅に基づいて算出される充放電容量が、それに対応する所定の基準状態でのピークの幅に基づいて算出される充放電容量よりも大きい場合に、反応分布の拡大による劣化モードと判定するステップと、を含むことを特徴とする密閉型二次電池の劣化診断方法。
【請求項2】
反応分布の拡大による劣化モードと判定した場合に、前記第2曲線に現れるピークの立ち上がりの充電容量に充電開始時の残容量を加えた値の2倍を超えない範囲で定電流充電するステップを含む請求項1に記載の密閉型二次電池の劣化診断方法。
【請求項3】
前記密閉型二次電池に高分子マトリックス層を貼り付け、前記高分子マトリックス層は、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有したものであり、
その高分子マトリックス層の変形に応じた前記外場の変化を検出することにより、前記密閉型二次電池の変形を検出する請求項1または2に記載の密閉型二次電池の劣化診断方法。
【請求項4】
前記高分子マトリックス層が前記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、
前記外場としての磁場の変化を検出することにより、前記密閉型二次電池の変形を検出する請求項3に記載の密閉型二次電池の劣化診断方法。
【請求項5】
密閉型二次電池の劣化診断システムにおいて、
前記密閉型二次電池の変形を検出する検出センサと、
満充電状態からの放電容量または満充電状態までの充電容量と、前記検出センサで検出した前記密閉型二次電池の変形量との関係を表す第1曲線、及び、その充放電容量と前記第1曲線の傾きとの関係を表す第2曲線を求め、前記第2曲線に現れるピークの幅に基づいて算出される充放電容量が、それに対応する所定の基準状態でのピークの幅に基づいて算出される充放電容量よりも大きい場合に、反応分布の拡大による劣化モードと判定することを特徴とする密閉型二次電池の劣化診断システム。
【請求項6】
反応分布の拡大による劣化モードと判定した場合に、前記第2曲線に現れるピークの立ち上がりの充電容量に充電開始時の残容量を加えた値の2倍を超えない範囲で定電流充電する請求項5に記載の密閉型二次電池の劣化診断システム。
【請求項7】
前記検出センサが、前記密閉型二次電池に貼り付けられる高分子マトリックス層と、検出部とを備え、
前記高分子マトリックス層が、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有し、前記検出部が前記外場の変化を検出する請求項5または6に記載の密閉型二次電池の劣化診断システム。
【請求項8】
前記高分子マトリックス層が前記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、前記検出部が前記外場としての磁場の変化を検出する請求項7に記載の密閉型二次電池の劣化診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型二次電池の劣化を診断する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代表される密閉型二次電池(以下、単に「二次電池」と呼ぶことがある)は、携帯電話やノートパソコンなどのモバイル機器だけでなく、電気自動車やハイブリッド車といった電動車両用の電源としても利用されている。二次電池は、充放電を繰り返すことにより劣化するとともに、その劣化の進行に伴って残容量の正確な把握が難しくなる。
【0003】
特許文献1には、二次電池の定電流充電または定電流放電を行いながら所定時間あたりの電池電圧の変化を逐次測定し、その電池電圧の変化が所定値以下である時間に基づいて、二次電池の劣化率を算出する方法が記載されている。しかし、かかる所定時間あたりの電池電圧は、測定時点までの充放電履歴に依存して変化するため、充放電を繰り返しながら使用する用途、例えば充放電を頻繁に繰り返す電動車両に搭載される環境下での使用には適していない。
【0004】
特許文献2には、バッテリーを一旦完全に放電させた後で満充電とし、そのときの充電用電流の電流量を積算することにより充電容量を算出する方法が記載されている。しかし、実際の使用においてバッテリーを完全に放電させることは稀であるため、充放電を繰り返しながら使用する用途、例えば充放電を頻繁に繰り返す電動車両に搭載される環境下での使用には適していない。
【0005】
特許文献3には、二次電池の電圧と内部圧力を検出し、劣化していない二次電池の電圧と内部圧力との関係データ、及び、二次電池の内部圧力と電池容量との関係データを用いて、二次電池の劣化を算出する方法が記載されている。しかし、二次電池を使用する環境や条件によって劣化メカニズムが異なる場合があるため、様々なパターンの関係データを用意しなければならないうえ、どのパターンに該当するのかの判断も困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−340997号公報
【特許文献2】特開2008−278624号公報
【特許文献3】特開2013−92398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、充放電を繰り返しながら使用する用途であっても、密閉型二次電池の劣化を簡便且つ高精度に診断できる方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る密閉型二次電池の劣化診断システムは、密閉型二次電池の劣化診断方法において、前記密閉型二次電池の変形を検出し、満充電状態からの放電容量または満充電状態までの充電容量と、検出した前記密閉型二次電池の変形量との関係を表す第1曲線を求めるステップと、その充放電容量と前記第1曲線の傾きとの関係を表す第2曲線を求めるステップと、前記第2曲線に現れるピークの幅に基づいて算出される充放電容量が、それに対応する所定の基準状態でのピークの幅に基づいて算出される充放電容量よりも大きい場合に、反応分布の拡大による劣化モードと判定するステップと、を含むものである。
【0009】
第2曲線に現れるピーク(山)は電極のステージ変化に起因し、その容量でのステージ変化が完了する個々の活物質量を示す。このため、そのピークの幅に基づき、電極内の活物質の反応分布を把握でき、基準状態との比較によって反応分布が拡大しているか、即ち反応分布の拡大による劣化モードであるかを判定できる。また、第2曲線の出処となる第1曲線は、満充電状態からの放電容量または満充電状態までの充電容量と二次電池の変形量との関係であり、電動車両のように充放電を頻繁に繰り返す環境下でも満充電状態になる機会は度々ある。よって、この方法であれば、充放電を繰り返しながら使用する用途であっても、密閉型二次電池の劣化を簡便且つ高精度に診断できる。
【0010】
反応分布の拡大による劣化モードと判定した場合に、前記第2曲線に現れるピークの立ち上がりの充電容量に充電開始時の残容量を加えた値の2倍を超えない範囲で定電流充電するステップを含むことが好ましい。これにより、リチウム金属の析出を生じるなどの不都合を避けることができ、しかもそのために電池を完全放電状態にする必要がない。
【0011】
本発明に係る密閉型二次電池の劣化診断方法では、前記密閉型二次電池に高分子マトリックス層を貼り付け、前記高分子マトリックス層は、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有したものであり、その高分子マトリックス層の変形に応じた前記外場の変化を検出することにより、前記密閉型二次電池の変形を検出することが好ましい。これにより密閉型二次電池の変形を高感度に検出し、密閉型二次電池の劣化を精度良く診断することができる。
【0012】
上記においては、前記高分子マトリックス層が前記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、前記外場としての磁場の変化を検出することにより、前記密閉型二次電池の変形を検出することが好ましい。これにより、高分子マトリックス層の変形に伴う磁場の変化を配線レスで検出することができる。また、感度領域が広いホール素子を利用できることから、より広範囲にわたって高感度な検出が可能となる。
【0013】
また、本発明に係る密閉型二次電池の劣化診断システムは、密閉型二次電池の劣化診断システムにおいて、前記密閉型二次電池の変形を検出する検出センサと、満充電状態からの放電容量または満充電状態までの充電容量と、前記検出センサで検出した前記密閉型二次電池の変形量との関係を表す第1曲線、及び、その充放電容量と前記第1曲線の傾きとの関係を表す第2曲線を求め、前記第2曲線に現れるピークの幅に基づいて算出される充放電容量が、それに対応する所定の基準状態でのピークの幅に基づいて算出される充放電容量よりも大きい場合に、反応分布の拡大による劣化モードと判定するものである。
【0014】
第2曲線に現れるピーク(山)は電極のステージ変化に起因し、その容量でのステージ変化が完了する個々の活物質量を示す。このため、そのピークの幅に基づき、電極内の活物質の反応分布を把握でき、基準状態との比較によって反応分布が拡大しているか、即ち反応分布の拡大による劣化モードであるかを判定できる。また、第2曲線の出処となる第1曲線は、満充電状態からの放電容量または満充電状態までの充電容量と二次電池の変形量との関係であり、電動車両のように充放電を頻繁に繰り返す環境下でも満充電状態になる機会は度々ある。よって、このシステムであれば、充放電を繰り返しながら使用する用途であっても、密閉型二次電池の劣化を簡便且つ高精度に診断できる。
【0015】
反応分布の拡大による劣化モードと判定した場合に、前記第2曲線に現れるピークの立ち上がりの充電容量に充電開始時の残容量を加えた値の2倍を超えない範囲で定電流充電するものが好ましい。これにより、リチウム金属の析出を生じるなどの不都合を避けることができ、しかもそのために電池を完全放電状態にする必要がない。
【0016】
本発明に係る密閉型二次電池の劣化診断システムでは、前記検出センサが、前記密閉型二次電池に貼り付けられる高分子マトリックス層と、検出部とを備え、前記高分子マトリックス層が、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有し、前記検出部が前記外場の変化を検出することが好ましい。これにより密閉型二次電池の変形を高感度に検出し、密閉型二次電池の劣化を精度良く診断することができる。
【0017】
上記においては、前記高分子マトリックス層が前記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、前記検出部が前記外場としての磁場の変化を検出することが好ましい。これにより、高分子マトリックス層の変形に伴う磁場の変化を配線レスで検出することができる。また、感度領域が広いホール素子を検出部として利用できることから、より広範囲にわたって高感度な検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る劣化診断方法を実行するためのシステムの一例を示すブロック図
図2】密閉型二次電池を模式的に示す(a)斜視図と(b)A−A断面図
図3】密閉型二次電池を模式的に示す(a)斜視図と(b)B−B断面図
図4】満充電状態からの放電容量と検出した二次電池の変形量との関係を示すグラフ
図5】満充電状態からの放電容量と第1曲線の傾きとの関係を示すグラフ
図6】満充電状態からの放電容量と第1曲線の傾きとの関係を示すグラフ
図7】満充電状態までの充電容量と第1曲線の傾きとの関係を表すグラフ
図8】満充電状態までの充電容量と第1曲線の傾きとの関係を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明に係る劣化診断方法は、後述するように、第1曲線を求めるステップ、第2曲線を求めるステップ、及び、反応分布の拡大による劣化モードを判定するステップを備えるものである。下記では、更に、活物質の維持率を算出するためのステップや、副反応による容量バランスずれ量を算出するためのステップについても説明するが、これらの採用は任意である。本発明に係る劣化診断システムについても、これと同様である。
【0020】
図1は、電気自動車やハイブリッド車といった電動車両に搭載されるシステムを示している。このシステムは、複数の密閉型二次電池2により構成された組電池を筐体内に収容してなる電池モジュール1を備える。本実施形態では、4つの二次電池2が2並列2直列に接続されているが、電池の数や接続形態はこれに限定されない。図1では電池モジュール1を1つだけ示しているが、実際には複数の電池モジュール1を含んだ電池パックとして装備される。電池パックでは、複数の電池モジュール1が直列に接続され、それらがコントローラなどの諸般の機器と一緒に筐体内に収容される。電池パックの筐体は、車載に適した形状に、例えば車両の床下形状に合わせた形状に形成される。
【0021】
図2に示した二次電池2は、密閉された外装体21の内部に電極群22が収容されたセル(単電池)として構成されている。電極群22は、正極23と負極24がそれらの間にセパレータ25を介して積層または捲回された構造を有し、セパレータ25には電解液が保持されている。本実施形態の二次電池2は、外装体21としてアルミラミネート箔などのラミネートフィルムを用いたラミネート電池であり、具体的には容量1.44Ahのラミネート型リチウムイオン二次電池である。二次電池2は全体として薄型の直方体形状に形成され、X,Y及びZ方向は、それぞれ二次電池2の長さ方向,幅方向及び厚み方向に相当する。また、Z方向は、正極23と負極24の厚み方向でもある。
【0022】
二次電池2には、その二次電池2の変形を検出する検出センサ5が取り付けられている。検出センサ5は、二次電池2に貼り付けられる高分子マトリックス層3と、検出部4とを備える。高分子マトリックス層3は、その高分子マトリックス層3の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有している。本実施形態の高分子マトリックス層3は、柔軟な変形が可能なエラストマー素材によりシート状に形成されている。検出部4は、外場の変化を検出する。二次電池2が膨れて変形すると、それに応じて高分子マトリックス層3が変形し、その高分子マトリックス層3の変形に伴う外場の変化が検出部4により検出される。このようにして、二次電池1の変形を高感度に検出できる。
【0023】
図2の例では、二次電池2の外装体21に高分子マトリックス層3を貼り付けているため、外装体21の変形(主に膨れ)に応じて高分子マトリックス層3を変形させることができる。一方、図3のように、二次電池2の電極群22に高分子マトリックス層3を貼り付けてもよく、かかる構成によれば、電極群22の変形(主に膨れ)に応じて高分子マトリックス層3を変形させることができる。検出する二次電池1の変形は、外装体21及び電極群22の何れの変形であっても構わない。
【0024】
検出センサ5によって検出した信号は制御装置6に伝達され、これにより二次電池2の変形に関する情報が制御装置6に供給される。制御装置6は、その情報を用いて、具体的には以下のステップ1〜4を含む処理に基づき、より好ましくはステップ5,6をも含めて、二次電池2の劣化診断を行う。尚、下記の例では、満充電状態から任意の放電状態まで放電したときの挙動について説明するが、これに限定されるものではない。
【0025】
まず、二次電池2の変形を検出し、満充電状態からの放電容量と検出した二次電池2の変形量との関係を表す第1曲線を求める(ステップ1)。図4のグラフには、充放電の工程を500サイクル繰り返した後の二次電池2において求めた第1曲線L1を示している。充放電の工程では、二次電池2を25℃の恒温槽に入れ、120分静置後、1.44Aの充電電流で4.3Vまで定電流充電し、4.3Vに到達後、0.07Aに電流値が減衰するまで定電圧充電を行い、その後10分間の開回路状態を保持し、1.44Aの電流で3.0Vまで定電流放電を行った。尚、未使用の劣化していない二次電池2において、その満充電状態から完全放電状態までの放電容量は1440mAhであった。
【0026】
図4のグラフにおいて、横軸は、原点を満充電状態とする放電容量Qであり、縦軸は、検出した二次電池2の変形量Tである。満充電状態からの放電容量Qが増加するにつれて、二次電池2の変形量Tは小さくなる。これは、充電された二次電池2では、活物質の体積変化による電極群22の膨れ(以下、「電極膨れ」と呼ぶことがある)が生じており、放電に伴って電極群22の膨れが小さくなるためである。曲線Ls1は、基準状態の二次電池2における、満充電状態からの放電容量と二次電池2の変形量との関係を表している。この曲線Ls1は、劣化していない初期段階の二次電池2を基準状態として、例えば製造時または出荷前の二次電池2を対象に、第1曲線L1と同様にして求められる。
【0027】
二次電池2では、過充電などに起因して電解液が分解されると、その分解ガスによる内圧の上昇に伴って膨れ(以下、「ガス膨れ」と呼ぶことがある)を生じることがある。検出センサ5は、このガス膨れによる二次電池2の変形も検出するが、それは変形量Tの全体的な大きさとして反映されるに過ぎず、放電容量Qの増加に伴う変化としては現れない。したがって、図4において、放電容量Qの増加に伴って変形量Tが減少しているのは電極膨れの影響であり、同じ放電容量Qでも第1曲線L1の方が曲線Ls1よりも大きい変形量Tを示すのはガス膨れの影響である。
【0028】
第1曲線L1は、電極のステージ変化に起因して、図4のように幾分かの凹凸を含んだ形状となる。例えば負極にグラファイト(黒鉛)を用いたリチウムイオン二次電池の場合、そのグラファイトの結晶状態は、満充電状態から放電するに伴って順次にステージ変化することが知られている。これは、リチウムイオンの挿入量に伴ってグラファイトの結晶状態が段階的に変化し、グラフェン層間の平均距離が段階的に拡大することで負極の活物質が膨張するためである。要するに、ステージ変化によって活物質の体積は段階的に変化し、それが第1曲線L1や曲線Ls1には反映されている。このような第1曲線L1を求めるうえで、二次電池2の変形を高感度に検出する検出センサ5が好適である。
【0029】
次に、その充放電容量(放電容量と充電容量との総称であり、本実施形態では満充電状態からの放電容量である)と第1曲線の傾きとの関係を表す第2曲線を求める(ステップ2)。図5のグラフには、第1曲線L1から求めた第2曲線L2を示している。この第1曲線L1の傾きdT/dQは、変形量Tを放電容量Qで微分したときの微分値として得られる。第2曲線L2は、極値として現れる2つのステージ変化点P1,P2を有し、これらは上述したステージ変化に起因するものである。曲線Ls2は、基準状態の二次電池2における、充放電容量(本実施形態では放電容量)と第1曲線の傾きとの関係を表す。この曲線Ls2は、第1曲線L1から第2曲線L2を求めるのと同じ要領により、曲線Ls1から求められる。曲線Ls2も、2つのステージ変化点Ps1,Ps2を有する。
【0030】
リチウムイオン二次電池の負極に用いられる活物質には、リチウムイオンを電気化学的に挿入及び脱離することが可能なものが用いられるが、上記のような複数のステージ変化点を有する第2曲線を得るうえでは、グラファイトを含む負極が好ましく用いられる。また、正極に用いられる活物質としては、LiCoO、LiMn、LiNiO、Li(MnAl)、Li(NiCoAl)O、LiFePO、Li(NiMnCo)Oなどを例示することができる。
【0031】
続いて、第2曲線に極値として現れるステージ変化点間の充放電容量Qcを算出する(ステップ3)。極値は極小値と極大値の総称であり、ステージ変化点は、放電時には極小値として現れ、充電時には極大値として現れる。本実施形態では、満充電状態からの放電容量を見ているので、ステージ変化点P1,P2が極小値として現れる。図5では、ステージ変化点P1,P2間の充放電容量Qc、及び、ステージ変化点Ps1,Ps2間の充放電容量Qsを示している。例えば負極にグラファイトを用いたリチウムイオン二次電池の場合、そのステージ変化は、カーボン24個に対してリチウムイオン1個以上が挿入されたときと、カーボン12個に対してリチウムイオン1個以上が挿入されたときに生じる。したがって、充放電容量Qcの減少は、このようなリチウムイオンの挿入や脱離が可能なカーボン量の減少を示唆するものであり、これによって活物質の失活を推察できる。
【0032】
そして、所定の基準状態におけるステージ変化点間の充放電容量Qsに対する充放電容量Qcの比Qc/Qsに基づいて、活物質の維持率を算出する(ステップ4)。例えば、充放電容量Qcが411mAhであり、充放電容量Qsが514mAhである場合には、それらの比Qc/Qsに基づいて、活物質の維持率Rを0.8(≒411/514)と算出できる。これは、充放電の工程を500サイクル繰り返した後の二次電池2では、充放電に寄与する活物質が8割ほど維持され、換言すれば充放電に寄与する活物質が8割まで減少していることを意味し、このようにして二次電池2の劣化を診断できる。
【0033】
上述のように、充放電容量Qcは第2曲線L2から求められ、その第2曲線L2の出処となる第1曲線L1は、満充電状態からの放電容量Qと二次電池2の変形量Tとの関係として求められる。そして、電動車両のように充放電を頻繁に繰り返す環境下であっても、満充電状態になる機会は度々あることから、本実施形態の方法によれば、そのような充放電を繰り返しながら使用する用途であっても、二次電池2の劣化を簡便且つ高精度に診断することができる。
【0034】
曲線Ls1は、劣化していない初期段階の二次電池2を基準状態として、例えば製造時または出荷前の二次電池2を対象にして予め取得される。したがって、曲線Ls2、ステージ変化点Ps1,Ps2及び充放電容量Qsも事前に求めておくことができる。これらのデータは、制御装置6が備える不図示の記憶部に記憶しておくことができるが、上記の劣化診断には、このうち少なくとも充放電容量Qsがあれば足りる。
【0035】
本実施形態では、更に以下のステップ5,6を実行することにより、副反応による容量バランスずれ量を算出して、二次電池2の劣化をより精度良く診断できる。そのうえ、副反応による容量バランスずれ量を活物質の維持率と併せて勘案することにより、二次電池2の残容量の予測に役立てることができる。
【0036】
充放電容量Qcを算出した後、充放電容量Qcが充放電容量Qsと同じ大きさになるように、活物質の維持率を用いて第2曲線を補正する(ステップ5)。具体的には、第2曲線の放電容量の値を活物質の維持率で除算する。このステップは、充放電容量Qcの算出後であればよく、維持率の算出前でも構わない。図6のグラフには、第2曲線L2を補正して得られた第2曲線L2’を示している。充放電容量Qcが411mAhであり、充放電容量Qsが514mAhである場合、第2曲線L2の放電容量Qの値を、維持率Rとしての0.8で除算すればよい。これにより、補正後の第2曲線L2’の充放電容量Qc’は、充放電容量Qsと同じ514mAhとなる。
【0037】
補正後の第2曲線L2’は、維持率Rにて把握された活物質の失活が無いものと仮定したときの、満充電状態からの放電容量Qと第1曲線L1の傾きdT/dQとの関係を表す曲線として求められる。しかしながら、図6のように第2曲線L2’は曲線Ls2に一致せず、そのステージ変化点P1’(またはP2’)と、それに対応するステージ変化点Ps1(またはPs2)との間には充放電容量差Qdが見られる。この充放電容量差Qdは、正極23と負極24との容量バランスにずれが生じている結果であり、そのずれは、正極23での副反応量と負極24での副反応量との相違により生じる。
【0038】
上記のように第2曲線を補正した後、その補正後の第2曲線でのステージ変化点と、それに対応する所定の基準状態でのステージ変化点との充放電容量差に基づいて、副反応による容量バランスずれ量を算出する(ステップ6)。例えば充放電容量差Qdが116mAhである場合には、その分の副反応が負極24で余計に生じたと判定でき、副反応による容量バランスずれ量が116mAh分であると算出される。これは、活物質の失活量を補正する(即ち、第2曲線L2’を曲線Ls2に一致させる)には、第2曲線L2’を放電容量Qの正の方向(グラフの右方向)へ116mAh分シフトさせる必要があることから、そのように考えられる。
【0039】
このように、活物質の維持率を算出するだけでなく、副反応による容量バランスずれ量を算出することにより、二次電池2の劣化をより高精度に診断できる。更に、この副反応による容量バランスずれ量を活物質の維持率と併せて勘案することで、第1曲線L1の終点を推測でき、それによって二次電池2の残容量を予測できる。例えば、劣化前の容量が1440mAhであった二次電池に対して充放電を500サイクル繰り返した後、活物質の維持率Rが0.8であり、副反応による容量バランスずれ量が116mAh分であると診断された場合、その第1曲線L1の終点での放電容量Qの値(mAh)は、1440×0.8+116から推測され、そこから診断時点での放電容量を差し引くことで残容量を予測できる。
【0040】
以上のように、本実施形態の劣化診断方法及び劣化診断システムは、単に二次電池の容量減少を検知するのではなく、どのような容量劣化が二次電池に生じているのかを把握でき、具体的には、どれほどの割合で活物質が維持されているか(裏を返せば、どれほどの割合で活物質が失活しているか)、及び、どれほどの副反応(充放電に寄与しない電気化学反応)が起きたのか、という劣化情報を詳細に得ることができる。更には、その劣化した二次電池に対する放電容量の終点を推測して、残容量を予測することができる。このような劣化診断は、残容量の予測も含めて、制御装置6により実行される。
【0041】
前述の実施形態では、満充電状態から任意の放電状態まで放電したときの挙動について説明したが、これとは逆に、任意の放電状態から満充電状態まで充電したときの挙動についても、上記と同様の手順により劣化診断を行うことができる。その場合、ステップ1では、満充電状態までの充電容量と検出した二次電池の変形量との関係を表す第1曲線が求められる。図4のグラフの横軸は逆になり、満充電状態までの充電容量が増加するにつれて(即ち、満充電状態に近付くにつれて)、二次電池の変形量は大きくなる。また、ステップ2では、その充放電容量(満充電状態までの充電容量)と第1曲線の傾きとの関係を表す第2曲線が求められる。図5,6のグラフでは、横軸だけでなく縦軸も逆になり、上向きのピークを有する第2曲線が得られるとともに、その第2曲線に極大値としてステージ変化点が現れる(例えば、図7参照)。
【0042】
次に、反応分布の拡大による劣化モードの判定について、図7,8を参照して説明する。この劣化モードの判定は、上述した活物質の維持率の算出と併用することができるが、活物質の維持率を算出することなく判定を行ってもよい。即ち、上記のステップ1,2の後、ステップ3,4を行うことなく、後述する判定のステップに移行しても構わない。また、活物質の維持率の算出と劣化モードの判定を併用する場合は、どちらを先に行ってもよいし、これらを同時に行っても構わない。
【0043】
図7は、充放電容量(満充電状態までの充電容量)と第1曲線の傾きとの関係を表すグラフである。第2曲線L3は、上記の如きステップ1,2により求められる。第2曲線L3の出処となる第1曲線については、図示を省略する。第2曲線L3は、極値として(充電時なので極大値として)現れる2つのステージ変化点P3,P4を有する。また、第2曲線L3には、そのステージ変化点P3,P4を持つ2つの上向きのピークが現れており、これらは上述したステージ変化に起因するものである。
【0044】
第2曲線L3に現れる2つのピークは、それぞれ、その容量(図7では充電容量)でのステージ変化が完了する個々の活物質量を示す。ピークの始点(ベースラインBLから離れ始める点)の容量Qp31,Qp41は、それぞれ電極内の多数の活物質の中で最も反応が早く進む容量、即ち最も早くステージ変化を始める容量である。ピークの終点(ベースラインBLに接し始める点)の容量Qp32,Qp42は、それぞれ電極内の全ての活物質のステージ変化が完了する容量である。ベースラインBLは、各ピーク前後の変曲点を結ぶ直線により定められる。充放電容量Qw3は、ピークの始点から終点に至るベース幅に基づいて算出され、具体的には容量Qp32から容量Qp31を差し引くことにより求められる。充放電容量Qw4も、これと同様である。充放電容量Qw3,Qw4は、それぞれ電極内の個々の活物質の反応速度の分布を示す。したがって、二次電池2の劣化の前後においてベース幅などのピークの幅を比較することにより、電極内の活物質の反応分布を把握できる。
【0045】
一般的に、反応分布の拡大は、電極内のイオン抵抗または電気抵抗の増加に起因する。反応分布が拡大することにより、充電時にはリチウム金属の析出に至るまでの充電容量が減少し、リチウム金属が析出しやすくなる。析出したリチウム金属はデンドライト状に成長し、正極と負極とのショートを引き起こすなどの不都合を生じうる。また、放電時においては、反応分布が拡大することにより、最も反応が進みやすい活物質で過放電を生じ、電池の劣化を促進するという不都合がある。
【0046】
図8のグラフには、基準状態の二次電池2における、充放電容量(本実施形態では充電容量)と第1曲線の傾きとの関係を表す曲線Ls3を示している。曲線Ls3の出処となる第1曲線は、図4の曲線Ls1と同様に、劣化していない初期段階の二次電池2を基準状態として、例えば製造時または出荷前の二次電池2を対象として、予め取得することができる。したがって、曲線Ls3だけでなく、ステージ変化点Ps3,Ps4、ベースラインBLs、容量Qps31,Qps32,Qps41,Qps42、及び、充放電容量Qws3,Qws4も事前に求めておくことができる。充放電容量Qws3は、ピークのベース幅に基づいて算出され、具体的には容量Qps32から容量Qps31を差し引くことにより求められる。充放電容量Qws4も、これと同様である。
【0047】
上記のように、各ピークの幅は、電極内の活物質の反応速度の分布を反映するものであるから、第2曲線L3に現れるピークの幅が、それに対応する所定の基準状態でのピークの幅よりも大きい場合には、反応分布の拡大による劣化モードと判定できる。本実施形態では、図7,8のように、第2曲線L3の充放電容量Qw3が、それに対応する基準状態での充放電容量Qws3よりも大きいため、劣化前と比較して反応分布が拡大している、即ち反応分布の拡大による劣化モードと判定される。充放電容量Qw4と充放電容量Qws4との比較においても、これと同様である。劣化モードを判定する際には、どちらのピークで比較しても構わない。
【0048】
このように、充放電容量Qw3と充放電容量Qws3との比較によって、または充放電容量Qw4と充放電容量Qws4との比較によって、反応分布の拡大を容易に検出できる。本実施形態において、判定のために比較される充放電容量は、ピークのベース幅に基づいて算出されるが、これに限られず、ピークの他の幅に基づいて算出しても構わない。例えば、ピークの半値幅(ピークの高さの半分の位置における幅)に基づいて充放電容量を算出し、その比較によって劣化モードの判定を行ってもよい。かかる方法であっても、劣化前後の反応分布の拡大を判断することができる。
【0049】
更に、ピークの幅と、放電レートや温度毎の容量の関係を予め取得することにより、その結果を参照して、現状の電池の放電レートや温度に依存する残容量を予測することもできる。
【0050】
通常、負極にグラファイトを用いたリチウムイオン二次電池では、ステージ2及び3のステージ変化が充放電中に観察される。本実施形態は、負極にグラファイトを用いた例であり、図7,8のグラフでは、ステージ3への変化が左方のピークとして観察され、ステージ2への変化が右方のピークとして観察される。このうち、ステージ2への変化は、12個のカーボン(炭素原子)に対して1個のリチウムイオンを挿入した状態である。種々な不都合を招来するリチウム金属の析出は、12個の炭素原子に対して2個以上のリチウムイオンを挿入しようとした状態(即ち、6個の炭素原子に対して1個以上のリチウムイオンを挿入しようとした状態)で起こる。したがって、完全放電状態からステージ2までの充電容量の2倍以上の充電容量をインターカレーションすることで、リチウム金属の析出に至る。
【0051】
既述のように、ピークの立ち上がりの充電容量(始点での充電容量)は、電極内の多数の活物質の中で最も反応が早く進む容量、即ち電池内で最も早くステージ変化を始める容量を示す。したがって、ステージ2への変化を示すピークにおいては、そのピークの立ち上がりの充電容量の2倍の値に基づき、リチウム金属が析出する容量を予測することが可能である。このことから、本実施形態では、充電容量Qp41の2倍の値が、リチウム金属が析出する容量であると判断できる。
【0052】
電池の初期の設計では、ピークの立ち上がりの充電容量の2倍の容量に到達する前に、設定した上限電圧に到達し、定電流充電から定電圧充電に切り替わるため、リチウム金属の析出は生じない。しかしながら、電池の劣化に伴って、活物質表面への堆積物や結着剤の弛緩などによりイオン抵抗や電気抵抗が増大すると、反応分布が拡大し、ピークの立ち上がりの充電容量が低容量側へシフトする。その場合、設定した上限電圧に到達してから定電圧充電に切り替える制御法では、リチウム金属の析出を免れない。
【0053】
そこで、反応分布の拡大による劣化モードと判定した場合には、第2曲線L3に現れるピークの立ち上がりの充電容量Qp41に充電開始時の残容量を加えた値の2倍を超えない範囲で定電流充電するステップを含むことが好ましい。かかる方法では、反応分布の拡大による劣化を生じていても、最も充電速度の早い活物質のステージ2への変化を検出して定電流充電を終了させるため、リチウム金属の析出を生じない。その結果、安全性を向上するとともに、劣化の進行を抑制できる。定電流充電の終了後は、充電を終了してもよいし、或いは定電圧充電に切り替えてもよい。
【0054】
電池の使用においては、電池を完全に放電させることが稀であり、幾らか容量を残した状態で充電を開始するのが通常である。この場合、充電容量Qp41までの充電容量は、充電開始時の残容量に応じて変化する。更に言えば、リチウム金属を析出する容量は、充電容量Qp41に充電開始時の残容量(完全放電状態であれば実質的にゼロ)を加えた値の2倍以上の充電容量となる。そこで、上記ステップでは、充電容量Qp41に充電開始時の残容量を加えた値の2倍を超えない範囲で定電流充電するようにしている。このため、劣化診断や好適な充電条件を選択するにあたり、完全放電状態にする必要はない。
【0055】
図2に示した実施形態では、正極23と負極24の厚み方向、即ちZ方向(図2(b)の上下方向)に電極群22と対向する外装体21の壁部28aに高分子マトリックス層3を貼り付けている。壁部28aの外面は外装体21の上面に相当する。高分子マトリックス層3は、壁部28aを挟んで電極群22と相対し、電極群22の上面と平行に配置されている。電極膨れは、活物質の体積変化に伴う電極群22の厚み変化に起因するためにZ方向での作用が大きい。したがって、高分子マトリックス層3を壁部28aに貼り付けた本実施形態では、電極膨れを高感度に検出でき、延いては劣化診断を精度良く行うことができる。
【0056】
図3に示した実施形態では、電極群22に対して、正極23と負極24の厚み方向、即ちZ方向(図3(b)の上下方向)から高分子マトリックス層3を貼り付けている。これにより、金属缶などの堅牢な材料で外装体が形成されている場合であっても、その電極群22の膨れ、即ち電極膨れを高精度に検出でき、延いては劣化診断を精度良く行うことができる。
【0057】
検出部4は、外場の変化を検出可能な箇所に配置され、好ましくは二次電池2の膨れによる影響を受けにくい比較的堅固な箇所に貼り付けられる。本実施形態では、図2(b)のように、壁部28aに対向する電池モジュールの筐体11の内面に検出部4を貼り付けている。電池モジュールの筐体11は、例えば金属またはプラスチックにより形成され、ラミネートフィルムが用いられる場合もある。図面上、検出部4は、高分子マトリックス層3と近接して配置されているが、高分子マトリックス層3から離して配置しても構わない。
【0058】
本実施形態では、高分子マトリックス層3が上記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、検出部4が上記外場としての磁場の変化を検出する例を示す。この場合、高分子マトリックス層3は、エラストマー成分からなるマトリックスに磁性フィラーが分散してなる磁性エラストマー層であることが好ましい。
【0059】
磁性フィラーとしては、希土類系、鉄系、コバルト系、ニッケル系、酸化物系などが挙げられるが、より高い磁力が得られる希土類系が好ましい。磁性フィラーの形状は、特に限定されるものではなく、球状、扁平状、針状、柱状および不定形のいずれであってよい。磁性フィラーの平均粒径は、好ましくは0.02〜500μm、より好ましくは0.1〜400μm、更に好ましくは0.5〜300μmである。平均粒径が0.02μmより小さいと、磁性フィラーの磁気特性が低下する傾向にあり、平均粒径が500μmを超えると、磁性エラストマー層の機械的特性が低下して脆くなる傾向にある。
【0060】
磁性フィラーは、着磁後にエラストマー中に導入しても構わないが、エラストマーに導入した後に着磁することが好ましい。エラストマーに導入した後に着磁することで磁石の極性の制御が容易となり、磁場の検出が容易になる。
【0061】
エラストマー成分には、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーまたはそれらの混合物を用いることができる。熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。また、熱硬化性エラストマーとしては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系合成ゴム、および天然ゴム等を挙げることができる。このうち好ましいのは熱硬化性エラストマーであり、これは電池の発熱や過負荷に伴う磁性エラストマーのへたりを抑制できるためである。更に好ましくは、ポリウレタンゴム(ポリウレタンエラストマーともいう)またはシリコーンゴム(シリコーンエラストマーともいう)である。
【0062】
ポリウレタンエラストマーは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られる。ポリウレタンエラストマーをエラストマー成分として用いる場合、活性水素含有化合物と磁性フィラーを混合し、ここにイソシアネート成分を混合させて混合液を得る。また、イソシアネート成分に磁性フィラーを混合し、活性水素含有化合物を混合させることで混合液を得ることも出来る。その混合液を離型処理したモールド内に注型し、その後硬化温度まで加熱して硬化することにより、磁性エラストマーを製造することができる。また、シリコーンエラストマーをエラストマー成分として用いる場合、シリコーンエラストマーの前駆体に磁性フィラーを入れて混合し、型内に入れ、その後加熱して硬化させることにより磁性エラストマーを製造することができる。なお、必要に応じて溶剤を添加してもよい。
【0063】
ポリウレタンエラストマーに使用できるイソシアネート成分としては、ポリウレタンの分野において公知の化合物を使用できる。例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートを挙げることができる。これらは1種で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、イソシアネート成分は、ウレタン変性、アロファネート変性、ビウレット変性、及びイソシアヌレート変性等の変性化したものであってもよい。好ましいイソシアネート成分は、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、より好ましくは2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートである。
【0064】
活性水素含有化合物としては、ポリウレタンの技術分野において、通常用いられるものを用いることができる。例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体等に代表されるポリエーテルポリオール、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート、3−メチル−1,5−ペンタンアジペートに代表されるポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクトンのようなポリエステルグリコールとアルキレンカーボネートとの反応物などで例示されるポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレンカーボネートを多価アルコールと反応させ、次いで得られた反応混合物を有機ジカルボン酸と反応させたポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリヒドロキシル化合物とアリールカーボネートとのエステル交換反応により得られるポリカーボネートポリオール等の高分子量ポリオールを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
活性水素含有化合物として上述した高分子量ポリオール成分の他に、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、及びトリエタノールアミン等の低分子量ポリオール成分、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミン等の低分子量ポリアミン成分を用いてもよい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)(MOCA)、2,6−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2,3−ジクロロアニリン)、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、トリメチレングリコール−ジ−p−アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエート、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、N,N’−ジ−sec−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトライソプロピルジフェニルメタン、m−キシリレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、及びp−キシリレンジアミン等に例示されるポリアミン類を混合することもできる。好ましい活性水素含有化合物は、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体、3−メチル−1,5−ペンタンアジペート、より好ましくはポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体である。
【0066】
イソシアネート成分と活性水素含有化合物の好ましい組み合わせとしては、イソシアネート成分として、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの1種または2種以上と、活性水素含有化合物として、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体、および3−メチル−1,5−ペンタンアジペートの1種または2種以上との組み合わせである。より好ましくは、イソシアネート成分として、2,4−トルエンジイソシアネートおよび/または2,6−トルエンジイソシアネートと、活性水素含有化合物として、ポリプロピレングリコール、および/またはプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体との組み合わせである。
【0067】
高分子マトリックス層3は、分散したフィラーと気泡を含有する発泡体でもよい。発泡体としては、一般の樹脂フォームを用いることができるが、圧縮永久歪などの特性を考慮すると熱硬化性樹脂フォームを用いることが好ましい。熱硬化性樹脂フォームとしては、ポリウレタン樹脂フォーム、シリコーン樹脂フォームなどが挙げられ、このうちポリウレタン樹脂フォームが好適である。ポリウレタン樹脂フォームには、上掲したイソシアネート成分や活性水素含有化合物を使用できる。
【0068】
磁性エラストマー中の磁性フィラーの量は、エラストマー成分100重量部に対して、好ましくは1〜450重量部、より好ましくは2〜400重量部である。これが1重量部より少ないと、磁場の変化を検出することが難しくなる傾向にあり、450重量部を超えると、磁性エラストマー自体が脆くなる場合がある。
【0069】
磁性フィラーの防錆などを目的として、高分子マトリックス層3の柔軟性を損なわない程度に、高分子マトリックス層3を封止する封止材を設けてもよい。封止材には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはそれらの混合物を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、エチレン・アクリル酸エチルコポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリブタジエン等を挙げることができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系ゴム、天然ゴム、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらのフィルムは積層されていてもよく、また、アルミ箔などの金属箔や上記フィルム上に金属が蒸着された金属蒸着膜を含むフィルムであってもよい。
【0070】
高分子マトリックス層3は、その厚み方向にフィラーが偏在しているものでも構わない。例えば、高分子マトリックス層3が、フィラーが相対的に多い一方側の領域と、フィラーが相対的に少ない他方側の領域との二層からなる構造でもよい。フィラーを多く含有する一方側の領域では、高分子マトリックス層3の小さな変形に対する外場の変化が大きくなるため、低い内圧に対するセンサ感度を高められる。また、フィラーが相対的に少ない他方側の領域は比較的柔軟で動きやすく、この領域を貼り付けることにより、高分子マトリックス層3(特に一方側の領域)が変形しやすくなる。
【0071】
一方側の領域でのフィラー偏在率は、好ましくは50を超え、より好ましくは60以上であり、更に好ましくは70以上である。この場合、他方側の領域でのフィラー偏在率は50未満となる。一方側の領域でのフィラー偏在率は最大で100であり、他方側の領域でのフィラー偏在率は最小で0である。したがって、フィラーを含むエラストマー層と、フィラーを含まないエラストマー層との積層体構造でも構わない。フィラーの偏在には、エラストマー成分にフィラーを導入した後、室温あるいは所定の温度で静置し、そのフィラーの重さにより自然沈降させる方法を使用でき、静置する温度や時間を変化させることでフィラー偏在率を調整できる。遠心力や磁力のような物理的な力を用いて、フィラーを偏在させてもよい。或いは、フィラーの含有量が異なる複数の層からなる積層体により高分子マトリックス層を構成しても構わない。
【0072】
フィラー偏在率は、以下の方法により測定される。即ち、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置(SEM−EDS)を用いて、高分子マトリックス層の断面を100倍で観察する。その断面の厚み方向全体の領域と、その断面を厚み方向に二等分した2つの領域に対し、それぞれ元素分析によりフィラー固有の金属元素(本実施形態の磁性フィラーであれば例えばFe元素)の存在量を求める。この存在量について、厚み方向全体の領域に対する一方側の領域の比率を算出し、それを一方側の領域でのフィラー偏在率とする。他方側の領域でのフィラー偏在率も、これと同様である。
【0073】
フィラーが相対的に少ない他方側の領域は、気泡を含有する発泡体で形成されている構造でも構わない。これにより、高分子マトリックス層3が更に変形しやすくなってセンサ感度が高められる。また、他方側の領域とともに一方側の領域が発泡体で形成されていてもよく、その場合の高分子マトリックス層3は全体が発泡体となる。このような厚み方向の少なくとも一部が発泡体である高分子マトリックス層は、複数の層(例えば、フィラーを含有する無発泡層と、フィラーを含有しない発泡層)からなる積層体により構成されていても構わない。
【0074】
磁場の変化を検出する検出部4には、例えば、磁気抵抗素子、ホール素子、インダクタ、MI素子、フラックスゲートセンサなどを用いることができる。磁気抵抗素子としては、半導体化合物磁気抵抗素子、異方性磁気抵抗素子(AMR)、巨大磁気抵抗素子(GMR)、トンネル磁気抵抗素子(TMR)が挙げられる。このうち好ましいのはホール素子であり、これは広範囲にわたって高い感度を有し、検出部4として有用なためである。ホール素子には、例えば旭化成エレクトロニクス株式会社製EQ-430Lが使用できる。
【0075】
ガス膨れが進行した二次電池2は発火や破裂などのトラブルに至ることがあるため、本実施形態では、二次電池2が変形したときの膨張量が所定以上である場合に、充放電が遮断されるように構成されている。具体的には、検出センサ5によって検出した信号が制御装置6に伝達され、設定値以上の外場の変化が検出センサ5により検出された場合に、制御装置6がスイッチング回路7へ信号を発信して発電装置(または充電装置)8からの電流を遮断し、電池モジュール1への充放電が遮断される状態にする。これにより、ガス膨れに起因するトラブルを未然に防止することができる。
【0076】
前述の実施形態では、二次電池がリチウムイオン二次電池である例を示したが、これに限られない。使用される二次電池は、リチウムイオン電池などの非水系電解液二次電池に限られず、ニッケル水素電池などの水系電解液二次電池であっても構わない。
【0077】
前述の実施形態では、高分子マトリックス層の変形に伴う磁場の変化を検出部により検出する例を示したが、他の外場の変化を検出する構成でもよい。例えば、高分子マトリックス層がフィラーとして金属粒子、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの導電性フィラーを含有し、検出部が外場としての電場の変化(抵抗および誘電率の変化)を検出する構成が考えられる。
【0078】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 電池モジュール
2 密閉型二次電池
3 高分子マトリックス層
4 検出部
5 検出センサ
6 制御装置
7 スイッチング回路
8 発電装置または充電装置
21 外装体
22 電極群
23 正極
24 負極
25 セパレータ
L1 第1曲線
L2 第2曲線
P1 ステージ変化点
P2 ステージ変化点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8