(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに隙間を空けて径方向に対向し軸線回りに相対回転する第一構造体と第二構造体との間の前記隙間から、流体がリークすることを抑制する、シール構造において、前記第一構造体から、前記第二構造体に向かって延在して、その延在方向の先端面と前記第二構造体との間にクリアランスをあけて設けられるシールフィンの製造方法であって、
フィン原材料に対し、厚さ方向に関して先端表面から一定の範囲を被切削部として設定し、前記被切削部を、前記厚さ方向と交差する切削方向に切削を行うことで、前記切削方向と交差する面に前記切削方向に凸となる突起部を形成する、切削ステップを備えた
ことを特徴とする、シールフィンの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたシール装置では、リーク抑制効果ひいてはターボ機械のリーク損失抑制効果が十分とはいえない。これは、フィン(13)が回転体(12)に向かって真っ直ぐに延在するストレート形状であり、回転体(12)との間から流体(14)の流れ(リーク)に規制をかけるのには十分な形状とはいえない。
また、フィン(13)の先端には、丸み(ここで言う「丸み」とは、流体の流れに影響を与えうる一定曲率半径以上の丸みである)を帯びてしまうことを加工上の制約から避けられない。フィン(13)の先端部に丸みがあると、フィン(13)の先端部で流体(14)が剥離する点(以下、「剥離点」という)が、回転体(12)の表面(12a)とのクリアランスを実質的に拡大する方向に移動し、かつ流体(14)の剥離点での進行方向が下流側(フィン(13)を通過する側)に向き、縮流が弱くなる。このため、先端部に丸みの無い理想的な形状に較べて、シール装置のリーク抑制効果ひいてはターボ機械のリーク損失抑制効果が目減りしてしまう。
特許文献2に開示されたラビリンスシールでも、封止フィン(26)の先端部に丸みが生じることは避けられず同様の課題が生じていた。特に、特許文献2に開示された封止フィン(26)のように先端部が傾斜した形状において先端部に丸みがあると、この先端部の丸みの扇角が90度[degree]以上になりやすく(つまり丸みを帯びた範囲が広くなりやすく)、このため、特許文献1に開示されたストレート形状のシールフィンよりも、先端部の丸みによる「リーク抑制効果の目減り」が大きかった。
さらに、特許文献2に開示されたラビリンスシールでは、封止フィン(26)の末端要素(34)を傾斜した形状にするための加工が必要となる。封止フィン(26)には一定の加工精度が要求されるため、その形状加工には切削加工を用いることが好ましい。しかし、切削加工を行うとバリが生じるため、このバリを除去する作業が必要となって、封止フィン(26)の製造コストが高価になるという課題がある。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑み創案されたもので、製造コストの上昇を抑制しつつ、高いリーク抑制効果が得られ、ひいてはターボ機械のリーク損失を低減することができる、
シールフィン,シール構造,ターボ機械及びシールフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の
シールフィンは、互いに隙間を空けて径方向に対向し軸線回りに相対回転する第一構造体と第二構造体との間の前記隙間から、流体がリークすることを抑制
し、前記第一構造体
から、前記第二構造体に向かって延在して、その延在方向の先端面と前記第二構造体との間にクリアランスをあけて設けられたシールフィン
であって、前記径方向に延在するフィン本体と、前記フィン本体の前記流体の流通方向で上流側に向く前面と前記フィン本体の前記先端面との間に形成され前記上流側に凸となる突起部とを備えて構成
され、前記突起部が先端の尖った尖鋭突起部であり、前記尖鋭突起部における前記軸線に沿った長さ寸法が、前記フィン本体における前記長さ寸法の1.5倍以下であり、前記尖鋭突起部の角度が75度以下であり、前記フィン本体の前記先端面を基準とした前記尖鋭突起部の傾斜角度が、−60度以上、60度以下の範囲内に設定されたことを特徴としている。
【0011】
(
2)前記フィン本体において、前記先端面と、前記流体の流通方向下流側に向く背面との間に、前記軸線側に向く傾斜面を備えることが好ましい。
(3)前記尖鋭突起部における前記軸線に沿った長さ寸法が、前記フィン本体における前記長さ寸法の0.1倍以上且つ0.5倍以下であることが好ましい。
(4)前記尖鋭突起部は、前記第二構造体に対向する端面が、前記フィン本体の前記先端面と面一に形成されていることが好ましい。
【0012】
(5)上記の目的を達成するために、本発明のシール構造は、互いに隙間を空けて径方向に対向し軸線回りに相対回転する第一構造体と第二構造体との間の前記隙間から、流体がリークすることを抑制する、シール構造であって、前記第一構造体に、前記第二構造体に向かって延在して、その延在方向の先端面と前記第二構造体との間にクリアランスをあけて(1)〜(4)の何れか一項記載のシールフィンを備えたことを特徴としている。
【0013】
(
6)上記の目的を達成するために、本発明のターボ機械は、
(5)に記載のシール構造を備えたことを特徴としている。
【0014】
(6)上記の目的を達成するために、本発明のシールフィンの製造方法は、互いに隙間を空けて径方向に対向し軸線回りに相対回転する第一構造体と第二構造体との間の前記隙間から、流体がリークすることを抑制する、シール構造において、前記第一構造体から、前記第二構造体に向かって延在して、その延在方向の先端面と前記第二構造体との間にクリアランスをあけて設けられるシールフィンの製造方法であって、フィン原材料に対し、厚さ方向に関して先端表面から一定の範囲を被切削部として設定し、前記被切削部を、前記厚さ方向と交差する切削方向に切削を行うことで、前記切削方向と交差する面に前記切削方向に凸となる突起部を形成する、切削ステップを備えたことを特徴としている。
【0015】
(7)前記突起部を研磨して先端の尖った尖鋭突起部に形成する、研磨ステップを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シールフィンと第二構造体とのクリアランスに向かって流れる流体が、シールフィンに上流側に向けて設けられた突起部により案内される結果、剥離点(シールフィンから流体が剥離する点)における流体の進行方向が、上流側(流体がシールフィンを通過する方向とは逆方向)に向かうようになるため、流体の縮流が強まる。
さらに、突起部が先端の尖った尖鋭突起部として形成されているので、シールフィンからのリークする流体の剥離点が、突起部先端に形成されるようになるので、突起部先端が丸みを帯びることによってリーク抑制効果が目減りすることを防止できる。
さらに、尖鋭突起部の主要寸法である軸線に沿った長さ寸法,角度及び傾斜角度を適宜の範囲に設定することで、より高いリーク抑制効果を得ることができる。
したがって、高いリーク抑制効果が得られ、ひいてはターボ機械のリーク損失を低減することができる。
また、切削加工に伴うバリの発生を利用して突起部を設けることができるので、バリの除去が不要になる上に、安価且つ容易に突起部を設けることができ、突起部を設けることによる製造コストの上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態では、本発明のシール構造,ターボ機械及びシールフィンの製造方法を蒸気タービンに適用した例を説明する。
なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができると共に、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
以下の説明では上流,下流と記載した場合は、特段の説明がない限り、蒸気タービン内の蒸気Sの流れに対して上流,下流を意味するものとする。すなわち、
図1〜
図4における左側を上流側、右側を下流側とする。
また、蒸気タービンの軸線CLに向く方向を内周側又は内側とし、その反対側、軸線CLから離れる方向を外周側又は外側として説明する。
【0019】
[1.蒸気タービンの全体構成]
図1に示すように、本実施形態の蒸気タービン(ターボ機械)1は、ケーシング(第一構造体)10と、ケーシング10の内部に回転自在に設けられ、動力を図示しない発電機等の機械に伝達する回転軸30と、ケーシング10に設けられた静翼40と、回転軸30に設けられた動翼50と、軸線CLを中心に回転軸30を回転可能に支持する軸受部70とを備えて構成されている。静翼40及び動翼50は回転軸30の径方向Rに延びるブレードである。
ケーシング10は静止しているのに対し、動翼50は軸線CLを中心に回転する。つまり、ケーシング10と動翼50(後述のシュラウド51を含む)とは互いに相対回転する。
【0020】
蒸気(流体)Sは、図示しない蒸気供給源と接続された蒸気供給管20を介して、ケーシング10に形成された主流入口21から導入され、蒸気タービン1の下流側に接続された蒸気排出管22から排出される。
【0021】
ケーシング10は、内部空間が気密に封止されていると共に、蒸気Sの流路とされている。このケーシング10の内壁面には、回転軸30が挿通されるリング状の仕切板外輪11が強固に固定されている。
軸受部70は、ジャーナル軸受装置71及びスラスト軸受装置72を備えており、回転軸30を回転自在に支持している。
【0022】
静翼40は、ケーシング10から内周側に向かって伸び、回転軸30を囲繞するように放射状に多数配置される環状静翼群を構成しており、それぞれ上述した仕切板外輪11に保持されている。
【0023】
これら複数の静翼40からなる環状静翼群は、回転軸30の軸方向(以下、単に軸方向と呼ぶ)Aに間隔を空けて複数形成されており、蒸気Sの圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して、下流側に隣接する動翼50に流入させる。
【0024】
動翼50は、回転軸30の回転軸本体31の外周部に強固に取り付けられ、各環状静翼群の下流側において、放射状に多数配置されて環状動翼群を構成している。
これら環状静翼群と環状動翼群とは、一組一段とされている。このうち、最終段の動翼群では、回転軸30の周方向(以下、単に周方向と呼ぶ)に隣接する動翼50の先端部同士がリング状のシュラウド(第二構造体)51により連結されている。最終段の動翼群のみなならず他の動翼群、さらには静翼群についてもシュラウド51により連結するようにしても良い。
【0025】
[2.シール構造]
[2−1.シール構造の全体構造]
図2に示すように、仕切板外輪11の軸方向下流側には、仕切板外輪11の内周部から拡径されケーシング10の内周面を底面(以下、ケーシング底面ともいう)13とする円環状の溝(以下、環状溝と呼ぶ)12が形成されている。環状溝12には、シュラウド51が収容され、ケーシング底面13は、シュラウド51と隙間Gdを介して径方向Rに対向している。
【0026】
蒸気Sのうち大部分の蒸気SMは、動翼50に流入し、そのエネルギーが回転エネルギーに変換され、この結果、回転軸30に回転が付与される。その一方、蒸気Sのうち一部(例えば、約数%)の蒸気(以下、リーク蒸気と呼ぶ)SLは、動翼50に流入せずに環状溝12にリークする。リーク蒸気SLのエネルギーは回転エネルギーに変換されないので、リーク蒸気SLは、蒸気タービン1の効率を低下させるリーク損失を招く。
【0027】
そこで、ケーシング10と動翼50との間の隙間Gdには、本発明の一実施形態としてのシール構造(ステップ型のラビリンスシール)2が設けられている。以下、シール構造2について説明する。
シュラウド51は、軸方向Aにおける中央部分が突出してステップ状に形成されたステップ部3を備えている。具体的には、シュラウド51の径方向Rで外周側の面は、ベース面4と、ベース面4よりも径方向Rで外周側に突出するステップ面5が形成されたステップ部3とを有している。
【0028】
ケーシング底面13には、シュラウド51に向けて径方向Rで内周側にそれぞれ延在する三つのシールフィン6A,6B,6Cが設けられている(
図1では省略)。以下、シールフィン6A,6B,6Cを区別しない場合には、シールフィン6と表記する。シールフィン6は、軸線CL(
図1参照)を中心とした環状のものであり、
図2に示す横断面形状(周方向に垂直な断面の形状)を全周に亘って一定に有する。
【0029】
上流のシールフィン6Aは、ステップ部3よりも上流側のベース面4に向けて突出し、中間のシールフィン6Bは、ステップ部3のステップ面5に向けて突出し、下流側のシールフィン6Cは、ステップ部3よりも下流側のベース面4に向けて突出している。中間のシールフィン6Bは、上流側のシールフィン6A及び下流側のシールフィン6Cよりも径方向Rの長さが短くなるように形成されている。
【0030】
これらシールフィン6は、シュラウド51との間に微小間隙(以下、クリアランスともいう)mを径方向Rに形成している。これら微小間隙mの各寸法は、ケーシング10や動翼50の熱伸び量や動翼50の遠心伸び量等を考慮して、シールフィン6と動翼50とが接触することがない範囲で設定されている。
隙間Gdには、環状溝12,シュラウド51及びシールフィン6によって上流側キャビティ25と、下流側キャビティ26とが形成される。シールフィン6の軸線方向の位置は、これらキャビティ25,26内に漏洩したリーク蒸気SLの流れの挙動に応じて適宜設定される。
【0031】
[2−2.シールフィン]
シールフィン6は、シュラウド51のベース面4やステップ面5と対向する先端の構造に大きな特徴がある。この先端の構造について
図3及び
図4を参照して説明する。
【0032】
図3に示すように、シールフィン6は、ケーシング底面13(
図2参照)から径方向Rで内側に向かって真っ直ぐに延在するフィン本体61と、フィン本体61の内周端部に一体に設けられた突起部62とを備えて構成される。突起部62は、フィン本体61の前面(上流側に向く面)61aの内周端部分(先端部分)61bに形成された上流側に向かって凸となる突起部である。内周端部分61bとは、前面61aの内、フィン本体61の内周端面(先端面、シュラウド51に対向する面)61cに隣接する仮想的な一定の領域をいう。換言すれば、フィン本体61には、その前面61aと内周端面61cとの間に上流側に凸となる突起部62が形成されている。
突起部62の突起先端62c(内周端面62aとその裏面(内周端面62aとは反対側の面)62bとが交わる箇所)には、そのまま(未加工のまま)では丸み(ここで言う「丸み」とは、流体の流れに影響を与えうる一定曲率半径以上の丸み)があるため、尖鋭加工が施されている。そこで、以下、突起部62を尖鋭突起部62ともいう。換言すれば、尖鋭突起部62とは、尖鋭加工により、未加工の場合に比べて相対的に突起先端62cが尖鋭化された突起部をいう。
ここでは、尖鋭突起部62は、その内周端面62aがフィン本体61の内周端面61cと面一に形成されている。換言すれば、内周端面61cを上流側に延長するようにして前面61aよりも尖鋭的に凸となる突起部62を形成している。また、内周端面61c及び内周端面62aは、本実施形態では、軸線CLと平行(略平行も含む)に、且つフィン本体61の背面61dと直角(ほぼ直角を含む)を成している。
【0033】
以下、
図4(a)〜(c)を参照して、本発明の一実施形態であるシールフィン6の作用を説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係るシールフィンの作用を説明するための模式的断面図であって、(a)は本発明の一実施形態に係るシールフィンに関する図、(b)は従来のシールフィンに関する図、(c)は理想的な従来構造のシールフィンに関する図である((a),(b),(c)共にシールフィンの断面を示す斜線は省略している)。
【0034】
図4(a),(b),(c)では、本発明の一実施形態に係るシールフィン6とシュラウド51とのクリアランスm,従来のシールフィン6′とシュラウド51とのクリアランスm及び理想的な従来構造のシールフィン6*とシュラウド51とのクリアランスmを、それぞれ同一の高さ寸法(以下、「形状的クリアランス」とも表記する)hとして示す。
理想的な従来構造のシールフィン、すなわち、尖鋭突起部62が無く且つ先端62c*に丸みの無いシールフィン6*では、
図4(c)に一点鎖線の矢印で示すようにリーク蒸気SLが流れる。つまり、リーク蒸気SLの流れは、先端62c*が丸みのない理想的な形状をしているため、この先端62c*でシールフィン6*から剥離し(剥離点Peが先端62c*となり)、且つ、剥離点Peにおけるリーク蒸気SLの流れの方向D*は、真っ直ぐにシュラウド51へと向かう方向となる。したがって、強い縮流が得られる。
このため、縮流後のリーク蒸気SLは、形状的クリアランスhに対して十分に狭い実質的クリアランスh1*が得られ、小さな縮流係数(h1*/h)が得られる(高い縮流効果が得られる)。
【0035】
これに対し、尖鋭突起部62のない従来のシールフィン6′では、
図4(b)に一点鎖線の矢印で示すようにリーク蒸気SLが流れる。つまり、先端62c′が丸みを帯びているため、リーク蒸気SLは、丸みの一部に沿って流れて、先端62c′のフィン根本側(
図4(b)における上側)でシールフィン6′から剥離するように流れ(剥離点Peが、先端62c′から根本側にΔh移動するようになり)、縮流前の実質的なクリアランスは、形状的クリアランスhよりも広いクリアランスh′となる(h′=h+Δh)。さらに、剥離点Peにおけるリーク蒸気SLの流れの方向D′が下流側(シールフィン6′を通過する側)に向くため縮流も弱い。
このため、縮流後のリーク蒸気SLの実質的クリアランスh1′は、理想的な従来構造のシールフィン6*の実質的クリアランスh1*よりも広くなり、その縮流係数(h1′/h)は、理想的な従来構造のシールフィン6*の縮流係数(h1*/h)に比べて大きくなる(縮流効果が低くなる)。したがって、シールフィン6′下流側に流れる蒸気流量(以下、リーク流量という)FLが多くなる。
【0036】
これに対し、本発明の一実施形態であるシールフィン6では、
図4(a)に一点鎖線の矢印で示すようにリーク蒸気SLが流れる。つまり、シールフィン6の先端に上流側に向く突起部62が形成されているため、剥離点Peにおけるリーク蒸気SLの流れの方向Dが上流側(シールフィン6を通過する側とは逆側)に向くため、理想的な従来構造のシールフィン6*よりも強い縮流が得られ、縮流後のリーク蒸気SLの実質的クリアランスh1は、理想的な従来構造のシールフィン6*の実質的クリアランスh1*よりも狭くなる。
【0037】
これは、上流に凸となる尖鋭突起部62の存在により、リーク蒸気SLに対する流通抵抗が大きくなることに加え、リーク蒸気SLが、一旦、上流側に案内され、その後、Uターンしてシールフィン6とシュラウド51とのクリアランスmを通過する際には、Uターンした分だけ、リーク蒸気SLがシュラウド51に近接して流れる(つまり実質的クリアランスh1が狭くなる)ためである。
さらに、突起部62が尖鋭化されているため、リーク蒸気SLの流れは、突起部62の先端62cで剥離するようになり、縮流前のリーク蒸気SLの実質的なクリアランスは、形状的クリアランスhと一致(略一致も含む)する。
このため、シールフィン6の縮流係数(h1/h)は、理想的な従来構造のシールフィン6*の縮流係数(h1*/h)に比べて小さくなる(高い縮流効果が得られる)。したがって、リーク流量FLが低減する。
【0038】
ここで、尖鋭突起部62の主な寸法L1,θ1,θ2の好ましい範囲を、
図3及び
図5を参照して説明する。
図5は、リーク流量の抑制効果Eと、尖鋭突起部62の軸方向Aに関する長さ寸法L1と、尖鋭突起部62の角度(内周端面62aと裏面62bとが成す角度)θ1との相関関係の解析結果を示すものである。抑制効果Eとは、長さ寸法L1が、フィン本体61の軸方向Aに関する長さ寸法L0に対して0.25倍のときにシールフィン6により得られる最大のリーク低減量を100%としてリーク低減量を示すものである。
尖鋭突起部62の長さ寸法L1は、短すぎると、そもそも尖鋭突起部62の突起としての機能が失われて、抑制効果Eが低下し、長すぎると、尖鋭突起部62の作用により縮流したリーク蒸気SLが下流側で広がって(実質的クリアランスh1が広がって)シールフィン6の底面に再付着してしまうため、抑制効果Eが低下する。このため、長さ寸法L1とリーク流量の抑制効果Eとの関係は
図5に示すようになる。
【0039】
図5より、尖鋭突起部62の長さ寸法L1は、50%以上の抑制効果Eが得られることから、好ましくは、フィン本体61の長さ寸法L0の1.5倍以下(L1≦1.5×L0)、80%以上の抑制効果Eが得られることから、より好ましくは、上記寸法L0の0.1倍以上且つ0.5倍以下(0.1×L0≦L1≦0.5×L0)である。
また、尖鋭突起部62の角度θ1が小さいほど(つまり尖鋭突起部62が薄くなるほど)、剥離点Peにおけるリーク蒸気SLの流れの方向D〔
図4(a)参照〕を上流側に向けることができるので、角度θ1は小さいほうが好ましい。具体的には、前記の流れの方向Dを、垂直方向(つまりシュラウド51に対して真っ直ぐな方向)に近くすることができることから、好ましくは75度[degree]以下(θ1≦75)、前記の流れの方向Dを上流側に向けられることから、より好ましくは45度[degree]以下(θ1≦45)である。
【0040】
図3におけるθ2は、尖鋭突起部62の傾斜角度であり、尖鋭突起部62の角度θ1を二等分する二等分線Bと、平行線Pとの交差角度である。平行線Pは、フィン本体61の内周端面61cよりも径方向Rで外周側に位置すると共に内周端面61cと平行な線である。
ここで、二等分線Bと平行線Pとの交点よりも左側の交差角に着目した場合、平行線Pよりも二等分線Bが下方となるような交差角を負(マイナス)、平行線Pよりも二等分線Bが上方となるような交差角を正(プラス)とする。したがって、
図3に示す例では尖鋭突起部62の傾斜角度θ2は負である。
この傾斜角度θ2は、剥離点Peにおけるリーク蒸気SLの流れの方向Dを垂直方向(つまりシュラウド51に対して真っ直ぐな方向)に近くすることができることから、−60度[degree]以上、60度[degree]以下の範囲が好ましい(−60≦θ2≦60)。傾斜角度θ2が大きすぎると、突起部先端62cの位置ひいては剥離点Peがシュラウド51から離隔して、シュラウド51との間の形状クリアランスが拡大してしまうので、傾斜角度θ2の範囲は、より好ましくは、−60度[degree]以上、0度[degree]以下である(−60≦θ2≦0)。
なお、
図5に示す解析結果は、尖鋭突起部62の傾斜角度θ2が−10度[degree]の場合のものである。
【0041】
[3.シールフィンの製造方法]
本発明の一実施形態としてのシールフィンの製造方法を、
図6を参照して説明すると、本シールフィンの製造方法では、先ず、
図6(a)に示す切削ステップが行われ、次いで
図6(b)に示す研磨ステップが行われて、
図6(c)に示すようにシールフィン6が完成する。
【0042】
図6(a)に示す切削ステップでは、フィン原材料100の先端部に設けられた被切削部101(
図6(a)中、網点で示す部分)を、切削機の切削刃200を使用して切削する。被切削部101は、フィン原材料100の先端表面100aから、厚さ方向T(ケーシング10への取り付け時に径方向Rと一致する方向)に関して一定の範囲(つまり先端表面100aから所定厚み分ΔT)に設定されている。異なる言い方をすれば、フィン原材料100は、完成品(シールフィン6)に対して、被切削部101の厚みΔT分を見込んで寸法が設定されている。
そして、切削刃200を、厚さ方向Tと交差する切削方向C(ケーシング10への取り付け時における軸方向Aに沿った方向)に推進し、被切削部101を切削する。切削が進んで被切削部101の残部が僅かになると、この残部が、切削刃200の推進力に抗しきれずに切削方向C側に折れ曲がり突起部101′となり(つまりバリとして残り)、フィン原材料100が中間製品100′となる。なお、切削加工は放電加工により行うようにしても良い。
【0043】
図6(b)に示す研磨ステップでは、突起部101′の切削面102とは反対側の面(以下、未加工面という)103は加工が施されていないので、研磨機201により研磨される。これにより、
図6(c)に示すように、突起部101′が先端の尖った尖鋭突起部62として形成されて、シールフィン6の製造が完了する。
尖鋭突起部62の角度θ1(
図3参照)は、研磨量や研磨角度に応じて調節することができる。尖鋭突起部62の傾斜角度θ2(
図3参照)は、研磨機201により突起部101′を研磨して尖鋭突起部62とする際に、研磨機201により突起部101′に掛ける押圧力により調整することができる。研磨ステップとは別に、尖鋭突起部62の傾斜角度θ2を調節する曲げ加工などの加工ステップを設けても良い。
また、フィン本体61の前面61aと尖鋭突起部62の裏面62bとの間を、Rを付けるなどして滑らかに繋ぐように研磨することが、リーク蒸気SLをスムーズに案内できるので好ましい。
【0044】
[4.効果]
本発明の一実施形態としてのシール構造,蒸気タービン及びシールフィンの製造方法によれば以下の利点がある。
【0045】
図4(a)に示すように、シールフィン6とシュラウド51との微小間隙(クリアランス)mに向かって流れるリーク蒸気SLが、シールフィン6の内周端部分61bに上流側に向けて突設された突起部62により案内される結果、剥離点Peでのリーク蒸気SLの流れの方向Dが上流側(シールフィン6を通過する方向とは逆方向)に向かうようになるためリーク蒸気SLの縮流が強まるので、高いリーク抑制効果が得られる。
【0046】
さらに、突起部62が、先端の尖った尖鋭突起部として形成されているので、シールフィン6からのリーク蒸気SLの剥離点Peが、突起部先端62cに形成されるようになる。したがって、「突起部62の先端が丸みを帯びることによってリーク抑制効果が目減りすること」を防止できる。すなわち、剥離点Peが突起部先端62cよりも根本側(ケーシング10側、
図4(a)中で上側)に移動してシュラウド51との微小間隙mを実質的に広げてしまうことを抑制することができる。
【0047】
さらに、尖鋭突起部62の主要寸法である長さ寸法L1,角度θ1及び傾斜角度θ2を適宜の範囲に設定することで、より高いリーク抑制効果を得ることができる。
また、このようなリーク抑制効果の高いシールフィン6を使用することで、蒸気タービン1のリーク損失を抑制して高いタービン効率を得ることができる。
【0048】
また、切削加工に伴い生じたバリを利用して突起部62を設けるので、バリの除去が不要となり、容易且つ安価に突起部62を設けることができる。
【0049】
[5.その他]
(1)シールフィン6の先端の形状は上記実施形態のものに限定されない。例えば、
図3に示す上記実施形態の構成に対し、
図7に示すように、フィン本体61の背面(下流側に向く面)61dと内周端面61cとの間を斜めに切り落として、内周端面61cに近づくにつれて上流側に位置する(すなわち、内周側(軸線CL側)に向く)傾斜面61eを設けても良い。シールフィン6の全体の軸方向Aに関する長さ寸法(=L1+L0)は、長いと、尖鋭突起部62の作用により縮流したリーク蒸気SLが下流側で広がってシールフィン6の底面に再付着してしまうため、短いほどシールフィン6のリーク抑制効果が向上する。したがって、
図7に示すよう構成にすることでシールフィン6の軸方向Aに関する長さ寸法を短くしてリーク抑制効果が向上することができる。
【0050】
(2)上記実施形態では、ケーシング10を本発明の第一構造体とすると共にシュラウド51を本発明の第二構造体としてケーシング10にシールフィン6を設けたが、逆に、シュラウド51を本発明の第一構造体とすると共にケーシング10を本発明の第二構造体として、シールフィン6をシュラウド51に設けても良い。
【0051】
(3)上記各実施形態では、本発明のシール構造を、ケーシング10と動翼50との間のシール構造に適用したが、回転軸本体31と静翼40との間のシール構造に適用することもできる。
【0052】
(4)上記実施形態では、シュラウド51にステップ型を使用したが、シュラウド51を、ステップのない直通型としても良い。
【0053】
(5)上記実施形態では、シールフィン6A,6B,6Cの全てについて尖鋭突起部62を設けたが、シールフィン6A,6B,6Cの少なくとも1つに尖鋭突起部62を設ければ良い。
【0054】
(6)上記実施形態では、シールフィン6の突起部62を研磨ステップにより研磨して先端の尖った尖鋭突起部としたが、研磨ステップを省くこともできる。換言すれば、
図6(b)に示す研磨前の中間製品100′を、突起部101′を有するシールフィンの完成品として、本発明のシール構造やターボ機械に使用しても良い。突起部101′を尖鋭突起部としなくとも、突起部101′によりリーク蒸気SLを上流に案内することができるので、丸みの影響を相殺してリーク抑制効果を向上することが可能となる。
【0055】
(7)上記実施形態では、蒸気タービンに本発明を適用した例を説明したが、本発明は、ガスタービンやターボ圧縮機など、蒸気タービン以外のターボ機械のシールにも適用することができ、さらには、相対的に回転する二つの構造体の間のシールであれば、ターボ機械以外のもの(例えばロータリージョイント)のシールにも適用できるものである。