特許第6209219号(P6209219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6209219リチウム同位体分離用抽出剤およびその応用
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  • 特許6209219-リチウム同位体分離用抽出剤およびその応用 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209219
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】リチウム同位体分離用抽出剤およびその応用
(51)【国際特許分類】
   B01D 59/24 20060101AFI20170925BHJP
   B01D 11/04 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   B01D59/24
   !B01D11/04 B
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-540018(P2015-540018)
(86)(22)【出願日】2013年5月8日
(65)【公表番号】特表2015-536234(P2015-536234A)
(43)【公表日】2015年12月21日
(86)【国際出願番号】CN2013075340
(87)【国際公開番号】WO2014067278
(87)【国際公開日】20140508
【審査請求日】2015年6月23日
(31)【優先権主張番号】201210437155.2
(32)【優先日】2012年11月5日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513288931
【氏名又は名称】上海 インスティテュート オブ オーガニック ケミストリー、チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI INSTITUTE OF ORGANIC CHEMISTRY, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】リー,ベイリー
(72)【発明者】
【氏名】シェン,ファイユウ
(72)【発明者】
【氏名】フウ,ジンボウ
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−019478(JP,A)
【文献】 特開平11−104401(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102430338(CN,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0031771(KR,A)
【文献】 特開2004−022325(JP,A)
【文献】 特開平10−113541(JP,A)
【文献】 特開平01−184027(JP,A)
【文献】 Xu Jingjing et al,Green and efficient extraction strategy to lithium isotope separation with double ionic liquids as the medium and ionic associated agent,Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry,2013年,Vol.295,pp2103-2110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 11/00−12/00
B01D 59/00−59/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム同位体を分離するための抽出有機相であって、希釈剤および抽出剤である式(I)で表される化合物を含むことを特徴とする前述抽出有機相。
【化1】
(式中において、
Zは、酸素原子、硫黄原子またはR9で置換された窒素原子で、R9は、水素、C1-6アルキル-スルホニル基、C1-6ハロゲン置換アルキル-スルホニル基、ベンゼンスルホニル基または、C1-6アルキル-ベンゼンスルホニル基である。
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ独立に、水素、C1-6アルキル基、C1-6ハロゲン置換アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C1-6アルコキシ基、C3-6シクロアルキル基、ハロゲンまたはフェニル基である。)
【請求項2】
さらに、協同抽出剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の抽出有機相。
【請求項3】
前述の協同抽出剤は、リン含有化合物、窒素含有化合物、アルキルスルホニウム塩化合物またはスルホキシド化合物であることを特徴とする請求項2に記載の抽出有機相。
【請求項4】
前述の協同抽出剤は、リン酸トリブチル、トリオクチルホスフィンオキシド、ブチルホスホン酸ジブチル、ジブチルリン酸ブチル、テトラブチルメチレンジホスホネート、トリオクチルアミンオキシド、1,10-フェナントロリン、第四級アンモニウム塩N263、ジメチルジ(N-オクタデシル)アンモニウムクロリド、メチルジオクチルスルホニウムクロリドまたはジオクチルスルホキシドを含むことを特徴とする請求項2または3に記載の抽出有機相。
【請求項5】
前述の希釈剤は、ケロシン、オクタノン、クロロホルム、四塩化炭素、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、ブロモベンゼン、アニソール、ニトロメタン、2-メチルシクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジフェニルエーテル、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抽出有機相。
【請求項6】
さらに、リチウムイオンを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抽出有機相。
【請求項7】
7Liおよび6Liを分離するプロセスに使用されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の抽出有機相の使用。
【請求項8】
リチウム同位体を分離するための系であって、請求項1〜6のいずれかに記載の抽出有機相、およびリチウムイオンを含有するアルカリ性水相を含むことを特徴とする前述系。
【請求項9】
7Liおよび6Liを分離するプロセスに使用されることを特徴とする請求項8に記載の系の使用。
【請求項10】
協同抽出剤、リチウムイオン、および抽出剤である式(I)で表される化合物を含むことを特徴とするリチウムイオンキレートを含む抽出混合物
【化2】
(式中において、
Zは、酸素原子、硫黄原子またはR9で置換された窒素原子で、R9は、水素、C1-6アルキル-スルホニル基、C1-6ハロゲン置換アルキル-スルホニル基、ベンゼンスルホニル基または、C1-6アルキル-ベンゼンスルホニル基である。
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ独立に、水素、C1-6アルキル基、C1-6ハロゲン置換アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C1-6アルコキシ基、C3-6シクロアルキル基、ハロゲンまたはフェニル基である。)
【請求項11】
リチウムイオンを含有するアルカリ性水相からリチウム同位体を分離する方法であって、
(1)抽出:
(1.1)請求項1〜6のいずれかに記載の抽出有機相を提供する工程と、
(1.2)リチウムイオンを含有するアルカリ性水相を提供する工程と、
(1.3)工程(1.1)に記載の抽出有機相と工程(1.2)に記載のアルカリ性水相を混合した後、層分離し、請求項10に記載のリチウムイオンキレートを含有する有機相を収集する工程と、
(2)逆抽出:
逆抽出剤で前述工程で得られた有機相を逆抽出処理し、水相を収集し、分離されたリチウム同位体を得る工程、ここで、逆抽出剤は、NaCl、NaBr、NaI、NHCl、(NHSO、NaSO、NaNO、NHNO、KCl、またはKSOを含む水溶液を含む、と、
を含むことを特徴とする前述方法。
【請求項12】
構造が式(I)で表されることを特徴とするリチウム同位体を分離するための抽出剤。
【化3】
(式中において、
Zは、酸素原子、硫黄原子またはR9で置換された窒素原子で、R9は、水素、C1-6アルキル-スルホニル基、C1-6ハロゲン置換アルキル-スルホニル基、ベンゼンスルホニル基または、C1-6アルキル-ベンゼンスルホニル基である。
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ独立に、水素、C1-6アルキル基、C1-6ハロゲン置換アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C1-6アルコキシ基、C3-6シクロアルキル基、ハロゲンまたはフェニル基である。
ここで、前記抽出剤は、以下の群から選択される:
9-プロピル-10-ヒドロキシベンゾキノリン、9-イソブチル-10-ヒドロキシベンゾキノリン、7-トリフルオロメチル-10-ヒドロキシベンゾキノリン、5-クロロ-10-ヒドロキシベンゾキノリン、5-フルオロ-9-メトキシ-10-ヒドロキシベンゾキノリン、6-メチル-7-ブロモ-10-メルカプトベンゾキノリン、10-(N-トリフルオロメタンスルホニル)アミノベンゾキノリン。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学工業の分野に関する。具体的に、本発明は、リチウム同位体を分離するためのベンゾキノリン系抽出剤およびその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム(Li)には、数種類の天然同位体が存在する。中でも、7Liおよび6Liの存在比は最も高く、それぞれ92.48%および7.52%である。この2種類の同位体は、原子炉材料の分野で重要な地位を占めているが、両者の核反応の性能はまったく違う。トリウム溶融塩原子炉において、7Liは不可欠な溶融塩冷却材で、6Liの熱中性子吸収断面積が非常に高い(941 barnsに達する)が、7Liは0.033 barnsだけであるため、溶融塩原子炉では7Li存在比が>99.995%と要求される。同時に、高純度の7Liは、よく加圧水型原子炉における一次冷却材のpH値の調整に使用され、7Liは、熱伝導の熱媒体としてもまた使用される。また、中性子で6Li(n,α)T核反応を照射することによって、自然界における存在比が非常に低い三重水素を生産することができ、6Liは核融合炉における燃料で、その6Liの存在比が>30%と要求される。
【0003】
トリウム溶融塩原子炉でも核融合炉でも、我国の新しい戦略エネルギーの開発に解決法案を提供する。そのため、リチウム同位体は、不可欠な戦略材料として、その分離プロセスの開発および新規なリチウム同位体抽出剤の研究はずっと研究の焦点となっているが、同時に本分野の大きな技術難題でもある。
現在、既存のリチウム同位体の分離方法は、電磁気法、分子蒸留法、エレクトロマイグレーション法、電気分解法や各種の化学交換法などを含む(肖嘯菴ら、核化学と放射線学、1991、13、1)。
【0004】
今まで、リチウム同位体の分離方法の多くはまだ実験室研究の段階に留まっている(陳耀煥、希少金属、1983、2、79)。例えば、中性溶媒の抽出系(例えばイソペンタノール/LiBr系)、イオン交換系(例えばヘキサン酸/ケロシン系)、キレート系(例えばスダンI-TOPO系)などは、いずれも分離係数α値が低く(通常<1.010)、工業化の抽出プロセスに使用することができない(陳耀煥ら、原子エネルギー科学技術、1987、21、433)。CN201110425430.4で報告された抽出剤は、抽出率が低く(一次抽出率が16%だけ)、親水性イオン液体が高価で相転移による回収が困難で、且つ多段階の濃縮分離の試験に使用されない。クラウンエーテルおよびクリプタンド類の抽出系では、有機相の濃縮物は6Liで、その分離係数α値が高いが、合成の難易度が高く、コストが高く、毒性が大きく、且つ多段階抽出によるリチウム同位体の濃縮が実現できない(姜延林ら、原子エネルギー科学技術、1986、20、1)。
【0005】
現在、リチウムアマルガム化学交換法は、同位体の分離プロセスの要求に満足することができ、且つ唯一の工業化のリチウム同位体の生産方法になっている(Palko, A, A. et al., J. Chem. Phys, 1976, 64, 1828)。しかし、リチウムアマルガム法は、大量の水銀が必要で、操作者と環境に厳重な危害が生じる。また、リチウムアマルガム法では、6Liの濃縮が容易で、且つリチウムアマルガムが抽出塔の中で分解していき、段階数が多くて7Liの存在比に対する要求が高い(>99.99%)分離過程に適さない。
そのため、本分野では、安全で、環境にやさしく、効率が高く、多段階の濃縮分離に使用可能で且つ7Liの濃縮が容易な抽出剤が切望されている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、リチウム同位体の分離に使用される、安全で、環境にやさしく、効率が高く、安定性が良く、多段階の濃縮分離に使用可能で且つ7Liの濃縮が容易な抽出剤およびその使用を提供することである。
本発明の第一の面では、リチウム同位体を分離するための抽出有機相であって、希釈剤および抽出剤である式(I)で表される化合物を含む前述抽出有機相を提供する。
【0007】
【化1】
(式中において、
Zは、酸素原子、硫黄原子またはR9で置換された窒素原子で、R9は、水素、C1-6アルキル-スルホニル基、C1-6ハロゲン置換アルキル-スルホニル基、ベンゼンスルホニル基または、C1-6アルキル-ベンゼンスルホニル基である。
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ独立に、水素、C1-6アルキル基、C1-6ハロゲン置換アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C1-6アルコキシ基、C3-6シクロアルキル基、ハロゲンまたはフェニル基である。)
【0008】
もう一つの好適な例において、前述のR9は、水素、トリフルオロメタンスルホニル基、メタンスルホニル基またはp-トルエンスルホニル基である。
もう一つの好適な例において、R1は、水素、C1-6アルキル基、C1-6ハロゲン置換アルキル基またはフェニル基である。
もう一つの好適な例において、前述の抽出有機相は、さらに、協同抽出剤を含む。
もう一つの好適な例において、前述の協同抽出剤は、リン含有化合物、窒素含有化合物、アルキルスルホニウム塩化合物またはスルホキシド化合物である。
【0009】
もう一つの好適な例において、前述の協同抽出剤は、中性リン含有化合物、第四級アンモニウム塩化合物、長鎖アルキルスルホニウム塩化合物または中性スルホキシド化合物である。
もう一つの好適な例において、前述の協同抽出剤は、リン酸トリブチル(TBP)、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、ブチルホスホン酸ジブチル(DBBP)、ジブチルリン酸ブチル(BDBP)、テトラブチルメチレンジホスホネート、トリオクチルアミンオキシド、1,10-フェナントロリン、第四級アンモニウム塩N263、ジメチルジ(N-オクタデシル)アンモニウムクロリド、メチルジオクチルスルホニウムクロリドまたはジオクチルスルホキシドを含む。
【0010】
もう一つの好適な例において、前述の希釈剤は、ケロシン、オクタノン、クロロホルム、四塩化炭素、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、ブロモベンゼン、アニソール、ニトロメタン、2-メチルシクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジフェニルエーテル、またはこれらの組み合わせを含む。
もう一つの好適な例において、前述の抽出有機相は、さらに、リチウムイオンを含む。
もう一つの好適な例において、前述の抽出有機相は、リチウムイオンの含有量が0〜2.0 mol/L、より好ましくは0.01〜0.5 mol/Lである。
【0011】
本発明の第二の面では、7Liおよび6Liを分離するプロセスに使用される本発明の第一の面に記載の抽出有機相の使用を提供する。
【0012】
本発明の第三の面では、リチウム同位体を分離するための系であって、本発明の第一の面に記載の抽出有機相、およびリチウムイオンを含有するアルカリ性水相を含む前述系を提供する。
もう一つの好適な例において、前述のリチウムイオンを含有するアルカリ性水相は、リチウム塩および強塩基を含有する水溶液である。
もう一つの好適な例において、前述のリチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2CO3、LiNO3、Li3PO4、LiSCN、CF3COOLiまたはLiOHを含み、かつ/あるいは前述の強塩基は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを含む。
【0013】
本発明の第四の面では、7Liおよび6Liを分離するプロセスに使用される本発明の第三の面に記載の系の使用を提供する。
もう一つの好適な例において、前述のリチウム同位体を分離するプロセスは、リチウムイオンを含有するアルカリ性水相からリチウム同位体を分離するものである。
もう一つの好適な例において、前述のプロセスは、向流抽出プロセスである。
もう一つの好適な例において、前述向流抽出プロセスは、多段階向流抽出プロセスまたは単段階向流抽出プロセスである。
もう一つの好適な例において、前述の多段階向流抽出プロセスは、2〜600段階の向流抽出プロセス、より好ましくは2〜300段階の向流抽出プロセス、さらに好ましくは2〜150段階の向流抽出プロセスである。
【0014】
本発明の第五の面では、協同抽出剤、リチウムイオン、および抽出剤である式(I)で表される化合物を含むリチウムイオンキレートを提供する。
【化2】
(式中において、
Zは、酸素原子、硫黄原子またはR9で置換された窒素原子(ZはO、SまたはNR9)で、R9は、水素、C1-6アルキル-スルホニル基、C1-6ハロゲン置換アルキル-スルホニル基、ベンゼンスルホニル基または、C1-6アルキル-ベンゼンスルホニル基である。
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ独立に、水素、C1-6アルキル基、C1-6ハロゲン置換アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C1-6アルコキシ基、C3-6シクロアルキル基、ハロゲンまたはフェニル基である。)
【0015】
もう一つの好適な例において、前述のリチウムイオンキレートは、式(IIa)または式(IIb)で表される。
【化3】
上述各式において、Z、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8の定義は前述の通りで、Lは協同抽出剤である。)
【0016】
もう一つの好適な例において、前述のR9は、水素、トリフルオロメタンスルホニル基、メタンスルホニル基またはp-トルエンスルホニル基である。
もう一つの好適な例において、R1は、水素、C1-6アルキル基、C1-6ハロゲン置換アルキル基またはフェニル基である。
もう一つの好適な例において、前述の協同抽出剤は、リン含有化合物、窒素含有化合物、アルキルスルホニウム塩化合物またはスルホキシド化合物である。
【0017】
もう一つの好適な例において、前述の協同抽出剤は、リン酸トリブチル(TBP)、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、ブチルホスホン酸ジブチル(DBBP)、ジブチルリン酸ブチル(BDBP)、テトラブチルメチレンジホスホネート、トリオクチルアミンオキシド、1,10-フェナントロリン、第四級アンモニウム塩N263、ジメチルジ(N-オクタデシル)アンモニウムクロリド、メチルジオクチルスルホニウムクロリドまたはジオクチルスルホキシドを含む。
【0018】
本発明の第六の面では、リチウムイオンを含有するアルカリ性水相からリチウム同位体を分離する方法であって、
(1)抽出:
(1.1)本発明の第一の面に記載の抽出有機相を提供する工程と、
(1.2)リチウムイオンを含有するアルカリ性水相を提供する工程と、
(1.3)工程(1.1)に記載の抽出有機相と工程(1.2)に記載のアルカリ性水相を混合した後、層分離し、本発明のリチウムイオンキレートを含有する有機相を収集する工程と、
(2)逆抽出:
逆抽出剤で前述工程で得られた有機相を逆抽出処理し、水相を収集し、分離されたリチウム同位体を得る工程と、
を含む前述方法を提供する。
【0019】
もう一つの好適な例において、工程(1.3)では、前述の抽出有機相とアルカリ性水相の体積比は1〜10:1〜3である。
もう一つの好ましい例において、前述方法は7Liおよび6Liの分離に使用される。
もう一つの好適な例において、前述の分離されたリチウム同位体は、7Liである。
【0020】
もう一つの好適な例において、前述のリチウムイオンを含有するアルカリ性水相は、リチウム塩および強塩基を含有する水溶液である。
もう一つの好適な例において、前述のリチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2CO3、LiNO3、Li3PO4、LiSCN、CF3COOLiまたはLiOHを含む。
もう一つの好適な例において、前述の強塩基は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを含む。
もう一つの好適な例において、前述の逆抽出剤は、NaCl、NaBr、NaI、NH4Cl、(NH4)2SO4、Na2SO4、NaNO3、NH4NO3、KClまたはK2SO4を含有する水溶液を含む。
【0021】
本発明の第七の面では、構造が式(I)で表されるリチウム同位体を分離するための抽出剤を提供する。
【化4】
(式中において、
Zは、酸素原子、硫黄原子またはR9で置換された窒素原子で、R9は、水素、C1-6アルキル-スルホニル基、C1-6ハロゲン置換アルキル-スルホニル基、ベンゼンスルホニル基または、C1-6アルキル-ベンゼンスルホニル基である。
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ独立に、水素、C1-6アルキル基、C1-6ハロゲン置換アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C1-6アルコキシ基、C3-6シクロアルキル基、ハロゲンまたはフェニル基である。
【0022】
ただし、以下の化合物以外のものである。
【化5】
【0023】
本発明のベンゾキノリン系抽出剤は、リチウム同位体の環境にやさしく、効率が高い多段階の濃縮分離を実現させる。
本発明の抽出剤、ならびにこの抽出剤、協同抽出剤および希釈剤を含む抽出有機相は、水溶液におけるリチウムイオンに対する効率的な抽出を実現させ、有機相の7Liの濃縮が容易で、抽出過程で同位体の交換反応が速く、抽出率が高く、高い分配比D値および分離係数α値を有し、抽出剤の化学安定性が良く、逆抽出と再生が容易で、多段階のリチウム同位体の濃縮抽出プロセスにおいて性能が優れている。
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上述の各技術特徴および下述(例えば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、又は好ましい技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施例8の抽出平衡曲線である。
【0025】
具体的な実施形態
本発明者らは、長期間で深く研究したところ、意外にベンゾキノリン系抽出剤を見出し、前述抽出剤は、その10位の置換基(Z-H)によって、リチウムイオンと「抽出剤-リチウムキレート」を形成することができ、前述抽出剤をリチウム同位体の分離プロセスに使用すると、有効に7Liを濃縮することができ、かつ高い単段階の分離係数および分配比を有する。これに基づき、発明者らが本発明を完成した。
【0026】
用語
ここで用いられるように、用語の「C1-6アルキル基」とは、炭素原子を1〜6個有する直鎖又は分岐鎖のアルキル基で、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基や類似の基が挙げられる。
用語の「C2-6アルケニル基」とは、炭素原子を2〜6個有する直鎖又は分岐鎖のアルケニル基で、例えばビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基や類似の基が挙げられる。
【0027】
用語の「C2-6アルキニル基」とは、炭素原子を2〜6個有する直鎖又は分岐鎖のアルキニル基で、例えばエチニル基、プロパルギル基などが挙げられる。
用語の「C3-6シクロアルキル基」とは、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基やシクロヘプチル基などである。
用語の「C1-6アルコキシ基」とは、炭素原子を1〜6個有する直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基を示し、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基や類似の基が挙げられる。
用語の「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素を示す。用語の「ハロゲン置換」とは、相同または相異の一つまたは複数の上述ハロゲン原子で置換されたことで、例えばモノフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基や類似の基が挙げられる。
【0028】
分配比と分離係数
化学交換法によってリチウム同位体を分離する場合、2種類の液相の間の同位体交換反応は以下のように表される。
【数1】
ここで、AおよびBは、2つの相における異なるリチウムの配位の環境を表し、例えば有機相および水相である。
【0029】
分配比(D値)とは、リチウムイオンの合計量の2つの相における濃度の分配比である。
【数2】
Bを本発明の抽出有機相、Aを水相とすると、分配比(D値)は、有機相におけるリチウムイオンの合計濃度(LiB)と水相におけるリチウムイオンの合計濃度(LiA)の比で、実験条件(例えば被抽出物濃度、溶液の酸性・アルカリ性の度合い、抽出剤の濃度、希釈剤の性質など)によって異なる。抽出率は、有機相に抽出されるリチウムイオンの合計量が2つの相におけるリチウムイオンの合計量で占める百分率で、抽出の完成の度合いを表す。分配比が大きくなるほど、抽出率が高くなる。
【0030】
同位体の分離係数(α値)は、リチウム同位体の単段階分離の効果、即ち、B相におけるリチウム同位体の存在比をA相におけるリチウム同位体の存在比で割った商を表す。
【数3】
分離係数は、ある分離操作またはある分離過程によって2種類の物質を分離する度合いを表す。その大きさは、2つの成分の分離の難易度を反映する。分離係数が1の場合、分離が実現できず、分離係数が1から離れるほど、分離されやすくなることを表す。
好適なリチウム同位体の分離系として、化学交換の過程において、以下の要求に満足するべきである。
(1)大きい分配比D値を有し、即ち、抽出率が高い。
(2)大きい同位体の分離係数α値を有する。
(3)2つの相が接触するとき、同位体の交換反応が十分に速い。
(4)リチウム同位体の逆抽出・相転移が簡便で、且つ多段階の濃縮抽出を実現させる。
(5)抽出剤は、化学構造が安定し、経済的で実用的である。
【0031】
抽出剤
本発明の抽出剤は、ベンゾキノリン誘導体であり、式(I)で表される構造を有する。
【化6】
(式中において、
Zは、酸素原子、硫黄原子またはR9で置換された窒素原子(ZはO、SまたはNR9)で、R9は、水素、C1-6アルキル-スルホニル基(即ち、C1-6アルキル基で置換されたスルホニル基)、C1-6ハロゲン置換アルキル-スルホニル基、ベンゼンスルホニル基または、C1-6アルキル-ベンゼンスルホニル基である。
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ独立に、水素、C1-6アルキル基、C1-6ハロゲン置換アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C1-6アルコキシ基、C3-6シクロアルキル基、ハロゲンまたはフェニル基である。)
もう一つの好適な例において、前述のR7は、水素、トリフルオロメタンスルホニル基、メタンスルホニル基またはp-トルエンスルホニル基である。
もう一つの好適な例において、R1は、水素、C1-6アルキル基、C1-6ハロゲン置換アルキル基またはフェニル基である。
【0032】
本発明の抽出剤は、入手しやすく、抽出剤の合成方法は簡単でコストが低く、例えばSkraup反応による合成(Schenkel, H.; Schenkel, M. Helv. Chim. Acta, 1944, 27, 1456)、Diels-Alder反応による合成(Collis, G. E.; Burrell, A. K. Tetrahedron Lett. 2005, 46, 3653)、Combes反応による合成(Combes, A. Bull. Soc. Chim. Fr. 1988, 49, 89)、または金属パラジウムで触媒される反応による合成(Piecheowska, J.; Gryko, D. T. J. Org. Chem. 2011, 76, 10220)を使用することができる。
【0033】
抽出有機相
本発明の抽出有機相は、本発明の抽出剤、ならびに協同抽出剤および希釈剤を含むことが好ましい。
前述抽出有機相は、リチウム同位体の分離・抽出に使用することができ、好ましくはリチウムイオンを含有するアルカリ性水相からリチウム同位体を分離することができ、ここで、前述のリチウムイオンを含有するアルカリ性水相は、リチウム塩(例えばLiCl、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2CO3、LiNO3、Li3PO4、LiSCN、CF3COOLi、LiOHなど)および強塩基(例えば水酸化ナトリウムなど)の混合水溶液を含むが、これらに限定されない。好ましくは前述のリチウム塩の濃度が0.01〜10 mol/L、より好ましくは0.1〜1.5 mol/Lである。前述の強塩基の濃度が0.5〜15 mol/L、より好ましくは2〜7 mol/Lである。
【0034】
前述の協同抽出剤は、リン含有化合物、窒素含有化合物(第四級アンモニウム塩化合物などを含む)、アルキルスルホニウム塩化合物(前述のアルキルスルホニウム塩化合物は、好ましくはC1-36アルキルスルホニウム塩化合物、より好ましくはC1-20アルキルスルホニウム塩化合物、さらに好ましくはC1-10アルキルスルホニウム塩化合物である)またはスルホキシド化合物を含む。好ましくは、前述の協同抽出剤は、中性リン含有化合物、第四級アンモニウム塩化合物、長鎖アルキルスルホニウム塩化合物または中性スルホキシド化合物で、例えばリン酸トリブチル(TBP)、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、ブチルホスホン酸ジブチル(DBBP)、ジブチルリン酸ブチル(BDBP)、テトラブチルメチレンジホスホネート、トリオクチルアミンオキシド、1,10-フェナントロリン、第四級アンモニウム塩N263、ジメチルジ(N-オクタデシル)アンモニウムクロリド、メチルジオクチルスルホニウムクロリド、ジオクチルスルホキシドを含むが、これらに限定されない。このような協同抽出剤は、有機相に溶解しやすく、抽出剤とともに作用してリチウムイオンを抽出することが容易で、顕著に抽出率を向上させることができる。同時に、この協同抽出剤は、入手しやすく、コストが親水性イオン液体よりも遥かに低い。逆抽出過程で、本発明に係る協同抽出剤は、抽出剤とともに回収して再生し、循環利用することもできる。
【0035】
前述の希釈剤は、ケロシン、オクタノン、クロロホルム、四塩化炭素、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、ブロモベンゼン、アニソール、ニトロメタン、2-メチルシクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジフェニルエーテルなどの有機溶媒、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
好ましくは、前述の抽出剤の濃度は0.01〜10 mol/L、より好ましくは0.1〜1 mol/Lで、かつ/あるいは前述の協同抽出剤の濃度は0.1〜10 mol/L、より好ましくは0.05〜2 mol/Lである。
【0036】
本発明の抽出有機相は、さらにある程度の量のリチウムイオンを含んでもよいが、もちろん、リチウムイオンの含有量が少量で、この抽出有機相のリチウム同位体に対する抽出効率に影響するほどではないことが理解されるはずである。好ましくは、前述のリチウムイオンの含有量は0〜2.0 mol/L、より好ましくは0.01〜0.5 mol/Lである。
【0037】
リチウム同位体を分離するための系
本発明は、リチウム同位体を分離するための系(抽出系または分離系と呼ばれることもある)であって、本発明に係る抽出有機相、およびリチウムイオンを含有するアルカリ性水相を含む前述系を提供する。
もう一つの好適な例において、前述のリチウムイオンを含有するアルカリ性水相は、リチウム塩および強塩基を含有する水溶液である。
【0038】
もう一つの好適な例において、前述のリチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2CO3、LiNO3、Li3PO4、LiSCN、CF3COOLi、LiOHなどを含むが、これらに限定されない。好ましくは、前述のリチウム塩の濃度は0.01〜10 mol/L、より好ましくは0.1〜1.5 mol/Lである。
もう一つの好適な例において、前述の強塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを含むが、これらに限定されない。好ましくは、前述の強塩基の濃度が0.5〜15 mol/L、より好ましくは2〜7 mol/Lである。
もう一つの好適な例において、前述の抽出有機相とリチウムイオンを含有するアルカリ性水相の体積比は1〜10:1〜3である。
【0039】
抽出の原理
本発明の抽出剤の分子構造の特徴は、ベンゾキノリンの10位にZ-H置換基を有することで、前述の「Z-H置換基」は、ヒドロキシ基、メルカプト基または1つのR9で置換されたアミン基(即ち、ZはO、SまたはNR9)である。前述の「Z-H置換基」は、高いプロトン酸性を有し、アルカリ性の条件でプロトンを失うと、相応に、酸素アニオン、硫黄アニオンまたは窒素アニオンを形成し、前述3種類のアニオンはいずれもリチウムカチオンと結合し、強いZ-Li結合を形成することができる。
リチウムイオンを含有するアルカリ性水相からリチウム同位体を分離する過程において、抽出剤とリチウムイオンがリチウムイオンキレート(「抽出剤-リチウムキレート」と呼ばれることもある)を形成することができる。
【0040】
例えば、協同抽出剤(L)の協同作用で、抽出剤とリチウムイオンが式(IIa)または式(IIb)で表される構造の「抽出剤-リチウムキレート」を形成することができる。
【化7】
協同抽出剤(L)が中性リン含有化合物、中性窒素含有化合物または中性スルホキシド化合物である場合、抽出剤とリチウムイオンおよび協同抽出剤が式(IIa)で表されるリチウムイオンキレートを、協同抽出剤が第四級アンモニウム型窒素含有化合物またはスルホニウム塩化合物である場合、式(IIb)で表されるリチウムイオンキレートを形成する。
【0041】
前述の「抽出剤-リチウムキレート」は、有機相に入ることで、抽出過程が完成される。
前述の「抽出剤-リチウムキレート」は、いずれも強いZ-Li結合を有し、ほかの補助原子の配位によって、リチウム同位体イオンが有機相と水相における化学環境で大きく異なることで、顕著な同位体分離効果が生じ、大きい分離係数α値を有する。同時に、このような強いZ-Li結合によって、同位体の交換過程が素早く、7Liの濃縮に有機相のほうが容易で、7Liおよび6Liの分離に有利である。従来のリチウムアマルガム分離方法と比較すると、顕著な区別と改善がある。
【0042】
抽出方法
本発明に係るリチウム同位体を分離する方法は、以下の工程を含む。
(1)抽出:
(1.1)本発明の抽出有機相を提供する。
(1.2)リチウムイオンを含有するアルカリ性水相を提供する。
【0043】
もう一つの好適な例において、前述のリチウムイオンを含有するアルカリ性水相は、リチウム塩および強塩基を含有する水溶液である。
もう一つの好適な例において、前述のリチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2CO3、LiNO3、Li3PO4、LiSCN、CF3COOLi、LiOHなどを含むが、これらに限定されない。好ましくは、前述のリチウム塩の濃度は0.01〜10 mol/L、より好ましくは0.1〜1.5 mol/Lである。
もう一つの好適な例において、前述の強塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを含むが、これらに限定されない。好ましくは、前述の強塩基の濃度が0.5〜15 mol/L、より好ましくは2〜7 mol/Lである。
【0044】
(1.3)前述の抽出有機相と水相を混合した後、層分離し、「抽出剤-リチウムキレート」を含有する有機相を収集する。
前述の抽出有機相と水相の体積比は1〜10:1〜3であることが好ましい。
ここで、抽出有機相と水相を混合した後、抽出有機相における抽出剤が水相におけるリチウムイオンと「抽出剤-リチウムキレート」を形成し、かつ有機相に入ることで、「抽出剤-リチウムキレート」を含む有機相を形成する。
【0045】
(2)逆抽出:
逆抽出剤で前述工程で得られた「抽出剤-リチウムキレート」を含む有機相を逆抽出処理し、水相を収集し、分離されたリチウム同位体が濃縮された溶液を得ることで、分離されたリチウムイオンを得る。
前述「抽出剤-リチウムキレート」を含む有機相と逆抽出剤の体積比は1〜8:1〜10であることが好ましい。
【0046】
前述の逆抽出剤は、ナトリウム塩(例えばNaCl、NaBr、NaI、Na2SO4、NaNO3等)水溶液、アンモニウム塩(例えばNH4Cl、(NH4)2SO4、NH4NO3等)水溶液、カリウム塩(例えばKCl、K2SO4等)水溶液を含むが、これらに限定されない。
この逆抽出過程は、効率が高く、速いという利点を有し、一次逆抽出率が75%に、二次逆抽出率が98%以上に、三次逆抽出率が99%に達し、逆抽出効率がCN201110425430.4で報告された一次逆抽出率12%および十五次逆抽出率99.1%よりも遥かに高い。効率が高くて速い逆抽出・相転移によって、抽出剤および協同抽出剤は回収して循環利用することができ、逆抽出後収集される水溶液は7Liが濃縮された溶液である。
【0047】
単段階抽出分離試験
単段階抽出分離試験では、抽出剤の基本性能、即ち、一次抽出による分離係数α値を考察したが、本発明に係る抽出剤は、高い分離係数α値を有し、1.022以上に達した。同時に、逆抽出剤は、穏やかで汚染がなく、逆抽出効率が高く、抽出剤および協同抽出剤は相転移と循環再生が容易である。
【0048】
好適な単段階抽出分離方法は、以下の工程を含む。
1.抽出:
1.1 例えば、0.1〜1 mol/Lの抽出剤、0.05〜2 mol/Lの協同抽出剤を含み、希釈剤が前述の有機溶媒である、抽出有機相を提供する。
1.2 例えば、0.1〜1.5 mol/Lのリチウム塩、2〜7 mol/Lの水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを含む、リチウムイオンを含有するアルカリ性水相を提供する。
1.3 2つの相の比(例えば1〜10:1〜3)を決め、適切な装置で2つの相のサンプルを得る。例えば、分液ロートで所定時間(例えば1〜5分間)振とうし、所定時間(例えば5分間)静置して層分離させ、分けて2つの相のサンプルを得る。あるいは、高速遠心抽出装置を使用し、1〜10:1〜3の流量比で連続に仕込んで取り出し、排出口の2つの相をサンプルとして取る。
【0049】
1.4 分離係数および分配比の測定
好ましくは、誘導結合プラズマ質量分析によって2つの相における7Li/6Liの比を測定し、単段階分離係数を算出する。
好ましくは、炎光光度法によって2つの相におけるリチウムイオンの濃度を測定し、分配比を算出する。
【0050】
2.逆抽出:
有機相に逆抽出剤水溶液(例えば0.1〜2 mol/L)を入れ、2つの相の比(例えば1〜8:1〜10)を決め、層分離させ、数回(例えば2〜3回)逆抽出し、有機相に7Liが濃縮された製品が逆抽出水相に転移し、よって抽出剤および協同抽出剤が再生循環される。
【0051】
多段階の濃縮プロセス
多段階の濃縮プロセスは、同位体の多段階濃縮を実現させる不可欠な方法で、天然の92.5%の7Li原料から、全還流条件で、濃縮して99.995%の7Li製品を得るには、340段階の累積濃縮が必要である。
本発明の抽出剤は、化学安定性が良く、リチウム同位体の多段階の累積濃縮を実現させ、かつ累積の段階数(または回数)を顕著に減少させる。例えば、抽出設備として156台の混合清澄槽を使用し、500時間の長時間稼働を経て、リチウム同位体の多段階の濃縮分離を実現させ、7Liの存在比が95.60%から98.47%に濃縮された。あるいは、抽出設備として遠心抽出器を使用し、25段階のリチウム同位体の多段階の濃縮を実現させ、7Liの存在比が92.5%から95.0%に濃縮された。
【0052】
本発明は、主に以下のような利点を有する。
(1)本発明は、ベンゾキノリン系抽出剤、ならびに本発明の抽出剤ならびに協同抽出剤および希釈剤を含む抽出有機相を提供する。
前述抽出剤の分子構造にZ-H置換基があり、アルカリ性条件で、協同抽出剤の協同作用で、前述抽出剤はリチウムイオンと強いZ-Li結合を形成しやすく、「抽出剤-リチウムキレート」を形成する。前述抽出剤は、毒性が低く、かつ長時間の(500時間を超える)単段階または多段階の抽出分離試験で優れた化学安定性が現れ、逆抽出による再生、循環利用が容易である。
【0053】
(2)本発明は、抽出および逆抽出の工程を含む、リチウムイオンのアルカリ性水溶液からリチウム同位体を分離する方法を提供するが、逆抽出剤は穏やかで汚染がなく、逆抽出過程は効率が高く速く、多段階の濃縮実験のコストを大幅に節約する。
唯一の工業化のアマルガム法と比べ、本発明の抽出方法は、猛毒の水銀の使用が避けられるため、環境にやさしく、リチウム同位体の分離のコストを下げ、経済的効果が高い。
【0054】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例において、具体的な条件が記載されていない実験方法は、通常、通常の条件、或いはメーカーの薦めの条件で行われた。特に断らない限り、%と部は、重量で計算される。
【0055】
実施例1 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出有機相:抽出剤:0.5 mol/L 7-メトキシ-10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.3 mol/L N263、希釈剤:クロロホルム。
水相:0.2 mol/L LiCl、6 mol/L NaOH。
相の比:1:1(有機相と水相の体積比)
【0056】
抽出有機相および水相を分液ロートに入れて5分間振とうし、5分間静置して層分離させ、2つの相を収集してそれぞれ抽出後の有機相および水相とし、あるいは高速遠心抽出器を使用し、1:1の流量比で連続に仕込んで取り出し、排出口の2つの相を取ってそれぞれ抽出後の有機相および水相とした。
【0057】
測定したところ、抽出後の有機相における7Li/6Li=14.436で、抽出後の水相における7Li/6Li=14.112で、即ち、単段階分離係数α値=14.436/14.112=1.023であった。
測定したところ、抽出後の有機相におけるリチウムイオン濃度が0.12 mol/Lで、抽出後の水相におけるリチウムイオン濃度が0.08 mol/Lで、抽出分配比D=0.12/0.08=1.5で、即ち、一次抽出率が60%であった。
【0058】
逆抽出:
抽出後の有機相を1 mol/LのNaCl水溶液(逆抽出剤)で逆抽出し、相の比1:1(抽出後の有機相と逆抽出水相の体積比)で、3回逆抽出し、抽出後の有機相に7Liが濃縮された製品が逆抽出水相に転移し、抽出剤および協同抽出剤が再生循環された。そして、測定された三次抽出率が99%であった。
【0059】
実施例2 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出方法は実施例1と同様で、相違点は以下の条件を使用したことである。
抽出有機相:抽出剤:0.3 mol/L 10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.6 mol/L トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、希釈剤:ジクロロベンゼン。
水相:0.2 mol/L LiCl、4 mol/L NaOH。
相の比:2:1
測定したところ、抽出分配比D=1.6、即ち、一次抽出率が62%で、単段階分離係数α値=1.022であった。
【0060】
逆抽出:
逆抽出方法は実施例1と同様で、相違点は逆抽出剤として1 mol/L Na2SO4を使用したことである。
測定された三次抽出率が99%であった。
【0061】
実施例3 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出方法は実施例1と同様で、相違点は以下の条件を使用したことである。
抽出有機相:抽出剤:0.4 mol/L 10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.3 mol/L 第四級アンモニウム塩N263、希釈剤:トリクロロベンゼン。
水相:0.2 mol/L LiCl、4.8 mol/L NaOH。
相の比:1:1
測定したところ、抽出分配比D=1.7、即ち、一次抽出率が63%で、単段階分離係数α値=1.022であった。
【0062】
逆抽出:
逆抽出方法は実施例1と同様で、相違点は逆抽出剤として1 mol/L NH4Clを使用したことである。
測定された三次抽出率が99%であった。
【0063】
実施例4 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出方法は実施例1と同様で、相違点は以下の条件を使用したことである。
抽出有機相:抽出剤:0.6 mol/L 2,4-ジメチル-10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:1.0 mol/L トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、希釈剤:オクタノン。
水相:0.2 mol/L LiCl、4 mol/L KOH。
相の比:2:1
測定したところ、抽出分配比D=1.1、即ち、一次抽出率が52%で、単段階分離係数α値=1.023であった。
【0064】
逆抽出:
逆抽出方法は実施例1と同様で、相違点は逆抽出剤として1 mol/L NH4Clを使用したことである。
測定された三次抽出率が99%であった。
【0065】
実施例5 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出方法は実施例1と同様で、相違点は以下の条件を使用したことである。
抽出有機相:抽出剤:0.4 mol/L 9-プロピル-10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.8 mol/L N263、希釈剤:ジクロロベンゼン。
水相:0.2 mol/L LiCl、5 mol/L NaOH。
相の比:1:1
測定したところ、抽出分配比D=1.4、即ち、一次抽出率が58%で、単段階分離係数α値=1.023であった。
【0066】
逆抽出:
逆抽出方法は実施例1と同様で、相違点は逆抽出剤として1 mol/L NH4Clを使用したことである。
測定された三次抽出率が99%であった。
【0067】
実施例6 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出方法は実施例1と同様で、相違点は以下の条件を使用したことである。
抽出有機相:抽出剤:0.4 mol/L 9-イソブチル-10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.8 mol/L ジメチルジ(N-オクタデシル)アンモニウムクロリド、希釈剤:ジクロロベンゼン。
水相:0.2 mol/L Li2SO4、5 mol/L KOH。
相の比:3:1
測定したところ、抽出分配比D=0.8、即ち、一次抽出率が44%で、単段階分離係数α値=1.024であった。
【0068】
逆抽出:
逆抽出方法は実施例1と同様で、相違点は逆抽出剤として1 mol/L NH4Clを使用したことである。
測定された三次抽出率が99%であった。
【0069】
実施例7 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出方法は実施例1と同様で、相違点は以下の条件を使用したことである。
抽出有機相:抽出剤:0.4 mol/L 7-トリフルオロメチル-10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.8 mol/L 第四級アンモニウム塩N263、希釈剤:ジクロロベンゼン。
水相:0.2 mol/L LiCl、5 mol/L NaOH。
相の比:1:1
測定したところ、抽出分配比D=1.9、即ち、一次抽出率が66%で、単段階分離係数α値=1.025であった。
【0070】
逆抽出:
逆抽出方法は実施例1と同様で、相違点は逆抽出剤として1 mol/L NH4Clを使用したことである。
測定された三次抽出率が99%であった。
【0071】
実施例8 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出方法は実施例1と同様で、相違点は以下の条件を使用したことである。
抽出有機相:抽出剤:0.4 mol/L 5-クロロ-10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.8 mol/L メチルジオクチルスルホニウムクロリド、希釈剤:ジクロロベンゼン。
水相:0.2 mol/L LiCl、5 mol/L NaOH。
相の比:1:1
測定したところ、抽出分配比D=1.6、即ち、一次抽出率が62%で、単段階分離係数α値=1.023であった。
【0072】
逆抽出:
逆抽出方法は実施例1と同様で、相違点は逆抽出剤として1 mol/L (NH4)2SO4を使用したことである。
測定された三次抽出率が99%であった。
【0073】
実施例9 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出方法は実施例1と同様で、相違点は以下の条件を使用したことである。
抽出有機相:抽出剤:0.4 mol/L 5-フルオロ-9-メトキシ-10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.8 mol/L N263、希釈剤:ジクロロベンゼン。
水相:0.2 mol/L LiCl、5 mol/L KOH。
相の比:1:1
測定したところ、抽出分配比D=1.5、即ち、一次抽出率が60%で、単段階分離係数α値=1.028であった。
【0074】
逆抽出:
逆抽出方法は実施例1と同様で、相違点は逆抽出剤として1 mol/L (NH4)2SO4を使用したことである。
測定された三次抽出率が99%であった。
【0075】
実施例10 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出方法は実施例1と同様で、相違点は以下の条件を使用したことである。
抽出有機相:抽出剤:0.4 mol/L 6-メチル-7-ブロモ-10-メルカプトベンゾキノリン、協同抽出剤:0.4 mol/L N263、希釈剤:トリクロロベンゼン。
水相:0.2 mol/L LiCl、5 mol/L NaOH。
相の比:1:1
測定したところ、抽出分配比D=0.7、即ち、一次抽出率が42%で、単段階分離係数α値=1.022であった。
【0076】
逆抽出:
逆抽出方法は実施例1と同様で、相違点は逆抽出剤として1 mol/L NH4Clを使用したことである。
測定された三次抽出率が99%であった。
【0077】
実施例11 単段階抽出分離試験
抽出:
抽出方法は実施例1と同様で、相違点は以下の条件を使用したことである。
抽出有機相:抽出剤:0.4 mol/L 10-(N-トリフルオロメタンスルホニル)アミノベンゾキノリン、協同抽出剤:1.0 mol/L ジブチルリン酸ブチル(BDBP)、希釈剤:ジクロロベンゼン。
水相:0.2 mol/L LiCl、5 mol/L NaOH。
相の比:3:1
測定したところ、抽出分配比D=1.5、即ち、一次抽出率が60%で、単段階分離係数α値=1.023であった。
【0078】
逆抽出:
逆抽出方法は実施例1と同様で、相違点は逆抽出剤として1 mol/L NH4Clを使用したことである。
測定された三次抽出率が99%であった。
【0079】
実施例12 4段階向流抽出試験
以下のような条件を使用した。
抽出有機相:抽出剤:0.5 mol/L 6-メチル-10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.3 mol/L N263、希釈剤:ジクロロベンゼン。
水相:0.6 mol/L LiCl、5 mol/L NaOH。
相の比:3.8:1
4段階向流抽出試験を行い、抽出剤の総合的抽出性能を考察したところ、4段階向流抽出後、水相のリチウム濃度が2.5×10-4 mol/L未満で、抽出率が99.96%に達し、リチウムイオンの高速抽出を実現させた。
【0080】
抽出結果を表1に示す。
【表1】
【0081】
実施例13 8段階向流抽出試験
以下のような条件を使用した。
抽出有機相:抽出剤:0.5 mol/L 10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.3 mol/L メチルジオクチルスルホニウムクロリド、希釈剤:ジクロロベンゼン。
水相:0.62 mol/L LiCl、5.2 mol/L NaOH。
相の比:3.6:1
8段階向流抽出試験を行い、抽出剤の総合的抽出性能を考察したところ、8段階向流抽出後、水相のリチウム濃度が8.2×10-5 mol/L未満で、抽出率が99.99%に達し、リチウムイオンの高速抽出を実現させた。
抽出平衡曲線を図1に示す。
【0082】
実施例14 25段階遠心抽出器によるリチウム同位体濃縮プロセス試験
以下のような条件を使用した。
抽出有機相:抽出剤:0.5 mol/L 6-メチル-10-ヒドロキシベンゾキノリン、協同抽出剤:0.3 mol/L メチルジオクチルスルホニウムクロリド、希釈剤:ジクロロベンゼン。
水相:0.6 mol/L Li2SO4、5 mol/L NaOH。
相の比:3.8:1
25段階遠心抽出器によるリチウム同位体濃縮プロセス試験を行い、抽出剤の抽出、濃縮、逆抽出などの数項目の総合的性能を考察したところ、長期間の試験稼働後、抽出剤は化学安定性が良く、リチウム同位体の多段階の濃縮分離を実現させ、最初の7Li同位体存在比92.5%から、濃縮を経て95.0%に上がった。
【0083】
以上のように、本発明のリチウム同位体分離系は、リチウムイオンの分配比D値が高く(1.9に達し)、一次抽出率が66%に達し、CN201110425430.4で報告された抽出有機相の一次逆抽出率(約15.2%〜19.0%)よりも遥かに高く、抽出有機相の7Liの濃縮が容易で、かつ分離係数α値が高く(1.028に達し)、既存のほかの溶媒の抽出系(通常<1.010)よりも顕著に優れ、そしてリチウム同位体の多段階の濃縮をさせた。
【0084】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、この分野の技術者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の様態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
図1