(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209220
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】気候変動に対する感受性が低減された共振器
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20170925BHJP
G04B 17/22 20060101ALI20170925BHJP
H03H 9/24 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
G04B17/22 Z
H03H9/24 Z
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-541065(P2015-541065)
(86)(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公表番号】特表2016-502658(P2016-502658A)
(43)【公表日】2016年1月28日
(86)【国際出願番号】EP2013071214
(87)【国際公開番号】WO2014075859
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2015年5月11日
(31)【優先権主張番号】12193057.2
(32)【優先日】2012年11月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】キュザン,ピエール
(72)【発明者】
【氏名】エスレ,ティエリ
(72)【発明者】
【氏名】サリフ,ファトミル
(72)【発明者】
【氏名】ブロシェ,リュシー
(72)【発明者】
【氏名】トラン,フン クォック
【審査官】
藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−259426(JP,A)
【文献】
特表2004−535059(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/072960(WO,A1)
【文献】
特開2010−022000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06,17/22
H03H 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)であって、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)は、石英を含む少なくとも1つの非金属材料(11a、11b、13b、15b、11c、17c、19c、11d、13d、15d、17d、19d、11e、13e、15e、17e、19e、11f、21f)から形成されたコア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)を備え、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)の気候変動に対する感受性を低減するために、前記コア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)が、耐湿性かつ不透湿性であるクロムを含む層(7)で全体的にコーティングされることを特徴とする、熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)。
【請求項2】
熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)であって、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)は、石英を含む少なくとも1つの非金属材料(11a、11b、13b、15b、11c、17c、19c、11d、13d、15d、17d、19d、11e、13e、15e、17e、19e、11f、21f)から形成されたコア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)を備え、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)の湿気に対する感受性を低減するために、前記コア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)が、耐湿性かつ不透湿性であるチタンを含む層(7)で全体的にコーティングされることを特徴とする、熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)。
【請求項3】
熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)であって、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)は、二酸化ケイ素コーティングが少なくとも部分的に形成されたケイ素を含む少なくとも1つの非金属材料(11a、11b、13b、15b、11c、17c、19c、11d、13d、15d、17d、19d、11e、13e、15e、17e、19e、11f、21f)から形成されたコア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)を備え、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)の湿気に対する感受性を低減するために、前記コア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)が、耐湿性かつ不透湿性であるクロムを含む層(7)で全体的にコーティングされることを特徴とする、熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)。
【請求項4】
熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)であって、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)は、二酸化ケイ素コーティングが少なくとも部分的に形成されたケイ素を含む少なくとも1つの非金属材料(11a、11b、13b、15b、11c、17c、19c、11d、13d、15d、17d、19d、11e、13e、15e、17e、19e、11f、21f)から形成されたコア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)を備え、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)の湿気に対する感受性を低減するために、前記コア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)が、耐湿性かつ不透湿性であるチタンを含む層(7)で全体的にコーティングされることを特徴とする、熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)。
【請求項5】
熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)であって、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)は、二酸化ケイ素コーティングが少なくとも部分的に形成されたドープされたケイ素を含む少なくとも1つの非金属材料(11a、11b、13b、15b、11c、17c、19c、11d、13d、15d、17d、19d、11e、13e、15e、17e、19e、11f、21f)から形成されたコア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)を備え、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)の湿気に対する感受性を低減するために、前記コア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)が、耐湿性かつ不透湿性であるクロムを含む層(7)で全体的にコーティングされることを特徴とする、熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)。
【請求項6】
熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)であって、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)は、二酸化ケイ素コーティングが少なくとも部分的に形成されたドープされたケイ素を含む少なくとも1つの非金属材料(11a、11b、13b、15b、11c、17c、19c、11d、13d、15d、17d、19d、11e、13e、15e、17e、19e、11f、21f)から形成されたコア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)を備え、
前記補償用ヒゲゼンマイ(1)の湿気に対する感受性を低減するために、前記コア(9a、9b、9c、9d、9e、9f)が、耐湿性かつ不透湿性であるチタンを含む層(7)で全体的にコーティングされることを特徴とする、熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ(1)。
【請求項7】
耐湿性かつ不透湿性である前記層(7)の厚さは、50nm未満であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の補償用ヒゲゼンマイ(1)。
【請求項8】
テンプを含む時計用の熱補償型共振器であって、
前記テンプは、請求項1〜7のいずれか1項に記載の補償用ヒゲゼンマイ(1)と協働することを特徴とする、テンプを含む時計用の熱補償型共振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補償用ヒゲゼンマイの気候変動に対する感受性が低減されている、熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
時計ムーブメントに対する厳しい結露試験の間に、ムーブメントの動作が影響されることが明らかになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、気候変動に対する感受性が低減された非金属製ヒゲゼンマイを提供することにより、上記の欠点の全て又は一部を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って本発明は、熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイに関し、この補償用ヒゲゼンマイは、石英、二酸化ケイ素コーティングが少なくとも部分的に形成されたドープされたケイ素又はドープされていないケイ素を含む少なくとも1つの非金属材料から形成されたコアを備える。この補償用ヒゲゼンマイは、補償用ヒゲゼンマイの気候変動に対する感受性を低減するために、上記コアが、耐湿性かつ不透湿性である層で全体的にコーティングされることを特徴とする。
【0005】
これによって、酷い結露の場合でさえも、補償用ヒゲゼンマイの動作は中断されることはなく、従って、この補償用ヒゲゼンマイがテンプと協働して形成する共振器の全体的な動作は全く又は殆ど影響されないことは明らかである。
【0006】
本発明の他の有利な特徴によると:
‐耐湿性かつ不透湿性である層の厚さは、50nm未満であり;
‐耐湿性かつ不透湿性である層は、クロム、チタン、タンタルを含む。
【0007】
更に本発明は、テンプを含む時計用の熱補償型共振器に関し、この共振器は、上記テンプが上述の変形例のいずれか1つによる補償用ヒゲゼンマイと協働することを特徴とする。
【0008】
他の特徴及び利点は、添付の図面を参照して非限定的な例示として提供される以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明による補償用ヒゲゼンマイを示す。
【
図2】
図2は、本発明による補償用ヒゲゼンマイの断面の変形例を示す。
【
図3】
図3は、本発明による補償用ヒゲゼンマイの断面の変形例を示す。
【
図4】
図4は、本発明による補償用ヒゲゼンマイの断面の変形例を示す。
【
図5】
図5は、本発明による補償用ヒゲゼンマイの断面の変形例を示す。
【
図6】
図6は、本発明による補償用ヒゲゼンマイの断面の変形例を示す。
【
図7】
図7は、本発明による補償用ヒゲゼンマイの断面の変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
酷い結露に相関する時計ムーブメントの挙動を決定するための研究を行った。例えば80%超の湿度を維持して温度を少なくとも15℃まで低下させることによって露点を急激に上回らせることにより、研究を行った。
【0011】
特にゼンマイ‐テンプ共振器の補償用ヒゲゼンマイが少なくとも部分的に結晶質又は非晶質酸化ケイ素から形成されている場合に、時計の動作が影響され得ることが実証された。このタイプの補償用ヒゲゼンマイを例えば、二酸化ケイ素コーティングが少なくとも部分的に形成されたドープされた若しくはドープされていない結晶質ケイ素から、又は石英から形成してよい。
【0012】
上記研究により、結晶質又は非晶質酸化ケイ素を含む補償用ヒゲゼンマイ上に形成された水分に対するバリアによって酷い結露の影響を最小化できることも立証された。
【0013】
その結果として、本発明は、少なくとも1つの非金属材料から形成されたコアを含む、熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイに関する。本発明によると有利には、補償用ヒゲゼンマイの気候変動に対する感受性を低減するために、コアは防湿性、即ち耐湿性かつ不透湿性である。
【0014】
本発明によると、防湿層の厚さは、ヒゲゼンマイの動作に機械的に影響を及ぼすことを回避するために、50nm未満、好ましくは約10nmである。しかしながら防湿層の厚さは最大数マイクロメートルであってよい。ただしこの場合、ゼンマイ‐テンプ共振器の熱補償について考慮しなければならない。
【0015】
更に、防湿層が導電性であり、また磁場に対する感受性が低いこと、例えば反磁性又は常磁性層等であることが好ましい。
【0016】
従って防湿層は例えば、クロム、チタン、タンタル、アルミニウム、ジルコニウム、アルミナ、酸化クロム、クロムタングステン、PTFE又は窒化ケイ素(Si
3N
4)を含んでよい。しかしながら、クロム、チタン、タンタル又はこれらの合金が最良の結果を示したため、これらのうちの1つが好ましい。
【0017】
図1〜7は、本発明によって得られるヒゲゼンマイ1の変形例を示し、この変形例は、ヒゲゼンマイ1がテンプと協働して形成する共振器を熱補償するよう構成される。補償用ヒゲゼンマイ1は好ましくは、複数のコイルに巻かれたストリップ5と一体のヒゲ玉3を含む。本発明によると、補償用ヒゲゼンマイ1の少なくとも1つのストリップ5は、水分に対するバリアを形成する層7でコーティングされる。
【0018】
ストリップ5は、長さl、厚さe、高さhを有する。このストリップ5は、少なくとも1つの材料11a、11b、13b、15b、11c、17c、19c、11d、13d、15d、17d、19d、11e、13e、15e、17e、19e、11f、21fから形成されたコア9a、9b、9c、9d、9e、9fを含む。
【0019】
図2〜7の変形例によると、コア9a、9b、9c、9d、9e、9fは、例えば石英等の単一の材料11aから、又は複数の材料11b、13b、15b、11c、17c、19c、11d、13d、15d、17d、19d、11e、13e、15e、17e、19e、11f、21fから形成してよい。
【0020】
コア9b、9c、9d、9e、9fが複数の材料から形成される場合、コアは、ヒゲゼンマイ1のストリップ5が防湿性、即ち耐湿性かつ不透湿性である層7でコーティングされる前に、複数の材料で全体的にコーティングされた11d、13d、15d、17d、19d、11e、13e、15e、17e、19e、11f、21f、又は部分的にコーティングされた11b、13b、15b、11c、17c、19cであってよい。各コーティング13b、15b、17c、19c、13d、15d、17d、19d、13e、15e、17e、19eは、同一の種類のもの及び同一の厚さのものであってもなくてもよい。例えばコア9b、9c、9d、9e、9fは、二酸化ケイ素コーティング13b、15b、17c、19c、13d、15d、17d、19d、13e、15e、17e、19e、21fが少なくとも部分的に形成されたドープされた又はドープされていないケイ素11b、11c、11d、11e、11fを含んでよい。
【0021】
本発明はまた、熱補償型ゼンマイ‐テンプ共振器用の補償用ヒゲゼンマイ1を製造するための方法にも関し、この方法は以下のステップを含む:
a)少なくとも1つの材料11a、11b、13b、15b、11c、17c、19c、 11d、13d、15d、17d、19d、11e、13e、15e、17e、19e、11f、21fから形成された熱補償されたコア9a、9b、9c、9d、9e、9fを含むヒゲゼンマイを形成するステップ;
b)コア9a、9b、9c、9d、9e、9fを防湿性の層7で全体的にコーティングして、ヒゲゼンマイ1の気候変動に対する感受性を低減するステップ。
【0022】
本発明によると、ステップa)は、所望のプレートにおいてヒゲゼンマイの所望のパターンをエッチングしてコア9a、9b、9c、9d、9e、9fの全体又は一部11a、11b、11c、11d、11e、11fを形成することによって達成できる。結晶質ケイ素及び石英の例では、深堀り反応性イオンエッチング(DRIE)を用いてステップa)を達成することを想定できる。
【0023】
当然、ステップa)は、コア9b、9c、9d、9e、9fを仕上げるために、第1の段階においてエッチングから得られたヒゲゼンマイの一部又は全体にコーティング13b、15b、17c、19c、13d、15d、17d、19d、13e、15e、17e、19e、21fを施す少なくとも1つの第2の段階も含む。この第2の段階は例えば、ステップa)の第1の段階においてドープされた又はドープされていない結晶質ケイ素ウェハをエッチングした場合に二酸化ケイ素を形成するための、熱的酸化からなる。
【0024】
ステップb)により、50nm未満、好ましくは約10nmの厚さを有する防湿層7の堆積が可能となる。ステップb)は例えば、気相堆積等のいずれの薄層堆積法によって、好ましくはクロム、チタン又はタンタル又はこれらの合金のうちの1つ(これらはまた、有利には磁場に対して非感受性である導電性材料である)を堆積させることにより、達成できる。
【0025】
当然、本発明は図示した例に限定されるものではなく、当業者には明らかであろう様々な変形例及び変更例が可能である。特に、水分に対するバリアを形成できるいずれの材料を想定でき、クロム、チタン若しくはタンタル若しくはそれらの合金のうちの1つに、又は本記載で言及した他の材料にさえ、限定できるものではない。
【0026】
また、時計が、例えば「スケルトン」時計又は透明な裏蓋を有する時計等の、ヒゲゼンマイを見えるようにすることができる部分を含む場合、その特定の色に応じた防湿材料を選択して、審美的外観を向上させることもできる。